和漢朗詠集



文学博士 和田万吉校訂
絵本和漢朗詠集
    新撰朗詠集
  東京 冨山房発兌


和漢朗詠集
 上巻 目次
   春
立春 早春 春興 春夜 子日付若菜 若菜 三月三日付桃花 桃 暮春 三月尽 閏三月 鴬 霞 雨 梅付紅梅 紅梅 柳 落花 落花 躑躅 款冬 藤
   夏
更衣 首夏 夏夜 端午 納涼 晩夏 花橘 蓮 郭公 蛍 蝉 扇
   秋
立秋 早秋 七夕 秋興 秋晩 秋夜 十五夜付月 月 九日付菊 菊 九月尽 女郎花 萩 蘭 槿 前栽 紅葉付落葉 雁付帰雁 帰雁 虫 鹿 露 霧 擣衣
   冬
初冬 冬夜 歳暮 炉火 霜 雪 氷付春氷 春氷 霰 仏名

 下巻 目次
   雑
風 雲 晴 暁 松 竹 草 鶴 猿 管絃付舞妓 文詞付遺文 酒 山付山水 山水 水付漁父 禁中 古京 故宮付故宅 仙家付道士隠倫 山家 田家 隣家 山寺 仏事 僧 閑居 眺望 餞別 行旅 庚申 帝王付法王 親王付王孫 丞相付執政 将軍 刺史 詠史 王昭君 妓女 遊女 老人 交友 懐旧 述懐 慶賀 祝 恋 無常 白

和漢朗詠集目次終


和漢朗詠集

《漢詩について、底本では、平仮名による訓み下しと白文とを併記するが、本ファイルでは、この間に漢字仮名まじりの訓読文を加えた。》


和漢朗詠集 上巻



立春(りつしゆん)

かぜをおひてひそかにひらくはうひのときをまたず、
はるをむかへてたちまちへんずまさにうろのおんをこひねがはんとす。
吹(かぜ)を逐(お)ひて潛(ひそ)かに開(ひら)く芳菲(はうひ)の候(とき)を待(ま)たず、
春(はる)を迎(むか)へて乍(たちま)ち変(へん)ず将(まさ)に雨露(うろ)の恩(おん)を希(こひねが)はんとす。
逐吹潛開不待芳菲之候。迎春乍変将希雨露之恩。
内宴進花賦 紀淑望

いけのこほりとうとうはかぜわたりてとけ、
まどのうめほくめんはゆきふうじてさむし。
池(いけ)の凍(こほり)東頭(とうとう)は風(かぜ)度(わた)りて解(と)け、窓(まど)の梅(むめ)北面(ほくめん)は雪(ゆき)封(ふう)じて寒(さむ)し。
池凍東頭風度解。窓梅北面雪封寒。
立春日書懐呈芸閣諸文友 菅篤茂

やなぎにきりよくなくしてえだまづうごき、
いけにはもんありてこほりことごとくひらく。
こんにちしらずたれかけいくわいせん、
しゆんぷうしゆんすゐいちじにきたらんとす、
柳(やなぎ)に気力(きりよく)なくして条(えだ)先(ま)づ動(うご)き、
池(いけ)に波文(はもん)ありて氷(こほり)尽(ことごと)く開(ひら)く。今日(こんにち)知(し)らず誰(たれ)か計会(けいくわい)せん、
春風(しゆんぷう)春水(しゆんすゐ)一時(いちじ)に来(きた)らんとす。
柳無気力条先動。池有波文氷尽開。
今日不知誰計会。春風春水一時来。
府西池 白居易

よるはざんかうになんなんとしてかんけいつき、
はるはかうくわになりてげうろもゆ。
夜(よる)は残更(ざんかう)になんなんとして寒磬(かんけい)尽(つ)き、
春(はる)は香火(かうくわ)に生(な)りて暁炉(げうろ)燃(も)ゆ。
夜向残更寒磬尽。春生香火暁炉燃。
山寺立春 良岑春道

古今
としのうちにはるは来にけりひととせを
こぞとやいはんことしとやいはん
在原元方

古今
袖ひぢてむすびしみづのこほれるを
はるたつけふの風(かぜ)やとくらん
紀貫之(きのつらゆき)

拾遺
はるたつといふばかりにやみよしのの
やまもかすみてけさはみゆらん
壬生忠岑


早春(さうしゆん)

こほりでんちにきえてろすゐみじかく、
はるはしでうにいりてりうがんひくし、
氷(こほり)田地(でんち)に消(き)えて蘆錐(ろすい)短(みじか)く、
春(はる)は枝条(しでう)に入(い)りて柳眼(りうがん)低(ひく)し、
氷消田地蘆錐短。春入枝条柳眼低。
寄楽天 元●(ノギヘン+「眞」)

まづくわふうをしてせうそくをはうぜしめ、
つゞいてていてうをしてらいゆをとかしむ、
先(ま)づ和風(くわふう)をして消息(せうそく)を報(はう)ぜしめ、
続(つゞ)いて啼鳥(ていてう)をして来由(らいゆ)を説(と)かしむ、
先遣和風報消息。続教啼鳥説来由
春生 白居易

とうがんせいがんのやなぎ、ちそくおなじからず、
なんしほくしのうめかいらくすでにことなり。
東岸西岸(とうがんせいがん)の柳(やなぎ)、遅速(ちそく)同(おな)じからず、南枝北枝(なんしほくし)の梅(うめ)、開落(かいらく)已(すで)に異(こと)なり。
東岸西岸之柳。遅速不同。南枝北枝之梅。開落已異。
春生逐地形序 慶滋保胤

しぢんのわかきわらびひとてをにぎり、
へきぎよくのさむきあしきりふくろをだつす。
紫塵(しぢん)の嫩(わか)き蕨(わらび)人(ひと)手(て)を拳(にぎ)り、碧玉(へきぎよく)の寒(さむ)き蘆(あし)錐(きり)嚢(ふくろ)を脱(だつ)す。
紫塵嫩蕨人拳手。碧玉寒蘆錐脱嚢
和早春晴 小野篁

きはれてはかぜしんりうのかみをくしけづり、こほりきえてはなみきうたいのひげをあらふ。
気(き)霽(は)れては風(かぜ)新柳(しんりう)の髪(かみ)を梳(くしけづ)り、氷(こほり)消(き)えては波(なみ)旧苔(きうたい)の鬚(ひげ)を洗(あら)ふ。
気霽風梳新柳髪。氷消波洗旧苔鬚。
春暖 都良香

にはにきしよくをませばせいしやみどりなり、
はやしにようきをへんずればしゆくせつくれなゐなり。
庭(には)気色(きしよく)を増(ま)せば晴沙(せいしや)緑(みどり)なり、林(はやし)に容輝(ようき)を変(へん)ずれば宿雪(しゆくせつ)紅(くれなゐ)なり。
庭増気色晴沙緑。林変容輝宿雪紅。
草樹晴迎春 紀長谷雄

古今
いはそそぐたるひのうへのさわらびの
もえいづるはるになりにけるかな
志貴皇子

古今
やまかぜにとくるこほりのひまごとに
うちいづるなみやはるのはつはな
源正澄

続後撰
みはたせばひらのたかねにゆききえて
わかなつむべくのはなりにけり
平兼盛

古今
見わたせばやなぎさくらをこきまぜて
都ぞ春のにしきなりける
素性法師


春興(しゆんきよう)

はなのもとにかへることをわするるはびけいによるなり、
たるのまへにゑひをすすむるはこれはるのかぜ、
花(はな)の下(もと)に帰(かへ)ることを忘(わす)るるは美景(びけい)に因(よ)るなり、
樽(たる)の前(まへ)に酔(ゑ)ひを勧(すす)むるはこれ春(はる)の風(かぜ)。
花下忘帰因美景。樽前勧酔是春風。
白居易

やさうはうひたりこうきんのち、
いうしれうらんたりへきらのてん、
野草(やさう)芳菲(はうひ)たり紅錦(こうきん)の地(ち)、
遊糸(いうし)繚乱(れうらん)たり碧羅(へきら)の天(てん)。
野草芳菲紅錦地。遊糸繚乱碧羅天。
劉禹錫

かしゆはいへ/\はなはところ/\にあり、
むなしくじやうやうのはるをくわんりやうすることなかれ。
歌酒(かしゆ)は家々(いへ/\)花(はな)は処々(ところ/\)にあり
空(むな)しく上陽(じやうやう)の春(はる)を管領(くわんりやう)することなかれ。
歌酒家家花処処。莫空管領上陽春。
送令孤尚書趣東郡 白居易

さんたうまたやたう、ひこうきんのはたばりをさらす、
もんりうまたがんりう、かぜきくぢんのいとをわかぬ、
山桃(さんたう)また野桃(やたう)、日(ひ)紅錦(こうきん)の幅(はたばり)を曝(さら)す、
門柳(もんりう)また岸柳(がんりう)、風(かぜ)麹塵(きくぢん)の糸(いと)を宛(わか)ぬ。
山桃復野桃。日曝紅錦之幅。
門柳復岸柳。風宛麹塵之糸。
逐処花皆好序 紀斉名

のにつきてのべしけりこうきんしう、
てんにあたつてはいうしきすへきらりよう、
野(の)に著(つ)きて展(の)べ敷(し)けり紅錦繍(こうきんしう)、
天(てん)に当(あた)つては遊織(いうしき)す碧羅綾(へきらりよう)、
着野展敷紅錦繍。当天遊織碧羅綾。
春生 小野篁

りんちうのはなのにしきはときにかいらくす、
てんぐわいのいうしはあるひはいうむ、
林中(りんちう)の花(はな)の錦(にしき)は時(とき)に開落(かいらく)す、天外(てんぐわい)の遊糸(いうし)は或(あるい)は有無(いうむ)
林中花錦時開落。天外遊糸或有無。
上寺聖聚楽 島田忠臣

しやうかのよるのつきいへ/\のおもひ、
ししゆのはるのかぜところ/\のなさけ、
笙歌(しやうか)の夜(よる)の月(つき)家々(いへ/\)の思(おも)ひ、
詩酒(ししゆ)の春(はる)の風(かぜ)処々(ところ/\)の情(なさけ)
笙歌夜月家家思。詩酒春風処処情。
悦者衆 菅原文時

新古今
ももしきのおほみや人はいとまあれや
さくらかざしてけふもくらしつ
山辺赤人

拾遺
はるはなほわれにてしりぬはなざかり
こころのどけきひとはあらじな
壬生忠岑


春夜(しゆんや)

ともしびをそむけてはともにあはれむしんやのつき、
はなをふみてはおなじくをしむせうねんのはる、
燭(ともしび)を背(そむ)けては共(とも)に憐(あは)れむ深夜(しんや)の月(つき)、
花(はな)を踏(ふ)みては同(おな)じく惜(を)しむ少年(せうねん)の春(はる)、
背燭共憐深夜月。踏花同惜少年春。
春夜与盧四周諒花陽観同居 白居易

古今
はるのよのやみはあやなしうめのはな
色こそみえねかやはかくるる
凡河内躬恒


子日(ねのひ)付若菜

しようじゆによりてもつてこしをなづるは、
ふうさうのをかしがたきをならひ、
さいかうをくわしてくちにすするは、
きみのよくととのはんことをきす、
松樹(しようじゆ)に倚(よ)りて以(もつ)て腰(こし)を摩(な)づるは、
風霜(ふうさう)の犯(をか)し難(がた)きを習(なら)ひ、
菜羹(さいかう)を和(くわ)して口(くち)に啜(すす)るは、
気味(きみ)の克(よ)く調(ととの)はんことを期(き)す、
倚松樹以摩腰。習風霜之難犯也。
和菜羹而啜口。期気味之克調也。
雲林院行幸 菅原道真

しようこんによりてこしをなづれば、
せんねんのみどりてにみてり、
ばいくわををりてかうべにかざせば、
にげつのゆきころもにおつ、
松根(しようこん)に倚(よ)りて腰(こし)を摩(な)づれば、
千年(せんねん)の翠(みどり)手(て)に満(み)てり、
梅花(ばいくわ)を折(を)りて頭(かうべ)に挿(かざ)せば、
二月(にげつ)の雪(ゆき)衣(ころも)に落(お)つ、
倚松根摩腰。千年之翠満手。
折梅花挿頭。二月之雪落衣。
子曰序 橘在列

新古今
ねのひしてしめつる野べのひめこまつ
ひかでやちよのかげをまたまし
藤原清正

拾遺
ねのひする野辺にこまつのなかりせば
ちよのためしになにをひかまし
壬生忠岑

拾遺
千とせまでかぎれるまつもけふよりは
君にひかれてよろづ世やへん
大中臣能宣


若菜(わかな)

やちうにさいをえらぶは、
せじこれをけいしんにおす、
ろかにあつものをくわするは、
ぞくじんこれをていしにしよくす、
野中(やちう)に菜(さい)を●(クサカンムリ+「毛」)(えら)ぶは、
世事(せじ)これを●(クサカンムリ+「惠」)心(けいしん)に推(お)す、
炉下(ろか)に羮(あつもの)を和(くわ)するは、
俗人(ぞくじん)これを●(クサカンムリ+「夷」)指(ていし)に属(しよく)す、
野中●菜。世事推之●心。炉下和羮。俗人属之●指。
催粧序 菅原道真

拾遺
あすからはわかなつませんかたをかの
あしたのはらはけふぞやくめる
柿本人麿

新古今
あすからはわかなつまんとしめし野に
きのふもけふもゆきはふりつつ
山部赤人

新古今
ゆきてみぬ人もしのべとはるののの
かたみにつめるわかななりけり
紀貫之


三月三日(さんぐわつみつか)付桃花

はるきてはあまねくこれたうくわのみづなり、
せんげんをわきまへずいづれのところにかたづねん、
春(はる)来(き)ては遍(あまね)くこれ桃花(たうくわ)の水(みづ)なり、仙源(せんげん)を弁(わきま)へず何(いづ)れの処(ところ)にか尋(たづ)ねん、
春来遍是桃花水。不弁仙源何処尋。
桃源行 王維

はるのぼげつ、つきのさんてう、てんもはなにゑへるは、たうりさかりなればなり、わがきみいちじつのたく、ばんきのあまり、きよくすゐはるかなりといへども、ゐぢんたえたりといへども、
はじをかきてちせいをしり、ぎぶんをおもひてもつてふうりうをもてあそぶ、けだしこころざしのゆくところ、つゝしみてせうじよをたてまつる、
春(はる)の暮月(ぼげつ)、月(つき)の三朝(さんてう)、天(てん)花(はな)に酔(ゑ)へるは、桃李(たうり)盛(さか)りなればなり、
我(わ)が后(きみ)一日(いちじつ)の沢(たく)、万機(ばんき)の余(あまり)、曲水(きよくすゐ)遥(はる)かなりといへども、遺塵(ゐぢん)絶(た)えたりといへども、
巴(は)字(じ)を書(か)きて地勢(ちせい)を知(し)り、魏文(ぎぶん)を思(おも)ひて以(も)つて風流(ふうりう)を翫(もてあそ)ぶ。
蓋(けだ)し志(こころざし)の之(ゆ)く所(ところ)、謹(つゝし)みで小序(せうじよ)を上(たてまつ)る、
春之暮月。月之三朝。天酔于花。桃李盛也。
我后一日之沢。万機之余。曲水雖遥。遺塵雖絶。
書巴字而知地勢。思魏文以翫風流。
蓋志之所之。謹上小序。
花時天似酔序 菅原道真

えんかゑんきんまさにどうこなるべし、
たうりのせんしんけんぱいににたり、
煙霞(えんか)遠近(ゑんきん)まさに同戸(どうこ)なるべし、
桃李(たうり)の浅深(せんしん)勧盃(けんぱい)に似(に)たり
煙霞遠近応同戸。桃李浅深似勧盃。
同題詩 菅原道真

みづははじをなすしよさんのひ、
みなもとしうねんよりおこりてのちにいくしもぞ、
水(みづ)巴(は)字(じ)を成(な)す初三(しよさん)の日(ひ)、
源(みなもと)周年(しうねん)より起(おこ)りて後(のち)に幾霜(いくしも)ぞ、
水成巴字初三日。源起周年後幾霜。
●(「瑩」の「玉」の代りに「糸」)流送羽觴 菅原篤茂

いしにさはりておそくきたればこゝろひそかにまち、
ながれにひかれてとくすぐればてまづさへぎる、
石(いし)に礙(さは)りて遅(おそ)く来(きた)れば心(こゝろ)窃(ひそ)かに待(ま)ち、
流(ながれ)に牽(ひ)かれて●(「瑞」の「王」の代りにシンニュウ)(と)く過(す)ぐれば手(て)先(ま)づ遮(さへぎ)る
礙石遅来心窃待。牽流●(「瑞」の「王」の代りにシンニュウ)過手先遮。
同 菅原雅規



よるのあめひそかにうるほして、そはのまなこあらたにこびたり、
あかつきのかぜゆるくふきて、ふげんのくちびるまづゑめり、
夜(よる)の雨(あめ)偸(ひそ)かに湿(うるほ)して、曾波(そは)の眼(まなこ)新(あら)たに嬌(こ)びたり、
暁(あかつき)の風(かぜ)緩(ゆる)く吹(ふ)きて、不言(ふげん)の唇(くちびる)先(ま)づ咲(ゑ)めり、
夜雨偸湿。曾波之眼新嬌。暁風緩吹。不言之唇先咲。
桃花詩序 紀納言

拾遺
みちとせになるといふもものことしより
はなさくはるにあふぞうれしき
凡河内躬恒


暮春(ぼしゆん)

みづをはらふりうくわはせんまんてん、
ろうをへだつるあうぜつはりやうさんせい、
水(みづ)を払(はら)ふ柳花(りうくわ)は千万点(せんまんてん)、
楼(ろう)を隔(へだ)つる鴬舌(あうぜつ)は両三声(りやうさんせい)、
払水柳花千万点。隔楼鴬舌両三声。
過元魏志襄陽楼口占 元●(ノギヘン+「眞」)

つばさをたるるさおうはうしほのおつるあかつき、
いとをみだすやばはくさのふかきはる、
翅(つばさ)を低(た)るる沙鴎(さおう)は潮(うしほ)の落(お)つる暁(あかつき)、糸(いと)を乱(みだ)す野馬(やば)は草(くさ)の深(ふか)き春(はる)。
低翅沙鴎潮落暁。乱糸野馬草深春。
晩春遊松山館 菅原道真

ひとさらにわかきときなしすべからくをしむべし、
としつねにはるならずさけをむなしくすることなかれ、
人(ひと)更(さら)に少(わか)き時(とき)なしすべからく惜(を)しむべし、
年(とし)常(つね)に春(はる)ならず。
酒(さけ)を空(むな)しくすることなかれ。
人無更少時須惜。年不常春酒莫空。

りうはくもしこんにちのこうなることをしらば、
まさにこのところといふべしいづれとはいはじ、
劉白(りうはく)若(も)し今日(こんにち)の好(こう)なることを知(し)らば、
まさに此(こ)の処(ところ)と言(い)ふべし何(いづ)れとは言(い)はじ、
劉白若知今日好。応言此処不言何。

家集
いたづらにすぐる月日はおほかれど
はなみてくらす春ぞすくなき
藤原興風


三月尽(さんぐわつじん)

はるをとゞむれどもはるとゞまらず、はるかへりてひとせきばくたり、
かぜをいとへどもかぜさだまらず、かぜたちてはなせうさくたり
春(はる)を留(とゞ)むれども春(はる)駐(とゞ)まらず、
春(はる)帰(かへ)りて人(ひと)寂寞(せきばく)たり、
風(かぜ)を厭(いと)へども風(かぜ)定(さだ)まらず、
風(かぜ)起(た)ちて花(はな)蕭索(せうさく)たり、
留春春不駐。春帰人寂寞。厭風風不定。風起花蕭索。
落花古調詩 白居易

ちくゐんにきみかんにしてえいじつをせうし、
くわていにわれゑひてざんしゆんをおくる、
竹院(ちくゐん)に君(きみ)閑(かん)にして永日(えいじつ)を銷(せう)し、花亭(くわてい)に我(われ)酔(ゑ)ひて残春(ざんしゆん)を送(おく)る、
竹院君閑銷永日。花亭我酔送残春。
酬皇甫賓客 同

