絵入都々逸本・翻刻

菊池真一

「甲南女子大学研究紀要」第40号 文学・文化編 掲載

凡例
一、本稿は、「翻刻・絵入都々逸本」(片山享編『日本文芸論集』所収。平成十五年三月)発表以降入手した都々逸本の翻刻である。
一、底本十二点は、全て菊池所蔵本である。
一、漢語都々逸の漢語の一部分以外、振り仮名は省略した。
一、意味を取りやすくするため、適宜濁点を補った。
一、文句入りの部分は〔 〕で包んで示した。但し書名の最初についている〔 〕は角書きを示す。
一、作者名は( )に包んで示した。
一、判読不能文字には ? を充てた。
一、配列は推定成立年代順とした。ただし、「幕末刊」「明治初期刊」とある複数の作品の順序については意味がない。詳細は不明である。
一、紙数の都合により、底本の書誌は次のウェブサイトを参照されたい。底本の画像も掲載してある。
  http://www.konan-wu.ac.jp/~kikuchi/



一 新板どゞいつぶし上巻・しん文くどゞいつぶし下・新板月雪花撰文句どゞいつふし上(幕末刊か。八丁ホリ茶吉板)

新板どゞいつぶし 上巻
△ちる花をさためなき身とうたにはよめどさかざなるまへ春の風
△わけもないのにきにくせつけてかほみにやくろうでねつかれぬ
△いろにまよいし身はとうがらしなみだめにもつこゝろがら
△ほれたわたしがうるさいならは〔(上るり)そんなそのよないゝわけをそれよりわしがいやならば〕ほどよくうまれてこぬがよい
△人目おふけりやツイそれなりにないてぢれふすみだれがみ
△せきにせかれてそのうへならす〔(しん内)かわいやこの子を手はなしてとふしてかたときいらりようふか(▲ことば)さあ/\しいをしてあすはとうからおしんなれねへやれ/\ ねんねこよほんにかわいやねがほさへ〕ちやんにそのまゝいきうつし
△わらはれ草なるわしやわらぞうりすへにやきれてもなは残る

しん文くどゞいつぶし 下
▲両手をくんでかんがへみれどおもひきられぬぬしの事
▲ほれたおかたによくにた男じつがあるやらきかまほし
▲しんでわかれは此よのならひぬしとわたしはいきわかれ
▲さけにまぎれてうらみもいへどしらふぢやしらけて向づら
▲さきがさきならくろうをしたるかいもなぎさのあまをぶね
▲いへばどうやらさいそくらしくいつまでそはづにいらりようか
▲せかれている身のまたこうしさき〔(新内あはしま)アノおまへは丹七さんかとおどろけばほうばい女郎もやぼなかんすいつけたばこもわれかちになみだとともにかたりおふやりてのすきがこいたかくまた一トつところへよりあはづとてん/\にはなれていやしやんせくせのわるいとわめかれておとはゝかほみてうれしいやらまたかなしさがましたやら〕しれてかむろにやつあたり

新板月雪花撰文句どゞいつふし 上
▲よふ/\としのびあければらんまがしらむぢれてかみきるふさよふじ
▲まゝならぬ世とあきらめてもかほみりやぐちをゆうて心でないている
▲あつい御げんにまた御いけんもきゝいれましたがきれられぬ
▲恋やみでしよくものんどへはとふりはせぬがくいつきたいのはぬしのかほ
▲いつゞけのつもるはなしにけさしきかへてへやのしきへのたかいこと
▲にくい人だとくちではいへどぢつはいのちもいとやせん
▲ないていずともふみでもかいてともだちをたのんでよぶがよい
▲ともたちよふたのめばみなうはのそらせくきはあれどもぢつはない
▲しみ/\とだいてねもせではたからせかれ〔(しん内)どこにどふしていさんすやら人のうはさによしあしをきくにつけてもきぐろふはつのり/\てしやくとなる〕とがない子しよくにやつあたり
▲あきのそらかよ身をさらしなの〔(しん内)うつりやすしよ木はもみじ〕くもなくはれて月のゑん
▲ふかくなるほどたがへのこゝろ〔(しんない)はだと/\はしらゆきのともにきゆるもいとやせん〕つもるおもいもねてとける
▲木になる此のみをまた白梅の〔(しんない)あいたみたさがとびたつばかりかごの鳥かやうらめしや〕とめてはつねをたのしみに
▲しのゝめにわかれせわしきみおくるすがたきりがじやましてまゝならぬ
▲としがちがをが女房によぼがあつとじやふをたてずにおくものか
▲きゝわけぬいかに年はがゆかぬとゆふてほかにおとこのないよふに
▲きゝわけましたがわしやきれられぬたとへなわめにかゝるとも
▲ほつとためいきなみだとともに〔(しん内)なんのいんがでこのよふにいとしいものかさりとては〕身につまされて一とりごと
▲おろすわさびとこいじのいけんきけど??ほどなみだでる
▲はだと/\をだきしめおふてこふもかわゆくなるものか
▲おもいだしはたでちろりとかんづけられてはづかしそふにかほにそで


二 撰どゝ一ツ三べん(幕末刊か)

《大津絵節省略》
てい女立たり気がねをしたり〔(しん内 白藤源太)いとしとおもふ心から三とせ此かたこなさんおぼへがござんせういけんがましい事とてはついに一度もいはぬのはひよつと心にさはりなばあいそがつきそらどうせうと〕人にやこけだといわれたり(八丁ホリ 瓢多長)
三味せんの駒のきん所でむまれたわたし〔(清元 二人奴)そもや二人が中々は心でこがれまちあかしあふて嬉しき戻りかごたがいに胸をうちあけて気も合ぼれのすいたどしかはるまいぞと云しての神々さんへちかいにかけ〕ばちでもあたらにやきれやせぬ(八丁ホリ 千好)
月にむら雲花にはあらし〔(あふむ石 女清玄)ア身は雲水の定めなき仏につかへ奉来せをねごふも何ゆへぞいゝなづけせしおんかたのこの世になきときゝしゆへのぞみなき身とあまほうしたゞなさけなきは清水にてお目にかゝりし頼国さますぎゆきたもふとさたありし松若様の姿ゑににたこそことはりげんざいのアヽわすれたい/\わすれんものとねがふても心のまよいかあさましやたゞわすられぬやぶうぐいすはほけ経とと経よむ鳥の花をこふまだあのやうになきつれて花を見すてゝかへる厂アヽ心々の世の中じやなア〕思ふおかたにやぬしがある(千蝶)
《端唄省略》
《端唄省略》
はらたゝせぐちをいうのもみなじつぎから〔(しら糸もんど やんれふし)これさわがつまもんどさんわしが女房でやくのじやないが十九二十の身じやあるまいし人にいけんをいう年頃でけふもあすもと女郎かいばかり〕とふざの花なら言はせぬ(八丁ホリ 千蝶)
人はちよいと見てちよいとぼれするが〔(常盤津 将門)さがやおむろの花ざかり浮気な蝶も色かせぐくるはのものにつれられて外めづらしき嵐山ソレおぼへてか君さまのはかまも春のおぼろぞめおぼろげならぬ殿ふりを見初て染て恥かしの森の下露思ひは胸に〕わたしやよく見てよくほれる(古キ店 千賀)
《大津絵節省略》(八丁ホリ 上千)
ほれちやいれどもいゝ出しにくい〔(常盤津 小ひな)秋のほたるの身をこがすはかないこいじやないかいな〕さきの手出しを待ばかり
《端唄省略》
《端唄省略》(中橋住 喜三)
あきらめましたよどふあきらめた〔(常盤津 高尾)うつり香のこるとこの内たれにかみせん化はひ坂風がもてくるしのびねの姿そゞろのうき名たつ〕あきらめられぬとあきらめた
《端唄省略》(テツホウツ キチ)
くぜついふてもねがほれたどし〔(常盤津 しのぶ売)二世のかためとだき〆てつい手枕のそゝけがみ〕とけて嬉しきねやのうち(八丁 千蝶)
《端唄省略》(一ノ橋 二ノツ女)
じつとだき〆かほうちながめ〔(常盤津 源太)枕の下へやる手さへつとめはなれてばからしい〕こふもかはゆくなるものか(古キ庵)
なくもじれるもふさぐもおまへ〔(長唄 辰巳八景)さだめかねたる秋の空だまされたさのしんじつに〕きげんなをすも又おまへ(古キ庵 千蝶)
二階せかれてあはれぬこの身〔(清元 おさん茂兵衛)なむとかくごはしながらもまたもやぐちをくるじゆすの玉もおさんが気にかゝる〕またのごげんも神だのみ(八丁ホリ 松楽)
春かぜにうかれあるいてうか/\土手へ〔(一中ふし 吉原八景)日本一の大門口瀬田の夕せふいまこゝにゆふ暮てらす仲の丁〕のぼりつめたる浮気なおまへ
《端唄省略》
《大津絵節省略》
おもひ切とは死との事よ〔(清元 おそめ)ひとりみらいへいつて見や男心はそふしたものか〕はものもたない人ごろし(松二)
《端唄省略》(八丁ホリ 松寿)


三 浮世都ゞいつ 初へん・二へん(幕末刊か。吉田屋小吉板)

浮世都ゞいつ 初へん
羽子をつく/゛\あんじて見れば風にそれたも気にかゝる(梅ボリ鶯我)
のぼりつめますほうずもなしに糸のありたけ奴凧(浅クサ 唄女とめ)
花の兄イといはるゝ梅だ人にけぢめをとるものか(都雄二)
ゆきかさくらかとほ山どりのおまへはあらしのしたごゝろ(梅ボリ喜三)
腹がたつならわたしのからだこゝろまかせにしやしやんせ(梅ボリとく女)
めぐるいんぐわの車のわたしひくにひかれぬこのしだら(梅ボリ玉我)
お客をとる気はしみ/゛\ないがうつりかはりにこまるゆへ(梅ボリ喜作)
女房にしちやくどかせむりがりさせてなまけてゐるのもほどにしな(梅ボリ語笑楽)
西行のふろしきならねどわたしのからだ一生しよつてゐるがいゝ(梅ボリうた女)
せつかんもなんのいとをふいのちもやつた男ゆへなら苦にはせぬ(浅クサ 唄女はん)

浮世どゝ逸 二へん
見まいとおもへどついおたがいにかほ見あはしてはしらぬかほ(梅ボリ小てふ)
くぜつの種なしはだうちとけずかほはいつでもはつもみぢ(仝)
うつゝこゝろではしらにもたれおきてゐながらぬしの夢(梅ボリ語笑楽)
けふかあすかのかはいゝ中も淵が瀬となる世のならひ(梅ボリ常二)
身にはおひへをまとつてゐてもこゝろに着てゐるあやにしき(梅ボリとく女)
いろのあるのを初手からしればかうしたわけにはならぬもの(梅ボリ横利)
なれないま男ていしのかほに泥のつくはづころぶゆへ(サクラ川新孝)
うはきといはれりや一言もないがおまへに見かへる初手のいろ(梅ボリとく女)
女房かたぎではなこそさかねじみなみさほは雪の松(梅ボリ唄たね)
屏風ひとへのわか床なればしんのはなしはのこりがち(浅草大工徳)
しらぬたびねもおまへとならば夜みち雪みち苦にはせぬ(梅ボリ小きく)
娘のいろだとまだ気もつかずりこうな人だと親がいふ(梅ボリ横利)
はなもさかせずつぼみの枝をおつたわたしのつみつくり(梅ボリ玉我)
見とめもつかないはかないわたしいやになつたらよしにしな(梅ボリ東嶂)


四 〔辻占端唄〕とゞ一大よせ(慶応二年以前刊か。春霞楼主人編。大坂河内屋茂兵衛・綿屋喜兵衛等版。下段の端唄は省略。)

夫易は聖人の建る処にして強ち物を以て名状を当る縡本儀にあらずと雖既に三国の代に官●(車+各)あり亦我朝は阿陪清明ありて吉凶禍福を占ふ今や僕が著す所の恋廼唄占は陳分漢の唐くさきを言ねど又大和言葉のいとやさしき三十一文字の歌にもあらで三筋の糸のいとはかなき都々逸の唄にて其意を知らしめんとす是ぞ童蒙児女子等の独占ひ判断を心で做すの便りにもと余計御世話の所業ながら書肆の需に応じたり●(ニンベン+尚)人ありて心中の願事を人に知らさでしらんとならば算木まれ銭まれにて乾兌離震巽坎艮坤の八卦六十四卦を占ひ上層の唄を読ば善悪吉凶忽に知るべし尤下の唄は其易の変爻を表したれば上下の意違ふべし是は口伝ありといへど譬ば意中に願事ある節花の曇りの唄を聞ば乾為天としり其唄をよみて吉凶を占ふなり故に常に一本を懐中なさば途中にても進退を占ふに便利ありて実に有益の一大奇書ならんと爾云
 
