平曲譜本 芸大本 秘事


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別冊 小秘事 (大小秘事は転載を許す。但し本書に依れる旨明記せらるべし。)
『祇園精舎(ぎをんしやうじや)』(第一巻殿上闇討の前に入る)
ぎをんしやうじやのかねのこゑ、しよぎやうむじやうのひびきあり。しやらさうじゆのはなのいろ、
しやうじやひつめつのことわりをあらはす。をごれるものひさしからず、ただはるのよのゆめの
ごとし。たけきひともつひにはほろびぬ、ひとへにかぜのまへのちりのごとし。
とほくいてうをとぶろふにしんのてうかう、かんのわうまう、りやうのしうい、たうのろくざん、
これらはみなきうしゆせんくわうのまつりごと[まつちごと]にもしたがはず、たのしみをきはめ、いさめをもおもひいれ
ず、てんがのみだれんことをもさとらずして、みんかんのうれふるところをしらざつ
しかば、ひさしからずして、ばうじにしものどもなり。ちかくほんてうをうかが
ふに、しやうへいのまさかど、てんぎやうのすみとも、かうわのぎしん、へいぢのしんらい、これら
はをごれることもたけきこころも、みなとりどりなりしかども、まぢかくはろくはらの
にふだう、さきのだいじやうだいじん、たひらのあつそんきよもりこうとまをししひとのありさま、
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つたへうけたまはるこそこころもことばもおよばれね。そのせんぞをたづぬれば、
かんむてんわうだい五のわうじ、一ぽんしきぶきやう、かつらばらのしんわう九だいの
こういん、さぬきのかみまさもりがまご、ぎやうぶきやうただもりのあつそんのちやくなんなり。かの
しんわうのみこたかみのわう、むくわんむゐにして、うせたまひぬ。そのみ
こたかもちのわうのとき、はじめてたひらのせいをたまはつて、かづさのすけになりたまひし
よりこのかた、たちまちにわうしをいでて、じんしんにつらなる。そのこちんじゆふの
しやうぐんよししげ、のちにはくにかとあらたむ。くにかよりまさもりにいたるまで、六だいはしよ
こくのずりやうなりしかども、でんじやうのせんせきをば、いまだゆるされず。
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『延喜聖代(えんぎせいだい)』(五の巻 朝敵揃の次に入レ之)
わがてうにだいごてんわうとまをして、せいたいましましき、えんぎのみかどとも
まをす。うたのほうわうだい一のみこ、おんばあはくわんしうじのないだいじんたかふぢ
こうのおんむすめ、じようきやうでんのによごとまをしき。げんけい九ねんしやうぐわつひといのひご
たんじやう、うたのほふわうそのときはいまだじじうにてましましければ、ときのひとわう
じじうとぞまをしける。わうじじうくらゐにつかせたまひしかば、くわんぺいぐわんねん
十にんぐわつなぬかのひ、わうじ五さいにしてしんわうのせんじはくだされぬ。おなじき
五ねんしぐわつふつかのひ、わうじ九さいにしてくわうたいしにたたせたまふ。おなじき九
ねん十ぐわつ、五かのひ、おんとし十三にて、ちちのみかどのおんゆづりをう
けて、てんしのくらゐをふみたまふ。しかつしよりこのかた、しんをうやまひほふに
きし、ひとをあはれみたみをめぐみ、しきでうをさだめ、はつどをおこなひ、ひをただし、
せいだうをさきとしたまへり。されば一てんしづかにして、四かいぶじな
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り。三くわうのふるきためしにもおとらず、五ていのむかしにもこえたりき。十
じゆんのあめちくれをやぶらず、ごしつかぜえだをならさず、みやこにはくわいろくの
わざわひもなく、こくどにはえんかんのうれひをきかざりき。ましてひやうらんかく
といふことをば、ゆめにだにみず、きうしをふくろにし、かんくわをかくし、
をさむ。とういせいじつなんばんほくてき、しんらはくさいかうらいけいたんまでも、くびがみをと
いておそれをなし、はこものをささげてあふぎたてまつり、くさきもなびき、とぶとりもしたが
ひたてまつる。あるときみかどしんせんえんへぎやうかうあつてぎよいうありしに、いけのみぎはに
さぎのゐたりけるを、六ゐをめして、あのさぎとつてまゐれとあふせけれ
ば、いかでかとらるべきとはおもへども、りんげんなればあゆみむかふ。さぎはね
づくろひしてたたんとす、せんじぞとあふすれば、ひらんでとびさらず、
すなはちこれをとつてごぜんへまゐらせたりければ、みかどおほきにぎよかんありけ
り。なんぢがせんじにしたがうてまゐりたることしんめうなれ、やがて五ゐになせとて
さぎを五ゐにぞなされける。けふよりのち、さぎのなかのわうたるべしとい
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ふふだを、みづからあそばいてくびにつけてぞ、はなたせたまふ。
まつたくこれはさぎのおんれうにあらず、ただわうゐのほどをしろしめさんがためなり。
ふゆのよのしもさへてんきここにはげしきには、こくどのたみどもがいかにさむか
らんとて、よるのおとどにして、ぎよいをぬがせおはします。いちじんい
でたまふことたやすからず、りつきうしたがつてはくしそなはれりといへども、この
きみつねはしんぜんきたののぎやうかうさがおほゐがはのごかうあり、まつたくこ
れはぎよいうみかりのおんれふにはあらず、しよこく七だうのじんみんひやくしやうらがうつたへまを
すことのてんちやうにたつせぬこともやあらんとて、それをしろしめさんがため
なり。またあまりにひとのしつぼくなるは、もののまをしにくきとて、ののぎやう
かうのひは、てんきことにゑみをふくませおはします。かかりしかば、
うらみをふくむひともなく、うれひをいだくたみもなし。けいをいくとせふれどももちひず、
たみがはふををかさざれば、いへいへにはとざしすることわすれたり。せきぜきは
まぼり、つつしまず、かくてきみあめがしたををさめたまふこと三十三ねん、かん
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ここけふかうして、けいべんかまくちにき。すゐこてんわうよりこのかた、二十
七だいかかるれいはいまだなし、めでたかりけるおんよかな。
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別冊 大秘事
『宗論(しゆうろん)』(高野の巻の次に入る)
いにしへかうやのおやまくわうはいして、六十よねんありけり。しうぼくしげつて
かげくらく、しののほそみちあとたえて、いづくにだうたふありともみえざ
りしに、ぢきやうじやうじんといつしひと、はじめてたづねあらためてしうざうぜられける
とかや。しかるをほりかはのゐんのおんとき、くわんぢ二ねんしやうぐわつ十五にち、せんとう
にしてしんかけいしやうよりあひたまひてしゆじゆのだんぎどもありけり。たうじてんぢく
にしやうじんのによらいしゆつせいして、せつぽふりしやうしたまふとうけたまはりおよばんに、かうべを
かたむけたなひこをあはせて、まゐりたまひなんやといふいちぎのいでたるに、
おのおのまゐるべきよしをまをさる。そのうちにこうのそつまさふさのきやう、そのときは、いま
ださだいべんのさいしやうにて、まつざにさふらはれけるが、すすみいでまをされける
は、ひとびとはみなまゐるべきよしをまをさせたまへども、まさふさにおいては、まゐ
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るべしともぞんじさふらはずとぞまをされける。そのときしよきやうぎしんをなして、
ひとびとはみなまゐるべきよしをまをさるるなかに、ぎよへんいちにんまゐらじとまを
さるるは、しさいいかやうのことどもぞや。こうそつまをされけるは、
ほんてうたいそうのあひだは、じんじやうのとかいなれば、やすきこともさふらひなんず。
てんぢくしんだんのさかひ、りうささうれいのけんなんは、わたりがたうこえがたきみちなり、
まづさうれいといふやまはたいせつざんにつづいて、とうなんはかいぐうにそびえいでたり。
ぎんかんにのぞんでひをくらし、はくうんをふんで、てんへのぼる、みちのとほさ
は八百より、くさきもおいず、みづもなし。くものうはぎをぬぎさりて、
こけのころももきぬやまのいはのかどをかかへつつ、はつかにこそはこえはつな
れ。このみねをさがつて、にしをてんぢくとし、ひんがしをしんだんとなづく。そ
のなかにことにそびえたるやまあり、けいはらせいなんともなづけたり。こ
のみねにのぼりぬれば、三千せかいのくわうけふはまのあたりにあらはれ、いちえんふだい
のわうごんは、あしのもとにあつめたり。またりうさといふかはあり、みづをわたつ
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ては、かはらをゆき、かはらをゆいてはみづをわたる。かやうにす
ることはつかにちがあひだに、六百三十七どなり。はくらうみなぎりきたつてがんせきを
うがち、せいえんみづまいて、このはをしづむ。ひるはけいふうふきたつて、すな
をとばせてあめのごとし。よるはえうきはしりちつてひをもやすことほしににたり。
たとひしんえんをばわたるともえうきのがいなんはのがれがたし、たとひきみの
おそれをばまぬかるとも、すゐはのへうなんは、さりがたし。さればげんしやう三
ざうもむたびまでこのみちにおもむいていのちをうしなひたまひけり。つぎのかうせいのときに
こそほふをばわたしたまひけれ。しかるにてんぢくにもあらず、しんだんに
もさふらはず、わがてうかうやのおやまに、しやうじんのだいしにふぢやうしておはします。か
かるれうちをだにふまずして、たちまちに十まんよりのけんなんをしのいで、れう
しうぜんのみぎりにいたるべしともおぼえさふらはず。てんぢくのしやかによらい、わがてう
のこうぼふだいし、ともにそくしんじやうぶつのげんしやうこれあらたなり。そのゆゑ
は、むかしさがのみかどのおんとき、だいしせいりやうでんにして、四かのだいじようしうのせき
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とくたちをめしあつめて、げんみつろんだんのほふもんいたさるることありけ
り。ほつさうのげんにん、さんろうしうのだうしやう、けごんしうのたうゆう、てんだいしうのゑんしやうおのおの
わがしうのめでたきさまをたてまをされけり。ほつさうのげんにん、わがしうには
三じけうをたて一さいのじやうけうをばんず。三じけうといつぱ、いは
ゆるうくうちうこれなりとうんぬん。さんろうしうのだうしやうわがしうには、二ざうをたて
て、一さいのしやうけうをおさむ。二ざうといつぱ、ぼさつざうしやうもんざうこれなりとうん
ぬん。けごんしうのだうゆう、わがしうには五けうをたてて、一さいのしやうけうををしふ。
五けうといつぱ、せうじようけう、しけう、しうけう、とんけう、ゑんけうこれな
りとうんうん。てんだいしうのゑんしよう、わがしうは四けう五みをたてて、一さいの
しやうけうをしめす。四けうといつぱ、ざうつうべつてん、五みはにうらくせい
じゆくだいごこれなりとうんぬん。しんごんのこうぼふ、わがしうには、じさうけうさうをた
つといへども、しんごんのそくじんじやうぶつのぎをたつ。ほつさうのげんにんなんじて
いはく一だい三じのきやうもんをみるに三こふじやうぶつのもんのみあつてそく
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しんじやうぶつのもんなし。いづれのしやうけうのもんをもつて、しんごんのそくしんじやうぶつの
ぎをたてらるるぞや。そのもんあらば、はやくもんしやうをあらはしてしふゑのぎ
もうはらされよとぞいひける。だいしこたへてのたまはくまことに
なんぢががくするところのせいけうのうちには。三ごふじやうぶつのもんのみあつて、しんごんの
そくしんじやうぶつのもんなし。かつかつまづもんしやうをいださんとて、にやくにんぐぶつゑつうたつ
ぼだいしん、ふぼしよせいじん、そくしやうだいがくゐ。このもんをはじめて、もんしやうをひき
たまふことそのかずあまたなり。ほつさうのげんにん、さてそのもんのごとく、
そのむねをえたるにんしやうはたれひとぞ。だいしこたへてのたまはくとほ
くはだいにちこんがうさつたちかくはわがみすなはちこれなりとて、てにみついんをにぎり、くち
にぶつごをずし、こころにくわんねんをこらして、みにきぎをそなふ。かしらに五ぶつの
しやうくわんをいただき、くわうみやうそうでんをてらして、にちりんのひかりをうばひたまふ。てうていは
りにかがやいて、ひとへにじやうどのさうごんをあらはすときにていわうぎよざをさつて
れいをなし、しんかきやうがくして、みをまげ、なんと六しうのひん、ち
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にひざまづいてけいしゆし、ほくれいしめいのかく、ていにふしてぜつそくす。じやうぶつちそくの
りつぱには、だうゆうだうしやうもくちをとじ、ほふしんしきじやうのなん〔た〕ふには、げんにんゑんしやう
もしたをまく、つひにししうきふくして、もんはふにくははり、一てうはじめてしん
かうして、だりうをうく、さんみつごちのみづ、しかいにみちてにんくをあらひ、
六だいむげのつき一てんにかかやいて、ちやうやを、てらしたまふ。さればご
ざいせいののちも、しやうじんふへんにして、じそんのしゆつせをつたへて六じやうかはらずし
てきねんのほふおんをきこしめす。そのゆゑにやげんせのりしやうもたのみあり、
ごせのいんたうもうたがひなしとぞまをされける。じやうわうきこしめして、
これほどのことを、いままでごらんぜられざりけることよとて、やがてみやうにちかう
やごかうあるべきよしあふせくださる。こうそつまをされけるは、みやうにちのみゆき
もあまりそつじにおぼえさふらふ。むかししやくそんのれうしうせんにしてごせつぽふあ
りしみぎりに、十六のだいこくのしよわうたちのみゆきありしぎしきは、きんぎんをもつて
ほふよをなし、しゆぎよくをちりばめてくわんかいをかざりたまへり。これみなけうなん
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さうのおもひをこらして、ずゐきかつがうのこころざしをいたさせたまふおんゆゑなり
いまきみのみゆきもそれにはたがはせたまふべからず。わがてうのかうやの
おやまを、てんぢくのれうしうせんとおぼしめしこうぼふだいしをしやかによらいとくわんぜさせ
たまひて、ごかうのぎしきをひきつくろはせたまふべうもやさふらふらん、と
まをされたりければ、このぎもつともしかるべしとてにつすう三十にちをあひのべ
らる。そのあひだにぐぶのくぎやうでんじやうび〔と〕りやうらきんしゆうをあつめていしやうをととのへ、
きんぎんをもつてあんばをかざりたまふ。これぞかうやごかうのはじめな
る。
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『剣之巻(けんのまき)』(内侍所都入の次に入る)
ほんてうには、かみよよりつたはれるれいけん三つあり。とつかのつるぎ、あめ
のはいきりのつる〔ぎ〕、くさなぎのつるぎこれなり。とつかのつるぎはやまとのくにいしのかみふるの
やしろにをさめらる。あめのはいきりのつるぎはをはりのくにあつたのやしろにありとか
や。くさなぎのつるぎはだいりにあり、いまのはうけんこれなり。ごれいいちはやうおは
します。そもそもこのつるぎのゆらいをまをすに、むかしすさのをのみこといづものくにそがのさと
にみやづくりたまひしに、そこに八いろのくものつねにたちければ、みことこれを
ごらんじて、かうぞえいじたまひける。やくもたついづもやへがき、つま
ごめに、やへがきつくるそのやへがきを。これをみそひともじのはじめ
とす。またくにをいづもとなづくることも、すなはちそのゆゑとぞきこえし。
むかしすさのをのみこと、いづものくにひのかはかみにくだりたまひしとき、くにつのかみに、あ
しなづち、てなづちとて、をがみめがみおはしましき。かれにたんせいのむすめあ
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り、いなたひめとがうす。おやこ三にんなきゐたり。みことあやしとおぼ
しめして、そもそもな〔ん〕ぢはいかなるものぞとおほせければ、こたへまをし
ていはく、われに八にんのむすめあり、みなをろぢのためにのまれぬ。いま
一にんのこるところのをとめ、またのまれんとす。くだんのをろぢは、びとうともに
八つあり、おのおの八のみね八のたににはひはびこれり。れいじゆいぼくそびらにおひた
り、いく千ねんをへたりといふかずをしらず。めはじつげつのひかりのごと
し、ねんねんにひとをのむ、おやのまるるものはこかなしみ、このまるるものはお〔や〕
かなしむ。そんなんそんほくにこくするこゑはたえずとぞまをしける。みことあはれと
おぼしめして、くだんのをとめをやつのつまぐしにとりなさせおはしまし
おんぐしにさしかくさせたまひて、やつのふねにさけをたたへ、びぢよのすがたをつく
つて、たかきをかにたつそのかげさけにうつれり。おろぢこれをひととおもつて
そのかげをあくまでのんでよひふしたるところをみことはきたまへるれいけんをぬか
せたまひてくだんのおろぢをづたづたにきりたまふ。そのうちに一つのをにいた
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つてきれず、みことあやしとおぼしめしてたてざまにわつてごらんずれば一つの
れいけんあり。これをとつてあまてらすおほがみへまゐらつさせたまひたりしかば、
これはむかしたかまがはらにて、わがおとしたりしつるぎなりとぞあふせける。をろ
ぢのをのなかにありつるほどに、むらくもつねにたちければ、あめのむらくも
のつるぎとぞめされける。おほかみこれをえて、あめのみかどのおんたからとしたま
ふ。そののちあしはらのなかつくにのぬしとなつて、てんそ〔ん〕をくだしたてまつらつさせたまひし
とき、れいけんをもさづけまゐらせたまひけり。さてだい九だいのみかどかいくわてんわうまで
は一つどのにおはしけるがだい十だいのみかどすじんてんわうのぎようにおよんで
れいゐにおそれさせたまひてあまてらすおほかみをやまとのくにいそうきのひろにうつしま
ゐらせたまひしときこのつるぎをもあまてらすおほかみのしんだんにこもりたてまつらせたまひけり。その
ときつるぎをつくりかへていまのみかどのおんたからとしたまふおんれいげんのつるぎにおとらず、
さてだい十だいのみかどすじんてんわうより、けいかうてんわうまで三だいは、あまてらすおほかみ
のしやだんにあがめおきたてまつらせたまひたりしが、だい十二だいのみかど、けいかうてんわう四
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十ねん六ぐわつより、とういはんぎやくのあひだ、おんこやまとたけのみことは、おんこころもがうに、
おんちからもよにすぐれておはしましたれば、せいせんにあひあたつて、ひんがしへげかうしたま
ひしとき、あまてらすおほかみへおいとままをしにまゐらせたまひたりしに、おんいもうとのいつき
のみことをもつてつつしんでおこたることなかれとてれいけんをさ〔づ〕けまゐらつさせたまひたり。さて
するがのくににくだりつきたまひたりしかば、そこのぞくとらこのくににはしかおほく
さふらふ。かりしてあそばせたまへとてみことをはかりだしたてまつりのにひをかけてみことを
すでにやきころしたてまつらんとす。みことはきたまへるれいけんをぬかせたまひてくさをなぎたま
へばじんかう一りがあひだくさみななぎれぬみことまたのにひをかけたまへばかぜたちまちにいぞく
のはうへふきおほひおほくぞくとらやけしぬ、それよりしてこそ、あめのむらくもの
つるぎをばくさなぎとはめされけれ。なほおくへせめいらせたまひて、三ケねんがあひだ
に、くにのところところのぞくとら、みなせめしたがへさせたまひたり。きよたうをいけどつてのぼ
らせたまふが、みちにてごなうふせたまひて、おんとし三十とまをし七ぐわつに、を
はりのくにあつたのほとりにて、つひにかくさせたまひぬ。そのおんたましひは、しろきとりとなつ
P19
てあめへのぼりたるこそふしぎなれ。さていけどりのねびすどもをば、
みこたけひこのみことをもつてみやこへまゐらつさせたまひたり。くさなぎのつるぎをば、あつ
たのやしろにをさめらる。てんむのみかどのぎよう七ねんにしんらのさもんだうはつこのつるぎ
をぬすんでわがくにのたからとせんとおもつてひそかにふねにかくれてわたるほどに
かぜなみきよどうじてたちまちにこのふねをかいていにしづめんとす。すなはちれい
けんのたたりたりとしつてつみをしやしてせんとをとげずもとのごとくにかへしをさ
めたてまつる。しかるをてんむてんわうしゆて〔う〕ぐわんねんにこれをめしてだいりにおかる
いまのはうけんこれなり。やうせいゐんきやうびやうにをかされさせたまひてれいけんをぬさ
せたまへばよるのおとどひらひらとしてでんくわうにおとらずあうふのあまりなげすてさ
せたまへばはたとないてみづからさやにさされぬ。じやうこには、かく
こそめでたかりしか。たとひ二ゐどのこしにさいて、うみにしづみたまふとも、さ
うなくしつすべきにあらずとて、すぐれたるあまどもをめしあつめて、かづきもと
めさせられけれども、なかりしかば、くぎやうくわいぎありけり。むかし
P20
てんせうだいじん百わうをまぼらんとおんちかひありけるそのちかひあらたまらずしていはしみづのながれ
つきせざりしかばにちりんのひかりまたちにおちたまはず。たとひまつだいげうきたりと
いふともていうんのきはまるまでのことはあらじかしなんどまをしあはれけるをりふしあるはかせ
のまゐつたりけるがまをしけるは、これはむかしいづものくにひのかはかみにてすさのを
のみことにきりころされたてまつたりけるおろぢ、れいけんををしむこころざしふかくして、
八のを八のかしらのへうしとして、じんわう八十一だいのとき、八さいのみかどとなつ
て、とりかへしたてまつりちいろのうみのそこじんりうのたからとなりしかば、
ふたたびにんげんへかへらざるもことわりかなとぞまをしける。
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『鏡之巻(かがみのまき)』(剣之巻に次く)
おなじき二十八にちかまくらどのじゆ二ゐしたまふ。ゑつかいとて二かいをするだ
にありがたきてうおんなるに、これはすでに三かいなり。三みをこそしたまふべきか、
よりまさのきやうのなりたまひしをいうでなり。そのよのねのこくにないしどころしるしのおん
ばこだいじやうくわんのちやうよりうんめいでんへいらせおはします。しゆじやうやがてみゆきなつて、三
ケよりんじのおんかぐらあり。うこんのべつたうおほくのよしかたべつちよくをうけたまはつて、ゆ
だてのみやびとといふかぐらのひきよくをつかまつて、けんじやうかうむりけるこそ、めでたけ
れ。このきよくはそふ八でうのはうくわんすけただといふれいじんのほかはしるものなく。
あまりにひつしてわがこのちかかたにもをしへず、ほりかはのゐんございゐのおんときつたへまゐら
せてしきよしたりしを、きみちかかたにをしへさせおはしますいへをうしなはじと
おぼしめされけるおんこころばせ、かんるゐおさへがたし。そもそもないしどころとまをす
おんかがみは、むかしてんせうだいじんあまのいはとにとぢこもらんとせさせたまひしとき、いか
P22
にもしてわがおんすがたをうつしおきおんしそんにみせたてまつらんとおぼしめして、
おんかがみをいさせらる。これなほおんこころにかなはずとて、またいかへさせおはしま
す。さきのおんかがみは、きいのくにひのまへくにかけのやしろこれなり。のちのおんかがみをばおん
こあまのおしみのみことにさづけまゐらつさせたまひて、とのをおなじくしてすみたまへ
とあふせける。さててんせうだいじんあまのいはとにとぢこもらせたまひててんがあんあん
となりたりしかば、やほよろづのかんたちかんづまりにあつまりたまひて、いはとのくちに
ておんかぐらをそうせさせたまへば、てんせうだいじんかんにたへさせたまひて、いはと
をほそめにあけてごらんぜられたるとき、たがひにかほのしろくみえけるより、
おもしろしといふことばははじまりけり。そのときいはねたぢからをといふだいちからの
かみよつて、えいといつてあけられてよりたてられずとぞきこえし
さてだい九だいのみかどかいくわてんわうまでは一つとのにおはしましけるが、だい十だいのみかどす
じんてんわうのぎようにおよんで、てんせうだいじんをやまとのくにいそがきのひろきにうつしまゐらつさ
せたまひしとき、このおんかがみをもべつのとのへうつしまゐらせて、ちかごろはうん
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めいでんにぞましましける。せんとせんかうののち、百六十ねんをへて、むらかみ
てんわうてんとく四ねん九ぐわつ二十三にちのよのねのこくに、おほうちなかのほとりにはじめて
しやうばうありける。ひはさゑもんのぢんよりもいでたれば、ないしどころのおはします
うんめいでんもほどちかし。によはふやはんのことなれば、ないしもによ〔く〕わんもまゐりあは
ずしてかしこどころをいだしたてまつるにもおよばず。をののみやどのいそぎまゐつてみまゐ
らつさせたまふに、ないしどころすでにやけさせたまひぬ。よははやかうとこそとおぼ
しめして、おんなみだをながさせたまふをりふし、ないしどころは、おのづからほの
ほのなかをとびいでさせたまひて、なんでんのさくらのこずゑにかからせたまひて、
くわうみやうかくねきとして、あさのひのやまのはをいづるにことならず。をの
のみやとのよはいまだつくせざるにこそとおぼしめしてかんるゐおさへがたく
すなはちみぎのひざをつきひだりのそでをひろげてまをさせたまひけるは、むかし
てんせうだいじんひやくわうをまもらんとおんちかひありけるそのおんちぎりいまだあらたまらずは、しん
きやうさねよりがそでにたちやどらせたまへとまをさせたまひしおんことばのいまだをはら
P24
ざるさきに、しんきやうとびうつらせたまひけり。すなはちおんそでにつつませたまひてだい
じやうくわんのあいたんどころにいれたてまつらせたまひけり。いまのよにはうけとりたてまつらんとおも
ひよるびともたれかはあるべき、しんきゃうもまたやどらつさせたまふべからず、じやうだい
こそなほもめでたけれ。

大小秘事 大尾



平曲譜本 芸大本 巻一
P001
評釈 平家物語
         梅沢和軒 校
巻一
(* 『祇園精舎(ぎをんしやうじや)』は、別冊 小秘事を参照願います。)
○ 一 でんじやうのやみうち
しかるを、ただもりいまだびぜんのかみたりしとき、とばのゐんのごぐわん、とくちやうじゆゐんをざうしんして、三十
三げんのみだうをたて、一千一たいのおんほとけをすゑたてまつらる、くやうはてんしようぐわんねん三ぐわつ十三にちなり。
けんじやうにはけつこくをたまふべきよし、あふせくだされける。をりふし、たじまのくにのあきたりけるをぞ
くだされける。じやうくわうなほぎよかんのあまりに、うちのしようでんを[の]ゆるさる。ただもり三十六にてはじめてしようでん
す。くものうへびとこれをそねみいきどほり、おなじきとしの十一ぐわつ二十三にち、ごせつととよのあかりのせちゑのよ、ただもり
をやみうちにせんとぞぎせられける。ただもりこのよしをつたへきいて、われいうひつのみにあらず、ぶ
ゆうのいへにうまれて、いまふりよのはぢにあはんこと、いへのためみのため、こころうかるべし。せんず〔る〕
ところ、みをまつたうして、きみにつかへたてまつれといふほんもんありとて、かねてよういをいたす。さんだいの
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はじめより、おほきなるさやまきをよういし、そくたいのしたにしどけなげにさし、ひのほのくらきかたにむか
つて、やはらこのかたなをぬきいだいて、びんにひきあてられたりけるが、よそよりはこほりなん
どのやうにぞみえたりける。しよにんめをすましけり。またただもりのらうどうもと[もど]は、いちもんたりし
もくのすけ[けす]たひらのさだみつがまご、しんの三らうたいふいへふさがこに、さひやうゑのじよういへさだといふものあり。うすあを
のかりぎぬのしたに、もえぎおどしのはらまきをき、つかぶくろつけたるたちわきばさんで、でんじやうのこにはに
かしこまつてぞさふらふひける。くわんじゆいげあやしみをなして、うつぼはしらよりうちすずのつなのへんに、ほういの
もののさふらふはなにものぞ、らうぜきなり、とうとうまかりいでよと、六ゐをもつていはせられたりけれ
ば、いへさだかしこまつてまをしけるはさうでんのしゆのびぜんのかうのとのの、こんややみうちにせられたまふべき
よしうけたま〔は〕つて、そのならんやうをみんとてかくてさふらふなり、えこそいづまじとて、また
かしこまつてぞさふらひける。これらをよしなしとやおもはれけん。そのよのやみうちなかりけり。
ただもりまたごぜんのめしにまはれけるに、ひとびとひやうしをそろへていせへじはすがめなりとぞはやされ
ける。かけまくもかたじけなく、このひとびとは、かしはばらのてんわうのおんすゑとはまをしながら、なかごろはみやこのすまゐ
もうとうとしく、ぢげにのみふるまひなつて、いせのくににぢうこくふかかりしかば、そのくにのうつは
ものにことよせていせへいじとぞはやされける。そのうへただもりのめのすがまれたりけるゆゑに
こそ、かやうにははやされけるなれ。ただもりなにとすべきやうもなくして、ぎよいうもいまだをは
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らざるさきに、ごぜんをまかりいでらるるとて、ししんでんのごごにして、ひとびとのみられける
ところにて、とのもづかさをめしてよこたへさされたりけるこしのかたなをばあづけおきてぞいでられける。
いへさだまちうけたてまつて、さていかがさふらひけるやらんととひたてまつればかうともいはまほしうは
おもはれけれども、いひつるほどならば、やがてでんじやうまでもきりのぼらんずるものの、つらたましひ
にてあるあひだ、べつのことなしとぞこたへられける。ごせつとにはしろうすやう、こうせんじのかみ、まきあげのふで
ともへかいたるふでのぢくなんどいふ、かやうにさまざまおもしろきことをのみこそうたひまはるるに、なか
ごろ、ださいのごんのそつすゑなかのきやうといふひとありけり。あまりにいろのくろかりければ、ときのひとこくそつと
ぞ、まをしける。このひといまだくらんどのとうたりしとき、ごぜんのめしにまはれけるに、ひとびとひやうしをかへ
て、あなくろぐろくろきとうかな、いかなるひとのうるし[うろし]ぬりけんとぞはやされける。またくわざんの
ゐんのまへのだいじやうだいじんただまさこういまだ十さいなりしとき、ちちちうなごんただむねのきやうにおくれたまひて、みなしごにて
おはしけるを、こなかのみかどのとうのちうなごんかせいのきやう、そのときはいまだはりまのかみにておはしける
がむこにとつて、はなやかにもてなされしかば、これもごせつとには、はりまよねはとくさか、むく
のはか、ひとのきらをみがくは、とぞはやされける。じやうこには、かやうのことどもおほかりし
かども、こといでこず、まつだいいかがあらんずらん、おぼつかなしとぞ、ひとびとまをしあはれ
ける。あんのごとくごせつとはてにしかば、ゐんちうのくぎやう、でんじやうびと、一どうにうつたへまをされけるは、
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それゆうけんをたいしてくえんにれつし、へいぢやうをたまはつてきうちうにしゆつにふするは、みなこれきやくしきのれいをまもる
りんめいよしあるせんきなり。しかるをただもりのあそん、あるひはねんらいのらうじうとかうしてほういのつはものをでんじやう
のこにはにめしおき、あるひはこしにかたなをよこへさいて、せちゑのざにつらなる、りやうでうきたい、いまだきか
ざるらうぜきなり。ことすでにちようでふせり、ざいくわもつとものがれがたし。はやくでんじやうのみふだをけづつ
てけつくわん、ちやうにんおこなはるべきかと、しよきやういちどうにうつたへまをされたりければ、じやうくわうおほいにおどろかせ
たまひて、ただもりをごぜんへめしておんたづねあり。ちんじまをされけるは、まづ、らうじうこにはにしこうのよ
し、まつたくかくごつかまつらず。ただしきんじつひとびとあひたくまるるむね、しさいあるかのあひだ、ねんらいのかじん、こと
をつたへきくかによつて、そのはぢをたすけんがために、ただもりにはしらさずして、ひそかにさんこうのでう
ちからおよばざるしだいなり。もしとがあるべくば、かのみをめしまゐらせんずべきか。つぎにかたなのことは
とのもづかさにあづけおきさふらふ[*この一字不要]ひをはんぬ。めしいだいて、かなたのじつぷによつて、とがのさうあるべきかと
まをす。じやうくわうこのぎもつともしかるべしとていそぎかれのかたなをめしいだいてえいらんあるに。うへはさやまきのくろ
うぬつたりけるが、なかはきがたなにぎんぱくをぞおいたりける。だうざのちじよくをのがれんがために、
かたなをたいするよしあらはすといへども、ごじつのそしようをぞんじて、きがたなをたいしける、よういのほどこ
そしんめうなれ。きうぜんにたづさはらんずるもののはかりごとには、もつともかうこそあらま〔ほ〕しけれ。かねてはまた
らうじうこにはにしこうのよし、かつうはぶしのらうどうのならひなり。ただもりがとがにはあらずとて、かへつてえい
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かんにあづかつしうへは、あへてざいくわのさたはなかりけり。

○ 二 すずき
そのこどもはみなしよゑいのすけになつて、しようでんせしに、でんじやうのまじはりを、ひときらふにおよばず。あるとき
ただもりびぜんのくによりはるばるとみやこへのぼられたりけるを、とばのゐんごぜんへめしてさてあかし
のうらはいかにとあふせければ、ただもりかしこまつて。
ありあけのつきもあかしのうらかぜになみばかりこそよるとみえしか
とまをされたりければなのめならずにぎよかんなつて、やがてこのうたをば、きんえふしふにぞいれられ
ける。ただもりまたせんどうにはさいあいのにようばうをもつて、かよはれけるが、あるよおはしたりけ
るに、かのにようばうのつぼねに、つまにつきいだいたるあふぎをとりわすれてかへられたりけるを、かたへのにようばう
だちこれはいづくよりのつきかげぞや、いでところおぼつかなしなんどわらひあはれければ、かのにようばう
くもゐよりただもりきたるつきなればおぼろげにてはいはじとぞおもふ
とよみたりければ、いとどあさからずおもはれけり、さつまのかみただのりのははこれなり。にるをとも
とかやのふぜいにて、ただもりのすいたりければ、かのにようばうもいうなりけり。かくてただもりぎやうぶ
きやうになつて、にんぺい三ねんしやうぐわつ十五にち、とし五十八にてうせたまひしかば、きよもりちやくなんたるに
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よつて、そのあとをつぎ、ほうげんぐわんねん七ぐわつに、うぢのさふ、よをみだりたまひしとき、あきのかみ
とてみかたにてくんこうありしかば、はりまのかみにうつつて、おなじき三ねんにだざいのだいにになる。
またへいぢぐわんねん十二ぐわつ、のぶよりよしともがむほんのときもみかたにて、ぞくとをうちたひらげたりしかば、
くんこう一つにあらず。おんしやうこれおもかるべしとて、つぎのとししやう三みにじよせられ、うちつづきさいしやうゑ
ふのかみ、けんびゐしのべつたう、ちうなごん、だいなごんにあがつてあまつさへしやうじやうのくらゐにいたる。さ
いうをへずして、ないだいじんよりだいじやうだいじんじう一ゐにいたる。たいしやうにはあらねども、ひやうじやうを
たまはつて、ずゐじんをめしぐす。ぎつしや、れんしやのせんじをかうむり、のりながらきうちうにしつにふす。
ひとへにしつせいのしんのごとし。だいじやうだいじんはいちじんにしはんとして、しかいにぎけいせり。くにををさめみちを
ろんじ、いんやうをやはらげをさむ。そのひとにあらずば、すなはちかけよといへり。さればそくけつの
くわんともなづけられたり。そのひとならでは、けがすまじきくわんなれども、にふだうしやうこく、いつてんし
かいをたなごころのうちににぎりたまひしうへはしさいにおよばず。そもそも、へいけかやうにはんじやうせられけること
をいかにといふに、ひとへにくまののごんげんのごりしやうとぞきこえし。そのゆゑはきよもりこういまだあ
きのかみたりしとき、いせのくにあののつより、ふねにてくまのへまゐられけるに、おほきなるすずきのふね
へをどりいりたりけるを、せんだつまをしけるは、いかさまにも、これはごんげんのごりしやうとおぼえさふらふ、まゐ
るべしとまをしければ、さしもじつかいをたもつて、しやうじんけつさいのみちなれども、むかししうのむわうのふね
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にこそしらをはをどりいりたんなれとてみづからてうみしてわがみくひ。いへのこらうどうどもにもくは
せらる。そのゆゑにやげかうののち[と]うちつづききちじのみおほかりけり。わがみだいじやうだいじんにいたり、し
そんのくわんもりようのくもにのぼるよりもなほすみやかなり。くだいのせんぜうをこえたまふこそめでたけれ。

○ 三 かぶろわらは
かくてきよもりこう、にんなん三ねん十一ぐわつ十一にち、とし五十一にてやまひにをかされ、ぞんめいのためにと
て、すなはちしゆつけにふだうす。ほふみやうをじやうかいとこそつきたまへ。そのゆゑにや、しゆくびやうたちどころにゆえて
てんめいをまつたうす。しゆつけののちも、えいえうはなほつきずとぞみえし。およそひとのしたひつきたてまつ
ることは、ふるあめのこくどをうるほすごとくよのあまねくあふげることもふくかぜのきをなびかすにおなじ
くわぞくも、えいゆうも、ろくはらどののいつかのきんだちとだにいひてんしかば、たれかたをならべおもてをむかふもの
なし。またにふだうしやうこくのこじうと、へいだいなごんときただのきやうののたまひけるは、このいちもんにあらざらんも
のは、みなにんぴにんたるべしとぞのたまひける。さればいかなるひとも、このいちもんにむすぼほれ
んとぞしける。ゑぼしのためやうよりはじめて、えもんのかきやうにいたるまでなにごともみなろくは
らやうとだにいひてしかば、いつてんしかいのひとみなこれをまなぶ。いかなるけんわうけんしゆのおんまつりごと、せつしやう
くわんはくのごせいばいをも、よにあまされたるほどのいたづらものなんどの、ひとのきかぬところにより
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あひて、なんとなうそしりかたむけまをすことはつねのならひなれども、このぜんもんよざかりのほどは、い
ささかゆるがせにまをすものなし。また、にふだうしやうこくのはかりごとに、十四五六のわらはを三百人すぐつて、かみ
をかぶろにきりまはし、あかきひたたれをきせてめしつかはれけるが、きやうちうにみちみちてわうへん
す。みづからへいけのおんうへ、あしざまにまをすものあれば、いちにんききいださざるほどこそありけれ。
ききいだすとはやよたうにふれもよほし、そのいへにらんにふし、しざいざうぐをつゐぶくし、そのやつをから
めとらへて、ろくはらどのへゐてまゐる。およそめにみこころにしるといへども、ことばにあらはして
まをすものなし。ろくはらどののかぶろとだにいひてんしかば、みちをすぐるむまくるまもみなよきてぞとほ
しける。きんもんをしゆつにふすといへども、しやうめうをたづねらるるにおよばず。けいしのちやうりこれがため
にめをそばむとみえたり。

○ 四 わがみのえいぐわ
わがみのえいぐわをきはむるのみならず。いちもんともにはんじやうして、ちやくし[ちよくし]しげもり、ないだいじんのさだいしやう。
じなんむねもりちうなごんのうだいしやう。さんなんとももり、さんみちうしやう。ちやくそん[ちよくそん]これもり、しゐのせうしやう、すべていちもん
のくぎやう十六にん、でんじやうびと三十よにん、しよこくのじゆりやう、ゑふしよし、つがふ六十よにんなり。よには
またひとなくぞみえられける。むかしならのみかとのおんとき、じんき五ねんてうかにちうゑのだいしやうをはじめお
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かれ、だいどう四ねんに、ちうゑをこんゑとあらためられしよりこのかた、きやうだいさいうにあひならぶことわづか
に四五どなり。もんどくてんわうのおんときは、ひだんによしふさうだいじんのさだいしやう、みぎによしすけだいなごんのう
だいしやう、これはかんにんのさだいじんふゆつぎのおんこなり。しゆじやくゐん[しゆじよくゐん]のぎようには、ひだんにさねよりをののみやどの、
みぎにもろすけくでうどの、てい〔じ〕んこうのおんこなり。ごれいぜいゐんのおんときは、ひだんにのりみちおほにでうどの、みぎに
よりむねほりかはどの、みだうのくわんぱくのおんこなり。にでうのゐんのぎようには、ひだんにもとふさまつどの、みぎにかね
ざねつきのはどの、はふしやうじどののおんこなり。これみなせつろくのしんのごしそく、はんじんにとつてはそのれいな
し。でんじやうのまじはりをだにきらはれしひとのしそんにて、きんじきざつぱうをゆり、れうらきんしふをみにまとひ、
だいじんのだいしやうになつて、きやうだいさいうにあひならぶこと、まつだいとはいひながら、ふしぎなつしこ
とどもなり。そのほか、おんむすめ八にんおはしき。みなとりどりにさいはひたまへり。いちにんはさくらまち
のちうなごん、しげのりきやうのきたのかたにておはすべかりしを、八さいのとしおんやくそくばかりにて、へいぢ
のみだれいごひきちがへられてくわざんのゐんのさだいじんどののみだいはんどころにならせたまひて、きんだちあまた
ましましけり。そもそも、このしげのりのきやうを、さくらまちのちうなごんとまをしけることは、すぐれてこころすき
たまへるひとにて、つねはよしののやまをこひつつ、ちやうにさくらをうゑならべ、そのうちにやをたててす
みたまひしかば、きたるとしのはるごとに、みるひとみなさくらまちとぞまをしける。さくらはさいて七かにちに
ちるを、なごりををしみ、あまてるおほがみにいのりまをされければにや、三七にちまでなごりありけり。
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きみもけんわうにてましませば、しんもしんとくをかがやかし、はなもこころありければ、二十かのよはひをたもち
けり。いちにんはきさきにたたせたまふ。二十二にてわうじごたんじやうあつて、くわうたいしにたち、くらゐにつ
かせたまひしかば、ゐんがうかうむらせたまひて、けんれいもんゐんとぞまをしける。にふだうしやうこくのおんむすめなるうへ、
てんがのこくもにてましませば、とかうまをすにおよばれず。いちにんはろくでうのせつしやうどののきたのまんどころ
にならせたまふ。たかくらのゐんございゐのおんとき、おんぱあしろとて、じゆんさんごうのせんじを、かうむむ[*この一字不要]り、しらかは
どのとて、おもきひとにてぞましましける。いちにんはふげんじどののきたのまんどころにならせたまふ。
いちにんはれいぜいだいなごんたかふさのきやうのきたのかた、いちにんは七でうのしゆりのだいぶ、のぶたかのきやうにあひぐし
たまへり。またあきのくに、いつくしまのないしがはらにいちにん、これはごしらかはのほふわうへまゐらせたまひて、
ひとへににようごのやうにぞましましける。そのほか、くでうのゐんのときはがはらにいちにん、これはくわざんの
ゐんどののじやうらうにようばうにて、らうのおんかたとぞまをしける。につぽんあきつしまはわづかに六十六かこく、へいけち
ぎやうのくに、三十よかこく、すでにはんごくにこえたり。そのほか、しやうゑ〔ん〕でんばくいくらといふかずをしらず。
きらじうまんしてだうじやうはなのごとし。けんきくんじふしてもんぜんいちをなす。やうしうのこがね、けいしうのたま、ごきん
のあや、しよくこうのにしき、し〔つ〕ちんまんぼう、ひとつとしてかけたることなし。かだう、ぶがくのもと、ぎよりよ、
しやくばのもてあそびもの、おそらくはていけつもせんとうも、これにはすぎじとぞみえし。
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○ 五 ぎわう
にふだうしやうこく、かやうに一てんしかいをたなごころのうちににぎりたまひしうへは、よのそしりをもはばからず、ひとの
あざけりをもかへりみず、ふしぎのことをのみしたまへり。たとへばそのころみやこにきこえたるしらびやうしのじやう
ず、ぎわう、ぎによとてしまいあり。とじといふしらびやうしがむすめなり。しかるにあねのぎわうを、にふだう
しやうこくなのめならずにちようあいしたまへり、これによつていもうとのぎによをも、よのひともてなすことかぎりなし。
ははとじにもよきやつくつてとらせ、まいげつ百こく百くわんのおくられければ、けないふつきしてたのしい
ことなのめならず。そもそも、わがてうに、しらびやうしのはじまりけることは、むかしとばのゐんのぎように、しまの
ちとせ、わかのまへ、これらににんがまひいだしたりけるなり。はじめはすゐかんにたてゑぼし、しらざやまきを
さいてまひければ、をとこまひとぞまをしける。しかるをなかごろより、ゑぼし、かたなをのけられて、
すゐかんばかりをもちひたり。さてこそしらびやうしとはなづけけれ。きやうちうのしらびやうしども、ぎわうが
さいはひのめでたきやうをきいてうらやむものもあり、そねむものもありけり。うらやむものは。あなめでた
のぎわうごぜんのさいはいやな。おなじあそびめ[あすびめ]とならばたれもみなあのやうでこそありたけれ。いかさ
まにもこれはぎといふもじをなについて、かくはめでたいやらん。いざ、われらもついて
みんとて、あるひはぎ一あるひはぎ二、とつき、あるひはぎふく、ぎとくなんどいふものもありけり。
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そねむものどもは、なんでうさやうになによりもじにはよるべき。さいはひはただぜんせのうまれつきにこそ
あんなれとて、つかぬものもおほかりけり。かくて三ねんとまをすに、またしらびやうしのじやうずいちにんい
できたり。かがのくにのものなり。なをばほとけとぞまをしける。とし十六とぞきこえし。きやうちうのもの
ども、むかしよりおほくのしらびやうしどもありしかども、かかるまひのじやうずをばいまだみずとて、じやうげも
てなすことかぎりなし。ほとけごぜんまをしけるはわれてんかにきこえたれども、たうじめでたうさかえさせたま
ふ、にしはちでうどのへめされぬことこそほいなけれ。あそびもののならひなにかくるしかるべき。すゐさんし
てみんとて、あるときにしはちでうどのへぞさんじたる。ひとごぜんにまゐつて、たうじみやこにきこえさふらふ、ほとけご
ぜんがまゐつてさふらふとまをしければ、にふだうなんでうさやうのあそびものは、ひとのめしにしたがうてこそ
まゐれ。さうなうすゐさんするやうやある。そのうへかみともいへほとけともいへ、ぎわうがあらんところへ
はかなふまじ、とうとうまかりいでよとぞのたまひける。ほとけごぜんは[な]、すげなういはれたてまつて、
すでにいでんとしけるを、ぎわうにふだうどのにまをしけるは、あそびもののすゐさんは[な]、つねのならひにこそさふら
へ。そのうへとしもいまだをさなうさふらふなるが、たまたまおもひたつてまゐつてさふらふを、す
げなうあふせられて、かへさせたまはんこそふびんなれ。いかばかりはづかしう、かたはらいたくやさふらふ
らん。わがたてしみちなれば、ひとのうへともおぼえず。たとひまひをごらんじ、うたをきこしめさるる
まではなくともごたいめんばかりはなにかくるしうさふらふべき、さうさうごたいめんなつてかへさせたまはばあり
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がたきおんなさけにてこそさふらふ[*この一字不要]はんずらめとまをしければ、にふだうあまりにわごぜいふことなればいざ
げんざんしてかへさんとて、おつかひをたつてめされけり。ほとけごぜんは、すげなういはれたてまつて、
くるまにのつてすでにいでんとしけるが、めされてかへりまゐりたり。にふだうやがてたいめんなつて、
こんにちのげんざんは[な]あるまじかりつれども、ぎわうがなんとおもふやらん。あまりにまをしすすむるあひだ、か
やうにげんざんは[な]しつ。げんざんするほどではいかでかこゑをもきかであるべき。まづいまやう一つうたへ
かしとのたまへば、ほとけごぜんうけたまはりさふらふとて、いまやう一つぞうたふたる。『きみをはじめてみるをりはち
よもへぬべしひめこまつ、おまへのいけなるかめをかに、つるこそむれゐてあそぶめれ』とおしかへしおしかへし
さんべんうたひすましたりければ、けんもんのひとびとみなじもくをぞおどろかす。にふだうよにもおもしろげにおもひ
たまひてわごぜはまづいまやうはじやうずなり、そのてうではまひもさだめてよからん。一ばんみばや、つづみ
うちめせとてめされけり。うたせて一ばんまふたりけり。ほとけごぜんは[な]、かみすがたよりはじめて、みめ
か〔た〕ちよにすぐれ、こゑよくふしもじやうずなりければ、なじかはまひはそんずべき。こころもおよばずまひすま
したりければ、にふだうしやうこくまひにめでたまひて、ほとけにこころをうつされたり。ほとけごぜん、こはされば
なにごとをおほせたまふぞや。もとよりわらははすゐさんのものにて、いだされまゐらせたまひしを、ぎわうごぜん
のまをしやうによつてこそ、めしかへされてもさふらふに、はやはやいとまとうでいださせおはしませとぞ
まをしける。にふだうただしわごぜはぎわうがあるをさやうにはばかるか。そのぎならば、ぎわうをこ
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そいださめとのたまへば、ほとけごぜん、それまたいかでさるおんことさふらふべき。もろともにめしおかれんだ
にもぎわうごぜんのこころのうちはづかしうこそさふらふべきにぎわうごぜんをいだされまゐらせてわらはがいちにん
めしおかれなば、いとこころうきこそさふらふ[*この一字不要]はんずれ。おのづからのちまでも、わすれたまはぬおんことな
らば、めされてまたはまゐるとも、けふはいとまをたまはらんとぞまをしける。にふだうなんでうそのぎ
あるべき、ただぎわうこそいださめとてぎわうとうとうまかりいでよと、おんつかひかさねて、三どまで
こそたてられけれ。ぎわうひごろよりおもひまうけたることなれども、さすがきのふけふとはおもひ
もよらず。しきりにいづべきよしをのたまふあひだ、はきのごひちりひろはせ、みぐるしきものどもとりしたためていづ
べきにこそさだめけれ。いつじゆのかげにやどりあひ、おなじながれをむすぶだに、わかれはかなしきならひぞ
かし。いはんやこれはこのみとせがあひだ、すみなれしところなれば、なごりもをしうかなしうて、かひ
なきなみだぞこぼれける。さてしもあるべきことならねば、いまはかうとていでけるが、なから
んあとのわすれがたみにもやとおもひけん。しやうじ[しやうず]になくなく、一しゆのうたをぞかきつけける。
もえいづるもかるるもおなじのべのくさいづれかあきにあはではつべき
さてくるまにのつてしゆくしよへかへり、しやうじのうちにたふれふし、ただなくよりほかのことぞなき。
ははやいもうとこれをみて、いかにやいかにととひけれども、ぎわう、とかうのへんじにもおよばず、
ぐしたるをんなにたづねてこそ、さることありとはしりてんげれ。さるほどに、まいぐわつおくられた
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りける百こく百くわんをも、とどめられて、いまはほとけごぜんがゆかりのものどもぞ、はじめてたのしみさかえける。
きやうちうのじやうげ、まことやぎわうごぜんこそ、にしはちでうどのよりいとまたまはつていでたんなれ。いざげん
ざんしてあそばんとて、あるひはふみをつかはすものもあり。あるひはししやをたつるひと[もと]もあり。ぎわういまさらまたひと
にたいめんして、あそびたはむるべきにもあらずとて、ふみをとりいるることもなく、ましてつかひ
にあひしらふまでもなかりけり。これにつけてもいとどしく、なみだにのみぞしづみける。か
くてことしもすぎぬ。あくるはるのころ、にふだう、ぎわうがもとへししやをたてて、いかにや、そののち
はなにごとかある、あまりにほとけがつれつれげにみゆるに、まゐつていまやうをもうたひ、まひなんどまう
て、ほとけなぐさめよとぞ、のたた[*この一字不要]まひける。ぎわう、とかうのおんぺんじにもおよばず。にふだう[にふたう]かさねて、な
どぎわうは、ともかうもへんじをせぬぞ、まゐるまじいかまゐるまじくばそのやうにまをせ、じやうかい
もはからふむねありとぞのたまひける。ははとじこれをきくに、かなしうていかにやぎわうごぜんとも
かうもなどおんぺんじをばまをさで、かやうにしかられまゐらせんよりはといひければ、ぎわうなみだ
をおさへてまゐらんとおもふみちならばこそ、やがてまゐるべしともまをさめまゐらざらんものゆゑ
に、なにとおんぺんじをまをすべしともおぼえず。このたびめし[*この一字不要]さんに、まゐらずばはからふむねありと
あふせらるるはみやこのそとへいださるるか、さらずばいのちをめさるるか、これふたつにはよもすぎじ。
たとひみやこを〔い〕ださるるとも、なげくべきみちにあらず。たとひいのちをめさるるとも、をしかる
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べきわがみかは。ひとたびうきものにおもはれまゐらせて、ふ〔た〕たびおもてをむかふべしともおぼえ
ずとて、なほおんぺんじをもまをさず。ははとじこれをきくにかなしうてなくなくけうくんしけるは、それあめ
がしたにすまんひは、ともかうもにふだうどののあふせをば、そむくまじきことにてあるぞとよ。をとこ
をんなのえんしすぐせ、いまにはじめぬことぞかし。せんねんまんねんとはちぎれども、やがてわかるるなかもあ
り。あからさまとは、おもへども、ながらへはつることもあり。よにさだめなきものは、をとこ
をんなのならひなり。いはんやわごぜは、このみとせがあひだ、おもはれまゐらせさふらへば、ありがたき
おんなさけにてこそさふらへ。このたびめさんに、まゐらねばとて、いのちをめさるるまではよもあらじ。
さだめてみやこのそとへぞいだされんずらん。わごぜたちはとしわかければ、いかならんいはきのはざま
にても、すごさんことやすかるべし。されどもわがみはとしおいよはひかたむいてならはぬひなのすまゐを
かねておもふもかなしかりけり。ただわれをばみやこのうちにてすみはてさせよ。それぞこんじやうごせの
おやこのかうやうにてあらんずるぞといへば、ぎわううしとおもひしみちなれども、おやのめいをそむかじ
とてつらきみちにおもむいてなくなくいでたちにけるこころのうちこそあはれなれ。ひとりまゐらんは、
あまりにこころうしとて、いもうとのぎによをもあひぐし、またしらびやうしににん、そうじてよにん、ひとつくるまにとりの
つて、にしはちでうどのへぞさんじたる。せんぜんめされつるところへはいれられずして、はるかにさがりたる
ところにざしきしつらうてぞおかれける。ぎわう、こはさればなにごとぞや。わがみにあやまつことはな
17
けれども、いだされまゐらするだにあるに、ざしきをさへさげらるることのかなあつしさ
よ。こはいかがせんとおもふこころをしらせじと、おさふるそでのひまよりもあまつてなみだぞこぼれ[こぱれ]ける。
ほとけごぜんこれをみてあれはいかにこれへめされさぶらへかし。ひごろめされぬところにてもさぶらはばこそ、
さらずばわらはにいとまをたまへ、いでげんざんしさぶらはんとまをしければ、にふだうすべてそのぎあるべか
らずとのたまふあひだ、ちからおよばでいでざりけり。にふだうやがていであひ、たいめんなつて、いかにやぎ
わう、そののちはなにごとかある。あまりにほとけがつれづれげにみゆるに、いまやうをもうたひ、まひなん
どもまうて、ほとけなぐさめよかし、まひもみたけれどもそれはつぎのこと、まづいまやう一つうたへかし
とのたまへば、ぎわうまゐるほどではともかうも、にふだうどののあふせをばそむくまじとこころえて、ながるる
なみだをおさへつつ、いまやう一つぞうたうたる『ほとけもむかしはぼんぶなり、われらもつゐにはほとけなり、
いづれもぶつしやうぐせるみを、へだつるのみこそかなしけれ』となくなくく[*この一字不要]二へんうたうたりければ、
そのざになみゐたまへる、へいけいちもんのくぎやう、でんじや〔う〕びと、しよだいぶ、さぶらひにいたるまで、みなかんるゐを
ぞもよほされける。にふだうもげにもとおもひたまひて、ときにとつてはおもしろくもまをしたるものか
なまひもみたけれども、けふはまぎるることのいできたり。こののちはめさ[めざ]ずとも、つねにまゐつ
ていまやうをもうたひ、まひなんどもまうて、ほとけなぐさめよとぞのたまひける。ぎわうとかうのおんぺんじ
にもおよばず。なみだをおさへてまかりいづ。うしとおもひしみちなれども、おやのめいをそむかじと、
18
つらきみちにおもむいて、ふたたびうきはぢをみつることのかなつしさよ。かくてこのよにあるならば、
またもうきめをみんずらん。いまはただみをなげんといへば、いもうとのぎによこれをきいて、あねみ
をなげば、われもともにみをなげんといふ。ははとじこれをきくにかなしうて、なくなくけうくん
しけるは。わごぜのさやうにうらむるもことわりなり、さることあるべしともしらずして、けうくんし
てまゐ〔ら〕せつることのうらめつしさよ。ただしわごぜがみをなげば、いもうとのぎぢよもともにみをなげ
んといふ。ふたりのむすめどもにおくれなば、おい衰(おとろ)へたるはは、いのちをいきてもなににかはせんなれば、
われもともにみをなげんずるなり。いまだしごもきたらぬおやに、みをなげさせば、五ぎやくざいにてぞ
あら〔ん〕ずらん。このよはかりのやどりなれば、はぢてもはぢてもなにならず、ただながきよのやみこそこころ
うけれ。こんじやうでこそあらめ、ごせでだにもあくだうへおもむかんず〔る〕ことのる[*この一字不要]かなあつしさよとて、たもと
をかほにおしあててさめざめとかきくどきければ、ぎわうげにもさやうにさぶらふ[*この一字不要]はば、五ぎやくざい[ぎよくざい]にはうたが
ひなし。一たんうきはぢをみつることのかなあつしさにこそ、みをなげんとはまをしたれ。ささぶらふ[*この一字不要]
はば、じがいはおもひとど〔ま〕りさぶらひぬ。かくてうきよにあるならば、またもうきめをみんずらん。
いまははやみやこのほかへいでんとて、ぎわう二十一にてあまになり、さがのおくなるやまざとに、しばのいほり
をひきむすび、ねんぶ〔つ〕してぞゐたりける。いもうとのぎによ、これをみて、あねみをなげば、われもともに
みをなげんとこそちぎりしか。ましてよをいとはんに、たれかおとるべきとて、十九にてさま
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をかへ、あねといつしよにこもりゐて、ごせをねがふぞあはれなる。ははとじこれをみて、わかきむすめどもだ
にさまをかふるよのなかに、としおとろへたるはは、しらがをつけてもなににかはせんとて、四十五
にてかみをそり、ににんのむすめもろともに、一かうせんじゆにねんぶ〔つ〕してひとへにごせをぞねがひける。かくてはる
すぎなつたけぬ。あきのはつかぜふきぬれば、ほしあひのそらをながめつつ、あまのとわたるかぢのはに、
おもふことかくころなれや、ゆふひのかげのにしのやまのはにかくるるをみても、ひのいりたまふところ
こそ、さいはうじやうどにてあんなれ。いつかわれらもかしこへうまれて、ものをおもはですごさんずら
んと、かかるにつけてもすぎにしむかしのうきことどもおもひいでかたりつづけて、ただつきせぬも
のはなみだなり。たそがれどきもすぎぬれば、たけのあみどをとじふさぎ、ともしびかすかにかきたてて、おや
こ三にんねんぶ〔つ〕してゐたるところに、たけのあみどをほとほとと、うちたたくものいできたり。そのとき
あまどもきもをけし、あはれこれは、いうがひなきわれらがねんぶ〔つ〕してゐたるをさまたげんとて、ま
ゑんのきたるにてぞあらん。ひるだにもひともとひこぬ、やまざとのしばのいほりのうちなれば、よふけ
てたれかたづぬべき。わづかにたけのあみどなれば、あけずともおしやぶらんことやすかるべし。な
かなかただあけていれんとおもふなり。それになさけをかけずして、いのちをうしなふものならば、
としごろたのみたてまつるみだのほんぐわんのつよくしんじて、ひまなくみやうがうをとなへたてまつるべし。こゑをたづねてむか
へたまふなる。しやうしゆのらいがうにてましませば、などかいんぜうなかるべき。あひかまへてねんぶ〔つ〕おこたり
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たまふなと、たがひにこころをいましめて、たけのあみどをあけければ、まえんにてはなかりけり。ほとけご
ぜんぞいできたる。ぎわう、あれはいかに、ほとけごぜんとみたてまつるは、ゆめかやうつつかといひ
ければ、ほとけごぜんなみだをおさへて、いまさらかやうのことまをせば、ことあたらしくはさぶらへども、まをさず
ば、またおもひしらぬみともなりぬべければ、はじめよりして、まをすなり。もとよりわらははすゐざん
のものにて、いだされまゐらせさぶらひしをわごぜのまをしでう[まをでうし]によつてこそ、めしかへされてもさぶらふに、
をんなのみのいひがひなきことは、わがみにこころをまかせずしておしとどめられまゐらせさふらふこと、
いかばかりはづかしく、かたはらいたくこそさふらひしか。わごぜのいだされたまひしを、みしにつけて
も、いつかまたわがみのうへとおもへば、うれしとはさらにおもはず。しやうじに『いづれかあきにあは
ではつべき』とかきおきたまひしふでのあと、げにもとおもひさぶらひしぞや。いつぞやは、まため
されまゐらせて、いまやううたひたまひしにも、おもひしられてさふらふなり。そののちはおんゆくへをいづく
ともしりまいらせざりつるが、かやうにひとつところにとうけたまはァてよりのちは、あまりにうらやましくて、
つねはいとまをまをししかども、にふだうどのさらにごもちひましまさず。つらつらものをあんずるに、しやばのえい
ぐわはゆめのゆめ、たのしみはえてなにかせん。じんじんは[な]うけがたく、ぶつけうにはあひがたし。このたびないりに
しづみなば、たしやうくわうがうをばへだつとも、うかみあがらんことかたかるべし。としのわかきをたのむべき
にあらず。らうせうふぢやうのさかひなり。いづるいきのいるをもまつべからず。かげろういなつまよりもなほはか
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なし。いつたんのたのしみにほこつてごせをしらざらんことのかなつしさに、けさまぎれいでて、かくなァ
つてこそまゐりたれとて、かついだるきぬをうちのけたるをみれば、あまになつてぞいできたる。
かやうに、さまをかへてまゐりたれば、ひごろのとがめをばゆるしたまへ、ゆるさんとだにのたまはば、もろとも
にねんぶ〔つ〕して、ひとつはちすのみとならん。それに、なほこころゆきたまはずば、これよりいづちへもまよひ
ゆき、いかならんまつがね、こけのむしろにもたふれふし、いのちのあらんかぎりねんぶ〔つ〕まをして、そくわい
をとげんとおもふなりとて、たもとをかほにおしあてて、さめざめとかきくどきければ、ぎわう、
まことに、わごぜの、それほどまで、おもひたまはんとは、ゆめにだにしらず、うきよのなかの
さがなれば、みをうしとこそおもひしか、ともすれば、わごぜのことのみうらめしくし
て、なまじひにこ〔ん〕じやうをもごしやうをも、しそんじたるここちにてありつるが、さやうにさまをか
へておはしたれば、ひごろのとがめはつゆちりほどものこらず、いまはわうじやううたがひなし。このたびそくわいをとげ
んこそ、なによりもまたうれしけれ。わらはがあまになりしをだに、ありがたきことのやうに、ひと
もいひわれらもおもひさふらひしか、それはよをうらみみをなげきたれば、さまをかふるもつねのならひ。
わごぜは、うらみもなくなげきもなし。ことしはわづかに十七になりたまふひとの、それほどにゑどをいとひ、
じやうどをねがはんと、おもひたちたまふこころこそ、まことのだ〔い〕だうしんとはおぼゆれ。うれしかりけるぜんちしき
かな。いざ、もろともにねがはんとて、しにんいつしよにこもりゐて、あさゆふぶつぜんにくわかうをそなへて、よ
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ねんなくねがひければ、ちそくこそありけれ、しにんのあまどもみなわうじやうのそくわいをとげけるとぞきこ
えし。さればごしらかはのほふわうの、ちやうがうだうのくわこちやうにも、ぎわう、ぎによ、ほとけ、とぢらがそんりやう
と、しにんいつしよにいれられたり。ありがたかりしことどもなり。