ちうちやうすはるかへりてとゞまることをえず、
しとうのはなのもとにやうやくくわうこんたり、
惆悵(ちうちやう)す春(はる)帰(かへ)りて留(とゞ)まることを得(え)ず、
紫藤(しとう)の花(はな)の下(もと)に漸(やうや)く黄昏(くわうこん)たり、
惆悵春帰留不得。紫藤花下漸黄昏。
題慈恩寺 同

はるをおくるにしうしやをうごかすことをもちゐず、
たゞざんあうとらくくわとにわかる、
春(はる)を送(おく)るに舟車(しうしや)を動(うご)かすことを用(もち)ゐず、
たゞ残鶯(ざんあう)と落花(らくくわ)とに別(わか)る、
送春不用動舟車。唯別残鴬与落花。


もしせうくわうをしてわがこゝろをしらしめば、
こんせうのりよしゆくはしかにあらん、
若(も)し韶光(せうくわう)をして我(わ)が意(こゝろ)を知(し)らしめば、
今宵(こんせう)の旅宿(りよしゆく)は詩家(しか)に在(あ)らん、
若使韶光知我意。今宵旅宿在詩家。。
送春 菅原道真

はるをとゞむるにくわんじやうのかためをもちゐず、
はなはおちてかぜにしたがひとりはくもにいる、
春(はる)を留(とゞ)むるに関城(くわんじやう)の固(かた)めを用(もち)ゐず、
花(はな)は落(お)ちて風(かぜ)に随(したが)ひ鳥(とり)は雲(くも)に入(い)る
留春不用関城固。花落随風鳥入雲。
三月尽 尊敬

古今
けふとのみはるをおもはぬときだにも
たつことやすき花のかげかは
凡河内躬恒

拾遺
はなもみなちりぬるやどはゆくはるの
ふるさととこそなりぬべらなれ
紀貫之

後撰
またもこんときぞとおもへどたのまれぬ
我身にしあればをしきはるかな
紀貫之


閏三月(うるふさんぐわつ)

こんねんのうるふははるさんげつにあり、
あまつさへきんりよういちげつのはなをみる、
今年(こんねん)の閏(うるふ)は春三月(はるさんげつ)に在(あ)り、
剰(あまつ)さへ金陵(きんりよう)一月(いちげつ)の花(はな)を見(み)る
今年閏在春三月。剰見金陵一月花。
送准南李中逐行軍 陸侍郎

たににかへるかあうはさらにこうんのみちにとうりうし、
はやしをじするぶてふはかへつていちげつのはなにへんぽんたり、
谿(たに)に帰(かへ)る歌鴬(かあう)は更(さら)に孤雲(こうん)の路(みち)に逗留(とうりう)し、
林(はやし)を辞(じ)する舞蝶(ぶてふ)は還(かへ)つて一月(いちげつ)の花(はな)に翩翻(へんぽん)たり、
帰谿歌鴬更逗留於孤雲之路。
辞林舞蝶還翩翻於一月之花。
今年又有春序 源順

はなはねにかへらんことをくゆれどもくゆるにえきなし、
とりはたににいらんことをきすれどもさだめてきをのべん、
花(はな)は根(ね)に帰(かへ)らんことを悔(く)ゆれども悔(く)ゆるに益(えき)なし、
鳥(とり)は谷(たに)に入(い)らんことを期(き)すれども定(さだ)めて期(き)を延(の)べん、
花悔帰根無益悔。鳥期入谷定延期。
清原滋藤

古今
さくらばなはるくははれるとしだにも
人のこころにあかれやはする
伊勢


鶯(うぐひす)

にはとりすでになきてちゆうしんあしたをまつ、
うぐひすいまだいでずゐけんたににあり、
鶏(にはとり)既(すで)に鳴(な)きて忠臣(ちゆうしん)旦(あした)を待(ま)つ、
鶯(うぐひす)いまだ出(い)でず遺賢(ゐけん)谷(たに)に在(あ)り、
鶏既鳴兮忠臣待旦。鶯未出兮遺賢在谷。
鳳為王賦 賈島

たがいへのへきじゆにかうぐひすなきてらまくなほたれ、
いくところのくわどうにゆめさめてしゆれんいまだまかず
誰(た)が家(いへ)の碧樹(へきじゆ)にか鶯(うぐひす)啼(な)きて羅幕(らまく)なほ垂(た)れ、
幾(いく)処(ところ)の華堂(くわどう)に夢(ゆめ)覚(さ)めて珠簾(しゆれん)いまだ巻(ま)かず、
誰家碧樹鶯啼而羅幕猶垂。幾処華堂夢覚而珠簾未巻。
春暁鶯賦 謝観或張読

きりにむせぶさんあうはなくことなほまれなり、
いさごをうがつろじゆんははわづかにわかてり、
霧(きり)に咽(むせ)ぶ山鶯(さんあう)は啼(な)くことなほ少(まれ)なり、
沙(いさご)を穿(うが)つ蘆笋(ろじゆん)は葉(は)わづかに分(わか)てり、
咽霧山鴬啼尚少。穿沙蘆笋葉纔分。
早春尋李校書 元●(ノギヘン+「眞」)

だいのほとりにさけありてうぐひすきやくをよび、
みづのおもてちりなくしてかぜいけをあらふ、
台(だい)の頭(ほとり)に酒(さけ)有(あ)りて鶯(うぐひす)客(きやく)を呼(よ)び、
水(みづ)の面(おもて)塵(ちり)無(な)くして風(かぜ)池(いけ)を洗(あら)ふ、
台頭有酒鶯呼客。水面無塵風洗池。
和思黯題南荘

うぐひすのこゑにいういんせられてはなのもとにきたり、
くさのいろにこうりうせられてはみづのほとりにざす、
鶯(うぐひす)の声(こゑ)に誘引(いういん)せられて花(はな)の下(もと)に来(きた)り、
草(くさ)の色(いろ)に拘留(こうりう)せられては水(みづ)の辺(ほとり)に座(ざ)す、
鶯声誘引来花下。草色拘留座水辺。

どうるゐをあひもとむるにかんずるは、
りこうきよがんのはるのさへづりにおうずゐあり、
いきをくわいしてつひにこんじて、
りゆうぎんぎよやくのあかつきのなきにともなふとあり、
同類(どうるい)を相求(あひもと)むるに感(かん)ずるは、
離鴻去雁(りこうきよがん)の春(はる)の囀(さへづ)りに応(おう)ずるあり、
異気(いき)を会(くわい)して終(つひ)に混(こん)じて、
龍吟魚躍(りゆうぎんぎよやく)の暁(あかつき)の啼(な)きに伴(ともな)ふとあり、
感同類於相求。離鴻去雁之応春囀。
会異気而終混。龍吟魚躍之伴暁啼。
鳥声韻管絃序 菅原文時

えんきがそでしばらくをさまりて、れうらんたるをきうはくにそねむ、
しうらうがかんざししきりにうごきて、けんくわんたるをしんくわにかへりみる、
燕姫(えんき)が袖(そで)しばらく収(をさ)まりて、撩乱(れうらん)たるを旧拍(きうはく)に猜(そね)み、
周郎(しうらう)が簪(かんざし)しきりに動(うご)きて、間関(けんくわん)たるを新花(しんくわ)に顧(かへり)みる、
燕姫之袖暫収。猜撩乱於旧柏。
周郎之簪頻動。顧間関於新花。
同題 同

しんろはいましゆくせつをうがつ、
きうさうはのちのためにはるのくもにいらん、
新路(しんろ)は如今(いま)宿雪(しゆくせつ)を穿(うが)つ、
旧巣(きうさう)は後(のち)のために春(はる)の雲(くも)に属(い)らん、
新路如今穿宿雪。旧宿為後属春雲。
鶯出谷 菅原道真

せいろうにつきおちてはなのあひだのきよく、
ちゆうでんにともしびのこりてたけのうちのおと、
西楼(せいろう)に月(つき)落(お)ちて花(はな)の間(あひだ)の曲(きよく)、
中殿(ちうでん)に燈(ともしび)残(のこ)りて竹(たけ)の裏(うち)の音(おと)、
西楼月落花間曲。中殿燈残竹裏音。
宮鶯囀暁光 菅原文時

拾遺
あらたまのとしたちかへるあしたより
またるるものはうぐひすのこゑ
素性法師

栄花物語
あさみどりはるたつそらにうぐひすの
はつこゑまたぬ人はあらじな
麗景殿女御

拾遺
うぐひすのこゑなかりせばゆききえぬ
山ざといかで春をしらまし
中務


霞(かすみ)

かすみのひかりはあけてのちひよりもあかく、
くさのいろははれきたりてわかくしてけむりににたり、
霞(かすみ)の光(ひかり)は曙(あ)けてのち火(ひ)よりも殷(あか)く、
草(くさ)の色(いろ)は晴(は)れ来(きた)りて嫩(わか)くして煙(けむり)に似(に)たり、
霞光曙後殷於火。草色晴来嫩似煙。
早春晴寄蘇洲寄夢得 白居易

いさごをきるくさはたゞさんぶんばかり、
きにまたがるかすみはわづかにはんだんあまり、
沙(いさご)を鑚(き)る草(くさ)はたゞ三分(さんぶん)ばかり、
樹(き)に跨(またが)る霞(かすみ)はわづかに半段(はんだん)余(あま)り、
鑚沙草只三分許。跨樹霞纔半段余。
春浅帯軽寒 菅原道真

万葉
きのふこそとしはくれしかはるがすみ
かすがのやまにはやたちにけり
柿本人麿

古今
はるがすみたてるやいづこみよしのの
よしのの山にゆきはふりつつ
山部赤人

家集
あさひさすみねのしらゆきむらぎえて
はるのかすみはたなびきにけり
平兼盛


雨(あめ)

あるひははなのもとにたれて、ひそかにぼくしがかなしみをます、
ときにびんのあひだにまひ、あんにはんらうのおもひをうごかす、
或(あるひ)は花(はな)の下(もと)に垂(た)れて、潛(ひそ)かに墨子(ぼくし)が悲(かな)しみを増(ま)す、
時(とき)に鬢(びん)の間(あひだ)に舞(ま)ひ、暗(あん)に潘郎(はんらう)の思(おも)ひを動(うご)かす、
或垂花下。潜増墨子之悲。時舞鬢間。暗動潘郎之思。
密雨散加糸序 大江以言或都在中

ちやうらくのかねのこゑははなのそとにつき、
りようちのやなぎのいろはあめのなかにふかし、
長楽(ちやうらく)の鐘(かね)の声(こゑ)は花(はな)の外(そと)に尽(つ)き、
龍池(りようち)の柳(やなぎ)の色(いろ)は雨(あめ)の中(なか)に深(ふか)し、
長楽鐘声花外尽。龍池柳色雨中深。
闕舌贈閻舎人 李●(「山」+「喬」)

やしなひえてはおのづからはなのふぼたり、
あらひきてはむしろくすりのくんしんをわきまへんや、
養(やしな)ひ得(え)ては自(おのづか)ら花(はな)の父母(ふぼ)たり、
洗(あら)ひ来(き)ては寧(むし)ろ薬(くすり)の君臣(くんしん)を弁(わきま)へんや、
養得自為花父母。洗来寧弁薬君臣。
仙家春雨 紀長谷雄

はなのあらたにひらくるひしよやううるほへり、
とりおいてかへるときはくぼくもれり、
花(はな)の新(あら)たに開(ひら)くる日(ひ)初陽(しよやう)潤(うるほ)へり、
鳥(とり)老(お)いて帰(かへ)る時(とき)薄暮(はくぼ)陰(くも)れり。
花新開日初陽潤。鳥老帰時薄暮陰。
春色雨中深 菅原文時

しやきやくはだんぷうのまづあふぐところ、
あんせいはてうじつのいまだはれざるほど、
斜脚(しやきやく)は暖風(だんぷう)の先(ま)づ扇(あふ)ぐ処(ところ)、
暗声(あんせい)は朝日(てうじつ)のいまだ晴(は)れざる程(ほど)、
斜脚暖風先扇処。暗声朝日未晴程。
微雨自東来 慶滋保胤

拾遺
さくらがりあめはふりきぬおなじくは
ぬるともはなのかげにかくれん
読人不知

新勅撰
あをやぎの枝にかかれるはるさめは
いともてぬけるたまかとぞみる
伊勢


梅(むめ)付紅梅

はくへんのらくばいはたにのみづにうかび、
くわうせうのしんりうはしろのかきよりいでたり、
白片(はくへん)の落梅(らくばい)は澗(たに)の水(みづ)に浮(うか)び、
黄梢(くわうせう)の新柳(しんりう)は城(しろ)の墻(かき)より出(い)でたり、
白片落梅浮澗水。黄梢新柳出城墻。
春至香山寺 白居易

うめのはなゆきをおびてきんじやうにとび、
やなぎのいろはけむりにくわしてしゆちうにいる、
梅(うめ)の花(はな)雪(ゆき)を帯(お)びて琴上(きんじやう)に飛(と)び、
柳(やなぎ)の色(いろ)は煙(けむり)に和(くわ)して酒中(しゆちう)に入(い)る
梅花帯雪飛琴上。柳色和煙入酒中。
早春初晴野宴 章孝標

やうやくかほるらふせつあらたにふうずるうち、
ひそかにほころぶはるのかぜのいまだあふがざるさき、
漸(やうや)く薫(かほ)る臘雪(らふせつ)新(あら)たに封(ふう)ずる裏(うち)、
偸(ひそ)かに綻(ほころ)ぶ春(はる)の風(かぜ)のいまだ扇(あふ)がざる先(さき)、
漸薫臘雪新封裏。偸綻春風未扇先。
寒梅結早花 村上帝御製

せいしくりいだすたうもんのやなぎ
はくぎよくよそほひなすゆれいのうむめ、
青糸(せいし)繰(く)り出(いだ)す陶門(たうもん)の柳(やなぎ)
白玉(はくぎよく)装(よそほ)ひ成(な)す●(マダレ+「臾」)嶺(ゆれい)の梅(うめ)
青糸繰出陶門柳。白玉装成●(マダレ+「臾」)嶺梅。
尋春花 大江朝綱或菅原文時

ごれいさう/\としてくもわうらいす、
たゞあはれむたいゆまんちうのむめ、
五嶺(ごれい)蒼々(さう/\)として雲(くも)往来(わうらい)す、
たゞ憐(あは)れむ大●(マダレ+「臾」)(たいゆ)万株(まんちう)の梅(うめ)。
五嶺蒼蒼雲往来。但憐大●(マダレ+「臾」)万株梅。
同題 菅原文時

たれかいふはるのいろひがしよりいたるとは、
つゆあたたかにしてなんしはなはじめてひらく、
誰(たれ)か言(い)ふ春(はる)の色(いろ)東(ひがし)より到(いた)るとは、
露(つゆ)暖(あたた)かにして南枝(なんし)花(はな)始(はじ)めて開(ひら)く、
誰言春色従東到。露暖南枝花始開。
同 同

けむりはりうしよくをそへてみるになほあさし、
とりはばいくわをふみておつることすでにしきりなり、
烟(けむり)は柳色(りうしよく)を添(そ)へて看(み)るに猶(なほ)浅(あさ)し、
鳥(とり)は梅花(ばいくわ)を踏(ふ)みて落(お)つること已(すで)に頻(しき)りなり、
煙添柳色看猶浅。鳥踏梅花落以頻。
同 同

拾遺
いにしとしねこじてうゑしわがやどの
わかきのうめははなさきにけり
安倍広庭

万葉
わがせこに見せんとおもひしうめの花
それともみえずゆきのふれれば
山部赤人

拾遺
香をとめてたれをらざらんうめの花
あやなしかすみたちなかくしそ
凡河内躬恒


紅梅(こうばい)

うめはけいぜつをふくみてこうきをかねたり、
えはけいくわをもてあそびてへきぶんをおびたり、
梅(うめ)は鶏舌(けいぜつ)を含(ふく)みて紅気(こうき)を兼(か)ねたり、
江(え)は瓊花(けいくわ)を弄(もてあそ)びて碧文(へきぶん)を帯(お)びたり、
梅含鶏舌兼紅気。江弄瓊花帯碧文。
早春尋李校書 元●(ノギヘン+「眞」)

せんこうせんけんたり、せんはうのゆきいろをはづ、
ぢようきやうふんいくたり、ぎろのけむりかをりをゆづる、
浅紅(せんこう)鮮娟(せんけん)たり、仙方(せんはう)の雪(ゆき)色(いろ)を愧(は)づ、
濃香(ぢようきやう)芬郁(ふんいく)たり、妓炉(ぎろ)の烟(けむり)薫(かをり)を譲(ゆづ)る、
浅紅鮮娟。仙方之雪愧色。濃香芳郁。妓炉之烟譲薫。
繞簷梅正開詩 橘正通

いろありてわかちやすしざんせつのそこ、
こゝろなくしてわきまへがたしせきやうのうち、
色(いろ)有(あ)りて分(わか)ちやすし残雪(ざんせつ)の底(そこ)
情(こゝろ)無(な)くして弁(わきま)へがたし夕陽(せきやう)の中(うち)、
有色易分残雪底。無情難弁夕陽中。
賦庭前紅梅 兼明親王

せんきうにかぜなりてむなしくゆきをひる、
やろにひあたたかにしていまだけむりをあげず、
仙臼(せんきう)に風(かぜ)生(な)りて空(むな)しく雪(ゆき)を簸(ひ)る、
野炉(やろ)に火(ひ)暖(あたた)かにしていまだ煙(けむり)を揚(あ)げず、
仙臼風生空簸雪。野鑪火暖未揚煙。
紅白梅花 紀斉名

古今
君ならでたれにかみせんうめのはな
いろをもかをもしる人ぞしる
紀友則

新古今
色かをばおもひもいれずうめのはな
つねならぬ世によそへてぞみる
花山院


柳(やなぎ)

りんあうはいづれのところにかことのことぢをぎんじ、
しやうりうはたれがいへにかきくぢんをさらす、
林鶯(りんあう)は何(いづ)れの処(ところ)にか箏(こと)の柱(ことぢ)を吟(ぎん)じ、
墻柳(しやうりう)は誰(たれ)が家(いへ)にか麹塵(きくぢん)を曝(さら)す、
林鶯何処吟箏柱。墻柳誰家曝麹塵。
天宮閣早春 白居易

やうやくたのきばのきやくをはらはんとほつす、
いまだおほくろうにのぼるひとをさへぎりえず、
漸(やうや)く他(た)の騎馬(きば)の客(きやく)を払(はら)はんと欲(ほつ)す、
いまだ多(おほ)く楼(ろう)に上(のぼ)る人(ひと)を遮(さへぎ)り得(え)ず、
漸欲払他騎馬客。未多遮得上楼人。
喜小楼西新柳抽条 白居易

ふぢよべうのはなはべによりもくれなゐなり、
せうくんそんのやなぎはまゆよりもみどりなり、
巫女廟(ふぢよべう)の花(はな)は粉(べに)より紅(くれなゐ)なり
昭君村(せうくんそん)の柳(やなぎ)は眉(まゆ)よりも翠(みどり)なり
巫女廟花紅似粉。昭君村柳翠於眉。
題峡中石上 同白

まことにしりぬおいさりてふぜいのすくなきことを、
これをみいかでかいつくのしなからん、
誠(まこと)に知(し)りぬ老(お)い去(さ)りて風情(ふぜい)の少(すくな)きことを、
此(これ)を見(み)いかでか一句(いつく)の詩(し)なからん、
誠知老去風情少。見此争無一句詩。
与前一首絶句他 同

たいゆれいのうめははやくおつ、
たれかふんさうをとはん、
きやうろざんのあんずはいまだひらけず、
あにこうえんをおはんや、
大●(マダレ+「臾」)嶺(たいゆれい)の梅(うめ)は早(はや)く落(お)つ、誰(たれ)か粉粧(ふんさう)を問(と)はん、
匡廬山(きやうろざん)の杏(あんず)はいまだ開(ひら)けず、
あに紅艶(こうえん)を趁(お)はんや、
大●(マダレ+「臾」)嶺之梅早落。誰問粉粧。匡廬山之杏未開。豈趁紅艶。
内宴序停盃看柳色 紀長谷雄或大江音人