  東武  春霞楼主人識

乾為天
果報まけしてまごつくよりも時をしづかに待よい
此卦は公家大名以上の貴人には吉なれども平人には悪し尤武士出家などには吉事と見ることもあり万事すゝみては凶也
坤為地
心しづかにじせつをまてば岩に矢のたつ時もある
此卦は地の徳にして万物を生養するの形なりゆへに人の事に世話苦労あり願望その外相談事段々ととゝのふべし
山水蒙
はじめわるくもすへよいならば手鍋さげるもいとやせぬ
此卦は童蒙の義なれば童の段々と智恵づくごとく宜きに向ふべし必ずいそぐべからす諸事了簡ちがひあるべし慎むべし
水雷屯
先にやあくまでその気は有ど花にあらしの邪魔がある
此卦は草の始めて生じいまだ伸たるの意にて万事につけその兆はあれども相談ごと願望等にも邪魔ありてとゝのはぬなり
水天需
胸のもやくやいつかははれて月の顔見ることもあり
此卦も急にすべからずたとへば川留にあふて居るの意におもふべし無理にわたらば怪我あるべし
天水訟
人の心はやぶれた屏風はなれ/゛\の蝶つがひ
此卦は上下別々になりて相交はらざるの義背争ふの象也故に諸事とゝのひがたく心身やすからずして憂ひかなしむこと多し
地水師
人のはな見ておる気になればいつかをられし我花を
此卦は大人の徳あれば忠臣孝子には吉也たとへば一人の美女を恋慕ふに大人ならば得べし小人ならばかへつて我物迄人にとらるゝの象なり
水地比
はれて夫婦の盃なしてこんなうれしい事はない
此卦はしたしみありて人と相和楽するの卦也故に知音朋友親るゐなどの力をそへらるゝことありて万の望みごと叶ふなり
風天小畜
たつた一重の障子じやけれどへだてられてはあいかぬる
此卦は物ごと塞りとゞむるの意あり又目に見て手にとられぬ象なれば万事急に調ひがたく常にしんくのかさなりて憂ふるすがたなり
天沢履
こわいとうげをしのびてこせば今じや枕で高いびき
此卦は礼義の心あり又進むの義あり又進むの義あり始は驚くことあれど後には喜となる故にあやふけれ共破れず驚けどもやすし
地天泰
月もみつればかくるがならひらくは苦のたね苦の世界
此卦は貴人にはよし常人は悪し奢侈安逸のこゝろ楽きは??かなしみ生じ又月なかばをすだくやみをむかふの象なり
天地否
はじめや深山のすまゐをしても末にや都の月をみる
此卦は物ごと塞りて通ぜざるかたちなれば末には栄ゆる卦なれば辛抱を専一とすべしつひには志をとぐるの時あるべし
天火同人
心清けりや末にはつひにみそこしすてゝ玉のこし
此卦は人心同じくして親み深き意にして万事正直なれば人の取立にあづかり立身出世あるべししかしその心まがれる人には大凶なり
火天大有
朝顔のはなはきれいにさくとはいへど盛りみぢかくちりやすい
此卦は天上に有て照わたるごとく人も時を得たるなれどこれも位まけのしてすへて損失おほく苦労あると知るべし
地山謙
こんなお福とひげしておればとんだ福者に身をよする
此卦は先に屈んで後に伸るの卦也ゆへに何ごともとゝのひがたく苦労多ししかれども身をへり下りてをれば後によきこと来る
雷地予
龍も時くりや天へものぼるわしも時きてぬしにそふ
此卦はよろこぶの義あり雷地上にふるひ出て天にのぼるの時也万物和順して人もおもふ侭に立身出世のよろこびあり
沢雷随
いつそこゝをば倉がへなしてぬしのきまゝな判にしな
此卦は小女長男に随ふの意あり我動かれ悦ふまた枯木重ねて茂る卦なれば物の変りて吉ゆゑに住所をかへて利あり
山風蠱
棒ほどねがへど針ほどきかぬほんにうきよはまゝならぬ
此卦は山中に風を含みて吹出し懐るの意にして諸事につきて難義迷惑する事ありゆゑにすべての願望叶ひがたし
地沢臨
とかく女は柔和になしてほれたと見せずにほれしやんせ
此卦は貴賤相交りて親むの義なり故に物事柔和にして吉剛気なる事あしし横合より難渋なと言かけらるゝ事あるべし
風地観
おもひがけなき雨にはあへどはれてことなき夏の空
此卦は晴天に雲の起るごとく思ひ寄ぬこといできて苦労あるべし然れどもその雲を風の吹はらへばさらに障りなし
火雷噬●(口+盍)
はるの泡雪とくるも早き夫婦げんくわの閨の中
此卦は頤の中に物あるの意にして障りあれどもかみ合せて通ずるの義あれば始め調ひがたくとも後には調ふべし
山火賁
ぞつとするよな器量のうへににしききせたら猶よかろ
此卦は虎の林を出て遊ぶの象なれば物のうるはしく又威あるの意なり立身出世あるべし諸の願ひ叶ふべししかしよくかわくへからず
山地剥
仏いぢりをさらりとやめてけふより精進おちました
此卦は枯木の栄花を発するの卦なれば今より新規に物を取始むるによろし然れども高きより落たる象あれば人も身の上安堵ならず
地雷復
たとへ一度ははづるゝとても思ふ的ならはづしやせぬ
此卦は家を破りてふたゝび復すの意なれば一度は悪くとも重ねては吉事に向ひ諸事おもふところを成就なすべし
天雷无妄
玉も包めば光りがしれぬぬしもこゝろをあかしやんせ
此卦は石中に玉をつゝむの卦なれば諸願叶ひがたし時の至らざると知るべししかし己が欲にせざる事なれば願ひ叶ふべし
山天大畜
水は下へとながるゝものを上へ船やりや逆となる
此卦は乾艮あい逆するかたちにて住居常にあんおんならずふだん心中にいかりをふくみ恨みをおもふゆゑ安気ならざる義なり
山雷頤
雪をかきわけ桜はさかぬとかく時節を待がよい
此卦は養ふ義にして物の成就する卦なれどもしかし時節の未はやき意あり急にすることはよろしからず
沢風大過
きれた凧ではわしやなけれどもちうにまよひておるわいな
此卦は棟撓のかたちなり上ずることならず下載ることならず中に迷ふの意なり故に何事も不定にして思慮やすからぬなり
坎為水
男心は紫陽花よいつと定めぬ花の色
此卦は難義困窮の卦にて二人水に溺るゝの象なれば遠く住所を去てよし常にかわる怪しき意有と知るべし
離為火
はつと立たるあの村千鳥風のまに/\わかれゆく
此卦は離別の卦なれば親子兄弟或ひはしたしき朋友などに別れ遠ざかるなり然れども学者出家などには大吉なるべし
沢山咸
寝ごみへ持こむこの牡丹餅はほんにうれしい口果報
此卦は感通して物の速に調ふの卦なり故に思はざる吉事ありて万の願望万事向ふより深切に世話してくるゝなり
雷風恒
風に吹ちるあの紅葉はどこへよるべきあてもない
此卦は物の散失するの意あればあつまると思へばちり散と思へば又集るゆへ更に定まらぬ也住所につきとかく苦労ありと知るべし
雷天大壮
虎に角ありやいひぶんないがそれじややつぱりがいになる
この卦は陽気さかんにして壮はすなはちさかんなれども花ありて実なきがごとく大吉に似て吉にあらず金銀財宝にくらうあり
天山遯
いつそ深山にかくれてゐたらこんな苦労をしやせまい
この卦は退くよみ住所などについて辛苦多く思慮ふんべつも定まらず諸事間違ひのある卦なり願望は邪魔するものあり
火地晋
ぬしとわたしは朝日の症で昇りかけては下りはせぬ
此卦は日の地上に出るの象ありて次第/\にはん昌して立身出世におもむく意あり又人より親み敬まはれ上たる人の恵みにあふべし
地火明夷
三世相にもよくあるやつよ始めわろくてのちはよい
此卦は日の地中にありて分明ならざるの意あれば始めは思ふ処をうしなひ難義をすれど後には栄花の身ともなるべし
風火家人
世帯の車は女の事よ糸をとる気でよくまはす
此卦は家内安寧するの卦也万事によること婦人を以てすれば吉なりしかしながら当世の人かくのごとくなる女少し大に撰ぶべし
火沢●(日+癸)
しん気辛苦の種蒔ながらとかく宝の芽を出さぬ
此卦は人心相そむきて万事ことなりがたし故に人中辛苦多く又財宝散乱することありしかし学者などには大吉ありとす
水山蹇
あきが来たとて梢の蝉もほんに朝ばんなきあかす
此卦は寒中に蝉風をかなしむの意にして又龍の玉をうしなふの象也ゆへに宝さんざいして甚しく貧苦にせまるの卦なり
雷水解
やつと苦界のかどとび出してそらに羽をのすはなし鳥
この卦は魚の網を遁れ出たるの意にてなやみ解ちるなり故に難義なる所をのがれ出る卦なりしかれども慎まざれば再び災あり
山沢損
勘定づくには浮世はいかぬ損して徳とることもある
此卦はもと減少とて物の損失ある卦なれども却て宜とする象あれば後にいたりて利徳をうるか又誉れあるか末よき卦也
風雷益
みづがうごけば船までうごくほんにあぶない浪のうへ
此卦は上下とも動きてしづかならず故に住所やすからず心身定まらず辛苦ありて思ひよらざる損毛有慎むべし
沢天夬
床にすへたるあの芥子の花そつとおかねば花がちる
此卦は剛強に過るの卦なれは性急にして万事やぶるゝなれば慎むべし故に人は堪忍柔和をむねとしてかりにも情をおもふべし
天風●(女+后)
やつとあつめしあの落葉をば風がおとして吹とばす
此卦は物のあつまると散うせる象ありて定りなきぎなれば人も分別工風さだまらずして迷ふ也又おもひ寄ずあひあふの意あり
沢地萃
人のあつまる両国ばしは常にけんくわのたへはせぬ
此卦は物の集会してはん昌するの意なり故に又争論障り常にあれば慎むべし願望かなふべし婦人のさまたげすることあるべし
地風升
もとは二葉の芽ばへだけれど家となるやうに木にもなる
此卦は草木の地中に有て次第/゛\に地上に発生する意なれば段々と立身出世をすべし
沢水因
わしが思ひは百分が一もぬしのかたへは通ふじやせぬ
此卦はこんきう難義の卦にして諸事ふじゆうに我こゝろざし人に通達せず苦労多き卦也
水風井
もと木にまされるうら木はないに心うごかす事はない
此卦は万事あらためかへることよろしからず各あたりまへの職分をつとめみだりに新規の事にとりかゝる事なかれ損ありて益なし
沢火革
うしを馬ならのりかへしやんせ願ひかなはぬ事はない
此卦は万事改むるによし今迄なすことに益なければ速にそのふるきを捨て新しきにうつるべし願望障りあれどもとゝのふべし
火風鼎
ふゆの氷と心がとけぬそこで口舌がたへはせぬ
此卦は常に口舌のたへぬ卦なれば慎むべしゆへに願望思ふまゝに叶はずして病ひの変あるべし是おそるゝとやぶるの意あれば也
震為雷
声はなしても姿を見せぬ雲間がくれのほとゝぎす
此卦は声ありて形なきの卦なれば祥福ありてはん昌の象なれども大てい平人にはよろしからず位まけすることあるべし
艮為山
そこは土腐だに用心しやんせ跡へかへれば怪我はない
此卦は止るによろしく進むに損あり憂喜の山重なりたる義とす故に物ごと半は調ひ半は通達すべし
風山漸
野辺にはへたるあの若松もすへにや枝葉の生茂る
此卦は山上に木をかへて茂生するの意にて立身出世あるべし又女の男を思ふの卦なるゆへ婚姻とゝのふべし
雷沢帰妹
おもひ願ひはみな違ひ棚床のすへものわしやいやじや
此卦は不意にまちがひの有卦なれば慎むべしまた色情につきて苦労あり且願望さまたげあり
雷火豊
水にうつれるあの月影はめには見るのみにて手にとれぬ
此卦は盛大の勢ひある卦なり然れ共余り大すぎて却つてそのかたちを失ふたとへば水中の月のごとく目に見て手に取れぬ意なり
火山旅
花もつぼみが匂ひはふかいひらきすぎては曲がない
此卦は始めよろしく後わろし万事に付つゝしむべし又月の半出たる意あれば少事はよしその心にて占ふべし
巽為風
あたる矢さきを風ゆへそれて思はぬ苦労もするわいな
此卦は通達の意ありておもふことを遂るの卦あれど横合より思ひよらぬ障りありて事を仕そんずる事有べし
兌為沢
こゝろはやしやでも菩薩でも顔にたれしも迷ふはむりもない
此卦はよろこびの顕はるゝ卦にしてよき卦なれども物事取しまりなく埓あかぬ意あり外見はよく内心よからぬの意あり
風水渙
うきくさのはなはきれいにさいてはゐれど風のふくたびみだれあふ
此卦は物のちりとくるの意ありて悪事の身を離るゝの吉兆とす然れどもちりみだるゝ義あれば損失あるべし
水沢節
小さな石でも邪魔するときは大きな車もうごきやせぬ
此卦は物事滞りてさはりある卦也ゆへに運つたなくとぢふさがる象にて万の願望叶ひがたきと知るべし
風沢中孚
おのが心を善悪ともに鏡にうつして見やしやんせ
此卦は誠あるの卦にして心中正直ていねいなれば吉とす我邪の心あれば大凶にして目前にばつあるべし
雷山小過
ひとつ叶へば二ツのふそくほんにねがひはたへはせぬ
此卦は物の十分にみてんとすれば又不足のことを発し調ひがたき卦也しかし大きなる災なけれどもつねに苦労あるべし
水火既済
おもひみだるゝ風野のすゝきとくにとかれぬ胸のあや
此卦は物の乱るゝ始めとす故に一旦は成就するとも末には破るゝ也色情の事に苦労あるべし慎むべし
水火未済
なんぼきれいな花びらとても落たうへにて実をむすぶ
此卦は物の成就する卦なり然れどもいまだ用をなさずといへど後相まじはることを吉兆とするゆへに願望とゝのふべし