○ 六 二だいのきさき
むかしよりいまにいたるまで、げんぺいりやうしてうかにめしつかはれて、わうくわにしたがはず、おのづからてう
けんをかろんずるものには、たがひにいましめをくはへしかば、よのみだれはなかりしに、ほうげんにためよしきら
れ、へいぢによしともちうせられてのちは、すゑずゑのげんぢども、あるひはながされ、あるひはうしなはれて、
いまはへいけの一るゐのみはんじやうして、かしらをさしいだすものなし。いかならんすゑのよまでも、なにごと
かあらんとぞみえし。されどもとばのゐん、ごあんがののちは、へいがくうちつづいて、しざい、りう
けい、けつくわん、ちやうにん、つねにおこなはれて、かいだいもしづかならず。せけんもいまだらくきよせず。なかんづく、えい
れきおうほのころよりして、ゐんのきんじふしやをば、うちよりおんいましめあり。うちのきんじふしやをば、ゐんよりいまし
めらるるあひだ、じやげおそれをののいて、やすいこころもせず、ただしんえんにのぞんで、はくへうをふむにおな
じ。しゆじやう、じやうわう。ふしのおんあひだに、なにごとのおんへだてかあるなれども、おもひのほかのことどもおほか
りけり。これもよぎやうきにおよんで、ひときようあくをさきとするゆゑなり。しゆじやうつねは、ゐんのあふせをばまをし
23
かへさせおはしましけるなかに、ひと、じぼくをおどろかし、よもつておほきにかたむけまをすことありけり。
ここんゑのゐんのきさきたいくわうたいこうぐうとまをししは、おほいのみかどのうだいじんき〔ん〕よしこうのおんむすめなり。せん
ていにおくれたてまつらせたまひてのちは、ここのへのほか、このゑばらのごしよにぞうつりすませましましける。
さきのきさいのみやにて、かすかなるおんありさまにてわたらせたまひしが、えいりやくのころほひは、おんとし二
十二三にもやならせましましけん。おんさかりもすこしすぎさせおはしますほどなり。されども
てんがだい一のびじんのきこえましましければ、しゆじやういろにのみそめるみこころにて、ひそかにかうりよくじに
ぜうして、ぐわいきうにひきもとめしむるにおよんで、このおほみやへごえんじよあり。おほみやあえてきこしめし
もいれず。さればひたすら、はやほにあらはれて、きさきごじゆだいあるべきよし、うだいじんけに
せんじをくださる。このことてんがにおいてことなるぜうしなれば、くぎやうせんぎありけり、おのおのいけんを[の]い
ふ。まづいてうのせんじうをとぶらふに、しんたんのそくてんくわうごうは、たうのたいそうのきさき、かうそ〔う〕くわうていのけい
ぼなり。たいそうほうぎよののち、かうそうのきさきにたちたまふことありけり。それはいてうのせんきたるうへ、
べつだんのことなり。されどもわがてうは、じんむてんわうよりいらい、にんくわう七十よだいにおよぶまで、いまだ
二だいのきさきにたたせたまふれいをきかずと、しよきやう一どうにうつたへまをされたりければ、じやうわうもしかる
べからざるよし、こしらへまをさせたまへども、しゆじやうあふせありけるは、てんしにふぼなし、
われじふぜんのか〔い〕こうによつて、いまばんじようのはうゐをたもつ。これほどのこと、などかえいりよにまかせざるべ
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きとて、やがてごじゆだいのひ、せんげせられけるうへはちからおよばせたまはず。おほみやかくときこしめ
されけるより、おんなみだにしづませおはします。せんていにおくれまゐらせにし、きうじゆのあきのはじめ、
おなじのはらのつゆともきえ、いへをもいで、よをものがれたりせば、いまかかるうきみみをばきか
ざらましとぞ、おんなげきありける。ちちのおとど、こしらへまをさせたまひけるは、よにしたがはざる
をもつて、きやうじんとすとみえたり。すでにぜうめいをくださる、しさいをまをすにところなし。ただすみやかにまゐら
せたまふべきなり。もしわうじごたんじやうありて、きみもこくもといはれ、ぐらうもぐわいそとあふがるべ
き、やゐさうにてもやさふらふらん。これひとへにぐらうをたすけさせおはします、ごかうかうのおんいたりなる
べしと、やうやうにこしらへまをさせたまへども、おんぺんじもなかりけり。おほみやそのころ、なにと
なきおんてならひのつひでに、
うきふしにしづみもやらでかはたけのよにためしなきなをやながさん
よには、いかにしてもれけるやらん、あはれにやさしきためしにぞ、ひとびとまをしあはされける。
すでにごじゆだいのひにもなりしかば、ちちのおとど、ぐぶのかんだちめ、しゆしやのぎしきなんど、こころこ
とにたてまつらせたまひけり。おほみやものうきおんいでたちなれば、とみにもたてまつらず。はるかによふけ、さよ
もなかばになつてのち、みくるまにたすけのせられさせたまひけり。ごじゆだいののちは、れいけいでんにぞまし
ましける。さればひたすら、あさまつりごとをすすめまをさせたまふおんさまなり。かのししんでんのくわうきよには、
25
げんじやうのしやうじをたてられたり。いいん、だい五りん、ぐせいなん、たいこうばう、かくりせんせい[せいせい]、りせき、しば、
てなが、あしなが、うまがたのしやうじ、おにのま、りしやうぐんがすがたを、さながらうつせるしやうじもあり。をはり
のかみをののだうふうが、七くわいけんじやうのしやうじとかけるも、ことわりとぞみえし。かのせいりやうでん[せいりやでん]のぐわとの
みしやうしには、むかしかなをかがかいたりし、ゑんざんのありあけのつきもありとかや。こゐんのいまだえうしゆに
てわたらせましませしけんそのかみ、なにとなきおんてまさぐりのついでに、かきくもらかさ
せたまひたりしが、ありしながらにすこしもたがはせたまはぬを、ごらんじて、せんていのむかしも
や、おんこひしうおぼしめされけん。
おもひきやうきみながらにめぐりきておなじくもゐのつきをみんとは
そのあひだのおんなからひ、いひしらずあはれにやさしきおんことなり。

○ 八 がくうちろん
さるほどに、えいまんぐわんねんのはるのころより、しゆじやうごふよのおんことときこえさせたまふ、おなじきなつの
はじめにもなりしかば、ことのほかにおもらせたまひけり。これによつて、おほくらのたいふ、きのかねもりが
むすめのはらに、こんじやう一のみやの二さいにならせたまふがましましけるをたいしにたてまゐらさせたまふ
べきよしきこえしほどに、おなじき六ぐわ〔つ〕二十五にち、にはかにしんわうのせんじくださらせたまふ。そのよやが
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てじゆぜんありしかば、てんがなんとなうあわてたるさまなりけり。そのときのいうしよくのひとびとまをしあ
はれけるは、まづほんてうに、どうたいのれいをたづぬるに、せいくわてんわう九さいにして、もんどくてんわうのみ
ゆづりをうけさせたまふ。これかのしゆくだんのせいわうにかはり、なんめんにして、いちじ〔つ〕ばんきのせいじををさめ
たまひしになぞらへて、ぐわいそちうじんこう、えうしゆをふちしたまへり。これぞせつしやうのはじめなる。とばの
ゐん五さい、こんゑのゐんの三さいにてせんそあり。かれをこそ、いつしかなれとまをししに、これは二さい
にならせたまふ。せんれいなしものさわがしともおろかなり。さるほどにおなじき七ぐわ〔つ〕二十七にちじやうわう
つひにほうぎよなりぬ。おんとし二十三さい。つぼめるはなの、ちれるがごとし。たまのすだれ、にしきのとばりのうち、
みなおんなみだにむせばせおはします。やがてそのよ、くわうりうじのうしとら、れんだいののおく、ふなをかやまにおさめ
たてまつる。ごそうそうのよ、こうふく、えいりやくりやうじのたいしう、がくうちろんといふことをしいだいて、たがひにらうぜきに
およぶ。いつてんのきみほうぎよなつてのち、ごむしよへわたしたてまつるときのさはふは、なんぼく二きやうのだいしうことごと
くぐぶして、ごむしよのめぐりに、わがてらでらのがくをうつことありけり。まづしやうむてんわうのごくわん、
あらそふべきてらなければ、とうだいじのがくをうつ。つぎにたんかいこうのごぐわんとて、こうぶくじのがくをうつ、
ほくきやうには、こうぶくじにむかへてえんりやくじのがくをうつ。つぎにてんむてんわうのごぐわん、けうだいくわしやう、ち
しようだいしのさうざうとて、をんじやうじのがくをうつ。しかるをさんもんのたいしう、いかがおもひけん、せんれいを
そむいて、とうだいじのつぎ、こうぶくじのうへに、えんりやくじのがくをうつあひだ、なんとのだいしうとやせまし、
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かくやせましとせんぎするところに、ここにこうぶくじのさいこんだうしゆ、くわんおんばう、せいしばうとて、きこえた
るだいあくそう二にんありけり。くわんおんばうはくろいとおどしのはらまきに、しらつかのなぎなたくきみじかにとり、せい
しばうは、もえぎおどしのよろひき、こくしつのおほだちもつて、二にんつとはしりいで、えんりやくじのがくをきつ
ておとし、さんざんにうちわり、うれしやみづ、なるはたきのみづ、ひはてるともたえずと、うた
へと、はやしつつ、なんとのしうとのなかへぞいりにける。

○ 九 きよみづえんじやう
さんもんのだいしう、らうぜきをいたさば、てむかひすべきところに、こころぶかうねらふかたもやありけん、ひとこと
ばもいださず、みかどかくれさせたまひてのちは、こころなきさうもくまでもみなうれへたるいろにこそあるべき
に、このさうどうのあさまつしさに、たかきもいやしきも、きもたましひをうしなつて四はうへみなたいさんす。おなじ
き二十九にちのうまのこくばかりさんもんのだいしうおびただしうげらくすときこえしかば、ぶしけんびゐし、にし
さかもとにゆきむかつて、ふせぎけれども、ことともせずおしやぶつてらんにふす。またなにもののまをしいだし
たりけるやらん、一ゐん、さんもんのだいしうにあふせて、へいけつゐたうせられるべきよしきこえしかば、ぐん
びやうだいりにさんじて、四はうのぢんとうをかためてけいごす。へいしの一るゐ、みな六はらへはせあつまる。一ゐん
もいそぎ、六はらへごかうなる。きよもりこう、そのときは、いまだだいなごんのうだいしやうにておはしける
28
が、おほきにおそれさわがれけり。こまつどのなにによりて、ただいまさるおんことのわたらせたまひさふらふべ
きと、しづめまをされけれども、つはものどもさはぎののしることおびただし。されどもさんもんのだいしう、六はら
へはよせずして、そぞろなるせいすゐじにおしよせて、ぶつかくそうばう一うものこさずやきはらふ。
これはさんぬるごさうそうのよの、くわいけいのはぢをきよめんがためとぞきこえし。せいすゐじは、こうぶくじの
まつじたるによつてなり。せいすゐじやけたりけるあした、くわんおんくわかうへんじやうちはいかにとふだに
かいて、だいもんのまへにぞたつたりける。つぎのひ、またれきごふ[れきごな]ふしぎちからおよばずと、かへしへのふだを
ぞうつたりける。しうとかへりのぼりければ、一ゐんもいそぎ六はらよりくわんぎよなる。おんおくりにはしげ
もりのきやう[きみ]ばかりぞまゐられける。ちちのきやうはまゐられず。なほようじんのためかとぞみえし。しげもりの
きやう、おんおくりよりかへられければ、ちちのだいなごんのたまひけるは、さても一ゐんのごかうこそおほきに
おそれおぼゆれ。かねてもおぼしめしより、あふせらるるむねのあればこそ、かくはきこゆらめ。
それにもなほうちとけたまふまじとのたまへば、しげもりのきやうまをされけるは、このことゆめゆめおこと
ばにもみけしきにも、いださせたまふべからず。ひとにこころつけがほに、なかなかあしきおんことなり。
これにつけてもよくよくゑいりよにそむかせたまはで、ひとのためにおんなさけをほどこさせましまさば、
しんめい三ばうかごあるべし。さらんにとつては、おんみのおそれさふらふまじとて、たたれたれば、
しげもりのきやうは、ゆゆしうおほやうなるものかなとぞ、ちちのきやうものたまひける。一ゐんくわんぎよの
29
のち、ごぜんにうとからぬきんじふしやたちかずおほくさふらはれけるがなかに、さてもふしぎのことをまをしいだし
たるものかな。つゆもおぼしめしよらぬものをとおほせければ、ゐんちうのきりものにさいくわうほふしとい
ふものあり。をりふしごぜんちかうさふらひけるが、すすみいでて、てんにくちなし、ひとをもつていはせよと
まをす。へいけもつてのほかのくわぶんにさふらふ、てんのおんぱからひにやとぞまをしける。ひとびとこのことよしなし、
かべにみみあり。おそろしおそろしとぞ、おのおのささやきあはれける。さるほどに、そのとしはりやうあんな
りければ、ごけい、だいじようゑもおこなはれず、けんしゆんもんゐん、そのときはいまだひんがしのおんかたとまをしける、
そのおんぱらに、一ゐんのみやの五さいにならせたまふのましましけるを、たいしにたてまゐらつさせ
たまふべしときこえしほどに、おなじき十二ぐわ〔つ〕二十しにち[よつか]にはかにしんわうのせんじ[せいじ]かふむらせたまふ。あくれば
かいげんあつてにんなんとがうす。十ぐわ〔つ〕やうかのひ、きよねんしんわうのせんじかふむらせたまひたりしわうじ、とうさん
でうにて、とうぐうにたたせたまふ。とうぐうは、おんをぢ、六さい。しゆじやうはおんをひ、三さい。いづれもせうばく
にあひかなはず。ただしくわんな二ねんに、一でうのゐんの六さいにておんそくゐあり。三でうのゐん十一さいにてとう
ぐうにたたせたまふ。せんれいなきにしもあらず。しゆじやうは二さいにて、おんゆづりをうけさせたまひて、
わづか五さいとまをししにんぐわ〔つ〕十九にちに、おんくらゐをすべつて、しんゐんとぞまをしける。いまだおんげ〔ん〕ぷくもな
くして、だいじやうてんわうのそんがうあり。かんか、ほんてうこれやはじめならん。にんなん三ねん三ぐわ〔つ〕はつか
のひ、しんていたいきよくでんにしてごそくゐあり。そもそもこのきみのくらゐにつかせたまひぬるは、いよいよへい
30
けのえいぐわとぞみえし。こくもけんしゆんもんゐんとまをすは、へいけの一もんにておはします、とりわけにふ
だうさうこくのきたのかた、八でうの二ゐどののおんいもうとなり。またへいだいなごんときただのきやうとまをすも、このにようゐんの
おんせうとなるうへ、うちのごぐわいせきなり。ないげにつけても、しつけんのしんとぞみえし。そのころのじよゐ、
ぢよもくとまをすも、ひとへにこのときただのきやう[きみ]のままなりげり。やうきひがさいはひしとき、やうこくちうがうさかえ
し〔が〕ごとし。よのおぼえ、ときのきらめでたかりき。にふだうさうこくてんがのだいせうじをのたまひあはせら
れたりければ、ときのひとへいくわんぱくとぞまをしける。

○ 十 でんがののりあひ
さるほどに、かおうぐわんねん七ぐわ〔つ〕十六にち、一ゐんごしゆつけあり、ごしゆつけののちも、ばんきのまつりごとをし
ろしめされければ、ゐん、うち、わくかたなし。ゐんぢうにちかくめしつかはれけるくぎやうでんじやうびと、
しやうげのほくめんにいたるまで、くわんゐほうろく、みなみにあまるばかりなり。されどもひとのこころのならひにて、
なほあきたらで、あつぱれそのひとのうせたらば、そのくにはあきなん、そのひとのほろびたら
ば、そのくわんにはなりなむなんど、うとからぬどちは、よりあひよりあひささやきけり。一ゐん
もないないあふせなりけるは、むかしよりよよのてうてきをたひらげたるものおほしといへども、いまだかやうの
ことなし。さだもり、ひでさとがまさかどをうち、らいぎがさだたふ、むねたふをほろぼし、ぎかがたけひら、いへひらをせ
31
めたりしにも、けんじやうおこなはれしこと、じゆりやうにはすぎざりき。きよもりが、かくこころのままにふ
るまうことこそしかるべからね。これもよすゑになつて、わうはふのつきぬるゆゑなりとは、あふせな
りけれども、ついでなければ、おんいましめもなし。へいけもまたべつして、てうかをうらみたてまつることもなか
りしが、よのみだれそめけるこんぼんは〔な〕、いんじかおう二ねん十ぐわ〔つ〕十六にち、こまつどののじなんしん三みのちう
じやうすけもりのきやう、そのときはいまだゑちぜんのかみとて、しやうねん十三になられけるが、ゆきははだれにふ
う[*この一字不要]つたりけり。かれののけしきまことにおもしろかりければ、わかきさむらひども、三十きばかりめしぐ
して、れんだいのや、むらさきの、うこんのばばにうちいで、たかどもあまたすゑさせ、うづら、ひばりをお
ひたておひたて、ひねもすにかりくらし、はくぼにおよんで六はらへこそかへられけれ、その
ときのごせうろくは、まつどのにてぞましましける。ひんがしどうゐんのごしよよりごさんだいありけり。いうはうもん
よりじゆきよなるべきにて、ひんがしのどうゐんをみなみへ、おほゐのごもんをにしへぎよしゆつなる。すけもりのあそん、
おほゐのごもんゐのくまにて、でんがのぎよしゆつにはなつきにまゐりあふ。おんとものひとどもなにものぞ、らうぜき
なり、ぎよしゆつのなるに、のりものよりおりさふらへおりさふらへと、いらでけれども、あまりにほこりいさみ、よ
をよともせざりけるうへ、めしぐしたるさむらひどもも、みな二十よりうちのわかものどもなれば、れいぎ
こつぽふわきまへたるもの一にんもなし。でんがのぎよしゆつともいはず、一せつげばのれいぎにもおよばず、ただ
かけやぶう[*この一字不要]つてとほらんとするあひだ、くらさはくらし、つやつやだいじやうにふだうのまごともしらず。またせう
32
せうはしりたれども、そらしらずして、すけもりのあそんを[の]はじめとして、さむらひどもみなうまよりとつてひ
きおろし、すこぶるちじよくにおよびけり。すけもりのあそん、はふばふ六はらへかへりおはして、おほぢの
さうこくぜんもんにこのよしうつたへまをされければ、にふだうおほひにいかつて、たとへ、でんがなりとも、じやうかいが
あたりをばはばかりたまふべきに、さうなうあのをさなきものに、ちじよくをあたへられけるこそゐこんの
しだいなれ。かかることよりして、ひとにはあざむかるるぞ。このことでんがにおもひしらせたてまつらでは、え
こそあるまじければ、いかにもして、でんがをうらみたてまつらずやとのたまへば、しげもりのきやう[きよう]まをさ
れけるは、これはすこしもくるしうさふらふまじ。よりまさ、みつもとなどまをすげんじどもに、あざむかれて
もさふらはんは〔な〕、まことに一もんのちじよくにてもさふらふべし。しげもりがこどもとてさふらはんずるものが、
とののぎよしゆつにまゐりあひて、のりものよりおりさふらはぬことこそ、かへすかへすもびろうにさふらへとて、そ
のとき、ことにあうたるさむらひどもみなめしよせて、じこんいご、なれらよくよくこころうべし。あやまァつてでん
がへぶれいのよしをまをさばやとおもへとてこそかへされけれ。そののちにふだう、こまつどのには、かくと
ものたまひもあはせずして、かたゐなかのさむらひのきはめてこはらかにて、にふだうのあふせよりほか、またよに
おそろしきことなしとおもふさむらひども、なんば、せのををはじ〔め〕として、つがふ六十よにん、めしよせて、きたる
二十一にち、でんがぎよしゆつあるべかんなり。いづくにてもまちうけたてまつり、ぜんく、みずゐじんどもが
もとどりきつて、すけもりがはぢそそげとこそのたまひけれ。つはものどもかしこまりうけたまはつてまかりいづ。でんが、
33
これをばゆめにもしろしめされず。しゆじやう、みやうねんごげんぷく、ごかくわん、はいくわんのおんさだめのために、ごち
よくろしばらくにあるべきにて、つねのぎよしゆつよりはひきつくろはせたまひて、こんどはたいけんもんよりじゆきよ
あるべきにて、なかのみかどをにしへぎよしゆ〔つ〕なる。ゐのくま、ほりかはのほとりにて、ろくはらのつはものども、
ひたかぶと三百よきまちうけたてまつり、でんがをなかにとりこめまゐらせて、ぜんごより一どに、ときを
どつとぞつくりける。せんぐ、みずゐしんどもが、けふをはれとしやうぞいたるを、あそこにお
ひかけ、ここにおひつめ、さんざんにれうりやくし、一々にみなもとどりをきる。ずゐしん十にんのうち、みぎのふ
しやうたけもとがもとどりをもきられてんけり。そのなかに、とうくらんどのたいふたかのりがもとどりをきるとて、これ
はなんぢがもとどりとおもふべからず、しゆのもとどりとおもふべしと、いひふくめてぞきつてんげる。その
のち、みくるまのうちへも、ゆみのはずつきいれなんどして、すだれかなぐりおとし、おんうしのしりがひ、むな
がひきりはなち、かくさんざんにしちらし、よろこびのときを咄とつくり、六はらへまゐりけれ、にふ
だう、しんめうなりとぞのたまひける。おんくるまぞへには、いなばのさいづかひ、とばのくにひさまるといふ
をとこ、げろうなれども、さかざかしきものにて、おんくるまをしつらひつかまァあて、なかのごもんのご
しよへくわんぎよなしたてまついる。そくたいのおんそでにて、おんなみだをおさへさせたまひつつ、くわんぎよのぎしきのあさ
まつしさ、まをすもなかなかおろかなり。たいしよくくわん、たんかいこうのおんことは、あげてまをすにおよば
ず。ちうじんこう、せうせんこうよりこのかた、せつしやうくわんぱくの、かァかるおんめにあはせたまふこと、いまだうけたまは
34
りおよばず。これこそへいけのあくぎやうのはじめなれ。こまつどの、おほきにさはいで、そのときゆきむかつた
るさむらひども、みなか〔ん〕だうせらる。たとへにふだういかなるふしぎをげぢしたまふとも、などしげもりにゆめ
ばかりもしらせざりけるぞ。およそはすけもりきくわいなり、せんだんは〔な〕二ばよりかうばしとこそみえた
れ。すでに十二三にならんずるものが、いまはれいぎをぞんちしてこそふるまふべきに、かやうの
びろうをげんじて、にふだうのあくみやうをたつ、ふぎやうのいたり。なんぢひとりにありとて、しばらくいせのくに
へおつくださる。さればこのたいしやうをば、きみもしんもぎよかんありけるとぞきこえし。

○ 十一 ししのたに
しゆじやうごげんぷくのおんさだめ、そのひはのびさせたまひて、おなじき二十五にちゐんのでんじやうにてぞ、
にはかにごげんぷくのおんさだめはありける。せつしやうどの、さてもわたらせたまふべきならねばおなじき十二
ぐわ〔つ〕ここのかのひかねせんじをかふむらせたまひて、十しにちだいじやうだいじんにのぼらせたまふ。やがておなじき十七にち
よろこびまをしのありしかども、せけんはなほもにがにがしうぞみえし。さるほどにことしもくれて、
かおうもみとせになりにけり。しやうぐわ〔つ〕いつかのひ、しゆじやうごげんぷくあァて、おなじき十三にちてうきんのごこう
ありけり。ほふわう、によゐん、まちうけまゐらさせたまひて、うゐかうふり、のよそほひ、いかばかりらうた
くおぼしめされけん。にふだうさうこくのおんむすめ、にようごにまゐらせたまふ。おんとし十五さい、ほふわうごゆうしの
35
ぎなり。めうおんゐんのおとど、だいじや〔う〕のうだいじんそのときはいまだないだいじんのさだいしやうにてましましけるが、
だいしやうをじしまをさせたまふことありけり。ときにとくだいじのだいなごんじつていのきやう、そのじんにあひあたり
たまふ。またくわざんのゐんのちうなごんかねまさのきやうもしよもうあり。そのほか、こなかのみかどのとうちうなごんかせい
のきやうの三なんしんだいなごんなりちかのきやうもひらにまをさる。このだいなごんはゐんのみけしきよかりけれ
ば、さまざまのいのりどもはじめらる。まづやはたに百にんのそうをこめて、しんどくのだいはんにやをしちにちよ
ませられたりけるさいちうに、かうらのだいみやうじんのおんまへなるたちばなのきへ、をとこやまのかたよりやまばとみつつ
とびきたつて、くひあひてぞしににける。はとは八まんだいぼさつのだい一のししやなりければ、みや
てらにかかるふしぎなしとて、ときのけんきやうきやうさいほふいん。このよしだいりへそうもんしたりければ、これただ
ごとにあらず。おんうらあるべしとて、しんぎくわんにしておんうらあり。おもきおんつつしみとうらなひまをす。ただし
これはきみのおんつつしみにはあらず、しんかのつつしみなりとぞまをしける。それにだいなごんおそれもいたされず、
ひるはひとめのしげければ、よなよなかちあるきにて、なかのみかどからすまるのしんだいなごんのしゆくしよより、かも
のかみのやしろへななよつづけてまゐられけり。ななよにまんずるよ、しゆくしよにげかうしてちつと、うちま
どろみたりけるゆめに、かものかみのやしろへまゐりたるとおぼしくて、ごはうでんのみとおしひらき、ゆ
ゆしうけだかげなるおんこゑにて、
さくらばな[さくらばか]かものかはかぜうらむなよちるをばえこそとどめざりけれ
36
だいなごん、これになほおそれをもいたされず、かものかみのやしろのごはうでんのおんうしろなるすぎのうろにあたら
しうだんのたてて、あるひじりをこめて、だぎにのはふを百にちおこなはせられけるに、にはかにそらかきくも
り、いかづちおびただしうなつて、かのおほすぎのうへにおちかかり、らいくわもえあがつて、きうちうすでにあや〔ふ〕うみえける
を、みやうとどもはしりあつまつて、これをうちけす。さてかのぐわいはふおこなひけるひじりを、おひいだせんと
す。われたうしやに百にちさんろうのこころざしあァつて、けふはわづかに七十五にちにこそあれ。まつたくいでまじと
てうごかず。このよしをしやけよりだいりへそうもんしたりければ、ただはふにまかせよとせんじをくださる。
そのときじんにんしらつゑをもつて、かのひじりがうなじをしらげて、一でうのおほちよりみなみへおつこしてんげり。
しんはひれいをうけたまはずとまをすにこのだいなごん、ひぶんのだいしやうをいのりまをされければにや、か
かるふしぎもいできにけり。そのころのじよゐ、ぢもくとまをすは、ゐん、うちのおんぱからひにもあ
らず、せつしやうくわんぱくのごせいばいにもおよばず、世はひたすらへいけのままにてあるあひだはとくだいじ、くわ
ざんのゐんもなりたまはず、にふだうさうこくのちやくなんこまつどの、そのときはいまだだいなごんのうだいしやうにておは
しけるが、ひだんにうつつて、じなんむねもり、ちうなごんにておはせしが、すうはいのじやうらふをてうおつして、
みぎにくはへられけるこそ、まをすばかりもなかりしか、なかにもとくだいじどのは、一のだいなごんに
て、くわぞく、えいゆう、さいがくいうちやう、けちやくにておはしけるが、へいけのじなんむねもりのきやうに、かかいこ
えられたまひけり。ただしごしゆつけなんどもやあらんずらんと、ひとびとまをしあはされけれども、とくだい
37
じどのは、しらばくよのならんやうみんとて、だいなごんをじして、ろうきよとぞきこえし。しんだいなごんなり
ちかのきやうのたまひけるは、とくだいじ、くわざんのゐんにこえられたらんは〔な〕、いかがせん。へいけのじ
なんむねもりのきやうに、かかいこえられぬるこそゐこんのしだいなれ。これににふだうさうこくよろずおもふやう
なるがいたすところなり、いかにもしてへいけをほろぼし、ほんもうをとげんとのたまひけるこそおそろしけ
れ。ちちのきみはこのよはひでは、わづかちうなごんまでこそいたられしか、そのばつしにて、くらゐじやう二ゐ、
くわんだいなごんにへあがつて、だいこくあまたたまはりて、しぞくしよじうてうをんにほこれり。なんのふそくあつてか、
かかるこころつかれけん。ひとへにてんまのしわずとぞみえし。へいぢにも、ゑちごのちうじやうとて、のぶより
のきやうにどうしんのあひだ、そのときすでにちう[ちゆ]せらるべかりしを、こまつどののさまざまにまをさせたまひて、
かうべをつぎたてまつりてましけるをそのをんを[の]わすれて、ぐわいじんもなきところにへやうぐをととのへ、ぐんびやうをかたら
ひおき、あさゆふはただいくさがつせんのいとなみのほかは、またたじなしとぞみえたりける。ひがしやまししがたにと
いふところは、うしろはみゐでらにつづいて、ゆゆしきじやうくわくにてぞありける。それにしゆんくわんそうづのさん
ざうあり。かれにつねはよりあひよりよりあひ、へいけほろぼすべきよしのはかりごとをぞめぐらしける。あるときほふわうも
みゆきなる。こせうなごんにふだうしんぜいのしそく、じやうけんほふいんもおんともつかまつらる。そのよのしゆえんに、この
よしをあふせあはせられたりければ、ほふいんあなあさまし、ひとあまたうけたまはりさふらひぬ。ただいまもれきこえ
て、てんかのおんだいじにおよびさふらひなんずとまをされければ、だいなごんけしきかはつて、つとたたれ
38
けるが、みまへにたてられたりけるへいじを、かりぎぬのそでにかけてひきたふされたりけるを、
ほふわうえいらんなつて、あれはいかにとあふせければ、だいなごんたちかへつて、へいしたふれさふらひぬと
まをされける。ほふわうもゑつぼにいらせおはしまし、ものどもまゐつてさるがくつかまつれとあふせければ、
へいはうぐわん[はうくわん]やすより、つとまゐつて、ああ、あまりにへいじのおほうさふらふに、もてゑひてさふらふとまをす。
しゆんくわんそうづさてそれをばいかがつかまつりさふらふべき。さいくわうほふし、ただくびをとるにはしかじとて、
へいじのくびをとつてぞいりにける。はふいんあまりのあさまつしさに、つやつやものもまをされず、かへ
すがへすもおそろしかりしことどもなり。よりきのともがらたれだれぞ、あふみのちうじやうにふだうれんじやう、ぞくみやうなり
まさ、ほつしやうじのしゆぎやうしゆんくわんそうづ、やましろのかみもとかね、しきぶのたいふ[たいう]まさつな、へいはうぐわんやすより、そうはうぐわん
のぶふさ、しんぺいはうぐわん[はうがん]すけゆき、ぶしにはただのくらんどゆきつなをはじめとして、ほくめんのものどもおほくよりきして
んけり。

○ 十二 うがはがつせん
間之物
そもそもこのほつしやうじのしゆぎやうしゆんくわんそうづとまをすは、きやうごくのみなもとのだいなごんまさとしきやうのまご、きでらのほふいん
くわんがにはこなりけり。そぶだいなごんはさしてゆみやとるいへにはあらねども、あまりにはらあ
しきひとにて、三でうのばうもん、きやうごくのしゆくしよのまへをば、ひとをもやすくとほされず、つねはなかみかどに
39
たたずみ、はをくひしばり、いかつてこそおはしけれ。かかるおそろしきひとのまごなればにや、
このしゆんくわんもそうなれども、こころたけう、よしなきむほんにもくみしてげるなり。
しんだいなごんなりちかのきやう、ただのくらんどゆきつなをめいて、こんどごへんを[の]ば、一ぱうのたいしやうにたのむなり。
このことしおほせつるものならば、くにをもしやうをもしよもうによるべし。まづゆぶくろのれうにとて、
しろぬの五十たんおくられたり。あんげん三ねん三ぐわつ十五にちのひ、めうおんゐんどの、だいじやうだいじんにてんじたまへり。
かはりにこまつどの、みなもとのだいなごんさだふさきやうをこえて、ないだいじんになりたまふ。やがてだいきゃうおこなはる。だい
じんのたいしやうめでたかりき。そんじやには、おほゐみかどのうだいじんつねむねこうとぞきこえし。一のかみこ
そせんとなれども、ちちうぢのあくざふのごれいそのおそれあり。ほくめんはじやうこにはなかりけり。しら
かはのゐんのおんとき、はじめおかれてよりこのかた、さきもりどもあまたさふらひけり。ためとし、もりしげ、わらはより、
いまいぬまる、せんじゆまるとて、これらはさうなききりものにてぞありける。とばのゐんのおんときも、すゑより、
すゑのりふし、ともにてうけにめしつかはれてありしが、つねはでんそうするをりもありなんどきこえしか
ども、これらはみのほどをふるまひてこそありしか、このときのほくめんのはいは、こ〔と〕のほかにくわぶんに
て、くぎやうでんじやうびとをもことともせず、しもほくめんよりかみほくめんにのぼり、かみほくめんよりでんじやうのまじはりを
ゆるさるるものもおほかりけり。かくのみおこなはるるあひだ、をごれるこころどもつきて、よしなきむ
ほんにもくみしてけるにこそ。(以上間之物)
40
こせうなごんにふだうしんぜいのもとにめしつかはれけるもろみつ、なりかげといふものあり。もろみつはあはの
くにのざいちやう、なりかげはみやこのもの、しゆくこんいやしきげらふなり。こんでいわらはか、もしくはかくごしやにてもやあ
りけん。さかさかしかりしによりてゐんへもめしつかはれけるが、もろみつはさゑもんのじよう、なり
かげはうゑもんのじやうとて、二にん一どにゆきへのじじうになりぬ。ひととせのぶ[*この二字不要]しんぜい〔こと〕にあひしとき、二にんとも
にしゆつけして、さゑもんにふだうさいくわう、うゑもんにふだうさいけいとて、これらはしゆつけののちも、ゐんのみくらあづか〔り〕
にてぞさふらひける。かのさいくわうがこに、もろたかといふものあり。これ[もれ]もさうなききりものにて、けんび
ゐし五ゐのじようまでへのぼつて、あまつさへあんげんぐわんねん十二ぐわ〔つ〕二十九にち、つゐなのぢもくに、かがのかみに
ぞなされける。こくむをおこなふあひだ、ひほふひれいをちやうかうし、じんじやぶつじ、けんもんせいけのしよりやうをぼつたふ
して、さんざんのことどもにてぞありける。たとへせうこうがあとをへだつといふとも、をんびん[はんびん]のまつりごとをおこな
ふべかりしに、かくこころのままにふるまふあひだ、おなじ二ねんのなつのころ、こくしもろたかがおとうと、こんどうはう
ぐわんもろつねを、かがのもくだいにほせらる。もくだいげちやくのはじめ、こうのほとりにうがはといふやまでらあり。
をりふしじそうどもが、ゆをわかいてあびけるを、らんにふしておひあげ、わがみあび、ざうにんばらお
ろし、うまあらはせなんどしけり。じそういかりをなして、むかしよりこのところはこくはうのもののにふぶする
ことなし。せんれいにまかせて、すみやかににふぶのわうばうやめよやとぞまをしける。もくだいおほきにいか
つて、さきざきのもくだいは、みなふかくでこそいやしまれたれ。とうもくだいにおいては、すべてその
41
ぎあるまじ。ただはふにまかせよといふほどこそありけれ、じそうどもは、こくはうのものをおひいださ
んとす、こくはうのものどもはついでをもつて、らんにふせんとうちあひ、はりあひしけるほどに、もくだい
もろつねがひざうしけるうまのあしをぞうちをりける。そののちはたがひにゆみやへいぢやうをたいして、いあひ
きりあひすこくたたかふ。よにいりければ、もくだいかなはじとやおもひけん、ひきしりぞき、そののちたう
ごくのざいちやうら、一千よにんもよほしあつめ、うがはにおしよせ、ばうしや一うものこさずみなやきはらふ。う
がはといふは、はくさんのまつじなり。このことうつたへんとて、すすむらうそうたれだれぞ、ちしやく、かくみやう、ほふ
だいばう、しやうち、がくおん、とさのあじやりぞすすんだる。はくさん三じや八ゐんのだいしう、ことごとくおこりあひ、
つがふそのせい二千よにん、おなじ七ぐわ〔つ〕ここのかのひのくれがたに、もくだいもろつねがやかたちかうこそおしよせたれ。
けふはひくれぬ。あすのいくさとさだめて、そのひはよせでゆらへたり。つゆふきむすぶあきかぜは、
いむけのそでをひるがへし、くもゐをてらすいなづまはかぶとのほしをかがやかす。もくだいかなはじとやおもひけん、よにげ
にしてみやこへのぼる。あくるうのこくにおしよせて、ときをどつとぞつくりける。しろのなかには
おともせず。ひとをいれてみせければ、みなおちてさふらふとまをす。だいしうちからおよばでひきしりぞく。さ
らばさんもんへうつたへんとて、はくさんちうぐうのしんによかざりたてまつて、ひえいざんへふりあげたてまつる。おなじき
八ぐわ〔つ〕十二にちのうまのこくばかり。はくさんちうぐうのしんによ、すでにひえいざんひんがしさかもとにつかせたまふときこえ
しかば、ほくこくのかたよりいかづちおびただしくなつて、みやこをさしてなりのぼり、はくせつふつてちをうづみ、
42
さんじやうらくちうおしなべて、ときはのやまのこずひまでみなしらたへになりにけり。

○ 十三 ぐわんだて
しんによをば、まらうどのみやへいれたてまつる。このまらうどとまをすは、はくさんめうりごんげんにておはし
ます。まをせばふしのおんなかなり。まづさたのじやうふはしらず。せいぜんのおんよろこび、ただこのことにあ
り。うらしまがこのななよのまごにあへりしにもすぎ、たいないのもののりやうぜんのちちをみしにもこえた
り。三千のしゆとくびすをつぎ、七しやのじんにんそでをつらねじじこくこくのほつしやうきねん、ごんごだうだんのことども
にてぞさふらひける。さるほどにさんもんには、こくしかがのかみもろたかをるざいにしよせられ、をとうとこん
どうはうぐわんもろつねをきんごくせらるべきよし、そうもんすといへども、ごさいきよもなかりしかば、しかる
べきくぎやうでんじやうびとは、あはれとくしてごさいきよあるべきものを、むかしよりさんもんのそしようはたに
ことなり。おほくらのきやうためふさ、だざいのごんのかみすゑなかのきやうは、さしもてうけのぢうしんたりしかども、さん
もんのそしようによつて、るざいせられたまひにき。いはんやもろたかなんどは、ことのかずにもやはあるべ
き、しさいにやおよぶべきとまをしあはれけれども、だいじんはろくをおもんじていさめず、せうしんはつみに
おそれてまをさずといふことなれば、おのおのくちをとぢたまへり。
かもがはのみづ、すごろくのさい、やまほふし、これぞわがおんこころにかはなぬものと、しらかはのゐんもあふせ
43
なりけるとかや。とばのゐんのおんときも、ゑちぜんのへいせんじを、さんもんへよせられけることは、
たうざんをごきえあさからざるによつてなり。ひをもつてりとすと、せんげせられてこそ、ゐんせん
をばくだされけれ。されば、がうのそつきやうばうのきやうのまをされしさんもんのたいしう、ひえのしんによをぢんとうへ
ふりたてまつて、そしようをいたさば、きみはいかがおんぱからひさふらふべきとまをされければ、ほふわうげにも
さんもんのそしようはもだしがたしとぞ、あふせける。いんじかはう二ねん三ぐわ〔つ〕ふつかのひ、みののかみみなもとの
よしつなのあそん、たうごく[たうごん]しんりうのしやうをたふすあひだ、やまのくじうしやゑんおうをせつがいす。これによつてひよしのしや
し、えんりやくじ[えんれきじ]のじくわん、つがふ三十よにん、まをしぶみをささげて、ぢんとうへさんじたるを、ご二でうのくわんぱくどの、
やまとげんぢなかつかさのごんせうぶよりはるにあふせて、これをふせがせらるるに、よりはるがらうとうやをはなつ、やには
にいころさるるもの八にん、きずをかふむるもの十よにん、しやししよし四はうへみな退散(たいさん)す。これによつ
てさんもんのじやうかうら、しさいをそうもんのために、おびただしくげらくすときこえしかば、ぶし、けんびゐし、
にしさかもとにゆきむかつて、みなおつかへす。さるほどにさんもんには、ごさいだんちちのあひだ、ひえのしん
によをこんぽんちうだうへふりあげたてまつり、そのおんまへにて、しんどくのだいはんにやをしちにち[しちにり]よみて、ご二でうの
くわんぱくどのをじゆそしたてまつる。けつぐわんのだうしには、ちういんほふいん、そのときはいまだちういんぐぶとまをししが、
かうざにのぼり、かねうちならし、けいびやくのことばにいはく、われらがなたねのふたはよりおほしたてたま
ひしかみたち、ご二でうのくわんぱくどのに、かぶらやひとつはなちあてたまへ、だいはちわうじごんげんと、たからかにこ
44
そきせいしたりけれ。そのよやがてふしぎのことありけり。はちわうじのごてんより、かぶらやのこゑ
いでて、わうじやうをさしてなつてゆくとぞ、ひとのゆめにはみえたりける。そのあした、くわんぱくどの
のごしよのごかうしをあけけるに、ただいまやまよりとつてきたりけるやうに、つゆにぬれたるしきみ
ひとえだたちたりけるこそふしぎなれ。やがてそのよよりご二でうのくわんぱくどの、さんわうのとがめとて、
おもきおんいたつきをうけさせたまひて、うちふさせたまひしかば、ははうへおほどののきたのまんどころ、おほいにおんなげき
あつて、おんさまをやつし、いやしきげらうのまねをして、ひえのやしろへまゐらつさせたまひて、しちにちしち
よがあひだいのりまをさせおはします。まづあらはれてのごりふぐわんには、しばでんがく百ばん、百ばんのひとつ
もの、けいば、やぶさめ、すまふおのおの百ばん、百ざのにわうかう、百ざのやくしかう、いつちやくしゆはんのやくし百だい、
とうじんのやくし一だい、ならびにしやか、あみだのざう、おのおのざうりつくやうせられけり。またごしんちうに、みつつ
のごりふぐわんあり。おんこころのうちのおんことなれば、いかでかひとこれをしりたてまつるべきに、それ
よりもまたふしぎなりけることには、しちよにまんずるよ、八わうじのおんやしろにいくらもありける
まゐりうどどものなかに、みちのくよりはるばるとのぼりたりけるわらはみこ、よはばかりににはかにたえいりけ
り。はるかにかつぎいだしていのりければ、やがてたつてまひかなづ。ひと、きどくのおもひなしてこれ
をみる。はんときばかりまうてのち、さんわうおりさせたまひて、さまざまのごたくせんこそおそろしけれ。
しゆじやうらたしかにうけたまはれ、おほどののきたのまんどころけふしちにちわがおんまへにこもらせたまひたり。ごりふぐわんみつつあ
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り。まづひとつには、こんどでんがのじゆみやうをたすけさせおはしませ。さも侍はば、おほみやのしたどの
にさふらふ、もろもろのかたわうどにまじはつて、一千にちがあひだ、あさゆふみやづかへまをさんとなり。おほどののきた
のまんどころにて、よをよともおぼしめさですごさせたまふみこころにも、こをおもふみちにまよひぬれば、
いぶせきことをもわすられて、あさましげなるかたわうどにまじはつて、一千にちがあひだ、あさゆふ
みやづかへまをさんとあふせらるるこそ、まことにあはれにおぼしめせ。ふたつには、おほみやのはしどのより八わう
じのおんやしろまで、くわいらうつくつてまゐらせんとなり。三千のたいしう、ふるにも、てるにも、しやさんの
ときいたはしくおぼゆるに、くわいらうつくられたらんには、いかにめでたからん。三つには八わう
じのおんやしろにて、ほつけもんどうかうまいにちたいてんなくおこなはすべしとなり、このりふぐわんどもはいづれもおろか
ならねども、せめてはかみふたつは、あさくともありなん。ほつけもんどうかうこそ、一ぢやうあらまほ
しうはおぼしめせ。ただしこんどのそしようは、むげにやすかりぬべきことにてありつるを、ごさいきよ
なくして、じんにんきうじいころされ、しうとおほくきずをかふむつて、なくなく我御前(わごぜ)にまゐりてうつた〔へ〕まをすが、
あまりにここ〔ろ〕ぐるしければ、いかならんよまでもわするべしともおぼしめさず。そのうへ、かれらにあたるところ
のやは、すなはちわくわうすゐしやくのおんはだへにたつたるなり。まことそらごとはこれをみよとて、かたぬぎたるを
みれば、ひだんのわきのした、おほいなるかはらけのくちほどうげのいてぞありける。これがあまりにここ〔ろ〕ぐるしけ
れば、いかにまをすとも、しじうのことはかなふまじ。ほつけもんだうかう一ぢやうあるべくば、みとせが
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いのちをのべてたてまつらん。それをふそくにおぼしめさば、ちからおよばずとて、さんわうあがらせたまひけり。
ははうへこのごりふぐわんのおんこと、ひとにもかたらせたまはねばたれもらしぬるらんと、すこしもうたがふかたもま
しまさず。(みこころのうちのことどもを、ありのままにごたくせんありぬれば、いよいよ)しんかんにそうて、
とくにたつとくおぼしめし、たとへ一にちへんじとさふらふとも、ありがたくこそさふらふべきに、ましてみ
とせがいのちをのべてたまはらんとあふせらるるこそ、まことにありがたくさふらへども、おんなみだをおさへて
ごけかうありけり。そののちきいのくににでんかのりやう、たなかのしやうといふところを、えいだいはちわうじへき
しんせらる。さればいまのよにいたるまで、八わうじのおんやしろにて、ほつけもんだうかう、まいにちたいてんなし
とぞうけたまはる。かかりしほどに、ご二でうのくわんぱくどの、おんやまひかるませたまひて、もとのごとくになら
せたまふ、じやうげよろこびあはれしほどに、みとせのすぐるはゆめなれや、えいちやう二ねんになりにけり。
六ぐわ〔つ〕二十一にち、またご二でうのくわんぱくどの、おんくしのきはにあしきおんかさいでさせたまひて、うちふさ
せたまひしが、おなじき二十七にち、おんとし三十八にてつひにかくれさせたまひぬ。みこころのたけさことわり
のつよさ、さしもゆゆしくおはせしかども、まめやかにことのきふにもなりぬれば、おんいのちを
をしませたまひけり。まことにをしかるべし。四十にだにみたせたまはで、おほどのにさきだたせたまふ
こそかなしけれ。かならずちちをさきだつべしといふことなけれども、しやうしのおきてにしたがふならひ、
まんどくゑんまんのせそん、十ちくぎやうのだいじたちもちからおよばせたまはぬしだいなり。じひぐそくのさんわう、り
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もつのはうべんにてましませば、おとがめなかるべしともおぼえず。