くもはこうきようをさゝぐふさうのひ、
はるはくわうしゆをたわますどんりうのかぜ、
雲(くも)は紅鏡(こうきやう)を●(「敬」+「手」)(さゝ)ぐ扶桑(ふさう)の日(ひ)、
春(はる)は黄珠(くわうしゆ)を嫋(たわ)ます嫩柳(どんりう)の風(かぜ)雲●(「敬」+「手」)
紅鏡扶桑日。春嫋黄珠嫩柳風。
早春作 田達音

けいたくにはれをむかへてていげつくらく、
りくちにひをおひてすゐえんふかし、
●(「禾」+「尤」+「山」)宅(けいたく)に晴(はれ)を迎(むか)へて庭月(ていげつ)暗(くら)く、
陸池(りくち)に日(ひ)を逐(お)ひて水煙(すゐえん)深(ふか)し、
●(「禾」+「尤」+「山」)宅迎晴庭月暗。陸池逐日水煙深。
柳影繁初合詩 具平親王

たんしんにつきうかびてえだをまじふるかつら、
がんこうにかぜきたりてはにこんずるうきくさ、
潭心(たんしん)に月(つき)泛(うか)びて枝(えだ)を交(まじ)ふる桂(かつら)、
岸口(がんこう)に風(かぜ)来(きた)りて葉(は)を混(こん)ずる蘋(うきくさ)
潭心月泛交枝桂。岸口風来混葉蘋。
垂柳払緑水詩 菅原文時

古今
あをやぎのいとよりかくるはるしもぞ
みだれて花のほころびにける
紀貫之

新千載
あをやぎのまゆにこもれるいとなれば
春のくるにぞいろまさりける
藤原兼輔


花(はな)

はなはじやうゑんにあきらかにして、けいけんきうはくのちりにはす、
さるはくうざんにさけびて、しやげつせんがんのみちをみがく、
花(はな)は上苑(じやうゑん)に明(あき)らかにして、軽軒(けいけん)九陌(きうはく)の塵(ちり)に馳(は)す、
猿(さる)は空山(くうざん)に叫(さけ)びて、斜月(しやげつ)千巌(せんがん)の路(みち)を瑩(みが)く、
花明上苑。軽軒馳九陌之塵。猿叫空山。斜月瑩千巌之路。
閑賦 張読

いけのいろはよう/\ようとしてあゐみづをそむ、
はなのひかりはえん/\としてひはるをやく、
池(いけ)の色(いろ)は溶々(よう/\)として藍水(あゐみづ)を染(そ)む、
花(はな)の光(ひかり)は焔々(えん/\)として火(ひ)春(はる)を焼(やく)、
池色溶溶藍染水。花光焔焔火焼春。
早春招張賓客 白居易

はるかにじんかをみてはなあればすなはちいる、
きせんとしんそとをろん)ぜず、
遥(はる)かに人家(じんか)を見(み)て花(はな)あればすなはち入(い)る、
貴賤(きせん)と親疎(しんそ)とを論(ろん)ぜず、
遥見人家花便入。不論貴賤与親疎。
尋春題諸家園林 同

ひにみがきかぜにみがく、かうていせんくわばんくわのたま、
えだをそめなみをそむ、へうりいちじゆさいじゆのこう、
日(ひ)に瑩(みが)き風(かぜ)に瑩(みが)く、高低(かうてい)千顆万顆(せんくわばんくわ)の玉(たま)、
枝(えだ)を染(そ)め浪(なみ)を染(そ)む、表裏(へうり)一入再入(いつじゆさいじゆ)の紅(こう)
瑩日瑩風。高低千顆万顆之玉。
染枝染浪。表裏一入再入之紅。
花光浮水上序 菅原文時

たれかいひしみづこころなしと、ぢようえんのぞみてなみいろをへんず、
たれかいひしはなのいはずと、けいやうげきしてかげくちびるをうごかす、
誰(たれ)か謂(い)ひし水(みづ)心(こころ)なしと、濃艶(ぢようえん)臨(のぞ)んで波(なみ)色(いろ)を変(へん)ず
誰(たれ)か謂(い)つし花(はな)のいはずと、軽漾(けいやう)激(げき)して影(かげ)唇(くちびる)を動(うご)かす
誰謂水無心。濃艶臨兮波変色。
誰謂花不語。軽漾激兮影動唇。
同上 同

これをみづといはんとすれば、すなはちかんぢよべにをほどこすかゞみせいえいたり、これをはなといはんとほつすれば、またしよくじんあやをあらふにしきさんらんたり、
これを水(みづ)と謂(い)はんとすれば、すなはち漢女(かんぢよ)粉(べに)を施(ほどこ)す鏡(かゞみ)清瑩(せいえい)たり、
これを花(はな)と謂(い)はんと欲(ほつ)すれば、また蜀人(しよくじん)文(あや)を濯(あら)ふ錦(にしき)粲爛(さんらん)たり、
欲謂之水。則漢女施粉之鏡清瑩。
欲謂之花。亦蜀人濯文之錦粲爛。
同題序 源順

おることいづれのいとよりぞたゞゆふべのあめ、
たつことはさだまれるためしなしはるのかぜにまかす、
織(お)ること何(いづ)れの糸(いと)よりぞたゞ暮(ゆふべ)の雨(あめ)、
裁(た)つことは定(さだ)まれる様(ためし)なし春(はる)の風(かぜ)に任(まか)す、
織自何糸唯暮雨。裁無定様任春風。
花開如散錦 菅原文時

はなとびてにしきのごとしいくぢようしやうぞ、
おるものははるのかぜいまだはこにたゝまず、
花(はな)飛(と)びて錦(にしき)の如(ごと)し幾(いく)濃粧(ぢようしやう)ぞ、
織(お)るものは春(はる)の風(かぜ)いまだ箱(はこ)に畳(たゝ)まず、
花飛如錦幾濃粧。織者春風未畳箱。
同題 源英明

はじめをしるはるのかぜのきじやうにたくみなることを、
たゞいろをおるのみにあらずふんはうをもおる、
始(はじ)めを識(し)る春(はる)の風(かぜ)の機上(きじやう)に巧(たくみ)なることを、
たゞ色(いろ)を織(お)るのみにあらず芬芳(ふんはう)をも織(お)る、
始識春風機上巧。非唯織色織芬芳。
同上 同

まなこはしよくぐんにまづしたちのこすにしき、
みゝはしんじやうにうみたりしらべつくすこと、
眼(まなこ)は蜀郡(しよくぐん)に貧(まづ)し裁(た)ち残(のこ)す錦(にしき)、
耳(みゝ)は秦城(しんじやう)に倦(う)みたり調(しら)べ尽(つく)すこと、
眼貧蜀郡裁残錦。耳倦秦城調尽箏。
花少鶯稀 源相規

古今
世の中にたえてさくらのなかりせば
はるのこゝろはのどけからまし
在原業平

古今
わがやどのはな見がてらにくる人は
ちりなん後ぞこひしかるべき
凡河内躬恒

古今
みてのみや人にかたらんやまざくら
手ごとにをりていへづとにせん
素性法師


落花(らくくわ)

らくくわものいはずむなしくきをじす、
りうすゐこゝろなくしておのづからいけにいる、
落花(らくくわ)語(ものい)はず空(むな)しく樹(き)を辞(じ)す、
流水(りうすゐ)心無(こゝろな)くして自(おのづか)ら池(いけ)に入(い)る
落花不語空辞樹。流水無心自入池。
過元家履信宅 白居易

あしたにはらくくわをふみてあひともなひていで、
ゆふべにはひてうにしたがひていちじにかへる、
朝(あした)には落花(らくくわ)を踏(ふ)みて相伴(あひともな)ひて出(い)で、
暮(ゆふべ)には飛鳥(ひてう)に随(したが)ひて一時(いちじ)に帰(かへ)る、
朝踏落花相伴出。暮随飛鳥一時帰。
春水頻与李二賓客同廊外同遊因贈長甸 同

はるのはなはめん/\にかんちやうしむしろにらんにふす、
くれのうぐひすはせい/\にかうしようのざによさんす、
春(はる)の花(はな)は面々(めん/\)に酣暢(かんちやう)し筵(むしろ)に闌入(らんにふ)す、
晩(くれ)の鶯(うぐひす)は声々(せい/\)に講誦(かうしよう)の座(ざ)に予参(よさん)す
春花面面闌入酣暢之筵。晩鶯声声予参講誦之座。
春日侍前鎮西部督大王読史記序 大江朝綱

らくくわらうぜきたりかぜくるひてのち、
ていてうりようしようたりあめのうつとき、
落花(らくくわ)狼籍(らうぜき)たり風(かぜ)狂(くる)ひて後(のち)
啼鳥(ていてう)龍鐘(りようしよう)たり雨(あめ)の打(う)つ時(とき)
落花狼籍風狂後。啼鳥龍鐘雨打時。
惜残春 同

かくをはなるるほうのかけりはおばしまによりてまひ、
ろうをくだれるあいのそではきざはしをかへりみてひるがへる、
閤(かく)を離(はな)るる鳳(ほう)の翔(かけり)は檻(おばしま)に憑(よ)りて舞(ま)ひ、
楼(ろう)を下(くだ)れる娃(あい)の袖(そで)は階(きざはし)を顧(かへり)みて翻(ひるがへ)る、
離閤鳳翔憑檻舞。下楼娃袖顧階翻。
落花還繞樹詩 菅原文時

拾遺
さくらちるこのしたかぜはさむからで
そらにしられぬ雪ぞふりける
紀貫之

拾遺
とのもりのとものみやつここころあらば
このはるばかり朝きよめすな
源公忠


躑躅(つつじ)

ばんずゐなほひらくこうてきちよく、
あきのはなぶさはじめてむすぶはくふよう、
晩蘂(ばんずい)なほ開(ひら)く紅躑躅(こうてきちよく)、
秋(あき)の房(はなぶさ)初(はじ)めて結(むす)ぶ白芙蓉(はくふよう)、
晩蘂尚開紅躑躅。秋房初結白芙蓉。
題元十八渓居 白居易

やいうのひとはたづねきたりてとらんとほつす、
かんしよくのいへにはまさにをりをえておどろくべし、
夜遊(やいう)の人(ひと)は尋(たづ)ね来(きた)りて把(と)らんと欲(ほつ)す、
寒食(かんしよく)の家(いへ)にはまさに折(を)り得(え)て驚(おどろ)くべし、
夜遊人欲尋来把。寒食家応折得驚。
山石榴艶似火 源順

古今
おもひいづるときはのやまのいはつつじ
いはねばこそあれこひしきものを
平貞文


款冬(やまぶき)

しわうをてんちやくしててんにこゝろあり、
くわんどうあやまりてぼしゆんのかぜにほころぶ、
雌黄(しわう)を点着(てんちやく)して天(てん)に意(こゝろ)あり、
款冬(くわんどう)誤(あやま)りて暮春(ぼしゆん)の風(かぜ)に綻(ほころ)ぶ、
点着雌黄天有意。款冬誤綻暮春風。
藤原実頼

しよさうにまきありてあひしうしふす、
せうしにぶんなくもいまだほうかうせず、
書窓(しよさう)に巻(まき)有(あ)りて相収拾(あひしうしふ)す、
詔紙(せうし)に文(ぶん)無(な)くもいまだ奉行(ほうかう)せず、
書窓有巻相収拾。詔紙無文未奉行。
題花黄 慶滋保胤

新古今
かはづなく神なびがはに影みえて
いまやさくらん山ぶきの花
厚見王

拾遺
わがやどのやへ山吹はひとへだに
ちりのこらなむはるのかたみに
平兼盛


藤(ふぢ)

じおんにちやうばうすさんげつのつくることを、
しとうのはなおちてとりくわん/\たり、
慈恩(じおん)に悵望(ちやうばう)す三月(さんげつ)の尽(つ)くることを、
紫藤(しとう)花(はな)落(お)ちて鳥(とり)関々(くわん/\)たり、
悵望慈恩三月尽。紫藤花落鳥関関
酬元十八三月三十日慈恩寺見寄 白居易

しとうのつゆのそこざんくわのいろ、
すゐちくのけむりのなかぼてうのこゑ、
紫藤(しとう)の露(つゆ)底(そこ)残花(ざんくわ)の色(いろ)、
翠竹(すゐちく)の煙(けむり)の中(なか)暮鳥(ぼてう)の声(こゑ)
紫藤露底残花色。翠竹煙中暮鳥声。
四月有余春詩 源相規

しじようはひとへにあけのころものいろをうばふ、
まさにこれはなのこゝろけんだいをわするべし、
紫茸(しじよう)は偏(ひとへ)に朱衣(あけのころも)の色(いろ)を奪(うば)ふ、
まさに是(これ)花(はな)の心(こゝろ)憲台(けんだい)を忘(わす)るべし、
紫茸偏奪朱衣色、
応是花心忘憲台、
於御史中丞亭翫藤 源順

拾遺
たごのうらそこさへにほふふぢなみを
かざしてゆかんみぬ人のため
柿本人麿

続古今
ときはなるまつのなたてにあやなくも
かかれるふぢのさきてちるかな
紀貫之





更衣(かうい)

かべにそむけるともしびはよべをふるほのほをのこし、
はこをひらけるころもはとしをへだつるにほひをおびたり、
壁(かべ)に背(そむ)ける燈(ともしび)は宿(よべ)を経(ふ)る焔(ほのほ)を残(のこ)し、
箱(はこ)を開(ひら)ける衣(ころも)は年(とし)を隔(へだ)つる香(にほひ)を帯(お)びたり、
背壁残燈経宿焔。開箱衣帯隔年香。
早夏暁興 白居易

せいい(すゞしのきぬ)はかじんをまちてちやくせんとほつす、
しゆくぢやうはまさにいふらうをまねきてたのしむべし、
生衣(せいい・すゞしのきぬ)は家人(かじん)を待(ま)ちて着(ちやく)せんと欲(ほつ)す、
宿醸(しゆくぢやう)はまさに邑老(いふらう)を招(まね)きて酣(たのしむ)べし、
生衣欲待家人着。宿醸当招邑老酣。
讚州作 菅原道真

拾遺
はなの色にそめしたもとのをしければ
ころもかへうきけふにもあるかな
源重之


首夏(しゆか)

もたひのほとりのちくえふははるをへてじゆくし、
はしのもとのしやうびはなつにいりてひらく、
甕(もたひ)の頭(ほとり)の竹葉(ちくえふ)は春(はる)を経(へ)て熟(じゆく)し、
階(はし)の底(もと)の薔薇(しやうび)は夏(なつ)に入(い)りて開(ひら)く、
甕頭竹葉経春熟。階底薔薇入夏開。
薔薇正開春酒初熟 白居易

こけせきめんにしやうじてけいいみじかし、
はちすちしんよりいでてせうがいまばらなり、
苔(こけ)石面(せきめん)に生(しやう)じて軽衣(けいい)短(みじか)し、
荷(はちす)池心(ちしん)より出(い)でて小蓋(せうがい)疎(まばら)なり、
苔生石面軽衣短。荷出池心小蓋疎。
首夏作 物部安興

拾遺
わがやどのかきねや春をへだつらん
夏きにけりとみゆるうのはな
源順


夏夜(なつのよ)

かぜこぼくふけばはれのそらのあめ、
つきのへいさをてらせばなつのよのしも、
風(かぜ)枯木(こぼく)を吹(ふ)けば晴(はれ)の天(そら)の雨(あめ)、
月(つき)の平沙(へいさ)を照(てら)せば夏(なつ)の夜(よ)の霜(しも)、
風吹枯木晴天雨。月照平沙夏夜霜。
江楼夕望 白居易

かぜたけになるよまどのあひだにふせり、
つきまつをてらすときにうてなのほとりにありく、
風(かぜ)竹(たけ)に生(な)る夜(よ)窓(まど)の間(あひだ)に臥(ふ)せり、
月(つき)松(まつ)を照(てら)す時(とき)に台(うてな)の上(ほとり)に行(あり)く、
風生竹夜窓間臥。月照松時台上行。
早夏独居 白居易

くうやまどはしづかなりほたるわたりてのち、
しんかうのきはしろしつきのあきらかなるはじめ、
空夜(くうや)窓(まど)は閑(しづ)かなり蛍(ほたる)度(わた)りて後(のち)、
深更(しんかう)軒(のき)は白(しろ)し月(つき)の明(あき)らかなる初(はじめ)、
空夜窓閑蛍度後。深更軒白月明初。
夜陰帰房 紀長谷雄


なつのよをねぬにあけぬといひおきし
人はものをやおもはざりけん
柿本人麿

家集
ほととぎすなくやさつきのみじかよも
ひとりしぬればあかしかねつも
柿本人麿

古今
なつのよはふすかとすればほととぎす
なくひとこゑにあくるしののめ


端午(たんご)

ときありてとにあたりてみをあやぶめてたてり、
こゝろなくしてこゑんにあしにまかせてゆかん、
時(とき)有(あ)りて戸(と)に当(あた)りて身(み)を危(あや)ぶめて立(た)てり、
意(こゝろ)無(な)くして故園(こゑん)に脚(あし)に任(まか)せて行(ゆ)かん。
有時当戸危身立。無意故園任脚行。
懸艾人 菅原道真

家集
わかこまとけふにあひくるあやめぐさ
おひおくるるやまくるなるらん
大中臣頼基

拾遺
きのふまでよそにおもひしあやめぐさ
けふわがやどのつまとみるかな
大中臣能宣


納涼(なふりやう)

せいたいのちのうへにざんうをけし、
りよくじゆのかげのまへにばんりやうをおふ、
青苔(せいたい)の地(ち)の上(うへ)に残雨(ざんう)を銷(け)し、
緑樹(りよくじゆ)の陰(かげ)の前(まへ)に晩涼(ばんりやう)を逐(お)ふ、
青苔地上銷残雨。緑樹陰前逐晩涼。
地上逐涼 白居易

ろてんせいゑいとしてよをむかへてなめらかなり、
ふうきんせうさいとしてあきにさきだちてすずし、
露簟(ろてん)清瑩(せいゑい)として夜(よ)を迎(むか)へて滑(なめ)らかなり、
風襟(ふうきん)蕭灑(せうさい)として秋(あき)に先(さき)だちて涼(すゞ)し、
露簟清瑩迎夜滑。風襟蕭灑先秋涼。
地上夜境 白居易

これぜんばうにねつのいたることなきあらず、
たゞよくこゝろしづかなればすなはちみもすゞし、
是(これ)禅房(ぜんばう)に熱(ねつ)の到(いた)ること無(な)きあらず、
たゞ能(よ)く心(こゝろ)静(しづ)かなれば即(すなは)ち身(み)も涼(すゞ)し、
不是禅房無熱到。但能心静即身涼。
苦熱題桓寂禅師房 白居易

はんせふよがだんせつのあふぎ、がんふうにかはりてながくわすれたり、
えんのせうわうのせうりやうのたまも、さげつにあたりておのづからえたり、
班●(「捷」のテヘンの代りにオンナヘン)●(「女」+「予」)(はんせふよ)が団雪(だんせつ)の扇(あふぎ)、岸風(がんふう)に代(か)はりて長(なが)く忘(わす)れたり、
燕(えん)の昭王(せうわう)の招涼(せうりやう)の珠(たま)も、沙月(さげつ)に当(あた)りて自(おのづか)ら得(え)たり、
班●(「捷」のテヘンの代りにオンナヘン)●(「女」+「予」)団雪之扇。代岸風兮長忘。燕昭王招涼之珠。当沙月兮自得。
避暑対水石序 大江匡衡

ふしてはしんとりんすゐのしやうをみ、
ゆきてはこしふなふりやうのしをぎんず、
臥(ふ)しては新図(しんと)臨水(りんすゐ)の障(しやう)を見(み)、
行(ゆ)きては古集(こしふ)納涼(なふりやう)の詩(し)を吟(ぎん)ず、
臥見新図臨水障。行吟古集納涼詩。
題納涼之画 菅原道真