九曜星の吉凶の事
日曜星
風をうけたるあの帆懸ぶねおもひどふりにのしてゆく
此星にあたる年は万よくして家業はんじやうすべししかしゆだんをすれば損あり
月曜星
旅もするもの思はぬ所で金の弦をばほりあてる
此星にあたるとしは万事よしたび他国して仕あはせよく思ひよらざる幸を得る事あるべし
羅喉星
せんじつめたる薬のやくわんみがきあげても光りやせぬ
此星にあたる年は大いに悪く財宝をそんするか又は病難あるか親るい他人の事によりて辛苦あるかなり
土曜星
さきのきれたる箒じやないがはかなき此身のさつしやんせ
此星にあたる年は万事よろしからず望みごと願ひ事何ごとも一切かなはぬ年なれば慎むべし
水曜星
ぐるり/\とまはりておれば氷るひまなき水車
此星にあたる年は先よしといへどもその職におこたるときは悪しゆへに随分精をいだせばよろこびごとかさなるべし
金曜星
若葉のうちをばだいじにすればすへにや枝葉のおひしげる
此星にあたる年は春のうちはあしく親るいか父母にはなるゝことあれどしん/゛\すればよろこびこと重なるべし
火曜星
江の嶋細工のびやうぶぢやないがばら/\はなるゝ春の雨
此星にあたる年はよろしからずおや兄弟親ぞくにはなれることあるべしさもなきときは金銀財宝をそん失なすべし
計都星
水かさまさりしあの泪川わたりかねたる世のたつき
此星にあたる年は万事大いに悪し泪のかわく間あるべからず尤夏のうちは別して悪しといへども秋より少しはよし
木曜星
かさね/゛\のめでたい事にかさね/゛\の酒をのむ
此星にあたる年は万よしたとへば春にあふて木の芽をいだすがごとく次第にうんのひらきて幸をかさぬべし

生れ性十枝の吉凶
奇光枝 きのえのとし
おもふことかなふ福介打出の小づちおかめに見てさへ楽隠居
此枝に生るゝ人はわかきときはひんなれども段々と思ふごとくになりて末には大いなる福徳を得べし
金財枝 きのとのとし
行末は海となるべき谷水なれどしばしこの葉の下をゆく
此枝に生るゝ人はわかきときはおもひごとたへず人にあたまをおさるゝなれど次第に出世をなして大海のひろきへ出べし
千歳枝 ひのへのとし
もとは裾野をとふりて来たがのぼりますぞへふじの山
此枝に生るゝ人は段々富貴にいたり官にすゝむの相ありてつねに目上の人に愛せらるゝゆへ引立にあづかり出世をなすべし
銀宝枝 ひのとのとし
かぜに羽をのすあのいかのぼり糸のひきてのあるゆへに
此枝に生るゝ人は前に同じく貴人高位のてうあいにあづかり段々と幸を得べし信心うすき人は苦労あると知るべし
散高枝 つちのへのとし
萍のしかとところはさだめぬけれど花もさくなり実もむすぶ
此枝に生るゝ人は田畑にえんあるといへども常に住所につきてもの言たへず苦労ありしかし財宝にえんありて十方よりあつまるべし
天高枝 つちのとのとし
うめと桜は一時にさかぬ咲ぬはづだよ時がある
此枝に生るゝ人は無口にして空言をいはず福分ありて命ながしといへども子なし若子あるときは福分ありといへども老てまづしくなるべし
五柳枝 かのへのとし
猪しゝむしやともいふならいやれ義を見てうしろは見せはせぬ
此枝に生るゝ人は上べは心しづかにして下心ははげしく学文に心ざしあり但し短気にて財宝身につかねど義を見てはあとへ引ぬ性なり
虚部枝 かのとのとし
所がへしてすゞめじやさへもひなをそだつる親鳥のおん
此枝に生るゝ人は正直なれども心たけくおやに不孝なるべしゆへに住所をかゆるのなやみあり孝ならばよし
豊陽枝 みづのへのとし
人はなにともいはまのつゝじこちは春くるときをまつ
此枝に生るゝ人は心しづかに時節をまつべし思ひよらぬさいはひにあふべしとかくに剛気のことを慎むときは大いによし
柳復枝 みづのとのとし
たとへおふくと笑はゞわらへみめより心がしんの玉
この枝に生るゝ人は心正しけれども人のそねみをうくべし殊に女はみめかたちうるはしくして妬をうけ大難にあふべししん/゛\をなすべし

十二支生れ年吉凶
子年 坎中連
三味線のどうせはなれる二人がなかはきれた糸ならかけかへる
此年に生るゝ人は衣食にえんありて常にしづかなることをこのむ性也しかしふうふのえん薄くはじめの縁かはるべし
丑年 艮上連
はしめ大きく中たびへこみ末にやふくれるなりひさご
此年に生るゝ人は身上はじめはよく中ごろ悪くなり年よりて又仕あはせよくふつきはんじやうなるべしもつとも此人はちえかしこき生れなり
寅年 艮上連
からみついたる毒草とても秋の末にはうらがれる
此年に生るゝ人はさいなんおゝくしてその身わづらひたゝるべししかれども三十過てより段々と仕あはせよく財ほうにえん有べし
卯年 震下連
梅よ桜よ柳よ桃とさうは両手にもてはせぬ
此年に生るゝ人はちえさいかくありといへども余り諸芸をならふ事多くしてとげがたしもつとも財宝にえんあるべし
辰年 巽下断
文字にかいても身をたつのとしのぼりますぞへ雲までも
此年に生るゝ人はちえかしこくともほうばいの中ねんごろにして段々と立身出世をなすべししかし女房のえん薄くたび/\かはるべし
巳年 巽下断
一升つまらぬ五合のうつわひろくもたんせ心もち
此年に生るゝ人はこゝろちいさくして常におもひごとたへず又人をそしりねたむ性なりこれ前生は女人なりしゆへ業ふかければなり
午年 離中断
千両の鷹もそのばで放して見ねば芸のよしあしわかりやせぬ
此年に生るゝ人はとかく父母の愛あつくしてその手元をはなれざれども却つてたゝることあるべし別に家やしきをもちてよし
未年 坤皆断
かねの宝はつみおくとても金でかはれぬ子の宝
此年に生るゝ人は前生にものゝ命を多くとりたるむくひにて今生にては子のえんうすくたゝるべししかし財宝はみちたるべし
申年 坤皆断
質屋のばんとうくどくにさへも言葉おゝきは品がない
此年に生るゝ人はつねにことば多きさがゆへしそんずることありつゝしむべし又たび他こくをかけまはり辛労することあるべし
酉年 兌上断
道の真中にはへたる草はあたまあげるとふられます
此年に生るゝ人はとかくにうんをおさへらるゝかたちありて若年のうちはくらうたへずかつ親兄弟にえんうすけれどちえ才かくはあるべし
戌年 乾皆連
小川ながるゝ落葉を見なようきつしづみつ海へ出る
此年に生るゝ人は若年のうちはたび/\うきしづみありて苦労あれどもすゑには大海へ出しごとく立身出世をなすべし
亥年 乾皆断
瓜の種まきなすびははへぬあくのむくひにぜんはない
此年に生るゝ人は前生に善根をまきしゆへその徳にて今生にても衣食にことをかゝずまんぞくなり又手のげいありて財あつまるべし

五性の善悪
木 東の方 青色 歳星
のぼるあさひのいきほひつよく四方にひかりをしくわいな
此性にうまるゝ人は朝日の昇るいきほひありて誠にめでたく時めくべし尤万事ひかへめにすべし
火 南の方 赤色 ●(「螢」の「虫」の代りに「火」)惑星
赤いしかけはめにつくけれどさのみうまみはありやせまい
此性に生るゝ人はめのうへの人の引立にあづかるといへどつひにはわかるゝ事あればつゝしむべし親兄弟に縁うすし
土 中央 黄色 鎮星
道もまん中とふりておればどぶへおつべきわけがない
此性にうまるゝ人は万事ひかへめにして何事も中道をゆけば大いによし少しにてもこゝろにゆだんなさば大なるわざはひにあふべし
金 西の方 白色 太白星
月もみつればかけるがならひ山ものぼればくだらんせ
此性に生るゝ人はあまりうんよくして一時に出世をなすといへど極まりありて又段々とあとへもどるなればかならず油断すべからず
水 北の方 黒色 辰星
花はさくとも深山のさくら人の見られぬ口おしさ
此性にうまるゝ人はちえ才かくありといへど人の見だしにあづからず一生うもれてくらすべしこれあまりそのこゝろのいんきなればなり


五 東天狗木之葉都々一 三編(慶応三年刊か。石川亭反等集)

行さきは鞍馬山をもなんのその鼻高々とうなる諸天狗
卯とし   石川亭はんとふ

《端唄省略》(大直門人 中はし埋立地 歌沢わか作)
親のゆるさぬいたつら事はよさんせつとめはつらいもの(新よし原江 いせ六内 誰袖)
あしをからんで手でだきしめていやがるこどもにむしのきう(宮蝶連 中橋上まき丁 伊東涛舎)
わたしがこゝろはたかをもおなじぬしをわするゝひまはない(深川六軒堀 沢村宮吉作)
あだでこいきで人からむきて〔(富本)かつを/\とうるこへはいさみはたなる中はら五十五〆もなんのそのかしのそうばはきなかでもまけぬ江戸子〕それてほれずにいらりやうか(浅草寺地内 かつら文山作)
ゑかふしやうとの儀太夫いりのとゞいつはわたしのむねにある(赤坂ふるや町 市川登理作)
おとこぐるひはもふやめますといふ口そばからめになみだ(八町堀北こんや丁 坂東綿八作)
たまさかあうのを勤のうさとするも人目でまゝならぬ(八丁堀北掛屋丁 鈴之助改歌名十郎娘??とき世作)
突出しの時はなをさら初会はおいて〔(常磐津せきのと)かむろたちから廓の里へ根として植てはるごとに盛の色を〕ませばぬしゆへこのくろふ(上槙町一 常磐津文字多勢作)
端唄省略(江戸町 常磐津文字小寿作)
だまれちくしようめもふ何事も〔(清元山かへり)あとは野となれ山参りヱヽなんのその男ははだか百〆のかけねんぶつもむかふ見づ夜山でほんをすつはりと〕うぬにやあいそがつきはてた(川四田丁 清元栄吉作)
《端唄省略》(松しま丁 勢連に入 彫加三作)
あれさよしなよこどもわよいが夜なべになくのはきゝにくい(桑都連 横山二 石印久作)
こうなりや見さんせまくらのかみと初ものがたりのふでのあと(内神田 二見連 原常作)
あつさまけしてやせたといゑど人にいわれぬ事ばかり(桑原連 大七楼 つる女)
人目しのんでこれこのよふに〔(長うたをはらめ)?には??の里そだちのきのすたれのゆかしさは玉たれかみをとりあげてたれに見しよとて夕化粧〕こがれてゐるのが見えぬのか(桑都連 横山二 記蝶さく)
おやたちのおこふ参りのるすさいわいにはしめていれたるこそてわた(桑都連 南横町 佐のじ清太郎)
よこにそむけてあからぬかほも〔(常磐津新にいな)はつかしいことのありたけを〕ふでの心のかよふだけ(札の辻藤八けん名人十三才栄寿店ふさ女作)
かもめみやことなはかわれともすへはひとつにすみた川(久菊連 四日市 印藤作)
まゝよすておけうきよはゆめよ三筋でくらすが身のほよう(勢連 馬喰三 印喜十作)
《端唄省略》(二見連 日本ばし 摺工幸太作)
ぐづ/\しやんすなうきながたてはそわねばたがいのはぢになる(はし本丁二 二見連 印重作)
われまいとおもふてゐたのにあのいがぐりのいつか笑みでゝいろがつく(勢連 元岩井丁 彫仙太作)
しのび姿をあの月かけに〔(常磐津老松)そも/\松のめてたきこと万木にすくれしうはつこうの粧ひ千年の縁をなしてここんの色見す〕見ればみるほとにたすかた(ひもの丁 勢連 魚源作)
たつたいち夜のあのむつ事いつかおなかにつもるやゝ(忍連 安羅丁 今けい作)
主おやのおんをわするゝわたしじやないがこひぢでくらすもわかいうち(大磯宿 かつ女作)
あはぬつらさにうはさわするがさぞやくさめでさとるだろ(久保丁 清水楼 はる女作)
初会にきてはいれどもあのうぐひすの身まゝにあはれぬみのつらさ(ふく山連 久右衛門町代地 しん女作)
たしかそれかとのぞけばつき夜かげをかくすなほとゝぎす(橋本町四 十三才 三河屋 きく女さく)
あやかりものたよあのゆずのははたとへかれてもはなりやせぬ(元大工町 十一才 にしめや よの女作)
くさめ出るたび又ぬしさんがうはさするかとわらいがほ(檜物町 男美連 筆重作)
おもひきいたといふくちさへもつばがじや(ママ)していゝかねる(大てんま二 二見連 豊印久述)
《端唄省略》(内神田 二見連 原常作)
かけを見せるが人めてあらばなくなかけるなほとゝぎす(久右衛門町代地 福山連 摺工 政吉さく)
寝ものがたりをたゞたのしみにひるのくろふはいとやせぬ(糀町一 安藤 てい女述)
ひさしくあはぬがどうしてゐるか〔(長うた汐くみ)あふたそのときやついころびねのおびもとかひでそれなりにふたりがすそへ狩衣をかけてぞたのむ睦言に〕あへば互ひにぐちがでる(横山二 桑都連 記ノ蝶さく)
《端唄省略》(日本橋 二見連 はんとう作)
おもふこいぢももふことしぎりあけりやつとめのうきくろふ(南まき丁 姿見湯楼 登良司作)
《端唄省略》(二見連 反等作)
《端唄省略》(日本橋西川岸 常磐津粂太夫作)
《端唄省略》(日本橋 二見連 石川亭反等作)
○東天狗木之葉都々一おわり
即席葉唄遊暦都々一并ニ席上
即席都々一早々売出シ申候
集者 二見連 石川亭反等校