○ 十四 みこしふり
さるほどに、さんもんには、こくしかがのかみもろたかをるざい[ゐざい]にしよせられ、おとうとこんどうはうぐわんもろつねをきん
ごくせらるべきより、そうもんたびたびにおよぶといへども、ごさいきよなかりしかば、ひえのさいれいを
うちとどめ、あんげん三ねんしんぐわ〔つ〕十三にちの、たつの一てんに、十ぜんじ、まらうど、八わうじ、三じやのしん
によをかざりたてまつて、ぢんとうへふりたてまつる。さがりまつ、きれつつみ、かものかははら、ただす、うめただ、やなぎはら、
とうほくゐんのほとりに、しらだいしう、しんにん、みやじ、せんだうみちみちて、いくらといふかずをしらず。しんによ
は一でうをにしへいらせたまふに、ごじんぽうてんにかが〔や〕き、にちぐわ〔つ〕ちにおち[ちち]たまふかとおどろかる。これに
よつて、げんぺいりやうかのたいしやうぐんにあふせて、しはうのぢんとうをかためて、たいしうふせぐべきよしあふせくだ
さる。へいけには、こまつのないだいじんのさだいしやうしげもりこう、そのせい三千よきにて、おほみやおもてのやうめい、
たいけん、いくはう、三つのもんをかためたまふ。おとうとむねもり、とももり、しげひら、をぢよりもり、のりもり、つねもりなん
どは、せいなんのもんをかためたまふ。げんじには、たいだいしゆごのげん三みよりまさ、わたなべのはぶく、さづくをさきと
して、そのせいわづかに三百よき、きたのもん、ぬひどののぢんをかため[たかめ]たまふ。ところはひろし、せいはすくなし、まばら
にこそみえたりけれ。さてたいしうぶぜいたるによつて、きたのもん、ぬひどののぢんより、しんによをい
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れたてまつらんとす。よりまさのきやうさるひとにて、いそぎうまよりとんでおり、かぶとをぬぎ、てうづうがひ
をして、しんによをはいしたてまつらる。つはものどももみなかくのごとし。よりまさだいしうのなかへししやをたてて、い
ひおくらるるむねあり。そのつかひは、わたなべのちやう七となふとぞきこえし。となふそのひのそうそくには、きち
んのひたたれに、こざくらをきにかへしたるよろひきて、しやくどうづくりのたちをはき、二十四さいたるしら
はのやおひ、しげとうのゆみわきにはさみ、かぶとをばぬいでたかひも[たかしも]にかけ、しんによのおんまへにかしこまつて、しばら
くしづまられさふらへ、げん三みどのより、しうとのおんうちへまをせとさふらふとて、こんどさんもんのごそしよう、
りうんのでうもちろんにさふらふ。ごさいだんちちこそは、よそにてもゐこんにおぼえさふらへ。しんによいれたてまつ
らんことしさいにおよびさふらはねども、ただしよりまさぶぜいにさふらふ。あけていれたてまつる。ぢんよりいら
せたまひなば、さんもんのだいしうはめだれがほしけりなんど、きやうわらんべのまをさんこと、ごじつのなんにや
さふらはんずらん。あけていれたてまつれば、せんじをそむくににたり。またふせぎたてまつらんとすれば、ねん
ら〔い〕いわうさんわうにかうべをかたむけてさふらふみが、けふよりのち、ながくゆみやのみちにわかれさふらひなんず。かれ
といひこれといひ、かたかたなんぢのやうにおぼえさふらふ。ひんがしのぢんとうたいけんもんをば、こまつどののたいぜいにて
かためられてさふらふ。そのぢんよりいらせたまふべくもやさふらふらんと、いひおくりたりければ、となふ
がかくいふに、ふせがれて、じんにんみやじしばらくゆらへたり。わかたいしう、あくそうども、なんでうその
ぎあるべき。ただこのぢんよりしんによをいれたてまつれや、といふやからおほかりけれども、ここにらうそう
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のなかに、三たふ一のせんぎしやときこえし、せつつのりつしやがううんすすみいでてまをしけるは、もつともこのぎさ
いはれたり。われらしんによをさきだてまゐらせてそしようをいたさば、たいぜいのなかをうちやぶつてこそ、
こうだいのきこえもあらんずらめ。なかんつく、このよりまさのきやうは、六そんわうよりこのかた、げんじちやくちやくのせい
とう、ゆみやをとつてそのふかくをしらず。およそはぶげいにもかぎらず、かどうにもすぐれたるをのこぞか
し。ひととせ、こんゑのゐんございゐのおんとき、たうざのごくわいのありしに、しんざんのはなといふだいをいださ
れて、ひとびと[ひとひと]みなよみわづらはれたりしを、このよりまさのきみ、
みやまぎのそのこずゑともみえざりしさくらははなにあらはれにけり
といふめいかつかまつて、ぎよかんにあづかるほどのやさをのこに、いかんがときにのぞんで、なさけなうちじよく
をばあたふべき。ただこのぢんよりしんによをかきかへしたてまつれやと、せんぎしたりければ、せんぢん[せんじん]より
こうぢんまで、みなもつとももつともとぞどうじける。さてたいしうしんによをばかきかへしたてまつつて、ひんがしのぢんとうたいけんもん
よりいれたてまつらんとす、らうぜきたちまちいできたつて、ぶしどもさんざんにいたてまつる。十ぜんじのおこしに
も、やどもあまたいつけけり。じんにんきうじいころされ、しうとおほくきずをかうぶつて、をめきさけぶこゑ
ぼんてんまでもきこえ、けんらうちじんもおどろきたまふらんとぞおぼえける。さてたいしう、しんによをばぢんどうに
ふりすてたてまつてなくなくほんざんへこそかへりのぼりけれ。
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○ 十五 だいりえんじやう
ゆふべにおよんで、くらんどのさせうべんかねみつにあふせて、ゐんのでんじやうにて、にはかにくぎやうせんぎありけり。
さんぬるほうあん四ねんしんぐわ〔つ〕に、しんによじゆらくのときはざすにあふせて、せきさんのやしろへいれたてまつる。また
ほえん[ほあん]四ねん七ぐわ〔つ〕に、しんによじゆらくのときは、ぎをんのべつたうにあふせて、ぎをんのやしろへいれたてまつる。こん
どもほえんのれいたるべしとて、ぎをんのべつたうごんのだいそうづてうけんにあふせて、へいしよくにおよんで、ぎをん
のやしろへいれたてまつらる。しんによにたつところのやをば、じんにんしてこれをぬかせらる。むかしよりさんもん
のだいしう、しんによをぢんどうへふりたてまつることは、えいきうより、ぢしようまでは、ろつかどなり。されど
も、まいどにぶしにあふせてふせがせらるるに、しんによいたてまつることは、これはじめとぞうけたまはる。れいじん
いかりをなせば、さいがいちまたにみつといへり。おそろしおそろしとぞ、おのおののたまひあはれける。おなじき
じうしにちのやはんばかり、またさんもんのだいしうおびただしうげらくすときこえしかば、しゆじやうはよなかにえうよに
めして、ゐんのごしよはふちうじでんへぎやうがうなる。によゐんみやみやはおんくるまにたてまつつて、たしよへぎやうけいありけ
り。くわんぱくどのをはじめたてまつつて、だいじやうだいじんいげのけいしやううんかく、われもわれもとぐぶせらる。こまつの
だいじんは、なほしにやおうてぐぶせらる。ちやくしごんのさせうしやうこれもりは、そくたいにひらやなぐひおうてぞまゐ
られける。およそきうちうのきせん、じやうげ、きやうちうのさはぎののしることおびただし。されどもさんもんには、
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しんによにやたち、じんにんきうじいころされ、しうとおほくきずをかふむりたりしかば、おほみや二のみやいか、
かうだうちうだう、すべてしよだう一うものこさず、みなやきはらつて、さんやにまじるべきよし、三千一どうに
せんぎす。これによつてだいしうのまをすところ、ほふわうおんぱからひあるべしときこえしかば、さんもんの
そうがうら、しさいをしうとにふれんとて、とざんすときこえしかば、だいしうにしさかもとにおりくだつて、
みなおつかへす。へいだいなごんときただのきやう、そのときはいまださゑもんのかみにておはしけるが、しやうけいに
たつ。だいかうだうのにはに三たうくわいがふして、しやうけいをとつてひつぱり、しや、かむりをうちおとし、そ
のみをからめて、みづうみにしづめよなんどと、まをしける。すでにかうとみえしとき、ときただ、だいしう
のなかへししやをたてて、しばらくしづまられさふらへ、しうとのおんなかへまをすべきことのさふらふとて、ふところ
よりこすずり、たたうがみとりいだし、ひとふでかいてだいしうのなかへおくらる。これをひらいてみるに、しうとの
らんあくをいたすはまえんのしよじやうなり、めいやうのせいしをくはふるはぜんせいのかごなりとこそかかれた
れ。これをみて、だいしうひつはるにもおよばず、みなもつとももつともとどうじて、たにだににおり、ぼうぼうへぞい
りにける。いつしいつくをもつて、三だふ三千のいきどほりをやめ、こうしのはぢをものがれたまひけん、とき
ただのきやうこそゆゆしけれ。さんもんのたいしうは、はつかうのみだりがはしき許(ばか)りかとおもひつるにことわりを
もぞんじけりとぞ、ひとびとかんじあはれける。おなじきはつかのひ、くわざんのゐんのごんちうなごんただ
ちかのきやうをしやうけいにて、こくしかがのかみもろたかをけつくわんせられて、をはりのゐとたへながさる。おとうと
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こんどうはうぐわんもろつねをばきんごくせらる。またさんぬる十三にち、しんによいたてまつつしぶし六にんごくぢやうせらる。
これらはみなこまつどののさむらひなり。おなじき二十八にち、よのいぬのこくばかりひぐちとみこうじよりひいで
きたつて、きやうちうおほくやけにけり。をりふしたつみのかぜはげしくふきければおほきなるしやりんのごとくなる
ほのほが、三ちやう五ちやうをへだてて、いぬゐのかたへすぢかひに、とびこえとびこえやけゆけば、おそろしなん
どもおろかなり。あるひはぐへいしんわうのちぐさどの、あるひはきたののてんじんのこうばいどの、きついつせいのはへまつどの、
おにどの、たかまつどの、かもゐどの、ひんがし三でうふゆつぐのだいじんのかんゐんどの、せうせんこうのほりかはどの、これをはじめて、
むかしいまのめいしよ三十よかしよ、くぎやうのいへだに、十六かしよまでやけにけり。そのしよだいぶ侍の
いへいへはしるすにおよばず。はてはたいだいにふきつけて、しゆじやくもんよりはじめて、おうでんもん、
くわいしやうもん、だいごくでん、ぶらくゐん、しよしはつしやう、あいたんどころひとときがうちに、みなくわいじんのちとぞなりに
ける。いへいへのにつき、だいだいのもんしよ、七ちんまんばうさながらくわいぢんとなりぬ。そのあひだのつひえいかば
かりぞひとのやけしぬることすう百にん、ぎうばのたぐひかずをしらず。これただごとにあらず。さんわうの
おんとがめとて、えいざんよりおほきなるさるどもが、二三千おりくだつて、てんにでにたいまつをともしてきやう
ちうをやくとぞ、ひとのゆめにはみえたりける。だいごくでんはせいわてんわうのぎよよ[*この一字不要]う、ぢやうくわん十八ねんにはじ
めてやけたりければ、おなじき十九ねんしやうぐわ〔つ〕みそかのひぞ、やうぜいゐんのおんそくゐは、ぶらくゐんにて
ぞありける。げんけいぐわんねん四ぐわつここのかのひに、ことはじめあつて、おなじき二ねん十ぐわ〔つ〕やうかのひぞつく
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りいだされたりける。ごれいぜいゐんのぎよう、てんき五ねん二ぐわつ二十六にち、またやけにけり。ぢれき四
ねん八ぐわ〔つ〕十四にちにことはじめありしかども、いまだつくりもいたされずして、ごれいぜいゐんほうぎよなりぬ。
またご三でうのゐんのぎよう、えんきう四ねん四ぐわ〔つ〕十五にちにつくりいだされて、ぶんじんしをたてまつり、れいじんがくを
そうしてくわんかうなしたてまつる。いまはよすゑになつて、くにのちからもみなおとろへたれば、そののちはつひにつく
られず。
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平家物語巻一 終



平曲譜本 藝大本 巻二

じしようぐわんねん五ぐわいつかのひ、てんだしざすめいうんだいそうじやう、くじやうをてやうじし、しよしよくをぼつしうせられけ
るうへ、くらんどをおつかひにて、によいりんのごほんぞんをめしかへいて、ごぢそうをかいえきせらる。すなはち
しちやうのつかひをつけて、このたびしんによだいりへふりたてまつししうとのちやうぼんをめされけり。かがのくにに
ざすのごばうりやうあり。こくしもろたかこれをちやうはいのあひた、そのしゆくいによつて、たいしうをかたらひそしようを
いたさる。ことにてうかのおんだいじにおよぶべきよし、さいくわうほふしふしがざんそうによつて、ほふわうおほきに
逆鱗ありけり。すでにぢうくわにおこなはるべきよしきこゆ。めいうんは、ゐんのごけしきあしかりければ、
いんやくをかへしたてまつつて、ざすをじしまをされけり。おなじき十一にち、とばのゐんの七のみや、がくくわい
ほふしんわう、てんだいざすにならせたまふ。これはせうれんゐんのだいそうじやう、ぎやうげんのおんでしなり。あくる十
二にち、せんざすしよしよくをやめらるるうへ、けんびゐし二にんをつけて、ゐにふたをし、ひにみづをか
けて、すゐくわのせめにおよぶ。これによつて、たいしうなほさんらくすときこえしかば、きやうぢうまたさはぎあへり
おなじき十八にち、だいじやうだいじんいげのくぎやう十三にんさんだいして、ぢんのざにつき、さきのざすざいくわの
事ぎじやうあり。八でうのちうなごんなががたのきやう、そのときはいまださだいべんのさいしやうにて、ばつざにさふらはれ
けるが、すすみいでてまをされけるは、ほつけのかんじやうにまかせて、しざいいつとうをげんじてをんるせら
るべし、とはみえてさふらへども、せんざすめいうんだいそうじやうは、けんみつけんがくして、じやうぎやうぢりつのうへ、
だいじようみやうきやうをくげにさづけたてまつり、ぼさつじやうかいをほふわうにたもたせたてまつる。おんきやうのし、おんかいのし、
ぢうくわにおこなはれんことは、みやうのせうらんはかりがたし。げんぞくをんるをなだめらるべきかと、はばかると
ころもなうまをされたりければ、たうざのくぎやう、みなをさかたのぎにどうずとまをしあはれけれども、
ほふわうおんいきどほりふかかりければ、なほをんるにぞさだめられける。だいじやうのにふだうもこのことまをさんとて、
ゐんさんせられたりしかども、ほふわうおんかぜのけとて、ごぜんへもめされたまはねば、ほいなげに
てたいしゆつせらる。そうをつみするならひとて、どえんをめしかへし、げんぞくせさせたてまつり、だいなごんのたい
ふ、ふぢゐのまつえといふぞくみやうをこそつけられけれ。このめいうんとまをすはむらかみのてんわうのだい七
のわうじ、ぐへいしんわうより六だいのおんすゑ、こがのだいなごんあきみちきようのおんこなり。まことにぶさうのせきとく、
てんかだい一のかうそうにておはしければ、きみもしんもたつとびたまひて、たんわうじ六しようじのべつたうをもか
けたまへり。されども、をんやうのかみあべのたいしんがまをしけるは、さばかんのちしやの、めいうんと
なのりたまふこそこころえね、かみにはじつげつのひかりをならべ、しもにくもありとぞなんじける。にんなんぐわんねん
にんぐわはつかのひ、てんだいざすにならせたまふ、おなじき三ぐわ十五にちごはいだうありけり。ちうだうのはうざう
をひらかれけるに。しゆじゆのちようはうどものなかに、はういつしやくのはこあり。しろいぬのにてつつまれたり。

いつしやうふぼんのざす、かのはこをあけてみたまふに、わうしにかけるふみいつくわんあり。でんげうだいし、みらい
のざすのみやうじをかねてしるしおかれたり。わがなのあるところまではみてそれよりおくをばみたま
はずもとのごとくにまきかいて、おかるるならひなり。さればこのそうじやうも、さこそおはしけ
め。かかるたふときひとなれども、ぜんぜのしゆくごふをばまぬかれたまはず、あはれなりしことどもなり。おなじ
き二十二にち、はいしよいづのくにとさだまりぬ。ひとびとやうやうにまをされけれども、さいくわうほふしおやこが
ざんそうによつて、かやうにはおこなはれけるなり。けふやがてみやこのうちをおひいだしたてまつるべしと
て、おつたてのくわんにん、しらかはのごばうにゆきむかつておひたてまつる。そうじやうなくなくごばうをいでつつ、
あわだぐちのほとり、いつさいきやうのべつしよにいらせおはします。さんもんにはせんずるところ、われらがてき、さいくわう
ほふしおやこにすぎたるものなしとて、かれらおやこがみやうじをかいて、こんぽんちうだうにおはします十
二じんじやうのうち、こんぴらだいしやうのひだんのみあしのしたにふませたてまつり、十二じんじやう、七千やしや、じこくを
めぐらさず、さいくわうほふしおやこが、いのちをめしとりたまへやと、をめきさけんでじゆそしけるこそ、
きくもおそろしけれ。あくる二十三にち、いつさいきやうのべつしよよりはいしよへおもむきたまひけり。さばかん
のほふむのだいそうじやうほどのひとの、おつたてのうつしがさきにけたてられて、いまさらまた、せきのひんがしへ
おもむかれけんこころのうちおしはかられてあはれなり。おほつのうちでのはまにもなりぬれば、もんじゆ
ろうののきはのしろじろとみえけるを、ふためともみたまはず、そでをかほにおしあてて、なんだにむせ

びたまひけり。さんもんにはしゆくらうせきとくおほしといへども、てうけんほふいん、そのときいまだそうづにてお
はしけるが、あまりになごりををしみたてまつり、あはづまでおくりまゐらせて、それよりいとまこうてかへられ
けるに、そうじやう、こころざしのせつなることをかんじて、ねんらい、おのれしんちうにひせられたりし、一しん三
くわんのけつみやくさうじやうをさづけらる。このほふはしやくそんのふぞくはらないこくのめめうびく、なてんじくのりうじゆぼ
さつより、しだいにさうでんしきたるを、けふのなさけにさづけらる。さすがわがてうは、へいちぞく
さんのさかひ、じよくせまつだいとはいひながら、てうけんこれをふぞくして、ほふいのたもとをしぼりつつ、みやこ
へかへりのぼられけん、こころのうちこそたつとけれ。さるほどにさんもんには、たいしうおこつてせんぎす。そもそも
ぎしんくわしやうよりこのかた、てんだいざすはじまつて、五十五だいにいたるまで、いまだるざいのれいを
きかず。つらつらことのこころをあんずるに、えんりやくのころほひ、くわうていはていとをたて、だいしはたうざん
によぢのぼつて、しめいのけうぼふをこのところにひろめたまひしよりこのかた、五しやうのによにんあとたえて、三千
のじやうりよきよをしめたり。みねにはいちじようどくじゆとしふりて、ふもとには七しやのれいげんひあらたなり。かのぐわ
しのりやうぜんは、わうじやうのとうほくていじやうのれいくつなり。このじついきのえいがくも、ていとのきもんにそばだつて、
ごこくのれいちたり。だいだいのけんわうちしん、このところにだんぢやうをしむ。まつだいならんからに、いかんが
たうざんにきずをばつくべき。こはこころうしといふほどこそありけれ。まんざんのだいしうのこりとどまるものも
なく、みなひんがしさかもとにおりくだる。十ぜんじごんげんのおんまへにて、だいしうまたせんぎす。そもそもわれらあは

づへゆきむかつて、くわんじゆをばうばひとどめたてまつるべし。ただしおつたてのうつし、りやさうしあんなれば、
さうなくとりえたてまつらんことありがたし。いまはさんわうだいしのおんちからのほか、またたのみたてまつるかたなし。
まことにべつのしさいなく、とりえたてまつるべくば、ここにて一つのずゐさうをみせしめたまへやとてかんたん
をくだいていのりければ、ここにむだうじぼふし、じようゑんりつしがわらはにつるまるとてしやうねん十八さいになりけ
るが、しんじんをくるしめ、五たいにあせをながいて、にはかにくるひいでたり。われ十ぜんじごんげんのりゐさせ
たまへり。まつだいといふとも、いかんかわがやまくわんじゆをば、たこくへはうつさるべき。しやうじやうせせ
にこころうし。さらんにとつては、われこのふもとにあとをとどめても、なににかはせんとて、さうのそで
をかほにおしあてて、さめざまとなきければ、だいしうこれをあやしんでまことに十ぜんじごんげんのごたくせん
にてましまさば、われらしるしをまゐらせん。一々にもとのぬしにかへしたまへとて、らうそうども四五
百にん、てんでにもちたるじゆずどもを、十ぜんじごんげんのおほゆかのうへへぞなげあげたる。かのもの
ぐるひはしりまはり、ひろひあつめてすこしもたがへず。一々にみなもとのぬしにぞくばりける。だいしう、しんめい
のれいげん、ひあらたなることのたつとさに、みなたなごころをあはせて、ずゐきのかんるゐをぞもよほしける。その
ぎならばゆきむかつてうばひとどめたてまつれやといふほどこそありけれ、うんかのごとくにはつかうす。あるひ
はしが、からさきのはまぢにあゆみつづくるだいしうもあり、あるひはやまだ、やばせのこじやうにふねにさをさすしう
ともあり。これをみて、さしもきびしげなりつるおつたてのうつし、りやうさうし、みなさんざんににげさり

ぬ。だいしうこくぶんじへまゐりむかふ、せんざすおどろいて、およそ、ちよくかんのものは、つきひのひかりにだにあたらず
とこそうけたまはれ、いはんや、いそぎおひくださるべしと、ゐんぜんせんじのなりたるに、すこしもやすらふ
べからず。しうととうとうかへりのぼりたまへやとてはしちかうゐいでてのたまひけるは、さんだいくわいもん
のいへをいでて四めいいうけいのまどにいつしよりこのかた、ひろくゑんじうのけうほふをがくして、けんみつりやうしうを
まなびき。ただわがやまのこうりうをのみおもへり。またこくかをいのりたてまつることもおろそかならず。しうとをはぐ
くむこころざしもふかかりき。りやうしよさんじやうさだめてせうらんしたまふらん。みにあやまつことなし。むじつのつみ
によつて、をんるのぢうくわかふむること、ただぜんせのしゆくごふなれば、よをもひとをも、かみをもほとけをもうら
みたてまつるかたなし。まことにこれまでとひきたりたまふしうとのはうしこそ、はうじがたけれとて、かうぞめのおん
ころものそでしぼりもあへさせたまはねば、だいしうもみなよろひのそでをぞぬらしける。おんこしかきよせたてまつ
て、とうとうとまをしければ、せんざすのたまひけるは、むかしこそ三千のしうとのくわんじゆたりしが、
いまはかかるるにんのみとなつて、いかんがやんごとなきしゆがくしや、ちゑふかきだいしうだちにかき
ささげられてはのぼるべき。たとへ、のぼるべきなりとも、わらんづなんどいふものをしばりはいて、
おなじやうに、あゆみつづいてこそのぼらめとて、つひにのりたまはず。ここにさいとうのぢうりよ、かいじやうばうの
あじやり、いうけいといふものあり。たけ七しやくばかりありけるが、くろいとおどしのよろひのおほあらめに、かねま
ぜたるを、くさずりながにきなし、かぶとをばぬいでほふしばらにもたせつつ、しらえのなぎなたつゑ

につき、だいしうのなかをおしわけおしわけ、せんざすのおんまへにまゐりかしこまつて、だいのまなこをみいからかし、
しばしにらまへたてまつつて、そのおんこころにてこそ、かかるおんめにもあはせたまひさふらへ、とうとうめ
さるべうさふらふと、まをしければ、ぜんざすおそろしさにいそぎのりたまふ。だいしうとりえたてまつるうれつさに、
いやしきほふしばらにはあらず、やんごとなきしゆがくしやらゑふかきだいしうだちが、かきささげたてまつつて
のぼるほどに、ひとはかはれども、いうけいはかはらず、さきこしかいて、こしのながえもなぎなたのえもくだけ
よととるままに、さしもさがしきひんがしざか、へいちをゆくがごとくなり。だいかうだうのにはにおんこしか
きすゑたてまつつて、だいしうまたせんぎす。そもそもわれらあはづへゆきむかつて、くわんじゆをばうばひとどめたてまつ
りぬ。ただしちよくかんをかふむつてるざいせられたまふひとを、わがやまのくわんじゆにもちゐまをさんこと、いかがあ
るべかるらんとひやうぢやうす。かいじやうばうのあじやりいうけい、またさきのごとくすすみいでてまをしけるは、そ
れたうだんはにつぽんぶさうのれいち、ちんごこつかのだうぢやう、さんわうのごゐくわうさかんにして、ぶつぽふわうはふごかくな
り。さればしうとのいしゆにいたるまでいやしきほふしばらまでも、よもつてかろんしめず、むかしはちゑ
かうきにして、三千のしうとくわんじゆたりしが、とくぎやうおもうしていつさんのくわしやうたり。つみなくして
つみをかふむりたまふこと、さんじやうらくちうのいきどほり、こうぷく、をんじやうのあざけりにあらずや。そのときわれらげんみつの
あるじをうしなつて、すうはいのがくりよ、ながくけいせつのつとめおこたらんことこころうかるべし。せんずるところ、いうけいちやう
ほんにしようぜられ、きんごくるざいにもおよび、かうべのはねられんは、こんじやうのめんぼく、めいどのおもひでにて

こそさふらへとて、さうがんよりなみだをはらはらとながしければ、だいしうも、みなもつとももつともとぞどうじける。
それよりしてこそ、いうけいをばいかめばうとはいはれけれ。そのでしにゑいけいりつしをば、ときの
ひとこいかめばうとぞまをしける。

せんざすは、とうだうのみなみだにめうくわうばうにいらせおはします。ときのわうざいはごんげのひともまぬがれたまは
ざりけるにや、さればもろこしのいちぎやうあじやりは、げんそうくわうていのごぢそうにておはします。げんそうの
きさき、やうきひになをたちたまへり。むかしもいまも、たいこくもせうこくも、ひとのくちのさがなきことは、あと
かたもなきことなりしかども、そのうたがひによつて、くわらこくへながされたまふ。くだんのくにへはみつの
みちあり。りんちだうとてごかうみち、ゆうちだうとてざふにんのかよふみち、あんけつだうとてぢうくわのものをつかはすみち
なり。さればこの一ぎやうあじやりはだいぼんのひとなればとて、あんけつだうへぞつかはされける。しちにちしちや
があひだ、つきひのひかりもみずしてゆくところなり。みやうみやうとしてひともなく、かうほにせんどまよひ、しん
しんとしてやまふかし。ただかんこくにとりのひとこゑばかりにて、こけのぬれぎぬほしあへず、むじつのつみに
よつてをんるのぢうくわかふむることを、てんだうあはれみたまひて、くえうのかたちをげんじつつ、一ぎやうあじやりを
まほりたまふ。ときに一ぎやうみぎのゆびをくひきつて、ひだんのたもとにくえうのかたちをうつされけり。わかんりやうてう

しんごんのほんぞんたるくえうのまんだらこれなり。

さんもんのたいしう、せんざすとりとどめたてまつつたること、ほふわうおんいきどほりいまだやまず、さいくわうほふしまを
しけるは、むかしよりさんもんのだいしうは、はつかうのみだりがはしきうつたへつかまつること、いまにはじめずとはまを
しながら、こんどはもつてのほかにくわぶんにさふらふ、よくよくおんぱからひさふらふべし。これをおんいましめさふらは
ずば、こののちはよがよでもさふらふまじとぞまをしける。ただいまみのほろびんずることをもかへりみず、
さんわうだいしのしんりよにもはばからず、かやうにまをしてしんきんをたやましたてまつる。ざんしんはくにをみたるとい
へり。まことなるかな、さうらんもからんとすれば、あきのかぜこれをやぶり、わうしやあきらかならんとすれど
も、ざんしんこれをくらうすとも、かやうのことをやまをすべき。しんだいなごんなりちかのきやう、いげきんじゆの
ひとびとにあふせて、ほふわうやませめらるべきよしきこえしかば、さんもんのだいしうは、さのみわうちには
らまれて、ぜうめいをたいかんせんもおそれありとて、ないないゐんぜんにしたがひたてまつるしうともありときこえし
かば、せんざすは、とうたふのみなみだにめうくわうばうにおはしけるが、だいしうふたごころありとききたまひて、
つひにいかなるうきめにかあふべきやらんとぞのたまひける。されどもるざいのさたはなか
りけり。しんだいなごんは、さんもんのさうたうによつて、わたくしのしゆくいをばしばらくおさへられけり。そも

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きせつつ、めうちしばだたいてゐたりけるが、つらつらたうせいのていをみるにへいけはたや
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のくちよりもれぬさきにかへりちうして、いのちをいかうどおもふこころやつきにけん、おなじき五ぐわ二十九
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うたるところあり。ここやらんとてあけられたれば、だいなごんおはしけり。なみだにむせびうつ
むしてめもみあきたまはず。いかにやとのたまへば、そのときみつけたまひて、うれしげにおもはれ
たるけしき、ぢごくにてざいにんどもの、ぢざうぼさつをみたてまつるらんもかくやとぞおぼえたる。なにごとに
てさふらふやらん、けさよりこれにてかかるうきめにあひさふらふ。さてわたらせたまへば、さりとも
とこそふかうたのみたてまつつてはさふらへ。へいじにもすでにちゆせらるべかりしを、ごなんをもつてくびをつ
がれまゐらせ、じやう二ゐのだいなごんまであがつて、としすでに四十にあまりさふらふ、ごなんこそしやうしやうせせに
ほうじつくしがたうはさふらへども、こんどもまたかひなきいのちをいまひとたびたすけさせおはしませ。さだに
もさふらはば、しゆつけにふだうつかまつり、いかならんかたやまさとにもこもりゐて、人すぢにごせぼだいのつとめをいとな
みさふらはんとぞまをされける。おとど、なにによつてただいまさるおんことのわたらせたまひさふらふべき、たとひ
ささふらふとも、しげもりかうでさふらへば、おんいのちにはかはりまゐらせさふらはん、おんこころやすうおぼしめされさふら
へとて、ちちのぜんもんのおんまへにおはして、あのだいなごんうしなはれんこと、よくよくごしゆいさふら

ふべし。せんぞしゆりのだいぶあきす、しらゐかはのゐんにめしつかはれまゐらせしよりこのかた、いへにそのれい
なきじやう二ゐのだいなごんにへあがつて、たうじきみぶさうのおんいとほしみ、やがてかうべをはねられんこと
はしかるべうもさふらはず。ただみやこのそとへいだされたらんに、ことたりさふらひんなんず。きたのてんじんは、
しへいのおとどのざんそうにて、うきなをさいかいのなみにながし、にしのみやのだいじんは、ただのまんぢうがざん
げんによつて、おもひをさんにようのくもによす。おのおのむじつなりしかども、るざいせられたまひにき。
これみなえんぎのせいたい、あんなのみかどのおんひがごととぞまをしつたへたる。しやうこなほかくのごとし、まして
まつだいにおいてをや。けんわうなほおんあやまりあり、いはんやほんにんにおいてをや。そのうへおほせあはせらるるだいな
ごんをめしおかれさふらひぬるうへは、いそぎうしなはれずともなんのしさいかさふらふべき。けいのうたがはしきを
ばかろんぜよ、こうのうたがはしきをばおもんぜよとこそみえてさふらへ。ことあたらしきまをしごとにては
さふらへども、しげもりかのだいなごんがいもうとにあひぐしてさふら。これもりまたむこなりけり、かやうにしたしくまかり
なつてさふらへば、まをすとやおぼしめされさふらふらん。そのぎにてはさふらはず。ただきみのためくに
のため、いへのためのことをおもつてまをしさふらふ。ひととせ、こせうなごんにふだうしんぜいが、しつけんのときにあた
つて、さがのくわうていのおんとき、うひやうゑのかみふぢはらのなかなりをちうせられてよりこのかた、ほうげんまでは、
きみ二十五だいがあひだ、おこなはれざりししざいをはじめてとりおこなひ、うぢのあくさふのしがいをほりおこ
いて、じつけんせられたりしおんことなんどは、あまりなるおんまつりことこそぞんじさふらへ。さればいにしへより、

しざいをおこなへば、がいだいにむほんのやからたえずとこそうけたまはつてさふらへ。やがてこのことばに付いてなか二
ねんなつて、へいぢによみだれしんぜいがうづもれたりしをほりおこし、かうべをはねて、おほぢをわたされたま
ひにき。ほうげんにまをしおこなひしことのいくほどなくて、はやみのうへにむくはれにきとおもへば、おそろし
うこそさふらへ。これまたさせるてうてきにてもさふらはず、かたがたおそれあるべし。ごえいぐわのこるところなけ
れば、おぼしめささるるおんことはあるまじけれども、ししそんぞんまでもはんじやうこそあらまほしうは
さふらへ。ふそのぜんあくは、かならずしそんにおよぶとこそみえてさふらへ。しやくぜんのいへにはよけいあり。せき
あくのもんにはよわうたえずとこそうけたまはれ。いかさまにも、こんやかうべをはねられけんことは、しかる
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りたまひけり。そののちおとど、ちうもんにいでててさぶらひどもにのたまひけるは、あふせなればとて、あのだいなごん
うしなはれんこと、さうなうあるべからず。にふだうはらのたつままに、ものさわがしきことしたまひて、
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もけさつねとほかねやすが、あのだいなごんになさけなうあたりたてまつたりけることこそ、かへすがへすもきつくわい
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おとどはかやうにのたまひて、こまつどのへぞかへられける。さるほどにだいなごんのさぶらひども、いそぎなかのみかど
からすまろのしんだいなごんしゆくしよにはしりかへつて、このよしかくとまをしければ、きたのかたさてはけさをかぎりに

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のなんし、ひとつくるまにとりのつて、いづちをさすともなくやりいだす。おほみやをのぼり、きたやまのへん、
うりんにんへぞいらせおはします。そのへんなるそうばうにおろしおきたてまつり、おくりのものどもはみのす
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なくておはしけり。きたのかたのこころのうち、をしはかられてあはれなり。くれゆくかげをみたまふ
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うまどしはうまやになみたちたれども、くさかふもの一にんもなし。よあけぬれば、うまくるまかどにたち
ならみひんかくにつらなつて、あそびたわむれまひをどり、よをよともしたまはず。ちかきあたりのものどもは、
ものをだにたかくいはず、おぢおそれてこそ、きのふまではありしか、よのまにかはるありさま、
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このふでのあと、いまこそおもひしられけれ。

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おうあらば、きみもおぼしめしなすこと、などかさふらはざるべき。きみとしんとならぶればしんそわ
くかたなし。だうりとひがごとをくらべんに、いかでかだうりにつかざるべき。

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べし。しげもりはじめじよしやくより、いまだいじんのたいしやうにいたるまで、しかしながら、きみのごおんならず
といふことなし。そのをんのおもきことををもへば、せんくわばんくわのたまにもこえ、そのをんのふかき
いろをあんずるに、いちじつさいじつのくれなゐにもなほすぎたらん。しかればゐんぢうへまゐりこもりさふらべし。そ
のぎにてさふらはば、しげもりがみにかはり、いのちにかはらんとちぎつたるさぶらひども、せうせうさふらふらん。これら
をみなめしぐして、ただいまゐんのごしよほふぢうじどのをしゆごしまゐらせさふらはば、さすがもつてのほかのおんだい
じにこそおよびさふらはんずらめ。かなしきかな、きみのおんために、ほうこうのちうをいたさんとすれば、
めいろ八まんのみねよりもなほたかき、ちちのをんたちまにわすれんとす。いたましきかな、ふけうのつみをのが
れんとすれば、きみのおんためにはふちうのぎやくしんとなりぬべし。しんだいこれきはまれり。ぜひいかにも
はきまへがたし。まをしうくるしよせんなは、ただしげもりがくびをめされさふらへ、そのぎにてさふららはばゐんさん

のおんともをもつかまつるべからず。またゐんぢうをもしうごしまゐらせさふらふまじ、かのせうがは、たいこうかた
へにこえたるによつて、くわん、たいしやうこくにいたり、つるぎをたいしくつをはきながら、でんじやうへのぼる
ことをゆるされしかども、えいりよにそむくことありしかば、かうそおもくいましめて、ふかうつみせら
れにき。かやうのせんじやうをおもへば、ふうきといひ、えいぐわといひ、てうをんといひ、ぢうしよくといひ、
かたがたきはめさせたまひぬれば、ごうんのつきんこともかたかるべきにあらず。ふうきのいへには、
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つてさふらへ、いつまでかいのちいきて、みだれんよをもみさふらふべき、ただまつだいにしやうをうけてか
かるうきめにあひさふらふしげもりがくわはうのほどこそつたなうさへ。ただいまもさぶらひいちにんにあふせつけら
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こそさふらはんずれ。これをおのおのききたまへやとて、なうしのそでをかほにおしあてさめざめとなき
たまへば、そのざになみゐたまへるへいけいちもんのひとびと、こころあるもこころなきもみなよろひのそでをぞぬ
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それまでのことはおもひもよりさうず、ただあくたうどものまをすことに、きみのつかせたまひて、いかな
るひがごとなんどもやいでこんずらんとおもふばかりでこそさふらへ。おとど、たとへいかなるひがごと
できさふらふとも、さてきみをばなにとかしまゐらつさせたまふべきとて、ついたつてちうもんにいで、

さぶらひどもにのたまひけるは、けさよりこれにさふらひて、かやうのことどもをまをししづめばやとはぞんじ
つれども、あまりにひたさわぎにみえつるあひだ、まづかへりさふらふなり。ゐんざんのおんともにおいては、
しげもりがかうべのはねられたらんをみてつかまつれ。さらばひとまゐれとて、こまつどのへぞかへられける。
そののちおとど、しゆめのはうぐわんもりくにをめして、しげもりこそ、てんがのだいじをききいだしたんなれ、
われをわれとおもはんずるものどもは、みなものぐしてはせまゐれとひろうせよとのたまへば、うけたまはつて
ひろうす。おぼろげにてはさわぎたまはぬひとの、かやうのひろうのあるは、べつのしさいのあるに
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くわじゆじ、だいご、をぐろす、うめづ、かつら、おはら、しづはら、せりようのさとにあふれゐたりけるつはもの
ども、あるひはよろひきていまだかぶとをきぬもあり、あるひはやおうていまだゆみをもたぬもあり、かたよろひふむ
やふまずにて、あわてさわいてはせまゐる。こまつどのにさわぐことありときこえしかば、にし八でうに
すう千きありけるつはものども、にふだうにはかうともまをしもいれず、さざめきつれて、みなこまつどの
へぞはせたりける。すこしもきうせんにたづさはらんずるほどのものは、いちにんものこらず、ちくごの
かみさだよしがただいちにんさふらひけるを、ごぜんへめして、だいふはなにとて、これらをばかくのごとくみなよび
とるやらん、けさこれにていひつるやうに、じやうかいがもとへうつてなんどもやむかへんずらんと
のたまへば、さだよしなみだをはらはらとながいて、ひともひとにこそよらせたまひさふらへ、なにによつてただ

いまさるおんことのわたらせたまひさふらふべき。けさこれにてあふせられつるおんことどもも、いまはさだめてごこう
くわいぞさふらふらんとまをしければ、にふだうたのみきつたるだいふになかたがひては、あしかりなんとやおも
はれけん、ほふわうむかへまゐらせんとおもはれけるむほんのこころもやわらぎ、いそぎはらまきぬぎおき、そけん
のころもにけさうちかけて、いとこころにもおこらぬねんじゆしてこそおはしけれ。そののち、こまつどのに
は、しゆめのはうぐわんもりくにはせまはつてちやくたうつけけり。はせさんじたるさぶらひども、一まんよきとぞしるし
ける。だいじんちやくたうひけんののち、ちうもんにいでて、さぶらひどもにのたまひけるは、ひごろのけいやくをたがへず、
みなまゐりたるこそひんぺうなれ。いこくにさるためしあり。しうのいうわう、はうじといふきさきをもちたまへり。
てんがだい一のびじんなり。されどもいうわうのこころにしたがはざりけることは、ほうじゑみをふくまずと
て、すべてわらふことしたまはず。いこくのならひに、てんかにへいかくのおこりしとき、しよしよにひを
あげたいこをうつて、へいをめすはかりごとあり、これをほうくひとなづく。あるときてんがにへいらうおこつてほう
くわをあげたりければ、きさきこれをみたまひて、あなおびただし、あれほどにひもおほかりけりな
て、そのときはじめてわらひたまへり。かのきさきひとたびゑめば百のこびありけり。いうわうこれをうれしきとと
し、そのことなくつねにほうくわをあげたまふ。しよこうきたるにあだなし、あだなければすなはちさんぬ。か
やうにすることたびたびにおよべば、そののちはまゐらず、あるときりんごくよりきやうぞくおこつて、いうわうのみやこを
せめけるに、ほうくわをあぐれどもれいのきさきのひにならひて、つはものもまゐらず、そのときみやこかたむいて、

いうわうつひにほろびにけり。さてかのきさきやかんとなつて、はしりうせけるぞおそろしき。かやうのたとへ
のあるときは、じこんいごなんぢらこれよりめさんには、かくのごとくみなまゐるべし。しげもり、てんかのだい
じをききいだいてめしつるなり。されどもこのことききなほしつつ、ひがごとでありけり。さら
ばはやうかへれとて、さぶらひどもみなかへされけり。まことにさせることをばききいだされざりしかども、
けさちちをいさめまをされけることばにしたがつて、ふしいくさをせんとにはあらねども、わがみにせいのつ
くかつかぬかのほどをもしり、かうしてにふだうだいさうこくのむほんのこころも、やわらぎたまふかとのはかりごと
とぞきこえし。きみ、きみたらずといへども、しんもつてしんたらずんばあるべからず。ちち、ちちた
らずといふとも、こもつてこたらずんばあるべからず。きみのためにはちうあつて、ちちのた
めにはかうあれと、ぶんせんのうののたまひけるにたがはず。きみもこのよしきこしめして、いまにはじめぬこ
となれども、だいふがこころのうちこそはづかしけれ、あだをばをんをもつてはうぜられたりとぞみえたり
ける。くわはうこそめでたうて、だいじんのだいしやうにいたらめ。ようぎたいはいひとにすぐれさいちさいかくさへ、
よにこえたるべきやはとぞ、ときのひとびとかんじあはれける。くににいさむるしんあれば、そのくに
かならずやすく、いへにいさむるこあれば、そのいへかならずただしといへり。じやうこにもまつだいにもありがた
かりしだいじんなり。

六ぐわふつかのひ、しんだいなごんなりちかのきやうをば、くぎやうのざにいだしたてまつて、おんものまゐらせけれど
も、むねせきつまつて、おはしをだにもたてられず、あづかりのぶし、なんばのじらうつねとほ、おんくるまをよ
せて、とうとうとまをしければ、だいなごんこころならずぞのりたまふ。あはれいかにもして、こ
まつどのをいまいちどみもしみえたてまつらばやと、おもはれけれども、それもかなはずみまはせば、ぐん
びやうどもぜんごそうにうちかこんだり、わがかたざまのものいちにんもなし。たとひ、ぢうくわをかこむつて、
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ともにははづれざりしものをとて、わがさんざうすはまどのとてありしをも、よそにみてこそとほら
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くらん、おなじううしなはるべくば、みやこちかきこのへんにてもあれかしなんどのたまひけるこそせめ

てのことなれ。ちかうそひゐたるぶしを、たれぞとのたまへば、あづかりのぶし、なんばのじらうつねとほ
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やしろにはないしとて、いうなるまひひめどもおほうさふらなれば、めづらしうおもひまゐらせて、もてなしまゐら
せさふらはんずらん。さてないしどもなにごとのごきせいやらんとたづねまをしさふらはば、ありのままに
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にん、みやこまでめしぐせられたまひてさふらはば、さだめてにふだうさうこくのにしはちでうのやしきへぞまゐりさふらはん
ずらん。にふだうはきはめてものめでしたまふひとなれば、しかるべきはからひもあんぬとおぼえさふらふ
とまをしければ、とくだいじどの、これこそおもひよらざりつれ。さらばまゐらんとて、にはかにしやうじん
はじめつつ、いつくしまへぞまゐられける。げにもいうなるまひびめどもおほかりけり。そもそもたうしやへは、われ
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し十よにん、つきそひたてまつり、よるひるやうやうにもてなしたてまつる。さてないしども、なんごと

のごきせいやらんとたづねまをしたりければ、だいしやうをひとにこえられて、そのいのりのためなりとぞ
のたまひける。十七にちこもらせたまひて、ふぞくし、さいばらうたはる。ぶがくも三かどまでありけ
り。さておんげかうのとき、むねとのないし十よにん、ふねをしたててひといぢおくりたてまつる。とくだいじどの、
あまりになごりをしきに、いまひといぢおくりまゐらせたりければ、とくだいじどのあまりになごりをしき
にいまひといぢふたいぢとのたまひて、みやこまでめしぐせられる。とくだいじのていへいれさせおはしま
し、やうやうにもてなし、さまざまのひきでものたうでぞかされける。さてないしどもこれまでまゐり
たらんずるに、われらがしうのにしはちでうへまゐらであるべきかとて、にふだうさうこくのていへぞさんじた
る。にふだうやがていであひ、たいめんなつて、いかにないしどもは、なにごとのれつさんぞやととはれけ
れば、とくだいじどののいつくしまへおんまゐりさぶらふなるが、われらがふねをしたてて、ひといぢおくりまゐらせ
てさふらへば、あまりになごりをしきに、いまひといぢふたいぢとおほせられて、これまでめしぐ
せさせたまひてさふらふとまをす。にふだう、さてとくだいじは、なんのいのりあつて、いつくしまへはまゐられける
やらんととはれければ、だいしやうをひとにこらえれて、そのいのりのためとなりこそあふせられはんべ
りつれ、とまをしければ、そのときにふだうおほいにうちうなづいて、わうじやうにさしも、れいぶつれいしやのいくら
もましましけるをさしおいて、じやうかいがあがめたてまつるあきのいつくしままで、はるばるとまゐられけるこ
そいとほしけれ。それほどにせつならんうへはとて、ちやくししげもり、ないだいじんのさだいしやうにてましま

しけるをじせさせたてまつり、じなんむねもり、ちうなごんのうたいしやうにておはせしをこえさせて、とくだい
じをさたいしやうにぞなされける。あはれげにもかしこきはからひかな。しんだいなごんは、かやうの
はかりごとをばしたまはで、よしなきぼうはんおこいて、わがみもしそんもほろびぬるこそうたてけれ。

さるほどにほふわうは、みゐでらのこうけんそうじやうをごしはんとて、しんごんのひほふをでんじゆせさせたま
ひて、九ぐわ四かのひ、みゐでらにてごくわぢやうあるべきよしきこえしかば、さんもんのたいしういきどほりまを
しけるは、むかしよりごくわんぢやうごじゆかいたうざんにしてとげさせましますことせんきなり。なかんづく、さんわう
のけだうは、じゆかいくわんぢやうのためなり。しかるを今みゐでらにてとげさせたまはば、てらをばいつかう
やきほろほすべきよしまをしかれば、ほふわう、こはむやくなりとて、おんけぎやうばかりごけつぐわんなりて、
ごくわぢやうをばおぼしめしとどまれせたまひけり。さりながらもなほごほんいなればとて、こうけん
そうじやうをめしぐしつつ、てんわうじへごかうなつてごちくわうゐんをたて、かめゐのみずを五びやうのち
すゐとして、ぶつぽふさいしよのれいちにてぞ、でんぽふくわんぢやうをばつひにとげさせましける。さん
もんのいきどほりによつて、みゐでらにてごくわんぢやうはなかりしかども、さんもんには、だうじうがくしやう、
ふくわいのこといできて、かつせんどどにおよぶ。まいどにがくりやううちおとさる。さんもんのめつばう、てうかのおん

だいじとぞみえし。だうじうといふは、がくしやうのしよじうなりけるが、わらんべの、ほふしになりたるや、
もしはちうげんぼふしばらにてもやありけん。ひととせ、こんがうじゆゐんのざす、かくじごんそうじやうぢさんの
とき、さんたふにけつばんして、げしゆとがうして、ほとけにはなまゐらせしものどもなり。しかるをきんねん、ぎやうにん
とて、たいしうをもことともせず、かくどどのいくさにうちかちぬ。だうじうらしすのめいをそむいて、
すでにぼうはんをくわだつ。たいしうすみやかにつゐたうすべきよし、こうけへそうもんし、ぶけにふれうつたふ。
これによつてにふだうさうこくゐんぜんをうけたまはつて、きのくにのぢうにんゆあさのごんのかみむねしげいげ、きないのへい
二千よにん、だいしうにさしそへてだうじうをせめらる。だうじうひごろはとうやうばうにありけるが、これを
きて、あふみのくに三がのしやうにげかうして、またあまたのせいをそつしとうざんして、そおいざかにじやうくわくを
かまへてたてこもる。九ぐわ二十かのひのたつのいつてんに、たいしう三千にん、くわんぐん二千よにん、つがふ
そのせい五千よにん、そおいざかにおしよせて、ときをどつとぞつくりける。しろのうちよりいしゆみは
ずしかけたりければ、だいしうくわんぐん、かずをつくいてうたれにけり。だいしうはくわんぐんをさきだてんと
す。くわんぐんはまただいしうをさきだてんとあらそふほどに、こころごころになつて、はかばかしうもたたかはず。だう
しうにかたらふあくたうといふは、しよこくのせつたう、がうたう、さんぞく、かいぞくらなり。よくしんしぜうにして、
ししやうふちのやつばらどもなりければ、われひとりとおもひきつてたたかふほどに、こんどもまたがくしやういくさに
まけにけり。そのごはさんもんいよいよあれはてて、十二ぜんしうのほかは、しぢうのそうりよまれなり。

たにだにのかうえんまめつして、だうだうのぎやうほふもたいてんす。しゆがくのまどをとぢ、ざぜんのゆかをむなしうせり。
しけうごじのはるのはなもにほはず、さんたいそくぜのあきのつきもくもり。三百よさいのほつとうをかかぐる
ひともなく、ろくじふだんのかうのけむりもたえやしにけん。だふじやたかくそびえて、さんじうのかまへをせいかんの
うちにはさみ、とうれうはるかにひいでて、しめんのたるきをはくむのあひだにかけたりき。されどもいまはぐぶつを
みねのあらしにまかせ、きんようをこうれきにうるほし、よるのつき、ともしびをかかげて、のきのひまよりもり、あかつきのつゆ、
たまをたれて、れんざのよそほひをそふとかや。それまつだいのぞくにいたつては、三ごくのぶつぽふもしだいに
すゐびせり。とほくてんぢくにほとけのあとをとぶらふに、むかし、ほとけののりをときたまひしちくりんしやうじや、ぎつこ
どくをんも、このごろはこらうやかんのすみかとなつていしずゑのみやのこるらん。はくろちにはみづたえて、
くさのみふかくしげれり。だいぼんげじやうのそとばは、こけのみむしてかたむきぬ。しんたんにもてんだいさん、ご
だいさん、はくまじ、ぎよくせんじも、いまはぢうりよなきさまにあれはてて、だいせうじようのほふもんも、はこのそこに
やくちにけん。わがてうにも、なんとのしちだいじあれはてて、はつしうもくしうもあとたえ、あたご、
たかをもむかしはだうたふのきをならべたりしかども、いちやのうちにあれはてて、てんぐのすみかとなり
はてぬ。さればにや、さしもやんごとなかりつるてんだいのぶつぽふも、ぢしようのいまにおよんでほろ
びはてけるにや、こころあるひとのなげきかなしまぬはなかりけり。なにもののしわざにやありけん、
りさんしけるそうのばうのはしらに、いつしゆのうたをぞかきつけける。

いのりこしわがたつそまのひきかへてひとなきみねとあれやはてなん
これはむかし、でんけうだいしたうざんさうさうのはじめ、あつくたらさんみやくさんぼだいのほとけたちに、いのりまをさせたまひ
しことを、いまおもひいでてよみたりけるにや、いとやさしうぞきこえし。やうかはやくしのひな
れども、なむととなふるこゑもせず。うづきはすゐしやくのつきなれども、へいはくをささぐるひともなく、
あけのたまがきかみさびて、しめなほのみやのこるらん。

そのころ、また、しなののくに、ぜんくわうじえんじやうのことありけり。かのによらいは、むかし、ちうてんぢくしやゑこく
にごしゆのあくびやうおこつて、にんそうおほくほろびしとき、ぐわつかいちやうじやがちせいによつて、りうぐうじやうより
えんぶだんごんをえて、ほとけ、もくれんちやうじやこころをいつとして、いあらはしたまへる一ちやくしゆはんのみだ
のさんそん、さんごくぶさうのれいざうなり。ほとけめつどののち、てんぢくにとどまらせたまふこと五百よさい。されど
もぶつぽふとうぜんのことわりにて、はくさいごくにうつらせたまひて、一千さいののち、はくさいのみかどせいめいわう、わがてう
のきんめんてんわうのぎようにおよんで、このくににうつらせたまひて、せつつのくになんばのうらにして、つきひ
をおくらせたまひけり。つねにこんしきのひかりをはなたせおはします。かるがゆゑに、ねんがうをばこんくわうと
がうす。おなじき三ねん三ぐわに、しなののくにぢうにんをみのほんだぜんくわう、みやこへのぼりによらいにあひたてまつり、