いけひやゝかにしてみづにさんふくのなつなく、
まつたかくしてかぜにいつせいのあきあり、
池(いけ)冷(ひや)ゝかにして水(みづ)に三伏(さんふく)の夏(なつ)なく、
松(まつ)高(たか)くして風(かぜ)に一声(いつせい)の秋(あき)あり、
池冷水無三伏夏。松高風有一声秋。
夏日閑避暑 源英明

古今
すずしやと草むらことにたちよれば
あつさぞまさるとこなつのはな
紀貫之

新千載
したくぐる水にあきこそかよふらし
むすぶいづみの手さへすずしき
中務

拾遺
まつかげのいは井の水をむすびあげて
なつなきとしとおもひけるかな
恵慶法師


晩夏(ばんか)

ちくていかげあひてひとへになつによろし、
すゐかんかぜすゞしくしてあきをまたず、
竹亭(ちくてい)陰(かげ)合(あ)ひて偏(ひとへ)に夏(なつ)に宜(よろ)し、
水檻(すゐかん)風(かぜ)涼(すゞ)しくして秋(あき)を待(ま)たず、
竹亭陰合偏宜夏。水檻風涼不待秋。
夏日遊永安水亭 白居易

新古今
夏はつるあふぎとあきのしらつゆと
いづれかさきにをかんとすらん

拾遺
ねぎごともきかずあらぶる神だにも
けふはなごしのはらへなりけり
斎宮


橘花(はなたちばな)

ろきつみをたれてさんうおもく、
へいりよはそよぎてすゐふうすゞし、
盧橘(ろきつ)子(み)を低(た)れて山雨(さんう)重(おも)く、
●(キヘン+「并」)櫚(へいりよ)葉(は)戦(そよ)ぎて水風(すゐふう)涼(すゞ)し、
盧橘子低山雨重。●(キヘン+「并」)櫚葉戦水風涼。
西湖晩帰望孤山寺 白居易

えだにはきんれいをつなぐしゆんうののち、
はなはしゞやにくんずがいふうのほど、
枝(えだ)には金鈴(きんれい)を繋(つな)ぐ春雨(しゆんう)の後(のち)、
花(はな)は紫麝(しゞや)に薫(くん)ず凱風(がいふう)の程(ほど)
枝繋金鈴春雨後。花薫紫麝凱風程。
花橘詩 後中書王

古今
さつきまつはなたちばなのかをかげば
むかしの人の袖のかぞする

ほととぎすはなたちばなにかをとめて
なくはむかしの人やこひしき
貫之


蓮(はちす)

ふうかのらうえふはせうでうとしてみどりなり、
すゐれうのざんくわはせきばくとしてくれなゐなり、
風荷(ふうか)の老葉(らうえふ)は蕭条(せうでう)として緑(みどり)なり、
水蓼(すゐれう)の残花(ざんくわ)は寂寞(せきばく)として紅(くれなゐ)なり、
風荷老葉蕭条緑。水蓼残花寂寞紅。
県西郊秋寄贈馬造階下 白居易

はのびてかげはひるがへるみぎりにあたるつき、
はなひらきてかはさんじてすだれにいるかぜ、
葉(は)展(の)びて影(かげ)は翻(ひるがへ)る砌(みぎり)に当(あた)る月(つき)、
花(はな)開(ひら)きて香(か)は散(さん)じて簾(すだれ)に入(い)る風(かぜ)、葉展影翻当砌月。花開香散入簾風。
階下蓮 白居易

けむりすゐせんをひらくせいふうのあかつき、
みづこういをうかぶはくろのあき、
煙(けむり)翠扇(すいせん)を開(ひら)く清風(せいふう)の暁(あかつき)、
水(みづ)紅衣(こうい)を泛(うか)ぶ白露(はくろ)の秋(あき)、
煙開翠扇清風暁。水泛紅衣白露秋。
題雲陽駅亭蓮 許渾

がんちくえだたれたりまさにとりのやどとなるべく、
たんかはうごくこれうをのあそぶならん、
岸竹(がんちく)枝(えだ)低(た)れたりまさに鳥(とり)の宿(やどり)となるべく、
潭荷(たんか)葉(は)動(うご)くこれ魚(うを)の遊(あそ)ぶならん、
岸竹枝低応鳥宿。潭荷葉動是魚遊。
池亭晩望 紀在昌

なにによりてかさらにござんのくまをもとめん、
すなはちこれわがきみのざかのはななればなり、
何(なに)に縁(よ)りてか更(さら)に呉山(ござん)の曲(くま)に覓(もと)めん、
便(すなは)ちこれ吾(わ)が君(きみ)の座下(ざか)の花(はな)なればなり、
縁何更覓呉山曲。便是吾君座下花。
亭子院法皇御賀呉山千葉蓮華屏風詩 醍醐帝御製

きやうにはだいもくたりほとけにはまなこたり、
しりぬなんぢがはなのなかにぜんこんをうゑたることを、
経(きやう)には題目(だいもく)たり仏(ほとけ)には眼(まなこ)たり、
知(し)りぬ汝(なんぢ)が花(はな)の中(なか)に善根(ぜんこん)を植(う)ゑたることを、
経為題目仏為眼。知汝花中植善根。
石山寺池蓮 源為憲

古今
はちす葉のにごりにしまぬこころもて
なにかは露をたまとあざむく


郭公(ほとゝぎす)

いつせいのさんてうはしようんのほか、
ばんてんのすゐけいはしうさうのうち、
一声(いつせい)の山鳥(さんてう)は曙雲(しようん)の外(ほか)、
万点(ばんてん)の水蛍(すゐけい)は秋草(しうさう)の中(うち)、
一声山鳥曙雲外。万点水蛍秋草中。
題発幽居将尋同志 許渾

新後拾遺
さつきやみおぼつかなきをほととぎす
なくなるこゑのいとどはるけき
明日香皇子

拾遺
ゆきやらで山路くらしつほととぎす
いまひとこゑのきかまほしさに
源公忠

拾遺
さよふけてねざめざりせばほととぎす
人づてにこそきくべかりけれ
壬生忠見


蛍(ほたる)

けいくわみだれとびてあきすでにちかし、
しんせいはやくかくれてよるはじめてながし、
蛍火(けいくわ)乱(みだ)れ飛(と)びて秋(あき)已(すで)に近(ちか)し、
辰星(しんせい)早(はや)く没(かく)れて夜(よる)初(はじ)めて長(なが)し、
蛍火乱飛秋已近。辰星早没夜初長。
夜座 元●(ノギヘン+「眞」)

けんかみづくらくしてほたるよをしる、
やうりうかぜたかくしてがんあきをおくる、
蒹葭(けんか)水(みづ)暗(くら)くして蛍(ほたる)夜(よる)を知(し)る、
楊柳(やうりう)風(かぜ)高(たか)くして雁(がん)秋(あき)を送(おく)る、
蒹葭水暗蛍知夜。楊柳風高鴈送秋。
常州留与楊給事 許渾

めい/\としてなほあり、たれかつきのひかりををくぢやうにおはんや、
かう/\としてきえず、あにせつぺんをしやうとうにつまんや、
明々(めい/\)としてなほ在(あ)り、誰(たれ)か月(つき)の光(ひかり)を屋上(をくぢやう)に追(お)はんや、
皓々(かう/\)として消(き)えず、あに雪片(せつぺん)を床頭(しやうとう)に積(つ)まんや。
明明仍在。誰追月光於屋上。
皓皓不消。豈積雪片於床頭。
秋蛍照帙賦 紀長谷雄

さんきやうのまきのうちにはくきをすぐるかとうたがふ、
かいふのへんのなかにはながれにやどるににたり、
山経(さんきやう)の巻(まき)の裏(うち)には岫(くき)を過(す)ぐるかと疑(うたが)ふ、
海賦(かいふ)の篇(へん)の中(なか)には流(ながれ)に宿(やど)るに似(に)たり、
山経巻裏疑過岫。海賦篇中似宿流。
同題 橘直幹

新勅撰
草ふかきあれたるやどのともし火の
風にきえぬはほたるなりけり
山部赤人

後撰
つつめどもかくれぬものはなつむしの
身よりあまれるおもひなりけり


蝉(せみ)

ちゝたるはるのひに、たまのいしだゝみあたゝかにしてをんせんみてり、
でう/\たるあきのかぜに、やまのせみなきてきゆうじゆくれなゐなり、
遅々(ちゝ)たる春(はる)の日(ひ)に、玉(たま)の甃(いしだゝみ)暖(あたゝ)かにして温泉(をんせん)溢(み)てり、
嫋々(でう/\)たる秋(あき)の風(かぜ)に、山(やま)の蝉(せみ)鳴(な)きて宮樹(きゆうじゆ)紅(くれなゐ)なり、
遅遅兮春日。玉甃暖兮温泉溢。
嫋嫋兮秋風。山蝉鳴兮宮樹紅。
驪山宮賦 白居易

せんほうのとりのみちはばいうをふくみ、
ごげつのせみのこゑはばくしうをおくる、
千峯(せんほう)の鳥(とり)の路(みち)は梅雨(ばいう)を含(ふく)み、
五月(ごげつ)の蝉(せみ)の声(こゑ)は麦秋(ばくしう)を送(おく)る、
千峯鳥路含梅雨。五月蝉声送麦秋。
発青滋店至長安西渡江 李嘉祐

とりはりよくぶにおりてしんひんしづかなり、
せみはくわうえふになきてかんきゆうあきなり、
鳥(とり)は緑蕪(りよくぶ)に下(お)りて秦苑(しんひん)静(しづ)かなり、
蝉(せみ)は黄葉(くわうえふ)に鳴(な)きて漢宮(かんきゆう)秋(あき)なり、
鳥下緑蕪秦苑静。蝉鳴黄葉漢宮秋。
題咸陽城東棲 許渾

こんねんはつねよりもことなりてはらはたまづたつ、
これせみのかなしきのみにあらずきやくのこゝろかなしきなり、
今年(こんねん)は例(つね)よりも異(こと)なりて腸(はらはた)先(ま)づ断(た)つ、
これ蝉(せみ)の悲(かな)しきのみにあらず客(きやく)の意(こゝろ)悲(かな)しきなり、
今年異例腸先断。不是蝉悲客意悲。
聞新蝉 菅原道真

としさりとしきたりてきけどもへんぜず、
いふことなかれあきののちにつひにくうとならんと、
歳(とし)去(さ)り歳(とし)来(きた)りて聴(き)けども変(へん)ぜず、
言(い)ふことなかれ秋(あき)の後(のち)に遂(つひ)に空(くう)と為(な)らんと、
歳去歳来聴不変。莫言秋後遂為空。
吟初蝉 紀納言


なつ山のみねのこずゑのたかければ
空にぞせみのこゑはきこゆる

後撰
これをみよ人もとがめぬこひすとて
ねをなくむしのなれるすがたを
源重光


扇(あふぎ)

せいかにきえざるゆき、としををふるまでつくることなきかぜ、
あきをひきてしゆりにしやうず、つきをざうしてくわいちゆうにいる、
盛夏(せいか)に消(き)えざる雪(ゆき)、年(とし)を終(を)ふるまで尽(つ)くること無(な)き風(かぜ)、
秋(あき)を引(ひ)きて手裏(しゆり)に生(しやう)ず、月(つき)を蔵(ぞう)して懐中(くわいちゆう)に入(い)る、
盛夏不消雪。終年無尽風。引秋生手裏。蔵月入懐中。
白羽扇 白居易

きせずやろうのはじめてわかるゝのち、
たゞもてあそぶしうふういまだいたらざるさき、
期(き)せず夜漏(やろう)の初(はじ)めて分(わか)るゝ後(のち)、
唯(たゞ)翫(もてあそ)ぶ秋風(しうふう)いまだ到(いた)らざる前(さき)、不期夜漏初分後。唯翫秋風未到前。
軽扇動明月 菅原文時

拾遺
あまの川川瀬すずしきたなばたに
あふぎのかぜをなほやかさまし
中務

拾遺
天の川あふぎのかぜにきりはれて
そらすみわたるかささぎのはし
清原元輔

家集
君がてにまかするあきのかぜなれば
なびかぬくさもあらじとぞおもふ
中務






立秋(りつしう)

せうさつたるりやうふうとすゐびんと、
たれかけいくわいをしていちじにあきならしむる。
蕭颯(せうさつ)たる涼風(りやうふう)と悴鬢(すゐびん)と、
誰(たれ)か計会(けいくわい)をして一時(いちじ)に秋(あき)ならしむる。
蕭颯涼風与悴鬢。誰教計会一時秋。
立秋日登楽遊園 白居易

にはとりやうやくさんずるあひだあきのいろすくなし、
こひのつねにはしるところばんのこゑかすかなり、
鶏(にはとり)漸(やうや)く散(さん)ずる間(あひだ)秋(あき)の色(いろ)少(すくな)し、
鯉(こひ)の常(つね)に趨(はし)る処(ところ)晩(ばん)の声(こゑ)微(かす)かなり、
鶏漸散間秋色少。鯉常趨処晩声微。
於菅師匠旧亭賦一葉落庭時詩 慶滋保胤

古今
あききぬとめにはさやかにみえねども
かぜのおとにぞおどろかれぬる
藤原敏行

後撰
うちつけにものぞかなしきこの葉ちる
あきのはじめをけふとおもへば
大中臣能宣


早秋(さうしう)

たゞしよのさんぷくにしたがひてさることをよろこぶ、
あきのにまうをおくりきたることをしらず
但(たゞ)暑(しよ)の三伏(さんぷく)に随(したが)ひて去(さ)ることを喜(よろこ)ぶ、
秋(あき)の二毛(にまう)を送(おく)り来(きた)ることを知(し)らず
但喜暑随三伏去。不知秋送二毛来。
早秋答蘇六 白居易

くわいくわあめにうるほふしんしうのち、
とうえふかぜすゞしよるならんとほつするてん、
槐花(くわいくわ)雨(あめ)に潤(うるほ)ふ新秋(しんしう)の地(ち)、
桐葉(とうえふ)風(かぜ)涼(すゞ)し夜(よる)ならんと欲(ほつ)する天(てん)、
槐花雨潤新秋地。桐葉風涼欲夜天。
秘省後聴 白居易

えんけいあまつさへのこりてころもなほおもし、
ばんりやうひそかにいたりてたかむしろまづしる、
炎景(えんけい)剰(あまつ)さへ残(のこ)りて衣(ころも)なほ重(おも)し、
晩涼(ばんりやう)潜(ひそ)かに到(いた)りて簟(たかむしろ)先(ま)づ知(し)る、
炎景剰残衣尚重。晩涼潜到簟先知。
立秋後作 紀長谷雄

万葉
あきたちていくかもあらねどこのねぬる
あさけのかぜはたもとすずしも
安貴王


七夕(しちせき)

おもひえたりせうねんのながくきつかうすることを、
ちくかんのとうしやうにげんしおほし、
憶(おも)ひ得(え)たり少年(せうねん)の長(なが)く乞巧(きつかう)することを、
竹竿(ちくかん)の頭上(とうしやう)に願糸(げんし)多(おほ)し、
憶得少年長乞巧。竹竿頭上願糸多。
七夕 白居易

にせいたまたまあひて、いまだべつしよのいいたるうらみをのべず、
ごやまさにあけなんとして、しきりにりやうふうのさつさつたるこゑにおどろく
二星(にせい)たまたま逢(あ)ひて、いまだ別緒(べつしよ)の依々(いい)たる恨(うら)みを叙(の)べず、
五夜(ごや)まさに明(あ)けなんとして、頻(しきり)に涼風(りやうふう)の颯々(さつさつ)たる声(こゑ)に驚(おどろ)く
二星適逢。未叙別緒依依之恨。
五夜将明。頻驚涼風颯颯之声。
代牛女惜暁更詩序 小野美材

つゆはまさにわかれのなみだなるべしたまむなしくおつ、
くもはこれざんしやうならんもとゞりいまだならず、
露(つゆ)はまさに別(わか)れの涙(なみだ)なるべし珠(たま)空(むな)しく落(お)つ、
雲(くも)はこれ残粧(ざんしやう)ならん鬟(もとゞり)いまだ成(な)らず、
露応別涙珠空落。雲是残粧鬟未成。
代牛女惜暁更 菅原道真

かぜはさくやよりこゑいよいようらむ、
つゆはみやうてうにおよびてなみだきんぜず、
風(かぜ)は昨夜(さくや)より声(こゑ)いよいよ怨(うら)む、
露(つゆ)は明朝(みやうてう)に及(およ)びて涙(なみだ)禁(きん)ぜず、
風従昨夜声弥怨。露及明朝涙不禁。
代牛女惜暁 大江綱朝

きよいなみにひきてかすみうるほふべし、
かうしよくながれにひたりてつききえなんとほつす、
去衣(きよい)浪(なみ)に曳(ひ)きて霞(かすみ)湿(うるほ)ふべし、
行燭(かうしよく)流(なが)れに浸(ひた)りて月(つき)消(き)えなんと欲(ほつ)す、
去衣曳浪霞応湿。行燭浸流月欲消。
七夕含媚渡河橋詩 菅原文時

ことばはびはにたくしかつやるといへども、
こゝろはへんげつをきしなかだちとせんとほつす、
詞(ことば)は微波(びは)に託(たく)しかつ遣(や)るといへども、
心(こゝろ)は片月(へんげつ)を期(き)し媒(なかだち)とせんと欲(ほつ)す、
詞託微波雖且遣。心期片月欲為媒。
代牛女侍夜 菅原輔昭

後撰
あまの川とほきわたりにあらねども
きみがふなではとしにこそまて
柿本人丸

拾遺
ひととせにひとよとおもへどたなばたの
あひみるあきのかぎりなきかな
紀貫之

拾遺
としごとにあふとはすれどたなばたの
ぬるよのかずぞすくなかりける
凡河内躬恒


秋興(しうきよう)

りんかんにさけをあたゝめてこうえふをたき、
せきじやうにしをだいしてりよくたいをはらふ、
林間(りんかん)に酒(さけ)を煖(あたゝ)めて紅葉(こうえふ)を焼(た)き、
石上(せきじやう)に詩(し)を題(だい)して緑苔(りよくたい)を掃(はら)ふ、林間煖酒焼紅葉。石上題詩掃緑苔。
題仙遊寺 白居易

そしべうばうとしてうんすいひややかなり、
しやうせいせいぜいとしてくわんげんあきなり、
楚思(そし)眇茫(べうばう)として雲水(うんすい)冷(ひややか)なり、
商声(しやうせい)清脆(せいぜい)として管絃(くわんげん)秋(あき)なり、
楚思眇茫雲水冷。商声清脆管絃秋。
於黄鶴楼宴罷望 白居易

おほむねしゞこゝろすべてくるし、
なかにつきてはらわたたゆるはこれあきのそら
大抵(おほむね)四時(しゞ)心(こゝろ)惣(す)べて苦(くる)し、
就中(なかにつきて)腸(はらわた)断(た)ゆるはこれ秋(あき)の天(そら)。
大抵四時心惣苦。就中腸断是秋天。
暮立 白居易

もののいろはおのづからかくのこゝろをいたましむるにたへたり、
むべなりうれへのじをもつてあきのこゝろとつくれること
物(もの)の色(いろ)は自(おのづか)ら客(かく)の意(こゝろ)を傷(いた)ましむるに堪(た)へたり、
むべなり愁(うれ)への字(じ)をもつて秋(あき)の心(こゝろ)と作(つく)れること
物色自堪傷客意。宜将愁字作秋心。
客舎秋情 小野篁

もとよりおもひをかんずることはあきのそらにあり、
おほくたうじのせつぶつにひかれたり
もとより思(おも)ひを感(かん)ずることは秋(あき)の天(そら)に在(あ)り、
多(おほ)く当時(たうじ)の節物(せつぶつ)に牽(ひ)かれたり
由来感思在秋天。多被当時節物牽。
秋日感懐 島田忠臣

だいゝちこゝろをいたむることはいづれのところかもつともなる、
ちくふうはをならすつきのあきらかなるまへ、
第一(だいゝち)心(こゝろ)を傷(いた)むることは何(いづ)れの処(ところ)か最(もつと)もなる、
竹風(ちくふう)葉(は)を鳴(な)らす月(つき)の明(あき)らかなる前(まへ)、
第一傷心何処最。竹風鳴葉月明前。
同 島田忠臣

しよくちややうやくふくわのあぢはひをわすれ、
それんはあらたにゆきをうつこゑをつたふ
蜀茶(しよくちや)漸(やうや)く浮花(ふくわ)の味(あぢは)ひを忘(わす)れ、
楚練(それん)は新(あら)たに雪(ゆき)を擣(う)つ声(こゑ)を伝(つた)ふ。
蜀茶漸忘浮花味。楚練新伝擣雪声。
暑往寒来詩 大江音人或源相規

新拾遺
うづらなくいはれののべのあき萩を
おもふ人ともみつるけふかな
丹後国人

秋(あき)はなほゆふまぐれこそたゞならね
をぎのうはかぜはぎのした露
藤原義孝


秋晩(しうばん)

あひおもひてゆふべにしようだいにのぼりてたてば、
きり/\すのおもひせみのこゑみゝにみてるあきなり
相思(あひおも)ひて夕(ゆふべ)に松台(しようだい)に上(のぼ)りて立(た)てば、
蛬(きり/\す)の思(おも)ひ蝉(せみ)の声(こゑ)耳(みゝ)に満(み)てる秋(あき)なり
相思夕上松台立。蛬思蝉声満耳秋。
題李十一東亭 白居易

やまをのぞめばゆうげつなほかげをかくせり、
みぎりにきけばひせんうたゝこゑをます、
山(やま)を望(のぞ)めば幽月(ゆうげつ)なほ影(かげ)を蔵(かく)せり、
砌(みぎり)に聴(き)けば飛泉(ひせん)うたゝ声(こゑ)を倍(ま)す、
望山幽月猶蔵影。聴砌飛泉転倍声。
法輪寺口号 菅原文時

新古今
をぐらやまふもとののべのはなすすき
ほのかにみゆるあきの夕ぐれ
紀貫之


秋夜(しうや)

あきのよはながし、よながくしてねむることなければてんもあけず、
かうかうたるのこりのともしびかべにそむけるかげ、
せう/\たるよるのあめはまどをうつこゑあり、
秋(あき)の夜(よ)は長(なが)し、夜(よ)長(なが)くして睡(ねむ)ることなければ天(てん)も明(あ)けず、
耿々(かうかう)たる残(のこ)りの燈(ともしび)壁(かべ)に背(そむ)ける影(かげ)、
蕭々(せう/\)たる暗(よる)の雨(あめ)は窓(まど)を打(う)つ声(こゑ)あり、
秋夜長。夜長無睡天不明。耿耿残燈背壁影。蕭蕭暗雨打窓声。
上陽白髪人 白居易

ちちたるしようろうはじめてながきよ、
かうかうたるせいかあけなんとほつするてん
遅々(ちち)たる鐘漏(しようろう)初(はじ)めて長(なが)き夜(よ)、
耿々(かうかう)たる星河(せいか)曙(あ)けなんと欲(ほつ)する天(てん)。
遅遅鐘漏初長夜。耿耿星河欲曙天。
長恨歌 白居易

えんしろうのうちさうげつのよ、
あききたりてはたゞいちにんのためにながし、
燕子楼(えんしろう)の中(うち)霜月(さうげつ)の夜(よ)、
秋(あき)来(きた)りてはたゞ一人(いちにん)のために長(なが)し、
燕子楼中霜月夜。秋来只為一人長。
燕子楼 白居易

まんさうつゆふかしひとしづまりてのち、
よもすがらくもつきぬつきのあきらかなるまへ、
蔓草(まんさう)露(つゆ)深(ふか)し人(ひと)定(しづ)まりて後(のち)、
終宵(よもすがら)雲(くも)尽(つ)きぬ月(つき)の明(あき)らかなる前(まへ)、
蔓草露深人定後。終霄雲尽月明前。
秋夜詣祖廟詩 小野篁

けんかしうのうちのこしうのゆめ、
ゆりうえいのほとりばんりのこゝろ、
蒹葭州(けんかしう)の裏(うち)の孤舟(こしう)の夢(ゆめ)、
楡柳営(ゆりうえい)の頭(ほとり)万里(ばんり)の心(こゝろ)、
蒹葭州裏孤舟夢。楡柳営頭万里心。
秋夜雨 紀斎名

拾遺
あしびきのやまどりのをのしだりをの
なが/\しよをひとりかもねん
柿本人丸

古今
むつごともまだつきなくにあけにけり
いづらはあきのながしてふよは
凡河内躬恒


八月十五夜(はちぐわつじふごや) 付月

しんてんのいつせんより、りん/\としてこほりしけり、
かんかのさんじふろくきう、ちようちようとしてふんをかざれり、
秦甸(しんてん)の一千余里(いつせんより)、凛々(りん/\)として氷(こほり)鋪(し)けり、
漢家(かんか)の三十六宮(さんじふろくきう)、澄澄(ちようちよう)として粉(ふん)を餝(かざ)れり、
秦甸之一千余里。凛凜氷鋪。漢家之三十六宮。澄澄粉餝。
長安十五夜人賦 公乗億

にしきをおるはたのうちにすでにさうしのじをわきまへ、
ころもをうつきぬたのうへににはかにえんべつのこゑをそふ、
錦(にしき)を織(お)る機(はた)の中(うち)にすでに相思(さうし)の字(じ)を弁(わきま)へ、
衣(ころも)を擣(う)つ砧(きぬた)の上(うへ)に俄(にはか)に怨別(えんべつ)の声(こゑ)を添(そ)ふ、
織錦機中已弁相思之字。
擣衣砧上俄添怨別之声。
同上 公乗億

さんごやちうのしんげつのいろ、
にせんりのほかのこじんのこころ、
三五夜中(さんごやちう)の新月(しんげつ)の色(いろ)、
二千里(にせんり)の外(ほか)の故人(こじん)の心(こころ)、
三五夜中新月色。二千里外故人心。
八月十五日夜禁中猶直対月憶元九 白居易

すうざんのへうりせんちやうのゆき、
らくすゐのかうていりやうくわのたま
嵩山(すうざん)の表裏(へうり)千重(せんちやう)の雪(ゆき)、
洛水(らくすゐ)の高低(かうてい)両顆(りやうくわ)の珠(たま)
嵩山表裏千重雪。洛水高低両顆珠。
八月十五日夜翫月 同

じふにくわいのうちにこのゆふべのよきにまさるはなし、
せんまんりのほかにみなわがいへのひかりをあらそふ
十二廻(じふにくわい)の中(うち)にこの夕(ゆふべ)の好(よ)きに勝(まさ)るは無(な)し、
千万里(せんまんり)の外(ほか)に皆(みな)わが家(いへ)の光(ひかり)を争(あらそ)ふ
十二廻中無勝於此夕之好。千万里外皆争於吾家之光。
天高秋月明房 紀長谷雄

へきらうきんぱはさんごのはじめ、
あきのかぜけいくわいしてくうきよににたり
碧浪(へきらう)金波(きんぱ)は三五(さんご)の初(はじめ)、
秋(あき)の風(かぜ)計会(けいくわい)して空虚(くうきよ)に似(に)たり。
碧浪金波三五初。秋風計会似空虚。
月影満秋池詩 菅原淳茂

みづからうたがふかえふはしもをこらしてはやきことを、
ひとはいふろくわのあめをすごしてあまれるかと、
自(みづか)ら疑(うたが)ふ荷葉(かえふ)は霜(しも)を凝(こ)らして早(はや)きことを、
人(ひと)は道(い)ふ蘆花(ろくわ)の雨(あめ)を過(す)ごして余(あま)れるかと、
自疑荷葉凝霜早。人道蘆花遇雨余。
同 同

きししろくかへりてしようじやうのつるにまよひ、
ふちとほりてはさうちうのうををかぞふべし、
岸(きし)白(しろ)く還(かへ)りて松上(しようじやう)の鶴(つる)に迷(まよ)ひ、
潭(ふち)融(とほ)りては藻中(さうちう)の魚(うを)を算(かぞ)ふべし、
岸白還迷松上鶴。潭融可弄藻中魚。
同 同

えうちはすなはちこれよのつねのな、
このよのせいめいはたまもしかじ
瑶池(えうち)はすなはちこれ尋常(よのつね)の号(な)、
此夜(このよ)の清明(せいめい)は玉(たま)も如(し)かじ
瑶池便是尋常号。此夜清明玉不如。
同 同

きんかういつてきしうふうのつゆ、
ぎよくかうさんかうれいかんのくも、
金膏(きんかう)一滴(いつてき)秋風(しうふう)の露(つゆ)、
玉匣(ぎよくかう)三更(さんかう)冷漢(れいかん)の雲(くも)、
金膏一滴秋風露。玉匣三更冷漢雲。
満月明如鏡 菅原文時

やうきひかへりてたうていのおもひ、
りふじんさりてかんわうのこゝろ、
楊貴妃(やうきひ)帰(かへ)りて唐帝(たうてい)の思(おもひ)、
李夫人(りふじん)去(さ)りて漢皇(かんわう)の情(こゝろ)、
楊貴妃帰唐帝思。李夫人去漢皇情。
対雨恋月 源順

拾遺
みづのおもにてる月なみをかぞふれば
こよひぞあきのもなかなりける
源順


月(つき)

たれびとかろうぐわいにひさしくせいじうする、
いづれのところのていぜんにかあらたにべつりする、
誰人(たれびと)か隴外(ろうぐわい)に久(ひさ)しく征戍(せいじう)する、
何(いづ)れの処(ところ)の庭前(ていぜん)にか新(あら)たに別離(べつり)する、
誰人隴外久征戍。何処庭前新別離。
秋月 白居易

あきのみづみなぎりきたりてふねのさることすみやかなり、
よるのくもをさまりつくしてつきのゆくことおそし、
秋(あき)の水(みづ)漲(みなぎ)り来(きた)りて船(ふね)の去(さ)ること速(すみや)かなり、
夜(よる)の雲(くも)収(をさ)まり尽(つ)くして月(つき)の行(ゆ)くこと遅(おそ)し、
秋水漲来船去速。夜雲収尽月行遅。
●(「抃」のヘンがサンズイ)水東帰即事 郢展

きんちうにゑはざればいかでかさることをゑん、
まゐざんのつきはまさにさう/\たり、
黔中(きんちう)に酔(ゑ)はざればいかでか去(さ)ることを得(ゑ)ん、
磨囲山(まゐざん)の月(つき)は正(まさ)に蒼々(さう/\)たり、
不酔黔中争去得。磨囲山月正蒼々。
送蕭処士遊黔南 白居易

てんさんにわきまへずいづれのとしのゆきぞ、
がふほにはまさにまよひぬべしきうじつのたまに、
天山(てんさん)に弁(わきま)へず何(いづ)れの年(とし)の雪(ゆき)ぞ、
合浦(がふほ)にはまさに迷(まよ)ひぬべし旧日(きうじつ)の珠(たま)に、
天山不弁何年雪。合浦応迷旧日珠。
禁庭翫月 三統理平

ほうれいのかねのこゑにくわせんとほつするやいなや、
それくわていのつるのいましめをいかん、
豊嶺(ほうれい)の鐘(かね)の声(こゑ)に和(くわ)せんと欲(ほつ)するや否(いな)や、
それ華亭(くわてい)の鶴(つる)の警(いまし)めを奈何(いかん)、
欲和豊嶺鐘声否。其奈華亭鶴警何。
夜月似秋霜 兼明親王

きやうるゐすうかうせいじうのきやく、
たうかいつきよくてうぎよのおきな
郷涙(きやうるゐ)数行(すうかう)征戍(せいじう)の客(きやく)、
棹歌(たうか)一曲(いつきよく)釣漁(てうぎよ)の翁(おきな)
郷涙数行征戍客。棹歌一曲釣漁翁。
山川千里月 慶滋保胤

古今
あまのはらふりさけみればかすがなる
みかさの山にいでし月かも
安倍仲満

古今
しら雲にはねうちかはしとぶかりの
かずさへみゆるあきのよの月
凡河内躬恒

拾遺
世にふればものおもふとしはなけれども
月にいくたびながめしつらん
具平親王


九日(ここのか) 付菊

つばめはしやじつをしりてすをじしさる、
きくはちようやうのためにあめをおかしてひらく、
燕(つばめ)は社日(しやじつ)を知(し)りて巣(す)を辞(じ)し去(さ)る、
菊(きく)は重陽(ちようやう)のために雨(あめ)を冒(おか)して開(ひら)く、
燕知社日辞巣去。菊為重陽冒雨開。
秋日東郊作 皇甫冉

こじをかんぶにとれば、
すなはちせきゆをきうじんのころもにさしはさむ、
きうせきをぎぶんにたづぬれば、
またくわうくわはうそがじゆつをたすく
故事(こじ)を漢武(かんぶ)に採(と)れば、
すなはち赤萸(せきゆ)を宮人(きうじん)の衣(ころも)に挿(さしはさ)む、
旧跡(きうせき)を魏文(ぎぶん)に尋(たづ)ぬれば、
また黄花(くわうくわ)彭祖(はうそ)が術(じゆつ)を助(たす)く
採故事於漢武。則赤萸挿宮人之衣。
尋旧跡於魏文。亦黄花助彭祖之術。
視賜群臣菊花詩序 紀長谷雄

さんちにさきだちてそのはなをふけば、
あかつきのほしのかかんにてんずるがごとし、
じふぶんにひかへてそのいろをうごかせば、
あきのゆきのらくせんにめぐるかとうたがふ、
三遅(さんち)に先(さき)だちてその花(はな)を吹(ふ)けば、
暁(あかつき)の星(ほし)の河漢(かかん)に転(てん)ずるがごとし、
十分(じふぶん)に引(ひか)へてその彩(いろ)を蕩(うごか)せば、
秋(あき)の雪(ゆき)の洛川(らくせん)に廻(めぐ)るかと疑(うたが)ふ、
先三遅兮吹其花。如暁星之転河漢。
引十分兮蕩其彩。疑秋雪之廻洛川。

たにのみづにはなをあらへば、
かりうをくみてじやうじゆをえたるもの、さんじふよか
ちみやくにあぢをくわすれば、
につせいをくらひてねんがんをとゞめしもの、ごひやくかせい、
谷(たに)の水(みづ)に花(はな)を洗(あら)へば、
下流(かりう)を汲(く)みて上寿(じやうじゆ)を得(え)たる者(もの)、三十余家(さんじふよか)
地脈(ちみやく)に味(あぢ)を和(くわ)すれば、
日精(につせい)を喰(くら)ひて年顔(ねんがん)を駐(とゞ)めし者(もの)、五百箇歳(ごひやくかせい)、
谷水洗花。汲下流而得上寿者。三十余家。
地脈和味。喰日精而駐年顔者。五百箇歳。
同 同

拾遺
わがやどのきくのしら露けふごとに
いく代つもりてふちとなるらん
清原元輔


菊(きく)

さうほうのらうびんはさんぶんしろし、
ろきくのしんくわはいつぱんなり
霜蓬(さうほう)の老鬢(らうびん)は三分(さんぶん)白(しろ)し、
露菊(ろきく)の新花(しんくわ)は一半(いつぱん)黄(き)なり
霜蓬老鬢三分白。露菊新花一半黄。
九月八日酬皇甫十見贈 白居易

これはなのうちにひとへにきくをあいするにはあらず、
このはなひらきてのちさらにはななければなり、
これ花(はな)の中(うち)に偏(ひとへ)に菊(きく)を愛(あい)するにはあらず、
この花(はな)開(ひら)きて後(のち)更(さら)に花(はな)無(な)ければなり、
不是花中偏愛菊。此花開後更無花。
十日菊花 元●(「禾」+「眞」)

らんいんくれなんとほつす、
しようはくののちにしぼまんことをちぎる、
しうけいはやくうつりて、
しらんのまづやぶるることをあざける、
嵐陰(らんいん)暮(く)れなんと欲(ほつ)す、
松柏(しようはく)の後(のち)に凋(しぼ)まんことを契(ちぎ)る、
秋景(しうけい)早(はや)く移(うつ)りて、
芝蘭(しらん)の先(ま)づ敗(やぶ)るることを嘲(あざけ)る、
嵐陰欲暮。契松柏之後凋。秋景早移。嘲芝蘭之先敗。
翫禁庭残菊 紀長谷雄

れきけんのそんりよはみなをくをうるほす、
たうかのじしはだうにほとりせず、
●(「麗」+オオザト)県(れきけん)の村閭(そんりよ)は皆(みな)屋(をく)を潤(うるほ)す、
陶家(たうか)の児子(じし)は堂(だう)に垂(ほとり)せず、
●(「麗」+オオザト)県村閭皆潤屋。陶家児子不垂堂。

らんゑんにはみづからぞくこつたることをはぢ、
きんりにはちやうせいあることをしんぜず、
蘭苑(らんゑん)には自(みづか)ら俗骨(ぞくこつ)たることを慙(は)ぢ、
槿籬(きんり)には長生(ちやうせい)あることを信(しん)ぜず、
蘭苑自慙為俗骨。槿籬不信有長生。
菊見草中仙 慶滋保胤

らんけいゑんのあらしむらさきをくだきてのち、
ほうらいどうのつきしものてらすうち、
蘭●(クサカンムリ+「惠」)苑(らんけいゑん)の嵐(あらし)紫(むらさき)を摧(くだ)きて後(のち)、
蓬莱洞(ほうらいどう)の月(つき)霜(しも)の照(てら)す中(うち)、
蘭●苑嵐摧紫後。蓬莱洞月照霜中。
花寒菊点裳 菅原文時

古今
ひさかたの雲のうへにて見るきくは
あまつほしとぞあやまたれける
藤原敏行

古今
こころあてにをらばやをらんはつしもの
おきまどはせるしらぎくの花
凡河内躬恒


九月尽(くぐわつじん)

たとひかうかんをもつてかためとなすとも、
せうひつをうんくにとゞめがたし、
たとひまうふんをしておはしむとも、
なんぞさうらいをふうきやうにさへぎらんや、
たとひ●(「山」+「肴」)函(かうかん)をもつて固(かた)めとなすとも、
蕭瑟(せうひつ)を雲衢(うんく)に留(とゞ)め難(がた)し、
たとひ孟賁(まうふん)をして追(お)はしむとも、
何(なん)ぞ爽籟(さうらい)を風境(ふうきやう)に遮(さへぎ)らんや、
縱以●(「山」+「肴」)函為固。難留蕭瑟於雲衢。
縱命孟賁而追。何遮爽籟於風境。
山寺惜秋序 源順

とうもくはたとひぜんきやくのこはんにしたがふとも、
あきをもつてせよせんことはなはだかたかるべし
頭目(とうもく)はたとひ禅客(ぜんきやく)の乞(こ)はんに随(したが)ふとも、
秋(あき)をもつて施与(せよ)せんことはなはだ難(かた)かるべし
頭目縱随禅客乞。以秋施与太応難。
同 同

ぶんぽうにくつわづらをあんずはくくのかげ、
しかいにふねをふなよそほひすこうえふのこゑ、
文峯(ぶんぽう)に轡(くつわづら)を案(あん)ず白駒(はくく)の景(かげ)、
詞海(しかい)に舟(ふね)を艤(ふなよそほひ)す紅葉(こうえふ)の声(こゑ)、
文峯案轡白駒景。詞海艤舟紅葉声。
秋未出詩境 大江以言

風雅
山(やま)さびしあきもくれぬとつぐるかも
まきの葉ごとにおけるはつしも
大江千里

くれてゆくあきのかたみにおくものは
わがもとゆひの霜にぞありける
平兼盛


女郎花(をみなべし)

はなのいろはむせるあはのごとし、ぞくよびてぢよらうとなす、
なをききてたはむれにかいらうをちぎらむとほつすれば 
おそらくはすゐおうのかうべしもににたるをにくまむことを
花(はな)の色(いろ)は蒸(む)せる粟(あは)のごとし、俗(ぞく)呼(よ)びて女郎(ぢよらう)となす、
名(な)を聞(き)きて戯(たはむ)れに偕老(かいらう)を契(ちぎ)らむと欲(ほつ)すれば 
恐(おそ)らくは衰翁(すゐおう)の首(かうべ)霜(しも)に似(に)たるを悪(にく)まむことを
花色如蒸粟。俗呼為女郎。
聞名戯欲契偕老。恐悪衰翁首似霜。
詠女郎花 源順