六 流行新令どゝ一 夏(刊年不明。明治初期か。竹堂梅兄作。松延堂版。)

日々新にして改革.万花ひらけし世の中に.新寄を愛る世態なれど.砂糖と児童は甘きがよく.老父と辛はからきが宜からん.是はいつもの甘くち度々一.それへ字言のからきを交へ.仮名字引の書ぬき綴合.新令何とか題合て.目さきばかりを開板の.松延堂にをくりて催を塞ぐも.一文不通の盲目やつこ.蛇に怖なん麁作なれかし
   隅田園門人     竹堂梅兄誌

縦令笑つわが誹謗をせうがわたしがめがねでほれた人〔(はやし)ほうきに内和な他人口おへそがでべそでお茶わかす〕
ふわと乗ますアノ人力へてれん手くだのくち車〔(はやし)お先ッぱしりかひきずりか傲倨で浮薄の尻ッぱや〕
背叩いて何曰くしこうして来な格子まで〔(はやし)陳ぷん漢語の廓ことば女学はとくにいらぬ門〕
ぶたや牛肉切売せうと色のきりうりやわたしやいや〔(はやし)賢気で職業励精し主夫と将来そひとげな〕
かわした確証そりや儻偶か今更切ろたなんのこと〔(はやし)きつた小ゆびがつげたならまゝにしやさんせ此きせう〕
片時も逢はねば愁心おこり思過するのもほれた情〔(はやし)どふして居なましよ今頃はよもや外移気や出しやせまひ〕
何のばちでか弦妓のつとめ三糸はぢいて客をひく〔(はやし)ちよんのまげいしややちびげいしやころんでびつこかぢんく弾〕
睥睨さんすな是でも時節が来れば登庸するこゝろ〔(はやし)うんとくわはうはてんにありぼたもちやおまへのつらにある〕
三十六策走不若どふでそはれざそのかくご〔(はやし)ゑぞ柯太まぢや遠すぎるそれでもきんじよじやあぶなかろ〕
もゝのおぼこにさくらの娘そげたやなぎのあらひがみ〔(はやし)冷艶全欺雪の肌嬋媚別品上ものだ〕
遠離してゐるたがひのつらさかわらないのは空ばかり〔(はやし)はかないが恋うきが恋ふたりのためならしんぼしな〕
うそが誠かまことがうそか初手の浮気は今のじつ〔(はやし)豆羹麁食に日をおくり家職に鞠躬今ぢやする〕
わちきを廃してあの古狐家内へいれたい下心〔(はやし)こん/\にはなげのひよつとこめんにやうぼはぴいつくはんにやのめん〕
辛い世態あまいはおまへ世帯の車●(サンズイ+大+ム)はまわるまい〔(はやし)どふらくやめてはたらいて見かへられないやうにしな〕
啼てうれしい笑いもいつかあさはなみだのたねとなる〔(はやし)鶏鳴暁鐘衣々の別またのあふせはいつであろ〕
浮薄訛言な磊落者としらずにほれたがくちおしい〔(はやし)それでもはなれちやゐられないにくらしいほどますおもひ〕
もつと奮発鞠躬しやんせぐづといはれちや身がたゝぬ〔(はやし)かせぎな薄荷を眼につけてそふしてまいばん長命ぐわん〕
一点燈消夢后の涙どふして今宵は来ぬだろふ〔(はやし)かぜでもひいたかきうようかたゞしやほれてができたのか〕
従容しやんせよそう倉卒にしては悔期があるわいな〔(はやし)しつかにしなましそこはへそあはてさんすなそこはしり〕
おまへとわたしはたゞ平凡の中ぢやないのにその疑惑〔(はやし)からかいことばやぐちみれんやめてこつちをちよいとおむき〕
きわどい忍逢あぶない恋路こゝが命の色のあぢ〔(はやし)ほんにわけときやにどとはねそのきでなまものたんとたべな〕
月落烏啼て霜天に満ヱヽもぢれッたい茶屋むかひ〔(はやし)からすに鶏鳴明のかねおちや屋がわかれのかたきゆく〕
なんぼ惚たを見透さりよと侮慢にされてははらがたつ〔(はやし)わちきがすいきよでできたゑんもとめてくやしい此おもひ〕
すまぬこゝろを笑ひにかくし諛侫で座敷をもつつらさ〔(はやし)つとめをひひてぬしのそばわがまゝきまゝにくらしたい〕
形粧もりつぱで他見はよいがしみつたれのが玉にきづ〔(はやし)見かけだほしなはくじよものしやうばいきいたらいかものや〕
爰で不図会合するも宿世あやしき縁であろ〔(はやし)将来おまへがつゑはしら女房にしないととつつくよ〕
広い宇宙に幾希なるおまへひとのほれるもむりはない〔(はやし)いろしのとんやのわかだんななりひらさんでもおよぶまい〕
美酒や嘉肴はたれしもこのむとふなすおさつがわたしやすき〔(はやし)どてのだんごにいなりさますいとんぎうにくまたむまひ〕
ぬしに傲倨をするのもほんにつらひざしきのうさはらし〔(はやし)おまへをたよりのこのつとめしやうわるしやんすとくいつくよ〕
はでにさく花うつろひやすいじみな松竹たのもしい〔(はやし)誠実不変の恋濃じやあきずにさめずにかわらずに〕
死ぬほどほれ咄嗟間逢はにやあとへ見かへる人がくる〔(はやし)きせうせいしは引札でたいさん板木ですつてある〕


七 開化新聞どゞいつ 初編(刊年不明。明治初期か。倉田太助版。)

苦労気がねを積重ねたる末は錬瓦の楽住居
足を突張両手でおさへ腰をしねつて踏ミシン
唐草見るよな分らぬ文は西洋学者も読かねる
究理木瓜と言んすけれど河童野郎の屁房学者
心がらとて他人の中で恥をかき染土かつぎ
たがひの心にヱレキを仕掛ケ言ず語らず密りと
通ふ恋路に石橋かけて瓦斯やランプで照したい
空にや風船陸には馬車よ海にや汽船の早便利
火事や雷りや予防も為がなぜに地震は除られぬ
西よ東と隔てしなかも便り待ぞへ伝信機
有名無実の夫であろと操たつるは妻の義務
雁が来たかと連子を明て見れば大根を蒔時分
船はあぶない車はこはい乗てよいのは腹のうへ
姿ばかりの写真じやいかぬ心のそこまで写したい
いきな髪鋏小いきな坊主髷のあるのは二タごゝろ
じんきよしたのかたんせきもちか煙草のむたびゼイが出る
巻て結んだ捕縛の紐が切れて割腹する財布
枕屏風を人目の小楯ぬしの夜討を待て居る
飾る花壇の究屈よりも私しや野菊の乱ざき
恋の淵瀬に身を投島田浮も沈も主次第
死なば一所と覚悟はしたが今の開化にや馬鹿らしい
マンテルツボンを召たは宜が袖ない仰がなけりやよい
割て言ない噺しをそれと先にさゝれて柿のたね
杖よ柱と便りし君は遠き波涛を洋行す
伝信機が便りよ為よな開化の世なら写真に苦舌が言せたい
色の世界と言のが無理か五しき色採る万国図
善も悪きも世間のあらを探して記載す新聞紙
いろはせず京と習つた子でも今じやアイウヱオのサシスセソ
おくびに出しても悪いと思や食ぬ顔して知らぬふり
主の此頃顔向せぬは胸に焚火でけむいのか
過ちや悪いと葡萄酒隠し汲器とるのも酷た中
十把束げで転ぶといへば解て見せたい胸のうち
義理といふ字に人目をはぢて言たい事さへ胸のうち
親類縁者の異見も聞ず立る意気地の末を見な
乗せて下して(ママ)乗せて客にせはしき陸娼妓
神代このかた替らぬものは水の流と恋のみち
海とも山とも分らぬうちに人が指さす噴射絵図
もう言んすな其気休めを疾に見透す硝子張
言に言れぬ私が心髪鋏天窓じやなけれども
口先ばかりで腹へは入ぬ主の浮気は巻煙草
ほれたどうしで遂寝過して九時の出仕が遅くなる
意気な姿で迷はす猫は着たる羽織もぎん鼠
顔は見へてもガラスの硝子内証ばなしが通じない
続く日でりも困りはすれど長い雨にも亦こまる


八 藤詩選和解都々一 初編・二編・三編(刊年不明。明治初期か。上段の註解は省略。)

藤詩選和解都々一 初編

大海に住む鯨と溝に生鯲は煮売屋の行燈に一座をなし松前昆布と五島瑣管は結納台に顔合するも所謂縁は異なものなるべし頃日李国劉廷●(王+奇)等が巧み尽せる詩もなまめく唱歌の都々一と蝙蝠傘の相合はいろ/\混交な世の流行むた書にだもしかざりし拙き史も僥倖と壁ともされで鯲鯨の汁の相手の牛蒡抜に售ると聞て二杯めも三杯めもと請込で味の替らぬ手料理は鉄鍋ならぬ鉄面に昆布の厚みを欺なるべし   弄月陳人記

とりもけものもねぐらへゆけど〔晩景寒鴉集秋風旅雁帰〕こひにや心もやみのみち
すいたおかたといつしよにゐれば〔鳥道高原去人煙小経通〕山のおくでもくにやならぬ
しやうしんさせたいわたしがねがひ〔帯甲満天地胡為君遠行〕おまへはつとめもうはのそら
ならのみやこにやアノやへざくら〔旧苑荒台楊柳新菱歌清唱不勝春〕いまはたきゞにこなされる
中のよいのでくらうはしらず〔閨中少婦不知愁春日凝粧上翠楼〕とほざかつてはきをもませ
いちざのさわぎでまぎれてゐれど〔笙歌日暮能留客酔殺長安軽薄児〕ひけりやきになるぬしのこと
あへばわかれがあるとはしれど〔巴凌一望洞庭秋日見孤峯水上浮〕わかれりやまたあふこともある
三日見ぬまにさくらといへど〔芳樹無人花自落春山一路鳥空啼〕うつりかはるは世のならひ
月のあかりであふたるゆめに〔此夜断腸人不見起行残月影徘徊〕もしやくるかとそとあるき
うみやまへだててとほくにやゐれど〔燕支黄葉落妾望自登台〕わたしのこゝろはかはりやせぬ
見かへりやなぎについまねかれて〔芙蓉不及粧美人水殿風来珠翠香〕もどる気になるゑもんざか
おもひほそりてうつ/\すれば〔夢裏分明見関塞不知何路向金徹〕しらぬところをゆめにまで
としのちがふをしつてはゐれど〔●(王+其)樹西風枕●(タケカンムリ+覃)秋楚雲湘水憶同遊〕いつかのつたるくちぐるま
見すてられたがわたしのいんぐわ〔鳳輦不来春欲尽空留鶯語到黄昏〕いまさらどふともいはれない
そなた思へばかながはくだり〔月明星稀霜満野●(毛+亶)車夜宿陰山下〕夜みちいとはす馬車でゆく
かぜのもよりかかきねをこへて〔吹笛秋山風月清誰家巧作断腸声〕きこへりやきになるひとよぎり
かみもいふまいけしやうもしまい〔辺地鶯花少年来未覚新〕つゞれまとふもぬしのため
さむいやうだがすだれをまいて〔美人捲珠簾深座●(口+頻)蛾眉〕さけくみながらの雪見ぶね
おもひに思ふてこがれてゐれば〔已見寒梅発復聞啼鳥声〕つき日たつのもうはのそら
みやまそだちのやぶうぐひすは〔山中無暦日寒尽不知年〕はるがきたとてかはりやせぬ
くちでをとこをころしたはては〔看取蓮華浄方知不染心〕すみのころもで世をおくる
はらがたつならたゝいておいて〔別離已昨日因見古人情〕かうといはれりやあきらめる
人のをしへた道をばすてゝ〔清晨入古寺初日照高林〕こひのやまぢにふみまよふ
わたしはもやひとはなれしふねよ〔日落滄江晩停●(キヘン+「曉」の右側)問土風〕あすはいづくのきしへつく
ぬしとそうにはもとよりかくご〔古木生雲際帰帆出霧中〕たとへ火のなか水のそこ
くぜつがすぎればいくさはまけよ〔天与三台座人当万里城〕かうさんするよりほかはない
ゆくにやゆかれずおまへのくにへ〔春風三十度空憶武昌城〕大洋へだててなきわかれ
ちわもくぜつももふいひつくし〔晩日当千騎秋風合五兵〕しんのはなしによがあける
むねに手をあてきをとりなほし〔船経危石住路入乱山行〕どふすりやまことがとゞくだろ
わたしの心はくわじばのはしご〔東風吹野火暮入飛雲殿〕のぼりつめてはあつくなる
おやのいけんもちつとはきゝな〔今年花似去年好去年人到今年老〕やがてやゝうみやおやとなる
ふさぐ思ひに夜はさへわたり〔玉戸簾中巻不去擣衣砧上払還来〕むねにさしこむまどの月
はなをかざりてけはいはすれど〔陌頭楊柳枝已被春風吹〕みさほのかゞみはくもりやせぬ
わたしやこれほど思ふてゐれど〔妾心正断絶君懐那得知〕さきはそれほどおもやせぬ
よせといはれりやついふかばまり〔誰知明鏡裏形影自相憐〕いまぢやこうくわいぜひがない
ゆきくれた人にやどかすあるじのはなは〔日暮飛鳥還行人去不息〕さかりやすぎれどちりはせぬ
せめてわたしのはんぶんほども〔但見涙痕湿不知心恨誰〕おもつてくれればうれしかろ