さそひまゐらせてくだりけるが、ひるはぜんくわうによらうをおひたてまつり、よるはぜんくわうによらいにおはれたてまつて、
しなののくににくだり、みのちのこほりにあんちしたてまつしよりこのかた、せいざうは五百八十よさい、されどもえん
じやうのことはこれはじめとぞうけたまはる。わうほふつきんとては、ぶつぽふせんぼうすとへり。さればにや、さ
しもやんごとなかりつるれいじれいざんの、おほくほろびうせぬることは、わうはふのすゑになりぬるぜん
ぺうやらんとぞ、ひとまをしける。

さるほどに、きかいがしまのるにんども、つゆのいのちくさばのすゑにかかつて、をしむべきとにはあら
ねども、たんばのせうしやうのしうと、へいぢしやうのりもりのりやう、ひぜんのくにかせのしやうよりいしよくをつねにおくられ
けり、それにてぞしゆんくわんもやすよりも、いのちはのびてすごしけるうちにも、やすよりはながされしとき、す
はうのむろづみにてしゆつけしてんげり。ほふみやうをばしやうせうとこそついたりけれ。しゆつけはもとよりの
のぞみなりければ、
つひにかくそむきはてけるよのなかをとくすてざりしことぞくやしき
たんばのせうしやうとやすよりにふだうは、もとよりくまのしんじんのひとびとにておはしければ、いかにもしてこ
のしまのうちに、さんしよごんげんをくわんじやうしたてまつて、きらくのことをもいのらばやとおもはれけるに、てんせい

このしゆんくわんは、ふしんだいいちのひとにてこれをもちゐず。ににんなおなじこころにて、もしくまのににたるところ
もやあると、しまのうちをたづねまはるに、あるひはりんたうのたへなるあり、こうきんしうのよそほひしなじなに、
あるひはうんりやうのあやしきあり、へきらりやうのいろひとつにあらず。やののけしき、きのこだちにいたるまで、
ほかよりもなほすぐれたり。みなみをのぞめばうみまんまんとして、くものなみ、けむりのなみふかく、きたをかへりみれば、
またさんがくのががたるより、はくせきのりうすゐみなぎりおちたり。たきのおとことにすさまじく、まつかぜかみさ
びたるすまゐ、ひりうごんげんのおはします、なちのおやまにさもにたりける。さてこそやがて
そこをば、なちのおやまとはなづけけれ。このみねはしんぐう、かれはほんぐう、これはそんじやう、
そのわうじかのわうじなんど、わうじわうじのなをまをして、やすよりにふだうせんだつにて、たんばのせうしやうあひ
ぐしつつひごとにくままうでのまねをして、きらくのことをぞいのりける。なむごんげんこんがうどうじ、ねが
はくばあはれをたてさせおはしまして、われらをいまいちどこきやうへかへしいれさせたまひて、さいしを
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まとひ、さはべのみづをこりにかへては、いはたがはのきよきながれとおもひやり、たかきところにのぼつては、
ほつしんもんとぞくわんじける。よりやすにふだうはまゐるたびごとに、さんしよごんげんのごぜんにてのつとをまをすに、
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ほんだいいちだいりやうごんげんゆやのさんしよごんげん、ひりうだいさつたのけうりやう、うづのひろまへにして、しんじんのだいせしゆ、
うりんふぢはらのなりつね、ならびにしやみしやうせう、いつしんしやうじのまことをいたし、さんごふさうおうのこころざしをぬきんで
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じやのしよぐわんをみてたまへり。これによつて、かみいちじんよりしもばんみんにいたるまで、あるひはげんぜあんのんの
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かをすて、八まん四千のひかりをやわらげ、ろくだうさんぬのちりにどうじたまへり。かるがゆゑにぢやうごふやくのうてん、

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をならべて、はるかにくがいのそらにかけり、させんのうれひをやすめて、すみやかにきらくのほんくわいをとげしめたま
へ、さいはいとぞ、やすよりのつとをばもまをしける。

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せんじゆくわんおんにておはします。りうじんはまた、せんじゆの二十八ぶしゆうの、そのいちにてましませば、もつて

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たよりのかぜともなりたりけん、またしんみやうぶつたもやおくらせたまひたりけん、せんぼんのなかに、いつぽん、

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せたりければ、さらばこのそとばがもろこしのかたへもゆられゆかずして、なにしにこれまでつたへ
きて、いまさらものをばおもはすらんとぞかなしみける。はるかのえいぶんにおよびて、ほふわうこれをえいらんなつて、
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たんのおもひをのべたまへり。にふだうさうこくもいはきならねば、よにあはれげにこそのたまひけれ。

にふだうさうこくのあわれみたまふうへは、きやうちうのじやうげ、おいたるもわかきも、きかいがしまのるにんのうたと
て、くちずさまぬはなかりけり。さてもせんぼんまでつくりいだせるそとばなれば、さこそはちいさ
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ふことには、かくしるしありけるにや、いにしへ、かんのうここくをせめしとき、はじめはりせうきやうをたいしやう
ぐんとして三十まんきをむけらる。かんのいくさよわく、ここくのぐんつよくしてへいおほくうちほろぼされ、あまつさへ

たいしやうぐんりせうきやうをば、こわうのためにいけどりにせらる。つぎにそぶをたいしやうぐんとして五十まん
きをむけらる。またかんのいくさよわく、ここくのいくさつよくしてえびしのいくさかちにけり。つはもの六千よにんいけどり
にせらる。そのなかよりたいしやうぐんそぶをはじめとして、むねとのつはもの六百三十よにんすぐりいだいて、いち
いちにみなかたあしをきつておつぱなし。すなはちしするものもあり、ほどへてしぬるものもあり、されど
もそのなかにたいしやうぐんのそぶはいちにんしなざりけり。かたあしなきみとなつて、やまにのぼつてはきの
みをとり、さとにいでてはねぜりをつみ、あきはたづらのおちぼひろひなんどして、つゆのいのちをぞすごし
ける。たにいくらもありけるかりどもが、そぶにみなれておそれざりければ、これらはわがこきやう
へかよふものぞと、なつかつしさに、おもふことひとふぢかいてあひかまへて、これかんわうへまゐらせよと
いひふくめて、かりのつばさにむすびつけてぞはなちける。かひがひしくもたのものかり、あきはかならず
こしぢよりみやこへきたるものなれば、かんのせうてい、しやうりんえんにぎよゆうありしに、ゆふされのそら
うすぐもり、なにとなうものあはれなりけるをりふし、ひびわたる。そのなかよりかりひとつとび
さがつて、おのれがつばさにゆひつけたるたまづきを、くひけつておとしける。くわんにんこれをとつて、
みかどへまゐらせたりければ、ひらいてえいらんあるに、むかしはがんくつのほらにこめられて、さんしゆうのしう
たんをおくり、いまはくわんでんのうねにすてられて、こてきのいつそくとなれり。たとへかばねはこのちにちら
すといふとも、たましひはにどきみへのほとりにつかへんとぞかいたりける。それよりしてこそ、ふみをば、

がんしよともいひがんさつともまたなづけけれ。あなむざん、そぶのほまれのあとなりけり。ここくにいま
だあるにこそとて、こんどはりくわうといふしやうぐんにあふせて、百まんきをむけらる。こんどはかんの
たたかひつよくして、ここくのぐんまけにけり。みかたたたかひかちぬときこえしかば、そぶはくわうやのうちよ
りはひいでて、これこそいにしへのそぶよとなのる。かたあしなきみとなつて、十九ねんのせいさうをおく
り、こしにかかれてきうりへかへり、そぶは十六のとし、ここくへむけられしとき、みかどよりくだした
まはつたりける、はたをばまいて、みをはなたず、なんとしてかはもつたりけん、この十九ねんが
あひだ、いままたとりいだいて、みかどへまゐらせたりければ、きみもしんもかんたんなのめならず。そぶはきみのおん
ためにたいかうならびなかりかば、たいこくあまたたまはりて、そのうへ、てんしよつこくといふつかさをくだされける
とぞきこえし。りせうきやうはここくにとどまつて、つひにかへらず。いかにもしてかんてうへかへらばやと
は、なげきけれども、こわうゆるさねばちからおよばず。かんはうこれをばゆめにもしりたまはず、りせうきやうはふ
ちうなるものぞかしとて、はかなくなれるにしんがかばねをほりおこいてうたせらる。りせうきやうこのよし
をつたへきいて、うらみふかうぞなりにける。さりながらもなほこきやうやこひしかりけん、うちうなき
よしをいちくわんのしよにつくつて、かんてうへおくつたりければ、さてはふちうなかりしものをとて、ふ
ぼがかばねをうたせられけることをのみ、くやしみたまひけり。かんかのそぶは、しよをかりのつばさに
つけてきうりへおくり、ほんてうのやすよりは、なみのたよりにうたをこきやうへつたふ。かれはいつぴつのすさみ、

これはにしゆのうた、かれはじやうだい、これはまつだい、ここく、きかいがしま、さかひをへだててよよはかはれども、
ふぜいはおなじふぜい、ありがたかりしことどもなり。



平曲譜本 藝大本 巻三

ぢしよう二ねんしやうぐわひといのひ、ゐんのごしよにははいらいおこなはれて、よつかのひてうきんのぎやうがうありけ
り。なにごともれいにかはりたることはなけれども、こぞのなつ、しんだいなごんなりちかのきやう、いげきんじふの
ひとびと、おなくながしうしなはれしこと、ほふわうそのおんいきどはりいまだやまず、さればよのまつりごとをも、よろづ
ものうくおぼしめて、おんこころよからぬことどもにてぞさふらひける。だいじやうのにふだうも、ただのくらんどゆきつな
がつげしらせをたてまつてのちは、きみをもいつかうおくるしきことにおもひまゐらせ、かみにはことなきやう
にはしたまへども、ないないはようじんして、にがわらひひてのみぞさふらはれける。なのかのひ、すゐせいとうはう
にいづ、しゆうきともまをす。またせききともまをす。十八にちひかりをます。にふだうさうこくのおんむすめけんれいもんゐん、
そのときはいまだちうぐうのおかたときこえさせたまひしが、ごなうとて、くものうへ、あががしたのなげきにてぞ
ありける。しよじにみどきやうはじまり、しよしやへくわんぺいしをたてらる。おんやうじゆつをきはめ、いけくすりを
つくし、だいほふひほふひとつとしてのこるところなうしうせられけり。されどもごなうただにもわたらせたまは
ず。ごくわいにんとぞきこえし。しゆじやうはこんねん十八、ちうぐうは二十二にならせたまふ。しかれどもわうじ
もひめぎみもいまだできさせたまはず。もしわうじごたんじやうあらば、いかにめでたからんと、へいけ

のひとびとも、ただいまわうじごたんじやうあるやうにまをしていさみよろこびあはれけり。たけのひとびとにもへい
しはんじやうをりをえたり、わうじごたんじやう、うたがひなしとぞまをしあはれける。ごくわいにんさだまらせたまひし
かば、にふだうさうこく、うげんのかうそうきそうにあふせて、だいほふひほふをしうし、しやうしゆん、ぶつぼさつにつげて
ひとへにわうじたんじやうとのみきせいせらる。六がわつひといのひ、ちうぐうごちやくたいありけり。にんなじのみ
むろしゆがくほふしんわうは、いそぎごさんだいなあつて、くじやつきやうのほふをもつておかぢあり。たんだいざすくくわいほふ
しんわう、てらのちやうりゑんけいほふしんわうも、おなじうまゐらせたまひて、へんじきうなんしのはふをしうせられけり。
かかりしほどに、ちうぐうはつきのかさなるにしたがつて、おんみをくるしうせさせおはします。一たびゑめば
もものこびありけん、かんのりふじん、せうやうでんのやまひのとこもかくやとおぼえ、たうのやうきひ、りか一
しはるのあめをおび、ふようのかぜにしをれつつ、をみなへしのつゆおもげなるより、なほいたはしきおんさまな
り。かかるごなうのをりふしにあはせて、こはきおんもののげどもあまたとりいれたてまつる。よりましみやうわうのばく
にかけて、りやうあらはれたり。ことにはさぬきのゐんのごれい、うぢのあくさふのごおくねん、しんだいなごんなり
ちかのきやうのしりやう、さいくわうほふしがあくりやう、きかいがしまのながしびとどものしやうりやうなんとぞまをしける。これに
よつて、しやうりやうをもしりやうをもなだめらるべしとて、まづさぬきのゐんのごつゐがうなあつて、すとくてん
わうとがうし、うぢのあくさふ、ぞうくわんぞうゐおこなはれて、だいじやうだいじんじやうゐをおくらる。ちよくしはせうない
きこれもとぞきこえし。くだんのむしよはやまとのくにそふのかんのこほり、かはかみのむらはんにやのの五三まいなり。ほうげん

のあき、ほりおこしてすてられしのちは、しがい、みちのほとりのつちとなつて、としどしにただはるのくさのみ
しげれり、いまちよくしたづねきて、せんみやうをよみければ、ぼうこんそんりやうやいかにうれしとおぼしけん。さ
ればそおらのはいたいしをばすだうてんわうとがうし、ゐがみのないしんわうをばくわうごうのしきゐにふくす。これみなをん
りやうをなだめられしはかりごととぞきこえし。をんりやうはむかしもかくおそろしかりしことどもなり。れいぜいゐんのおん
ものぐるはしうましまし、くわざんのほふわうの十ぜんのていゐをすべらせたまひしは、もとかたのみんぶきやうがりやう
なり。また三でうのゐんのおんめもごらんぜられざりしは、かんさんぐぶがりやうとかや。かどわきのさいしやう、
かやうのことどもをつたへうけたまはつて、こまつどのにむかつてまをされけるは、こんどちうぐうおさんのおいのり
さまざまにさふらふなり。なんとまをすとも、ひじやうのしやにすぎたるほどのこと、あるべしともおぼえさふらは
ず。なかにもきかいがしまのるにんどもの、めしかへされたらんほどのくどくぜんこん、なにごとかさふらふべき
とまをされたりければ、おとどちちのぜんもんものごぜんにおはして、あのたんばのせうしやうがことを、かど
わきさいしやうあながちになげきまをすがふびんにさふらふ。ことさらちうぐうごなうのよしうけたまはり、およぶべくんば、
なりちかきやうがしりやうなどきこえてさふらふ、だいなごんがしりやうをなぐさめんと、おぼしめさんにつけては、い
きてさふらふせうしやうをめしこそかへされさふらはめ。ひとのおもひをやめさせたまはば、おぼしめすことも
かなひ、ひとのねがひをかなへさせましまさば、おねがひもすなはちじやうじゆして、ごさんぺいあん、わうじごたんじやうな
つて、かもんのえいぐわいよいよさかんにさふらふべしとまをされければ、にふだうさうごく、ひごろよりことのほかにやはら

て、しゆんくわんや、やすよりぼふしがことはいかにとのたまへば、それもおなじうはめしこそかへされさふらは
め。もしいちにんものこされたらんは、なかなかざいごふたるべうさふらふとまをされたりければ、にふだうさう
こく、やすよりぼふしがことはさることなれども、しゆんくわんはずゐぶんにふだうがこうしゆをもつて、ひととなつたる
ものぞかし。それにところしもこそおほけれ、わがさんしやう、ししのたにによりあひて、むほんのくわだてのあ
りけんなれば、しゆんくわんがことはおもひもよらずとぞのたまひける。おとどかへつて、をぢのさいしやうをよ
びだしまゐらせて、せうしやうははやしやめんなるべひにてさふらふぞ、おんこころやすうおぼしめされさふらへと
まをされたりければ、さいしやうよにもうれしげにて、てをあはせてぞよろこばれける。くだりさふらひし
ときも、これほどのことなどやまをしうけざらんと、おもひたりげにて、のりもりをみさふらふたびごとには、
なみだをながしさふらけるが、ふびんにぞんじさふらふとぞまをされける。おとど、こはたれとてもかなしければ、
よくよくまをしさふらはんとていりたまひぬ。さるほどに、きかいがしまのるにんどものめしかへさるべ
きことさだまりしかば、にふだうさうこくのゆるしぶみかいてぞたうでんげる。おつかひすでにみやこをたつ、さいしやうあまり
のうれしさに、おつかひにわたくしのつかひをそへてぞくだされける。よをひるにしていそぎくだれとありしか
ども、こころにまかせぬかいろなれば、なみかぜをしのいてくだるほどに、みやこをば七ぐわげじゆんにいでたれど
も、ながつきはつかころにぞ、きかいがしまにはつきにける。

おつかひはたんざゑもんのじやうもとやすといふものなり。いそぎふねよりあがり、ここにみやこよりながされたまひ
たるたんばのせうしやうなりつね、へいはうぐわんやすよりにふだうどのやおはすと、こゑごゑにぞたづねける。ふたりのひと
びとは、れいのくまのまうでしてなかりけり。しゆんくわんひとりありけるが、これをきいて、あまりにおもへばゆめ
やらんまたてんまはじゆんの、わがこころをたぶらかさんとていふやらん、うつつともさらにおぼえぬものかなと
て、はしるともなくたをるるともなく、いそぎつかひのまへにゆきむかつて、これこそながされたるしゆんくわん
よと、なのりたまへば、ざつしきがくびにかけさせたるふぶくろより、にふだうさうこくのゆるしぶみをとりいだいて
たてまつる。これをあけてみたまふに、ぢうくわはをんるにめんず、はやくきらくのおもひをなすべし。ちうぐうご
さんのおんいのりによつて、ひじやうのしやおこなはる。しかるあひだ、せうしやうなりつね、やすよりほふし、しやめんとばかりか
かれて、しゆんくわんといふもじはなし。らいしにぞあるらんとて、らいしをみるにもみえず、おく
よりはしへよみ、はしよりおくへよみけれども、ににんとばかりかかれて、さんにんとはかかれず。
さるほどに、せうしやうや、やすよりはふしもいできたり、せうせうのとつてみるにも、やすよりはふしがよみ
けるにも、ににんとばかりかかれて、さんにんとはかかれざりけり。ゆめにこそかかることは
あれ。ゆめかとおもひなさんとすれば、うつつなり、うつつかとおもへば、またゆめのごとし。そのうへににんの

ひとびとのもにへは、みやこよりいことづてたるふみども、いくらもありけれども、しゆんくわんそうづのもとへは、
こととふふみ一つもなし、さればわがゆかりのものは、みやみやこのうちにあとをとどめずなりにけるよ、と
おもひやるにもおぼつかなし。そもそもわれら三にんは、つみもおなじ、はいしよもおなじところなり。いかなれば
しやめんのとき、ににんはめしかへされて、いちにんここにのこるべき。へいけのおもひわすれかや、しつぴつのあ
やまりか、こはいかにしつることどもぞやと、てんにあふぎちにふして、なきかなしめどもかひぞ
なき。そうづ、せうしやうのたもとにすがり、しゆんくわんがかやうになるといふも、ごへんのちち、こだいなごんどの
の、よしなきむほんのゆゑなり、さればよそのこととおもひたまふべからず。ゆるされなければ、
みやこまでこそかなはずとも、せめてはこのふねにのせて、九ごくのちまでつけてたべ、おのおのこれに
おはしつるときこそ、はるはつばくらめ、あきはたのものかりのおとづるるやうに、おのづからこきやうのこと
をもつたへききつれ、けふよりのちなにとしてかはきくべきとてもだえこがれたまひけり。せうしやうまこと
にさこそもおぼしめされさふらふらめ。われらがめしかへさるるうれしさも、さることにてはさふらへど
も、おんありさまをみまゐらせさふらふに、さらにゆくべきそらもおぼえさふらはず。このふねにうちのせたてまつて、
のぼりたくはさふらへども、みやこのおつかひ、いかにもかなふまじきよしをしきりにまをす。そのうへおんゆるされ
もなきに、三にんともにしまのうちをいでたり、などきこえさふらはば、なかなかあしうさふらひなんず。なり
つねまづまかりのぼつて、ひとびとにもよきやうにまをしあはせ、にふだうさうこくのけしきをもうかがひ、むかひにひとを

たてまつらん。そのほどはひごろおはしつるやうに、おもひなしてまちたまへ、なんとまをすともいのちはたい
せつのことにてさふらへば、たとへこのせにこそもれさせたまひさふらふとも、いちどはなにかしやめんなう
てはさふらはざるべきと、やうやうになぐさめのたまへども、そうづたへしのぶべうもみえたまはず。さ
るほどに、ふなですべしとてせめぎければ、そうづふねにのつてはおりつ、おりてはのりつ、
あらましことをぞしたまひける。せうしやうのかたみには、よるのふすま、やすよりにふだうがかたみには、一ぶの
ほけきやうをぞとどめける。すでにともづなときてふねおしいだせば、そうづつなにとりつき、こしになりわきに
なり、たけのたつまではひかれていづ。たけもおよばずなりければ、そうづふねにとりつき、さ
ていかにおのおのしゆんくわんをば、つひにすてはてたまふか、ひごろのなさけもいまはなにならず、せめてこ
のふねにのせて、きうごくのちまでと、くどかれけれども、みやこのおつかひ、いかにもかなひさふらふま
じとて、とりつきたまひつるてをひきのけて、ふねをばつひにこぎいだす。そうづせんかだなさに
なぎさにあがり、たをれふし、をさなきものの、めのとやははなどをしたふやうにあしずりをして、これの
せてゆけ、ぐしてゆけとのたまひて、をめきさけびたまへども、こぎゆくふねのならひにて、あとは
しらなみばかりなり。いまだとほからぬふねなれども、なみだにくれてみえざりければ、そうづたかきところに
はしりあがつて、おきのはうをぞまねぎける。かのまつらさよひめがもろこしふねをしたひつつ、ひれふりけん
も、これにはすぎじとぞみえし。さるほどにふねもこぎかくれ、ひもくるれども、そうづあやし

のふしどへもかへらず、なみにあしうちあらはせ、つゆにしほれて、そのよはそこにてぞあかしける。さ
りとも、せうしやうはなさけふかきひとなれば、よきやうにまをすこともやと、たのみをかけて、そのせにみ
をもなげざりしこころのうちこそはかなけれ。むかしさうりそくりが、かいがんさんへはなたれたりけんかな
しみも、かくやとぞおぼえたる。

さるほどに、ににんのひとびとはきかいがしまをいで、ひぜんのくにかせのしやうにぞつきたまふ。さいしやう、
きやうよりひとをくだいて、としのうちはなみかぜもはげしう、みちのあひだもおぼつかなうさふらへば、はるになつてのぼ
られさふらへとありしかば、せうしやうかせのしやうにてとしをくらす。さるほどに、おなじき十一ぐわ十二にち
のとらのこくより、ちうぐうごさんのけましますとて、きやうちう六はらひしめきあへり。ごさんじよは六
はらいけどのにてありければ、ほふわうもごかうなる。くわんぱくどのをはじめてたてまつつて、だいじやうだいじんいげのい
さううんかく、すべてよにひととかぞへられ、くわんかかいにのぞみをかけ、しよたいしよしよくをたいするほどのひとの、
ひとりももるるはなかりけり。せんれいも、にようご、きさき、ごさんのときにのぞんでたいしやありき。たいぢ
二ねん九ぐわつ十一にちのひ、たいけんもんゐんおさんのとき、たいしやおこなはるることありけり。こんどもそのれいたる
べしとて、ひじやうのだいしやおこなはれて、をんるのともがらおほくゆるされけるなかに、このしゆうんくわんそうづひとり、

しやめんなかりけることこそうたてけれ。ごさんべいあん、わうじごたんじやうあらば、八まん、ひらの、おほ
はらのなどへ、ぎやうけいあるべきよしごりふぐわんあり。ぜんげんほふいんうけたまはつて、これをけいびやくす。じんじやは
いせだいじんぐうをはじめたてまつつて、二十よかしよ、ぶつじはとうだいじ、こうふくじ、いげ十六かしよへみじゆ
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るものどもが、いろいろのみじゆぎやうもつ、ぎよけし、ぎよいをもちつづいて、ひんがしのだいよりなんていをわ
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のくるまどもやりつづけさせいろいろのぎよい四十りやうぎんけん七つひろぶたにおかせ、おうま十二ひきひかせて
まゐらせたまふ。これはくわんこうにじやうとうもんゐんおさんのとき、みだうどののおんうままゐらせられしそのれいとぞきこ
えし。そもこのおとどとまをすはちうぐうのおんせうにておはしけるうへ、とりわきふしのおんちぎりなれ
ば、おうままゐらせたまふもことわりなり。また五でうのだいなごんくにつなのきやうも、おうま二ひきしんぜらる。
こころざしのいたりかとくのあまりかとぞ、ひとまをしける。なほ、いせよりはじめたてまつつて、あきのいつくしまにいたる
まで、七十よかしよへじんめをたてらる。だいりにもれうのおうまにしでつけて、すう十ぴきひきた
てたり。にんなじのみむろ、しゆがくほふしんわう、くじやくきやうのほふ、てんだいざすかくくわいほふしんわうは、しちぶやくし
のほふ、てらのちやうりゑんけいほふしんわうは、こんがふどうじのほふ、そのほか五だいこくうざう、六くわんおん、一じこりん五

だんのほふ、六じかりん、八じもんじゆ、ふげんえんめうにいたるまで、のこるところなくしうせられけり。ごま
のけむり、ごしよちうにみちて、れいのおとくもをひびかし、しゆほふのこゑ、ものけよだつて、いかなる
おんもののけなりとも、なにおもてをむかふべしともみえざりけり。なほぶつしよのほふいんにあふせて、ごしんとう
しんのやくし、ならびに五だいそんのぞうをつくりはじめらる。かかりしかども、ちうぐうはひまなくしきらせ
たまふばかりにて、ごさんもとみになりやらず。にふだうさうこく、にゐどの、むねにてをおいて、こは
いかがせん、いかがせんとぞあきれたまふ。ひとのものまをしけれども、ただともかくも、よきやうによ
きやうとばかりぞのたまひける。じやうかい、いくさのぢんならば、これほどまではおくせじものをとぞのちに
はのたまひける。おんげんしやには、ばうがく、しやううん、りやうそうじやう、しゆんぎやうほふし、がうぜん、じつぜん、りやうそうづ、
かくそうげのくどもあげ、ほんじほんざんの三ばう、ねんらいしよぢのほんぞんたち、せめふせせめふせもまれけれ
ば、まことにさこそはとおぼえて、たつとかりけるなかに、をりふしほふわうは、いまくまのへごかうなる
べきにて、おんしやうじんのついでなりけるが、きんちやうちかくござあつて、せんじゆきやうをうちあげうちあげあそばさ
れけるにぞ、いま一きはことかはつてさしもをどりくるひけるおんよりましどもがしばりもしばらくうちしづめけり。
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となつたるものぞかし。たとへほふじやのこころをこそぞんせずともあにしやうげをなすべきや。すみやかにまかり

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でうのだいなごんさねふさ、五でうのだいなごんくにつな、とうだいなごんさねくに、あぜしすけかた、なかのみかどのちうなごん
むねいへ、くわさんのゐんのちうなごんかねまさ、みなとのちうなごんがらい、ごんちうなごんさねつな、とうちうなごんすけなが、いけのちう
なごんよりもり、さゑもんのかみときただ、べつたうただちか、ひだんのさいしやうのちうじやうさねいへ、うさいしやうちうじやうさねむね、しんざい
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うたいべんのさんみとしつね、さへうゑのかみしげたか、うへうゑのかみみつのり、くわうだいごうぐうのだいぶあさかた、さきやうの
だいふながのり、たいさいのだいにちかのぶ、しんざみさねきよ、いじやう三十三にん、うたいべんのほかはちよくいなり。ふ
さんのひとびとには、くわさんのゐんのさきのだいじやうだいじんただまさこう、おほみやのだいなごんたかすゑのきやう、いげ十よにん、
ごじつにほうえちやくして、にふだうさうこくのにし八でうのていへ、むかはれけるとぞきこえし。

ひかずへにければ、ちうぐうは六はらよりだいりへかへりまゐらせたまふ。にふだうさうこくいかにしてこ

のきさきのおんはらにわうじたんじやうあれかし、くらゐにつけまゐらせて、ふうふともにぐわいそふぐわいそぼと、あふが
れんとねがはれけるがわがあがめたてまつるいつくしまへまをさんとて、つきまうでせられけるに、ちうぐうやがて
ごくわいにんなつて、ごさんぺいあん、わうじごたんじやうこそめでたけれ。そもへいけいつくしまを、しんじはじめられ
けることを、いかにといふに、きよもりこういまだあきのかみたりしとき、あきのくにをもつて、かうや
のだいたうしうりせられけるに、わたなべのゑんどう六らうよりかたを、ざつしやうにつけられて、六ねんにしうりをは
んぬ。しうりをはつてのち、きよもりかうやへのぼり、だいたうをがみたてまつて、おくのゐんへまゐられけるに、ど
こよりきたるともなく、はくはつなるらうそうの、まゆにはしもをたれ、ひたひになみをたたんで、かせつゑのふた
またなるにすがつていでたまひけるが。このそう、なんとなうものがたりをぞしたりける。それわがやま
は、むかしよりみつしうをひかへてたいてんなし。てんかにまたもさふらはず。だいたうすでにしうりをはりさふらひぬ。
それにつぎさふらひては、ゑちぜんのけひのみやと、あきのいつくしまは、りやうがいのすゐしやくにてさふらふが、け
ひのみやはさかえたれども、いつくしまはなきがごとくにあれはててさふらふ。あはれおなじうは、このついで
にそうもんなつてしうりせさせたまへかし。さたにもさふらはば、くわんかかいはてんかにかたをならぶるもの、
またもあるまじきぞとてたたれける。このらうそうのゐたまへるところに、ゐきやうすなはちくんじたり。ひとを
つけてみせらるるに、三ちやうばかりはみえたまひて、そののちはかきけすやうにぞうせたまひぬ。
これたたびとにあらず、だいしにておはしけりといよいよたつとくおぼえて、しやばせかいのおもひだなるべ

しとて、かうやのこんだうにてまんだらをかかれけるが、さいまんだらをば、じやうみやうほふいんといふゑしに
かかせらる。とうまんだらをば、きよもりかかんとて、じひつにかかれけるが。八えうのちうそんのほう
くわんをば、いかがおもはれけん、わがかうべのちをいだいて、かかれけるとぞきこえし。そののちみやこへのぼ
り、ゐんさんして、このよしをそうもんせられたりければ、きみもしんもかんたんななめならず、なほにんのべられ
て、いつくしまをもしうりせらる。とりゐをたてかへ、やしろやしろをつくりかへ、百八十けんのくわいらうをぞ
つくられける。しうりをはつてのち、きよもりいつくしまへまゐり、つやせられけるゆめに、ごほうでんのなかより
びんつらゆひたるわらんべのいでて、なんぢこのつるぎをもつて、てうかのおんかためたるべしとて、しろかねのひるまき
したるこなぎなたをたまはる、といふゆめをみて、さめてのちみたまへば、うつつにまくらがみにぞたつたり
ける。さてだいみやうじんごたくせんなつて。なんぢしれりやわすれりや、あるひじりをもつていはせしことは、ただ
しあくぎやうあらば、しそんまではかなふまじきぞとて、だいみやうじんのぼらせたまひけり。ありがたかり
しことどもなり。

しらかはのゐんのとき、きやうごくのおほとののおむすめ、きさきにたちたまふことありけり。けんしのちうぐうとて、ご
さいあいありけり。しゆじやういかにもしてこのきさきのおんぱらに、わうじたんじやうあらまほしうおぼしめして、

そのころみゐでらに、うけんのそうときこゆるらいがうあじやりをめして、なんぢいかにもしてこのきさきのおんぱらに
わうじたんじやういのりまをせ、ぐわんじやうじゆせば、しよもうはこふによるべしとあふせくださる。らいがうやすいほどの
おんことにさふらとていそぎみゐでらへかへりまゐつて、かたんをくだいていのりければ、ちうぐやがて百
にちのうちにごくわんにんなつて、しようほぐわんねん十二ぐわ十六にち、ごさんぺいあん、わうじごたんじやうこそめでたくけ
れ、。しゆじやうなのめならずぎよかんなつて、らいがうあぎやりをだしりへめして、さてなんぢがしよもうはいかに
とあふせければ、みゐでらにかいだんこんりよのよしをそうもんす。一かいそうじやうなんどのことをも、まをさん
するかとこそおぼしめしつるに、これこそぞんじのほかのしよもうなれ。いまなんぢがしよもうをたつせば、さんもん
いかつてせじやうもしづかなるべからず、およそわうじたんじやうあつて、そをつがしめんも、かいだいなゐを
おぼしめすおんゆゑなり。りやうもんともにかつせんせば、てんだいぶつぱふほろびなんずとてきこしめしもいれざり
けり。らいがうこはくちをしきことこそあんなれとて、いそぎみゐでらにはしりかへつて、ひじにせんと
す。しゆじやうおほきのおどろかせたまひて、ごうそつきやうばうのきやう、そのときはいまだみさかのかみときこえしをごぜんへ
めして、なんぢはらいがうにしだんのちぎりあんなればゆいてこしらへてみよとあふせければ、かしこまりうけたまはつて
て、いそぎみゐでらへはせまゐり、らいがうあじやりがしゆくばうへたづねゆいて、ちよくぢやうのおもむき、あふせふくめん
とすれば、もつてのほかにふすばうたるぢぶつだうにたてこもり、おそろしげなるこゑして、てんしにはたはむれ
のことばなし、りげんあせのごとしとこそうけたまはつてさふらへ。これほどのしよもうかなはざらんにおいては、い

かさまにも、わがいのりだしたてまつるわうじなれば、とりたてまつつて、まだうへこそゆかずらんめ
とて、つひにたいめんもせざりけり。みまさかのかみかへりまゐつてこのよしそうもんせられければ、しゆじやうおんなげき
なのめならず、らいがうつひにひじににしにけり。さるほどにわうじごなうつかせたまひて、うちふさせたま
ひしかば、さまざまおんいのりどもありけれども、かなふべしともみえざりけり。はつはつなるらうそうの
しやくぢやうをもつて、つねはわうじのおんまくらにただずむと、ひとのゆめにもみえ、うつつにもまたたちけり。おそろし
なんどもおろかなり。しようれきぐわんねん八ぐわむいかのひ、わうじおんとし四さいにて、つひにかくれさせたまひぬ。
あつぶんのみここれなり。しゆじやうおほきにおんなげきにあつて、そのころまたさんもんに、うげんのそうときこえし、さい
きやうのざすりやうしんだいそうじやう、そのときはいまだゑんゆうばうのそうづときこえしを、だいりへめして、こはい
かにとあふせければ、いつもさやうのごぐわんな、わがやまのちからにてこそじやうじゆすることでさふらへ。
されば九でうのうじやうじやうもろすけこうも、じゑだいそうじやうにおんちぎりまをさせたまひてこそ、れいぜいゐんおわう
じをばうみまゐらせたまひしか、やすいほどのおんことざふらふとて、いそぎさんもんにかへりのぼつて、百
にち、かんたんをくだいていのりければ、ちうぐうやがて百にちのうちにごくわいにんなつて、しようれき三ねん七ぐわ九
かのひ、ごさんぺいあん、わうじごたんじやうこそめでたけれ。ほりかはのてんわうこれなり。をんりやうは、かくむかし
もおそろしかりしことどもなり。さればこんどさしもめでたく、ごさんにひじやうのだいしやおこなはれたり
といへども、このしゆんくわんそうづいちにん、しやめんなかりけるこそうたてけれ。さるほどにおなじきとしの

十二ぐわ八かのひ、わうじひんがし三でうにしてとうぐうにたたせたまふ。ふにはこまつのないだいじん、だいぶに
はいけのちうなごんよりもりのきやうとぞきこえし。さるほどにことしもくれて、ぢしようも三とせになりに
けり。

しやうぐわげじゆんに、たんばのせうしやうなりつね、へいはうぐわんやすよりにふだう、ににんのひとびとは、ひぜんのくにかせの
さうをたつて、みやこへとはいそがれけれども、よかんもいまだはげしう、かいじやうもいたくあれければ、
うらづたひしまづたひして、きさらぎとうかごろにぞ、びぜんのこじまにつきたまふ。それよりちちだいなごん
どののおんわたりあんなる、ありきのべつしよといふところにたづねゆいてみたまへば、たけのはしら、ふりた
るしやうじなどにかきおきたまひつるふでのすさびをみたまひて、あはれひとのかたみには、しゆせきに
すぎたるものぞなき。かきおきたまはずば、いかでかこれをみるべきとて、やすよりにふだうとに
にんよみてはなき、ないてはよむ。あんげん三ねん七ぐわはつかのひしゆつけ、おなじき二十六にちのぶとし
げかうともかかれたり。さてこそげんざゑもんのじやうのぶとしが、まゐりたるをもしられけれ。そばな
るかべには三そんらいかうたよりあり、くほんわうじやううたがひなしともかかたれたり。このかたみをみたまひてこそ
さすがごんくじやうどののぞみもおはしけりと、かぎりなきなげきのなかにも、いささたのもしげにはみたまひけ

れ。そのはかをたづねゆいてみたまふに、まつのひとむらあるなかに、かひがひしうだんのきづいたることも
なく、つらのすこしたかきところのありければ、せうしやうそのむかひそでかきあはせ、いきたるひとにものをまを
すやうに、なくなくかきくどいてまをされけるは、とほきおんまほりとならせおはしましたることをば、
しまにてもかすかにつたへうけたまはつてさふらひしかども、こころにまかせぬうきみなれば、いそぎまゐることも
さふらはず、なりつねかのしまへながされて、あとのたよりなさ、いちにちへんしひのいのちのいきてあるべきやうは
なかりしかども、さすがつゆのいのちのきえやらで、この二ねんをおくうて、いまめしかへさるるうれし
さも、さることにてはさふらへども、ちちだいなごんどののまさしう、このよにわたらせたまはんのみ、み
まゐらせてもさふらはばこそ、さすがいのちのながきかひもさふらはめ、これまではいそがれつれども、け
ふよりのちはいそぐべしともおぼえずとて、かきくどいてぞなかれける。まことにぞんじやうのときなら
ば、だいなごんにふだうどのこそ、いかにとものたまふべきに、しやうをへだてたるならひほど、くやしかり
けることはなし。こけのしたにはたれかこたふべき。ただあらしにさわぐまつのひびきばかりなり。そのよはやす
よりにふだうとににん、はかのまはりをぎやうだうし、あけければあたらしうだんきづき、くぎぬきせさせ、まへにかりや
づくり、しちにちしちやがあひだねんぶまをし、きやうかいて、けちぐわんにはおほきなるそとばをたてて、くわこしやう
りやう、しゆつりしやうし、しようだいぼだいとかいて、ねんがうつきひのしたには、かうしなりつねとかかれたれば、しづ
やまがつのこころなきも、こにすぎたるたからなしとて、そでをぬらさぬはなかりけり。としさりとし

きたれども、わすれがたきはぶいくのむかしのをん、ゆめのごとくまぼろしのごとし。つきがたきは、れんぼの
いまのなみだなり。されば三せ十ばうのぶつだのしやうしゆもあはれみたまひ、ばうこんそんりやうもいかにうれしとおぼし
けん。今しばらくさふらひて、ねんぶつのこうをもつむべくさふらひしかども、みやこにまつひとどもの、こころも
となくさふらふらん、またこそまゐりさふらはめとて、もうじやにいとままをしつつ、なくなくそこをぞたた
れける。くさのかげにても、なごりをしくやおもはれけん。おなじき三ぐわ十六にち、せうしやうとばへあ
かうぞつきたまふ。こだいなごんどののさんざう、すあまどのとてとばにあり。すみあらして、としへに
ければ、ついぢはあれども、おほひもなく、もんなあれどもとびらもなし。にはにたちいりみたま
へば、じんせきたえてこけふかし。いけのほとりをみまはせば、あきのやまのはるかぜに、しらなみしきりにをりかけて、
しえんはくおうせうえうす。きようぜしひとのこひしさに、ただつくせぬものはなみだなり。いへはあれども、らんもん
やぶれて、しとみやりどもたえてなし。ここにはだいなごんどののとこそおはせしか、このつまどをば
かうこそでいりたまひしか、あのきをば、みづからこそうゑたまひしかなんどいつて、ことのは
につけても、ただちちのことをのみ、こひしげにこそのたまひけれ。やよひなかのむゆかなれば、はなは
いまだなごりあり。やうばいたうりのこづゑこそ、をりしりがほにいろいろなれ、むかしのあるじはなけれども、
はるをわすれぬはななれや、せうしやうはなのしたにたちよつて、
たうりものいはずはるいくばくかくれぬる、えんかあとなしむかしたれかすんじ。

ふるさとのはなのものいふよなりせばいかにむかしのことをとはまし
このふるきしいかをくちずさみたまへば、やすよりにふだうも、をりふしあはれにおぼえて、すみぞめのそでをぞ
ぬらしける。くるるほどにまたれけれども、あまりになごりをしくて、よふくるまでこそおはし
けれ。ふけゆくままには、あれたるやどのならひにて、ふるきのきのいたまより、もるつきかげぞ
くまもなき、けいろうのやまあけなんとすれども、いへぢはさらにいそがれず。さてしもあるべきこ
とならねば、むかひにのりものどもつかはして、まつらんもこころなしとて、せうしやうなくなくすあまどのをい
でつつ、みやこへかへりのぼられける。ひとびとのこころのうち、さこそはうれしうもまたあはれにもありけめ。
やすよりにふだうがむかひにも、のりものはありけれども、いまさらなごりのをしきにとて、それにはのらず、
せうしやうのくるまのしりにのつて、しちでうがはらまではゆき、それよりゆきわかれけるが、なほゆきもや
らざりけり。はなのもとのはんじつのかく、つきのまへのいちやのとも、たびびとがひとむらさめのすぎゆくに、いち
じゆのかげにたちよつて、わかるるなごりもをしきぞかし。いはんやこれはうかりししまのすまひ、ふねの
なか、なみのうへ、いちごふしよかんのみなれば、せんぜのはうえんもあさからずやおもひしられけん。せうしやうは
しうとへいさざいしやうのもとにたちいりたまふははうへりやうざんにおはしけるが、きのふよりさいしやうのしゆくしよにおは
してまたれけり。せうしやうのたちいりたまふすがたをただ一めみたまひて、いのちあればとばかりにて、
ひきかついでぞふしたまふ。さいしやうのもとにはにようばうさむらひさしつどひてしんだるひとのいきかへりた

るここちしてよろこびなきをぞせられける。きたのかためのとのこころのうち、いかばかりうれしかり
けん。六でうがくろかつしかみもしろくなりたり。せうしやうながされしとき、三ざいにてわかれたまひしわかぎみ、
いまはおとなしうなつて、かみゆふほどなり。そのそばに、三つばかりなるをさなきひとのおはし
けるを、せうしやうあれはいかにとのたまへば、六でうこそとばかりまをして、なみだをながしけるにこ
そ。さてはわがくだりしとき、こころくるしげなるありさまどもをみおきしが、ことゆゑなうそだちけるよ
と、おもひいでてもかなしかりけり。せいしやうはもとのごとくゐんへめしつかはれまゐらせたまひて、さいしやう
のちうぢやうまであがりたまひぬ。やすよりにふだうは、ひんがしざんさうりんじに、わがざんざうのありければ、それにお
ちつきて、まづかうぞつづけける。
ふるさとののきのいたまにこけむしておもひしほどはもらぬつきかな
やがてそこにらうきよして、うかりしむかしをおもひやり、ほうぶつしふといふものがたりをかきけるとぞきこ
えし。

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れて、うかりししまの、しままもりとなりにけるこそうたてけれ。そうづのをさなうより、ふびんにし

てめしつかはれけるわらはあり、なをばありわうとぞまをしける。きかいがしまのるにん、けふすでにみやこへ
いるときこえしかば、ありわう、とばまでいでむかつてみけれども、わがしゆなかりけり、いかに
ととへば、それはなつみふかしとて、しまにのこされぬときいて、こころうしなんどもおろかなり。つね
は六はらへんにたたずみてききけれども、いつしやめんなるべしともききいださざりければ、そうづ
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おんふみたまはつてまゐりさふらはんとまをしければ、ひめごぜなのめならずによろこび、やがてかいてぞたうで
んげる。いとまをこふとも、よもゆるさじとて、ちちにもははにもしらせず、もろこしぶねのともづなは、う
づきさつきにとくなれば、なつごろもたつをおそくやおもひけん、やよひのすゑにみやこをたつて、おほくのなみ
ぢをしのぎつつ、さつまがたへぞくだりける。さつまよりかのしまへわたるふなつにて、ありわうをひとあや
しめ、きたるものをはぎとりなんどしけれども、すこしもこうくわいせず、ひめごぜのおんふみばかり
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てみるに、みやこにてかすかにつたへききしはことのかずならず、たもなくはたけもなく、さともなくむらも
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きき、おんすがたをもみまゐらつさせさふらふべきなれば、ただ、ごぼだいをともらひまゐらつさせたまへかし

とまをしければ、ひめごぜききもあへたまはず、ふしまろびてぞなかれける。やがて十二の
とし、あまになり、ならのほつけじにおこなひすまして、ふものごせをともらひたまふぞあはれなる。あり
わうもしゆんくわんそうづのゐこつをかうべにかけ、かうやへのぼり、おくのゐんにをさめつつ、れんげだににてほふし
になり、しよこく七だうしゆぎやうして、しゆのごせをぞとふらひける。かゆうにひとびとのおもひなげきのつもりぬ
る、へいけのすゑこそおそろしけれ。

さるほどに、おなじき五ぐわ十二にちのうまのこくばかり、みやこにはつじかぜおびただしくふいて、じんおくおほ
くてんだうす。かぜはなかのみかどのきやうごくよりおこつて、ひつじさるのかたへふいてゆく、むなもんひらもんふきぬ
いて、ひとびとのいへいへ四五ちやう十ちやうばかり、ふきもてゆき、けた、なげし、はしらなんどはこくうにさん
ざいす、ひはだぶきのるゐは、ふゆのこのはのかぜにみだるるがごとし。ただしやおくのはそんするのみなら
ず、いのちをうしなふものもおほし、ぎうばのたぐひかずをしらずうちころさる。おびただしくなりどよむおとは、
かのぢごくのごふふうなりとも、これにはすぎじとぞみえし。これただごとにあらずみうらあるべしとて、
じんぎくわんにしてみうらあり、いま百にちのうちに、ろくをおもんずるおとどのつつしみ、べつしてはてんがのだい
じ、ぶつぽふ、わうはふ、ともにかたむいて、ならびにへいかくさうぞくすべしとぞ、じんぎくわん、おんやうれうともにうらなひたてまつる。

こまつのおとどは、かやうのことどもに、よろづこころぼそうやおもはれけん、そのころくまのまうでのことありけ
り。ひかぞふればほんぐうじやうじやうでんのごぜんにまゐりつつ、しづかにほつせまゐらせて、よもすがらけいびやくせられけ
るは、しんぶにふだうさうこくのていをみるに、あくぎやくぶだうにして、ややもすればきみをなやましたてまつる。その
ふるまひをみるに、一ごのえいぐわなほあやふし。しげもりちやうしとして、しきりにいさめをいたすといへども、み
ふせうのあひだ、かれもつてふくようせず、しえふをれんぞくして、しんをあらはしてなをあげんことかたし。この
ときにあたつて、しげもりいやしうもおもへり。なまじひにれつして、よにふちんせんこと、あへてりやうしんかうし
のほふにあらず。しかじ、なをのがれみをしりぞいて、こんじやうのめいばうをなげすてて、らいせのぼだい
をもとめんに。ただしぼんぶはくち、ぜひにまどへるがゆゑに、こころざしをなほほしいままにせず、なむごんげん、
こんがうどうじ、ねがはくはしそんはんえいたえずして、つかへててうていにまじるべくば、にふだうのあくしんをやわら
げて、てんがのあんぜんをえせしめたまへ、えいえうまた一ごをかぎつて、こうこんはぢにおよぶべくば、しげもり
がうんめいをちぢめて、らいせのくりんをたすけたまへ、りやうこのくぐわん、ひとへにみやうじよをあふぐと、かんたんをくだ
いてきねんせられければ、とうらうのひのやうなるもの、おとどのおんみよりいで、はつときゆる
がごとくにうせにけり。ひとあたまみたてまつりけれども、おそれてこれをまをさず。おとどまたげかうのとき、

いはたがはをわたらせけるに、ちやくしごんのすけせうしやうこれもり、いげのきんだち、じやういのもとにうすいろのきぬをき
て、なつのことなれば、なんとなうみづにたはむれたまふほどに、じやういのぬれてころもにうつつたるが、
ひとへにいろのやうにみえけるを、ちくぜんのかみさだよし、これをみとがめて、あれはいかに、ごじやうい
のぬれてころもにうつたるがよにいまはしげにみえさせたまひさふらふ、いそぎめしかへらるべう
もやさふらふらん、とまをしければ、おとどさては、わがしよぐわんすでにじやうじゆしにけり。あへてそのじやういあらた
むべからずとて、いはたがはよりべつしてくまのへ、よろこびのへうへいをぞたてられける。ひとあや
しとおもへども、なほそのこころをばえざりけり。しかるにこのきんだちまことのいろをつけたまひけるこそふし
ぎなれ。おとどげかうののち、いくばくのひかずをえずして、やみつきたまひぬ。ごんげんすでにごなうじゆある
にこそとて、きたうをもいたされず、またれうぢをもしたまはず、そのころそうてうよりすぐれたるめいいわた
つて、ほんてうにやすらふことありけり。をりふしにふだうさうこくは、ふくはらのべつげふにおはしける
が、ゑつちうのぜんじもりとしをししやにて、こまつどのへのたまひつかはされけるは、しよらういよいよだいじなる
よし、そのきこえあり、かねては、またそうてうよりすぐれたるめいいわたれり。をりふしこれをよろこびとす。
よつてかれをめしてしやうじて、いれうをくはへしめたまへと、のたまひつかはされたりければ、おとどたすけおこ
され、もりとしをごぜんへめしてたいめんなりけり。まづいれうのことは、かしこまつてうけたはまりさふらひとまをすべ
し。ただしなんぢもよくうけたまはれ。えんぎのみかどは、さばかんのけんわうにてわたらせたまひしかども、

いこくのさうにんを、みやこのなかへいれられたりしことを、まつだいまでも、けんわうのおんあやまり、ほんてうのはぢ
とこそみえたれ。いはんやしげもりほどのぼんにんが、いこくにいしをわうじやうへいれんこと、まつたくくにのはぢに
あらずや。かんのかうそは三じやくのつるぎをひつさげててんがををさめしに、わいなんのげいふをうちしとき、ながれ
やにあたつてきづをこうむる。こうろたいこう、りやういをむかへてみせしむるに、いのいはく、このきずぢしつ
べし、ただし五十きんのかねをあたへばぢせんといふ。かうそののたまはく、わがまぼりのつよかりしほどは、
おほくのたたかひにあひて、きずをこうむりしかども、そのいたみなし。うんすでにつきぬ。いのちはすなはちてんに
あり、へんじやくといふとも、なんのえきかあらん。しからばまたかねををしむににたりとて、五十きんの
わうごんをいしにあたへながら、つひにぢせざりき。せんげんみみにあり、いまもつてかんしんす。しげもりいや
しうも九きやうにれつして、三だいにのぼる、そのうんめいをはかるに、もつててんしんにあり、なんぞてんしんをさつ
せずして、おろかにいれうをいたはしうせんや。しよらうもしぢやうごふたらば、いれうをくはふともえきな
からんか。またひごふたらば、れうぢをくはへずともたすかることをうべし。かのぎばがいじゆつおよば
ずして、だいがくせそん、めつどをばつだいかのほとりにとなふ、これすなはちぢやうごふのやまひいやさざることをしめさんが
ためなり。ぢするはぶつたい、れうするはぎばなり。ぢやうごふもしいれうにかかるべくさふらはば、あにしやく
そんにふめつあらんや。ぢやごふなほぢするにたへざるむねあきらけし。しかるにしげもりがみぶつたいにあらず、

めいいまたぎばにおよぶべからず。たとひ四ぶのしよをかんがみて、百れうにちやうずといふとも、いかでか

うだいのゑしんをくれうせん、たとひまた五きやうのせつをつまびらかにして、しうびやうをいやすといふとも、あに
ぜんせのごふびやうをぢせんや、もしかのいじゆつによつてぞんめいせば、ほんてうのいだうなきににたり。い
じゆつかうけんなくんば、めんえつしよせんなし。なかんづく、ほんてうていしんのぐわいさうをもつて、いてうういうのらいきやくにまみ
えんこと、かつはくにのはぢ、かつはみちのりやうちなり。たとひしげもりいのちはばうすといふとも、いかで
かくにのはぢをおもふこころをそんせざらん。このさまをまをせとこそのたまひけれ。もりとしなくなくふくはらへは
せくだり、このよしかくとまをしければ、にふだうさうこく、くにのはぢおもふおとど、じやうこいまだきかず。まし
てまつだいにあるべしともおぼえず。につぽんにさうおうせぬおとどなれば、いかやうにもこんどうせなん
ずとて、いそぎみやこへのぼられけり。七ぐわ二十八にち、こまつどのしゆつけしたまひぬ。ほふみやうはじやうれんとこ
そつきたまへ。やがて八ぐわつついたちのひ、りふじうしやうねんいぢうしてうせたまひぬ。とし四十三。よはさかり
とこそみえつるに。あはれなりしことどもなり。にふだうさうこくのさしも、よこがみをさかれしをも、
このひとのおはして、やうやうになだめまをされければにや、よはこんにちまでもおだしかりつ
れ。みやうにちよりしてんがにいかばかんことかいできたらんずらんとて、じやうげみななげきあへり
けり、さきのうだいしやうむねもりのきやうのかたさまのひとびと、よはただいまだいしやうどのへこそまゐりなんずとて、いさ
みよろこびあはれけれ。ひとのおやのこをおもふならひはおろかなるが、さきだつだにもかなしきぞかし。
いはんやこれはたうけのとうりやう、たうせのけんじんにてましませば、をんあいのべつ、いへのすゐび、かなんでもなほ

あまりあり、さればよにはりやうしんをうしなへることをなげき、いへにはぶりやくのすたれぬることをかなしむ。
およそはこのおとど、ぶんしやううるはしうして、こころにちうをそんし、さいげいすぐれて、ことばにとくをかねた
まへり。

すべてこのおとどは、ふしんだい一のひとにて、みらいのことをも、かねてさとりたまへるにや、そのゆゑ
はさんぬる四ぐわつなぬかのよのゆめに、みたまひけることこそふしぎなれ。たとへばあるはまぢをはるばると、
ゆきたまふほどに、そばにおほきなるとりゐのありけるを、おとどゆめのうちに、あれはなんのおんとりゐやら
んととひたまへば、かすがだいみやうじんのおんとりゐなりとまをす。ひとぐんしゆしたり。そのなかよりおほきなる
ほふしの、かうべをたちのさきにつらぬき、たかくさしあげたるを、おとどあれはなにもののくびぞととひたま
へば、へいけのだいじやうのにふだうどのの、あくぎやうてふくわせるによつて、たうしやだいみやうじんのめしとらせたまひて
さふらふとまをすとおぼえてゆめさめぬ。たうけはほうげんへいぢよりこのかた、せどののてうてきをたひらげ、けんじやうみ
にあまり、ていそだいじやうだいじんにいたり、一ぞくのしやうしん六十よにん、二十よねんのこのかたは、たのしみさか
えてまたたなちらぶひともなかりつるに、にふだうのあくぎやうによつて、たうけのうんめいのすゑになるにこそ
おほきにおぼしめししづんで、おはしけるところに、つまどをほとほととうちたたく。おとどなにものぞ、

あれきけとのたまへば、せのをたらうかねやすが、こんやあまりにふしぎのゆめをみさふらひほどにまをしあげんがた
めに、よのあくるをおそくおぼえて、まゐつてさふらふ、ごぜんのひとをはるかにのけさせたまへとまをしけれ
ば、おとどはひとをのけてたいめんなりけり。みたまひたりつるおんゆめに、すこしもちがはず、つぶさにかた
りまをしたりければ、さてこそかねやすは、かみにもつうじたるものかなとて、おとどもかんじたまひ
けり、そのあさ、ちやくしごんのすけせうしやうこれもり、ゐんへまゐらんとていでたたれけるを、おとどよびたてまつ
て、ひとのおやのかやうのことまをせば、をこがましけれども、ごへんはひとのこにはすぐれてみえたま
ふなり。あれせうしやうにさけすすめよとのたまへば、ちくごのかみさだよしおんしやくにまゐる。これをばせうしやうにこ
そたまふべけれども、およよりさきにはよもたまはらじとて、おとどさんどくんで、そのごせうしやうどのに
ぞさされける。せうしやうまたさんどうけたまふとき、あれせうしやうにひきでものせよとのたまへば、かしかまりうけたまは
つて、あかじのにしきのふくろにいつたりけるおんたち、もつてまゐつたり。せうしやうこれはたうけにつたはる
こがらすといふたちやらんと、うれしげにみたまへば、さなくして、だいじんさうのときもちゐるむもんの
たちなり。せうしやうけしきかはつてみえたまへば、おとど、それはさだよしがとがにはあらず、だいじんさうの
とき、はきてともするむもんといふたちなり。ひごろはにふだうどの、いかにもなりたまはば、しげもりは
きてともせんとこそぞんぜしが。いまはしげもり、にふだうどのにさきだちたてまつらんずれば、ごへんにたまふな
りとぞのたまひける。せうしやうとかくのへんじにもおよびたまはず、なみだををさへてしゆくしよにかへり、そのひ

はしゆつしもしたまはず、ひきかついてぞふしたまふ。そののちおとどくまのへまゐりげかうして、あまたの
につじゆをへずして、やまひづきてうせたまひけるにこそ、げにもとおもひしられけれ。

またこのおとどは、たうらいのふちんをなげいて、六八ぐぜいのぐわんになぞらへて、ひんがしやまのふもとに、四十
八けんのしやうじやをたて、一つまに一つづつ、四十八のとうろうをかけられたりければ、九ほんの
うてな、めのまへにかがやき、くわうえうらんけいをみがいて、じやうどのみぎりにのぞむかとうたがはる。まゐげつじふよつか、
十五にちをてんじてだいねんぶありしかば、たうけたけのひとびとのもとより、いろしろうわかうさかんなるによ
ばうをせうしやうじて、一まに六にんづつ、二百八十八にんのあましうとさだめて、おとどぎやうだうのなかにまじつ
て、一かうこのりやうじつがあひだは、いつしんぶらんのしやうみやうのこゑおこたらず。さればかのらいかういんせつのひぐわんも、
ここにやうがうをたれ、せつしゆふしやのひかりも、このおとどをてらしたまふかとおぼえたる。十五にちのひなか
をけつぐわんとして、さいはうにむかつててをあはせ、なむあんやうせかいのみだぜんせい、三がい六だうのしゆじやうを
あまねくさいどしたまへと、えかうほつぐわんしたまへば、みるひとじひしんをおこし、きくものかんるゐをぞもよほしけ
る。それよりしてこそ、このおとどをとうらうのだいじんとはまをしけれ。

てんせいこのおとどはめつざいしやうぜんのおこころざしふかくましましければにや、わがてうにはいかなるだいぜん
こんをしおいたりいふとも、しそんあひついて、しげもりがごせともらはんことありがたし。たこくに
いかなるぜんこんをもしおいて、ごせともらはれんとて、あんげんのはるのころほひ、ちんぜいよりめうでんといふ
せんだうをよびのぼせ、ごぜんのひとをはるかにのけてたいめんありけり、こがね三千五百りやうめしよせて、
なんぢはきこゆるだいしやうぢきのものなればとて、五百りやうをばなんぢにえさす。三千りやうをばそうてうへわたい
て、一千りやうをばいわうさんのそうにひき、二千りやうをばみかどへまゐらせて、たしろをいわうさんへまをし
よせて、しげもりがごせともらはすべしとぞののたまひける。めうでんこれをたまはりて、ばんりのえんらうをしのぎ、
だいそうこくへぞわたりける。いくわうざんのはうぢやう、ぶつせうぜんじとくくわうにあひたてまつつて、このよしまをしければ、
ずゐきかんたんして、やがて千りやうをばいわうさんのそうにひき、二千りやうをばみかどへまゐらせて、こまつどの
のまをされつるやうを、つぶさにそうもんせられければ、みかどおほいにかんじおぼしめして、五百ちやうのでんだい
をいわうさんへぞよせられける。さるはにつぽんのだいじん、たひらのあつそんしげもりこうのごしやう、ぜんしよといのる
こと、いまにありとぞうけたまはる。

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とさだめられたりしが、これはごしゆつけのあひだ、びぜんのこうのほとり、いはさまといふところにぞおきたてまつ
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まもかたじけなく、いまのきたののてんじんのおんことなり。さだいじんかうめいこう、ないだいじんふじはらのいしうこうにいたる
まで、そのれいすでに六にん、されどもせつしやうくわんぱくるざいのれいは、これはじめとぞうけたまはる。こなかどののおん
こ、にゐのちゆじやうもとみちは、にふだうのむこにてあるあひだ、だいじんくわんぱくになしたてまつらる。さんぬるゑん
ゆうゐんのぎよう、てんろく三ねん十一ぐわひといのひ、一でうのせつしやうけんとくこううせたまひしかば、おんおとうとほりかは

のくわんぱくなかよしこう、そのときはいまだじゆにゐのちうなごんにておはしき。そのおとうとほふこうゐんのおほにふだうかねひへ
こう、そのころはだいなごんのうたいしやうにてましましければ、なかよしこうはおんおとうとに、かかいこえられさ
せたまひたりしかども、いままたこえかへして、ないだいじんしやう二ゐして、ないらんのせんじこうむらせたまひた
りしとぞ、ひとみなじぼくをおどろかしたるごしやうしんとはまをしあはれしが、これはそれにはなほてふくわせり。
ひさんぎにゐのちうじやうより、だいちうなごんをへずして、だいじんせつしやうになること、これはじめ、ふげんじどのの
おんことなり。しやうけいさいしやう、だいげき、たいふ、さくわんにいたるまで、みなあきれたるやうにてぞさふらはれ
ける。だいじやうだいじんもろながは、つかさをやめてあづまのはうへながされたまふ。さんぬるほうげんには、ちちあくひだんの
おほいどののえんざによつて、きやうだいしにんるざいせられたまひにき。おんあにうだいしやうかねなが、おんおとうとさちうじやうたか
なが、はんちやうぜんじ三にんは、きらくをまたずして、はいしよにてつひにうせたまひぬ。これはとさのはたに
て、九のかへりのはるあきをおくりむかへ、ちやうくわん二ねん八ぐわにめしかへされて、ほんゐにふくし、つぎの
としじやう二ゐして、にんあんぐわんねん十ぐわに、さきのちうなごんよりごんだいなごんにのぼりたまふ。をりふしだいなごんあか
ざりければ、かずのほかにぞくははられける。だいなごん六にんなることこれはじめ、またさきのちうなごんより
ごんだいなごんにのぼることも、ごやましなのだいじんみもりこう、うぢのだいなごんりうこくきやうのほかは、これはじめとぞうけたま
る。くわんげんのみちにたつし、さいげいすぐれておはしければ、しだいのしやうしんとどこほらず。だいじやうだいじんまできは
めさせたまひて、またいかなるつみのむくいにや、かさねてながされたまふらん。ほうげんのむかしは、なんかいと

さへうつされ、ぢしようのいまは、またとうくわんをはりのくにとかや。もとよりつみなくして、はいしよのつきを
みんといふことを、こころあるきはのひとのねがふことなれば、だいじんあえてことともしたまはず。かの
たうのたいしのひんかくはくらくてん、じんやうのえのほとりにやすらひたまひけん、そのいにしへをおもひやり、なるみがたしほ
ぢはるかにゑんけんして、つねはらうげつをのぞみ、うらかぜにうそぶき、びはをたんじ、わかをえいじて、なほざりが
てらにつきひをおくりたまひけり。あるときたうごくだい三のみや、あつたみやうじんにさんけいあつて、そのよしんめいほふ
らくのために、びはをひきらうえいしたまへども、もとよりむちのさかひなれば、なさけをしれるものもな
し、ゆふらう、そんぢよ、ぎよにん、やさう、かうべをうなだれ、みみをそばだつといへども、さらにせいだくをわけ
て、りよりつをしることなし。されどもこは、きんをだんぜしかば、ぎよりんをどりほどはしり、ぐこう、うた
をはつせしかば、りやうじんうごきゆらぐ。もののめうをきはむるときは、しぜんにかんをもよほすだうりなれば、しよ
にんみのけよだつて、まんざきゐのおもひをなす。やうやうしんかうにおよんで、ふかうてうのうちには、はな
ふんいくのきをふくみ、りうせんのきよくのあひだには、つきせいめいのひかりをあらはす。ねがはくはこんじやうせぞくもんじのごふ、
きやうげんきごのあやまりをもつてといふらうえいをして、ひきよくをひきたまひしかば、しんめいかんおうにたへずし
て、ほうでんおほいにしんどうす。へいけのあくぎやうなかりせば、いまこのずゐさうをばいかでかをがむべきとて、
おとどかんるゐをぞながされける。あぜちのだいなごんすけかたのきやう、しそくうこんゑのせうしやう、けんさぬきのかみみなもと
のすけとき、二つのくわんをやめらる。さんぎくわうたいごうぐうのごんのだいぶ、けんうへうゑのかみ、ふじはらのみつよし、

おほくらきやううきやうのたいふ、けんいよのかみたかはしのやすつね、くらんどのさせうべん、けんちうぐうのごんのたいしんふじはらのもと
ちか、三くわんともにとどめらる。なかにぞあぜちのだいなごんすけかたのきやう、しそくうこんゑのせうしやう、まごのうせう
しやうまさかた、この三にんをば、こんにちやがてみやこのなかをおひださるべしとて、じやうけいにはとうだいなごんさね
くに、はかせのはんぐわんなかはらののりさだにあふせて、そのひやがてみやこのうちをおひいださる。だいなごんのたまひけ
るは、さんがいひろしといへども、五しやくのみのおきどころなし。一しやうほどなしといへども、一にちくらし
がたしとて、やうちにここのへのなかをまぎれいで、やへだつくものほかへぞおもむかれける。かのおほえ
やまや、いくののみちにかかりつつ、はじめはたんばのくにむらくもといふところに、しばしはやすらひたまひける、
それよりつひにはたづねだされて、しなののくにとぞきこえし。

さきのくわんぱくまつどののさむらひに、ごうたいふのはうぐわんとほなりといふものあり。これもへいけに、こころよからざりけるが、
六はらよりからめとらるべしときこえしほどに、しそくごうざゑもんのじやういへなりあひぐして、いづちをさ
すともなくおちゆきけるが、いなりやまにうちあがり、うまよりおりて、おやこいひあはせけるは
これよりとうごくへおちくだり、いづのくにのるにんさきのうひやうゑのすけよりともを、たのまばやとおもへど
も、それもたうじはちよくかんのみにて、わがみ一だにかなひにくうおはすなり。そのほかにつぽんごくに、

いづくかへいけのしやうゑんならぬところやある、としごろすみなれたるところを、ひとにみせんもはぢがま
し。いざこれよりとつてかへし、六はらよりめしつかひあらば、やかたにひをかけ、やきあげ、ふし
ともにはらかききつて、しなんにはしかじとて、またがはらざかのしゆくしよへとつてかへす。あんのごとく、
六はらよりげんだいふのわうぐわんすゑさだ、せつつのはうぐわんもりずみ、ひたかぶと三百よき、かはらざかのしゆくしよにおし
よせてときをどつとぞつくりける。ごうたいふのはうぐわんふちにたちいでて、だいおんじやうをあげて、い
かにおのおの、六はらにてはこのさまをまをさせたまへやとて、たちにひかけやきあげ、ふし
ともにはらかききつて、ほのほのなかにてやけししぬ。そもかやうにひとのほろびそんずることを、いか
にといふに、さきのおほどののおんこ、三みちうじやうどのと、たうじくわんぱくにならせたまふ二ゐのちうじやうどのと、
ちうなごんごさうろんゆゑとぞきこえし。さらばくわんぱくとのおひと?ところばかりこそ、いかなるおめにもあは
せたまふべきに、四十三にんのひとびとの、ことにあふべきやは。およそはこれにもかぎるまじかんなれ
ども、にふだうさうこくのこころに、てんまいりかはつて、よろづはらをすゑかねたまふよしきこえしかば、きやうちうまた
さわぎあへり。こぞさぬきのゐんごつゐがうあつて、すとくてんわうとがうし、うぢのあくさう、ぞうくわんぞうゐ
おこなはれたりとへども、せけんはなほもしづかならず。そのころさきのさせうべんゆきたかとまをししは、こなか
やまのだいなごんあきときのきやうのちやうなんなり、二でうのゐんのおんときは、べんくわんにくははつて、さしもゆゆしく
おはせしかと、この十よねんはくわんをもやめられて、なつふゆのころもがへにもおよばず、あさくれのさんもまれ

なり。あるかなきかのていにておはしけるを、にふだうさうこく、ししやをもつて、きつとたちよりたま
へ、まをしあはすべきことありとのたまひつかはされたりければ、ゆきたかこの十よねんは、くわんをもとどめ
られて、なにごとにもまじらざりつるものを、いかさまにもこれはざんげんして、うしなはんとするもの
のあるにこそとて、おほきにおそれさはがれけり。きたのかたいげにようばうたち、こゑごゑをめきさけびたま
ひけり。さるほどに、にし八でうでんよりつかひしきなみにありしかば、ゆきたかいまははやいでむかつて
こそ、ともかうもならめとて、ひとにくるまかつていでられたれば、おもふにはにず、にふだうやか
ていであひたいめんあつて、ごへんのちちのきやうは、にふだうだいせうじをまをしあはせしひとなり。そのなごりに
ておはすれば、ごへんとてもまつたくおろそかにおもひたてまつらず。としごろらうきよのこともいたましうはおぼゆれど
も、ほふわうのごせいむのうへはちからおよばず。いまははやしゆつしたまへ、くわんどのこともまをしさたつかまつりさふら
はん。さらばとうかへられよとてかへされたれば、しゆくしよにはにようばうさぶらひさしつどひて、しにた
るひとのいきかへりたるここちして、よろこびなきをぞせられける。つぎのひげんたいふのはうぐわんすゑさだをもつて、
ちぎやうしたまふべきしやうゑんじやうども、あまたなしつかはし、まづさぞおはすらんとて、百びき百りやうにこめ
をつんでぞおくられたれば。ゆきたかてのまひあしのふみどもおぼえたまはず、こはゆめやらんとぞ
おどろかれける。おなじき十七にち、五ゐのぢじゆうにほせられてもとのごとくさせうべんになしかへさる。
こんねん五十一、いまさらわかやぎたまひけり。ただかたときのえいぐわとぞみえし。

おなじきはつかのひ、ゐんのごしよほふぢうじてんをば、ぐんびやう四めんをうちかこひ、へいぢにのぶよりのきやう
が、三でうでんをしたりしやうに、ごしよにひをかけ、ひとをば一かうやきほろぼすべきよしきこえし
かば、ゐんちうのくぎやうでんじやうびと、つぼねのにようばう、あやしのめのわらばにいたるまで、ものをだにうちかつが
ず、われさきにわれさきにとぞにげいでける。さきのうたいしやうむねもりのきやう、おんくるまをよせて、とうとう
とまをされたりければ、ほふわうあ呼ばや、なりちかしゆんくわんらがやうに、とほきくに、はるかのしまへもうつし
やられんずるにこそ、さらにおとがあるべしともおぼしめさず。さてしゆじやうわたらせたまへば、せい
むのこうじうするばかりなり。それもさしづは、さらでもあれかしなんどとあふせければ、むね
もりのきやう、まをされけるは、しばらくよをしづめんほど、とばのほくでんへぎよかうなしたてまつるべきよし、ちち
のぜんもんまをしさふらふとまをされたりければ、さらばなんぢやがておともつかまつれとあふせけれども、ちちのぜん
もんのきしよくにおそれて、おともにはまゐられず。これにつけても、あにのないふには、ことのほかにおとり
たるものかな、ひととせもかかるおんめにあふべかりしを、ないふがやうやうにせいしとめてこ
そ、よはこんにちまでもおだしかりつれ。いまはいさむるもののなきとて、かやうにつかまつるにこそ
ゆくすゑとてもたのもしからずおぼしめすとて、おんなみだせきあへさせたまはず。さておんくるまにめされ

けり。くぎやうでんじやうびと、一にんもぐぶせられず、ほくめんのさむらひこんぎやうといふ、おんりきしやばかりぞまゐ
りける。おんくるまのしりには、あまぜいちにんさぶらはれけり。このあまぜとまをすは、やがてほふわうのおんめの
と、きいのにゐのおんことなり。しぢでうをにしへ、しゆじやくをみなみへごかうなる。あはや、ほふわうのながさ
れさせおはしますぞやとて、あやしのしづのをしづのめにいたるまで、みなみなだをながしそでをぬさぬは
なかりけり。さんるなぬかのよのだいぢしんも、かかるべかりけるぜんぺうにて、十六らくしやの
そこまでもこたへ、けんろうちしんのおどろきさわぎたまふらんも、ことわりかなとぞひとまをしける。ほふわうのとば
どのへごかうなあつてのち、ごぜんにひとひとりもさぶらはず、なんとしてかまぎれいりたりけん。だいぜんのたい
ふのびなりが、ただひとりさふらひけるをめして、われはちかううしなはれんずるとおぼゆるぞ、おんぎやうすゐをめ
さばやとおぼしめすはいかに、とあふせければ、さらぬだにのぶなり、けさよりきもたましひもみに
そはず、あきれたるさまにてさふらひけるが、このあふせうけたまることのかたじけなさに、かりぎぬのたまだすき
あげ、かまにみづくみいれ、こしばがきこばち、おほゆかのつかはしらわりなどして、かたのごとくのおゆし
いだいてたてまつる。こせうなごんにふだうしんぜいのしそくじやうけんほふいん、このよしをつたへうけたまはつて、いそぎにふだうさう
こくのにし八でうのやしきへゆきむかつて、ゆふべ、ほふわうのとばどのへごかうなつてさふらふに、ごぜんにひとひとり
もさふらはぬよしうけたまはつて、むげにくちなしうぞんじさふらふ、なにかくるしうさふらふべき、じやうけんばかりはおゆる
されをこうむつて、まゐりさふらはばやとまをされければ、にふだうさうこく、ごばうはことあやまつまじきひとなり、

とうとうとてゆるされけり。ほふいんなのめならずよろこび、いそぎくるまをとばせとばどのへはせまゐり、もん
ぜんにてくるまよりおりもんのうちへさしいりたまふに、をりふしほふわうは、おんきやううちあげうちあげあそばさ
れけるおんこゑのすごうぞきこえさせおはします。ほふいんの、つとまゐられたれば、あそばされける
おんきやうに、おんなみだのはらはらと、かからせたまふをみまゐらせて、ほふいんあまりのあさまつさ
に、きうだいのそでをかほにおしあてて、なくなくごぜんへぞまゐられける。ごぜんにはあまぜばかり
ぞさふらはれける、やや、ごばう、きみはきのふのあさ、ほふぢうじどのにてぐごきこしめされてのちよりは
ゆふべもけさもきこしめさず、ながきよもすがらぎよしんもならず、おんいのちもすでにあやうこそみえさせたま
ひさふらへとまをされたりければ、ほふいん、なにごともかぎりあることにてさふらへば、へいけよをとつて二
十よねん。てんがになびかぬくさきもさふらはず、されどもあくぎやうはふにすぎてすでにほろびさふらひなんず。
そのうへわがきみをばてんせうだいじん、しやうはちまんぐうも、きみをばいかでかおぼしめしはなたせたまふべき。なかに
もきみのおんたのみおはします、ひよしさんわうしちしや、一じようしゆごのおんちかひあらたまらずば、かのほつけ八じく
にたちかけつてこそ、きみをばまもりまゐらさせたまはめ。さればせいむはきみのおんよとなり、きよう
とはみづのあわときえうせさふらひなんず、とまをされければ、ほふわうこのことばにすこしなぐませおはし
ます。しゆじやうはじやうげかやうにひとのおほくほろびそんずることをこそ、おんなげきありつるに、いままたほふわう
のとばどのにおしこめられてわたらせたまはば、つやつやぐごもきこしめさず、ごなうとてひるはよるの

ごでんにのみいらせおはします。ごぜんにさふらはせたまふにようばうたち、きさきのみやをはじめまゐらせて、
いかなるべしともおぼえたまはず。だいりにはほふわうのとばどのへごよかうなつてのち、りんじのごじんごと
とて、しゆじやうつねはせいりやうでんのいしばひのだんにして、ひごとに、だいじんぐうをぞごはいありける。これは
一かうほふわうおんいのりのためとぞきこえし。二でうのゐんは、さばかんのけんわうにてわたらせたまひしかども、
てんしにふぼなしとて、つねはゐんのあほせをまをしかへさせおはしましければにや、けいたいのきみにて
もましまさず。さればおんようけとらせたまひたりし六でうのゐんも、あんげん二ねん七ぐわ十七にち、
おんとし十三にてつひにかくれさせたまひぬ。

はくかうのなかにはかうかうをもつてさきとし、めいわうはかうをもつててんがををさむといへり。さればたうぎやう
はおいおとろへたるははをたふとび、ぐしゆんはかたくななるちちをうやまふとみえたり。かのけんわうせいしゆのせんき
おはせましましけん、えいりよのほどこそめでたけれ。そのころだいりよりとばどのへ、ひそかにおんしよ
ありけり。かからんよには、くもゐにあとをとめても、なににかはしさふらふべきなれば、くわんぺい
のむかしをもとぶらひ、くわざんのいにしへをもたづねて、さんりんるらうのぎやうじやともなりぬべくこそさふらへと、
あそばされたりければ、ほふわうのおんぺんじに、さなおぼしめされさふらひそ、さてわたらせたまへばこ

そ、一つのたのみにてもさふらへ。あとなくおぼしめしならせたまひなんあとは、なんのたのみかさふらふべ
き。ただともかくも、ぐらうがならんやうにごらんじ、はてさせたまふべかもやさふららんと、
あそばされたりければ、しゆじやうこのおんぺんじを、りうがんにおしあてさせたまひて、おんなみだせきあへ
させたまはず。きみはふね、しんみづ、みづよくふねをうかべ、みづまたふねをくつがへし、しんよくきみをたもち、しん
またきみをくつがへす。ほうげんへいぢのころは、にふだうさうこく、きみをたもちたてまつるといへども、あんげんぢしようのいまは、
またきみをなみしたてまつる、ししよのぶんにたがはず。おほみやのだいさうこく、三でうのないだいじん、はむろのだいなごん、
なかやまのちうなごんもうせられぬ。いまふるきひととては、せいらんしんぱんばかりなり。このひとびともかか
らんよには、てうにつかへみをたて、だいちうなごんをへても、なににかはせんとて、いまださかんなつ
しひとびとの、いへをいでよをのがれ、みんぶきやうにふだうしんぱんは、おほはらのしもにともなひ、さいしやうにふだうせいらいは
かうやのきりにまじつて、ひたすらごせぼだいのほかは、またたじなしとぞみえたりける。むかしもしやうざんの
くもにかくれ、えいせんのつきにこころをすますひともありけんなれば、これあにはくらんせいけつにして、よをのが
れたるにあらずや。なかにもかうやにおはしける、さいしやうにふだうせいらい、このよしをつたへききたまひて
あはれこころとうも、よをばのがれたるものかな、かくてきくもおなじことなれども、まのあた
りたちまじつてきかましかば、いかにこころぐるしからん。ほうげんへいぢのらんをこそ、あさましと
おもひつるに、よ、すゑになれば、かかるふしぎもいできにけり。こののちてんかにいかばかん

のことかいでこんずらん。くもをわきてものぼり、やまをへててもいりなばやとぞのたまひける。
げにこころあらんほどのひとの、あとをとむべきよともおぼえず。おなじき二十二にち、てんだいざすがくくわい
ほふしんわう、しきりにごじたいありしかば、ぜんざすめいうんだいそうじやうくわんちやくしたまふ。にふだうさうこく、かくさん
ざんにしちらされたりしかども、ちうぐうとまをすもおんむすめ、くわんぱくどのもまたむこなりければ、よろづこころ
うやおもはれけん、せいむは一つかうしゆじやうのおんぱからひたるべしとて、ふくはらへこそくだられけれ。
あくる二十三にち、さきのうだいしやうむねもりのきやうさんだいして、このよしそうもんせられたれりければ、しゆじやうほふわう
のゆづりましましたるよならばこそ、ただしつぺいにいひあはせて、むなもりともかくもよきやうにあひ
はからへとて、きこしめしもいれざりけり。ほふわうはせいなんのりくうにして、ふゆもなかばすごさせたまへば、
やざんのあらしのおとのみはげしくて、かんていのつきぞさやけき。にはにはゆきふりつもれども、あとふみつく
るひともなく、いけにはこほりとぢかさねて、むれゐしとりもみえざりけり。おほてらのかねのこゑ、ゐあい
じのきいをおどろかし、せいざんのゆきのいろ、かうろほうののぞみをもよほす。よ、しもにさむけききぬたのひび
き、かすかにおんまくらにつたひ、あかつき、こほりをきしるくるまのあと、はるかのもんぜんによこたはれり。ちまたをすぐるかうじん、
せいばのせわしげなるけしき、うきよをわたるありさまも、おぼしめししられてあはれなり。きうもんを
まもるばんゐの、よるひるけいゑいをつとむるも、さきのよのいかなるちぎりにて、いまえんをむすぶらんと、あふ
せありけるぞかたじけなき。およそものにふれことにしたがつて、おんこころをいたましめずといふこと

なし。きびにはかのをりをりのごいうらん、しよしよのごさんけい、おんがのめでたかりしことども、おぼし
めしいでて、くわいきうのおんなみだおさへがたし。としさりとしきたつて、ぢしようもしねんになりにけり。



平曲譜本 藝大本 巻四

ぢしようしねんしやうぐわつひといのひ、\とばどのには\さうこくも\ゆるさず、はふわうも\おそれさせ\ましましければ、
ぐわんにつ\ぐわんざんの\あひだ、さんにふ\つかまつる\ひと\一にん/も\なし。されども\その\なかに、こせうなごんにふだうしんせいの\し
そく、さくらまちのちうなごんしげのりのきやう、その\をとう\さきやうのたいふながのりばかりぞ、ゆるされては\まゐられける。
おなじはつかのひ、とうぐう\おんはかまぎ、ならびに\おんまなはじめとて、\めでたき\ことども\あり/しかども、\ほふわう
は\とばどのにて、おんみみの\よそにぞ\きこしめす。二ぐわつ二十一にち、しゆじやう\ことなる\\おん-つつがも\わたら
せ\たまはざりしを、おしおろし\たてまつつて、とうぐう\せんそ\あり。これも\にふだうさうこく、よろづ\おもふ\さまなるが
\いわたす\ところなりと\いへ/り。とき\よく\なりぬとて、ひしめきあへり。しんじ、はうけん、ないしどころ\わた
し\たてまつる。かんたちめ\ぢんに\あつまつて、ふるき\ことども\せんれいに\まかせて\おこなひしに、さだいじんどの\ぢんに\いで、
おん-くらゐゆづりの\ことども\あふせしを\きいて、\こころある\ひとのみ\なみだを\ながし、\こころを\いたましめず/と\いふ
\こと\なし。われと\おん-くらゐを\まうけのきみに\ゆづり\まゐらせて\たてまつり、はこやのやま/の\うちも\しづかになんど
\おぼしめす。さきざきだにも、\あはれは\おほき\ならひぞかし。ましてや\これ/は\\おん-こころならず、おしおろさ
れさせ\たまひけん\おん-こころ/の\うち、おしはかられて\あはれなり。つたはれる\おん-たからものども、しなじな

\つかさつかさ\うけ-とつて、しんていの\くわうきよ、ごでうだいりへ\わたし\たてまつる。かんゐんどのには、ひの\かげ\かすかに、
けいじんの\こゑも\とまり、たきぐちの\もんしやくも\たえにしかば、ふるき\ひとびと、\かかる\めでたき\いはひ/の\なか
にも、いまさら\あはれに\おぼえて、\なみだを\ながし\そでを\ぬらさぬは\なかりけり。しんてい\こんねん\三さい、あは
れ、いつしかなる\じやうゐかなとぞ、\ひとびと\ささやき-あはれける。へいだいなごんときただのきやうは、ぬち
のおんめのと\そつのすけの\をつとたる\ゆゑ、こんどの\じやうゐ\いつしかなりと、たれか\かたむけ\まをすべき。い
こくには、しうの\せいわう\三さい、しんの\ぼくてい\二さい、わがてうには、こんゑのゐん\三さい、六でうのゐん\二さい、
これ\みな\きやうほう/の\なかに\つつまれて、いたいを\ただしう\せざつしかども、あるひは\せつしやう\おうて\くらゐに\つき、
あるひは\はは\きさき\いだいて\てうに\のぞむと\みえたり。こうかんの\かうしやうくわうていは\うまれて\百にち/と\いふに\せんそ\あり。
てんし\くらろを\ふむ\せんじやう、わかん\かくのごとしと\まをされければ、その-とき\いうそくの\ひとびと、されば\それら
は\みな\よき\れいどもかや、/と/ぞ\つぶやき-あはれける。とうぐう\せんそ\あり/しかば、にふだうさうこく\ふうふ
\とも/に、ぐわいそふ\ぐわいそぼとて、じゆん三ごうせんじを\かうむり、ねんぐわん\ねんじやくを\たまはつて、じやうにちの\もの/を
\めしつかひ、ゑ\かき\はな\つけたる\ものども\いでいつて、\ひとへに\ゐんぐうのごとくにてぞ\さふらはれ
ける。しゆつけの\ひとの\じゆん三ごうのせんじを\かうむることは、ほこゐんのおほにふだうどのかねいへこう、ほかは\これ
\はじめとぞ\うけたまはる。\おなじき三ぐわつじやうじゆんに、じやうくわう\\あきの\いつくしまへ、\ごかう\なるべき\よし\きこゆ。
しゆじやく\くらゐを\すべつて、しよしやの\ごかう\はじめには、はちまん、かも、かすがへこそ\ごかうは\なるべきに、

はるばると\\あきのくにまでの\ごかうは\いか/にと、ひと\ふしんを\なす。そのなかに\あるひとの\まをしける
は、しらかはのゐんは\かまのの\ごかう、ごしらかはの\ひよしのやしろへ\ごかう\なる。\すでに\しんぬ。えいりよに\あり
と\まをす\ことをば、おんんろに\ふかき\ごりふぐわん\あり。そもそも\あきの\いつくしまをば、へいけ\なのめならずに、
あがめうやまひ\まをされける\あひだ、うへには\へいけ\ごどうしん、したには\はふわうの\いつとなく、\とばどのに\おし
こめられて\わたらせ\たまへば、にふだうさうこくの\こころも、やわらぎ\たまふかとの\はかりごととぞ\きこえし。
さんもんの\たいしう\いきどほり\まをしけるは、しゆじやう\おん-くらゐを\すべつて、しよしやの\ごかう\はじめには、いはしみづ、かも、
かすがへ\ごかう\ならずば、わがやまの\さんわうへこそ\ごかうは\なるべきに、はるばると\あきのくにまでの
\ごかうは\いつの\ならひぞや。その\ぎならば、しんによを\ふりくだし\たてまつつて、\ごかうを\とどめ\まゐら
せよとぞ\まをしける。これ/に\よつて、\しばらく\ごゑんにん\あり/けり。にふだうさうこく、やうやうに\なだ
め\まをされければにや、\さんもんの\たいしう\しづまりぬ。\おなじき十七にち、じやうわう、\いつくしま-ごかうの\おん-かどで
とて、にふだうさうこくの\きたのかた、二ゐどのの\しゆくしよ、はつてうおほみやなる\ところへ\ごかう\あつ/て、そのよ\やがて、
\いつくしまの\ごじんじ\はじめらる。でんがより\からの\おん-くるま\うつしの\うまなんど\まゐらせられけり。あくる\十八
にち、にふだうさうこくの\やしきへ\いらせ\おはします。そのひの\くれ\ほど/に、じやうわう\さきのうだいしやうむねもりのきやうを\ご
ぜんへ\めして、みやうにち\いつくしま-ごかうの\おん-ついでに、\とばどのへ\ごかう\なつ/て、\ほふわうの\ごげんざんに\いつ
たかりつるは、さうこくぜんもんに\しらせずしては\あしかりなんとや、\あふせければ、むねもりのきやう、

なんでう\ことの\さふらふべきと、そうせられたりければ、さらば\なんぢ\やがて\とばどのへ\まゐつて、その\やう
を\まをせかしと\あふせければ、かしこまり-うけたまはつて、\いそぎ\とばどのへ\はせ-まゐり、\この\よし\そうもん
せられたりげれば。\ほふわうは\あまりに\おぼしめす\おん-こころにて、こは\ゆめやらんとぞ\あふせける。
あくる十九にち、おほみやのだいなごんたかすゑのきやう、\いまだ\よ\ふかう\まゐつて、\ごかう\もよほされけり。この
\ひごろ\きこえさせ\たまひたる\いつくしま-ごかうをば、にふだうさうこくの\にし八でうの\やしきより\すでに\とげさせ\おはし
ます。やよひも\なかば\すぎぬれど、かすみに\くもる\ありあけのつきは\なほ\おぼろなり。こしぢを\さして\かへ
る\かりの、くもゐに\おとづれゆくも、\をりふし\あはれに\おぼしめす。\いまだ\よ/の\うちに\とばどの
へ\ごかう\なる。もんぜんにて\おん-くるまより\おりさせ\おはしまし、もん/の\うちへ\さしいらせ\たまふに、ひと
\まれにして、こぐらく\ものさびしげなる\おん-すまひ、まづ\あはれにぞ\おぼしける。はる\すでに\くれ
なんと\す。なつこだちにも\なりにけり。こずゑの\はな\いろ\おとろへて、みやの\うぐひす\こゑ\おいたり。きよねんの\しやうぐわ
むゆかのひ、てうきん/の\ために、ほふじうじどのへ\ごかう\あり/しには、がくやに\らんじやうを\そうして、しよきやう\れつに
\たつて、しよゑい\ぢんを\ひき、ゐんじの\くぎやう\まゐりむかつて、まんもんを\ひらき、かもんれう\えんだうを\しき、ただし
しかりし\ぎしじ\いちじ/も\なし。けふは\ただ\ゆめとのみそ\おぼしめす。さくらまちのちうなごんしげのりのきやう、
まゐつて\ごきしよく\まをされたりければ、\ほふわうは\はや\しんでんの\はしがくしの\まへ\ごかう\あつ/て、まち
\まゐらつさせ\たまひけり、じやうくわうは\こんねん\二十、あけがたの\つきの\ひかりに\はえさせ\たまひて、ぎよくたいも\いと

と\うつくしうぞ\みえさせ\おはします。おぼぎ、こけんしゆんもんゐんに\いたくに\まゐらつさせ\たまひたり
しかば、ほふはうは\まづ\こによゐんの\\おん-こと\おぼしめしいでて、\おん-\なみだ\せきあへさせ\たまはず。やや
\あつ/て\りやうゐんの\おざ\ちかく\しつらはれたり。ごもんだふは\ひと\うけたまはるに\およばず。ごぜんには、あまぜ
はかりぞ\さふらはれける。やや\ひさしう\おんものがたりども\せさせ\おはしまし、\はるかに\ひ\たけて\のち、
おんいとま\まをさせ\たまひて、とばの\くさづより\おん-ふねにぞ\めされける。じやうくわうは\ほふわうの\りきうの\こてい、
いうかん\せきばくの\おん-すまひ、\おん-こころくるしう\ごらんじおかせ\たまへば、\ほふわうは\また\じやうわうの\りよはくこうきうの\なみ
の\うへ、ふね/の\うちの\おん-すまゐ、おぼつかなくぞ\おぼしめされける。\まことに\そうべうや\はたかもなんど
を\さしおかせ\たまひて、はるばると\あきのくにまでの\ごかうをば、しんめいも\などか\ごなふじゆなかる
べき。ごぐわん\じやうじゆ\うたがひなしとぞ\みえたりける。
**
おなじき二十六にち、じやうわう\あきの\いつくしまへごさんちやく、にふだうさうこくのさいあいのないしがしゆくしよ、くわうきよにな
る、なか二にちごとうりう\あつ/て、きやうゑぶがく\おこなはる。だうしには、こうけんそうじやうとぞ\きこえし。そうじやうかうざ
に\のぼり、かねうちならし、へうびやく/の\ことばにいはく、ここのへ/の\うちをいでさせ\たまひ、やへのしほ
ぢをわき\もつて、はるばるとこれまで\まゐらつさせ\たまひたる、\おん-こころざしのかたじけなさよとたか

らかに\まをされたりければ、きみもしんも、みなかんるゐをぞ\もよほされける。おほみやまろうどを\はじめ\たてまつつ
て、しやしやしよしよへみな\ごかうある。おほみやより五ちやうばかり、やまをまはらせ\たまひて、たきのみやへまゐ
らつさせ\たまひけり。こうけんそうじやう、はいでんのはしらにかきつけられけるとかや。
くもゐよりおちくるたきのしらいとにちぎりをむすぶことぞ\うれしき
かんぬしさへぎのかげひろ、かかい、じゆじやうの五ゐ、こくしふじはらのありつな、しなあげられて、しゆげの四ほん、
\やがてならびにゐんのでんじやうを\ゆるさる。ざすそんえいほふげんになさる。しんりよもうごき、にふだうさうこくの\こころも
やはらぎ\たまひぬらんとぞみえし。\おなじき二十九にち、\おん-ふねかざつて\くわんぎよ\なる。\をりふしなみかぜは
げしかりければ、ごしよの\おん-ふねを\はじめ\たてまつつて\ひとびとのふねどもみなこぎもどされて、そのひはいつく
しま/の\うち、ありのうら/と\いふ\ところにぞとどまらせ\おはします。じやうくわうだいみやうじんの\おん-\なごりををしみに、うたつ
かまつれ\おのおの、と\あふせければ、たかふさのせうしやう、
たちかへる\なごりもありのうらなればかみもめぐみをかくるしらなみ
やはんばかりよりかぜしづまつて、かいじやうもをだしかりければ、ごしよの\おん-ふねを\はじめ\たてまつつて、ひとひと
のふねどもみなこぎいだされてそのひはびんごのくにしきなのとまりにつかせ\たまふ。この\ところはさんぬるおうほうの
ころほひ、一ゐん\ごかう/の\とき、こくしふぢはら/の\ためなりがつくつたりけるごしよの\あり/けるを、にふだうさう
こく、おんまうけにしつらはれたりしかども、それへは\ごかうも\あら/ず、けふはうづきひとい、

ころもがへ/と\いふことのあるぞかしとて、\おのおの\みや\この-かたをながめやり\たまふに、きしにいろふかきふぢ
の、まつのえだにさきかかつけるを、じやうわうえいらん\あつ/て、あのはなをりにつかはせと\あふせければ、
さつしやうなかはらのやすさだがはしふねにのつて、\をりふしごぜんをこぎとほりけるをめして、をりにつか
はさる。ふぢのはなをまつのえだにつけながら、をつて\まゐらせたりければ、\こころばせありなんど
\あふせられて、ぎよかんな\あり/けり。じやうわう\やがてこのはなにてうた\つかまつれ\おのおの、と\あふせければ、
たかすゑのだいなごん
ちとせへんきみがよはひにふぢなみのまつのえだにもかかりぬるかな
ふつかのひは、びぜんのこじまにつかせ\たまふ。いつかのひ、てんはれ、かいしやうものどけかりければ、
ごしよの\おん-ふねを\はじめ\まゐらせて、\ひとびとのふねどもみなこぎいだす。くものなみ、けぶりのなみをわきしの
がせ\たまひて、そのひははりまのくにやまだのうらにぞつかせ\おはします。それより\\おん-こしにめして、
ふくはらへぞ\ごかうある。おん-ともの\くぎやうでんじやうびと、いまひとひも\みやこへとはいそがれけれどもいらせおは
します。むゆかのひはごとうりうありて、ふくはらのしよしよをみなれきらん\あり/けり。にふだうさうこくのおとうといけの
ちうなごん、よりもりのきやうのしゆくしよ、あらたまで\ごらんぜらる。あくるなぬかのひ、ふくはらをたたせたま
ふとて、にふだうのいへのしやう\おこなはる。にふだうさうこくのやうし、たんばのかみきよくに、じやうげの四ゐし\たまふ。
\おなじうにふだうのまご、ゑちぜんのせうしやうは、四ゐのじゆじやうとぞ\きこえし。そのひてらゐにつかせ\たまふ。あく

るやうかのひ、おんむかへの\くぎやうでんじやうびと、とばのくさづまでみな\まゐられけり。くわんぎよ/の\ときは、\とばどの
へは\ごかうも\あら/ず。ただちににふだうさうこくの、にし八でうの\やしきへぞいらせ\おはします。\おなじき廿二
にち、しんていのおんそくゐ\あり。たいこくでんにて\おこなはるべかりしかども、ひととせえんじやうののちは、\いまだ
つくりもいだされず。たいこくでんなからんうへは、だいじやうくんのちようにて\おこなはるべきかと、\くぎやうせん
ぎ\あり/しかば、九でうどの\まをさせ\たまひけるは、だいじやうくわんのちようは、ぼんにんのいへにとらば、くもん
しよたいの\ところなり。たいこくでんなからんうへは、ししでんにてこそおんそくゐは\ある/べけれ、とまをあせ
\たまひて、しんていのごそくゐはししんでんにてぞ\あり/ける。ひととせかうほしねん十一ぐわ十一にち、れいぜいゐん
のおんそくゐ、ししんでんにて\あり/しは、しゆじやうごじやけ/に\よつてたいこくでんへのぎやうかうかなはざりしによ
つてなり。そのれい\いかが\ある/べからんただご三でうゐんのえんきうのかれいに\まかせて、だいじやうくわん
のちようにて\おこなはるべきものをと、\くぎやうせんぎ\あり/しかども、その-ときの九でうでんのおんはからひのうへ
は、さうに\およばず、とうぐうせんそ\あり/しかば、ちうぐんはこうきどのよりじじゆうどのへ\うつつて、や
がてたかみくらへ\まゐらせ\たまふ。へいけの\ひとびと、みなしゆつしせられけるうちに、\こまつでんのきんだちたちは、こ
ぞおとどごうぜられにしかば、いろにてろうきよせられけり。

くらんどのさゑもんのごんおすけさだなが、こんごのごそくゐにゐらんなく\めでたいやうを、かうし十まいばか
りにかいて、にふだうさうこくの\きたのかた、八でう二ゐどののしゆくしよへおくつたりければ、ゑみをふくんでぞ
\よろこばれける。かやうに\めでたき\ことども\あり/しかども、せけんなほもととのほらず。そのころ
一ゐんだい二の\わうじもちひとのしんわうと\まをすは、おんぱわかがだいなごんすゑなりのきやうのむすめ、三でうたかくらにまし
ましければ、たかくらのみやとぞ\まをしける。いんじえいまんぐわんねん十一ぐわ十五にちのあかつき、しのびつつこの
ゑがはらのおほみやのごしよにて、ひそかにごげんぷく\あり/けり。おんしゆせきうつくしう\あそばし、おんさいかくもす
ぐれて\ましましければ、たいしにもたち、くらゐにもつかせ\たまふべかりしかども、こけんしゆんもん
ゐんのおんそねみ/に\よつて、おしこめられさせ\たまひけり。はなのもとのはるのあそびには、しがうをふる
つて、てづからごさくをかき、つきのまへの\あきのえんには、ぎよくてきをふいて、おのづからがおんをあやつ
り\たまふ。かくしてあかしくらさせ\たまふ\ほど/に、ぢしようしねんには、おん-とし三十にぞ\なら/せ\ましまし
ける。そのころこのゑがはらに\さふらはれける、げん三みにふだうよりまさ、あるよひそかにこのみやのごしよにまゐ
つて、\まをされけることこそ\おそろしけれ。たとへば、きみはてんせうだいじんてんそん四十八せのしやつ
とう、じんむてんわうより七十八だいにあたらせ\たまふ。しかれば、たいしにもたち、くらゐにもつかせたま

ふべかりしひとの、三十までみやにて\わたらせ\たまふ\\おん-ことをば、\おん-こころうしとも\おぼしめされ\さふらは
ずや。はやはやごむほんおこさせ\たまひて、\ほふわうのいつとなく、\とばどのにおしこめられてわた
らせ\たまふ、\おん-こころをもやすめ\まゐらせ、きみもくらゐにつかせ\たまふべし。これ\ひとへに\ごかうかうの\おん-いたりなる
べし。もし\おぼしめしたたせ\たまひて、りやうじを\たまふほどならば、\よろこびをなして\はせ-まゐらうず
るげんじどもこそ、くにぐににおう\さふらへとて、\まをしつづく。まづきやうとには、ではのぜんじみつのぶ
がこども、いがのかみみつもと、ではのはうぐわんみつなが、ではのくらんどみつしげ、ではのくわんじやうみつよし、
は、こ六でうのはうぐわんためよしがばつし、十らうよしもりとて、かくれて\さふらふ。せつつのくににはただのくらんどゆきつなこ
そ\さふらへども、\これ/はしんだいなごんなりちかのきやうのむほん/の\とき、どうしんしながら、\かへりちうしたるふとうじん
にて\さふらへば、\まをすに\およばず。さりながら、そのおとうとにただのじらうともざね、てしまのくわんじやたかより、
おほたのたらうよりもと、かはちのくにには、むさしのごんのかみにふだうよしもと、しそくいしかはのはうぐわんだいよしかね、やまと
のくにには、うのの七らうちかはるがこども、たらうありはる、じらうきよはる、さぶらうなりはる、四らうよしはる、あふ
みのくにには、やまもと、かしはぎ、にしごり、みののをはりには、やまだのじらうしげまろ、かうべのたらうしげなほ、
いづみのたらうしげみつ、うらの四らうしげとほ、あぢきのじらうしげより、そのこのたらうしげすけ、きだの三らうしげなが、
かいでんのはうぐわんだいしげくに、やじまのせんじやうしげたか、そのこのたらうしげゆき、かひのくにには、へんみのくわんじやよし
きよ、そのこのたらうきよみつ、たけだののたらうのぶよし、かがみのじらうとほみつ、\おなじきこじらうながきよ、一でう

のじらうただより、いたがきのさぶらうかねのぶ、へんみのへやうゑありよし、たけだの五らうのぶみつ、やすだのさぶらうよしさだ、
しなののくにには、おほうちのたらうこれよし、をかだのくわんじやちかより、ひらがのくわんじやもりよし、そのこの四らうよしはる、
こたてわきのせんじやうよしかたがじなん、きそのくわんじやよしなか、いづのくにには、\るにん\さきのうひやうゑのすけよりとも、
ひたちのくにには、しだのさぶらうせんじやうよしのり、さたけのくわんじやまさよし、たらうただよし、さぶらうよしむね、四らうたか
よし、五らうよしすゑ、むつのくにには、こさまのかみよしともがばつし、九らうくわんじやぎけい、これみな六そんわうのご
べうえい、ただのしんぼちまんぢうがこういんなり。てうてきをたひらげ、しよくもうをとぐることは、げんぺいいづれ
しよれつ\なかりしかども、ほげんへいぢより\この-かたうんでいまじはりをへだて、しゆじうのれいにもなほおとれり。
くにはこくしに\したがひ、しやうはあづかつしよに\めしつかはれ、くじざつじにかりたてられて、やすい
\こころもし\さふらはず。つらつらたうせいのていをみ\さふらふに、かみには\したがふたるやうなれども、うちには
いつかう\へいけをそねまぬものや\さふらべき。もし\おぼしめしたたせ\たまひて、れいじをくださせ\たまふほ
どならば、よをひについではせのぼり、へいけをほろぼさんことはじじつをめぐらすべからず。にふだう
もとしこそよつて\さふらへども、わかきこども\あまた\もつて\さふらへば、ひきぐして\やがて\まゐり\さふららは
んとぞ\まをしける。みやはこ/の\こと\いかがあらんずらんと、\おぼしめしわづらはせ\たまひて、\しばらく
ごりやうじやうも\なかりけるが、ここにあこまるだいなごんむねみつのまご、びんごのぜんじすゑみちがこに、せうな
ごんこれながは、すぐれたるさうにんのじやうづにて\おはしければ、ときのひと、さうせうなごんとぞ\まをしける。

そのひとがこのみやをみ\まゐらせて、きみはくらゐにつかせ\たまふべきおんさう\まします。あひかまへててんがの
\\おん-こと、\おぼしめしすつなと\まをしけるうへ。このよりまさのきやうも、すすめ\まをされける\あひだ、さてはし
かるべきてんせうだいじんのおんぱからひやらんとて、ひしひしと\おぼしめしたたせ\たまひけり。ま
づしんみやの十らうよしもりをめして、くらんどになさる。ゆきいへとかいみやうして、りやうじの\おん-つかひに、くわんとうへ
こそくだされけれ。しんぐわ二十八にちに\みやこをたつて、あふみのくにより\はじめて、みのをはりのげんじ
どもに、しだいにふれてくだる\ほど/に、五ぐわとをかのひは、いづのほうでうについて、\るにん\さきの
うひやうゑのすけより\とも/に、りやうじをとりいだいて\たてまつる。しだのさぶらうせんじやうよしのりは、あになればたばん
とて、しだのうきしまへくだる。きそのくわんじやよしなかは、をひなればとらせんとて、せんだうへこそおもむき
きけれ。かかりける\ところに\くまののべつたうたんそう、こ/の\よしを\つたへきいて、\まことやしんぐううの十らう
よしもりこそ、たかくらのみやのりやうじ\たまはつて、\すでにむほんをばおこすなれ。なち、しんぐうの\ものどもは、
\さだめてげんじのかたうどをせんずらん。されどもたんぞうに\おいては\へいけのごをん、あめやまにかふむつた
れば、\いかでかそむき\たてまつるべき。や\ひとついかけて、そののち\へいけへしさいを\まをさんとてつがうその
せい\一千にん、しんぐうのみなとへはつかうす。しんぐうには、とりゐのほふげん、たかばうのはふげん、さぶらひには、うゐ
すすき、みづや、かめのかふ、なちには、しゆぎやほふげんに\いげ、つがふそのせい\二千よにん、ときつくりやあはせし
て、げんじのかたには、とこそいれ、へいけのかたには、かうこそいれと、たがひにやさけびのこゑ

のたいてんもなく、かぶらなりやむひまもなく、みつかがほどこそたたかうたれ。されども\おぼえのほふげん
たんぞうは、いへのこらうどうおはくうたせ、わがみておひ、からき\いのちいきつつ、\なくなくほんぐうへこそかへ
りけれ。

\おなじき五ぐわ十二にちのうまのこくばかり。とばでんにはいたちおびただしう\はしりさはぐ、はふわうおほひにおそ
れさせ\おはしまし、おんうらかた\あそばいて、あふみのかみなかかぬ、その-ときは\いまだつるのくらんどにて\さふらはれ
けるを、ごぜんへめして、これよりあべのやすちかがもとにいつて、きつとかんがへさせてやすちかがかん
じやう\とつ/てまゐれとぞ\あふせける。なかかぬ\これ/を\たまはつて、はるばるとあべのやすちかがもとにゆく。をりふ
ししゆくしよには\なかりけり。しらかはなる\ところに/と\いふ\あひだ、それに\たづねいつて、ちよくぢやうのおもむきおほ
せければ、やすちか\やがて、かんじやうをこそ\まゐらせけれ。なかかぬ\これ/を\とつ/て、\いそぎ\とばどのへか
へり\まゐり、もんより\まゐらんとすれば、しゆごのぶしども\ゆるさず。あないはしつたり。ついぢ
をこえはねいつておほゆかのしたをはうて、ごぜんのきりいたより、やすちかがかんぢやうをこそ\まゐらせけれ。
これ/をひらいてえいらんあるに、いまみつかがうちのおん\よろこび、ならびに\おん-なげきとぞかんがへ\まをしたりける。\ほふわうこ
の\ありさまにても、おん\よろこびはしかるべし。また\いか/なるおんめにかあふべきやらんとぞ、\あふせける。

あくる十三にち、\さきのうだいしやうむねもりのきやう、にふだうさうこくのていにゆきむかつて\ほふわうの\\おん-こと\をりふし\まをされ
ければ、にふだうさうこくやうやう\おもひなほつて、\ほふわうをば、\とばどのをだし\たてまつつて、\みやこへ\くわんぎよ\な
し\たてまつり、八でうからすまるのみふくもんゐんのごしよにぞおき\たてまつらる。いまみつかがうちのおん\よろこびとは、やすちかこれ
をぞかんがへ\まをしたりける。かかりける\ところに、\くまののべつたうたんぞう、ひきやくを\もつて、たかくらの
みやのごむほん/の\よしを、\みやこへ\まをしたりければ、\さきのうだいしやうむねもりのきやう\おほいにさわいて、\をりふしにふだうさう
こくは、ふくはらのべつけふに\おはしけるに、こ/の\よしをつげ\まをされたりければ、にふだうさうこくとるものも
とりあへず、\いそぎ\みやこへはせのぼり、まづたかくらのみやを\からめとつて、とさのはたへうつすべしと
ぞ\のたまひける。じやうけいには、三でうのだいなごんさねふさ、しきじは、とうのべんみつまさとぞ\きこえし。ぶし
にはげんだいふのはうぐわんかねつな、ではのはうぐわんみつなが、ひたかぶと\三百よき、みやのごしよへぞむかひける。そ
もこのげんだいふのはうぐわんは、三みにふだうのじなんなり。しかるを、このにんずにいれられけること
は、たかくらのみやのごむほんを、三みにふだうすすめ\まをされたり/と\いふことをば、へいけ\いまだしらざ
りける/に\よつてなり。

さる-ほど/に、みやは、さつきの十五やのくもまのつきをながめさせ\たまひて、なんの\ゆくへをも\おぼしめし

よらざりけるに、三みにふだうのししやとて、ふみ\もつていそがはしげにいできたり。みやのめのと
ご、六でうのすけのたいふむねのぶ、これ/を\とつ/て、\いそぎごぜんへ\まゐりひらいてみるに、きみのごむほんすで
にあらはれさせ\たまひて、とさのはたへうしつ\まゐらせんがために\六はらよりくわんにんどもが、べつたうせん
を\うけたまはつて、ただいまおんむかへに\まゐり\さふらふ。とうとうごしよをいでさせ\たまひて、\みゐでらへおちさせお
ばしませ、にふだうも\やがて\まゐり\さふらはんとぞ\かか/れたる。みやはこ/の\こと\いかがあらんずらんとおぼ
しめしわづらはせ\たまひて\おほきに\さわがせ\たまふ、ここにみやの\さぶらひに、ちやうべゑのぢようはせべののぶつらと
いふ\もの\あり。\をりふしごぜんちかう\さふらひけるが、すすみいでて、ただなんのやうも\さふらふまじ。にようばうしやう
ぞくにいでたたせ\たまひてとうとうぎしよをいださせ\たまふべうもや\さふらふらんと、\まをしければ、
このぎもつともしかるべしとて、おんぐしをみだり、かさねたるぎよいに、いちめがさをぞめされける。めのと
ごの六でうのすけのたいふむねのぶ、かさ\もつて\おん-とも/に\まゐる。つるまる/と\いふ\わらは、ふくろにものいれていたたい
たり。たとへば、せいしがじよをむかえへてゆくやうに、いでたたせ\たまひて、たかくらをきたへおちさ
せ\たまふ\ところに、\おほきなるみぞの\あり/けるを、いとものかるくこえさせ\たまへば、みちゆきびとがたち
とどまつて、はしたなきによばうのみぞのこえやうやと、あやしげにみ\まゐらせければ、いとど
あしばやにぞすぎさせ\おはします。ちやうびやうゑのぢようはせべののぶつらをばごしよのおるすにぞおかれけ
る。によばうたちにのせうせう\おはしけるを、かしこここにたちしのばせて、みぐるしきもの\あら/ば、と

りしたためんとてみる\ほど/に、さしもみやのごひざう\あり/けし、さえだと\きこえし\おん-ふえをば、ただ
いましもごしよのつねのおんまくらにとり\わすれさせ\たまひたるをぞ、たるちかへつてもとらまほしうや
\おぼしけん。のぼつら\これ/をみつけて、あなあさまし、さしもきみのごひざう\あり/し\おん-ふゑをと\まをして、
いま五ちやうがうちで、おつついて\まゐらせたれば、みや\なのめならずにぎよかん\あつ/て、われしなば、この
ふえをごぐわんにいれよとぞ\あふせける。さらば\なんぢ\やがて\おん-とも\つかまつれと\あふせければ、のぶつらかしこま
つて\まをしけるは、きみのごむほん\すでにあらはれさせ\たまひてとさのはたへ\うつし\まゐらせん
がために\六はらよりくわんにんどもが\ただいまおんむかへに\まゐり\さふらふなるに、ひと一にんも\さふらはざらんは、む
げにくちをしう\ぞんじ\さふらふ。そのうへあのごしよには、のぶつらが\さふらふと\まをすことをば、じやうげみなしられ
たることでこそ\さふらへ。こんや\さふらはざらんは、それもそのよはにげたりなんど\まをされんこと
くちをしかるべし。ゆみやとりは、かりにもなこそをしう\さふらへ。くわんにんどもに\しばらくあひしらひ
いつぱううちやぶつて、\やがて\まゐりさふはんとて、ただ\いちにんとつえかへす。のぶつらが、そのよのしやうぞく
には、うすあをのかりぎぬのしたに、もえぎにほひのはらまきをつけて、ゑふのたちをぞおびたりける。三でう
おもての\そうもんをもたかくらおもてのせうもんをも、\とも/にひらいてまちかけたり。あんのごとく\六はらより、げん
だいうのはうぐわんかねつな、ではのはうぐわんみつなが、ひたかぶと\三百よき、十五にちのよのねのこくに、みやのご
しよへぞむかひける。げんだいうのはうぐわんは、ぞんずるむねのありと\おぼえて、\はるかのもんぐわいにひかへたり。

ではのはうぐわんみつながは、うまにのりながらもん/の\うちへうちいれさせ、にはにひかへ、だいおんじややをあ
げて、みやのごむほん\すでにあらはれさせ\たまひて、とさのはたへ\うつし\まゐらせんがために、六ぱら
よりくわんにんどもがべつたうせんを\うけたまはつて、ただいまおんむかへに\まゐつて\さふらふ。とうとうごしよをいでさせ
\たまふべうもや\さふららんと\まをしければ、のぶつらおほゆかにたつて、たうじはごしよにも\ましまさず、
おんものまうで\さふらふぞ。\なにごとぞ、ことのしさいを\まをされよと\いひ/ければ、ではのはうぐわん、なんでうこのご
しよならでは、いづかたへか\わたらせ\たまふべかんなるぞ。そのぎならば、しもべども\まゐつてさがし\たてまつ
れとぞ\いひ/ける。のぶつらかさねて、ものも\おぼえぬくわんにんどもがものの\まをしやうかな。うまにのり
ながら、もん/の\うちへ\まゐるだにきつくわいなるに、しもべども\まゐつてさがし\たてまつれとは、\いかで\まをすぞ。
そのうへこのごしよにはちやうびやゑのぢようはせべののぶつらが\さふらふぞ、ちかうよつてあやまちすなとぞ\いひ/ける。
ちようのしもべ/の\なかに、かなたけ/と\いふだいちからのごうのもの、もえぎにほひのはらまきに三まいかぶとのををしめうち
もののさやをはらいて、のぶつらにめをかけて、おほゆかのうへへとびのぼる。これ/を\み/て、どうれいども
十四五にんぞつづ\いたる。のぶつらは、かりぬのおびひもひきつきつてすつるままに、ゑふのたちなれ
ども、みをば\こころえて、つくらせたるをぬきあはせて、さんざんにこそ\ふるまうたれ。てきはおほだち、
おおなぎなたにて\ふるまへども、のぶつらがゑふのたちに\あまりにつようきりたてたれて、あらしにこ
のはのちるやうに、にはへさつとぞちりたりける。さつき十五やの、くもまのつきのあらはれいでて

あかりけるに、てきはぶあんないなり。のぶつらはあんないしやにて\あり/ければ、あそこのつまりにお
つかけてははたときり、ここのつまりにおひつめてはてうときる。\いかでせんじの\おん-つかひ
を、かうはするぞと\いひ/ければ、せんじとはなんぞとて、たちゆがめば、をどりのき、おし
なほし、ふみなほし、たちどころによき\ものども十四五にんぞきりふせたる。そののち、たちの
さき三ずんばかりうちをつすててげり。はらをきらんとこしをさぐれども、さやまちおちてなか
りければ、ちから\およばず、おほでをひろげて、たかくらおもてのこもんよりをどりいでんとする\ところに、ここ
におほなぎなたもつたるをとこ一にんよりあふたり。のぶつらなぎなたにのらんととんで\かかるが、のりそん
じももをぬひさまにつらぬかれて、\こころはたけうすすめども、たいぜい/の\なかにとりこめられて、いけどり
にこそせられけれ。そののちごしよぢうをさがし\たてまつれども、みやは\わたらせ\たまはず。のぶつらばかり\からめ
とつて、\六はらへゐて\まゐる。\さきのうだいしやうむねもりのきやうおほゆかにたつて、のぶつらをおほにはにひつす
ゑさせ、あなわとのは\いかでせんじの\おん-つかひとなのるを、せんじとはなんぞとてきつたりけるぞ、
そのうへ、ちやうのしもめども、\おほくにんじやうせつがいしたんなれば、よくよくきうもんして、ことのしさいを\たづね
とひ、そののちかはらにひきいだいて、くびをはねよとぞ\のたまひける。のぶつらもとより\すぐれたるだいがう
のものなりければ、ちつともいろもへんぜず、わるびれたるけしきもなくゐなりあざわらつてまを
しけるは、この\ほど/のあのごしよを、よなよなもののうかがひ\さふらふを、なんでうことの\ある/べきと、おも

ひあなどうて、さしてようじんをもし\さふらはぬ\ところに、よなかばかりよろうたるものの、二三百きがほど
うちいつて\さふらふを、\なにごとぞと\たづねて\さふらへば、せんじのおつかひと\まをす。たうじはしよこくのせつたう、
がうたう、さんぞく、かいぞくなんど\まをすやつばらが、あるひはきんだちたちのいらせ\たまひたるは、あるひはせんじのお
つかひなんどなのるよしを、かねがね\つたへ\うけたまはつて\さふらひしの\あひだ、せんじとはなんぞとて、きつたる
\ざふらふ。およそもののぐをも\おもふさまに\つかまつり、かねよきたちをも\もつて\さふらはんには、ただいまのくわんにん
どもをば、よも\いちにんもあんをんにてはかへし\さふらふまじ。そのうへ、みやのあんざいしよはいづくに\わたらせ
\たまひ\さふらふやらん、しり\まゐらせぬ\ざふらふ。たとへしり\まゐらせて\さふらふども、もとより、さぶらひ\ほど/の
もののひとたび\まをさじと、\おもひきつてんことを、きうもんにおよんで、\まをすべきやうなしとて、そののちは
ものも\まをさず。おうなみゐたりける\へいけの\さぶらひども、あつぱれがうのものや、\これ-らをこそ\いちにん
たうぜんのつはものともいふべけれと、くちぐちに\まをしければ、その-うちにあるひとの\まをしけるは、あれが
かうみやうは、いまに\はじめぬことぞかし。せんねん\ところに\あり/しとき、おほばんじうの\ものどもが\とどめかねたりし
ごうたう六にんに、ただ一にんおつかかり、二でうゐのくまなる\ところに、しにんうちとり、二にんいけどり
にして、その-ときなされたりしさゑもんのぢようぞかし。あつたらをのこのきられんずることの、む
ざんさよと\いひ/ければ、にふだうさうこく\いかがは\おもはれけん。さらばなきつそとて、はうきのひ
のへぞ\ながされける。へいけ\ほろび、げんじのよにつて、のちかまくらへ\くだり、かぢはらへいざかげときにつ

いて、ことのこんげんかたり\まをしたりければ、かまくらどの、しんめうなりとかんじ\たまひて、のとのくににご
をんかうぶりけるとぞ\きこえし。

さる-ほど/に、みやはたかくらをきたへ、こんゑをひんがしへ、かも川を\わたらせ\たまひてによいやまへいらせお
はします。\むかし、きよみばらのてんわう、ぞくとにおそはれさせ\たまひて、よしのやまへいらせ\たまひける
にこそ、をとめのすがたをばからせ\たまひけるなれ。いまこのみやの\おん-ありさまも、それにはたがはせ\たまふ
べからず、\しら/ぬやまぢをよもすがら\はるばるとわきいらせ\たまふに、いつならはしの\\おん-ことなれ
ば、\おん-あしよりいづるちは、いさごをそめてくれなゐのごとし。なつくさのしげみがなかのつゆけさも、さこ
そは\ところせうもや\おぼしめされけめ。かくしてあかつきがたに、\みゐでらへいらせ\おはしまし、しうと
をたのんでじゆぎよありと、\あふせければ、だいしう\おほきにかしこまり\よろこんで、ほふりんゐんにごしよをしつらひ、
かたのごとくのぐごしたためて\まゐらせけり。

そのころこんゑがはらに\さふらはれけるげん三みにふだうよりまさは、としごろひごろもあればこそ\あり/けめ、こ

とし\いか/なる\こころにて、むほんをばおこされけるぞ/と\いふに、\ひとへに\へいけのじなんむねもりのきやうの、ふ
しぎ/の\ことをのみし\たまひける/に\よつてなり。さればひとのよにあればとて、そぞろにいふまじ
きことをいひ、すまじきことをのみするは、よくよくしりよ\ある/べきものなり。たとへば、三
みにふだうよりまさのちやくし、いづのかみなかつなのもとに、くぢうに\きこえたるめいば\あり。かげなるうまのならび
なきいちもつ、のりわしり\こころむけ、よに\ある/べしとも\おぼえず。なをばこのしたとぞ\まをしける。
\さきのうだいしやうむねもりのきやう、\この\よしを\つたへきき\たまひていづのかみのもとへししやをたて、それに\きこえ\さふら
ふめいばをた\もつてみ\さふらはばや、と\のたまひつかはされたりければ、いづのかみのへんじに、さるうま
を\もつて\さふらひつるを、このほど\あまりにのりつからして\さふらふ\ほど/に、\しばらくいたはしせんがために、
でんじやへつかはして\さふらふと\まをされたりければ、このうへは\ちから\およばずとて、そののちはさたも\なかり
けるが、おうなみゐたりける\へいけの\さぶらひども、あつぱれそのうまはおととひも\さふらひつ、きのふも
みて\さふらふ、けさもにはのりし\さふらひつるなんどくちぐちに\まをしければ、むねもりのさてはをしむござ
んなれ、にくし、こへとて、さぶらひしてはせさせ、ふみなんどにても、ひとひがうちにも、五六たび
七八たびなんぞ、こはれける。三みにふだういづのかみのもとにゆいて、たとへこがねをまろめたるうまなり
とも、あれほどひとのこはうずるに、をしむべきやうやある。そのうますみやかに\六はらへつかはせとのたま
へば、いづのかみ\ちから\および\たまはず、いつしゆのうたをかきそへて、\六はらへつかはさる。

こひしくばきてもみよかしみにそふるかげをば\いかがはなちやるべき
むねもりのきやう、まづうたのへんじをばし\たまはで、あつぱれ、うまは\まことによいうまにて\あり/けり。さ
れどもぬしがをしうたるが\あまりにくきに、ぬしがなのりをかなやきにせよとて、なかつな/と\いふかなやきをし
て、うまやにこそたてられけれ。まろうどきたつて\きこえ\さふらふめいばをみ\さふらはばやと、\まをしければ、
むねもりのきやうそのなかつなめにくらおけ、ひきいだせ、のれ、うて、はれなんとぞ\のたまひける。い
づのかみ\この\よしを\つたへきき\たまひて、なかつながみにかへて\おもふうまなれども、けんゐについてとら
るるさへあるに、あまつさへうまゆゑなかつながてんがの\わらはれぐさとならんずることこそやすからねとて、
おほひに\いきどほられければ、三みにふだう\のたまひけるは、なんでうことの\ある/べきと\おもひあなどつて、へいけ
の\ひとどもが、さやうのしれごとをするにこそあんなれ、さりながらも、びんぎをこそうかがはめと
\のたまひけるが、わたくしには\おもひもたたれず、のちにはたかくらのみやをすすめ\まをされけるとぞ、\きこえ
し。これにつきてもてんがのひと、\こまつのおとど/の\ことをのみしのび\まをさぬは\なかりけり。あるときおと
どさんだいのついでに\ちうぐうの\おん-かたへ\まゐらつさせ\たまふに、八しやくばかり\あり/けるくちなはが、おとどのさしぬき
のひだんのりんをはひまはりけるを、しげもり\さわがはによばうたちもさわぎ、\ちうぐうも\おどろかせ\たまひなんずとて
ひだんのてにてををおさへ、みぎのてにてかしらを\とつ/て、なほしのそで/の\なかへひきいれ、ちいたつて、
ちうもんにいで、六ゐや\さふらふ六ゐや\さふらふとめされければ、いづのかみなかつな、その-ときは\いまだようの

くらんどにて\さふらはれけるが、なかつなとなのりて\まゐられたるに、\これ/を\たまふ。\たまはつて、ゆばでん
をへて、でんじやうのこにはにいでつつ、みくらのこどりをめして、これ\たまはれと\のたまへば、\おほきに
かしらをふてにげさりぬ。ちから\およばず、わがらうどうきほふをめして\これ/をたふ。\たまはつてすててんげり。
そのあした\こまつどのよりよいうまによいくら\おいて、いづのかみのもとへつかはさるとて、さてもきのふのふる
まひこそ、いうにやさしう\おぼえ\さふらへ。\これ/はのりいちのうまにて\さふらふぞ。ゆふべにおよんで、ぢんげより
けいせいのもとへかよはれんとき、もちゐるべしとて、つかはさる。いづのかみ、だいじんのごへんじなれば、おん
うま\かしこまつて\たまはり\さふらひぬ。さてもきのふの\おん-ふるまひこそ、\ひとへにげんじやうらくにはにて\さふらひしか、
とぞ\まをされける。\いか/なれば\こまつどのは、かやうにいうなるためしも\おはせしぞかし。このむねもり
のきやうはさこそ\なからめ。ひとのをしむうまこ\ひとつて、あまつさへてんがのだいじに\およびぬるこそ、うた
てけれ。\おなじき十六にちのよにいつて、げん三みにふだうよりまさ、ちやくしいづのかみなかつな、じなんげんだい
ふのはうぐわんかねつな、六でうのくらんどなかいへ、そのこくらんどたらうなかみついか、ひたかぶと\三百よき、やかたにひか
けやき-あげ/て、\みゐでらへこそはせたりけれ。ここに三みにふだうのとしごろのらうどうにわたなべのげん
さぶきほふのたきぐち/と\いふ\もの\あり。はせおくれてとどまつたりけるを、\六はらへめして、など\なんぢはさう
でんのしゆ、三みにふだうがともをばせでとどまつたるぞと\のたまへば、きほふ\かしこまつて\まをしけるは、ひごろ
はしぜん/の\ことも\さふららはば\いのちをばまつさきに\たてまつるとこそぞんぜしが、こんたひは\いかが\さふらひけるやら

ん、かうとも\しらせられざる\あひだ、とどまつて\さふらふと\まをす。むねもりのきやう、これにもまたげんざんのもの
ぞかし。せんどこうえいをそんじて、たうけにいいてほうこうせうとや\おもふ。またてうてきよろまさほふしにどうしんせ
んとや\おもふ。ありのままに\まをせと\のたまへば。きほふ、\なみだをはらはらとながいて、たとへさうでんの
よしみ\さふらふとも、いかんがてうてきとなれるひとに、どうしんをば\つかまつるべき。ただでんちうにほうこう\さふらふ、
とぞ\まをしける。たいしやうさらばほうこうせよ、よりまさほうしがしけんをんには、ちつともおとるまじきぞ
とて、いり\たまひぬ。やや\あつ/てきほふはあるか、\さふらふ、あるか、\さふらふとて、そのひはあしたよ
りゆふべに\およぶまでしこうす。ひもやうやうかたむければ、たいしやうどのいでられたり。きほふ、\かしこまつてまを
しけるは、\まことや三みにふだうどの、\みゐでらにと\きこえ\さふらふ。\さだめてうつてなんどもやむけられ\さふら
はんずらん。\こころにくうも\さふらはず、三ゐにふだうの一るゐ、わたなべたう、さては\みゐでらほふしにてぞ\さふら
はんずらん。えりうちなんど\つかまつるべきに、のつてことにあふべきうまを\もつて\さふらひつるを、
このほどわたなべのしたしいやつにぬすまれて\さふらふ、しかるべきおんうまいつぴきくだしあづかり\さふらはばやと\まをしけ
れば、むねもりのきやうこのぎもつともしかるべしとて、しろあしげなるうまのなんれうとて、ひざうせられたり
けるに、よいくら\おいてきほふにたぶ。\たまはつてしゆくしよに\かへり、はやひのくれよかし、\みゐでら
へ\はせ-まゐり、にふだうどののまつさきかけて、うちじにせんとぞ\まをしける。ひもやうやうくれければ、
さいしどもをば、かしこここにたちしのばせて、\みゐでらへといでたちける。\こころ/の\うちこそむざん

なれ、ひようもんのかりぎぬにきくとぢおほらかにしたるに、ぢうだいのきせなが、ひおどしのよろひきて、ほししろのかぶと
のををしめ、いかものづくりのたちをはき、二十四さいたるきりうのやおひ、たきぐちのこつぽふ\わすれ
じや、たかのはではいだりけるまとや、ひとてぞさしそへたる。しげどうのゆみわきにはさみなんれうにう
ちのりのりかへいつきうちぐせさせ、とねりをとこにもちたてわきんばさませ、やかにひかけやき-あげ/て、み
ゐでらへこそはせたりけれ。\六はらには、ただいましもきほふがやかたよりひいできたりとて、ものど
も\おほくひしめきけり。むねのりのきやう\いそぎいで、きほふはあるか、\さふらはずと\まをす。すはきやつめを、
てのびにしてたばかられぬるは、さぶらひどもおつかけてうてと\のたまへども、きほふは\きこゆるだいぢから
のがうのもの、くつきやうのやつぎばやのてききなりければ、二十四さいたる、やで、まづ二十四
にんはいころされなんず。よしよしおとなせそとて、つづくものこそ\なかりけれ。\みゐでらには、
ただいましも三みにふだうの一るゐわたなべたうよりあひ\たまひて、きほふがさた\あり/けり。\いか/にもして、
このきほふをば、めしぐせられ\さふらはんずるものを\いか/なるうきめにかあひ\さふらはんずるとて、
くちぐちに\まをされければ、三ゐにふだう\のたまひけるに、きほふはむなしうとらへ\からめられはよもせじ、にふ
だうの\こころざしふかきものなれば、そのものいまみよ\ただいまに\まゐらうずるぞと、\のたまひもはてぬに、きほふつ
と\まゐりたり。さればこそとぞ\のたまひける。きほふ、\かしこまつて\まをしけるは、いづのかうのとのの
この\したがかはりに\六はらのなんれう\とつ/て\まゐつて\さふらふ。\まゐらせ\さふらはんとて\たてまつる。いづのかみ\なのめならず

に\よろこび、\やがてをがみをきり、かなやきをして、つぎのよ\六はらへつかはさる。やはんばかりもの/の\うち
へおひいれたりければ、うまやにいつて、うまどもくひあひなんどしけり。その-ときとねり\おどろい
て、なんれうが\まゐつて\さふらふと\まをしければ、むねもりのきやう\いそぎいでみ\たまふに、\むかしはなんれう、いまはたひら
のむねもりにふだう/と\いふ、かねやきをこそしたりけれ。にくいきほふめをてのびにして、たばかられぬること
こそやすからね。こんど\みゐでらへよせたらんにはまづ、\いか/にもしてこのきほふめをいけどりにせ
よ、のこぎりでくびきらんとをどりあがりあがり\のたまへども、なんれうがをかみものびず、かなやきもまたうせ
ざりけり。

さる-ほど/に\みゐでらには、かいがねならいてだいしうせんぎす。そもそもきんじつ、せしやうのていをあんずる
に、ぶつぽふのすゐび、わうぽふのろうろう、まさに\この\ときにあたれり。こんどにふだうのばうあくをいましめんずんば、
いづれのひをかごすべき。\みやここににふぎよの\\おん-こと、しやう八まんぐうのゑいご、しんらだいみやうじんのみやうぢよに
\あら/ずや。てんしうちるゐもえうがうをたれ、しんりよくぶつりよくもかうぷくをくはへ\ましますこと、などかなから
ん。なかんづく、ほくりやうは、えいかうゑんしう一みのかくち、なんとはげらふとくどのかいぢやうなり。てうそうの\ところに、
などかくみせざるべきと、一みどうしんにけんぎして、やまへもならへも、てうじやうをこそ\おくりけ

る。まづ\さんもんへのじやうにいはく、ゑんじやうじてうす、えんりやくじのが、ことにがふりやくをいたして、たうじの
はめつをたすけられんと\おもふじやう、みぎにふだうじやうかい、ほしいままにぶつほふをはめつし、わうはふをみだらんとす。
しうたんきはまりなき\ところに、さんぬる十五にちのよ、一ゐだい二の\わうじ、ふりよのなんをのがれんがため
に、ひそかににふじせしめ\たまふ。ここにゐんせんとがうして、いだし\たてまつるべき\よし、しきりにせめありとい
へども、いだし\たてまつるにあたはず。よつてくわんぐんをはなちつかはさるべきむね、その\きこえ\あり。たうじの
はめつ、まさに\この\ときにあたれり。しよしうなんぞしうたんせざらん。なかんづく、えんりやくをんじやうのりやうじは、もん
ぜきふたつにあひわかると\いへ/ども、がくする\ところはこれゑんとん一みのけうもんに\おなじ。たとへばとりのさうの
つばさのごとく、また\くるまのふたつのわににたり。いつぱうかけんに\おいては、\いかでかその\なげきなから
ん、ていれは、ことにがふりよくをいたして、たうじのはめつをたすけるべくは、はやくねんらいのゐこんをわす
れ、ぢうざんの\むかしにかへさん。しうとのせんぎかくのごとし。よつててうそうくだんのごとし。ぢしよう四ねん五ぐわ十八
にち、だいしうとうとぞかきたりける。

\さんもんのだいしう、このじやうをひけんして、こは\いか/に、たうざんのまつじにてありながら、とりのさいう
のつばさのごとく、また\くるまのふたつのわににたりと、おさへてかくでう、これ\もつてきつくわいなりとて、へんてう

にも\およばず、そのうへにふだうさうこく、てんだいさすめいうんだいそうじやうに、しうとをしづめらるべき\よし\のたまへば
ざす\いそぎとうざんして、たいしうをしづめ\たまふ。かかりしかば、みやの\おん-かたへは、みやの\おん-かたへは、ぶぢやう/の\よしをぞまを
しける。またにふだうさうこくの\はかりごとに、あふみごめの二まんごく、ほくこくのおりのべきぬ三千ひき、わうらい/の\ためにと
て\さんもんへよせらる。\これ/をたにだにみねみねへひかれけるに、\おもひもまうけぬにはかごとでは\あり、いち
にんして\あまたをとるだいしうも\あり、またてをむなしうして\ひとつもとらぬしうとも\あり、なにもののしわざ
にや\あり/けん、らくしよをぞしたりける。
やまぼふしおりのべごろもうすくしてはぢをばえこそかくさざりけれ。
またきぬにもあたらぬたいしうのよみたりけるにや。
をりのべをひときれもえぬ\われらさへうすはぢをかくかずにいるかな。
なんとへのじやうにいはく
をんじやうじてうす、こうふくじのが、ことにがふりよくをいたして、たうじのはめつとをたすけられんとこふじやう、
みぎぶつぽふのしよしようなることは、わうはふをまぼらんがために、わうはうまたちやうきうなることは、\すなはちぶつぽふによ
る。ここに\さきのだいじやうだいじんたひらのあそんきよもりこう、はふみやうじやうかい、ほしいままにこくゐをひそかにし、てうせいをみだらら
んとす、ないにつけげにつけ、うらみをなし\なげきをなす\あひだ、こんぐわ十五にちのよ、一ゐんだい二の\わうじ、
ふりよのなんをのがんがために、にはかににふじせしめ\たまふ。ここにゐんせんとがうしていだし\たてまつるべきむね

しきりにせめありと\いへ/ども、いだし\たてまつるにあたはず、しうといつかう\これ/ををしみ\たてまつつる、よ
つてかのぜんもん、ぶしをたじをいれんとほつす。ぶつぽふ/と\いひ、わうはふ/と\いひ、一じにまさには
めつせんとす。\むかしのから\むかしながらのゑしやうてんし、ぐんびやうを\もつてぶつぽふをほろぼさしめしとき、しやうりやうぜんのしう、かつせん
をいたして\これ/をふせぐ。わうけんなほかくのごとし。いはんやむはん八ぎやくのやからに\おいてをや。たれのひとかきようせいす
べきぞや。なかんづく、なんきゃうはれいなくして、つみなきちやうじやをはいるせらる。\この\ときに\あら/ずば、いづれ
のひかくわいけいをとげん。ねがはくは、しうとないにはぶつぱふのはめつとをたすけ、げにはあくぎやくのばんるゐをしりぞ
ければ、どうしんのいたり、本くわいにたんぬべし。しうとのせんぎかくのごとく、よつててうそうくだんのごとし。
ぢしよう四ねん五ぐわ十八にち、だいしうらとぞかきたりける。

なんとのだいしう、このじやうをひけんして、一みどうしんにせんぎして、へんてうをこそ\おくりけれ。そのへんてう
にいわく、こうぷくじてふす。ゑんじやうじのが、らいてふいつしにのせられたり。みぎにふだうじやうかいがために、
きじのぶじぽふをほろぼさんとする/の\よし/の\こと、てふす。ぎよくせん、ぎよくくわ、りやうくわのしうぎを\たつといへ
ども、きんしやうきんく、\おなじう一だいのきやうもんよりいでたり。なんきやうほくきやう\とも/に\もつて、によらいのでし
たり。じじたじたがひにてうたつがましやうをふくすべし。そもそもきよもりにふだうは、へいしのそうかう、ぶけ

のぢんかいなり。そふまさもり、くらんど五ゐのいへにつかへて、しよこくじゆりやうのむちをとる。\おほくらきやうためふさ、
かしうししのいにしへ、けんびしよにほし、しうりのだいぶあきすゑ、はりまのたいしゆたつし\むかし、うまやのべつたうしきに
にんず。しかるをしんぶただもりしようでんを\ゆるされしとき、とひのらうせうみなはうこのかきんををしみ、な\いげのえい
かう\おのおのばたいのしんもんになく。ただもりせいうんのつばさをかいつくろふと\いへ/ども、よのたみなほはくおくのたねをかろん
ず。なをしむせいし、そのいへをのぞむ\こと\なし。しかるを、さんぬるへいぢぐわんえん十二ぐわ、だいじやうてんわう、
いつせんのこうをかんじて、ふじのしやうをさづけ\たまひしより\この-かた、たかくさうこくに\のぼり、かねてひやうじやうを
\たまはる。なんしあるひはだいかいをかたじけなううしあるひはうりんにつらなり、によじあるひは\ちうぐうしきにそなはり、あるひはじゆんこう
のせんをかふむる。ぐんていしよし、みなきよくろに\あゆみ、そのまご、かのをひ、ことごとくちくふをさく。しかのみならず、
九しうをとうりやうし、はくしをしんだいして、ねびみなぼくじうとす。一まう\こころにたがへば、わうこうと\いへ/ども
\これ/をとらへ、へんげんみみにさからふれば、\くぎやう/と\いふも、\これ/をからむ。これ/に\よつて、かつうはいつたん
のしんみやうをのべんがなため、かつうはへんしのれうじよくをのがれんとおもうて、ばんじようのせいしゆなほめんてんの
こびをなし、ぢうだいのかくんかへつてしつかうのれいをいたす。だいだいさうでんのかりやうをうばふと\いへ/ども、じやう
さいも\おそれてしたをまき、みやみやさうじやうのしやうゑんをとると\いへ/ども、けんゐにはばかつてものいふことな
し。かちにのる\あまり、きよねんのふゆ十一ぐわ、だいじやうくわうのすみかをつゐふし、はくりくこうのみをおしなが
す。ほんぎやくのはなはだしきこと、\まことにここんにたえたり。その-とき\われらすべからくぞくしうにゆきむかつて、

そのつみをとふべしと\いへ/ども、あるひはしんりよにあひはばかり、あるひはりんげんとしようずる/に\よつて、うつたうを
おさへてくわういんをおくる\あひだ、かさねてぐんびやうをおこして、一ゐんだい二のしんわうぐうをうちかこむ\ところに、八まん
三しよ、かすがのだいみやうじん、ひそかにえいがうをたれ、\おのおのせひつをささげ、きじに\おくりつけて、しんらの
とびらにあづけ\たてまつらる。はふわうつくべからざるむねあきらけし。\したがつてきじしんめいをすてて、しゆご
し\たてまつるでう、がんじきのたぐゐ、たれかずゐきせざらん。\われらゑんにきに\あつ/て、そのじやうをかんずる\ところに、きよ
もりこうなほぎへいをおこして、きじにいらんとほつするよし、ほのかに\つたへ\うけたまはる/に\よつて、かねて
よういをいたす。十八にちたつのいつてんにだいしうをかたらひ、しよじにてつそうし、まつじにげぢして、ぐん
しをえてのち、あんないをけいせんとする\ところにせうてうとびきたつてはうかんをなげたり。すうじつのうつねん一
じにげさんす。かのたうかせいりやういちさんのひつしゆ、なほぶそうのくわんぺやうをかへす。いはんやわこくなんぼくりやうもんのしうと、
なんぞぼうしんのじやるゐをはらはざらん。よくりやうゑんさうのぢんをかためて、よろしく\これ-らのしんぱつのつげを
まつべし。じやうをさつして、ぎだいをなすことなかれ。\もつててつす。くだんのごとし。ぢしようしねん五ぐわ
二十一にち、だいしうらとぞかきたりける。

さる-ほど/に\みゐでらにはかいがねならいて、だいしうまたせんぎす。そもそも\さんもんは\こころがはりしつ。なんとはいま

だ\まゐらず。\この\ことのびてはあしかりなん。いざやこよひ\六はらへおしよせて、ようちにせん。
そのぎならば、らうせうふたてに、あひわかつて、らりそうどもは、によにがみねより\からめてむかふべし。
まづあしがるをさきだてて、しらははのざいけにひをかけやきあげば、ざいきやうにん\六はらのぶしども、
あはやこといできたりとて、はせむかはんずらん。その-ときいはさか、さくらのもとへんにしてしんばしささへて、
ふせぎたたかはんまに、おほてにまつさかよりいづのかみをたいしやうぐんとして、わかたいしう、あくそうどもは\六はら
におしよせ、かざかみにひかけやきあげ、ひともみもうでせめんに、などかだいじやうにふだう、やきいだし
てうたざるべき、とぞせんきしたりける。ここに\へいけの\いのりしける一によばうのあじやりしんかいは、
でしどうしゆくすう十にんひきぐして、せんぎのにはにすすみいでて、かやうに\まをさば\へいけのかたうど\つかまつる
とや\おぼしめされ\さふらふらん、そのぎにては\さふらはず。たとへさ\さふらふとも、\いかでかしうとのぎを
もやぶり、わがてらのなをもをしまで\さふらふべき。\むかしはげんぺいさうにあらそひて、てうけの\おん-かためたりしか
ども、ちかごろはげんじのうんつき、へいけよを\とつ/て二十よねん、てんがになびかぬくさきも\さふらはず。
さればうちうちのたちの\ありさまも、せうせいにてはたやすうかなひがたし。ほかによくよく\はかりごとをめぐらし、せい
を\もよほして、ごじつによせらるべうもや\さふらふらんと、ほどをのばさんがために、ながながとこそせん
ぎしたりけれ。ここにじようゑんばうのあじやりけいしうは、ころものしたにはらまきをきて、\おほきなるうちだちまへだれ
にさしほだれ、しらえのなぎなたつゑにつき、だいしう/の\なかをおしわけてせんぎのにはにすすみいで、しよう

こをほかにひくべからず。わがてらのほんぐわん、てんむてんわう\いまだとうぐうのおとき、おほともの\わうじにおそはれ
させ\たまひて、よしののおくへにげこもらせ\たまひしが、やまとのくにうたのこほりをすぎさせ\たまひしには、
そのせいわづかに十七き、されどもいがいせにうちこえ、みのをはりのぐんびやうを\もつて、おほとものわう
じをほろぼして、\つひにくらゐにつかせ\たまひにき。きうてうふ\ところにいる、じんりん\これ/を\あはれむ/と\いふほんもんなあ
り。じよはしるべからず、けいうがもんとに\おいては、こよひは\六はらにおしよせて、うちじにせ
よとぞせんぎしたりける。ゑんまんゐんたいうげんがくすすみいでてせんぎはしおほし。ただよのふくるに、
いそげやすすめとぞ\いひ/ける。まづ\からめてむかふらうそうどものたいしやうぐんには、げん三みにふだうよりまさ、じよう
ゑんばうのあじやうりけいしう、りつじやうばうのあじやりにちいん、そつのほふいんぜんち、ぜんちがでしぎはう、ぜんにようをさき
として、つがうそのせい\一千にん。てんでにたいまつ\もつて、によいがみねへぞむかひける。おほでのたいしやう
ぐんには、いづのかみなかつな、げんだいうのはうぐわんかなつな、六でうのくらんどなかいへ、そのこくらんどたらうなかみつ\いげ、
だいしうには、ゑんまんゐんのたいふげがく、りつじやうばうのいがのきみ、じやうきゐんのあらどさ、ほふりんゐんのおのどさ、
\これ-らは\ちからのつよきゆみやうちもの\とつ/ては、\いか/なるおににもかみにもあふどいふ、いちにんたうせんのつはもの
んり。びやうとうゐんには、いなばのりつしやかうだいぶ、すみの六らうばう、しまのあじやり、つつゐほふしに、きやうの
あじやり、あくせうなごん、きたのゐんには、こんぐわうゐんの六てんぐ、しきぶたいふ、のと、かが、とさ、びん
ごらなり。まつゐのひんご、ぢやうゐんなんのちくご、がやのちくぜん、おほやのとしなが、五ちゐんのたじま、じやう

ゑんばうのあじやりけいしうがばうにん、六十にん/の\うち、かがのく\わうじやう、ぎやうぶ、しゆうしう、ほふしばらには一らいほふし
にしかざりき。だうしうには、つつゐのじやうみやう、めうしう、をごらのそんぐわつ、そんえう、じけい、らくじう、かねこぶし
のげんによう、ぶしには、わたなべのはぶく、はりまのじらうさづく、さつまのひやうゑちやうしちきほふのたきぐちとなふ、あたふのう
まのぜう、つづくのげんた、きよし、すすむをさきとして、たがふそのせい\一千五百よにん、\みゐでらをこそうつ
たちけれ。てらにはみやいらせ\たまひてのち、おほぜきこぜきほりきり、かいだてかき、さかもぎひいたり
ければ、ほりにはし\わたし、さかもぎとりのけなんどしける\ほど/に、じこくおし\うつつてせきぢのとり
なきあへり。いづのかみ\のたまひるは、ここにてとりないては、\六はらへははくちうにこそよせ
んずらめ。\いかがせんと\のたまへば、ゑんまんゐんのたいふげんかく、すすみいでて、\むかし、しんのせうわう、もうしやう
くんをめしいましめられしとき、\きさき/の\おん-たすけ/に\よつて、つはもの三千にんをひきぐしてにげのがれけるが、
ほどなくかんこくくわんにいたりぬ。いこくの\ならひに、とり/の\なかぬ\かぎりは、せきのとをひらく\こと\なし。
かのもうしやうくん、三千にんのかく/の\なかに、てんかつ/と\いふつはもの\あり。にはとりのなくまねを\あり-がたうしけれ
ば、なをけいめいとぞ\まをしける。かのとりなき\たかき\ところに\はしりあがつて、とりのなくまねをゆゆしう
したりければ、せきぢのとりききつたへてみななきあへり。その-ときせきもりとりのそらねにばかされて
せきのとをあけてぞとほしける。さればこれもてきの\はかりごとにやなかすらん。ただよせよやとぞまを
しける。さつきのみぢかよなれば、ほのぼのとぞあけにける。いづのかみ\のたまひけるば、ようちに

こそさりともと\おもひつれ、ひるいくさには\いか/にもかなふべからず。あれよびかへせとて、おほて
はまつざかより\とつ/てかへし、\からめてはによいがみねよりひきかへす。わかたいしう、あくそうどもは、\これ/は一
ぢよばうがながせんぎにこそよはあけたれ。そのばうきれとて、おしよせてばうをさんざんにきる。しん
かいがたのむ\ところのでし、どうしゆく、みなうたれにけり。わがみておひからき\いのちいきつつ、はふはふ六
はらへ\まゐつて、\この\よしかくと\まをしけれども、\六はらには、へいすう千きはせあつまつて、ちつとも
さわぎ\たまふ\ここちもし\たまはず、さる-ほど/にみやは、\さんもんは\こころがはりしつ、なんとは\いまだ\まゐらず。この
てらばかりにては、\いか/にもかなはせ\たまふべからずとて、\おなじき二十三にちのあかつきがたに、みゐ
でらをいでさせ\たまひてなんとへおちさせ\おはします。このみやは、せみをれ、さえだとて、かんちくのふゑ
をふたつもち\たまへり。なかにもせみをれは、\むかしとばゐんの\おん-とき、そうてうのみかどへしやきんを\おほく\まゐらつ
させ\たまひたりしかば、へんぱうと\おぼしくて、いきたるせみのごとくに、ふしのつきたるふえたけをひと
よ\まゐらつさせ\たまひけり。これ-ほど/のてうほうを、いかんがさうなくほらすべきとて、\みゐでらの
だいしんのそうじやうかくしうにおほせで、だんじやうにたて、しちにちかぢしてゑらせ\たまへる\おん-ふえなり。あるときたか
まつのちうなごんさねひらのきやう\まゐつて、この\おん-ふえをふかけれけるに、よのつねのふえのやうに\おもひ\わすれて、ひざ
よりしたにおかれたりければ、ふえやとがめけん、その-ときせみをれにけり。さてこそせみをれとはめ
されけれ。このみやふえのおんきりやうたる/に\よつて、ごさうでん\あり/けるとかや。されどもいまを\かぎりと

や\おぼしめされけん。こんだうのみろくへ\まゐらつさせ\たまひけり。りうげのあかつき、ちぐの\おん-ためかとおぼ
しくて、\あはれなりし\ことどもなり。さる-ほど/にみやは、らうそうどもにはみないとまたまうで、とどめさせ\おはし
ます。わかだいしう、あくそうどもはみな\まゐりてけり。三みにふだうの一るゐ、わたなべたう、\みゐでらのたいしうめし
ぐして、つがふそのせい\一千にんとぞ\きこえし。ここにじやうゑんばうのあじやりきよしうは、はとのつえにすがり、
みやのおんまへに\まゐり、らうがんより\なみだをはらはらとながいて、いづくまでも\おん-とも\つかまつるべう\さふらひしか
ども、とし\すでに八じゆんにたけて、かうほにかなひがたう\さふらへば、でしで\さふらふぎやうぶばうしゆうしうを\まゐらせ
\さふらふ。\これ/はひととせへいぢのかつせん/の\とき、こさまのかみよしともがてに\さふらひて、六でうがはらにてうちじにし\さふら
ひし、さがみのくにのぢうにんやま/の\うちのすどうぎやうぶのじようとしみつがこにて\さふらひしを、いささかゆかりの\さふら
ふ/に\よつて、この二十よが\あひだあとふ\ところにておほしたてて、\こころのそこまでもよくしつて\さふらふ、
いづくまでもめしぐせられ\さふらへとて、\なみだをおさへておとどまりぬ。みやも\あはれに\おぼしめしていつ/の\よしみ
にかはかくは\まをすらめとて、\おん-\なみだせきあへさせ\たまはず。

さる-ほど/に、みやはうぢとてらとの\あひだにて、六どまでおんらくば\あり/けり。\これ/はさんるうよ、ぎよ
しんならざりしゆゑなりとてうぢばし三げんひきはづしべやうとうゐんにいれ\たてまつつて、\しばらくごきうそくあり

けり。\六はらには、すはや\みやこそなんとへおちさせ\たまふなれ。おつかけてうち\たてまつれやと
て、たいしやうぐんには、さひやうゑのかみとももり、とうのちうじやうしげひら、さつまのかみただのり、さむらひだいしやうには、かづ
さのかみただきよ、そのこかづさのたらうはうぐわんただつな、ひだのかみかげいへ、そのこひだのたらうはうぐわんかげたか、かは
ちのはうぐわんひでくに、たかはしはうぐわんながつな、むさしのさゑもんありくに、ゑつちうのじらうびやうゑもりつぐ、かづさの
五らうびやうゑただみつ、あく七びやうゑかげきよをさきとして、つがふそのせい二まん八千によき、こばたやまうちこえて、
うぢばしのつめにぞおしよせたる。かたきびやうとうゐんにとみてんければ、ときをつくること三がたびなり。
みやの\おん-かたにも、\おなじうときのこゑをぞあはせたり。せんぢんがはしをひいたるぞ、あやまちすな、はしをひ
いたるぞ、あやまちすなとぞよみけれども、こうぢんなは\これ/をききつけず、われさきにわれさきにとすすむ\あひだ、
せんぢん二百よきおしおとされてみづにおぼれてうせにけり。さる-ほど/に、はしのりやうはうのつめに、うち
たつてやあばせす。みやの\おん-かたよりおほやのとしなが、五ちゐんのたじま、わたなべのはぶく、さづく、つづくのげんた
がいけるやぞ、たてもたまらず、よろひもかけずとほりにけり。げん三みにふだうよりまさは、けふをさい
ごとや\おもはれけん、ちやうけんのよろひひたたれにしながはおどしのよろひきて、わざとかぶとをばき\たまはず、ちやくしい
づのかみなかつなは、あかぢのにしきのひたたれにくろいとおどしのよろひきて、ゆみをつようひかんがために、これもかぶと
をばきざりけり。ここに五ちゐんのたじま、おほなぎなたのさやをはづいて、ただ\いちにんはしのうへにぞすすん
だる。へいけのかたにはこれ/を\み/て、ただいとれや、いとれとてさしつめひきつめ、さんざんにい

けれども、たじま\すこしも\さわがず。あがるやをばついくぐり、さかるやをばをどりこえ、むかつて
くるをばなぎなたにてきつておとす。てきもみかたもけんぶつす。それよりしてこそやきりのたじまとは
いはれけれ。まただうしう/の\なかに、つつゐのじやうめうみやうしうは、かちのひたたれにくろいとおどしのよろひきて、五まいかぶと
のををしめ、こくしつのたちをはき、二十四さいたるくろぼろのやおひ、ぬりごめどうのゆみに、この
むしらえのおほなぎなたとりそへて、これもただ\いちにんはしのうへにぞすすんだる。だいおんじやうを\あげ/て、とほか
らんひとはおとにもきけ、ちかくはめにもみ\たまへ。\みゐでらにはかくれ/も\なし。だうじう/の\うちにつつゐ
のじやうめうめうしうとて、いちにんたうぜんのつはものぞや、へいけの\おん-かたにわれと\おもはん\ひとびとは、よりあへや、
げんざんせんとて、二十四さいたるやを、さしつめひきつめさんざんにいる。やにはにかたき十一にん
いころし、十二にんにておうせたれば、えびらに\ひとつぞのこつたる。そののちゆみをばからとなげすて、
えびらもといてすててげり。つらぬきぬいではだしになり、はしのゆきけたをさらさらさうと\はしりけり。
ひとは\おそれて\わたらねども、じやうめうばうが\ここちには、一でう二でうのおほぢとこそ\ふるまうたれ。なぎなた
にてむかふてき五にんなぎふせ、六にんにあたるかたきにあひて、なぎなたなかよりうちをつてすててげり。
そののちたちをぬいてきつてまはるに、くもで、かくなは、十もんじ、とんぼがへり、みづぐるま、はつぱうすか
さずきつたりけり。むかふかたき八にんきりふせ、九にんにあたるてきが、かぶとのはちに\あまりにつよううち
あて、めぬきのもとよりちやうとをれ、ぐつとぬけてかはへざんぶといりにける。たのむ\ところはこし

がたな、しなんとのみぞくるひける。じやうめばうはいたで\あまたおひはうはうかへると\こころにここにじようゑんばうのあ
じやりきやうが\めしつかひける、いちらいほふし/と\いふだいりきのがうのもの、じやうみやうばうがあとにつづいてたたかひけ
るが、ゆきけたはせまし、そばとほるべきやうはなし、じやうめうばうがかぶとのてさきにてを\おいて、あしう\さふら
ふじやうめうばうとて、かたをづんとをどりこえてぞたたかひける。一らいほふしうちじにしてんけり。そののちじやう
めうばうははふはふかへつて、びやうとうゐんのもんのまへなるしばのうへに、もののぐぬぎおき、よろひにたつたる
やのめをかぞへたれば、六十三、うらかくやいつ\ところ。されどもだいじのてならねば、しよしよにきう
ぢし、あたまからげ、じやういき、ゆみきりをり、つゑにつき、ひらあしだはきあみだぶつ\まをして、なら
のかたへぞ\まかりける。そののちにじやうめうばうがわたつたるをてほんとして、三みにふだうの一るゐ、わたなべの
たう、\みゐでらのだいしう、われさきにわれさきにと\はしりつづき\はしりつづきはしのゆきけたをこそ\わたしけれ。あるひは
ぶんどりしてかへるものも\あり、あるひはひつくみさしちがへて、かはにとびいるものも\あり。はしのうへのいくさ、
ひいづる\ほど/にぞみえたりける。へいけのかたの\さぶらひだいしやうかづさのかみただきよ、たいしやうぐんのわぜんにま
ゐり、\かしこまつてあれ\ごらん\さふらへ、はしのうへのたたかひ、ていたう\さふらふ。いまはかはをわたすべきにて\さふらふが、
\をりふしさみだれのころ、みづまさつてわたさばうまひと\おほく\ほろび\さふらひなんず。よど、いもあらひへやむかふべき、
またかはちぢへやまはるべき、みづのおちあしをやまつべき、\いかがせんと\まをす\ところに、ここにしもつけのくに
のぢうにんあしかがのまたたらうただつな、しやうねん十七さいになりけるが、すすみいでて\まをしけるは、よど、いち

あらひ、かはちぢへは、てんぢくしんたんのぶしをめして、むけられ\さふらはんずるか、それなりとも\われら
こそ\うけたまはつて\まかりむかひ\さふらふべき。めにかけたるかたきをうたずして、みやをなんとへいれ\まゐら
せなば、よしのとつがはのせいどもはせあつまつて、\いよいよおんだいじにこそ\および\さふらはんずらめ。ここにむさ
しとかづさとのさかひに、とねがはと\まをす\おほかは\さふらふが、ちちぶあしかがなかたがうて、つねはかつせんをし\さふらひ
しに、おほてはながゐのわたり、\からめてはこがすぎのわたりよりよせ\さふらひしが、ここにかうづけのくにのぢうにん、
につたのにふだう、あしかがにかたらはれて、こがすぎのわたりよりよせんとて、まうけたりけるふねどもを、
ちちぶがかたより、みなわられて\まをしけるは、ただいまここをわたさずば、ながきみかたのおんゆみやのきず
にて\さふらふべし。みづにおぼれてもしなばしね、いざわたさうとて、うまいかだをつくつてわたせばこそ
\わたしけめ。ばんどうむしなの\ならひ、てきをめにかけ、かはをへだてたるいくさに、ふちせきらふやうやあ
る。このかはのふかさはやさ、とねがはにいく\ほど/のおとりまさりはよもあらじ。つづけやとのばらとて、まつさきに
こそうちいれたれ。つづく\ひとびと、おほご、おほむろ、ふかす、やまかみ、なばのたらう、さぬきのひろつな、
四らうたいふ、をのでらのぜんじたらうは、へやこの四らう、らうどうにはうぶかたのじらう、きりふの六らう、
たなかのそうたを\はじめとして、三百よきぞつづいける。あしかがだいおんじやうを\あげ/て、よはきうまをば
したでにたて。つよきうまをばうはでになせ。うまのあしの\およばん\ほど/は、たづなをくれてあゆませよ。は
つまばかいくつておよがせよ。さがらう\もの/にはゆみのはずはとりつかせよ。てにてをとりくみ、かた

をならべてわたすべし。うまのかしらしづまばひきあげよ。いたうひいてひつかつぐな。くらつぼによ
くのりさだまつて、あぶみをつようふめ。みづしとまば、さんづのうへにのり\かか/れうまにはよはうみづほ
はつようあたるべし。かはなかにてゆみひくな。てきいるともあひひきすな。つねにしころをかたむけよ。い
たうかたむけててへんいさすな。かねにわたいておしおとさるな。みづにしなうてわたせやわたせと、
おきてて、三百よきがいつきも\ながさず。一どにさつとぞうちあげたる。

あしかがそのひのしやうぞくには、くちばのあやのひたたれに、あかがはおどしのよろひきて、たかつのうつたるかぶとのを
をしめ、こがねづくりのたちをはき、二十四さいたるきりふのやおひ、しげとうのゆみ\もつて、れんせんあし
げなるうまに、かしはぎにみみづくうつたる、きんぷくりんのくらを\おいてぞのりたりけるが、あぶみふ
んばりたちあがり、だいおんじやうを\あげ/て、\むかし、てうてきまさかどをほろぼして、なをこうだいにあげたりし、
たはらとうたひでさとに、十だい、あしかがのたらうとしつながこ、またたらうただつなとて、しやうねん十七さいに\まかりなり。
\かかるむくわんむゐなるものの、みやにむかひ\まゐらせて、ゆみをひきやをはなたんことは、てんの\おそれすくな
からず\さふらへども、ただしゆみもやもめうがのほども、へいけのおんうへにこそとどまり\さふらはんずらめ。
三ゐにふだうどのの\おん-かたに、われと\おもはん\ひとびとは、よりあへやげんざんせんとて、びやうとうゐんのもん/の\うち

へ、せめいりせめいりたたかひけり。たいしやうぐんさひやうゑのかみとももり、\これ/をみ\たまひて、あさかりけるぞわた
せやわたせとげぢし\たまへば、二まんぱつ千よきのつは\ものども、みなうちいれてわたす。さば
かりはやきうぢかはも、うまやひとにせかれて、みづはかみにぞたたへたる。ざふにんばらは、うまのしもて
にとりつきとりつき\わたる\ほど/に、ひざよりうへを\ぬらさぬものも\おほかりけり。おのづからはづるる
みずには、なにもたまらずながれたり。ここにいがいせりやうごくのくわんびやうら、うまいかだおしやぶられて、六
百よきこそながれたり。もえぎ、ひおどし、あかおどし、\いろいろのよろひのうきぬしづみぬゆられけるは、かみ
なびやまのもみぢばの、みねのあらしにさそはれて、たつたがはの\あきのくれ、ゐせきにかかつてながれもあ
へぬにことならず。その-うちに、ひおどしのよろひきけたるむしや三にん、あじろにながれかかつて、うきぬ
しづみぬゆられけるを、いづのかみみ\たまひて、
いせむしやはみなひおどしのよろひきてうぢのあじろにかかりぬるかな
くろだごへいらう、ひの十らう、おとべのいやしちとて\これ-らはみないせのくにのぢうにんなり。なかにもひ
のの十らうは、ふるつはもの/にて\あり/ければ、ゆみのはず、いはのはざまにねぢたてて、かきのぼり、二にん
の\ものどもをひき-あげ/て、たすけけるとぞ\きこえし。たいせいみなわたいて、びやうとうゐんのもん/の\うちへ
せめいりせめいりたたかひけり。そのまぎれに、みやをばなんとへさきだたせ\まゐらせて、三みにふだうの
一るゐわたなべたう、\みゐでらのだいしうのこりとどまつてふせぎやいけり。げん三ゐにふだうよりまさは、七十にあまつて

いくさして、ゆんでのひざぐちをしたたかにいさせ、いたでなれば、\こころ\しづかにじがいせんとて、へいとうゐん
のもん/の\うちへひきしりぞく\ところに、てきおそひ\かか/れば、じなんげんたいふのはうぐわんかねつなは、こんぢのにしきのひた
たれに、からあやおどしのよろひきて、れんぜんあしげなるうまにきんぷくりんのくら\おいて、のり\たまひたりけるが、
ちちをのばさんがために、かへしあはせかへしあはせふせぎたたかふ。へいけのかたのさむらひだいしやうかづさのたらうはうぐわんが
いけるやに、げんたいふのはうぐわん、うちかぶとをいさせてひるむ\ところに、かづさのかみが\わらは、じらうまると
いふだいぢからのがうのもの、もえぎにほひのはらまきをきて、三まいかぶとのををしめ、げんたいふのはうぐわんにおし
ならべて、むずとくむ。げんたいふのはうぐわん、だいちからにて\おはしければ、じらうまるを\とつ/ておさ
へてくびをかき、たちあがらんとし\たまふ\ところに、へいけの\さぶらひども、十四五きおちかさ\なつ/て、かね
つなをば\つひにそこにてうちとりてんげり。ちやくしいづのかみなかつなもさんざんにたたかひ、いたでおうて、
へいとうゐんのつりどのにてじがいしてげり。そのくびをば、しもかうべのとう三らうきよちか\とつ/て、おほゆかのしたへ
ぞなげいれたる。六でうのくらんどなかいへ、そのこくらんどたらうなかみつも、さんざんにたたかひぶんどりかず\おほくし
て、\ひとつ\ところでうちじにしてんげり。このなかいへと\まをすは、たちはきのせんじやうよしかたがちやくしなり。しかるを
ちちうたれてのちは、三みにふだうやうしにして、ふびんにせられしかば、ひごろのやくそくをたがへじと
や、\ひとつ\ところでしにけるこそむざんなれ。三みにふだう、わたなべちやうじつとなふをめして、わがくびうてと
\のたまへば、しうのいきくびうたんずることの\かなしつさに、\つかまつとも\ぞんじ\さふらはずおんじがい\さふらはば、その

ときこそ\たまはりさふふらと\まをしければ、三みにふだうげにもとや\おもはれけん、にしにむかつててを
あはせ、かうしやうにじふねんとなへ\たまひて、さいご/の\ことばぞ\あはれなる。
うもれぎのはなさくことも\なかりしにみのなるはては\かなしかりけり
\これ/をさいご/の\ことばにて、たちのさきをはらにつきたてて、うつぶさまにつらぬかつてぞうせられける。その
ときのうたよむべうは\なかりしかども、わかうよりあながちにすいたるみちなれば、さいご/の\とき
も\わすれ\たまはず。そののち三みにふだうのくびをばちやうじつとなふが\とつ/ていしにくくりあはせて、いぢがはのそこ
のふかき\ところにしづみてんげり。へいけのかたのさむらひども、\いか/にもしてきそふたのきぐちをばいけどりにせば
やとはうかがひけれども、きそふもさきに\こころえてさんざんにたたかひうぢがはへとんでいり、はらかききつてぞし
ににける。ゑんまんゐんのたいふげんがくは、おほだちおほなぎなた、さうのてにもつままに、てき/の\なかをわ
つていで、うぢがはへとんでいり、もののぐ\ひとつもすてず、みづのそこをくぐつて、むかひのきしにぞつ
きにける。たかき\ところに\はしりあがり、だいおんじやうを\あげ/て、\いか/にや\へいけのきんだつたち、これまでは
おんだいじかやうとなのりすてて、\みゐでらへこそ\かへりけれ。へいけのかたの\さぶらひたいしやうひだのかみかげ
いへは、ふるつはもの/にて\あり/ければ、このまぎれに、みやは\さだめてなんとへやおちさせ\たまふらんと
て、ひたかぶと四五百き、むちあぶみをあはせておつかけ\たてまつる。あんのごとく、みやは三十きばかりにて
おちさせ\たまふ\ところに、くわうみやうせんのとりゐのまへにておつつき\たてまつり、あめのふるやうにい\まゐらせけ

れば、いづれがそれとはしらねども、や\ひとつきたつて、みやのひだんのおんそばはらにたちければ、おんうま
よりおちさせ\たまひて、おん-くびとられさせ\たまひけり。\おん-とも\まをしたりしおにさど、あらとさ、いが
のきみ、くわうだいぶ、しゆうじうも、\いのちをばいつ/の\ためにかをしむべきとて、さんざんにたたかひ\ひとつ\ところにてうち
じにしてんげり。めのとごのろくでうのすけたいふむねのぶはうまはよわるてきはつづくにぐるべきやう\なかりしか
ば、にひのがいけへとんでいり、うきくさはほにとりおほひふるひゐたれば、てきはまへをぞとほりにけ
る。やや\あつ/て、またてき四五百きがほど、さざめいてとほるなかに、じやういきたるしにんのくびもな
きを、しとみいがもとにかきだしいたるをみれば、はやみやにてぞ\おはしましける。わがしなばおんひつぎ
にいれよ、と\あふせられし、こえだと\きこえし\おん-ふゑをも、\いまだ\\おん-こしにぞささせ\ましましける。
\はしりもいでて、とりつきまつらばやとは\おもへども、\おそろしければ、それもかなはず。てきみなう
ちとつてのち、いけよりあがり、ぬれたる\ものどもしぼりきて、\みやこへ\かへりのぼりたりければ、にく
まぬものこそ\なかりけれ。さる-ほど/に、なんとのだいしゆうひたかぶと七千よにん、みやのおんむかへにまりけ
るが、せんぢんはこつにすすみ、ごぢんは\いまだこうふくじのなんだいもんにぞゆらへたる。みやははやくわうみやう
せんのとりゐのまへにて、うたれさせ\たまひぬと\きこえしかば、なんとのだいしゆう\ちから\およばず、なんだをおさ
へてとどりぬ。いま五十ちやうがうちをまちつけさせ\たまはで、うたれれさせ\たまひたるみやのごうんのほど
こそ\うたてけれ。

へいけの\ひとびと、みやならびに三みにふだうのいちるゐわたなべたう、\みゐでらのだいしゆう、つがう五百よにんがくびきつ
て、たちなぎなたのさきにつらぬき、ゆふべにおよんでろくはらへ\かへりいらる。つは\ものどもいさみののしることおびただし。
なかにも三みにふだうのくびをばちやうしつとなふが\とつ/ていしにくくりあはせて、うぢがはのそこのふかき\ところにしづ
めてんげれば、\みえ/ざりけり。こどものくびは、あそこここよりみな\たづねいだされたり。またみや
の\おん-くびをば、としごろ\まゐりかよふひとも\なかりしかば、たれみしり\まゐらせたるもの/も\なし。てんやくの
かみさだなりは、せんねんごれうぢ/の\ためにめされ\まゐらせしかば、みしり\まゐらせたるにこそとて、
めされけれども、げんしよらうとて\まゐられず。またろくはらより、みやのつねはめされ\まゐらせたるによう
ばうとて、\ひとり\たづねいだされたり。\\おん-こ\あまたうみ\まゐらせなんどして、さしもおんちぎりあさからざ
りしかば、なじかはみそんじ\たてまつるべき。ただひとめみ\まゐらせて、なんだをおとしけるにこそみやのおん
くび/と/は\しりてんげれ。このみやははらはらに\\おん-このみやたち\あまた\ましましける。なかにも八でうのによゐん
に\さふらはれける、いよのかみもりのりむすめ、三みのつぼねと\まをすおんはらに、七さいのわかみや、五さいのひめみや\ましま
しけり。にふだうさうこくのおとうと、いけのちうなごんよりもりのきやうを\もつて、八でうのによゐんへ\まをされけるは、
ひめみやの\\おん-ことは\まをすに\およばず、わかみやをばとうとうだし\まゐらつさせ\たまへ、と\まをされたりければ、

にようゐんの\おん-ぺんじに、かくと\きこえしあかつき、おんめのとなんどの、\こころ\をさなくもぐし\まゐらせてうせに
けるにや、まつたくこれには\わたらせ\たまはずとぞ\あふせける。よりもりのきやう\かへり\まゐつて、\この\よしかくと
\まをされたりければ、にふだうさうこく\おほきにいかつて、なんでうそのごしよならでは、いづかたへかしのばせ
\たまふべかんなるぞ。そのぎならば、ぶしども\まゐつてさがし\たてまつれ、とぞ\のたまひける。このよりもり
のきやうと\まをすは、にようゐんのおんめのと、さいしやうどのと\まをす\にようばうにあひぐして、つねに\まゐりかよはれけるほど
に、によゐんもよに\おん-なつかしきことにこそ\おぼしめしつるに、いままたわかみやの\\おん-こと\まをしに\まゐられたれ
ば、いつしかうとましくぞぼしめされける。わかぎみにようゐんへ\まをさせ\たまひけるは、\つひにのがるま
じく\さふらふ\うへ、さうさういださせ\おはしませとぞおほせける、によゐん\おん-\なみだを\ながさせ\たまひて、ひと
のななつやつは、\いまだ\なにごとをもききわかぬほどぞかし。それにおんみゆゑ、\かかるだいじのい
できたるを、かたはらいたく\おぼして、かやうに\あふせらるることよ、よし\なかりけるひとを、
この六七ねんてならして、けふは\かかるうきめをみるよとて、\おん-\なみだせきあへさせ\たまはず。
よりもりのきやうわかみやの\\おん-こと、かさねて\まをしに\まゐられたれば、にようゐん\ちから\およばせ\たまはず、\つひにいだしまゐ
らつさせ\たまひけり。おんばあ三みのつぼね、けふを\かぎりのおんわかなれば、さこそは\おん-\なごりをしう
もや\おぼしめされけめ。さてしも\ある/べきことならねば、\なくなくぎよいきせ\たてまつり、おんぐ
しかきなでて、いだし\まゐらつさせ\たまふにつけても、ただゆめとのみぞ\おもはれける。にようゐんをはじ

め\まゐらせて、つぼねの\にようばうあやしのめのわらはに\いたるまで、みな\なみだを\ながしそでを\ぬらさぬは\なかりけり。
よりもりのきやうわかみや\うけ-とり\たてまつり、\おん-くるまにのせ\まゐらせて、ろくはらへいれ\たてまつる。\さきのうだいしやうむね
もりのきやう、わかみやをひとめみ\まゐらせて、\これ/をば\いかでか\うしなひ\たてまつるべきと\おもはれければちち
のぜんもんのおんまへに\おはして、ぜんぜ/の\ことにや\さふらふらん。わかみやをただひとめみ\まゐらせて\さふらへば、
めもあてられず\あまりに\おん-いたはしう\おもひ\まゐらせ\さふらふ。なにか\くるしう\さふらふべき。わかみやの\おん-\いのちを
ばまげて、むねもりに\たまひ\さふらへかしと\まをされたりければ、にふだうさうこくさらばとうしゆつけをせさ
せ\たてまつれ、とぞ\のたまひける。むねもりのきやう、\なのめならずに\よろこび、\いそぎ八でうのによゐんへこの
よしをつげ\まをされたりければ、にようゐんなにのやうも\ある/まじ、ただとうとうとて、ごしゆつけせさせ
\おはします。しやくしに\さだまらせ\たまひしかば、ほふしになし\まゐらせて、にんなじおむろのおんでし
になし\まゐらさつせ\たまひけり。のちにはとうじのいちのちやうじや、やすゐのみやのそうじやうだうそんと\まをししは、
このみやの\\おん-ことなり。ならにもまたごいつしよ\ましましけるを、おんめのとさぬきのかみしげひでがごしゆつけ
せさせ\たてまつり、ぐし\たてまつつて、ほつこくへおちくだりたりしを、きそよしなかじやうらく/の\とき、しゆにし\まゐら
せんとて、げんぞくせさせ\たてまつり、ぐそくし\たてまつつて、のぼつたりければ、きそがみやとも\まをして、また
げんぞくのみやとも\まをす。のちにはさがのほとり、のよりに\ましましければ、のよりのみやとも\まをしき。
\むかし、とうじやう/と\いひしさうにん\あり。うぢどの二でうどのをば、きみ三だいの\くわんぱく、\とも/に\おん-とし八十と\まをし

たりしもたがはず。そつ/の\うちのおとどを、るざいのさう\ましますと\まをしたりしも、たがはず。またしやう
くたいしの、しゆじやんてんわうを、わうしのさう\ましますと\まをさせ\たまひたりしが、うまこのだいじんにころされ
させ\たまひき。かならずさうにんともしも\あら/ねども、しやうこにはかうこそ\めでたかりしか。されば
こんどたかくらのみやのごむほんはさうせうなごんがひがごとには\あら/ずや、なかごろけんめいしんわう、ぐへいしんわう
と\まをししは、ぜんちうしよわう、ごちうしよわうとて、\とも/にけんわうしやうしゆの\わうじにて\わたらせ\たまひしかども、
\つひにくらゐにはつかせ\たまはず。されどもいづれか、ごむほんをばおこさせ\たまひたりけん。またご
三でうゐんのだい三の\わうじ、すけひとのしんわうと\まをししは、\おん-こころもかうにおんさいがくも\すぐれて\ましましけれ
ば、ご三でうのゐんの\おん-くらゐののちは、このみやをくらゐにつけ\まゐらつさせ\たまへと、ごゆいせう\あり/しかども、
しらかはのゐん\いかがは\おぼしめされけん、\つひにくらゐにはつけ\まゐらつさせ\たまはず。せめて/の\ことにや、
すけひとのしんわうの\\おん-このみやに、げんじのせいをさづけ\まゐらつさせ\たまひけり。\やがて三みのじよして、
ちうじやうになし\まゐらつさせ\たまひけり。いつせのげんじ、むゐより三みすることは、さがのくわうてい
の\\おん-こ、やうぜいゐんのだいなごんさだむのきやうのほかはこれ\はじめとぞうけたまる。はなぞののさだいじん、ありひとこうの\\おん-こと
なり。こんど、たかくらのみやのごむほん/に\よつて、てうぷくのはふ\うけたまはつて\おこなはれける、かうそうたちにけん
じやうども\おこなはる。\さきのうだいしやうむねもりきやうのきやうのしそく、じじゆうきよむね、十二にて三みして三みのじ
じゆうとぞ\まをしける。ちちのきやうもこのよはひては、はづかひやうゑのすけまでこそいたられしか。たちまちにかんたちふに

あがり\たまふこと、一のひとのきんだちのほかは、これ\はじめとぞ\うけたまはる。さる-ほど/にみなもとのもちひと、ならびに三
みにふだうよりまさふし、つゐたうのしやうとぞききがきには\あり/ける。みなもとのもちひととは、たかくらのみやを\まをすな
り。まさしくだじやうほふくわうの\わうじをい\たてまつるだにあるに、あまつさへぼんにんになし\たてまつるこそうたれけれ。

そもそもげん三みにふだうよりまさは、せつつのかみらいくわうに五だい、みかはのかみよりつながそん、ひやうごのかみなかまさが
こなりけり。さんぬるほうげんのかつせん/の\ときも、みかたにてさきをかけたりしかども、させるしやう
にもあづからず。またへいぢのげきらんにも、\すでにしんるゐをすててさんじたりけれども、けんしやうこれおろそかな
りき。たいだいしゆごにて、としひさしく\あり/しかども、しようでんをば\いまだ\ゆるされず。としたけよはひかたむ
いてのち、じゆつくわいのわかいつしゆうたうでこそ、しようでんをばしたりけれ。
ひとしれぬおほうちやまのやまもりはこがくれてのみつきをみるかな
このうた/に\よつてしようでんを\ゆるされ、じやうげの四ゐにて\しばらく\さふらはれけるが、なほ三みを\こころにか
けつつ、
のぼるべき\たよりなきみはこのもとにしいをひろひてよを\わたるかな
さてこそ三みになり。\やがてしゆつけして、げん三みにふだうよりまさとて、こんねんなは七十五にぞなら

れける。このひとの一ごのかうみやうと\おぼしきことは、さんぬ\るにんぺいのころほひ、こんゑのゐんございゐ
の\おん-とき、しゆじやうよなよなおびえさせ\たまふこと\あり/けり。うげんのかうそうきそうに\あふせて、だいほふひほふ
をしうせられけれども、このしるしなし。ごなうはうしのこくばかり/の\ことなりけるに、ひんがしさんでうのもり
のかたよりくろくもひとむらたちきたつて、ごてんのうへにおほへばしゆじやうかならずおびえさせ\たまひけり。これによ
つて、くげせんぎ\あり/けり。さんぬるくわんぢのころほひ、ほりかはのゐんのございゐの\おん-とき、しゆじやうよな
よな、おびえたまぎれさせ\たまふこと\あり/けり。その-ときのしやうぐんにはぎかのあつそん、なんでんの
おほとこに\さふらはれけるが、ごなうのこくげんにおよんで、めいげんすることさんどののち、かうしやうの\さきのみちのくに
のかみみなもと/の\よしいへぞやとののしつたりければ、きくひとみなみのけよだつて、ごなうかならずおこたらせたま
ひけり。さればせんれいに\まかせて、ぶしに\あふせてけいご\ある/べしとて、げんぺいりやうけのへいをせんぜ
られけるに、このよりまさをぞえらみいだされたりける。よりまさその-ときは\いまだひやうごのかみにて\さふらはれける
が、\まをされけるは、\むかしよりてうけにぶしをおかれぬることは、ぎやくほんの\もの/をしりぞけ、ゐちよくの\ともがら
をほろぼさんがためなり。\かかるめにもみえぬへんげえのもの\つかまつれと、\あふせくださるること\いまだ\うけたまはり
\およばずとしかひながら、ちょよくせんなればめしにおうじてさんだいす。よりまさたのみきつたるらうとう、とふとうみの
くにのぢうにん、ゐのはやたにほろのかぜぎりはいだりけるや\おはせて、ただ一にんぞぐしたりける。わが
みはふたへのかりぎぬに、やまどりのをを\もつてはいだりけるとがりやふたつ、しげとうのゆみにとりそへて、

なんでんのおこゆかにしこうす。よりまさやふたつたばさみけることは、げんちうなごんがらい、その-ときは\いまださせう
べんにて\おはしけるが、へんぐえのもの\つかまつらうずるじんは、よりまさぞ\さふらふらんとえらみ\まをされたる
\あひだ、いちのやにてへんぐえのものいそんずるほどならば、にのやにて、がらいのべんのしやくびのほねをい
んとなり。ごなうのこくげんにおよんで、ひんがし三でうのもりのかたより、くろくもひとむらたちきたつて、ごでんの
うへに五ぢやうばかりぞたなびいたる。よりまさきつとみあげたれば、くも/の\なかにあやしきもののすがた\あり。
いそんずるほどならば、よに\ある/べしとも\おぼえず、よりまさや\とつ/てつがひ、なむ八まんだいぼさつと、
\こころ/の\うちにきねんして、よつぴいてひやうとはなつ。てごたへしてはたとあたる。よりまさいえたりや
をうと、やさけびをこそしてんげれ。ゐのはやだつうとより、おつる\ところを\とつ/ておさへ、つかも
こぶしもとほれとほれとつづけざまに\この-かたなぞさいたりける。その-ときじやうげてんでにひをともして、\これ/を
\ごらんじみ\たまへばかしらはさる、むくろはたぬき、をはくちなは、てあしはとらのごとくにて、なくこゑぬえににたりけ
り。\おそろしなども\おろかなり。きんちうざざめきあひ、しゆじやうぎよかんの\あまりに、よりまさにししわうとい
ふぎよけんをくださる。うぢのさだいじんどの、\たまはり、ついてよりまさにたぶとて、みまへのきざはしをなから
ばかりすぎさせ\たまふ\をりふし、ころはうづき十か\あまり/の\ことなれば、くもゐにほととぎす、ふたこゑみこゑおと
づれてとほりければ、さだいじんどの、
ほととぎすをもくもゐにあぐるかな

と\あふせられかけたりければ、よりみさみぎのひざをつき、ひだんのそでをひろげてつきを\すこしそばめに
かけつつ、
ゆみはりづきのいるに\まかせて
と\つかまつて、ぎよけんを\たまはつて\まかりいづ。ゆみやを\とつ/てあめのしたになをあぐるのみならず、かだう
にさへたつしやかなとぞ、ときの\ひとびとかんじ\あはれける。さてかのへんぐえの\もの/をば、うつほぶね
に\おくりこみて\ながされけるとぞ\きこえし。またおうほのころほひ、二でうのゐんございゐの\おん-とき、ぬえとい
ふけてうしばしばきんちうになきてしんきんのをなやまし\たてまつる。こんどもせんれいに\まかせて、このよりまさをぞめさ
れける。ころはさつき二十か\あまり、まだよひ/の\ことなれば、ぬえただひとこゑ\おとづれて、ふたこゑとも
なかざりけり。めざすとも\しら/ぬやみなれば、すがたかたちも\みえ/ずして、やつぼをいづくともさだ
めがたし。よりまさまづ\はかりごとにいちのやに\おほかぶら\とつ/てつがひ、ぬえのこゑしたりけるだいのうへへぞ、
いあげたる。ぬえ、かぶらのおとに\おどろいて、こくうにしばしぞひらめいたる。にのやにこかぶらとつ
てつがひ、ひいふつといきつて、ぬえとかぶらとならべてまへへぞおといたる。きんちうざざめきあひしゆ
じやうぎよかんの\あまりに、よりまさにぎよいをかづげさせ\おはします。こんどは\おほいのみかどのうだいじんきんよし
こう\のたまはりついで、よりまさにぎよいをかづけさせ\たまふとて、\むかしのやういうは、くものそとなるかりを
い、いまのよりまさは、あめ/の\うちのぬえをいたりとぞかんぜられける。

さつきやみなをあらはせるこよひかな
と\あふせられかけたりければ、よりまさ、
たそがれどきもすぎぬと\おもふに
と\つかまつて、ぎよいをかたにかけて\まかりいづ。かさねてのけんしやうにはいづのくに\たまはり、しそくなかつな
じゆりやうになし、わがみ三みして\たんばの五かのしやう、わかさのとうみやがはをちぎやうして\おはしけるとぞ
\うけたまはる。さて\おはしぬべきひとの、よしなきむほんのこして、みやをも\うしなひ\たてまつり、わがみも
しそんも\ほろびぬるこそ\うたてけれ。

ひごりは\さんもんのたいしゆうこそ、はつかうのみだりがはしきうつたへ\つかまつる\ところに、こんたびは\いかが\おもひけ
ん、をんびんを\ぞんじておともせず。しかるをなんと\みゐでらどうしんして、あるひはみや\うけ-とり\たてまつり、あるひは
おんむかへに\まゐるでう、これ\もつてきくわいなり。しかればならをも、せめらるべき\よし\きこえしが、まづ
\みゐでらをせめらるべしとて、\おなじき二十八にち、たいしやうぐんにはさひやうゑのすけとももり、さつまのかみ
ただのり、つがふそのせい一まんよき、をんじやうじへはつかうす。てらにもだいしゆう\一千にん、かぶとのををしめ、かいたて
かき、さかもぎひいてまちかけたり。うのこくよりやあはせして、一にちたたかひくらし、よにいり

ければ、ふせぐ\ところのだいしゆういかのほふしばら、三百よにんうたれぬ。よいくさに\なつ/て、くわんぐんじ
ちうにせめいつてひをはなつ。やくる\ところ、ほんかくゐん、じやうきゐん、けをんゐん、しんによゐん、ふけんだう、たい
はうゐん、しやうりつゐん、けうだいくわしやうのほんばう、ならびにほんぞうとう、八けん四めんのだいかうだう、しゆろう、きやうざう、くわんちやう
だう、ごほふぜんじんのしやだん、いまくまののごはうでん、すべてだうしや、たふべう、六百三十七う、おほつのざい
け\一千八百五十三う、ちしようの\わたし\たまへるいつさいきやう七千よくわん、ぶつざう\二千よたい、たちまちにけむりとな
るこそ\かなしれ。しよてん五めうのたのしみも、\この\ときながくつき、りうじん三ねつの\くるしみも、\いよいよさかんなるらん
とぞみえし。それ\みゐでらは、あふみのぎだいりやうが\わたしのてらたりしを、てんむてんわうによせ\たてまつつ
て、ごぐわんとなす。ほんぶつもかのみかどのごほんぞん、しかるをしやうしんのみろくと\きこえさせ\たまふ、けうたい
くわしやう百六十ねん\おこなうて、だいしにふぞくし\たまへり。としだてんじやうまにはうでんよりあまくだり、\はるかに
りうげげしやうのあかつきを、またせ\たまふとこそききつるに、こは\いか/にしつる\ことどもぞや。だいしこ
の\ところを、でんぱふくわんちちやうのれいせきとして、ゐけすゐのみつつをむすび\たまへるゆゑにこそ、\みゐでらとは
なづけけれ。\かかる\めでたきしやうせきなれども、いまはなにならず。げんみつしゆゆにほろんで、がらん
さらにあと/も\なし。三みつけうはふもなければ、すずのこゑも\きこえず。いちげのはなもなければ、あかの
おともせざりけり。しゆくとくせきとくのめいしは、ぎやうがくにおこたり、じゆはふさうじようのでしは、またきやうげうにわか
れんだり。じのちやうりゑんけいはふしんわうは、てん\わうじのべつたうをもやめらる。そのほかそうかつ十三にんけつくわん

せられてみなけんびゐしにあづけらる。あくそうにはつつゐのじやうめうめいしうを\はじめとして、三十よにん\ながさ
れけり。\かかるてんがのみだれ、こくどのさわぎ、ただごととも\おぼえず、わうほふのすゑになりぬる、せん
べうやらんとぞひと\まをしける。



平曲譜本 藝大本 巻五

ぢしよう四ねん六ぐわ三かのひ、みやこうつりあるべしとてきやうちうろくはらひしめきあへり。このひごろみやこう
つりあるべしとはきこえしかども、たちまちにこんみやうのほどとはおもはざりしかとて、じやうかみなさわぎあ
へり。あまつさへ三かのひとさだめられしが、いま一にちひきあげて、ふつかのひになりぬ。ふつかの
ひのうのこくに、ぎやうかうのみこしをよせたりければ、しゆじやうはこんねん三さい、いまだいとうなうわたらせたまへ
ば、なにごころもなうぞめされける。すじやうをさなうわたらせたまふときのごどうよにはぼごうこそまゐらせたま
ふに、これはそのぎなし、おんめのとそつのてんじどのぞ、ひとつおんこしにはまゐられける。ちうぐう、一ゐん、
じやうわうもごかうなる。くわんぱくどのをはじめたてまつて、だいじやうだいじんいげのけいしやううんかく、われもわれとぐ
ぶせらる。へいけにはだいじやうのにふだうどのをはじめまゐらせて、一もんのひとびとみなまゐられけり。あくる
三かのひ、ふくはらへいらせおはします。にふだうさうこくのおとうと、いけのちうなごんよりもりのきやうのしゆくしよくわう
きよになる。おなじき四かのひ、よりもりいへのしやうとてじやうにゐしたまふ。九でうどののおんこ、うだいしやうよし
みちのきやう、かかいこえられさせたまひけり。せつろくのしんのごしそく、はんじんのじなんにこえられさせ
たまふこと、これはじめとぞうけたまはる。にふだうさうこくやうやうおもひなほつて、ほふわうをばとばでんをいだしたてまつ

て、みやこへくわんぎよなしたてまつられたりしが、たかくらのみやのごむほんによつて、にふだうおほきにいきどはり、また
ふくはらへごかうなしたてまつり、四めんにはたいたして、くちひとつあけたるうちに、三げんのいたやをつくつてお
しこめたてまつらる。しゆごのさむらひには、からだのたいふたねなをばかりぞさふらひける。たやすうひとのまゐり
かよふべきやうもなかりしかば、わらんはべどもはみなろうのごしよとぞまをしける。ききもいまいましう、
あさましかりしことどもなり。さればほふわうはよのまつりごとをしろしめさばやとは、つゆおぼしめし
よらず、ただやまやまてらでらしゆぎやうして、おんこころのままになぐさめばやとぞあふせける。へいけのあくぎやうにおい
いては、ことごとくきはまりぬ。さんぬるあんげんよりこのかた、おほくのだいじんくぎやう、あるひはながれあるなはうしひ、
くわんぱくながしたてまつて、わがむこをくわんぱくになし、あまつさへ、一ゐんだい二のわうじ、たかくらのみやうちたてまつて、
いまのこるところのみやこうつりなれば、かやうにしたまふにやとぞ、ひとまをしける。みやこうつりはこれせんじやう
なきにしもあらず。じんむてんわうとまをすは、ぢじん五だいのてい、ひこなぎさたけうがやふきあはせずのみことのだい
四のわうじ、おんぱわはたまよりひめかいじんのむすめなり。かみのよ十二だいのあとをうけ、にんだいはくわうのていそた
り。かのとのとりのとし、ひふがのくにみやざきのこほりにして、くわうわうのはうそをつぎ、五十九ねんといつしつちのと
のひつじのとし、十ぐわつにとうせいしてとよあしはしなかつくににとどまり、このころやまとのくにとなづけたる、うねびのやま
をてんじてていとをたて、かしはばらのちをきりはらつてきうしつをつくりたまへり。これをかしはばらのみやとまをし
けり。それよりこのかただいだいのていわう、みやこをたこくたいしよへうつさるること、三十たびにあまり、四

十たびにおよべり。じんむてんわうよりけいかうてんわうまで十二だいは、やまとのくにこほりごほりにみやこをたてて、たこく
へはつひにうつされず。しかるをせいむてんわうぐわんねんに、あふみのくににうつつてしがのこほりにみやこをたて、
ちうあいてんわう二ねんにながとのくににうつつて、とようらのこほりにみやこを建つ。そのくにのかのみやこにて、みかどかく
れさせたまひしかば、きさきじんごうくわうごう、おんよをうけとらせたまひ、によたいとして、きかい、かうらい、
けいたんまでせめしたがへさせたまひけり。いこくのぐんをしづめさせたまひて、きてうののち、ちくぜんのくにみ
かさのこほりにしてわうじごたんじやう、やがてそのところをばうみのみやとぞまをしける。かけまくもかたじけな
く、いまのやわたのおんことなり。くらゐにつかせたまひては、おうじんてんわうとぞまをしける。そののちじんごうくわう
ごうは、やまとのくににうつて、いはれわかざくらのみやにおはします。おうじんてんわうは、おなじきくにかるしまあかり
のみやにすませたまふ。にんとくてんわうぐわんねんに、つのくになんばにうつつて、たかつのみやにおはします。
りちうてんわう二ねんに、やまとのくににうつつて、とをちのこほりにみやこをたつ。はんせいてんわうぐわんねんに、かはちの
くににうつつて、しばがきのみやにすませたまふ。いんぎようてんわう四十二ねんに、まやまとのくににうつつて、とぶ
とりのあすかのみやにおはします。いうりやくてんわう二十一ねんに、おなじきくにはつせあさくらにみやゐしたまふ。
けいたいてんわう五ねんに、やましろのくにつづきにうつて十二ねん、そののちおとぐににみやゐしたまふ。せんくわてんわうぐわん
ねんに、またやまとのくににうつつて、ひのくまのいるののみやにすませたまふ。かうとくてんわうたいくわぐわんねんに、せつ
つのくにながらにうつつて、とよざきのみやにおはします。さいめいてんわう二ねんに、またやまとのくににうつつて、

をかもとのみやにすませたまふ。てんちてんわう六ねんにあふみのくににうつつて、おほつのみやにおはしまし。
てんむてんわうぐわんねんに、なほやまとのくににかへつて、をかもとのみなみのみやにすませたまふ、これをきよみはらのみ
かどとまをしき。ぢとうもんむ二だいのせいてうは、ふぢはらのみやにおはします。げんめいてんわうよりくわうにんてん
わうまで七だいは、ならのみやこにすませたまふ。しかるをくわんむてんわう、えんりやく三ねん十ぐわつ三かのひ、な
らのきやうかすがのさとをいで、やましろのくにながをかにうつつて、十ねんといつししやうぐわつに、だいなごんふぢはらの
をぐろまろ、さんぎさだいべんきのこさみ、だいそうづげんけいらをつかはして、たうごくのかどのこほりうだの
むらをみせらるるに、ふたりともにそうしていはく、このちのていをみさふらふに、さしやうりう、うびやつこ、
ぜんしゆじやく、ごげんむ、しじんさうおうのちなり。もつともていとをさだむるにたれりとまをす。よつて、をたぎ
のこほりにおはしますかものだいみやうじんへこのよしをつげまをさせたまひて、えんりやく十三ねん十ぐわつはつか、
ながをかのみやこよりこのみやこへうつされて、ていわうは三十二だい、さいせうは三百八十よさいのしゆんしうをおくり
むかふ。さればしゆんしう、よよのみかど、みやこをくにぐにしよしよへうつされしかども、かくのごときのしよちなは
しと、かんむてんわうことにしつしおぼしめして、ちやうきうなるべきやうとて、しよだうのざいじんらにあふせ
て、つちにて八しやくのにんぎやうをつくり、くろがねのよろひかぶとをきせ、おなじうくろがねのゆみやをもたせて、まつだい
といふとも、このみやこをたこくへうつすものあらば、しゆごじんとならんとちかひつつ、ひんがしやまのみね
に、にしむきにたててぞうづまれける。さればてんかにこといでこんとては、かのつかかならずめいどうす。

しやうぐんがつかとていまにあり。

なかんづく、このみやこは、へいあんじやうとなづけて、たひらやすきみやことかけりもつともへいけのあがむべきみやこぞか
し。かんむてんわうとまをすはへいけののうそにておはします。せんぞのきみのさしもしつしおぼしめしつる
みやこを、にふだうさうこくの、させるゆゑなうして、たこくたしよへうつされけることこそあさましけれ、
ひととせさがのくわうちいのおんとき、へいぜいのせんてい、ないしのかみのすすめによつて、すでにこのみやこをたこくへうつさん
とせさせたまひたりしかども、だいじんくぎやう、しよこくのじんみんことごとくそむきまをししかば、うつされず
してやみにき。いつてんのきみばんじようのあるじさへ、うつしえたまはぬみやこを、にふだうさうこく、じんみんのみとし
て、たこくたしよへうつされけることこそあさましけれ、きうとはあはれめでたかりしみやこぞかし。
わうじやうしゆごのちんじゆは、しはうにひかりをやわらげ、れいげんしゆしようのてらでらは、じやうげにいからをならべたり。ひやく
しやうばんみんわづらひなく、五き七だうもよりあり。されどもいまはつじつじをほりきつて、くるまなん
どのたやすうゆきかよふこともなく、たまさかにゆくひとは、こぐるまにのり、みちをへてこそとほられ
けれ、のきをあらそひしひとのすまひ、ひをへつつあれゆき、いへいへはかもがは、かつらがはにこぼちいれ、
いかだにくみうかべ、しざいざふぐふねにつみ、ふくはらへとてはこびくだす。ただなりにはなのみやこ、ゐなかに

なるこそかなしけれ。なにもののしわざにやありけん、ふるきみやこのだいりのはしらに、二しゆのうたを
ぞかきつけける。
もととせを四かへりまでにすぎきにしをたぎのさとのあれやはてなん
さきいづるはなのみやこをふりすててかぜふくはらのすゑぞあやふき(以上間之物)
六ぐわここぬかのひ、しんとのことはじめあるべしとて、ことはじめのぶぎやうには、とくだいじのさだいしやうじつてい
のきやう、つちみかどのさいしやうのちうじやうのとうしんのきやうとぞきこえし。ぶぎやうのべんには、させうべんゆきたか、おほくの
くわんじんどもをひきぐして、たうごくわだのまつばら、にしののをてんじて、九でうのちをわられけるに、
一でうより五でうまではそのところありて、それよりしもはなかりけり。ぎやうじくわんかへりまゐつて、こ
のよしそうもんせられたりければ、さらばはりまのいなみのか、なほせつつのくにのこやのかなんど、
くげせんぎありしかども、ことゆくべしともみえざりけり。きうとをばすでにおかれぬ。しんと
はいまだことゆかず。ありとしあるひとは、みなみをうきぐものおもひをなし、もとここにすむもの
は、ちをうしなつてうれへ、いまうつるひとびとは、どぼくのわづらひをのみなげきあへり。すべてただゆめのや
うなつしことどもなり。つちみかどのさいしやうのちうじやう、とうしんのきやうのまをされけるは、いこくには三でう
のくわうろをひらいて、十二のとうもんをたつとみえたり。いはんや五でうまであらんみやこに、などかだい
じをばたてざるべき、かつかつまづさとだいりつくらるべしと、五でうのだいなごんくにつなのきやうの、

りんじにすはうのくにをたまはつて、ざうしんせらるべきよし、にふだうさうこくはからひまをされたりけるとや。そもそも
このくにつなのきやうとまをすは、ならびなきだいふくちやうじやにておはしければ、だいりつくりいだされんこと、
さいうにおよばねども、いかんがくにのつひえ、たみのわづらひなかるべき。まことにさしあたりたるてんがのだい
じ、だいしやうゑなんどのおこなはるべきをさしおいて、かかるよのみだれに、せんと、ざうだいりすこし
もさうおうせず。いにしへのかしこきみよには、すなはちだいりにかやをふき、のきをだにもととのへず。けむりの
ともしきをみたまふときには、かぎりあるみつぎものをもゆるされけり。これすなはちたみをめぐみ、くにをたすけたま
ふによつてなり。そ、しやうくわのだいをたててれいみあらげ、しん、あばうのでんをおこしてはてんかみだる
といへり。ばうしきらず、さいてんけつらず、ふしやかざらず、いふくあやなかりけるよもありけんも
のを、さればたうのたいそうのりさんみやをつくつて、たみのつひえをやはばらせたまひけん、つひにりんかうなく
して、かはらにまつおひ、かきにつたしげつて、やみにけるにはさうゐかなとぞ、ひとまをしける。

六ぐわ九かのひ、しんとのことはじめ、八ぐわ十一にちのひじやうとう、十一ぐわ十三にちせんかうとさだめらる。
ふるきみやこはあれゆけば、いまのみやこははんじやうす。あさましかりつるなつもくれて、あきにもすでにな
りにけり。あきもやうやうなかばになりゆけば、ふくはらのしんとにましますひとびと、めいしよのつきをみ

んとて、あるひはげんじのたいしやうのむかしのあとをしのびつつ、すまよりあかしのうらづたひ、あはぢのせとを
おしわたり、ゑしまがいそのつきをみる。あるひはしらうら、ふきあげ、わかのうら、すみのえ、なには、たさご、をの
へのつきのあけぼのを、ながめてかへるひともあり。きうとにのこるひとびとは、ふしみ、ひろさはのつきをみる。な
かにもとくだいじのさだいしやうじつていのきやうは、ふるきみやこのつきをこひつつ、八ぐわつ十かあまりに、ふくはら
よりぞのぼりたまふ。なにごともみなかはりはてて、まれにのこるいへは、もんぜんくさふかくしてていじやうつゆしげし。
よもぎがそま、あさじがはら、とりのふしどとあれはてて、むしのこゑごゑうらみつつ、くわうきくしらんののべと
ぞなりにける。いまこきやうのなごりとては、このゑがはらのおほみやばかりぞましましける。たいしやうこ
のごしよへまゐり、まづずゐしんをもつて、そうもんをたたかせらるれば、うちよりにようばうのこゑにて、たぞ
や、よもぎふのつゆうちはらふひともなきところにと、とがむれば、これはふくはらより、だいしやうどののおんのぼ
りざふらふとまをす。ささふらはば、そうもんなはぢやうのさされてさふらふに、ひんがしのこもんよりいらせたまへとまを
しければ、だいしやうさらばとて、ひんがしのこもんよりぞまゐられける。おほみやはおんつれづれのあまり
に、むかしをやおぼしめしいでさせましましけん。なんめんのみかうしあげさせ、おんびはあそばされ
けるをりふし、だいしやうつつとまゐられたり。おほみやいかにやいかに、ゆめかやうつつか、これへこれへとぞ
めされける。げんじのうぢのまきには、うばそくのみやのおんむすめ、あきのなごりををしみつつ、びはを
しらべてよもすがら、こころをすましたまひしに、ありあけのつきのいでけるを、なほたへずやおぼしけ

ん、ばちにてまねきたまひけんも、いまこそおぼしめししられけれ。まつよひのこじじゆうとまをすにようばうも、
このごしよにぞさふらはれける。そもこのにやうばうをまつよひとめされけることは、あるときごぜんより、まつ
よひ、かへるあした、いづれかあはれはまされるとあふせければ、かのにようばう、
まつよひのふけゆくかねのこゑきけば
かへるあしたのとりはものかは
とまをしたりけるゆゑにこそ、まつよひとはめされけれ。だいしやうこのにようばうをよびだしいて、むかし、いま
のものがたりどもしたまひてのち、さよもやうやうふけゆけば、ふるきみやこのあれゆくを、いまやうにこ
そうたはれけれ、
ふるきみやこをきてみれば あさぢがはらとぞあれにける
つきのひかりはくまなくて あきかぜのみぞみにはしむ
とおしかへしおしかへし、三べんうたひすまされたりければ、おほみやをはじめたてまつつて、ごしよちうのにようばう
たち、みなそでをぞぬらされける。さるほどによもやうやうあけゆけば、だいしやういとままをしつつ、
ふくはらへこそかへられけれ。ともにさふらふくらんどをめして、じじゆうがなんとおもふやらん、あまりにな
ごりをしげにみえつるに、なんぢかへつてともかうもいうてこよとのたまへば、くらんどはしりかへりかしこまつ
て、これはだいしやうどののまをせとさふらふとて、

ものかはときみがいひけんとりのねの
けさしもなどかかなしかるらん
にやうばうとりあへず、
またばこそふけゆくかねもつらからめ
かへるあしたのとりのねぞ憂き
くらんどはしりかへつて、このよしをまをしたりければ、さてこそなんぢをばつかはしたれとて、たいしやうおほきに
かんぜられけり。それよりしてこそ、ものかはのくらんどとはめされけれ。

へいけみやこをふくはらへうつされてのちは、ゆめみもあしう、つねはこころさわぎのみして、へんぐえのものども
おほかりけり。あるよにふだうさうこくのふしたまへるところに、ひとまにはばかるほどのもののおもてのきたつて、のぞき
たてまつる。にふだうもさるおそろしきひとにて、ちつともさわがず、はたとにらまへておはしければ、た
だぎえにきえうせせぬ。をかのごしよとまをすは、あたらしうつくられたれば、しかるべきたいぼくなども
なかりけるが、あるよにはかにおほきのたほるるおとして、ひとならば二三百にんがこゑして、こくうにど
つとわらふおとしけり。いかさまにも、これはてんぐのよゐといふさたにて、ひる五十にん、よる百
にんのばんしをそろへ、ひきめのばんとなづけて、ひきめをいさせられけるに、てんぐのあるかたへむ

いていたるとおぼしきときは、おともせず。またなきかたへむいていたりとおぼえしときは、こくうに
どつとわらふおとしけり。またあるあした、にふだうさうこくちやうだいよりいでて、つまどおしひらき、つぼのうち
をみたまふに、しにんのしやれかうべども、いくらといふかずもしらず。みちみちて、うへなるはしたにな
り、したなるはうへになり、なかなるははしへころびいで、はしなるはなかへころびいり、かやにから
めきあへりければ、にふだうさうこく、ひとやあるあるとめされけれども、をりふしひともまゐらず、か
くしおほくのしやれかうべどもがひとつによりあひ、つぼのうちにはばかるほどになつて、十四五ぢやうもある
らんとおぼゆる、やまのごとくになりにけり。かのひとつのおほがしらに、いきたるひとのめのやうなる
だいのめが千まんいできたて、にふだうさうこくをはたとにらまへてたてまつつて、しばしはまたたきもせず。にふ
だうもちともさわがず、ちようとにらまへておはしければ、あさしものひにあたつてきゆゆるやうに、
あとかたもなくなりにけり。またにふだうさうこくのさしもひざうして、てうせきなでかはれけるうまのを
に、ねずみ一やのうちにすをくひ、こをぞうんだりける。これただごとにあらず。みうらあるべし
とて、おんやうしをめしてうらなはせらるるに、おもきおんつつしみとうらなひまをす。ただしこのうまはさがみのくに
のぢうにん、おほばの三らうかげちかが、とう八かこくいちのうまとて、にふだうだいさうこくへまゐらせたりけるとか
や、くりげなるうまのひたひのすこししろかりければ、もちづきとぞまをしける。おんやうのかみあべのたいしんがたまは
つてんげり。むかしてんちてんわうのおんとき、れうのおんまのをに、ねずみいちやのうちにすをくひ、こをうん

だりけるには、いこくのきようぞくほうきしたりとぞ、につほんぎにはみえたりける。またがらいのきやうの
もとにめしつかはれける。せいしがみたりけるゆめもおそろしかりけり。たとへば、たいだいのじんぎくわんと
おぼしきところに、そくたいただしきじやうらうのかずおほくましまして、ぎぢやうのやうなることのありしに、ばつざ
なるじやうらうのへいけのかたうどしたまふとおぼしきを、そのなかよりしておつたてらる。はるかのざじやうにおん
けだかげなるおんしゆくらうのましましけるが、このほどへいけのあづかりたてまつたるせつたうをばめしかへいて、
いづのくにのるにん、さきのうひやうゑのすけよりともにたまふずるとぞあふせければ、そのそばになほおんしゆくらうのま
しましけるが、そののちはわがまごにもたまへかしとぞあふせける。せいしのゆめのうちに、あるらうをうに
しだいにこれをとひたてまつるに、ばつざなるじやうらうの、へいけのかたうどしたまふとおぼしきは、いつくしまのだい
みやうじん、せつたうをよりともにたまふとあふせらるるは、八まんだいぼさつ、そののちはわがまごにもたまへかしと
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みてさめてのち、これをひとにかたるほどに、にふだうさうこくもれききたまひて、がらいのきやうのもとへししや
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なれども、ぜんせいをきいてはかんじ、うれひをきいてはなげく、これみなにんげんのならひなり。

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けるは、さんぬる八ぐわ十七にち、いづのくにのるにん、さきのうひやゑのすけよりとも、ほうでうの四らうときまさを
つかはして、いづのくにのもくだいいづみのはうぐわんかねたかを、やまきがたちにてようちにうちさふらひぬ。そののち
どひ、つちや、をかざきをさきとして、三百よき、いしばしやまにたてこもつてさふらふところを、かげちかみかたにこころざし
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みかたをつかまつる。みうらのおほすけがこども、三百よきで、げんじのみかたをして、ゆゐこつぼのうらで
せめたたかふ、はたけやまいくさにまけて、むさしのくにへひきしりぞく、そののちはたけやまがいちぞく、かはごえ、いなげ、をやま
だ、えど、かさい、これをはじめてそうじてななだうのつはものどもことごとくおこりあひ、つがふそのせい二千よにん、
みうらきぬがさのしいにおしよせて、一にちいちやせめさふらへば、おぼすけうたれさふらひぬ。こどもはみな九
りはまのうらよりふねにのつて、あはかづさへわたりさふらへぬとこそひとまをしけれ。

へいけのひとびとは、かやうのことどもにみやこうつりのこともはやきようさめぬ。わかきくげでんじやうびとは、
あはれとくして、ことのいでよかし、われさきにうつてにむかはうなんどいふぞはかなき。はたけ
やまのしやうじしげよし、をやまだのべつたうありしげ、うつのみやのさゑもんともつな、これらはだいばんやくにて、をりふし
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のげんじらはいかんかよりとものかたうどはつかまつらんとはよもまをしさふらはじ、いまみよたんだいまにきこしめ
しなおさんずるものをとまをしければ、げにもとまをすひともあり、いやいやただいまおんだいじにおよ
びさふらひなんずと、ささやくひともありけるとかや。にふだうさうこくのいかられけるさまななめならず。
そもかのよりともは、さんぬるへいぢぐわんねん十二ぐわつ、ちちよしともがむほんによつて、そのときすでにちうせらる
べかつしを、こいけのぜんにのあながちになげきたまふあひだ、るざいにはなだめんたんなり。しかるをそのをん
をわすれて、たうけにむかつてゆみをひき、やをはなつにこそあんなれ。そのぎならば、しんめいも三
ばうも、いかでかゆるしたまふべき。いまみよただいまてんのせめかふむらんずるよりともかなとぞのたまひける。
そもそもわがてうにてうてきのはじまりけることは、むかし、やまといはれひこのみことのぎよう四ねん、きしうなぐさのこほりたかを
のむらに、ひとつのちちうあり。みみじかくてあしながくして、ちいからひとにすぐれたり。にんみんおほくそんがいせし
かば、くわんぐんはつかうして、せんじをよみかけ、くずのあみをむすんで、つひにこれをおほひころす。それ
よりこのかたやしんをはさんで、てうゐをほろぼさんとするともがら、おほいしのやままる、おほやまのみこ、やまだ

のいしかは、もりやのだいじん、そがのいるか、おほとものまとり、ぶんやのみやだ、きついつせい、ひがみのかはつぎ、
いよのしんわう、だざいのせうじふぢはらひろつぎ、ゑみのおしかつ、さはらのたいし、ゐがみのくわうごう、ふぢはらのなか
かり、たひらのまさかど、ふぢはらのすみとも、あべのさだたう、むねたう、さきのつしまのかみみなもとのよしちか、あくさふ、あく
ざゑもんのかみにいたるまで、そのれいすでに二十よにん。されどもひとりとして、そくわいをとぐるものな
し。みなかばねをさんやにさらし、かうべをごくもんにかけらる。このよこそわうゐもむげにかろけれ。むかしはせん
じをむかつてよみければ、とびとりもおちくさきもゆるぐばかりなり。ちかごろのことぞかし、あるとき
えんきのみかど、しんぜんえんへぎやうかうなつて、いけのみぎはにさぎのゐたりけるを、六ゐをめして、あのさぎ
とつてまゐれとあふせければ、いかでかとらるべきとはおもへども、りんげんあればあみみむかふ。
さぎははづくろひしてたたんとす。せんじぞとあふすれば、ひらんでとびさらず。すなはちこれを
とつてまゐらせたりければ、なんぢがせんじにしたがうて、まゐりたるこそしんぺうなれ。やがて五ゐにな
せとて、さぎを五ゐにぞなされける。けふよりのち、さぎのうちのわうたるべしといふ、おんふだを
みづからあそばいて、かうべにつけてぞはなたせたまふ。まつたくこれはさぎのおんれうにあらず。ただわうゐのほどを
しろしめさんがためなり。

いこくにまたせんじゆうをとぶらふに、えんのたいしたん、しんのしくわうていにとらはれて、いましめをかふむること十二
ねん、あるときえんたんしくわうにむかつて、わがこきやうにらうぼあり、いとまをたまはつて、かれをみんといひければ。
しくわうていあざわらつて、なんぢにいとまをたはんこと、うまにつのおひ、からすのかしらのしろくならんをまつべき
なり、とぞのたまひける。えんたんてんにあふぎちにふして、あふぎねがはくはうまにつのおひ、からすのかしらしろく
なしたまへ、いまいちどほんごくへかへつて、ははをみんとぞいのりける。かれのめうおんぼさつは、りやうぜんじやう
どにけいして、ふきやうのともがらをいましめ、かうし、がんくわいは、しなしんたんにいでて、ちうかうのみちをはじめたま
ふ。みやうけんのさんばう、かうかうのこころざしをあはれみたまひ、うまにつのおひてきうちうにきたり、からすのかしらしろくなつ
てていぜんのきにすめりけり。しくわうてい、うとうばかくのへんにおどろき、りげんかへらざることをふかくしん
じて、たいしたんをなだめつつ、ほんごくへこそかへされけれ。しくわうていなほくやしみたまひて、えんのくにと
しんのくにのさかひにそこくといふくにあり。おほきなるかはながれたり。かのかはにわたせるはしをば、そこく
のはしといへり。しくわうていさきにくわんぐんをつかはして、えんたんがわたらんとき、ふまばなかにて、おつるや
うにしたためて、わたされたりければ、なじかはよかるべき、かはなかにおちいりぬ。されど
もちともみづにはおぼれず、へいぢをゆくがごとくにて、むかひのきしにぞつきにける。こはいか
にとおもひ、うしろをかへりみたりければ、かめどもがいくらといふかずをしらず。みづのうへにうかびきて、
かうをいちめんにならべてぞあゆませたりける。これもかうかうのこころざしを、みやうけんのあはれみたまふによつて

なり。たんなほうらみをふくんで、しくわうていにはしたがひたてまつらず。しくわうていくわんぐんをつかはして、えんたん
をほろぼさんとせらる。えんたんおそれをののいてけいかといふつはものをかたらつて、だいじんになす。けいか
またでんくわうせんせいといふつはものをかたらふに、かのせんせいまをしけるは、きみはこのみがわかうさかんなつし
こととしろしめして、かくはたのみあふせらるるか、きりんは千りをとべども、おいぬればど
ばにもおとれり。このみはとしおいて、いかにもかねひさふらふまじ。、せんずるところ、よきつはものをかたら
つてこそまゐらせめ、とていでければ、けいかたもとをひかへて、あなかしこ、なんぢこのことひろうす
なといひければ、にんげんのはぢにひとにうたがはれぬるにすぎたることこそなけれとて、けいかがもん
ぜんなるすもものきにかしらをつきあて、うちくだいてぞしににける。またはんよきといふつはものあり。これ
はもとしんのくにのものなりしが、しくわうのために、おや、おぢ、きやうだいをほろぼされて、えんのくににに
げこもりぬ。しくわうてい四かいにせんじをなしくだし、えんのさしづ、ならびにはんよきがかうべをもつてまゐりたら
んずるものには、五百こんのきんをあたへんとひろうせらる。けいか、はんよきがもとにゆいて、われき
く、なんぢがかうべ五百こんのきんにはうぜられたり。なんぢがかうべわれにかせ、とつてしくわうていにたてまつり。よろこん
でえいらんをへられんとき、つるぎをぬいてむねをささんはやすかりなん、といひければ、はんよきをど
りあがりあがり、おほいきついてまをしけるは、われしくわうのためにおや、おぢ、きやうだいを、ほろぼされて、
ちうやこれをおもふに、こつずゐにとほつつてしのびがたし。まことにしくうていうちたてまつるべくば、わがかうべなんぢ

にあたへんことちりあくたよりもなほやすしとて、みづからかうべをはねてぞしににける。またしんびやうといへ
るへいあり。これももとしんのくにのものなりしが、十三のとしかたきをうつて、えんのくにへにげこもりぬ。
かれがゑんでむかふときは、みどりごもいだかれ、またいかつてむかふときは、だいのをとこもせつじゆす。けいかか
れをかたらつて、しんのみやこのあんないしやにぐしてゆくに、あるかたやまさとにしゆくしたりけるよ、そのへんちか
きさとにくわんげんをしけるてうしをもつて、わがほんいのことをうらなふに、かたきのかたはみづなり、わがかた
はひなり、さるほどにてんもあけぬ。はくこうひをつらぬいてとほらず、わがほんいとげんことありがた
し、とぞうらなうたる。されどもかへるべきにあらずして、しんのみやこかんやうきうにいたりぬ。まづつかひ
をもつてさきにそうもんしたりければ、しんかをもつてうけとらうどしたまふ、まつたくひとづてにはわたしたてまつる
べからず、ぢきにたてまつらうどそうするあひだ、さらばとてにはかにせちゑのぎをととのへて、えんのつかひをめさ
れけり。かんやうきうは、みやこのめぐり一まむぱつせん三百八十りにつもれり。だいりをば、ぢより三りたか
くつきあげて、そのうへにぞたてられたる。ちやうせいでんなり、ふらうもんなり、こがねをもつてひをつく
り、しろがねをもつてつきをつくれり。しんじゆいさご、るりのいさごこがねのいさごをしきみてり。しはう
にはくろがねのついぢをたかさ四十ぢやうにつかせ、でんのうへにはおなじうくろがねのあみをぞはりたりける、これ
はめいどのつかひをいれじとなり。あきはたのものかり、はるはこしぢへかへるも、ひぎやうじざいのさはりあり
とて、ついぢにはがんもんとなづけて、くろがねのもんをあけてぞとほされける。またあばうでんとて、しくわう

のつねはぎやうがうあつて、せいだうおこなはせたまふてんあり。たかさは三十六ぢやうなり。とうさいへ九ちやう、なんぼく
へ五ちやう、おほゆかのしたには五ぢやうのはたほこをたてたれども、なほおよばぬほどなり。いへにはるりのかはら
をふき、したにはきんぎんをもつてみがきたてたり。けいかはえんのさしづをもち、しんぶやうははんよきが
かうべをもつて、たまのきざはしをのぼりあがりけるが、あまりにだいりのおびただしきをみて、しんぶやうわなわ
なとぞふるひける、しんかこれをあやしんで、ぶやうむほんのこころありけいじんをばきみのそばにおかず、くん
しはけいじんにちかづかず、ちかづけばすなはちしをかろんずるゆゑなりといへば、けいかたちかへつて、しんぶ
やうまつたくむほんのこころなし、ただでんじやのいやしきののみならつて、くわうきよみざるがゆゑに、こころいまめいわくす
といひければ、しんかみなしづまりぬ。そのときよつてわうにちかづきたてまつり、えんのさしづ、ならびにはんよき
がかうべをおんげんざんにいるところに、さしづのいつたりけるひつのそこに、こほりのやうなるつるぎのありける
を、しくわうていみつけたまひて、はやにげんとしたまへば、けいかおんそでをむづとひかへて、つるぎをむね
にさしあててたり。いまはかうとぞみえし。すまんのぐんりよはていじやうにそでをつらぬといへども、すく
はんとするにちからなし。ただこのきみぎやくしんにをかされさせたまはんことをのみ、なげきかなしみあへり
けり。しくわうていわれにざんじのいとまをえさせよ、きさきのきんのねをいまいちどきかんとのたまへば、けいか
しばしはをかしたてまつらず。しくわうていは三千にんのきさきをもちたまへり、うちにもくわやうぶにんとて、ならびなき
きんのじやうづおはしき。かのきさきのきんのねをきけれあ、なけきもののふのこころもやわらぎ、とぶとりもおち、

くさきもゆるぐばかりなり。いはんやいまをかぎりのえいぶんにそなへんと、ひきたまふにや、けいかもかうべ
をうなだれ、みみをそばだてて、ほとんどぼんしんのおもひもはやたゆみにけり。そのとききさきはじめてさら
にいつきよくをそうす。しつせゐのへいふうはたかくども、をどらばなどかこえざらん。いつでうのらこくはつよく
とも、ひかばなどかたえざらん、とぞはじきたまふ。けいかはこれをききしらず。しくわうていは
ききしつて、おんそでをひつきり、しちしやくのびやうぶををどりこえて、あかがねのはしらのかげへにげかくれさせ
たまひけり。そのときけいかいかつて、わうにつるぎをなげかけたてまつる。をりふしごぜんにばんのいしのさふらひける
が、つるぎのくすりのふくろをなげあはせたり。つるぎ、くすりのふくろをかけられながら、くちろくしやくのあかがねのはしらを
なからまでこそきつたりけれ。けいかつるぎをふたつもたねば、つづいてもなげず、わうたちかへつておん
つるぎをめしよせて、けいかをやつざきにこそしたまひけれ。しんぶやうもうたれぬ。しくわうていまづくわんぐん
をつかはしてえんたんをもほろぼさる。さうてんゆるしたまはねば、はくこうひをつらぬいてとほらず、しんのしくわうはのが
れて、えんたんつひのほろびにけり。さればいまのよりともも、さこそはあらんずらめとしきだいするひと
もありけるとかや。

『なかんづくかのよりともは、さんぬるへいぢぐわんねん十二ぐわ、ちちよしともがむほんによつて、そのときすでにちう

せらるべかりしを、こいけのぜんぢのあながちになげきたまふあひき、しやうねん十しさいとまをしし、えいりやくぐわんねん
三ぐわに、ほうでうひるがこじまへながされて、二十よねんのしゆんしうをおくりむかふ。さればねんらいもあれば
こそありけめ、ことしかなるこころにてぞ、むほんをばおこされるけるぞといふに、ひとへにたか
をのひじりもんがくばうに、すすめまをせれけるによつてなり』。そもそもこのもんがくしやうにんとまをすは、わたなべの
ゑんどうさこんのしやうげんしげとほがこに、ゑんどうむしやもりとほとて、しやうせいもんゐんのしゆうなり。しかるを十九の
とし、にはかにだうしおこし、もとどりきり、しゆぎやうにいでんとしけるが、しゆぎやうといふはいかほどのだいじや
らん、ためいてみんとて、六ぐわつのひのくさもゆるがずてつたるに、あるかたやまさとのやぶのなか
へはいり、はだかになり、あふのけにふす。あぶぞ、かぞ、はち、ありなんどいふどくむしどもが、みに
ひしととりついて、さしくひなんどしけれども、ちつともみをもはたらかさず。七かま
えはおきもあがらず。かくて八かといふにおきあがつて、しゆぎやうといふはこれほどのだいじやらんと、
ひとにとへば、それほどならんには、いかでかひとのいのちもいくべきといふあひだ、さてはあんぺいご
さなれとて、やがてしゆぎやうにこそいでたんなれ。くまのへまゐり、なちごもりせんとしける
が、まづぎやうのこころみにきこゆるたきにしばらくうたれてみんとて、たきもとへこそあゆみむかはれ
けれ。ころは十にんぐわ十かあまりのことなれば、ゆきふりつもり、つららいて、たにのをがはもおともせず、
みねのあらしふきこほり、たきのしらいとたるひとなつて、みなしろたへにおしなべて、よものこずゑもみえわか

ず。しかるにもんがく、たきつぼにおりひたり。くびぎはつかつて、じくのじゆをみてけるが、二三にち
こそありけれ、四五にちにもなりしかば、もんがくこらへずしてうきあがりぬ。す千ぢやうみなぎりおつ
るたきなれば、なじかはたまるべき。ざつとおしおとされ、かたなのはのごとくに、さしもきびきし
いはかどのなかを、うきぬしづみぬ五六ちやうこそながれけれ。ときにうつくしきどうじひとりきたつて、もんがく
がてをとつてひきあげたまふ。ひときどくのおもひをなして、ひをたきあぶりなんどしければ、
ぢやうごふならぬいのちではあり、もんがくほどなくいきいでぬ。だいのまなこをみいからかし、しんばしにらまへて、
われこのたきに三七にちうたれて、じくの三らくしやをみてうどおもふだいぐわんなるが、けふはわづか五か
にこそなれ、いまだ七かだにもすぎざるに、なにものかこれまではとつてきたれるぞといひけ
れば、きくひとみなみのけもよだつて、ものいはず、またたきつぼにおりひたつてぞうたれける。だい
二かとまをすに、また八にんのどうじきたつて、もんがくがさいうのてをとつて、ひきあげんとしたまへ
ば、さんざんにつかみあうてあがらず。だい三かとまをすに、もんがくつひにはかなくなりにけり。たきつぼ
をけがさじとやおもはれけん、たきのうへよりびんづらゆうたるてんどうふたりおりくだらせたまひて、よに
あたたかにかんばしきおんてをもつて、もんがくがちやうじやうより、てあしのつまさきたなうらにいたるまで、なでくださせ
たまへば、もんがくゆめのここちしていきいでぬ。たすけおこされすこしひとごごちついて、是はさればいか
なるひとにてましませば、わがぎやうをかくはあはれみたまふぞといひければ、二どうじこたへていはく、

われはこれだいしやうふどうみやうわうのおんつかひに、こんがら、せいたかといふ二どうじなり。もんがくむじやうのぐわん
をおこし、ゆうみやうのぎやうをくはだつ、ゆいてちからをつけよと、みやうわうのちよくによつてきたれるなり、とぞ
のたまひける。もんがくこゑをいからかいて、さてみやうわうはいづこにましますぞととひたてまつれば、とそつてん
にとこたへて、くもゐはるかにあがりたまひぬ。もんがくさてはわがぎやうをば、だいしやうふどうみやうわうまでもし
ろしめされたるにこそと、いよいよたふとくおぼえたなごころをあはせて、なほたきつぼにかへりたつてぞうたれ
ける。そののちはまことにめでたきずゐさうどもおほかりければ、ふきくるかぜもみにしまず、おちく
るみづもゆのごとし。かくて三七にちのだいぐわん、つひにとげしかば、なちに千にんこもりけり。おほみね
三ど、かつらぎ二ど、かうや、こがは、きぶうぜん、はくさん、たてやま、ふじのだけ、いづ、はこね、しなのの
とがくし、ではのはぐろ、そうじてにほんこくのこるところなうおこなひまはり、さすがなほこきやうやこひしかりけ
ん、みやこへかへりのぼつたりければ、およそとぶとりをもいのりおとすほどの、やいばのけんじやとぞきこえし。

そののちもんがくは、たかをといふやまのおくに、おこなひすましてぞゐたりける。かのたかをにじんごじ
といふやまでらあり。これはむかししようとくてんわうのおんとき、わげのきよまろがたてたりしがらんなり。ひさし
くしうざうなかりしかば、はるはかすみにたちこめて、あきはきりにまじはり、とびらはかぜにたふれて、おちばの

もとにくち、いからはあめつゆにをかされて、ぶつだんさらにあらはなり。ぢうぢのそうもなければ、まれにさ
しいるものとては、ただつきひのひかりばかりなり。もんがくいかにもして、このてらをしうざうせんとおも
ふだいぐわんおこし、くわんじんちやうをささげて、十ばうだんなをすすめありきけるが、あるとき、ゐんのごしよ、
ほふぢうぢどのへぞさんじたる。ごほうがあるべきよしをそうもんす。ぎよいうのをりふしではあり、きこしめ
しもいれざりければ、もんがくはごぜんのことなきやうをばしらずして、たたひとがまをしいれぬぞ
とこころえて、もとよりこのもんがくはふてきだい一のあらひじりにてはあり、ぜひなくおつぼのうちへやぶりい
り、だいおんじやうをあげて、だいじだいひのきみにてまします。これほどのことなどかきこしめしいれざる
べきとて、くわんじんちやうをひきひろげて、たからかにこそようだりけれ。しやみもんがくうやまつてまをす、
ことにはきせんだうぞくのじよじやうをかふむり、たかをさんのれいちにいちゐんをこんりふし、二せあんらくのだいりをごんぎやう
せんとこふ。くわんじんのじやう、それおもんみれば、しんによくわうだいなり、じやうぶつのけみやうをたつといへども、
ほつしやうずゐまうのくもあつくおつて、十二いんえんのみねにたなびきしよりこのかた、ほんうしんれんのつきのひかりかすか
にして、いまだ三どく四まんのたいこにあらはれず。かなしきかな、ぶつにちはやくぼつして、しやうじるてんの
ちまたみやうみやうたり。ただいろにふけりさけにふけり、たれかきやうざうてうゑんのまどひをしやせん、いたづらにひとをばうじほふを
けうず、これあにえんらごくそくのせめをまぬかれんや。ここにもんがくたまたまぞくぢんをうちはらつて、ほふえをかざると
いへども、あくごふなほこころにたくましうして、にちやにおこり、ぜんべうまたみみにさかつててうぼにすたる。いたま

しきかな、ふたたび三づのくわきやうにかへつて、ながく四しやうのくりんをめぐらんことを。このゆゑにむ
にのけんしやうせんまんぢゆく、ぢゆくぢゆくにぶつしゆのいんをあかし、ずゐえんしじやうのほふ、ひとつとしてぼだいのひがん
にいたらずといふことなし。かるがゆゑもんがくむじやうのくわうもんになみだをながし、じやうげのしんぞくをすすめて、じやうぼん
れんだいにえんをむすび、とうみやうがくわうのれいぢやうをたてんとなり。それたかをはやまうづたかうして、じゆぶぜん
のこずゑをへうし、たに、しづかにしてしやうざんとうのこけをしけり。がんせんむせんでぬのをひき、りやうゑんさけんでえだ
にあそぶ。ひとざととほくしてけいぢんなし、しせきことなうしてしんじんのみあり。ちけいすぐれたり。もつともぶつ
てんをあがむべし。ほうが少こしきなり、たれかじよじやうせざらん。ほのかにきく、じゆしやゐぶつたふ、くどく
たちまにぶついんをかんず。いはんや一しはんせんのはうざいにおいてをや。ねがはくはこんりうじやうじゆして、きんけつほうれき、
ごぐわんゑんまん、ないしとひゑんきんりみん、しそ、げうしゆんぶゐのくわをうたひ、ちんえふさいくわいのゑみをひらかん。
ことにはまたしやうりやういうぎ、ぜんごだいせう、すみやかにいちぶつしんもんのうてなにいたり、かからず三じんまんどくのつきをもてあそばん。
よつてくわんじんしゆぎやうのおもむき、けだしもつてかくのごとし。ぢしよう三ねん三ぐわつのひ、もんがくとこそよみあげ
たれ。

ごぜんには、めうおんゐんのだいじやうのおほいとの、おんびはあそばし、らうえいめでたうせさせおはしま

す、あぜちのだいなごんすけかたのきやう、ひやうしとつてふうぞくさいばらうたはる。しそくうまのかみすけとき、四
ゐのじじゆうもりさだわこんかきならし、いまやうとりどりうたはれけり。たまのすだれにしきのとばりのうちまでさざ
めきわたつて、まことにおもしろかりければ、ほふわうもつけうたせさせおはします。それにもんがくがたいおん
じやうぞいできて、てうしもたがひ、ひやうしもみなみだれにける。なにものぞらうぜきなり、そくびつけとあふせくださ
るるほどこそありけれ。ゐんぢうのはやりをのつはものども、われさきにわれさきにとはしりいでけるなかには、すけ
ゆきはうぐわんといふものまつさきにすすんで、なにものぞらうせきなりぎよいうのをりふしであるに、とうとうまかり
いでよといひければ、もんがく、たかをのじんごじへ、しやうをいつしよよせられざらんかぎりは、まつたく
いづまじとて、ごかず。よつてそくびをつかうどすれば、くわんじんちやうをとりなほし、すけゆきはうぐわん
がゑぼしをはたとうつてうちおとし、こぶしをつよくにぎり、むないたをばくとついて、うしろへのけにつ
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そののちもんがくはふところより、うまのをでつかまいたりけるかたなの、こほりのやうなるをぬきもつて、より
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をみせたまひたれば、たんだいまにおもひしらせたてまつらん。わうきうといふとも、いかでかそのなんをばのが
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そのほふしきくわいなり、きんごくせよとてきんごくせらる。すけゆきはうぐわんは、ゑぼしうちおとされたるはぢが
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がくほどなくゆるされけり。さらばいづくにてもおこなふべかりしを、またくわんじんちやうをささげて、十ばうだん
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いづのくにへぞながされける。いせのくにあののつよりふねにてくださるべしとて、いせうのくにへ
ゐてまかるに、はうべんりやう三んにんをぞつけられける。これらがまをしけるは、ちやうのしもべのならひ、
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いひける、もんがくはさやうにようじいふべきとくはなし。さりながらも、ひがしやまのあたりにこそ
とくいはあれ、いでふみをやらうどいひければ、けしかるかみをたづねてえさせたり。もんがくか
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かかるきみのよにしもあうて、ほうがをこそしたまはざらめ。あまつさへ、をんるせよとて、をんるせられ
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にたべといふ。いふままにかいて、さてたれどのへとかきさふらふべきやらんとまをしければ、
きよみづのくわんおんばうへとかけといふ。それはいつかうちやうのしもべをあざむくにこそあれといひければ、

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におほかぜふき、おほなみたつて、すでにこのふねをふちかへさんとす。かこかんどりども、あるひはくわんおんのみやう
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ぞふしたりける。すでにかうとみえしとき、もんがくおきあがり、ふなばたにたちいで、おきのかたをにらま
へ、だいおんじやうをあげて、りうわうやあるあるとぞようだりける。これほどまでだいぐわんおこしたるひじりが、
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いでけるひよりして、こころのうちにきせいすることありけり。われみやこにかへつて、たかをのじんごじ
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があひだは、いつかうだんじきにてぞありける。されどももんがくはきりよくすこしもおとらず、ふなそこにおこなひ
すましてぞゐたりける。まことにただびとともおぼえぬことどもおほかりけり。

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でたうおんさいかくもすぐれてましましけるが。うんめいのすゑになるやらん、こぞの八ぐわつがふぜられ
ぬ。いまはげんぺいのなかに、ごへんほどてんがのしやうぐんもちたまふべきひとはなし。はやはやごむほんおこさせ
たまひて、てんがをしづめさせたまへとまをしければ、ひやうゑのすけどの、あざわらつて、われはこいけの
ぜんにたすけられたてまつたれば、そのごぜとぶらひたてまつらんがために、まいにちほけきやういちぶてんどくしたてまつ
るよりほか、またたじなしとのたまへば、もんがくかさねて、てんのあたふるをとらざれば、かへつてそのとが
をうく、ときいたつておこなはざればかへつてそのわざはひをうくといふほんもんあり。かやうにまをさば、
ごへんのこころをかなびかんとて、まをすとやおぼしめされさふららん。そのぎにてはさふらはず。まづご
へんに、こころざしのふかいやうをみたまへとて、ふところよりしろいぬのにてつつんだるどくろを、ひとつとりいだす。
ひやうゑのすけどの、あれはいかにとのたまへば、これこそごへんのちち、こさまのかうのどののかうべよ。へいぢ
ののちは、ごくしやのまへのこけのもとにうづもれて、ごせとぶらひたてまつるひともなかりつるを、もんがくぞんずる
むねあつて、ごくもりのこひうけくびにかけ、やまやまてらでらしゆぎやうして、この二十よねんがあひだとぶらひたてまつ
たれば、いまはさだめていちごふもうかびたまひづらん。さればもんがくはかうのとののおんためには、さしも

ほうこうのものにてこそさふらひしか、とまをしければ、ひやうゑのすけどのいちぢやうとはおぼえねども、ちちのかうべ
ときくなつかしさに、まづなみだをぞながされける。ややあつて、ひやうゑのすけどののなみだをおさへて、
そもそもよりともちやくかんをゆりずして、いかでかむほんをばおこすべき、もんがくそれやすいほどのこと、や
がてのぼつてまをしゆるしてたてまつらん。ひやうゑのすけどの、おんぱうもたうじはちよくかんのみにてありながら、
ひとのことまをさうとのたまふ。ひじりのおんばうのあてがいやうこそ、おほきにまことしからねとのたまへば、
もんがくわがみのとがをゆりうとまをさばこそひがごとならめ。ひとのことまをさうに、なにかはひがごとなるべ
き。これよりふくはらのしんとへのぼらうに、三かにすぐまじ、ゐんぜんうかがふに、さだめて一にちのとうりう
ぞあらんずらん、つがふ七か八かにはすぐまじとて、つきいでぬ。ひじり、なこやにかへつて、
でしどもにはひとにしのうて、いづのおやまに七かさんろうのこころざしありとていでにけり。よをひ
についでのぼるほどにげにも三かといふには、ふくはらのしんとにのぼりついて、うひやうゑのかみみつよし
のきやうのもとに、いささかゆかりのありければ、それにおちついて、いづのくにのるにん、さきのうひやうゑの
すけよりともこそ、ちよくかんをゆるされて、ゐんぜんだにかふむりさふらはば、八かこくのけにんどももよほしあつめて、
てんがをしづめんとこそまをしさふらふなれとまをしければ、みつよしのきやう、わがみもたうじは三くわんともに
とどめられて、こころぐるしきをりふしなり。ほふわうもおしこめられわたらせたまへば、いかがあらんず
らん。さりながらもまづうかがうてこそみめとて、このよしひそかにそうもんせられたりければ、ほふわう

やがてゐんぜんをぞくだされける。もんがくよろこんでくびにかけ、よをひについでくだるほどにまた三かと
いふに、いづのくににぞつきにける。ひやうゑのすけどの、ひびりのおんぱうのなまじひなることまをしいだい
て、よりともまたいかなるうきめにかあはせられんずらんとのたまひける。八かといふうまのこく
にくだりついて、これはゐんぜんよとてとりいでたてまつる。ひやうゑのすけどのゐんぜんときき、かたじけなさ
に、あたらしきゑぼしじやういをき、てうづうがひをして、さんどいただきそののちこのゐんぜんをひらかれけり。
しきりのとしよりこのかた、へいしわうくわをべつじよして、せいだうにはばかることなし。ほしいままにぶつぽふをはめつし、わう
はふをみだらんとす。それわがくにはしんこくなり、そうぺうあひならんでしんとくこれあらたなり、かるがゆゑにてうていかい
きののち、す千よさいがあひだ、ていゐをかたぶけ、こくかをあやぶめんとするともがら、みなもつてはいぼくせずといふ
ことなし。しかればすなはち、かつうはしんだうのめいじよにまかせ、かつうはちよくせんのしいしゆをまぼつて、はやくへいし
のいちるゐをほろぼして、てうけのをんできをしりぞけよ。ふたいさうでんのひさうりやくをつぎぎ、るゐそほうこうのちうきんをぬき
んでて、みをたていへをおこすべしてへれば、ゐんぜんかくのごとく、よつてしつたんくだんのごとし。ぢ
しようしねん七ぐわつ十しにち、うひやうゑのかみみつよしがうけたまはつて、きんじやう、さきのうひやうゑのすけどのへと
ぞかかれたる。このゐんぜんをば、にしきのふくろにいれて、いしばしやまのかつせんのときも、ひやうゑのすけどのくびに
かけられけるとぞきこえし。

さるほどに、ふくはらにはくぎやうせんぎあつて、いまひとせもせいのつかぬさきに、いそぎうつてをくださる
べしとて、たいしやうぐんにはこまつのごんのすけぜうしやうこれもり、ふくしやうぐんにはさつまのかみただのり、さぶらひたいしやうに
はかづさのかみただきよをさきとして、つがふそのせい三まんよき、九ぐわつ十八にちのたつのいつてんにみやこをたつて、
あくる十九にちにはきうとにつき、やがておなじき二十かのひ、とうごくへこそおもむかれけれ。たいしやう
ぐんこまつのごんのすけぜうしやうこれもりはせいねん二十三、ようぎたいはい、ゑにかくともふでもおよびがたし。ぢうだい
のきせなが、からかはといふよろひをば、からうとにいれてもたせらる。みちうちはあかぢのにしきのひたたれに、
もえぎおとしのよろひきて、れんぜんあしげなるうまに、きんぷくりんのくらおいてのりたまへり。ふくしやうぐんさつまのかみ
ただのりは、こんぢのにしきのひたたれに、くろいとをどしのよろひきて、くろきうまのふとうたくましきに、いかけぢのくらお
いてのりたまへり。うまくら、よろひかぶと、ゆみや、たちかたなにいたるまで、あたりもてりかがやくほどにいで
たたれたれば、めづらしかりしみものなり。なかにもさつまのかみただのりは、あるみやはらのにようばうのもとへかよ
はれけるが、あるよおはしたりけるに、かのにようばうのつぼねに、やんごとなきにようばうまろうどにきたつ
て、さよもやうやうふけゆくまでまろうどかへりたまはず。ただのりのきばたにたたづんで、あふぎをあらくつか
はれければ、かのにようばう、のもせにすだくむしのねよと、いうにくちずさみたまへば、あふぎをやが

てつかひやみてぞかへられける。そののちおはしたりけるに、いつぞやはなんとて、あふぎをばつかひ
やみしぞや、ととはれければ、あなかしましなんどきこえさふらひしあひだ、さてこそあふぎをばつ
かひやみてはさふらひしかとぞまをされける。そののちかのにようばうさつまのかみのもとへ、こそでをひとかさね
つかはすとて、千りのなごりのをしさに、いつしゆのうたをかきそへてぞおくられける。
あづまぢのくさばをわけんそでよりもたたぬたもとのつゆぞこぼるる
さつまのかみのへんじに、
わかれぢをなにかなげかんこえてゆくせきもむかしのあととおもへば
せきもむかしのあととよめることは、せんぞたいらしやうぐんさだもり、たわらとうだひでさと、まさかどつゐたうのために、あつまへ
げかうしたりしことを、おもひいでよみたりけるにや、いとやさしうぞきこえし。むかしはてうてき
をたひらげんとて、ぐわいとへむかふしやうぐんは、まづさんだいしてせつたうをたまはる。しんぎなんでんにしゆつぎよして、
こんゑかいかにぢんをひき、ないべんぐわいべんのくぎやうさんれつして、ちうぎのせちゑをおこなはる。たいしやうぐんふくしやう
ぐんおのおのれいぎをただしうして、これをたまはる。しようへいてんきやうのじやうせきもとしひさしうなつて、なぞらへがたし
とて、こんどはさぬきのかみたひらのまさもりが、さきのつしまのかみみなもとのよしちかつゐたうのために、いづものくにへ
げかうせしれいとて、すずばかりたまはつて、かはのふくろにいれてざふしきがくびにかけさせてぞくだられけ
る。いにしへ、てうてきをほろぼさんとて、みやこをいづるしやうぐんは、三つのぞんちあり。せつたうをたまはるひ、

いへをわすれ、いへをいづるとてさいしをわすれ、せんぢやうにしてかたきとたたかふときみをわする。さればいまの
へいしのたいしやうぐんこれもりただのりも、さだめてかやうのことどもをばぞんちせられたりけん、あはれなりしこと
どもなり。おのおのここのへのみやこをたつて、千りのとうかいへぞおもむかれける。たひらかにかへりのぼらん
ことも、まことにあやふきありさまどもにて、あるひはのばらのつゆにやどをかり、あるひはたかねのこけにたびねをし
て、やまをこえかはをへだてて、ひかずふれば、十ぐわつ十六にちには、するがのくにきよみがせきにぞつか
れける。みやこをば三まんよきにていでられたれども、ろじのつはものめしぐして、七まんよきとぞ
きこえし。せんぢんはふじがは、かんばらにすすみ、ごぢんはいまだてごし、うつのやにささへたり。

たいしやうぐんこまつのごんのすけぜうしやうこれもり、さぶらひだいしやうかづさのかみただきよをめして、これもりがぞんちには、あし
がらのやまうちこえ、ひろみにいでてしようぶをせんとおもふはいかにとのたまへば、かづさのかみまをしげ
るは、ふくはらをおんたちさふらひしときも、にふだうどのあふせには、いくさをばただきよにまかせさせたまへとこそ
あふせられさふらひしか。いづするがのせいのまゐるべきだに、いまだ一きもみえさふらはず。みかたの
おんせい七まんよきとはまをせども、くにぐにのかりむしや、うまもひともみなつかれはててさふらふ。とうごくはくさもき
も、みなげんじについてさふらへば、なん十まんきかさふらん。ただふじがはをまへにあてて、みかたのおん

せいをまたせたまふべうもやさふらん、とまをしければ、ちからおよばでこらへたり。さるほどに、
ひやうゑのすけよりとも、あしがらのやまうちこえて、きせがはにこそつきたまへ。かひしなののげんじら、は
せきたつてひとつになる。するがのくにうきしまがはらにてせいぞろへあり、つがふそのせい二十まんきとぞきこえし。
ひたちげんじにさたけのたらうが、ざふしきのふみもつてみやこへのぼるを、へいけのかたのさぶらひたいしやうかづさのかみただ
きよこれをとどめ、もつたるふみうばひとつてみければ、にようばうのもとへのふみなり。くるしかるまじと
て、とらせてんげり。さてげんじのせいはいかほどあるぞ、ととひければ、げらうは四五百千
までこそ、もののかずをばしつてさふらへ、それよりうへをばしらぬざふらふ。四五千よりおほいやらう、
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むしやにてさふらふ。きのふきせがはにてひとのまをしさふらひしには、げんじのおんぜい二十まんきとこぞまをし
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くちをしかるけることはなし。いまいちにちもさきにうつてくださせたまひたらば、おほばきやうだいはたけやまが
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りしものをと、こうくわいすれどもかひぞなき。たいしやうぐんこまつのごんのすけぜうしやうこれもり、ながゐのさいとうべつ
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わたつて、ささふらはんには、きみはさねもりをおほやとおぼしめさふらふにこそ、はづか十三ぞくをこそ

つかまつりさふらへ。さねもりほどいさふらふものは、八かこくにはいくらもさふらふ。おほやとまをすぢやうのものの、十五
そくにおとつてひくはさふらはず。ゆみのつよさもしたたかなるものの、二三にん四五にんしてはりさふらふ。
これらだにいさふらへば、よろひの二三りやうをばかけずいとほしさふらふ。だいみやうとまをすぢやうのものの、五百きに
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いくさはまたおやもうたれよ、こもうたれよ、しぬれば、のりこえのりこえたたかふざふらふ。さいごくのいくさとまを
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うれへなげきとてよせさふらはず。ひやうらうまいつきぬれば、はるはたつくり、あきはかりをさめてよせ、なつはあつ
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げんじら、あんないはしつたり。ふじのすそより、からめでへやまはりさふらはんずらん。かやうにまをさ
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くへいけのかたのさぶらひども、みなふるひわななきあへりけり。おなじき二十四かのうのこくに、ふじ
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げんじのぢんをみわたせば、いづするがのにんみんひやくしやうらが、いくさにおそれて、あるひはのにいり、やまにかく
れ、あるひはふねにのつて、かいがにうかびたるが、いとなみのひのみえけるを、げにものもやまも、

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つるやうに、かひしなののげんじら、あんないはしつたり。ふじのすそよりからめでへやまはりたるら
ん。とりこめられてはかなふべからず。ここをばおちて、をはりがはすのまたをふさげやとて、とるもの
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しらず、やとるものはゆみをしらず、あわてふためきけるが、ひとのうまにはわれのり、わがうま
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て、をめきさけぶことおびただし。あくるうのこくに、げんじ二十まんよき、ふじかはにおしよせて、
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わうじやうのかたをふしをがみ、これはまつたくよりともがわたくしのけいりやくにはあらず、しかしながらはちまんだいぼさつ

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いうくんいうぢよども、いくさにはみにげをこそあさましきことにするに、へいけのひとびとは、ききにげし
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いひ、うつてのたいしやうをばごんすけといふあひだ、へいけをひらやによみなして、
ひらやなるむねもりいかにさわぐらんはしらとたのむすけをおとして
ふじがはのせせのいはこすなみよりもはやくもおつるいせへいじかな
またかづさのかみただきよが、ふじがはによろひわすれたりけるをもよめり。
ふじがはによろひわすれつすみぞめのころもただきよのちのよのため
ただきよはにぐのうまにぞのりてげるかづさしりがひかけてかひなし

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おほきにいかつてまづこれもりをばとさのはたへながすべし。ただきよをばしざいにおこなへとぞのたまひけ

る。これによつて、あくる九かのひ、ふくはらにはさぶらひらうせうすうひやくにんさんくわいして、ただきよがしざいのこと
いかがあるべからんとひやうぢやうす。そのなかにしゆめのはうぐわんもりくにすすみいでて、ただきよはひごろふかくじんと
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しよだうもなければ、みかぐらそうすべきところもなし。ぶらくゐんもなければ、えんくわいもおこなはれず。こん
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とのじんぎくわんにてぞとげられける。五せつたはこれきよみばらのそのかみ、よしののみやにして、つき
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てうちすてのぼられけり。おのおのしゆくしよもなくして、やはた、かも、さが、うづまさ、にしやま、ひんがしやまのか
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しましける。そもそもこんどのみやこうつりのほんいを、いかにといふに、きうとは、やま、ならちかう
して、いささかのことにも、ひえのしんよ、かすがのしんぼくなんどいひて、みだりがはし。しんと
はかはへだたり、かうかさなつて、ほどもさすがとほければ、さやうのことなんどもたやすかるまじとて、
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す。やまもと、かしはぎ、にしをりなんどいふ、あぶれげんじどもうちしたがへて、それよりみのを
はりへぞこえられける。

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ぐんはうまにてかけやぶりかけまはしせめければ、だいしゆうかずをつくいてうたれにけり。うのこくより
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でたり。これぞしばらくささへたる。おほくのくわんびやうら、うまのあしながれておほくほろびにけり。されども
くわんぐんはたいぜいにて、いれかへいれかへせめければ、えうかくがたのむところのでしどうしゆくうみなうたれに
けり。えうかくこころはたけうすすめども、あとあばらになりしかば、ちからおよばず、ただひとりみなみをさいておぞお
ちゆきける。よいくさになつて、たいしやうぐんとうのちうじやうしげひら、はんにやじのもんのまへにうちたつて、くら

さはくらし、ひをいだせとのたまへば、はりまのくにのぢうにんふくゐのしやうのげし、じらうたいふもとかたとい
ふもの、たてをわりたいまつにして、ざいけにひをぞかけたりける。ころは十にんぐわつ二十八にちのよの
いぬのこくばかんのことなれば、をりふしかぜははげしく、ほもとはひとつなりけれども、ふきまよふかぜに
おほくのがらんにふきかけたり。はぢをもしり、なをもをしむほどのものは、ならさかにてうちじにし、
はんにやじにしてうたれにけり。ぎやうぶにかなへるほどのものは、よしのとつがはのかたへぞおちゆき
ける。あゆみもえぬらうそうや、じんじやうなるしうがくしや、ちごどもをんなわらべはもしやたすかると、だいぶつでん
の二かいのうへ、やましなでらのうち、われさきにとぞにげいりける。だいぶつでんの二かいのうへには、千よ
にんのぼりあがつて、てきのつづくをのぼせじとて、はしをばひいてげり。みやうくわはまさしうおしかけ
たり。をめきさけぶこゑ、せうねつ、だいせうねつ、むげん、あび、ほのふのそこのざいにんも、これにはすぎじと
ぞみえし。こうふくじはたんかいこうのぎよぐわん、とうじるゐだいのてらなり。とうこんだうにおはしますぶつぽふさいしよ
のしやかのざう、さいこんだうにおはしますじねんゆしゆつのくわんぜおん、るりをならべししめんのろう、しゆたんを
まじへし二かいのろう、九りんそらにかがやきし二きのたふ、たちまちにけむとなるこそかなしけれ。とうだいじはじやう
ざいふめつ、じつはうじやくくわうのしやうしんのおんほとけとおぼしめしなぞらへて、しやうむくわうてい、てづからみづからみがきたて
たまひし、こんどう十六ぢやうのるしやなぶつ、うしつたかくあらはれて、はんてんのくもにかくれ、びやくがうあらたにをがまれ
させたまへる。まんげつのそんようも、みぐしはやけおちてだいぢにあり。おんみはわきあひてやまのごと

し。八まん四千のさうがうは、あきのつきはやく五ぢうのくもにかくれ、四十一ぢのえうらくは、よのほしむなし
う、じふあくのふうにただよひ、けむりはちうてんにみちみちて、ほのふはこくうにひまもなし、まのあたりみまつ
るものはさらにめをあてず。かすかにつたへきくひとはきもたましひをうしなへり。ほつさう三ろんのほふもん、しやうげうす
べていつくわんものこらず。わがてうはいふにおよばず、てんぢくしんだんにも、これほどのほふめつあるべしとも
おぼえず。うでんだいわうのしまごんをみがき、びしゆいつまがしやくせんだんをきざみしも、わづかにとうじんのおんほとけな
り。いはんやこれはなんえんぶたいのうちには、ゆゐいつむさうのおんほとけ、ながくきうそんのごあるべしともおぼえず、
いまどくえんのちりにまじはつて、ひさしくかなしみをのこしたまへり。ぼんじやくしわうりうじんやぶ、みやくわんみやうしゆうもおどろ
きさわぎたまふらんとぞみえし、ほつさうえうごのしゆんにちだいみやうじん、いかなることをかおぼしけん。され
ばかすがのつゆもいろかはり、みかさやまのあらしのおと、うらむるやうにぞきこえける。ほのふのうちにてやけ
しぬるにんじゆをしるいたりければ、だいぶつの二かいにのうへには一千七百よにん、やましなでらのうちには
八百よにん、あるみだうには五百よにん、あるみだうには三百よにん、つぶさにしるいたりければ、三千五
百よにんなり。せんぢやうにしてうたるるだいしゆう千よにん、せうせうははんにやじのもんのまへにきりかけらる、
せうせうはまたたいしやうぐんもたせてみやこへのぼりたまふ。あくる二十九にち、たいしやうぐんとうのちうじやうしげひら、なんと
ほろぼしてほくきやうへかへりいらる。およそはにふだうさうこくばかりこそ、いきどほりはれてよろこばれけれ。ちうぐういち
ゐんじやうわうは、たとへあくそうをこそほろぼすとも、がらんをはめつすべきやはとぞおんなげきありける。ひ

ごろはしゆとのくび、おほぢをわたさるべかりしかども、いままたとうだいじこうぷくじのほろびぬるあさまつ
さに、なんのさたにもおよばず。ここやかしこのみぞやほりにぞすておきける。しやうむくわうていのしんぴつ
のごきもんにも、わがてらこうふくせばてんがもこうふくすべし。わがてらすゐびせばてんがもすゐびすべし、
とぞあそばされたる。さればてんがのすゐびせんこと、うたがひなしとぞみえたりける。あさ
ましかりつるとしもくれて、ぢしようも五ねんになりにけり。



平曲譜本 藝大本 巻六

ぢしよう五ねんしやうぐわひといのひ、だいりにはとうごくのへいがく、なんとのくわさいによつて、てうはいとどめられ
て、しゆじやうしゆつぎよもなし。もののねもふきならさず、ぶがくもそうせず、よしののくずもまゐらず、とう
しのくぎやうひとりもまゐらせられず。これはうじでらせうしつによつてなり。ふつかのひ、でんじやうのえんすゐもな
し、なんにようちひそめて、きんちういまいましうぞみえし。ならびにぶつぽふわうはふ、ともにほろびぬることこ
そあさましけれ。ほふわうおほせありけるは、しだいのていわう、おもへばこなりまごなり。いかなれば
ばんぎのせいむをとどめられて、むなしうとしつきをおくるらんとぞ、おんなげきありける。おなじきいつか
のひ、なんとのそうかうらみなけつくわんぜられで、くじやうをちやじし、しよしよくをぼつしうせらる。しゆうとは、みな
おいたるもわかきも、あるひはいころされ、あるひはきりころされて、けふりのなかをいでず、ほのほにむせびて
ほろびにしかば、わづかにのこるともがらはさんりんにまじつて、あとをとどむるものひとりもなし。ただしかたのや
うにても、ごさいゑはあるべきものをと、そうめいのさたありしに、なんとのそうかうらはみなけつくわん
せられぬ。ほくきやうのそうかうをもつておこなはるべきかと、くぎやうせんぎありしかども、さればとて、
いまさらまたなんとをもすてはてさせたまふべきならねば、さんろうしうのがくしやう、じやうほふ、いかうがしのびつ

つ、くわんしゆじにかくれゐたりけるをめしいだいて、ごさいゑかたのごとくとげおこなはる。なかにもこうぷく
じのべつたう、けりんゐんのそうじやうえふゑんは、ぶつざうけいぐわんのけふりとたちのぼらせたまふをみまゐらせ、あなあ
さましとて、むねうちさわがれけるよりやみつきて、つひにうせたまひぬ。このえいゑんは、いうにわり
なきひとときこえたまへり。あるときほととぎすをききて、
きくたびにめづらしければほととぎすいつもはつねのここちこそすれ
といふうたをうたうでこそはつねのそうじやうとはいはれたまひけれ。じやうわうは、おととしほふわうのとばでん
におしこめられて、わたらせたまふおんこと、こぞたかくらのみやのうたれさせたまへるおんありさま、かや
うのことどもに、ごなうつかせたまひて、つねはおんわづらはしうのみきこえさせたまひしが、いままたとうだい
じこうぷくじのほろびぬるよしきこしめして、つやつやくごもきこしめさずごなういとどおもらせたまひけ
り。ほふわうおんなげきありしほどに、おなじきじふしにち、ろくはらいけとのにて、しんゐんつひにほうぎよなりぬ。ぎよ
う十二ねん、とくせい千まんたん、ししよじんぎのすたれぬるみちをおこし。りせあんらくのたえたるあとをつぎ
たまふ。さんみやうろくつうのらかんもまぬかかれたまはず、げんじゆつへんげのごんじやものがれぬみちなれば、うゐむじやう
のならひなれども、ことわりすぎてぞおぼえたる。やがてそのよひんがしやまのふもとせいかんじへうつしたてまつり、ゆふべの
けむりにたぐへつつ、はるのかすみとのぼらせたまひぬ。ちようけんほふいんごさうそうにまゐりあはんとて、いそぎ
やまよりくだられけるが、はやみちにて、けむりとたちのぼらせたまふをみまゐらせて、かうぞおもひつ

づけたまふ。
つねにみしきみがみゆきをけふとへばかへらぬたびときくぞかなきし
またあるにようばうの、みかどかくれさせたまひぬとうけたまつて、なくなくえいじけるは、
くものうへゆすゑとほくみしつきのひかりきえぬときくぞかなしき
おんとし二十一、うちにはじつかいをたもつてじひをさきとし、そとには五じやうをみだらせたまはず、れいぎ
をただしうせさせおはします。まつだいのけんわうにてましませば、よのをしみたてまつること、つきひの
ひかりをうしなへるがごとし。かやうにひとのねがひもかなはず、たみのくわはうもつたなき、ただにんげんのさかひこそかな
しけれ。

ひとのおもひつきたてまつることは、おそらくはえんぎてんりやくのみかどとまをすとも、これにはいかでまさらせたま
ふべきとぞ、ひとまをしける。おほかたけんわうのなをあげ、じんとくのかうをほどこさせましましけること
も、きみごせいじんののち、せいだくをわかたせたまひてのそのうへのおんことでこそあるに、むげにこのきみは、
いまだえうしゆのおんときより、せいをにうわにうけさせおはします。さんぬるしようあんのころほひは、ご
ざいゐのはじめつかたおんとし十さいばかんにもやならせおはしましけん、あまりにこうえうをあいせさせ

たまひて、きたのぢんにこやまをきづかせ、はぢかへでのまことにいろうつくしうもみじたるをうゑさせ、もみ
ぢのやまとなづけて、ひねもすにえいらんなるに、なほあきたらせたまはず。しかるをあるよのわきはした
なうふいて、もみぢみなふきちらし、こうえうすこぶるらうぜきなり。とのもりのとものみやつこ、あさぎよめす
とて、これをことごとくはきすててげり。のこれるえだ、ちれるこのはをばかきあつめて、かぜすさ
まじかりけるあさなれば、ぬひどののぢんにてさけあたためてたべけるたきぎにこそ、してんげれ。ぶ
ぎやうのくらんど、ぎやうかうよりさきにといそぎゆいてみるにあとかたなし。いかにととへば、しかじか
といふ。くらんどあなあさまし。さしもきみのしつしおぼしめされつるこうえうを、かやうにしつる
ことよ。しらず、なんぢらきんごくるざいにもおよび、わがみもいかなるげきりんにかあづからんずらんと、
おもはじことなうあんじつづけてゐたるところに、しゆじやういとどしく、よるのおとどをいだでさせもあへず、かし
こへぎやうかうあつて、もみぢをえいらんあるに、なかりければ、いかにとおんたづねあり。くらんどなんとそう
すべきむねもなくして。ありのままにそうもんす。てんきことにおんこころよげにうちゑませたまひて、
りんかんにさけをあたためてこうえふをたく、といふしのこころをば、さればそれらにはたれかをしへけるぞ
や。やさしうもつかまつたるものかなとて、かへつてえいかんにあづかつしうへは、あへてちよくくわんなかり
けり。またあんげんのころほひ、おんかたたがへのぎやうかうのありしに、さらでだにけいじんあかつきをとなふこゑ、みやう
わうのねむりをおどろかすころにもなりしかば、いつもおんねざめがちにて、つやつやおんねむりもならざりけ

り。いはんやさゆるしもよのはげしきには、えんきのせいたいこくどのたみどもが、いかにさむかるらんとて、
よるのおとどにしては、ぎよいをぬがせましましけることなんどまでも、おぼしめしいでて、わ
がていとくのいたらぬことをぞおんなげきありける。ややしんかうにおよんで、ほどとほくひとのさけぶこゑしけ
り。ぐぶのひとびとはききもつけられず、しゆじやうはきこしめして、たんだいまさけぶはなにものぞ、あれみ
てまゐれとおほせつければうはぶしたるてんじやうびと、しやうにちのものにおほすれば、そのへんをはしりちつてある
つじにあやしのめのわらはのながもちのふたさげたるがなくにてぞありける。いかにととへば、あるじの
にようばうのゐんのところにさぶらはせたまふが、このほどやうやうにしてしたてられたりつるきぬをもつてまゐ
るほどに、たんだいまをとこの二三にんまうできて、うばひとつてまかりぬるぞや。いまはおしやうぞくがあ
ればこそ、ごしよにもさぶらはせたまはめ。またはかばかしうたちやどらせたまふべき、したしき
おかたもましまさず。それをおもふに、なくなりとぞかたりける。さてかのめのわらはをぐしてまゐり、
このよしそうもんしたりければ、しゆじやうきこしめして、あな、むざん、なにもののしわざにてかあるらん
とて、りうがんよりおんなみだをながさせたまふぞかたじけなき。げうのよのたみは、げうのこころのすなほなるをもつ
てこころとするゆゑにみなすなほなり。いまのよのたみは、ちんがこころをもつてこころとするゆゑに、かたまし
きものてうにあつて、つみををかす、これわがはぢにあらずや、とぞおほせける。さてとられつらん
ころもは、なにいろぞとおほせければ、しかじかのいろとそうす。けんれいもんゐん、そのときはいまたちうぐうのお

かたときこえさせたまふ。そのおかたに、さやうのいろしたるぎよいやさふらふと、おんたづねありければ、
さきのよりはるかにいろうつくしきがまゐりたるをぞ、くだんのめのわらはにたばはせける。いまだよふかし。またさ
るめにもぞあふとて、じやうにちのものをあまたつけて、あるじのにようばうのつぼねまでおくらせましましけ
るぞかたじけなき。さればあやしのしづのを、しづのめにいたるまで、ただこのきみせんしうばんぜいの
はうさんをぞいのりたてまつる。

それになによりもまたあはれなりけることには、ちうぐうのおかたにさぶらはれけるにようばうのめしつかひけ
るじやうどう、おもはざるほかりうがんにしせきすることありけり。ただよのつねあからさまにてもなくし
て、まめやかにさしもおんこころざしあさからざりしかば、あるじのにようばうもめしつかはず、かへつてあるじ
のごとくにぞ、いつきもてなしける。そのかみのえいえうにいへることあり。なんをうんでもきくわいする
ことなかれ、ぢよをうんでもひさんするとなかれ、なんはこれこうにだもほうぜられず、ぢよはひ
たりとてきさきにたつといへり。めでたきかりけるさいはひかな。このひとにようごきさきとも、もてなされ、
こくもせんゐんともあふがれんずとて、そのなをあふひのまへといへば、ないないはあふひのにようごなんとぞひとびと
ささやきあはれける。すじやうきこしめして、そののちはめさざりけり。これはおんこころざしのつきぬるに

はあらず、ただよのそしりをはばからせたまふによつてなり。しゆじやうつねはおんながめがちにて、ひるはよの
おとどにのみいらせおはします。そのころのくわんぱくまつどの、このよしをつたへうけたまはつて、いそぎごさんだい
あつて、さやうにえいりよにかからせましまさんにおいては、くだんのにようばうめされまゐらすべしとおぼ
えさふらふ、しなたづねらるるにおよばず、もとふさやがていうしにつかまつりさふらはんと、そうせさせたまへば、しゆ
じやうきこしめして、そこにまをすもさることなれども、くらゐをすべつてのちは、ままさるためしもあん
なり。ただしうざいゐのときいかんと、さやうのことはこうだいのそしりなるべしとて、きこしめしもいれ
ざりけり。くわんぱくどのちからおよばせたまはず、おんなみだをおさへておんしりぞきありけり。そののちしゆじやう、みどん
のうすやうのにほひことにふかかりけるに、ふるきことなれども、おぼしめしいでて、かうぞあそばさ
れける。
しのぶれどいろにいでにけりわがこひはものやおもふとひとのとふまで
れいぜいのせうしやうたかふさ、これをたまはりついで、くだんのあふひのまへにたばせたれば、これをとつてふところにい
れ、かほうちあかめ、れいならぬここちいできたりとて、さとへかへり、うちふすこと五六にちして、
つひにはかなくなりにけり。きみが一にちのおんためには、せうがはくねんのみをあやまつとも、かや
うのことをやまをすべき。むかしたうのたいそうのていじんきがむすめを、げんくわんでんへいれんとせさせたまひたり
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なれば、くるしかるまじとおもひざふしきうしがひうしぐるまにいたるまできよげにさたし、さがへまゐりむかふ。
こがうのどのいかにもまゐるまじきよしのたまふあひだ、やうやうにこしらへくるまにのせまゐらせ、だいり
へまゐりつつかすかなるところにしのばせて、しゆじやうつねはめされまゐらせけるほどに、ひめみやひとところいできた
させたまひけり。ばうもんのによゐんとは、このみやのおんことなり。にふだうさうこく、なんとしてかはききいだ
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かにしてかはたばかりいだされたりけん。こがうのとのをとらへつつ、あまになしてぞおつばなた
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つれはてて、さがのへんにぞすまれける。むげにうたてきことどもなり。しゆじやうはかやうの
ことどもに、ごなうつかせたまひて、つひにほうぎよなりぬ。ほふわう、うちつづきおんなげきのみぞしげかりけ
る。さんぬるえいまんには、だい一のみこ二でうゐんほうぎよなりぬ。あんげん二ねんの七ぐわには、おんそん六
でうのゐんかくれさせたまひぬ。てんにすまばひよくのとり、ちにあらばねがはくはれんりのえだとならん
と、あまのがはのほしをさして、さしもおんちぎりあさからざりしこくもけんしゆうんもんゐん、あきのきりにをかされて、

あしたのつゆときえさせたまひぬ。かくとしつきはへだたれども、きのふけふのやうにおぼしめして、おん
なみだもいまだつきせざるに、ぢしようしねんの五ぐわつには、だい二のわうじたかくらのみやうたれさせたまひぬ。
げんせごしやうたのみおぼしめされつる、しんゐんさへかやうにならせましませば、とにかくにかこ
つかたなし、おんなみだのみぞすすみける。かなしみのいたつてかなしきは、おいてのち、こにおくれたるよ
りかなしきはなし。うらみのいたつてうらめしきは、わかうしておやにさきだつよりも、うらめしきはな
しと、かのともつなのしやうこうの、しそくすみあきらにおくれてかきたりけんふでのあと、いまこそおぼしめしし
られけれ。さるままにはいちじようのめうでんのごどくじゆもおこたらせたまはず、三みつぎやうぼふのごくんじゆもつもら
せおはします。てんがりやうあんになりしかば、おほみやびともおしなべてはなのたもとややつるらん。

にふだうさうこく、かくなさけなうあたりたてまつられたりけることをば、さすがそらおそろしうやおもはれけ
ん、そのころいつくしまのないしがはらにの、ひめぎみのしやうねん十七になりたまふをぞ、ほふわうへはまゐらせらる。
たうけたけのくぎやうおほくぐぶして、ひとへににようごまゐりのやうでぞさふらはれける。じやうわうかくれさせたまひ
て、いまだ二七にちだにすきざるに、これまたしかるべからずとぞ、ひとまをしける。さるほどに、
そのころしなののくにに、きそのじらうよしなかといふげんじありときこえけり。かれはこたちはきのせんじやうよしかた

が二なんなり。しかるをちちよしかたは、さんぬるきうじゆ二ねん八ぐわ十二にち、かまくらのあくげんだよしひらがため
にちうせられぬ。そのときはいまだ二さいなりしを、ははなくなくかかへてしなのへこえ、きそのちう
ざうのかみかねとほがもとにゆいて、これあひかまへてそだてて、ひとになしてわれにみせよといひければ、
かねとほかひかひしくうけとつてこの二十よねんがあひだやういくす。やうやうちやうだいするままに、ちからもよにす
ぐれてつよく、こころもならびなくがうなりけり。うまのじやうほ、ゆみやうちものとつては、すべてじやうこ
のたむら、としひと、よごしやうぐん、ちらい、ほうしやう、せんぞらいぐわう、ぎかのあつそんといふとも、これにはい
かでかまさるべきとぞひとまをしける。つねはめのとちうぜうにぐせられて、みやこへのぼりへいけのふるまひあり
さまどもをも、よくよくみうかがひけり。きそ、あるときめのとのちうざうをようで、いひけるは、かま
くらのうひやうゑのすけよりともこそ、とう八かこくをうちしたがへて、とうかいだうよりせめのぼり、へいけをおひ
おとさんとはしたまふなれ。よしなかもとうさんほくろくりやうだうをうちしたがへて、ほくろくだうよりせめのぼり、いまいち
にちもさきにへいけをほろして、たとへばにほんごくにふたりのしやうぐんともいはればやとおもふはいかにと
のたまへば、かねとほおほきにかしこまりよろこんで、そのれうにこそ、きみをこの二十よねんがあひだやういくつかまつてはさふら
へ。かやうにおほせらるるも、ひとへにはちまんとののおんすゑとこそおぼえさせましませとて、や
がてむほんをくはだつ。十三にてげんぷくしたりけるにも、まづはちまんへまゐりつやして、わがしだい
のそぶぎがのあつそんは、このおんがみのおんことなつて、なをはちまんたらうとがうせしぞかし。かつうは

そのあとをおふべしとて、ごはうぜんにてもとどりとりあげ、きそじらうよしなかとこそつけたりけれ。
まづめぐりぶみさふらふべしとて、しなののくにには、ねのゐのこやた、しげののゆきちかをかたらふに、そむく
ことなし。そのほかしなのいつこくのつはものども、みなしたがひつきにけり。かうづけのくにには、たごのこほりのへいど
も、ちちよしかたがよしみによつて、これもしたがひつきにけり。へいけのすゑになりぬるをりをえて、げんじ
ねんらいのそくわいをとげんとす。

きそといふところは、しなのにとつてもみなみのはし、みののさかひなりければ、みやこもむげにほどちかし、
へいけのひとびと、とうごくのそむくだにあるに、ほつこくさへこれはいかにとて、おほきにおそれてさわがれ
けり。にふだうさうこくののたまひけるは、たとひしなのいつこくのつはものどもこそ、みなしたがひつくといふとも、えち
ごのくににはよごしやうぐんのまつえふ、じやうのたらうすけなが、おなじき四らうすけもち、これらきやうだいともにたぜいのものな
り。いまおほせくだしたらんに、やすううつてまゐらせてんずとのたまへば、げにもとまをすひともあり。
いやいやたんだいまおんだいじにおよびなんずと、ささやくひとびともありけるとかや。にんