子供の村



子供の村
絵入童謡
第六集
北原白秋著



序詩


子供の村

子どもの村は子どもでつくろ。
  合唱「みんなでつくろ。」
赤屋根、小屋根、ちらちらさせて、
  合唱「みんなで住まうよ。」

子どもの村は垣根なぞよそよ。
  合唱「ほんとによそよ。」
草花、野菜、あつちこつち植ゑて、
  合唱「すず風、小風。」

子どもの村は子どもできめよ。
  合唱「みんなできめよ。」
村長さんを一人、みんなで選び、
  合唱「みんなで代ろ。」

子どもの村は早起ばかり、
  合唱「鶏と起きて。」
朝の中、御本。お午から外へ、
  合唱「はたらいて歌はう。」

子どもの村は子どもで護ろ。
  合唱「みんなで護ろ。」
てんでの仕事、てんでにわけて、
  合唱「みんなで励まう。」

子どもの村は仲よし小よし、
  合唱「喧嘩せずに。」
てんでに助け、てんでに仕へ、
  合唱「楽しんで遊ぼう。」

子どもの村はお伽の村よ。
  合唱「お夢の里よ。」
星の夜、話。月の夜、お笛。
  合唱「すやすや眠よよ。」

子どもの村はいつでも子ども、
  合唱「いつでも春よ。」
子どもの祭、おてんとさんの神輿。
  合唱「わつしよ、わつしよ、わつしよな。」



子供の春


新入生

小さな子どもさん。
新入生の子どもさん。
学校へ行くなら、
連れてつてあげよ。
げんげの原つぱを
近道しましよ。

小さな制帽さん。
うれしさうな子どもさん。
杏の木かげを、
連れてつてあげよ。
雨雨ふるなら、
お傘に入れよ。

小さな鞄さん。
小さなお靴さん。
お友だちになりましよ。
連れてつてあげよ。
子どもの燕も
おさそひしましよ。


豆の葉

鳴らそ、鳴らそよ、
豆の葉を鳴らそ。
豆はそら豆、その葉をもんで
指にそめましよ、青い汁を、指に。

鳴らそ、鳴らそよ、
豆の葉を鳴らそ。
豆はそら豆、その葉を吹いて、
ぷうとお口でふくらましよ、口で。

鳴らそ、鳴らそよ、
豆の葉を鳴らそ。
豆はそら豆、その葉をのせて、
ぽんとお掌掌で鳴らしましよ、お掌で。

鳴らそ、鳴らそよ、
豆の葉を鳴らそ。


ころころ蛙

ころころ蛙が
はや鳴くよ。
お池のそばまで出て見よか。

ころころ蛙が
また鳴くよ。
おしめりしめりに出て見よか。

ころころ蛙は
どこにゐる。
ちらちら桜のかげにゐる。

ころころ蛙が
ほれ、ゐたぞ。
菱の葉めくつて、ほれ、出たぞ。

ころころ蛙の
のどぶくろ、
ころころ鳴くたび膨れてる。


たんぽぽ

沼の田べりのたんぽぽは、
たんぽぽは、
咲けば、ざぶりと、
波が来る。

  たんぽぽ、たんぽぽ、
  波が来る。

沼の田べりのたんぽぽよ、
たんぽぽよ、
咲けば、子どもが、
舟で来る。

  たんぽぽ、たんぽぽ、
  舟で来る。


伝馬ゆさぶろ

伝馬ゆさぶろ。
柳ももえた。
田では、かへるも
   ころつ、ころつ、
ころろ啼く。

小舟ゆさぶろ。
真菰ももえた。
水ぢや、むぐつちよも
   けろつ、けろつ、
けろろ啼く。

みんなゆさぶろ。
来た、来た、春が。
春はお鳩も
   ほろつ、ほろつ、
ほろろ啼く。

  註 むぐつちよはにほのことです、かいつぐり、ケツグリのことです。


牛と子ども

牛は牛づれ、
つんつながつてまゐる。
子どもは子どもと、
つんつながつてまゐる。

牛は牛づれ、
たんぽぽたべてまゐる。
子どもは子どもと、
げんげとつてまゐる。

牛は牛づれ、
のろりのろりまゐる。
子どもは子どもと、
えつさえつさまゐる。


学校がよひ

畦にしどみが赤いころ、
学校へ母さん連れてつた。
いまでは松蝉鳴いてます。
ひとりでわたしもかよひます。

学校がよひは朝はやい。
蒿雀が鳴くので、お家出て、
丘越え、谷越え、橋越えりや、
つつじや山吹咲いてます。

学校もどりもおもしろい。
石投げ、草ほり、とつとこと、
夕日の林を出はづれりや、