藤詩選和解都々一 二編

二本目は与市も困ると云けんも詩入も既に四五本目秋の扇の夫ならで筆を棄にしをりからに門家と云んも嗚呼がましく戯者仲間の黛月亭拙子換りに一ト骨折んと忽ち筆を鳥子紙も出来はよしのの葛引に一簾これで間合紙と仕上たる二十葉御影堂の御影もて此黛月も往々はすゑ広がりの為せるやう御取立をねがふになん  弄月舎有人記

さびしがらせるあのかりがねに〔烽火西城百尺楼黄昏独坐海風秋〕ふみのたよりをたのみたい
おもひ/\のよの中なれど〔花隠掖垣暮啾々棲鳥過〕花を見すてゝかへるかり
そうしたおまへのまことがあれば〔風起春燈乱江鳴夜雨懸〕あめのよみちもくにならぬ
ふみのたよりは人めをいとふ〔旦夕更楼上遥聞横笛音〕しのぶあひづにうつゝぶて
しやうじひとへのくろふはおろか〔古木鳴寒鳥空山啼夜猿〕みやまにやつまこふしかゞある
ねるめもねないでしたてたものを〔長安一片月万戸擣衣声〕よそでぬがれちやうまらない
なかよいどふしの子どもでさへも〔借問大将誰恐是霍嫖姚〕いくさごツこはかたきどし
おやもこきやうもすてたるふたり〔常随去帆影遠接長天勢〕とまりいそがぬたびがらす
しんのはなしにふけるもしらず〔冷然夜遂深白露沾人袂〕きいておどろく八ツのかね
あめあられゆきやこほりとへだつちやゐれど〔寂寞向秋草非風千里来〕とけてしまへばおなじみづ
うめにやうぐひすしゝにはぼたん〔啼花戯兆千門側碧樹銀台万種色〕ぬしとわたしはつがひおし
あそびぎらいのゆうげいづきも〔此日遨遊邀美女此時歌舞入唱家〕のちにやにはかでどらをうつ
むかふかゞみの月ならさへて〔可憐楼上月徘徊応照離人粧鏡台〕かげがうつればおもひだす
ふねでゆくならきてゆかしやんせ〔孤帆遠影碧空尽惟見長江天際流〕しものよかぜは身にあたる
雨のやなぎでしほれちやゐれど〔此夜曲中聞折柳何人不起故園情〕たとへかれてもをれはせぬ
たゝくせなかはわかれのかねよ〔寒雨連江夜入呉平明送客楚山孤〕むねにひゞきしあさがへり
ふねにやとなりもないちはげんくわ〔酔別江楼橘柚香江風引雨入舟涼〕とけてばつたりあをすだれ
いやなおきやくはゐつゞけなれど〔唯有相思似春色江南江比送君帰〕おもふおまへははやがへり
つもるおもひのわたしはみゆき〔雪晴雲散北風寒楚水呉山道路難〕ぬしはあさかでみづくさい
くびのまはらぬゐのしゝむしやも〔故郷今夜思千里霜鬢明朝又一年〕ゆくにゆかれぬとしのさか
かはるまいとはおもつちやゐれど〔妾夢不離江上水人伝郎在鳳凰山〕(ママ)
はなを見すててゆくかりよりも〔忽覩雲間数雁迴更逢山上一花開〕おもひ/\は人ごゝろ
けふの初会のいちざのうちに〔銀燭吐青烟金尊対綺筵〕とめておきたい人がある
かねを山ほどもつ人よりも〔一擲千金渾是胆家無四壁不知貧〕まづしいおまへとそひとげる
あめにもまるゝさくらの花は〔眼看春色如流水今日銀花昨日開〕さかぬうちからちりかゝる
とほくうみ山はなれてなりて〔漂泊来千里謳歌満百城〕おまへとそふならいとやせぬ
わたしの心ぢやおまへのことを〔微雨夜来過不知春艸生〕(ママ)
かほを見るにはあさ夕見るが〔吾亦自茲去北山帰草堂〕ほれちやめつたにやあはれない
くちさきばかりはきれたといへど〔此地別燕丹壮士髪衝冠〕しんそこばなしはまだきれぬ
あきがきたのかちりだすもみぢ〔秋風不相待先至洛陽城〕しかとしたこといはしやんせ
くらうしながらつきかげみれば〔挙頭望山月低頭思故郷〕はなれたこきやうをおもひだす
うつら/\としてゐるみゝへ〔空山不見人但聞人語響〕きこゆるとなりのちわげんか
しのび/\てかうしのもとへ〔日夕見寒山便為独往客〕はれちやあはれぬ此からだ
いとしおかたに見はなされては〔怪来壮閣閉朝下不相迎〕この世にやゐぬきでしぬかくご
ひとめ見るよりおまへのすがた〔美人天上落龍塞始応春〕ねてもさめてもめにのこる
おもひたへかねひとふでかいて〔淮南秋雨夜高斎聞雁来〕たのみやつばめのかただより
みやまそだちのうめさくらさへ〔娼家桃李自芳菲京華遊侠事軽肥〕いまぢやていけのとこのはな

藤詩選和解都々一 三編

李白が一斗詩百篇とかいへど此都々逸の一篇に徳利壱本費さば百篇かならず二斗にや及ばん彼白髪三千丈は御手が鳴のは滝呑と悟れば浮生夢裏分明池の汀のとう/\たらり御銚子限の御納雪頃は終に月落烏飛とつぱ一夜半興染る此史も已に三番目他へはやらじと稿を脱しさあらば書肆へ参らしようずる  七赤老人記

登夜船の秋肌さむく〔亭々孤月照行舟寂々長江万里流〕誰と伏見の貸ぶとん
まゝよ捨おけわづかなしやばに〔酔臥沙場君莫笑古来征戦幾人回〕すいた事ならするがとく
月を見やうがさくらを見よが〔雲想衣裳花想容春風払檻露華濃〕思ひださるゝ君のこと
呑るどふしはつい馴やすく〔蘭陵美酒鬱金香玉碗盛来琥珀光〕下戸ぢやとにかく折めだか
月の出汐を真乳の下で〔夜発清渓向三峡思君不見下渝州〕水にかげさへすみだ川
馬車や蒸気ぢやまだ/\おそひ〔朝辞白帝彩雲間千里江陵一日還〕はやく聞たい伝信機
わしが心はみやまの鹿で〔樹々皆秋色山々惟落暉〕つまを恋しと夜々になく
かるいつとめもしゆつせのこぐち〔寧為百夫長勝作一書生〕あきずに辛抱しやしやんせ
さきが先ならあはずと見ずと〔海内存知己天涯若比隣〕側にゐる気でしんぼする
月も銀河もはやかくれしに〔明月隠高樹長河没暁天〕あかぬわかれをかこつのか
笑ひ出すべき端山の腰を〔淑気催黄鳥晴光転緑蘋〕そつとこそぐる春の風
米山甚九でふとおいらんが〔忽聞歌古調帰思欲沾巾〕おもひだします国のこと
三日月ごろから待たるこよひ〔暫将弓並曲翻与扇倶団〕俄に迷ふたぬしぢやない
どこにゐるかとそれのみくろふ〔一為遷客去長沙西望長安不見家〕きうり切ても子ぢやものを
隣ざしきの端唄も丁度〔黄鶴楼中吹玉笛江城五月落梅花〕身につまされてはふさぐたね
花の初日に思はず更て〔昨夜風開露井桃未央前殿月輪高〕いつか夜明の鶏をきく
替り果たと思ふちやゐれど〔却恨含情掩秋扇空懸明月待君王〕もしや来るかとこけみれん
どふぞあいたいまた添ひたいの〔真成薄命久尋思夢見君王覚後疑〕おもひあまりて夢にまで
意気の粋のとはおよばぬことよ〔青海長雲暗雪山孤城遥望玉門関〕やぼといふまで百里ある
今宵別れていつ逢ふことか〔呉姫緩舞留君酔随意清楓白露寒〕せめてからすのなくまでも
貧すりや鈍子へ寝るせつなさを〔独在異郷為異客毎逢佳節倍思親〕じつとこらへる親のため
火宅のがれて世を牛じまの〔科頭箕踞長松下白眼看他世上人〕里へこつそりかくれ住み
むかふみめぐり気もすみだ川〔艸色青々柳色黄桃花歴乱李花香〕こゝろうきたつ春げしき
わたしの思ひのとゞかぬからは〔楓岸紛紛落葉多洞庭秋水晩来浪〕身でも投じて死ぬがまし
花はちりてもまだ香はのこる〔紅衣落尽暗香残葉上秋光白露寒〕誰と忍ぶがをかの池
雨のふる日や日のくれごろは〔浮雲遊子意落日故人情〕おもひ出さるゝ旅のるす
どこで弾やらあらなつかしい〔誰念北楼上臨風懐謝公〕ぬしのつくりしあのもん句
あきが来たのかしやくられたのか〔寵就黄扉日威迴白簡雲〕ほかにいろでもできたのか
鴛鴦のふうふをうらやむやうな〔盧家少婦鬱金堂海燕双棲玳瑁梁〕あさいほれやうするものか
秋が来たのかをとづれたへて〔白狼河北音書断丹鳳城南秋夜長〕ひとり寝る夜のそのながさ
雁は古郷へもうかへるのに〔人情已厭南中苦鴻雁那従北地来〕いとし男は東京詰
東京はなれて田舎のすまゐ〔遅日園林悲昔遊今春花鳥作辺愁〕おもひ出します隅田の花
もしも道中で雨ふるならば〔紅粉楼中応計日燕支山下莫経年〕わしが涙とさつしやんせ
あづまくだりのなりひらさんも〔紅粉青蛾映楚雲桃花馬上石榴裙〕どちがあやめかかきつばた
踏まれたゝかれつき出されても〔銅台宮観委灰塵魏主園陵●(サンズイ+章)水浜〕もと木に増ツた花はない
秋の夜ながもあふよにやたらず〔蓬来闕下長相憶桐柏山頭去不帰〕ましてみじかきなつのそら
よしや天女が降つて来ても〔借問漢宮誰得似可憐飛燕倚新粧〕おめへに見かへるものはなひ


九 大津ゑ入都々逸(明治二十三年八月刊。金寿堂版。蒼々堂緑窓撰。上欄の大津絵節は省略。)

   序言
抑此大津ゑ都々逸集は近世名家の秀逸を撰みてものせし粋客必携人種々の心意気恋となさけの二ツ筋道三すじの糸の調子に乗り喉をきかせるきみたちの粋の枝折と綴りなし世に公せんとする故を自惚ながら述るになん
      編者しるす