古今
をみなへしおほかる野辺にやどりせば
あやなくあだの名をやたたまし
小野良材
新古今
をみなへしみるにこころはなぐさまで
いとどむかしのあきぞ恋しき
藤原実頼


萩(はぎ)

あかつきのつゆにしかないてはなはじめてひらく、
もゝたびよぢをるいちじのこゝろ
暁(あかつき)の露(つゆ)に鹿(しか)鳴(な)いて花(はな)始(はじ)めて発(ひら)く、
百(もゝ)たび攀(よ)ぢ折(を)る一時(いちじ)の情(こゝろ)
暁露鹿鳴花始発。百般攀折一時情。
新撰万葉絶句詩 菅原道真

拾遺
あきののにはぎかるをのこなはをなみ
ねるやねりそのくだけてぞおもふ
柿本人麿
拾遺
うつろはんことだにをしきあきはぎを
をれるばかりにおける露かな
伊勢
家集
あきのののはぎのにしきをふるさとに
しかの音ながらうつしてしがな
清原元輔


蘭(ふぢばかま)

ぜんとうにはさらにせうでうたるものあり、
らうきくすゐらんさんりやうのくさむら
前頭(ぜんとう)には更(さら)に蕭条(せうでう)たる物(もの)あり、
老菊(らうきく)衰蘭(すゐらん)三両(さんりやう)の叢(くさむら)
前頭更有蕭条物。老菊衰蘭三両叢。
抄秋独夜 白居易

ふさうあにかげなからんや、ふうんおほひてたちまちくらし
そうらんあにかうばしからざらんや、しうふうふきてまづやぶる、
扶桑(ふさう)あに影(かげ)無(な)からんや、浮雲(ふうん)掩(おほ)ひて忽(たちま)ち昏(くら)し
叢蘭(そうらん)あに芳(かうば)しからざらんや、秋風(しうふう)吹(ふ)きて先(ま)づ敗(やぶ)る、
扶桑豈無影乎。浮雲掩而忽昏。
叢蘭豈不芳乎。秋風吹而先敗。
菟裘賦 兼明親王

こりてはかんぢよのかほにべにをほどこすがごとし、
したゝりてはかうじんのまなこにたまをなくににたり、
凝(こ)りては漢女(かんぢよ)の顔(かほ)に粉(べに)を施(ほどこ)すがごとし、
滴(したゝ)りては鮫人(かうじん)の眼(まなこ)に珠(たま)を泣(な)くに似(に)たり、
凝如漢女顔施粉。滴似鮫人眼泣珠。
紅蘭受露 都良香

きよくおどろきてはそきやくのあきのことのかうばし、
ゆめたえてはえんきがあかつきのまくらにくんず
曲(きよく)驚(おどろ)きては楚客(そきやく)の秋(あき)の絃(こと)の馥(かうば)し、
夢(ゆめ)断(た)えては燕姫(えんき)が暁(あかつき)の枕(まくら)に薫(くん)ず
曲驚楚客秋絃馥。夢断燕姫暁枕薫。
蘭気入軽風 橘直幹

古今
ぬししらぬ香はにほひつつあきののに
たがぬききかけしふぢばかまぞも
素性法師


槿(あさがほ)

しようじゆせんねんつひにこれくつ、
きんくわいちにちおのづからえいをなせり、
松樹(しようじゆ)千年(せんねん)終(つひ)にこれ朽(く)つ、
槿花(きんくわ)一日(いちにち)おのづから栄(えい)をなせり、
松樹千年終是朽。槿花一日自為栄。
放言詩 白居易

きたりてとゞまらず、かいろうにあしたのつゆをはらふあり、
さりてかへらず、きんりにくれにいたるはななし、
来(きた)りて留(とゞ)まらず、薤瓏(かいろう)に晨(あした)の露(つゆ)を払(はら)ふあり、
去(さ)りて返(かへ)らず、槿籬(きんり)に暮(くれ)に投(いた)る花(はな)なし
来而不留。薤瓏有払晨之露。
去而不返。槿籬無投暮之花。
無常句 兼明親王

新勅撰
おぼつかなたれとかしらむあきぎりの
たえまにみゆるあさがほのはな
藤原道信

拾遺
あさがほを何かなしとおもふらん
人をもはなはさこそみるらめ
藤原道信


前栽(せんざい)

おほくはなをうゑてめをよろこばしむるともがらをみれば、
ときにさきだちあらかじめやしなひてひらくをまちてあそぶ
多(おほ)く花(はな)を栽(う)ゑて目(め)を悦(よろこ)ばしむる儔(ともがら)を見(み)れば、
時(とき)に先(さき)だち予(あらかじ)め養(やしな)ひて開(ひら)くを待(ま)ちて遊(あそ)ぶ
多見栽花悦目儔。先時予養待開遊。
栽秋花 菅原文時

われかんじやくにしてかどうのうみたるより、
はるのきははるうゑあきのくさはあきなり、
吾(われ)閑寂(かんじやく)にして家僮(かどう)の倦(う)みたるより、
春(はる)の樹(き)は春(はる)栽(う)ゑ秋(あき)の草(くさ)は秋(あき)なり、
自吾閑寂家僮倦。春樹春栽秋草秋。
同 同

しづかになんぢがはなのくれなゐならんひをみんとおもへば、
まさにこれわがびんのしろからんときにあたれり、
閑(しづ)かに汝(なんぢ)が花(はな)の紅(くれなゐ)ならん日(ひ)を看(み)んと思(おも)へば、
正(まさ)にこれ吾(わ)が鬢(びん)の白(しろ)からん時(とき)に当(あた)れり、
閑思看汝花紅日。正是当吾鬢白時。
初植花樹詩 慶滋保胤

かつてううるところにげんりやうをおもふにあらず、
このはなのときにせそんにたてまつらんがためなり
かつて種(う)うる処(ところ)に元亮(げんりやう)を思(おも)ふにあらず、
この花(はな)の時(とき)に世尊(せそん)に供(たてまつ)らんがためなり
曾非種処思元亮。為是花時供世尊。
菅原道真

古今
ちりをだにすゑじとぞおもふうゑしより
いもとわがぬるとこなつのはな
凡河内躬恒

はなによりものをぞおもふ白露の
おくにもいかがあ(な)らんとすらん
作者不詳


紅葉(こうえふ) 附落葉

たへずこうえふせいたいのち、またこれりやうふうぼうのてん、
堪(た)へず紅葉(こうえふ)青苔(せいたい)の地(ち)、又(また)これ涼風(りやうふう)暮雨(ぼう)の天(てん)、
不堪紅葉青苔地。又是涼風暮雨天。
秋雨中贈元九 白居易

くわうかうけつのはやしはさむくしてはあり、
へきるりのみづはきよくしてかぜなし、
黄纐纈(くわうかうけつ)の林(はやし)は寒(さむ)くして葉(は)あり、
碧瑠璃(へきるり)の水(みづ)は浄(きよ)くして風(かぜ)なし、
黄纐纈林寒有葉。碧瑠璃水浄無風。
泛太湖書事寄微之 同

どうちゆうはせいせんたりるりのみづ、ていじやうせうでうたりきんしうのはやし、
洞中(どうちゆう)は清浅(せいせん)たり瑠璃(るり)の水(みづ)、庭上(ていじやう)蕭条(せうでう)たり錦繍(きんしう)の林(はやし)、
洞中清浅瑠璃水。庭上蕭条錦繍林。
翫頭池紅葉 慶滋保胤

ぐわいぶつのひとりさめたるはしようかんのいろ、
よはのがふりきはきんこうのこゑ
外物(ぐわいぶつ)の独(ひと)り醒(さ)めたるは松澗(しようかん)の色(いろ)、
余波(よは)の合力(がふりき)は錦江(きんこう)の声(こゑ)
外物独醒松澗色。余波合力錦江声。
山水唯紅葉 大江以言

家集
しらつゆもしぐれもいたくもる山は
した葉のこらずもみぢしにけり
紀貫之

むら/\のにしきとぞみるさほ山の
ははそのもみぢきりたたぬまは
藤原清正


落葉(らくえふ)

さんしうにしてきうろうまさにながく、
くうかいにあめしたゝる、
ばんりにしてきやうゑんいづくにかある、
らくえふまどにふかし、
三秋(さんしう)にして宮漏(きうろう)正(まさ)に長(なが)く、
空階(くうかい)に雨(あめ)滴(したゝ)る、
万里(ばんり)にして郷園(きやうゑん)いづくにか在(あ)る、
落葉(らくえふ)窓(まど)に深(ふか)し、
三秋而宮漏正長。空階雨滴。
万里而郷園何在。落葉窓深。
愁賦 張読

あきのにはははらはずとうぢやうをたづさへて、
しづかにごとうのくわうえふをふみてゆく、
秋(あき)の庭(には)は掃(はら)はず藤杖(とうぢやう)を携(たづさ)へて、
閑(しづ)かに梧桐(ごとう)の黄葉(くわうえふ)を踏(ふ)みて行(ゆ)く、
秋庭不掃携藤杖。閑踏梧桐黄葉行。
晩秋閑居 白居易

じやうりうきゆうくわいみだりにえうらくすれども、
あきのかなしみはきじんのこゝろにいたらず
城柳(じやうりう)宮槐(きゆうくわい)漫(みだ)りに揺落(えうらく)すれども、
秋(あき)の悲(かな)しみは貴人(きじん)の心(こゝろ)に到(いた)らず
城柳宮槐漫揺落。愁悲不到貴人心。
早入皇城送王留守僕射 白居易

ごしうのかげのうちに、いつせいのあめむなしくそゝぐ、
しやこのせなかのうへに、すうへんのこうわづかにのこれり、
梧楸(ごしう)の影(かげ)の中(うち)に、一声(いつせい)の雨(あめ)空(むな)しく灑(そゝ)ぐ、
鷓鴣(しやこ)の背(せなか)の上(うへ)に、数片(すうへん)の紅(こう)わづかに残(のこ)れり、
梧楸影中。一声之雨空灑。
鷓鴣背上。数片之紅纔残。
葉落風枝疎詩序 源順

せうそわうへんして、つゑしゆばいしんがころもをうがつ、
いんいついういう、くつかつちせんのくすりをふむ、
樵蘇(せうそ)往反(わうへん)して、杖(つゑ)朱買臣(しゆばいしん)が衣(ころも)を穿(うが)つ、
隠逸(いんいつ)優遊(いういう)、履(くつ)葛稚仙(かつちせん)の薬(くすり)を踏(ふ)む、
樵蘇往反。杖穿朱買臣之衣。
隠逸優遊。履踏葛稚仙之薬。
落葉満山中路序 高階相如

あらしにしたがふらくえふせうしつをふくめり、
いしにそそぐひせんはがきんをろうす、
嵐(あらし)に随(したが)ふ落葉(らくえふ)蕭瑟(せうしつ)を含(ふく)めり、
石(いし)に濺(そそ)ぐ飛泉(ひせん)は雅琴(がきん)を弄(ろう)す、
随嵐落葉含蕭瑟。濺石飛泉弄雅琴。
秋色変山水 源順

よをおひてひかりおほしごゑんのつき、
あさなごとにこゑすくなしかんりんのかぜ、
夜(よ)を逐(お)ひて光(ひかり)多(おほ)し呉苑(ごゑん)の月(つき)、
朝(あさな)ごとに声(こゑ)少(すくな)し漢林(かんりん)の風(かぜ)、
逐夜光多呉苑月。毎朝声少漢林風。
松葉随日落 具平親王

新古今
あすか川もみぢ葉ながるかつらぎの
やまのあきかぜふきぞしぬらし
柿本人丸

後撰
神なづきしぐれとともにかみなびの
もりのこの葉はふりにこそふれ
紀貫之

古今
みる人もなくてちりぬるおくやまの
もみぢはよるのにしきなりけり



雁(かり) 付帰雁

ばんりひとみなみにさる、さんしゆんがんきたにとぶ、
しらずいづれのさいげつか、なんぢとおなじくかへることをえん、
万里(ばんり)人(ひと)南(みなみ)に去(さ)る、三春(さんしゆん)雁(がん)北(きた)に飛(と)ぶ、
知(し)らず何(いづ)れの歳月(さいげつ)か、汝(なんぢ)と同(おな)じく帰(かへ)ることを得(え)ん、
万里人南去。三春鴈北飛。
不知何歳月。得与汝同帰。
南中詠雁 白居易

じんやうのこうのいろはしほそへてみち、
はうれいのあきのこゑはがんひききたる、
潯陽(じんやう)の江(こう)の色(いろ)は潮(しほ)添(そ)へて満(み)ち、
彭蠡(はうれい)の秋(あき)の声(こゑ)は雁(がん)引(ひ)き来(きた)る、
潯陽江色潮添満。彭蠡秋声鴈引来。
登江州清輝楼 劉禹錫

しごだのやまはあめによそほへるいろ、
りやうさんかうのがんはくもにてんずるこゑ、
四五朶(しごだ)の山(やま)は雨(あめ)に粧(よそほ)へる色(いろ)、
両三行(りやうさんかう)の雁(がん)は雲(くも)に点(てん)ずる声(こゑ)
四五朶山粧雨色。両三行鴈点雲声。
雋陽道中 杜筍鶴

きよきうさけがたし、いまだうたがひをじやうげんのつきのかかれるになげうたず、
ほんせんまよひやすし、なほあやまりをかりうのみづきふなるになす、
虚弓(きよきう)避(さ)け難(がた)し、いまだ疑(うたが)ひを上弦(じやうげん)の月(つき)の懸(かか)れるに抛(なげう)たず、
奔箭(ほんせん)迷(まよ)ひ易(やす)し、なほ誤(あやま)りを下流(かりう)の水(みづ)急(きふ)なるに成(な)す、
虚弓難避。未抛疑於上弦之月懸。
奔箭易迷。猶成誤於下流之水急。
寒雁識秋天 大江朝綱

かりはへきらくにとびてせいしにしよし、
はやぶさはさうりんをうちてにしきのはたをやぶる、
雁(かり)は碧落(へきらく)に飛(と)びて青紙(せいし)に書(しよ)し、
隼(はやぶさ)は霜林(さうりん)を撃(う)ちて錦(にしき)の機(はた)を破(やぶ)る
鴈飛碧落書青紙。隼撃霜林破錦機。
秋暮傍山行 島田忠臣

へきぎよくのよそほへるしやうのことはななめにたてたることぢ、
せいたいのいろのかみにはすうかうのしよ
碧玉(へきぎよく)の装(よそほ)へる筝(しやうのこと)は斜(ななめ)に立(た)てたる柱(ことぢ)、
青苔(せいたい)の色(いろ)の紙(かみ)には数行(すうかう)の書(しよ)
碧玉装筝斜立柱。青苔色紙数行書。
天浄識賓鴻 菅原文時

うんいははんしゆくがきちうのおくりもの、
ふうろはせうしやうのなみのうへのふね
雲衣(うんい)は范叔(はんしゆく)が羈中(きちう)の贈(おくりもの)、
風櫓(ふうろ)は瀟湘(せうしやう)の浪(なみ)の上(うへ)の船(ふね)
雲衣范叔羈中贈。風櫓瀟湘浪上舟。
賓雁似故人 具平親王

古今
あきかぜにはつかりがねぞきこゆなる
たがたまづさをかけてきつらん
紀友則


帰雁

さんようのきがんはなゝめにおびをひく、
すゐめんのしんこうはいまだきんをのべず、
山腰(さんよう)の帰雁(きがん)は斜(なゝめ)に帯(おび)を牽(ひ)く、
水面(すゐめん)の新虹(しんこう)はいまだ巾(きん)を展(の)べず、
山腰帰鴈斜牽帯。水面新虹未展巾。
春日閑居 都在中

古今
春がすみたつを見すててゆくかりは
はななきさとにすみやならへる
伊勢


虫(むし)

せつせつたりあんさうのもと、
えう/\たるしんさうのうち、
あきのそらのしふのこゝろ、
あめのよのいうじんのみ、
切々(せつせつ)たり暗窓(あんさう)の下(もと)、
●(クチヘン+「要」)々(えう/\)たる深草(しんさう)の裏(うち)、
秋(あき)の天(そら)の思婦(しふ)の心(こゝろ)、
雨(あめ)の夜(よ)の幽人(いうじん)耳(のみ)
切切暗窓下。●(クチヘン+「要」)々深草裏。
秋天思婦心。雨夜幽人耳。
秋虫 白居易

さうさうかれなんとほつしてむしのおもひねんごろなり、
ふうしいまださだまらずとりのすむことかたし、
霜草(さうさう)枯(か)れなんと欲(ほつ)して虫(むし)の思(おも)ひ苦(ねんごろ)なり、
風枝(ふうし)いまだ定(さだ)まらず鳥(とり)の栖(す)むこと難(かた)し、
霜草欲枯虫思苦。風枝未定鳥栖難。
答夢得秋夜独座見贈 同

ゆかにはたんきやくをきらふきり/゛\すのこゑのかまびすし、
かべにはこうしんをいとふねずみのあなうがてり、
床(ゆか)には短脚(たんきやく)を嫌(きら)ふ蛬(きり/゛\す)の声(こゑ)の閙(かまびす)し、
壁(かべ)には空心(こうしん)を厭(いと)ふ鼠(ねずみ)の孔(あな)穿(うが)てり、
床嫌短脚蛬声閙。壁厭空心鼠孔穿。
秋夜 小野篁

さんくわんのあめのときなくことおのづからくらく、
やていのかぜのところおることなほさむし、
山館(さんくわん)の雨(あめ)の時(とき)鳴(な)くこと自(おのづか)ら暗(くら)く、
野亭(やてい)の風(かぜ)の処(ところ)織(お)ることなほ寒(さむ)し、
山館雨時鳴自暗。野亭風処織猶寒。
蛬声人微館 橘直幹

そうへんにうらみとほくしてかぜにききてくらく、
かべのもとにぎんかすかにしてつきいろさむし、
叢辺(そうへん)に怨(うら)み遠(とほ)くして風(かぜ)に聞(き)きて暗(くら)く、
壁(かべ)の底(もと)に吟(ぎん)幽(かす)かにして月(つき)色(いろ)寒(さむ)し、
叢辺怨遠風聞暗。壁底吟幽月色寒。
同前題 源順


いまこんとたれたのめけんあきのよを
あかしかねつつまつむしのなく(こゑイ)
或 大中臣能宣 読人不知

古今
きり/゛\すいたくななきそあきの夜の
ながきうらみはわれぞまされる
素性法師或藤原忠房


鹿(しか)

さうたいみちなめらかにしてそうてらにかへり、
こうえふこゑかわきてしかはやしにあり、
蒼苔(さうたい)路(みち)滑(なめ)らかにして僧(そう)寺(てら)に帰(かへ)り、
紅葉(こうえふ)声(こゑ)乾(かわ)きて鹿(しか)林(はやし)に在(あ)り、
蒼苔路滑僧帰寺。紅葉声乾鹿在林
宿雲林寺 温庭●(タケカンムリ+「均」)

あんにへいをくらふみのいろをしてへんぜしむ、
さらにくさにくはふるとくふうにしたがひきたる、
暗(あん)に苹(へい)を食(くら)ふ身(み)の色(いろ)をして変(へん)ぜしむ、
更(さら)に草(くさ)に加(くは)ふる徳風(とくふう)に随(したが)ひ来(きた)る、
暗遣食苹身色変。更随加草徳風来。
観鎮西府献白鹿詩 紀長谷雄

拾遺
もみぢせぬときはの山にすむしかは
おのれなきてや秋をしるらん
大中臣能宣

古今
ゆふづくよをぐらのやまになくしかの
こゑのうちにやあきはくるらん
紀貫之




あはれむべしきふげつしよさんのよ、
つゆはしんじゆににたりつきはゆみににたり、
憐(あは)れむべし九月(きふげつ)初三(しよさん)の夜(よ)、
露(つゆ)は真珠(しんじゆ)に似(に)たり月(つき)は弓(ゆみ)に似(に)たり、
可憐九月初三夜。露似真珠月似弓。
暮江吟 白居易

つゆはらんそうにしたたりてかんぎよくしろし、
かぜしようえふをふくみてがきんすめり、
露(つゆ)は蘭叢(らんそう)に滴(したた)りて寒玉(かんぎよく)白(しろ)し、
風(かぜ)松葉(しようえふ)を銜(ふく)みて雅琴(がきん)清(す)めり、
露滴蘭叢寒玉白。風銜松葉雅琴清。
秋風颯然新 源英明

新古今
さをしかのあさたつをのの秋はぎに
たまとみるまでおけるしらつゆ
大伴家持


霧(きり)

ちくむはあかつきにみねにふくむつきをこめたり、
ひんぷうはあたたかくしてこうをすぐるはるをおくる、
竹霧(ちくむ)は暁(あかつき)に嶺(みね)に銜(ふく)む月(つき)を籠(こ)めたり、
蘋風(ひんぷう)は暖(あたた)かくして江(こう)を過(す)ぐる春(はる)を送(おく)る、
竹霧暁籠銜嶺月。蘋風暖送過江春。
●(マダレ+「臾」)楼暁望 白居易

せきむのひとのまくらをうづめんことをうれふといへども、
なほてううんのうまのくらよりいづることをあいす、
夕霧(せきむ)の人(ひと)の枕(まくら)を埋(うづ)めんことを愁(うれ)ふといへども、
なほ朝雲(てううん)の馬(うま)の鞍(くら)より出(い)づることを愛(あい)す、
雖愁夕霧埋人枕。猶愛朝雲出馬鞍。
山居秋晩 大江音人

拾遺
秋ぎりのふもとをこめてたちぬれば
空にぞ秋の山は見えける
清原深養父

古今
たがためのにしきなればかあきぎりの
さほのやまべをたちかくすらん
友則


擣衣(たうい)

はちげつきうげつまさにながきよ、
せんせいばんせいやむときなし、
八月九月(はちげつきうげつ)正(まさ)に長(なが)き夜(よ)、
千声万声(せんせいばんせい)了(や)む時(とき)なし、
八月九月正長夜。千声万声無了時。
聞夜砧 白居易

たがいへのしふかあききぬをうつ、
つきさやかにかぜすさまじくしてちんしよかなしめり、
誰(た)が家(いへ)の思婦(しふ)か秋(あき)帛(きぬ)を擣(う)つ、
月(つき)苦(さや)かに風(かぜ)凄(すさ)まじくして砧杵(ちんしよ)悲(かな)しめり、
誰家思婦秋擣帛。月苦風凄砧杵悲。
同 同

ほくとのほしのまへにりよがんよこたはり、
なんろうのつきのもとにはかんいをうつ、
北斗(ほくと)の星(ほし)の前(まへ)に旅雁(りよがん)横(よこ)たはり、
南楼(なんろう)の月(つき)の下(もと)には寒衣(かんい)を擣(う)つ、
北斗星前横旅雁。南楼月下擣寒衣。
同 劉元叔

うつところにはあかつきけいぐゑつのすさまじきことうれひ、
たちもちてはあきさいうんのかんによす、
擣(う)つ処(ところ)には暁(あかつき)閨月(けいぐゑつ)の冷(すさま)じきこと愁(うれ)ひ、
裁(た)ちもちては秋(あき)塞雲(さいうん)の寒(かん)に寄(よ)す、
擣処暁愁閨月冷。裁将秋寄塞雲寒。
風疎砧杵鳴 菅原篤茂

たちいだしてはかへりちやうたんせいにまよふ、
へんしうはさだめてむかしのえうゐならじ、
裁(た)ち出(いだ)しては還(かへ)り長短(ちやうたん)製(せい)に迷(まよ)ふ、
辺愁(へんしう)は定(さだ)めて昔(むかし)の腰囲(えうゐ)ならじ、
裁出還迷長短製。辺愁定不昔腰囲。
擣衣詩 橘直幹

かぜのもとにかとんでさうしうあがり、
つきのまへにしようらみてりやうびたれたり、
風(かぜ)の底(もと)に香(か)飛(と)んで双袖(さうしう)挙(あが)り、
月(つき)の前(まへ)に杵(しよ)怨(うら)みて両眉(りやうび)低(た)れたり、
風底香飛双袖挙。月前杵怨両眉低。
擣衣詩 具平親王

ねん/\のわかれのおもひはあきのかりにおどろく、
よな/\のかすかなるこゑあかつきのにはとりにいたる、
年々(ねん/\)の別(わか)れの思(おも)ひは秋(あき)の雁(かり)に驚(おどろ)く、
夜々(よな/\)の幽(かす)かなる声(こゑ)は暁(あかつき)の鶏(にはとり)に到(いた)る、
年年別思驚秋雁。夜夜幽声到暁鶏。
同 同

新勅撰
からごろもうつこゑきけば月きよみ
まだねぬ人をさらにしるかな
紀貫之



冬(ふゆ)


初冬(はつふゆ)

じふげつこうなんてんきこうなり、
あはれむべしとうけいはるににてうるはし、
十月(じふげつ)江南(こうなん)天気(てんき)好(こう)なり、
憐(あは)れむべし冬景(とうけい)春(はる)に似(に)て華(うるは)し、
十月江南天気好。可憐冬景似春華。
早冬 白居易

しいじれいらくしてさんぶんげんじ、
ばんぶつさだとしてくわはんしぼむ、
四時(しいじ)零落(れいらく)して三分(さんぶん)減(げん)じぬ、
万物(ばんぶつ)蹉●(アシヘン+「它」)(さだ)として過半(くわはん)凋(しぼ)めり、
四時牢落三分減。万物蹉●(アシヘン+「它」)過半凋。
初冬即事 醍醐帝御製

ゆかのうへにはまきをさむせいちくのたかむしろ、
はこのうちにはひらきいだすはくめんのきぬ、
床(ゆか)の上(うへ)には巻(ま)き収(をさ)む青竹(せいちく)の簟(たかむしろ)、
匣(はこ)の中(うち)には開(ひら)き出(いだ)す白綿(はくめん)の衣(きぬ)、
床上巻収青竹簟。匣中開出白綿衣。
驚冬 菅原文時

後撰
神なづきふりみふらずみさだめなき
しぐれぞ冬のはじめなりける
紀貫之


冬夜(ふゆのよ)

いつさんのかんとうはうんぐわいのよる、
すうはいのうんちうはせつちゆうのはる、
一盞(いつさん)の寒燈(かんとう)は雲外(うんぐわい)の夜(よる)、
数盃(すうはい)の温酎(うんちう)は雪中(せつちゆう)の春(はる)、
一盞寒燈雲外夜。数盃温酎雪中春。
和李中丞与李給事山居雪夜同宿小酌 白居易

としのひかりはおのづからとうのまへにむかつてつきぬ、
きやくのおもひにただまくらのほとりよりなる、
年(とし)の光(ひかり)は自(おのづか)ら燈(とう)の前(まへ)に向(むか)つて尽(つ)きぬ、
客(きやく)の思(おも)ひにただ枕(まくら)の上(ほとり)より生(な)る、
年光自向燈前尽。客思唯従枕上生。
冬夜独起 尊敬

拾遺
おもひかねいもがりゆけばふゆのよの
川かぜさむみ千どりなくなり
紀貫之


歳暮(せいぼ)

かんりうつきをおびてはすめることかがみのごとく、
ゆふべのかぜはしもにくわしてときことかたなににたり、
寒流(かんりう)月(つき)を帯(お)びては澄(す)めること鏡(かがみ)のごとく、
夕(ゆふべ)の風(かぜ)は霜(しも)に和(くわ)して利(と)きこと刀(かたな)に似(に)たり、
寒流帯月澄如鏡。夕風和霜利似刀。
江楼宴別 白居易

ふううんはひとのまへにむかひてくれやすく、
さいげつはおいのそこよりかへしがたし、
風雲(ふううん)は人(ひと)の前(まへ)に向(むか)ひて暮(く)れやすく、
歳月(さいげつ)は老(お)いの底(そこ)より還(かへ)しがたし、
風雲易向人前暮。歳月難従老底還。
花下春 良岑春道

古今
ゆくとしのをしくもあるかなますかがみ
みるかげさへにくれぬとおもへば
紀貫之


炉火(ろくわ)

くわうばいりよくしよふゆをむかへてじゆくし、
ほうちやうこうろよをおひてひらく、
黄●(「酉」+「倍」の右側)(くわうばい)緑●(「酉」+「婿」の右側)(りよくしよ)冬(ふゆ)を迎(むか)へて熟(じゆく)し、
絳帳(ほうちやう)紅炉(こうろ)夜(よ)を逐(お)ひて開(ひら)く、
黄●(「酉」+「倍」の右側)緑緑●(「酉」+「婿」の右側)迎冬熟。絳帳紅炉逐夜開。戯招諸客 白居易


みるにやばなくきくにうぐひすなし、
らふのうちのふうくわうはひにむかへらる、
看(み)るに野馬(やば)なく聴(き)くに鴬(うぐひす)なし、
臘(らふ)の裏(うち)の風光(ふうくわう)は火(ひ)に迎(むか)へらる、
看無野馬聴無鴬。臘裏風光被火迎。
火見臘夫春 菅原文時

このひはまさにはなのきをきつてとれるなるべし、
むかひきたればよもすがらはるのこころあり、
この火(ひ)はまさに花(はな)の樹(き)を鑚(き)つて取(と)れるなるべし、
対(むか)ひ来(きた)れば夜(よ)もすがら春(はる)の情(こころ)あり、
此火応鑚花樹取。対来終夜有春情。
同 同

たじにはたとひあうくわのもとにゑふとも、
このころはなんぞじうたんのほとりをはなれん、
他時(たじ)にはたとひ鴬花(あうくわ)の下(もと)に酔(ゑ)ふとも、
近日(このころ)はなんぞ獣炭(じうたん)の辺(ほとり)を離(はな)れん、
多時縱酔鴬花下。近日那離獣炭辺。
同 菅原輔昭


うづみびのしたにこがれしときよりも
かくにくまるるをりぞかなしき
在原業平


霜(しも)


さんしうのきしのゆきにはなはじめてしろく、
いちやのはやしのしもにはこと/゛\くくれなゐなり、
三秋(さんしう)の岸(きし)の雪(ゆき)に花(はな)初(はじ)めて白(しろ)く、
一夜(いちや)の林(はやし)の霜(しも)に葉(は)こと/゛\く紅(くれなゐ)なり、
三秋岸雪花初白。一夜林霜葉尽紅。
般若寺別成公 温庭●(タケカンムリ+「均」)

ばんぶつはあきのしもによくいろをやぶり、
しいじはふゆのひにもつともてうねんなり、
万物(ばんぶつ)は秋(あき)の霜(しも)によく色(いろ)を壊(やぶ)り、
四時(しいじ)は冬(ふゆ)の日(ひ)に最(もつと)も凋年(てうねん)なり、
万物秋霜能壊色。四時冬日最凋年。
歳晩旅望 白居易

ねやさむくしてゆめおどろく、
あるひはこふのきぬたのほとりにそふ、
やまふかくしてかんうごく、
まづしかうがびんのほとりををかす、
閨(ねや)寒(さむ)くして夢(ゆめ)驚(おどろ)く、
或(あるひ)は孤婦(こふ)の砧(きぬた)の上(ほとり)に添(そ)ふ、
山(やま)深(ふか)くして感(かん)動(うご)く、
先(ま)づ四皓(しかう)が鬢(びん)の辺(ほとり)を侵(をか)す、
閨寒夢驚。或添孤婦之砧上。
山深感動。先侵四皓之鬢辺。
青女司霜賦 紀長谷雄


くんしよふけてこゑいましめず、
らうおうとしくれてびんあひおどろく、
君子(くんし)夜(よ)深(ふ)けて音(こゑ)警(いまし)めず、
老翁(らうおう)年(とし)晩(く)れて鬢(びん)相驚(あひおどろ)く、
君子夜深音不警。老翁年晩鬢相驚。
早霜 菅原道真或文時

せい/\すでにたつくわていのつる、
ほゝはじめておどろくかつりのひと、
声々(せい/\)すでに断(た)つ華亭(くわてい)の鶴(つる)、
歩々(ほゝ)初(はじ)めて驚(おどろ)く葛履(かつり)の人(ひと)、
声声已断華亭鶴。歩歩初驚葛履人。
寒霜凝霜 菅原文時

あしたにぐわこうにつみてをしいろをへんじ、
よるくわへうにおちてつるこゑをのむ、
晨(あした)に瓦溝(ぐわこう)に積(つ)みて鴛(をし)色(いろ)を変(へん)じ、
夜(よる)華表(くわへう)に零(お)ちて鶴(つる)声(こゑ)を呑(の)む、晨積瓦溝鴛変色。夜零華表鶴呑声。
同前題 紀長谷雄

拾遺
夜をさむみねざめてきけばをしぞなく
はらひもあへずしもやおくらん
読人不知




あかつきにりやうわうのそのにいればゆきぐんざんにみてり、
よるゆこうがろうにのぼればつきせんりにあきらかなり、
暁(あかつき)に梁王(りやうわう)の苑(その)に入(い)れば雪(ゆき)群山(ぐんざん)に満(み)てり、
夜(よる)●(マダレ+「臾」)公(ゆこう)が楼(ろう)に登(のぼ)れば月(つき)千里(せんり)に明(あき)らかなり、
暁入梁王之苑雪満群山。夜登●(マダレ+「臾」)公之楼月明千里。
白賦 謝観

ぎんがのいさごみなぎるさんぜんかい、
ばいれいはなひらくいちまんちう、
銀河(ぎんが)の沙(いさご)漲(みなぎ)る三千界(さんぜんかい)、
梅嶺(ばいれい)花(はな)排(ひら)く一万株(いちまんちう)、
銀河沙漲三千界。梅嶺花排一万株。
雪中即事 白居易

ゆきはがまうににてとびてさんらんし、
ひとはくわくしやうをきてたちてはいくわいす、
雪(ゆき)は鵞毛(がまう)に似(に)て飛(と)びて散乱(さんらん)し、
人(ひと)は鶴●(「敞」+「毛」)(くわくしやう)を被(き)て立(た)ちて徘徊(はいくわい)す、
雪似鵞毛飛散乱。人被鶴●(「敞」+「毛」)立徘徊。
酬令公雪中見贈 同

あるいはかぜをおひてかへらず、
ぐんかくのけをふるふがごとし、
またはれにあたりてなほのこる、
しゆうこのえきをつゞるかとうたがふ、
或(あるい)は風(かぜ)を逐(お)ひて返(かへ)らず、
群鶴(ぐんかく)の毛(け)を振(ふる)ふがごとし、
また晴(はれ)に当(あた)りてなほ残(のこ)る、
衆狐(しゆうこ)の腋(えき)を綴(つゞ)るかと疑(うたが)ふ、
或逐風不返。如振群鶴之毛。
亦当晴猶残。疑綴衆狐之腋。
春雪賦 紀長谷雄

つばさはぐんをうるににたりうらにすむつる、
こゝろまさにきやうにじようずべしふねにさをさすひと、
翅(つばさ)は群(ぐん)を得(う)るに似(に)たり浦(うら)に栖(す)む鶴(つる)、
心(こゝろ)まさに興(きやう)に乗(じよう)ずべし舟(ふね)に棹(さを)さす人(ひと)、
翅似得群栖浦鶴。心応乗興棹舟人。
池上初雪 村上帝御製

ていじやうにたつてはかうべつるたり、
ざしてろのほとりにあればてかがまらず、
庭上(ていじやう)に立(た)つては頭(かうべ)鶴(つる)たり、
坐(ざ)して炉(ろ)の辺(ほとり)にあれば手(て)亀(かが)まらず、
立於庭上頭為鶴。坐在炉辺手不亀。
客舎対雪 菅原道真

はんぢよがねやのうちのあきのあふぎのいろ、
そわうのだいのうへのよるのことのこゑ、
班女(はんぢよ)が閨(ねや)の中(うち)の秋(あき)の扇(あふぎ)の色(いろ)、
楚王(そわう)の台(だい)の上(うへ)の夜(よる)の琴(こと)の声(こゑ)、
班女閨中秋扇色。楚王台上夜琴声。
題雪 尊敬

拾遺
みやこにてめづらしくみるはつゆきは
よしののやまにふりにけるかな
源景明

古今
みよしののやまのしら雪つもるらし
ふるさとさむくなりまさるなり
坂上是則

古今
雪ふれば木ごとに花ぞさきにける
いづれをうめとわきてをらまし
紀友則


氷(こほり) 付春氷

こほりはすゐめんをふうじてきくになみなく、
ゆきはりんとうにてんじてみるにはなあり、
氷(こほり)は水面(すゐめん)を封(ふう)じて聞(き)くに浪(なみ)なく、
雪(ゆき)は林頭(りんとう)に点(てん)じて見(み)るに花(はな)あり、
氷封水面聞無浪。雪点林頭見有花。
臘月独興 菅原道真

しもはかくれいをさまたげてさむくしてつゆなく、
みづはこぎをむすびてうすくしてこほりあり、
霜(しも)は鶴唳(かくれい)を妨(さまた)げて寒(さむ)くして露(つゆ)なく、
水(みづ)は狐疑(こぎ)を結(むす)びて薄(うす)くして氷(こほり)あり、
霜妨鶴唳寒無露。水結狐疑薄有氷。
狐疑氷聞波声 相如

新撰万葉
おほぞらの月(つき)のひかりのさむければ
かげみし水ぞまづこほりける
七条后宮


春氷

こほりきえてみづをみればちよりもおほく、
ゆきはれてやまをのぞめばこと/\くろうにいる、
氷(こほり)消(き)えて水(みづ)を見(み)れば地(ち)よりも多(おほ)く、
雪(ゆき)霽(は)れて山(やま)を望(のぞ)めばこと/\く楼(ろう)に入(い)る、
氷消見水多於地。雪霽望山尽入楼。
早春憶遊思黯南荘 白居易

こほりきえてかんしゆまさにはをうたがふべし、
ゆきつきてはりやうわうばいをめさず、
氷(こほり)消(き)えて漢主(かんしゆ)まさに覇(は)を疑(うたが)ふべし、
雪(ゆき)尽(つ)きては梁王(りやうわう)枚(ばい)を召(め)さず、
氷消漢主応疑覇。雪尽梁王不召枚。
早春雪氷消 橘在列

こさいにだれかよくしせつをまつたくせん、
こだにはかへりてしんのちゆうをうしなはんことをおそる、
胡塞(こさい)に誰(だれ)かよく使節(しせつ)を全(まつた)くせん、
●(トラガマエ+「乎」)陀(こだ)には還(かへ)りて臣(しん)の忠(ちゆう)を失(うしな)はんことを恐(おそ)る、
胡塞誰能全使節。●(トラガマエ+「乎」)陀還恐失臣忠。
雪消氷亦解 源相規

続後拾遺
やまかげのみぎはまされるはるかぜに
たにのこほりもけふやとくらん
藤原惟正


霰(あられ)

しやうがよねひてせい/\もろく、
りようがんたまなげてくわ/\さむし、
●(「鹿」+「章」)牙(しやうが)米(よね)簸(ひ)て声々(せい/\)脆(もろ)く、
龍頷(りようがん)珠(たま)投(な)げて顆々(くわ/\)寒(さむ)し、
●(「鹿」+「章」)牙米簸声々脆。龍頷珠投顆々寒。
雪化為霰 菅原道真

古今
みやまにはあられふるらし外山なる
まさきのかづら色つきにけり
紀貫之


仏名(ぶつみやう)

かうくわいちろともしびいつさん、
はくとうにしてよるぶつみやうぎやうをらいす、
香火(かうくわ)一炉(いちろ)燈(ともしび)一盞(いつさん)、
白頭(はくとう)にして夜(よる)仏名経(ぶつみやうぎやう)を礼(らい)す、
香火一炉燈一盞。白頭夜礼仏名経。
献贈礼経老僧 白居易

かうはぜんしんよりしてひをもちゐることなし、
はなはがつしやうにひらきてはるによらず、
香(かう)は禅心(ぜんしん)よりして火(ひ)を用(もち)ゐることなし、
花(はな)は合掌(がつしやう)に開(ひら)きて春(はる)に因(よ)らず、
香自禅心無用火。花開合掌不因春。
懺悔会作 菅原道真

家集
あらたまのとしもくれなばつくりつる
つみものこらずなりやしぬらん
平兼盛

拾遺
かぞふればわが身につもるとし月を
おくりむかふとなにいそぐらん


拾遺
としのうちにつくれるつみはかきくらし
ふるしら雪とともにきえなむ
紀貫之




下巻





風(かぜ)

はるのかぜあんにていぜんのきをきり、
よるのあめはひそかにせきじやうのこけをうがつ、
春(はる)の風(かぜ)暗(あん)に庭前(ていぜん)の樹(き)を剪(き)り、
夜(よる)の雨(あめ)は偸(ひそ)かに石上(せきじやう)の苔(こけ)を穿(うが)つ、
春風暗剪庭前樹。夜雨偸穿石上苔。
春日山居 輔昭

じふしようみだれやすし、
めいくんがたましひをなやまさんとほつす、
りうすゐかへらず、
まさにれつしがのりものをおくるべし、
入松(じふしよう)乱(みだ)れ易(やす)し、
明君(めいくん)が魂(たましひ)を悩(なや)まさんと欲(ほつ)す、
流水(りうすゐ)返(かへ)らず、
まさに列子(れつし)が乗(のりもの)を送(おく)るべし、
入松易乱。欲悩明君之魂。流水不返。応送列子之乗。
風中琴 紀長谷雄

かんしゆのてのうちにふきてとゞまらず、
じよくんがつかのうへにあふぎてなほかゝれり
漢主(かんしゆ)の手(て)の中(うち)に吹(ふ)きて駐(とゞ)まらず、
徐君(じよくん)が墓(つか)の上(うへ)に扇(あふ)ぎてなほ懸(かゝ)れり
漢主手中吹不駐。徐君墓上扇猶懸。
北風利如剣 慶滋保胤

はんきあふぎをさいしてまさにくわしやうすべし、
れつしくるまをかけてわうくわんせず、
班姫(はんき)扇(あふぎ)を裁(さい)してまさに誇尚(くわしやう)すべし、
列子(れつし)車(くるま)を懸(か)けて往還(わうくわん)せず、
班姫裁扇応誇尚。列子懸車不往還。
清風何処隠 同

後撰
あきかぜのふくにつけてもとはぬかな
をぎの葉らばおとはしてまし
中務

新古今
ほの/゛\とありあけの月のつきかげに
もみぢふきおろす山おろしのかぜ
源信明


雲(くも)

たけしやうほにまだらにしてくもこしつのあとにこる、
ほうしんだいをさりつきすゐせうのちにおいたり、
竹(たけ)湘浦(しやうほ)に斑(まだら)にして雲(くも)鼓瑟(こしつ)の蹤(あと)に凝(こ)る、
鳳(ほう)秦台(しんだい)を去(さ)り月(つき)吹簫(すゐせう)の地(ち)に老(お)いたり、
竹斑湘浦雲凝鼓瑟之蹤。鳳去秦台月老吹簫之地。
愁賦 張読


やまとほくしてはくもかうかくのあとをうづめ、
まつさむくしてはかぜりよじんのゆめをやぶる、
山(やま)遠(とほ)くしては雲(くも)行客(かうかく)の跡(あと)を埋(うづ)め、
松(まつ)寒(さむ)くしては風(かぜ)旅人(りよじん)の夢(ゆめ)を破(やぶ)る、
山遠雲埋行客跡。松寒風破旅人夢。
愁賦 紀斎名

ひねもすにくもをのぞめばこゝろつながれず、
ときありてつきをみればよまさにしづかなり、
尽日(ひねもす)に雲(くも)を望(のぞ)めば心(こゝろ)繋(つな)がれず、
時(とき)ありて月(つき)を見(み)れば夜(よ)正(まさ)に閑(しづ)かなり、
尽日望雲心不繋。有時見月夜正閑。
閨女幽栖 元●(「禾」+「眞」)

かんかうしんをさけしあした、
のぞみこほうのつきをさゝふ、
たうしゆゑつをじせしゆふべ、
まなこごこのけむりをこんず、
漢皓(かんかう)秦(しん)を避(さ)けし朝(あした)、
望(のぞみ)孤峯(こほう)の月(つき)を礙(さゝ)ふ、
陶朱(たうしゆ)越(ゑつ)を辞(じ)せし暮(ゆふべ)、
眼(まなこ)五湖(ごこ)の煙(けむり)を混(こん)ず、
漢皓避秦之朝 望礙孤峯之月
陶朱辞越之暮 眼混五湖之煙
視雲知隠処賦 大江以言

しばらくきくをかれどもいしをいたゞくにあらず、
むなしくしゆんけんをぬすめどもあにまつをしやうぜんや、
暫(しばら)く崎嶇(きく)を借(か)れども石(いし)を戴(いたゞ)くにあらず、
空(むな)しく峻嶮(しゆんけん)を偸(ぬす)めどもあに松(まつ)を生(しやう)ぜんや、
暫借崎嶇非戴石。空偸峻嶮豈生松。
夏雲多奇峯 都在中

かんていのりようがんはしよ/\にまよひぬ、
わいわうのけいしはりうれんをうしなふ、
漢帝(かんてい)の龍顔(りようがん)は処所(しよ/\)に迷(まよ)ひぬ、
淮王(わいわう)の鶏翅(けいし)は留連(りうれん)を失(うしな)ふ、
漢帝龍顔迷処所。淮王鶏翅失留連。
秋天無片雲 大江以言

新古今
よそにのみ見てややみなんかつらぎや
たかまの山のみねのしら雲
読人不知


晴(はれ)

けむりもんぐわいにきえてせいざんちかく、
つゆさうぜんにおもくしてりよくちくたれたり、
煙(けむり)門外(もんぐわい)に消(き)えて青山(せいざん)近(ちか)く、
露(つゆ)窓前(さうぜん)に重(おも)くして緑竹(りよくちく)低(た)れたり、
煙消門外青山近。露重窓前緑竹低。
晴興 鄭師冉

しがいのみねのあらしはまばらにして、
くもしちひやくりのそとにをさまり、
ばくふのいづみのなみはひやゝかにして、
つきしじつせきのあまりにすめり、
紫蓋(しがい)の嶺(みね)の嵐(あらし)は疎(まばら)にして、
雲(くも)七百里(しちひやくり)の外(そと)に収(をさ)まり、
曝布(ばくふ)の泉(いづみ)の波(なみ)は冷(ひやゝか)にして、
月(つき)四十尺(しじつせき)の余(あまり)に澄(す)めり、
紫蓋之嶺嵐疎。雲収七百里之外。
曝布之泉波冷。月澄四十尺之余。
山晴秋望多序 藤原惟成

くもはへきらくにきえてそらのはだへとけ、
かぜせいいをうごかしてみづのおもてしわむ、
雲(くも)は碧落(へきらく)に消(き)えて天(そら)の膚(はだへ)解(と)け、
風(かぜ)清●(サンズイ+「猗」)(せいい)を動(うご)かして水(みづ)の面(おもて)皴(しわ)む、
雲消碧落天膚解。風動清●(サンズイ+「猗」)水面皴。
梅雨新霽 都良香

さうかくさはをいでてきりをひらきてまひ、
こはんみづにつらなりてくもときゆ、
双鶴(さうかく)皐(さは)を出(い)でて霧(きり)を披(ひら)きて舞(ま)ひ、
孤帆(こはん)水(みづ)に連(つら)なりて雲(くも)と消(き)ゆ、
霜鶴出皐披霧舞。孤帆連水与雲消。
高天澄遠色 菅原文時

すうにかへるつるまひてひたけてみゆ、
ゐにみづかふりようのぼりてくものこらず、
嵩(すう)に帰(かへ)る鶴(つる)舞(ま)ひて日(ひ)高(た)けて見(み)ゆ、
渭(ゐ)に飲(みづか)ふ龍(りよう)昇(のぼ)りて雲(くも)残(のこ)らず、
帰嵩鶴舞日高見。飲渭龍昇雲不残。
晴後山川清 大江以雪

かすみはれみどりのそらものどけくて
あるかなきかにあそぶいとゆふ
読人不知


暁(あかつき)

かじんこと/゛\くしんしやうをかざりて、ぎきゆうにかねうごく、
いうしなほざんげつにゆきてかんこくににはとりなく、
佳人(かじん)尽(こと/゛\)く晨粧(しんしやう)を飾(かざ)りて、魏宮(ぎきゆう)に鐘(かね)動(うご)く、
遊子(いうし)なほ残月(ざんげつ)に行(ゆ)きて函谷(かんこく)に鶏(にはとり)鳴(な)く、
佳人尽飾於晨粧。魏宮鐘動。
遊子猶行於残月。函谷鶏鳴。
暁賦 賈島

いくつらみなみにさるかり、
いつぺんにしにかたむくつき、
せいろにおもむきてひとりゆくし、
りよてんなほとざせり、
こじやうになきてもゝたびたゝかふいくさ、
こかいまだやまず、
幾行(いくつら)南(みなみ)に去(さ)る雁(かり)、
一片(いつぺん)西(にし)に傾(かたむ)く月(つき)、
征路(せいろ)に赴(おもむ)きて独(ひと)り行(ゆ)く子(し)、
旅店(りよてん)なほ●(とざ)せり、
孤城(こじやう)に泣(な)きて百(もゝ)たび戦(たゝか)ふ師(いくさ)、
胡(こ)笳(か)いまだ歇(や)まず、
幾行南去之雁。一片西傾之月。
赴征路而独行之子。旅店猶●。
泣胡城而百戦之師。胡笳未歇。
同 謝観

よそほひをきんをくのなかにいつくしくして、
せいがまさにゑがけり、
えんをけいえんのうへにやめて、
こうしよくむなしくあまれり、
粧(よそほひ)を金屋(きんをく)の中(なか)に厳(いつくし)くして、
青蛾(せいが)正(まさ)に画(ゑが)けり、
宴(えん)を瓊筵(けいえん)の上(うへ)に罷(や)めて、
紅燭(こうしよく)空(むな)しく余(あま)れり、
厳粧金屋之中。青蛾正画。罷宴瓊筵之上。紅燭空余。
同 同

ごせいのきゆうろうはじめてあけてのち、
いつてんのさうとうのきえなんとほつするとき、
五声(ごせい)の宮漏(きゆうろう)初(はじ)めて明(あ)けて後(のち)、
一点(いつてん)の窓燈(さうとう)の滅(き)えなんと欲(ほつ)する時(とき)、
五声宮漏初明後。一点窓燈欲滅時。
禁中夜作 白居易

後撰
あかつきのなからましかば白露の
おきてわびしきわかれせましや
紀貫之


松(まつ)

たゞさうしようのみぎりのしたにあたるあり、
さらにいちじのこゝろのなかにいたるなし、
たゞ双松(さうしよう)の砌(みぎり)の下(した)に当(あた)るあり、
更(さら)に一事(いちじ)の心(こゝろ)の中(なか)に到(いた)るなし、
但有双松当砌下。更無一事到心中。
新昌坊閑居 白居易

せいざんにゆきありてまつのせいをそらんじ、
へきらくにくもなくしてつるこゝろにかなへり、
青山(せいざん)に雪(ゆき)ありて松(まつ)の性(せい)を諳(そら)んじ、
碧落(へきらく)に雲(くも)なくして鶴(つる)心(こゝろ)に称(かな)へり、
青山有雪諳松性。碧落無雲称鶴心。
寄殷尭潘 許渾

せんぢやうゆきをしのぎて、
まさにけいかうのすがたにたとへつべし、
ひやくほかぜにみだる、
たれかやういふがしやをやぶらんや、
千丈(せんぢやう)雪(ゆき)を凌(しの)ぎて、
まさに稽康(けいかう)の姿(すがた)に喩(たと)へつべし、
百歩(ひやくほ)風(かぜ)に乱(みだ)る、
誰(たれ)か養由(やういふ)が射(しや)を破(やぶ)らんや、
千丈凌雪。応喩稽康之姿。
百歩乱風。誰破養由之射。
柳化物松賦 紀長谷雄

きうかさんぷくのあつきつきに、
たけにさくごのかぜをふくむ、
げんとうそせつのさむきあしたには、
まつにくんしのとくをあらはす、
九夏(きうか)三伏(さんぷく)の暑(あつ)き月(つき)に、
竹(たけ)に錯午(さくご)の風(かぜ)を含(ふく)む、
玄冬(げんとう)素雪(そせつ)の寒(さむ)き朝(あした)には、
松(まつ)に君子(くんし)の徳(とく)を彰(あらは)す、
九夏三伏之暑月 竹含錯午之風
玄冬素雪之寒朝 松彰君子之徳
河原院賦 順

じふはちこうのさかへはしもののちにあらはる、
いつせんねんのいろはゆきのうちにふかし、
十八公(じふはちこう)の栄(さかへ)は霜(しも)の後(のち)に露(あら)はる、
一千年(いつせんねん)の色(いろ)は雪(ゆき)の中(うち)に深(ふか)し、
十八公栄霜後露。一千年色雪中深。
歳寒知松貞 同

あめをふくめるれいしやうはてんさらにはれ、
あきをやくりんえふはひかへつてさむし、
雨(あめ)を含(ふく)める嶺松(れいしやう)は天(てん)更(さら)に霽(は)れ、
秋(あき)を焼(や)く林葉(りんえふ)は火(ひ)還(かへ)つて寒(さむ)し、
含雨嶺松天更霽。焼秋林葉火還寒。
山居秋晩 大江朝綱

古今
ときはなる松のみどりも春くれば
いまひとしほの色まさりけり
源宗于

古今
われみてもひさしくなりぬすみよしの
きしのひめまついく代へぬらん
読人不知

拾遺
あまくだるあら人かみのあひおひを
おもへばひさしすみよしのまつ
安法法師


竹(たけ)

えんえふもうろうたりよををかすいろ、
ふうしせうさつたりあきならんとほつするこゑ、
煙葉(えんえふ)蒙籠(もうろう)たり夜(よ)を侵(をか)す色(いろ)、
風枝(ふうし)蕭颯(せうさつ)たり秋(あき)ならんと欲(ほつ)する声(こゑ)、
煙葉蒙籠侵夜色。風枝蕭颯欲秋声。
和令孤相公栽竹 白居易

げんせきがうそぶくにはにはひとつきにあゆみ、
しいうがみるところにはとりけむりにすむ、
阮籍(げんせき)が嘯(うそぶ)く場(には)には人(ひと)月(つき)に歩(あゆ)み、
子猷(しいう)が看(み)る処(ところ)には鳥(とり)煙(けむり)に栖(す)む、
阮籍嘯場人歩月。子猷看処鳥栖煙。
竹枝詞 章孝標

しんのきへいさんぐんわうしいう、
うゑてこのきみとしようす、
たうのたいしのひんかくはくらくてんは、
あいしてわがともとなす、
晋(しん)の騎兵(きへい)参軍(さんぐん)王子猷(わうしいう)、
栽(う)ゑて此(こ)の君(きみ)と称(しよう)す、
唐(たう)の太子(たいし)の賓客(ひんかく)白楽天(はくらくてん)は、
愛(あい)して吾(わ)が友(とも)となす、
晋騎兵参軍王子猷。栽称此君。
唐太子賓客白楽天。愛為吾友。
修竹冬青序 藤原篤茂

はうじゆんはいまだめいほうのくわんをぬきんでず、
はんこんはわづかにぐわりようのもんをてんず、
迸笋(はうじゆん)はいまだ鳴鳳(めいほう)の管(くわん)を抽(ぬきん)でず、
盤根(はんこん)は纔(わづ)かに臥龍(ぐわりよう)の文(もん)を点(てん)ず、
迸笋未抽鳴鳳管。盤根纔点臥龍文。
禁庭植竹 兼明親王

古今
世にふればことの葉しげきくれ竹の
うきふしごとにうぐひすぞなく
読人不知

六帖
しぐれふるおとはすれども呉たけの
など世とともに色もかはらぬ
素性


草(くさ)

さとうにあめはそむはん/\たるくさ、
すゐめんにかぜはかるしつ/\たるなみ、
沙頭(さとう)に雨(あめ)は染(そ)む斑々(はん/\)たる草(くさ)、
水面(すゐめん)に風(かぜ)は駈(か)る瑟々(しつ/\)たる波(なみ)、
沙頭雨染斑々草。水面風駈瑟々波。
早春憶微之 白居易

せいしががんしよくはいまいづくにかある、
まさにしゆんぷうひやくさうのほとりにあるべし、
西施(せいし)が顔色(がんしよく)は今(いま)何(いづ)くにか在(あ)る、
まさに春風(しゆんぷう)百草(ひやくさう)の頭(ほとり)に在(あ)るべし、
西施顔色今何在。応在春風百草頭。
春詞 元●(「禾」+「眞」)

へうたんしば/\むなし、
くさがんえんがちまたにしげし、
れいでうふかくとざせり、
あめげんけんがとぼそをうるほす、
瓢箪(へうたん)しば/\空(むな)し、
草(くさ)顔淵(がんえん)が巷(ちまた)に滋(しげ)し、
藜蓼(れいでう)深(ふか)く鎖(とざ)せり、
雨(あめ)原憲(げんけん)が枢(とぼそ)を湿(うるほ)す、
瓢箪屡空。草滋顔淵之巷。藜蓼深鎖。雨湿原憲之枢。
申文 橘直幹

くさのいろはゆきはれてはじめてほごす、
とりのこゑはつゆあたたかにしてやうやくめんばんたり、
草(くさ)の色(いろ)は雪(ゆき)晴(は)れて初(はじ)めて布護(ほご)す、
鳥(とり)の声(こゑ)は露(つゆ)暖(あたた)かにして漸(やうや)く綿蛮(めんばん)たり、
草色雪晴初布護。鳥声露暖漸綿蛮。
春日山居 後江相公

くわさんにうまありてひづめなほあらはる、
ふやにひとなくしてみちやうやくしげし、
華山(くわさん)に馬(うま)ありて蹄(ひづめ)なほ露(あら)はる、
傅野(ふや)に人(ひと)なくして路(みち)漸(やうや)く滋(しげ)し、
華山有馬蹄猶露。傅野無人路漸滋。
遠草初含色 慶滋保胤

拾遺
かのをかに草かるをのこしかなかりそ
ありつつも君がきまさんみまくさにせん
人丸

古今
おほあらきの森のした草おいぬれば
こまもすさめずかる人もなし
作者名無し或源重之

新古今
やかずとも草はもえなんかすが野を
ただはるの日にまかせたらなむ
壬生忠岑


鶴(つる)

きらふらくはせうじんにしてかうゐをふむことを、
つるくるまにのることあり、
にくむらくはりこうのはうかをくつがへすを、
すゞめよくいへをうがつ、
嫌(きら)ふらくは小人(せうじん)にして高位(かうゐ)を踏(ふ)むことを、
鶴(つる)軒(くるま)に乗(の)ることあり、
悪(にく)むらくは利口(りこう)の邦家(はうか)を覆(くつがへ)すを、
雀(すゞめ)よく屋(いへ)を穿(うが)つ、
嫌少人而蹈高位 鶴有乗軒
悪利口之覆邦家 雀能穿屋
王鳳凰賦 賈島

りりようがこにいりしにおなじ、たゞいるゐをみる、
くつげんがそにありしににたり、しうじんみなゑへり、
李陵(りりよう)が胡(こ)に入(い)りしに同(おな)じ、たゞ異類(いるゐ)を見(み)る、
屈原(くつげん)が楚(そ)に在(あ)りしに似(に)たり、衆人(しうじん)皆(みな)酔(ゑ)へり、
同李陵之入胡。但見異類。似屈原之在楚。衆人皆酔。
鶴覆群鶏賦 皇甫会

こゑはちんじやうきたるせんねんのつる、
かげははいちゆうにおつごらうのみね、
声(こゑ)は枕上(ちんじやう)来(きた)る千年(せんねん)の鶴(つる)、
影(かげ)は盃中(はいちゆう)に落(お)つ五老(ごらう)の峯(みね)、
声来枕上千年鶴。影落盃中五老峯。
題元八渓居 白居易

せいれいすうせいまつのしたのつる、