お家に仔馬も嘶いてます。


やなぎのわた

楊の絮の飛ぶころは、
黄ろいほこりもかすみます。
乗れ乗れ、ちいさな驢馬のうへ、
夕日の古塔を見に出よか。
奉天北陵、新市街、
飛べ飛べ、やなぎの毛の絮よ。
房つき帽子をうち振ろか。
やなぎのわたの飛ぶころは、
日本のお祭思ひだす。


栄螺の夢

栄螺のなかには誰がゐる。
栄螺の爺さましやがんでる。

栄螺の爺さま何してる。
昼間もうとうと夢見てる。

栄螺のお夢はどんな夢。
向うの向うの海の夢。

向うの向うはどんな海。
あなたの知らない青い海。

ああ、青い海、広い海、
遠くの遠くにかすんでる。



子供の夏


陸と海

鐘が鳴る。
鐘が鳴る。
あれは港の船の鐘、
鳴れば端舟が漕いでゆく、
野菜や林檎を積んでゆく。
畑のにほひは新らしい、
地面の露けがこぼれさう。

鐘が鳴る。
鐘が鳴る。
あれは港の船の鐘、
鳴れば積荷をあげかかる、
魚や珊瑚と取り換へる。
沖から来るのはめづらしい、
海の潮けがこぼれさう。


子どもの大工

夏が来た、夏が、
すずしいすずしい夏が。
  杉の板、小板、
  すうすと削ろ。

芥子が咲いた、芥子が、
白い白い芥子が。
  杉の板、小板、
  すうすと削ろ。

蝶蝶も飛べよ。
かんなくづは軽い。
  杉の板、小板、
  すうすと削ろ。

わたしは大工、
鉢巻しめて、
  杉の板、小板、
  すうすと削ろ。

造ろよ、造ろ、
子どもの家を。
  杉の板、小板、
  すうすと削ろ。

夏が来た、夏が、
芥子が咲いた、芥子が。
  杉の板、小板、
  すうすと削ろ。


いちご

とろりとろりと、
お山のすそに、
ねんねする子が、
一、二、三、四、五、六、七、八、
九、十。
とろりとろりと、
いちごの小坊主、
赤いお帽子で、
一、二、三、四、五、六、七、八、
九、十。

とろりとろりと、
ねた間にふとれ。
鐘も鳴ります、
一、二、三、四、五、六、七、八、
九、十。

とろりとろりと、
蛍もねむれ。
赤いお帽子で、
一、二、三、四、五、六、七、八、
九、十。


からたちの花

からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。

からたちのとげはいたいよ。
青い青い針のとげだよ。

からたちは畑の垣根よ。
いつもいつもとほる道だよ。

からたちも秋はみのるよ。
まろいまろい金のたまだよ。

からたちのそばで泣いたよ。
みんなみんなやさしかつたよ。

からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。


かんなくづの笛

みんなは草ぶえ、葦のふえ、
わたしのお笛はかんなくづ。

ひと巻き、ふた巻き、かんなくづ、
紅ばなたたいて染めましよか。

みんなのかあさん草刈りに、
わたしの父さん船大工。

父さんお船はいつできる、
兄さん海見にいつ連れる。

わたしのお笛はかんなくづ、
吹いてりや楊の絮が飛ぶ。


あの子のお家

あの子のお家はどんな家。
野茨が咲いたと言つてゐた。
仔馬もゐるよと言つてゐた。

あの子のお家はどこいらか。
雲雀よ。空から見ておくれ。
よしきり。よしきり。行て見よよ。

あの子のお家はどのお家。
土手から土手へとのぼつても、
つばなやよもぎの風ばかり。

あの子のお家は葭の中、
向うの向うの沼のへり。
仔馬もゐるよと言つてゐた。


夏の小川

小川はごきげん、よい天気、
ちよろちよろ笑つて走ります。
坊つちやんお早う、今日は。
山ではかやの実生りました。
ここらのいが栗まだ青い。
坊つちやん泳ぎにゆきますか。
菱の実さがしに来ませぬか。
やれやれ、わたしはいそがしい。
もひとつ、お里のみづぐるま
くるくる廻して、粉挽いて、
それから海へとまゐりましよ。
一あしお先きに行つてますよ。
そろそろ裸で出ておいで。
麦稈帽と手拭忘れずに。