◎新撰都々逸
          蒼々堂緑窓撰
○風に寄そふアノ糸はぎに去とは難面男郎花
○よくも化した覚へてゐろと見ればちがつたあふら継
○来か/\と待夜の闇にヲヤマきさたよあぶら継
○月の光りで玉章よめば虫もきく気か音をとゞむ
○妾しや未れんが残の暑さ主はもふ来た秋のせつ
○検査されでも手管の穴はぬしの他には見世はせぬ
○人目の関所へ抜道よ造りソツト思ひを通したい
○ふられて果報と云れるよりもゝてゝ因果と云れたい
○金の重みの有のでうかと恋のふかみはまるきやく
○死の生るの咄の半途呑込むあくびに出るなみだ
○甘く郵便うそ書ならべ亦もよこした無心じやう
○何程泥鰌にめつきをしてもどこか鯰にや見へ兼ねる
○とらへた胸ぐら訳聞までは放しやせぬぞへはらがたつ
○寺の坊主に朝寝をさせてからすに水銀のませたい
○先の心にこゝろを置て心さひしく居るこゝろ
○文も寄せ算人目をかねてちよつと目つきのかけ合
○氷る思ひもいつしか解て逢ば互のむねになく
○忍ぶ心に曇つた胸の晴てお傍へよるの月
○惚たほの字の骨なし法華主は門徒でものしらず
○顔見りや怨みも底抜手桶悟り開てさ?相手
○かさねた布団に重たい瞼迷ふ目方も首尾次第
○赤いしかけに心が迷ひあかい仕着せを着るしまつ
○けちと邪すいのしんにうかけてやぼといやみのへんかむり
○論より証拠にや少しの事を直にからんで切れ言葉
○晴て夫婦になられぬならば私しや死たいもろともに
○睨める目にさへ愛敬もつて怖さわするゝぬしの顔
○ほんに呆れた浮気な始末出してやりたい新聞へ
○智恵のふくろはおほきい程が邪魔にならすに身のべんり
○立派にやるならお金をおくれ起請誓紙はわしや入ぬ
○例の是さと母指出されあたまかき/\とけたなぞ
○寝言いはれて腹立ならば鯰けどるのはよしにしな
○何ぼ流行におくれぬ気でも否だよ肺病税コレラ
○楽になつたと澄しはすれど心がゝりのする地しん
○胸の算ばんいすかのはしよ免といふ字を来たどぜう
○嬉しい返事をはがきでよこし配達さんには恥かしい
○乗て世渡る妾の舟へさしておくれよ水馴れさを
○おこり散しして呑やけ酒が沸立てゐたので舌をやく
○天から夫婦と極たる二人今更世間が何のマー
○雨も降らぬに真白の鬼は人にしよはせて帰すかさ
○先がさきなら妾じやとても角にや出やせぬ窓の月
○君よちかごろ失敬ながら水性はわるいとする説諭
○雪の肌も今朝吹風にとけてにつこりわらふうめ
○みえや飾りがなにいるものかしんから惚合好たどし
○死でも地ごくへかたみに持て妾や往ぞへ此写しん
○ゑん切榎を根こぎに持て惚た奴等を打払ふ
○もてないお客と人力挽はかへる/\と云がくせ
○金銀につまる香車びの角桂故に歩庁へ願つて此将棋
○程も能さそで気もよさ相で金も無き相な男ぶり
○余所の浮気のはなしを夫と云はず語らずあてこする
○今宵見めぐり嬉しの森よどふぞ明日も首尾の松
○春の野山と十三娘日々に色香のますばかり
○あすはお立かお名ごりおしい雪の五尺も積りやよい
○摺鉢かぶせてそりや冨士の山味噌をするがの浦じや物
○思ひ切ます相手に実が無いので意見の惣仕舞
○田舎医師にも羽おりは似合ふ福らすゝめのもん付りや
○可愛らしさに水屋の娘あつい/\としやかされ
○帰さないよと抱付ながら内証で財布の脈をひく
○君をみめくり隅田のほとりあわす時節をまつち山
○りんと煮たつ茶の湯の釜も水をさゝれて忍びなき
○洗ひがみした川端柳やとる三日月つげのくし
○思ふ心の要もゆるみ先が秋とはしらあふき
○思ふ心は八重山吹と云はねと色香に井出の里
○青柳の糸のもつれがさらりと解て嬉しそふだよ月顔
○女禁制高野の山に誰が植しぞじよろふはな
○恋の中垣人目をかねて浮世はなしがして見たい
○氷る硯にいき吹かけてこぼす涙にしめる筆
○生れ故郷は田舎の人よ今じや廓のとろの水
○寝顔のぞいてにつこりわらいのろい人だと舌を出す
○己惚鏡で顔つく/\と三千世界におれひとり
○怨みも是ぎりモウお仕舞さ宵からこぼした泪丈
○腹がたつなら徳利をだきな中の寝酒が気嫌とる
○便りに思たアノ針鉄も切りやふつうのでんしんき
○気休め聞く度気は休らぬ浮気聞く度気が沈む
○小鳥の名に似た娼妓のたんす開てみなんせ四十から
○鉢に移さず床にも活ず矢張手折ぬ中が花
○四角に見へても郵便筥は恋のとりもちして呉れる
○待どたぎらぬ此鉄びんは誰が水おばさしたやら
○此方向たはありや籔白眼惚たと思ふは我しが目
○からたに打るゝ釘よりつらいうしろから指人のゆび
○二人手をとり山路をたどり草の声さへきをもみし
○跡へ引るゝ見かへり柳堤に思案の月のかげ
○癪といふ字を分析したが積る病ひは誰がわざ
○契て見たれど未だどこやらにいろ気少い初なすび
○賽の河原と主待夜半は小石/\がやまをなす
○あわせかゞみか質屋へ飛んで今は流てみづかゞみ
○秋の月夜も田毎へ移る何処へ真事を尽すやら
○恋の初瀬の莟のさくら早く手活にして見たい
○取手おそしと封切る文に誑しまいらせかねかして
○恋といふ字は言葉の糸よからんで解ないした心
○お近い中にと肩をばうたれ帰りや親父が背をどやす
○姉は大猫妹は小ねこ御座るお客はしろねづみ
○主の弁舌流るゝ様だながるゝ筈だようその川
○私しや操を立田野なれどもはやお前は秋男ゆき
○彼奴の怨と嫣アの悋気悪いやふてもわるくない
○のろいお客のよこした文が間夫と泣夜のはなつ紙
○文をとり揚サラ/\読でこんな馬鹿とも知なんだ
○惚た此方は六分のよわみたから四分/\聞無しん
○人目包めど香にあらわるる隅田の土産の桜もち
○意気よふ粋と口では云どめざす処はかねにある
○咳で一先しらせて置てそして呼出す下駄の音
○卒塔婆小町の講釈聞てきりやうふ自慢が悔悟する
○親に反甫の孝行娘寝ぐらも定めるからすもり
○もたれかゝれば柱にまでも角があるのでまゝならぬ
○景色よし原さき立花にとび立心のくるひこま
○泣たりじれたりまた怒たりしても中々出ぬかね
○浅いこゝろの妾だけれどお前ばかりにやふかくなる
○御出立かへお名残おしいせめてかたみにおかねても
○明りかき立ふすまを閉て人目しのんで見るしやしん
○おそいかへりに叩た戸口あけぬ女房のむねのうち
○色じや程よく欺ちや見たが跡でもしやと明石たま
○細い煙りを三筋の糸で立ていのちをつなぎざを
○咲た桜に心の駒を緩して浮れるむかふじま
○直に切そで切ないものは愚痴と頓馬のくされゑん
○色のいろはを習ふた双紙とふせ末には黒うする
○逢て嬉しや此俄雨あい/\がさからぬるゝそで
○金はなくなる意気地はつのるとゞのつまりは人の口
○間夫にすねられ起した癪を撫て遣ふときざな奴
○千万無量の思ひをこめてこわさ半分手を握る
○色けはなれて可愛いものは孫に巨達にかん徳利
○行義作法は直りもするが鼻の胡坐は直らない
○花に浮れりや下口さへおとる況や上戸に於ておや
○車夫の半てん好ない客は浅黄ぞめよりこんがよい
○今も昔もかわらぬものは水の流といろのみち
○初会の晩から解たるはなし手管か誠か分ら無
○誰も居ぬよとらんぷを消ばこゝにと窓から覗く月
○花に仇する雨風なれど主に居つゞけさせるすゐ
○すねて背中を向ては見たが直に寝かへる気のよわさ
○月の障を主やうたぐりて胸に浮雲かけて居る
○松と竹とに門守らせて内でたのしむとこのむめ
○線香立/\ためたる国を間夫にかゝつて煙にする
○嘘は築波のやまより高く実は浅間の山のけむ
○大序に一筆ひめして置ておかねかしくは切のまく
○暗く成たら忍と思やくれぬ先からの春の月
○色即是空と教へししや迦も妻この有にて察さんせ
○鹿と紅葉も染ないうちに仇な浮名を龍田川
○誰にやるのかわしや気にかゝる主の袂の血のくすり
○舎密家頼んで焦るゝ人の心を分析して見たい
○女と云字を分析すれば浮世のがれぬくノ一ツ
○招く此手もお客によつて竪と横とにふりわける
○年も若いに眼鏡をかけてうそを洋杖つき歩く
○野郎は否だしお金はほしゝまゝよ今夜は口車
○蚊帳よ線香とあわてゝ云へば臍を押へて主しや笑ふ
○千枚ばりだよ渋紙面で四十しまだの左りづま
○おぼこ娘と思ひの外に卒業してゐる恋の道
○袴にたれたは欠びの泪お前に出すのは舌ばかり
○客を返そと障子に立たはふきの影さす間の悪
○猫のわたしもはなをば摘むお前のふんどしやねずみ色
○好ときらいが一度に来れば箒立たり倒したり
○欲いものならほしいといゝな謎をといてるしまはない
○遠いお客に云たる無心近い節気の間にや合ぬ
○狸寝入其まゝ置ば手持ぶ沙汰でのびをする
○薄いよふでもあのペラ/\じや重いお尻もしき揚る
○人の女房とかみなり様は天下晴てはなりはせぬ
○手鍋提ても添はねばならぬトいふお方は主じや無
○座敷相場をくるわす猫は一寸二を上げ三を下げ
○逢たさ六寸見たさが四寸それが積りて癪と成
○竹と雀は中よいけれど切られりやかたきのゑさし棹
○はらに身のない瓢たんさへも胸にくゝりわ付ておく
○オヤ最八時か夜は短いとおつに聞せる床いそぎ
○縁のこよりを出雲の棚で若や鼠がひいたのか
○文字の読ない猫社会でも野郎の鼻毛がみんな読む
○返さにやならない厂とは云ど燕つくまで待しやんせ
○水かけ論でもしなけりや胸に燃る思ひを消かねる
○あれさおよしよ見られりや悪ひ花を折なと書て有
○心隅田に気は浮かもめ花もみめぐりはるげしき
○影てぺろりと出す其舌で吸とる鈍馬の身のあぶら
○猫と成たり狐となつて飽までのろまをくひたほす
○首を伸たりまた縮たり廊下の足音聞たぬき
○動けない程年期と尻で借を負ても気はかるい
○寒い/\とつい寄添ていつしかはなしが積るゆき
○拙者此地に用事はないが貴殿見たさにまかり越
○薬缶天窓の恍話を聞けばほんにお臍が茶を沸
○実に鏡は正直ものよ笑ひ顔すりやわらいがほ
○晦日に月見る時節だけれど娼妓の誠にや未だあわぬ
○はやくかへすがお前の為といつてかくして舌を出す
○左りつまとりはいたる下駄は狐老々々とおとかする
  明治廿三年八月十一日印刷
  仝   年仝月十四日出版
      東京市浅草区南元町十五番地
      編輯兼印刷発行者 牧金之助


十 文句入都々逸(明治二十三年八月出版。金寿堂版。蒼々堂緑窓撰。)

茲に都々逸の根元は過し享和の頃に起りいま文明の御代にいたり一層驚くべき風調あり都鄙村落に到るまで貴賤上下の分ちなく皆此唄を好まぬはなし然れば新調の詞の花の濃き淡き腹をうかてる新文句ヲあつめ一ト巻の小冊とし別嬪達やお小供のいさゝか一笑に供するのみ
   編者記

文句入の部
○浮名たつたと気はもみぢばの〔(忍草)思ひそめたるしのぶくさ〕赤くなる程はづかしい
○針がねのものをいふよな開化の世界〔(義太夫一ノ谷)我子の死顔に胸はせきあげ身もふるわれ持たる首のゆるぐのをうなづくやうに思れて〕写真の答をなぜしない
○篠をつがねてつくよふなあめに〔(清元)垣を取られてまる木ばしやオツトあぶないすでのこと〕ぬれて通ふも恋のみち
○恋にみだれて此投島田〔(文字)見そめて/\恥かしの森の下つゆ思ひはむねに〕はれて結ふ日はいつだらう
○野暮を宥めてやう/\来たと〔(ごん八)泣てだましてあやなして〕またもその手でまわしべや
○察しておくれよ私しのこゝろ〔(こん八)それに其よなどふよくな若水くさいすね言葉〕まことあかすはぬしひとり
○わるいことゝはさとつてゐれど〔(すしや)女のあさいこゝろから可愛らしいといとしいと〕おもひこんではやめられぬ
○とても此世でそわれぬ二人〔今宵かきりと突つめし鐘も身にしむかぜのあや〕はやく殺してくださんせ
○真のやみ世に桜をけづり〔(義太夫)思ひの念がとゞいたか久我さま川へ御おりなさるゝ〕赤いこゝろを墨で書く
○二世も三世もかわした中を〔(清元)ねぐらを出てしよんぼりと世を秋雨のからかさも人目忍びてあやぶむ道夫も何故のきさるを不義じやの何のかのへさる今日は明日のきのへねとしらでかわせし事始め其ひめはじめ引かへて今は命も亡ぶる日〕反古にする気かこの誓詞
○藪鶯の私しゞやとても〔(トキワヅ)そりや聞へませぬ才三さんおまへとわたしの其中は昨日や今日の事かいな屋しきにつとめた其時にふつと見そめて恥かしい恋のいろはを袂からそつと妾が心では天神さまへ願かけて梅を一生たつたぞへ〕なくねにかわりがありやせまい
○はらがたつならこのこをちよいと〔(一中ぶし)この手がしはのどちらむいてゐさんしても顔見にやならぬ心気のどくいとしさの〕中の能いとき出来た子だ
○帰る羽おりのたもとにすがり〔(義太夫)短かい夏の一夜さに忠義のかくる事もあるまい〕しくじりやわたしが立すごす
○妾しをじらして浮気の風に〔(清元)夕日のいろも昨日はけふ心ばかりの春霞〕きれてこずへにやつこ佩
○夕べの夢が迷ひのたねよ〔(清元)然もさくらの初日の夜半でお一座の其中でツイおかぼれの浮気から〕今じやふたりのみのつまり

◎都々逸
          蒼々堂緑窓撰
○人はすゞしと云川岸になぜか蛍が身をこがす
○親の為だと苦界のつとめすれば他人でまたくろふ
○立てみせますわたしの操主にお金のあるうちは
○私しや恋路の専売特許受売や体のつゞくだけ
○きしよふがわりにかんざしよ渡し胸の実を明石玉
○文はやりたし文句は知らす実意通すにやかねが無
○女ごろしの主や罪つくり金つくりには出来ぬわざ
○七分三分のお金の色で尻を持上るかたわざし
○送る手紙は二重に封じ中は一重にねかひます
○私しのりん気はうけ売なれど主の浮気はおろし売
○指を切ふとしたかみそりで今日は嬉しくそる眉毛
○中の能から起つた事を誰がさいばんするものか
○小石川いと私しや思ふのに主はおへそでお茶の水
○一寸つめられ嬉しい夢が覚りやあり/\のみのあと
○是はわたしの替紋などゝうそを指輪のかげのろけ
○二人並んで写した写しん切れてもみれんで捨られぬ
○まゝよ今年も飯焚炊しく抔と下嬶の筆はしめ
○いろで燃たつ私や緋ぢりめん主は浮気な水あさぎ
○不実なおまへと声くもらせて情で降せる涙だあめ
○白粉でかくすあばたもどこやらしれる羽織小紋の染返し
○私しや溜ぬり実意だけれど塗師のつやけし浮気せう
○忍び/\で逢のが花よ妻と定まりやきよくがない
○焦れ死ぬさへ私やいとわぬになんで浮気が辛かろう
○恋の暗路に迷ふてゐるをランプ親父が意見する
○地しんがいやなら官員止てそして田舎の籔すま居
○釈迦もあみだも地蔵も不動も今は開化の蚕紙
○浮名立られ今さら逃りや名誉回ふく出訴する
○主をまつちと誰しら鬚の逢ふて心もすみ田川
○姿やさしきあの糸柳かほの桜に手ももみぢ
○ほんに否だよ夜明の鐘と借たお金と此きがね
○間夫の気兼は三筋で取て客を乗せるは口車
○娼妓のなみだに涎を流し親のあせまで水にする
○今か/\と松葉の私し焦れなからにたく蚊遣
○羽織きせかけ行先たづねすねてたんすを背で〆る
○草の戸ぼそにする立咄し虫もきく気か止る声
○渋い濃茶の二人が中を水をさゝれりや薄くなる
○大工頼んでかんなでそつと立つた浮名をけづりたい
○猪口との言葉の揚足取ですねる銚子にさわる燗
○忍ぶ恋路のせきの戸取て建てやりたいひとの口
○雨の降る夜に来るのは能がせめて恋路が気に掛
○みさげしやんすな蓼かふ虫も透を●(身+忍)つて間夫が来
○晴れぬ此身の心を知らずしえる月夜は恋のやみ
○おや/\左様かへおや/\主がおや/\あそこへオヤ行の
○酒が云せる無りとはしれどあまりくどくて腹が立
○酒は極りの狂気水よのめば銚子がくるいだす
○水鶏に誑され烏にせかれ鳥にも苦労をする恋路
○妾しの意見を徳利と聞て皿りと浮気は止にしな
○逢ばあふとて目元がうるむ泣になかれぬ人のまへ
○夢でも可から持たいものは金のなる木によいによう房
○寧そからだも手紙にふうじ人めの関所を通したい
○帰る風して羽おりを着れば留る風してペロリ舌
○ぬしは口中わたしはわき臭ほんに二人はくさい中
○実明せばうそだと云ふし明さにや不実と云だらう
○そつとうらから返したけれど履が気に成雪の朝
○櫛をさしたり白粉したりそしてお客をつるしがき
○未来で罪とがうけよがまゝよ現世で悪性がして見度
○きつとざますよと時計を質に取れて茫然朝がへり
○間夫を夜明に突出す鐘はいつもと違て耳にたつ
○銅ちやん隠居で銀ちやん洋行心ぼそいはお紙さん
○右に主の手左にペラをつかんで遊歩がして見たい
○真面目な顔してそろばん持ど目先にちらつく廓花
○恋し/\が病となりて余所の人かと見る写しん
○辛抱さんせよしばしの間二月半たちや止むうはさ
○義務が立ぬの世間があるの何の彼のとて能く逃る
○浮れどふ士と云はれる筈だ涼みふねから出来た中
○あがりや餌にする素見客を見てはきを揉かごのとり
○京も田舎も支那西洋も弱みの有のはほれたはう
○昇る日影もゆたかな空にけむる柳のながづゝみ
○わけりや二ツの朝顔なれど一ツにからんで花かさく
○巡査も殆ド説諭に困じグヤ/\なんぢを如何せん
○逢ぬ涙で両袖しめし逢ば涎でゑりぬらす
○可愛がられてまた責られて今じや手いけの夏の菊
○義りも道理も承知だけれど主の為には替られぬ
○主を忍ばず此しをり戸に植たわたしのみさほ竹
○赤いきれをば冠つて化て客を喰ふ気で居るきつね
○牛のにこみで白馬呑でうしと馬とで二ひやくもん
○後はなみだで暮そとまゝよ明日は笑顔で別れたい
○鼠鳴するあの猫の鼻つめたいお尻でばかしやがる
○逢たい見たいを停止にさせて苦労が禁獄為ばよい
○私しや気がゝり夫婦は二世よ若や此世は二世めかと
○三筋弾よりお髯を曳て早くのりたい玉のこし
○碇のおろせぬお前の浮気妾しや心にかゝりふね
○恋の会議を出雲で開き鐘とからすを廃たい
○聞た意見は煙りにすれと立た浮名は胸こがす
○更て待夜に身にしむものは蕎麦の風りん川千鳥
○羽織着たまゝつい転寝の皺が悋気のたねとなる
○恋の迷ひ路あかりはいらぬ人目憚ることばかり
○逢て恨みを夕立雲もはれて嬉しきいろの虹
○女にや欺され勤はあがりそして揚くが新聞紙
○寄とさわるとお米の噂やがてはつ九せうするであろ
○早くお前を鯰にさして二人ぬら/\暮したい
○ぬしの心も知れない中に惚たわたしの気がしれぬ
○手鍋提ても添はねばならぬといふお方は主じやない
○主もするなら私もするよ浮気くらべじや負はせぬ
○首尾か不首尾か不首尾か首尾か返さぬ女に待女房
○座敷相場をくるはす猫は一寸二をあげ三をさげ
○起請誓詞を活字ですらせ宛名と月日を明ておく
○親の意見と霜夜の酒は五ざう六腑へしみわたる
○吹ば飛ぶやうなわたしだけれど尻の重みが多分ある
○糸瓜野郎が大きく成て恩ある垣根をおしたほす
○逢ふた其日の心になりて逢ぬ其日もくらしたい
○意気や男や気まへじや行ぬ粋はおかねを呉る人
○口の車とまはつた酒であそぶじかんの度がくるふ
○小鳥の名に似た娼妓のたんす開て見なんせ四十から
○腹を立せて又笑せて嬉しがらせて泣すのか
○竹と雀はよい中なれど切りやかたきの餌さしざほ
○古釘みたやふな文をば書て主の浮気をうつゝもり
○惚ずに惚てる顔して居れば惚ぬお客がほれて来る
○名残おしさにまた見にきたよ雨の夕べかはなのかほ
○心づくしにはかまを取せぬれるよめ菜のはるの雨
○月夜がらすともの云ふ花はそら鳴よする度迷はせる
○莞爾笑ふて指たる猪口を澄して返盃は水くさい
○ぎやつと一声びつくりさせて暗の野道でふむかわず
○重ねふとんに睾丸ひろげ足音うかゞひ居るたぬき
○暮の六時は待わびたれど明の六時はさてはやい
○内所の意見を横そつ方へ聞て意気地を私や立る
○金とちからは少しもないが惚ぬ女でぜんびせぬ
○実のあるのが却へつて苦労人にもそんなであらふかと
○右の通りとたしかに惚てかくの如くとくらふする
○惚たはわたしが重々わるひ可愛といふたはぬしの罪
○炬達で出来たる恋路にあつく成て今日は涼み舟
○寒い/\とつい寄そふていつか咄しがつもるゆき
○拙者此地に用事はないが貴殿見たさにまかりこす
○かよわい腕でもかんしやく力すねた枕をねぢかへす
○晦日に月見る時節だけれど娼妓の誠にやまたあわぬ
○恋の重荷を車に乗せて胸で火をたく陸じようき
○親の意見を聞度ごとに主の詞をおもひ出す
○早くかへすがお前のためといつてかくして舌を出す
○しばし留たい其本心はぬしのお金がほしいから
○好でもとめたわたしの苦労好る貴郎がおいとしい
○思たばかりで届かぬ恋の届く器械がもとめたい
○主はそんなになぜ邪すゐだろなぞと矢張欺すやつ
○食付やはなれぬ虱は可愛蚤の飛逃にくらしい
○人に頼めばうき名が恐し二人じや文殊のちゑも無
○間夫の手紙の書そこないを客に其まゝ間にあわせ
○別れに着せたる羽織の紋も影と日向とある恋い路
○酸も甘も能しる人は浮世の辛みもなめてみる
○恋と欲との二筋かけて私しや三筋をひく家業
○娼妓にや実なし抔いふ人にや見せてやり度奴の実
○どふせ読れて仕舞た鼻毛今更抜くのはむだな事
○侭になるなら襦ばんに成てぬしの肌身を守りたい
○主へ三すじの電信かけて気をひく一坐のうた便り
○金銀なくなりや飛車たがないと香車も頭を角計り
○花街通ひと士族の商法すつて仕舞はにや目が覚ぬ
○遠ざかつても又アイウエオ変らぬ誓ひをタチツテト
○金銀どころか紙くずさへも無て冷しい蔵のうち
○才子ぶりする鈍馬な野郎尻のしまりもないくせに
○酒と女はかたきと知て居ても又くふだましうち
○何ときなりともひかしてやろと風の神めがぬかしおる
○うそをつくまの鍋ではないが重なる思ひに増くろふ
○末が苦労になるのは主の浮気と諸しきだか
○主は上等わたしは下等人が中等で邪魔をする
○燈火の暗くなるのは出雲の神かたゞし苦労のし初か
○主の言ばについじれが来て思はず引さく枕らがみ
○角力じんくでやう/\客に出るもスツチヤン爺のため
○愚痴がこぼるゝおもはずしらず堪へ袋のきれめから
○写真とるなら硝子にさんせ裏からおまへのはらをみな
○私しや桜よ主や春霞首尾をよし野の山でそふ
○花に邪魔する雨風よりも恋の邪魔するにくひしと
○心にもない此そら文をどふしてわたしが書たろふ
○人の噂にせ間もせまく今のおもひかかくしづま
○きざなお客と井にわく水は金けが無成や茶にされる
○否な座敷と嬉しい座敷私や泣たりわらつたり
○民権論者のなみだがたまりや頓て自由のふちと成
○義理も不義理モあわれなむりも札の紙から湧て出る
○煙草も印紙を貼上からはわすれ草とは云しやせぬ
○傘の骨にからんで降春雨はどふせ花ちる廓がよい
○梅よ桜よ柳よもゝとさうは一人じやもちきれぬ
○汽車まで通へば苦なしにゆくが矢張お足が先へたつ
○主のうわ気が種まき散しや私しやりんきの芽を出
○命さへもと契つた人に帯やきものをぐらされた
○更た座敷をちよつくりはづし色気はなれは大胡坐
○胸にわき立蒸気を主のおそひ車に仕かけたい
○ほんにあなたは気短などゝ云つゝ箒をそと立る
○文明開化の御代にはなれど矢張苦労はもとのまゝ
○才槌あたまも私しが見ては打出の小槌で捨られぬ

明治廿三年八月十一日印刷
仝   年仝月十四日出版
   東京市浅草区南元町十五番地
   編輯兼印刷発行者 牧金之助


十一 こゝろいき辻うらどゝ一(刊年不明。明治初期か。越村屋平助版。)

(見返)
新選六十四卦
心意気辻占都々一
東都 越村屋平助板

此うらなひの仕やうは常に信心する所の神仏をいのり心に思ふ事を念し何とぞ吉凶を告給へと銭三文づゝを両の手にてよくふり二度なげいだし形のかたを黒とし波のかたを白とし本文の○●(白黒)にあはせてうたのよしあしにて其身のねがひ望身の上等に引くらべ唄の心をよくすいりやうしてはんだんすべし善悪ともに其人の信ずるによる所にこそ

一縁だんの吉凶
一男女の相性
一願ひのぞみ
一待人の遅速
一身の上の考
一行すゑの事
◎にあらざれば何にても表うらあるものを右の易にあて用てよし

●●●●●●乾為天
思ふ念力とゞいたうえは行世つきせぬさゞれ石
○○○○○○坤為地
ひんなくらしにおもはぬおまへすえのとげやうはずがない
○●○○○●水雷屯
神や仏のちかひもあらばやがて其身もすみ田川
●○○○●○山水蒙
ぬれたことからつい苦にやんで娘ごゝろの五月雨
○●○●●●水天需
壁に耳ある世の中なれば隠しおうせることはない
●●●○●○天水訟
露にうかれて来るてふ/\も風がぢやまする世のならい
○○○○●○地水師
水をあげてもためなをしてもいけて久しきものぢやない
○●○○○○水地此
しんの余城ぢやわしやないけれど思ふ念力おもふ程
●●○●●●風天(ママ)
なしたなんぎはのかれもしやうが人に天震まぬがれぬ
●●●○●●天沢履
まるに井の字は白井の水よあらいあげたる小むらさき
○○○●●●地天泰
かへる厂金手紙をわたしやがて燕のへんじして
●●●○○○天地否
国の手形は言葉とやらで人にゆだんはなりやせまい
●●●●○●天火同人
梅と竹とをなるべく植て千代に八千代にはなの兄
●○●●●●火天(ママ)
およばぬねがひはいのらぬものよ天にとゞかう竹はない
○○○●○○地山謙
うきな辰巳の小まどをあけて主の来るのを松の風
●○●○○○雷地予
はらを立田の紅葉はいやよ顔のあからむことちやもの
○●●○○●沢雷随
月の下ゆくあのむら雲はよその見る眼もかくすだろ
●○○●●○山風蠱
千里ひと飛恋にはうときとらの位をかる野良狐
○○○○●●地沢臨
人におくれてたゞ何ごともふくの来るのをさきになる
●●○○○○風地観
風の木の葉はついちりやすいはやき青葉は跡になる
●○●○○●火雷噬●(口+盍)
身をばたゞへりくだりたる浮世は安くくらせいそがずはかどらず
●○○●○●山火賁
わけもないしよの目つまを忍ひあがるはしごのだんまつま
●○○○○○山地剥
つれてのかんせみやまのおくにふたり暮すをたのしみに
○○○○○●地雷復
これや目出度四海のなみにうかむ瀬もある世のためし
●●●○○●天雷无妄
ぬしの心を遠からしればむりな願ひはせぬものを
●○○●●●山天大畜
釣に夜も日も明石のうらの汐のみち干は幾とても
●○○○○●山雷頤
ぬしとわたしはついふたごゝろおなじやうぢやがつりやはぬ
○●●●●○沢風大過
小野小町の行末しれば人にたよらぬものはない
○●○○●○坎為水
うそもまことに駿河の不二もゆきの肌えにやとけやすい
●○●●○●離為火
春の日和はわたしの心秋のひよりはぬしの癖
○●●●○○沢山咸
信と忠とに身はおきふしのなんのおそれる物があろ
○○●●●○雷風恒
いもせ雷神そのよい中も人にやおちめの有ぞいの
●●●●○○天山遯
人は一心たゞひとすぢによいもわるいもなる御山
○○●●●●雷天大壮
かくす事とは元より承知しれりやたかひの身のつもり
●○●○○○火地晋
我はゆたかとゆだんはならぬ花にあらしのあるならひ
○○○●○●地火明夷
はじめはよけれどをはりがわるい中のわるいは常の事
●●○●○●風火家人
君とわたしは比翼の鳥(ママ)苦労しながらはなれない
●○○○●●火沢●(目+癸)
酒にいはする心のたけをうけてとぼすはなさけなや
○●○●○○水山蹇
かなはぬ恋なら先すてゝおけ叶やたかひに身をくやむ
○○●○●○雷水解
諸書に明るくなりふりまでも替りやすき(ママ)恋のみち
●○○○●●山沢損
悪のむくひはたちまちくると知てしらない地蔵顔
●●●○●●風雷益
始手はこはいは思ひの外にやがて無運となるしらせ
○●●○○○○沢天夬
時とじせつと世のことはざに雨となる日も風となる
○○○●○○天風姑
縁につながりゑにしの尾縄きれどおまへのむりばかり
○●●○○○沢地萃
めぐりあふ世もまたあらうかと仏だのみの身のつとめ
○○○●●○地風升
出船入船そのある中にわたしやまよいて真帆片帆
○●●○●○沢水困
人の富のをうらやむよりも己が貧せぬやうにして
○●○●●○水風井
夢になりともしらせんものとむすめ心のものあんじ
○●●●○●沢火革
たとえ世間で笑をとまゝよ神がむすびしゑんぢやもの
●○●●●○火風鼎
家やゆかしきあの琴の音と人にいはるゝしどけなさ
○○●○○●震為雷
手水鉢にて手を清水にちらす清玄桜ひめ
●○○●○○艮為山
貧苦/\におひまはされて末にやこの身のおきどころ
●●○●○○風山漸
硯引よせかく玉ふみはやがておのれのほぐとなる
○○●○●●雷沢帰妹
主をわたしは木立にとりて化さるゝとも気にかけぬ
○○●●○●雷火豊
人の恵のかずかさなりて神のめくみもやかてまた
●○●●○○火山旅
心がらとて身を喰つめてたよりなき身の置どころ
●●○●●○巽為風
鳥の雛さえなく音をまねる親はこひしき雉子のこゑ
○●●○●●兌為沢
仏迷へはぼんぶのやうとたとへ世間で言ばいへ
●●○○●○風水渙
常にゆだんのない人ならば何に驚くことがある
○●○○●●水沢節
野辺に飛かふ蛍ぢやないが心がらゆえ身をこがす
●●○○●●風沢中孚
これかあれかと迷ふて居てはいつも定まることはない
○○●●○○雷山小過
悪き心をさらりとやめておにも仏となるならは
○●○●○●水火既済
雪の降のはそりや幾日でもはれりやとけるが世のならい
●○●○●○火水未済
祷る心にまことをこめてやがて夫婦と成田山


十二 〔恋の辻うら〕都々一独うらなひ(刊年不明。明治初期か。判断文省略。)

恋の辻占独り判断
このつぢうらの仕方はぜに六文を手に握りなむ乾元かうり/\/\と三べん唱へその銭を投出しその銭の並びしとをりを引合せ歌の心と判断とを見てその吉凶を知るべし
○○○○○○白は波の形なり
●●●●●●黒は文字の方なり

●●●●●●乾為天
まほに受よく乗出す船もふとした風からあと戻り
○○○○○○坤為地
若や夫かと閨の戸明りや月はおぼろに啼水鶏
○●○○○●水雷屯
花に靡くも世渡り故にこちは三筋の糸やなぎ
●○○○●○山水蒙
ちから揃へば踏石さへも揚てゆるがす霜柱
○●○●●●水天需
顔は見ゆれど互ひの胸を明て言れぬガラス窓
●●●○●○天水訟
苦労気がねを積重ねたる二等煉瓦の楽住居
○○○○●○地水師
ひよく連理と契りし中も仇な嵐しで気がそれる
○●○○○○水地此
心の苦労もしばしの間昔語りの種となる
●●○●●●風天小畜
月の誠はうつらぬ筈よ池にや浮気な草がある
●●●○●●天沢履
新聞へ出された時には恨んだものゝ斯成りや二人の結ぶ神
○○○●●●地天泰
赤いしかけで迷はすものは恋の手管の教道師
●●●○○○天地否
アレサおよしと払つた手先いつか枕の下になる
●●●●○●天火同人
酒も豆腐も自由な廓で聞は果報かほとゝぎす
●○●●●●火天大有
右と左りに妾と女房酒と肴で楽遊び
○○○●○○地山謙
うひもつらひも恋路の習ひ辛抱仕とげて宿の妻
●○●○○○雷地予
花よ涼と楽しむ内にいつか吹こむ秋のかぜ
○●●○○●沢雷随
心と心があいさへすれば性が合ふが合ふまいが
●○○●●○山風蠱
かたいお前と思ひの外にみかけ計りの夏氷
○○○○●●地沢臨
月夜がらすと止ては見たが嘘のつけない鐘のかづ
●●○○○○風地観
床の花よと詠むるうちにいつか色づく室の梅
●○●○○●火雷噬●(口+盍)
曇る噂さも訳さへつけば晴てうれしい梅雨の空
●○○●○●山火賁
主の此頃顔向せぬは胸に焚火でけむいのか
●○○○○○山地剥
おぼろ月夜がさらりと晴て忍ぶ恋路の邪魔をする
○○○○○●地雷復
思ふお方は兵士にあたりわづか三とせが百千年
●●●○○●天雷无妄
端書便りどや人目が多い中を知らせぬ封じ文
●○○●●●山天大畜
花に来りてたはむれる蝶も居所さだめぬ花ごのみ
●○○○○●山雷頤
添れにや死ぬとは開けぬことよ命ありやこそ末もある
○●●●●○沢風大過
同じ人でもお客と車夫は車へ乗す人曳す人
○●○○●○坎為水
すかぬお客に見受をされて楽も苦の種主のたね
●○●●○●離為火
風のまに/\アノ浮草は岸を定めず花がさく
○●●●○○沢山咸
枕あいてに写真をながめ主とそひ寝をしたごころ
○○●●●○雷風恒
ぬいたりはめたりして居るうちに足をいためる出来のくつ
●●●●○○天山遯
灯火の蔭に迷ふてうか/\来ると命すてるぞ夏の虫
○○●●●●雷天大壮
まだか/\と夢中に成て欲に手を焼く米会社
●○●○○○火地晋
心うち解下紐までもとけてかたらふ好た同士
○○○●○●地火明夷
うそじやないよとことわる丈に猶もうたぐる胸のうち
●●○●○●風火家人
ヒタと寄そひ抜身を握り殺しておくれと鼻でいき
●○○○●●火沢●(目+癸)
口の車へ野暮をば乗てそして三すじの糸でひく
○●○●○○水山蹇
延した心の糸目が切て風にたゞよふ奴だこ
○○●○●○雷水解
主の咄しは表もうらもなくて涼い門やなぎ
●○○○●●山沢損
たゝきながらも疑はしやんす赤い西瓜の気もしれず
●●○○○●風雷益
塵積で山と成程借銭したも三味の調子にのつたばち
○●●●●●沢天夬
以後の浮気は罰金ときめて是までしたのはおとり消
●●●●●○天風●(女+后)
桃と桜をならべて見ればいづれおとらぬ花の色
○●●○○○沢地萃
待夜の長さを四時間つめて逢夜の短いたしまいに
○○○●●○地風升
智恵は付もの勉強次第鳥や毛物が芸をする
○●●○●○沢水困
ちから自慢は役には立ぬ色の初わけは義理情
○●○●●○水風井
私しや長靴おまへはとんび晴て逢れぬ身の因果
○●●●○●沢火革
鎧兜は昔しの武者よ今じやシヤポにつゝツぽう
●○●●●○火風鼎
白と黒とはわたしの胸に置ておまへにゆづる勝
○○●○○●震為雷
色をしたふて小蝶の客が通ひくるわの夜の花
●○○●○○艮為山
したふお人は深山のさくらたとる路さへないつらさ
●●○●○○風山漸
おまへに見せよと結つたる髪を夜中に乱すも又おまへ
○○●○●●雷沢帰妹
末の遂ない縁ならよしな苦労する身の甲斐がない
○○●●○●雷火豊
岸の柳はそよ吹に靡くふりして逃て居る
●○●●○○火山旅
入替引替客のせるのも浮た私しの舟だから
●●○●●○巽為風
斯なりや互ひの手ごとにや行ぬ入れざなるまい人のくち
○●●○●●兌為沢
意気なざんぎり小意気な坊主一つべつつい二タこゝろ
●●○○●○風水渙
あきらめませうぞ最お互ひに色増や紅葉も散ばかり
○●○○●●水沢節
わたしが思ひは西洋床よ結ぶに言れぬ神いぢり
●●○○●●風沢中孚
斯なりや別れか又惜くなる解たはなしの雪の朝
○○●●○○雷山小過
ヘチヤナげいしやも官員さんもおなじ勤の身の苦労
○●○●○●水火既済
?たヱレキが感通なしてうれしいごげんが苦のはじめ
●○●○●○火水未済
お前いやでもほうばいのてまへわたしや意地でも呼とうす


「甲南女子大学研究紀要」第40号 文学・文化編 掲載