こさへよ、笛を、
おうちの竹で。

孔あけて吹かうよ、
おれつちの笛を。

うまやの横で、
唐もろこしのかげで。

栗毛馬の汗の、
まだついたお手で。

鉄砲百合の粉の
べとついた指で。

濡れ濡れ吹かうよ、
野山の露に。

月の夜は吹かうよ、
青竹の小笛。

こさへよ、笛を、
おれつちの笛を。


山羊の子

お乳にはなれた山羊の子は、
小舎から空見てさびしさう。

出ろ出ろ、裾野は花ざかり、
鈴蘭、矢車、なるこ百合。

お馬で駈けるは異人の子、
広場はテニスの球が鳴る。

さあ出ろ、山羊の子、夜が明けた、
お鈴もちりからつけてやろ。

小山の小山の花すすき、
テニスの球でも拾ひましよ。


すずらん

すずらん、すずらん、
  しろいすず。
すずらん、すずらん、
  やまのはな。

すずらん、すずらん、
  もやのなか。
すずらん、すずらん、
  ひがくれる。

すずらん、すずらん、
  すずがなる。
すずらん、すずらん、
  つきがでる。


蓮の花

蓮の花見は
夜あけごろ、
  ぽつ、
  ぽつ、
  ぽつ、
  ぽつ、
音がする。

お城の蓮濠目がさめる。
  ぽつ、
  ぽつ、
  ぽつ、
  ぽつ、
夜があける。

蓮見にゆくのはまだ暗い。
今夜は早よ寝て、早起きよ。
  ぽつ、
  ぽつ、
  ぽつ、
  ぽつ、
目をさまそ。

  注意。「ぽつ」は軽く、「ぽ」は「ぼ」と「ぱ」の間の音、「つ」はあるかなしに含ませる。蓮の花の開く気もちで。


鸚哥さん

鸚哥さん、鸚哥さん、
お豆をもぐもぐ、嘴のなか。
  小山の虹でも御覧かえ。

鸚哥さん、鸚哥さん、
薔薇いろお帽子羽根のうら。
  魔法の夢でも御覧かえ。

鸚哥さん、鸚哥さん、
気が向きや、くるくる風ぐるま。
  入日の海でも御覧かえ

鸚哥さん、鸚哥さん、
お籠に、「母さま、今晩は。」
  月夜の影でも御覧かえ。



子供の秋


お窓のそと

お窓のそとには芙蓉が咲いて、
誰でしよ、誰でしよ、お帽子が出てる。

いつまでたつてもあちらを向いて、
誰でしよ、誰でしよ、寄つかかつてゐます。

小さなおこゑで、リボンが揺れて、
誰でしよ、誰でしよ、本読んでゐます。

お眼眼をふさごか、お帽子をとろか、
誰でしよ、誰でしよ、まだ読んでゐます。

お窓のそとには芙蓉が咲いて、
誰でしよ、誰でしよ、寄つかかつてゐます。


子どものお医者

わたしは子どものお医者です。
わたしの病院、乳母ぐるま、
蜜柑の木のかげ、花畑、
すずしいお池や、ゐなか道、
どこへも巡回いたします。

わたしはお医者の博士です。
泣いてる子どもも療します。
こはれた人形や、きりぎりす、
碧いとんぼのトラホーム、
外科も内科も上手です。

わたしは親切なお医者です。
妹の薬局、バスケツト。
たたいた葉つぱや、薔薇の汁、
おいしいパンくづ、粉ぐすり、
ガーゼも万創膏も持つてます。

わたしは子どものお医者です。
わたしは御礼を受けません。
病気したポチ、弱い鳩、
いぢめられたり、怪我したり、
かはいそな誰でもたすけます。

さあさあ、皆さん、いらつしやい。
どうぞどうぞ、こちらへいらつしやい。


われもかう

かはいいかはいいわれもかう、
わたしはこの花知つてゐる、
ゑび茶のぼんぼん、われもかう。

このよなこのよなわれもかう、
いつだか見てゐた、つんでゐた、
ゑび茶のぼんぼん、われもかう。

ちやうどよ、ちやうどよ、われもかう、
あの日も野みちではぐれてた、
ゑび茶のぼんぼん、われもかう。

うれしいうれしいわれもかう、
ひとつのお茎に花ひとつ、
ゑび茶のぼんぼん、われもかう。


日のくれの声

日のくれごろの野にゐれば、
遠くにお声がしてゐます。
チヤルメラなんぞも聞えます。
汽笛や車の音もする。

向うの向うは夕焼か、
子供の騒ぎも聞えます。
電信柱もうなります。
牝牛も丘からほえて来る。

ひもじいひもじい日のくれは、
いろんなお声がして来ます。
花摘み、草摘み、御飯時。
お家で母さん呼んでゐる。


月の出

ぽつと咲くのは月見さう、
ラケツトふりふり帰りましよ。
ラインもネツトももう見えぬ。
  姉さま姉さま、暮れました。

ぽつとあがるはお月さま、
ラケツトふりふり帰りましよ。
ボールもお空へ飛びました。
  姉さま姉さま、暮れました。

ぽつと海にも月見さう、
ラケツトふりふり帰りましよ。
おふねにあかりがつきました。
  姉さま姉さま、暮れました。


お坊さま

もうしもうし、お坊さま、
あかい苜蓿さきました。
いやいや、わたしはいそぐでな、
この道とほして下されや。

もうしもうし、お坊さま、
子猫がうまれてをりまする。
これこれ、お日さまはひるでな、
その袖はなして下されや。

もうしもうし、お坊さま、
なにかくだされ、はなします。
ほらほら、見なされ、このとほり、
お珠数がひとかけ、やぶれ笠。


山道とつぷり

山道とつぷり、日が暮れた。
かなかなかなかな、あれはなに。
あれはひぐらし、山の蝉。

山道とつぷり、もう暗らい。
かつこうかつこう、あれはなに。
あれは杉山、かつこ鳥。

山道とつぷり、つづらをり。
ごそこそかさかさ、あれはなに。
あれはむじなの嫁さがし。

山道とつぷり、腹空いた。
ごろすけほうほう、あれはなに。
あれは血を吸ふ縞梟。

山道とつぷり、闇の崖。
ちらちらちらちら、あれはなに。
あれは一つ家、お化小屋。



子供の冬


春まで

   子供
鳥網張りには夜が明けて、
鈴鴨うつのは日が暮れて、
昼間は父さん草鞋うち、
母さん、正月いつ来ます。
   母親
鳥網張つたら、鳥舎かけて、
鈴鴨うつたら、餅ついて、
みんなのお足袋も編みあげて、
坊やよ、正月ぢき来ます。


ペチカ

雪のふる夜はたのしいペチカ。
ペチカ燃えろよ。お話しましよ。
むかしむかしよ。
燃えろよ、ペチカ。

雪のふる夜はたのしいペチカ。
ペチカ燃えろよ。おもては寒い。
栗や栗やと
呼びます。ペチカ。

雪のふる夜はたのしいペチカ。
ペチカ燃えろよ。ぢき春来ます。
いまに楊も
萌えましよ。ペチカ。

雪のふる夜はたのしいペチカ。
ペチカ燃えろよ。誰だか来ます。
お客さまでしよ。
うれしいペチカ。

雪のふる夜はたのしいペチカ。
ペチカ燃えろよ。お話しましよ。
火の粉ぱちぱち、
はねろよ、ペチカ。

   この童謡は南満教育会用として作つたものの一つです。作曲は山田耕作氏です。なほペチカとはロシヤ式暖炉のことです。




鷹だ。鷹だ。そりや見えた。
ほらほら、飛んでる。親鷹だ。
向うお山の白樺に、
ほらほら、とまつた。親鷹だ。

鷹だ。鷹だ。そりや来たぞ。
ほらほら、翔つた、隼だ。
何か見つけた。渓間だ。
ほらほら、ねらつた。親鷹だ。

子の鷹子の鷹、どこにゐる。
ほらほら、嵐だ、山鳴だ。
渓に砂金が光つたぞ。
ほらほら、風切る、親鷹だ。


探険家

僕は子どもの探険家、
犬に曳かせた橇に乗る。
湖水は氷が張りつめる。
野山はまつしろ雪になる。
  吹けよ、風、風、
    吹雪も来いよ。

白樺ばやしに小舎たてて、
朝からぼうぼう火をもそよ。
僕はナイフを持つてゐる。
食糧は堅パン。ビーフ。ポテト。
  吹けよ、風、風、
    吹雪も来いよ。

地図や磁石もそろつてる。
壁には空気銃かけておかう。
それから、寝台もこしらへる。
赤い毛布をひつかぶる。
  吹けよ、風、風、
    吹雪も来いよ。

熊でも鹿でもこはかない。
来たならづどんとうつてやろ。
それより仲よく泊めてやろ。
僕は英語も知つてゐる。
  吹けよ、風、風、
    吹雪も来いよ。


半どん

今日は半どん、よい日和、
港に蒸汽もはひつてる。
鰯もどつさりあがつてる。

紅いリンゴをあげましよか。
黄ろいバナナをあげましよか。
日向に小母さん呼んでゐる。

紅い林檎はよいボール、
ひとつください。こりやいいな。
そらそら、ぽうんとほふりあげよ。

海岸どほりはよい通、
赤い林檎はよいボール。
ほふりあげほふりあげ駆けて行かう。


ぼんぼん時計

チツクタツク、お早う、夜が明けた。
おめざの歌でもうたひませう。

チツクタツク、かりうど、いそぎます。
太郎さんは林へ入りました。
緑の青蒿が居りました。

チツクタツク、かりうど、いそぎます。
次郎さんはお山へゆきました。
茶色の狐が鳴きました。

チツクタツク、かりうど、いそぎます。
三郎さんは池塘へ下りました。
雪のやうな白鷺立ちました。

チツクタツク、かりうど、いそぎます。
四郎さんは海へと漕ぎました。
紫鯨が浮きました。

チツクタツク、かりうど、いそぎます。
みんなが鉄砲忘れました。
赤い外套を投げました。

チツクタツク、お早う、夜が明けた。
ぼんぼんぼんぼん。そら、四時だ。


お月さま

お月さまいくつ。
十三七つ。
七つの海を、
朝から越えて、
南のはてで、
闇の夜になつて、
ちつちやいペンギン鳥が、
氷の原を、
あつちの星や青いぞ、
こつちの星や赤いぞ。



子供の夜話


山かつぎ

あつたとさ。あつたとさ。
むかしのむかしであつたとさ。
だれでも子どもであつたとさ。
お山も子どもであつたとさ。

あつたとさ。あつたとさ。
子どもの百姓があつたとさ。
子どものお山を畚に入れ、
やつこらかついで、うんとこしよ。

うんとこしよ。どつこいしよ。
一番、かついで、そりや重い。
もひとつ歩いて、こりや重い。
緒縄が切れ切れ日は永い。

ぺつたらこ、ぺつたらこ、
ぺつたら尻もちついたとさ。
みんなが手たたきをかしがる。
あははのあははであつたとさ。

あつたとさ。あつたとさ。
むかしのむかしであつたとさ。
みんなが子どもであつたとさ。
笑つてばつかりをつたとさ。


路つくり

むかしのむかしのその昔、
雀の先祖が路つくり、
ちゆんちゆく雀の路つくり。

雀の父さん木を伐れば、
母さん雀は草刈りで、
こどもの雀は土はこび。

丘から丘へと路つくり、
谷から谷へと橋をかけ、
朝から晩まで、せつせこせ。

それから、お宿を組みたてる。
煙がたちます。灯がともる。
雀の村村できかけた。

雀の先祖はよい先祖、
草わけ雀はよい雀。
いまでも雀は路つくり。


安寿と厨子王

    山椒太夫その一

人買舟にさらはれた
安寿厨子王、姉弟。
 山椒太夫はおそろしい。
 姉と弟は買はれます。

父さまこひし、筑紫潟、
母さまこひし、佐渡ケ島。
 山淑太夫が云ふことに、
 汐汲み、柴刈り、日に三荷。

安寿は浜へ、汐汲みに、
柄杓手にもち、肩に桶。
 厨子王山へ柴刈りに、
 手には刈鎌、背に籠。

姉の汐汲みはかどらぬ。
柄杓は波にさらはれる。
 弟柴刈りかはいさう、
 柴は刈れずに指を切る。

父さまこひし、筑紫潟、
母さまこひし、佐渡ケ島。
 夜は夜とて浪の音、
 山椒太夫の眼が光る。

   解
遠い筑紫の国にゐられるお父さまをたづねて行く途中、越後の沖で、人買舟にだまされて、安寿と厨子王は、お母さまや女中の姥竹とは別の舟に乗せられてしまひます。さうして両方から声をかぎりに呼び合ひながらたうとう南と北へ生別れをしてしまひます。姥竹は海に飛び込み、お母さまも身投げしようとなさるのを押へられて佐渡ケ島へ連れられ、二人の子供は丹後の由良の港へゆき、その近所の山椒太夫といふ物もちのおそろしい白髪の爺さんに七貫文で買はれたのです。


雀追ひ

    山椒太夫その二

安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 ここは荒海、佐渡ケ島、
 雑太の庄の里はづれ。

安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 二人が母さま、ぼろぎもの、
 めんめめくらで、竿もつて。

安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 追つても追つてもむら雀、
 干した蓆の粟のうへ。

安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 遠い薄陽にほうやれほ、
 雀追ひ追ひ、ほうやれほ。

   解
さんざんにこきつかはれた安寿と厨子王はおしまひに山椒太夫のところを逃げ出すのですが、姉は弟を逃がすため川へ身を投げて死に、厨子王はやつとある坊さんから助けられて、それから都にのぼります。後に丹後の国守になつたとき、お母さまをたづねて佐渡ケ島へわたると、お母さまはかうして雀追ひをしてゐらつしやるのです。厨子王はそれをお母さまとは知らなかつたのですが、「厨子王こひしや。ほうやれほ。」といふのをきいて、もうたまらなくなつて飛んで行つてかぢりつく。めくらのお母さまも驚いてじつと見つめてゐるうちに不思議に眼があいて、それが厨子王だと知れると思はず抱き合つて二人でおいおい泣いてしまふのです。これが山椒太夫のお話。


鷺むすめ

粉雪ちらちら、鷺むすめ、
鷺はしら鷺、しろの笠。

薬もらはうか、鷺むすめ、
ひとりしほしほ、杖ついて。

 薬もらはうも
 お馬医者、
 ここらの柳も
 みな枯れた。

粉雪ちらちら、鷺むすめ、
鷺はひとり子、しろ小袖。

母さまお待ちか、鷺むすめ、
外に日暮れて、雪の中。

 あれは蒲の穂、
 はや白い。
 篝火もしましよ、
 雪ぐもり。

粉雪ちらちら、鷺むすめ、
ひとりこごえて、沼のきし。


待ちぼうけ

待ちぼうけ、待ちぼうけ。
 ある日、せつせこ、野良かせぎ、
 そこへ兎が飛んで出て、
 ころり、ころげた
 木のねつこ。

待ちぼうけ、待ちぼうけ。
 しめた。これから寝て待たうか。
 待てば獲ものは駆けて来る。
 兎ぶつかれ、
 木のねつこ

待ちぼうけ、待ちぼうけ。
 昨日鍬とり、畑仕事、
 今日は頬づゑ、日向ぼこ、
 うまい伐り株、
 木のねつこ。

待ちぼうけ、待ちぼうけ。
 今日は今日はで待ちぼうけ、
 明日は明日はで森のそと、
 兎待ち待ち、
 木のねつこ。

待ちぼうけ、待ちぼうけ。
 もとは涼しい黍畑、
 いまは荒野の箒草、
 寒い北風、
 木のねつこ。

  註。これは満州の伝説です。満州の教育会用童謡として作つたものです。



この本のおしまひに
 おそろしい大地震の日から、もうかれこれ二年に近い月日が経つてしまひました。この前の童謡集「花咲爺さん」は皆さんの手に渡るか渡らぬうちに銀座のアルスで紙型まで焼けてしまひましたが、今度のこの「子供の村」はそれから初めての絵入童謡集です。まだこのほかに「象の子」とか「二重虹」とかありますが、それらも引きつづいてお目にかけられるでせう。
 この「子供の村」は雑誌の「赤い鳥」とか「小学女生」とかに載せたものが主で、それに満洲教育会のために作つたのが三篇だけ加はつて居ります。大部分は地震後の作ですが、「子供の大工」といふ一篇はずつと前に作つたのを今までかうした集に入れるためにしまつて置いたのでした。私はとうから「子供の村」といふので、子供たちの生活を歌つたのを一冊にまとめる考でゐたのです。ほんたうを云ふと序詩にあるとほりの気持でもつとまとまつたものにしたかつたのですが、一度に作つたのでないために色色違つた傾向のものが可なりはひつて居ります。で、ただ全体を春夏秋冬にわけて、それに夜話風のものを取り添へて収めることにしました。
 挿画の方は全部清水良雄さんにお願しました。で、この「子供の村」は私の童謡集であるとともに清水さんの画集でもあります。ただ、今度は小さなカツトを私自身で描いてところどころに入れさしてもらひました。よけいな拙いことをして気がひけます。
 それから、私の木兎の家はあの大地震ですつかり倒れるところを、二本の棕梠の木に支へられて、三十度くらゐ傾いたままでどうにか助かりました。それを丸たん棒でこぢ起したのですが、家が軽いからどうにでもなります。最もその次の地震で、また傾きかけましたが、そのまた次の大風でまたひどく傾きました。もう住めないので、内を土間にして、応接室にして居ります。土間には椅子のわきやテエブルの下に薺が生へたり、篠が伸びたり、筍が出たりしてゐます。戸じまりができないので、お寺の鶏が遊びに来たり、硝子のない窓から鶯や蝶蝶やてんたう虫がはいつて来たりします。それでもまだこの小さな家は木兎のやうなとぼけ面をして、この山の上に残つてゐるだけありがたいのです。この春もまはりの竹藪にはたんぽぽや菫が咲きました。梅の花ざかりは過ぎても、今はまだ赤い桃の花が庭の隅こに咲いて居ります。
 この木兎の家は私の家のはいり口にある元の住居ですが、いま私のいつも童謡を書いてゐる室は、そのうしろの半壊れの洋館の二階の書斎で、この書斎はまた食堂になつたり、客間になつたり、子供たちの遊戯室になつたり、お客さまの寝室になつたりします。この屋根裏からはまた、相模灘や大島の煙や箱根の山焼の火なども見えます。それからまた、このうしろの丘には、土筆やすかんぽや虎杖やがずいぶん出ます。
 かうした春もよければ、夏もいい。秋もいい。冬もいい。季節季節で木も草も、それらの花も、昆虫も小禽も、遊びに来る子供たちもそれぞれに私を楽しませてくれるのです。子供の村をこしらへるならかうした南向きの日だまりで、山や海の眺めも広く、畑もつくれる丘だとほんとに子供たちを幸福にするにちがひないなと、よく私は考へてゐます。このお隣は六千坪もある高台ですが、それはよその庭ですからどうにもなりません。この頃は誰も東京から見えず、荒れたままの、草も茂りほうだいですが私は毎日その庭で遊ばしてもらつてゐます。その別荘道には八月の半ばから萩がいつぱいに咲いて、あかい薄の穂が鉄道草の花や稗草の穂などの間からちらちら輝くのがまことに涼しく見られます。
 あ、そのまへに蝉が啼きます。春蝉だとか、松蝉だとか、茅蜩だとか、つくつくほうしだとか。
 私の木兎の家は倒れかけたり、壊れたりしても、この山の上にかうして童謡でも作つてゐられる私は楽しみです。さうしてやつぱり、私は皆さんの木兎のをぢさんでありたいと思ひます。
  大正十四年四月
               小田原木兎の家にて
                         白秋



(奥付)
白秋全集26 第四回配本(第2期二五〜三七巻・別巻一)
一九八七年四月六日発行
定価四二〇〇円
著者  北原白秋
発行者 緑川亨
発行所 〒101東京都千代田区一ツ橋二−五−五
    株式会社岩波書店
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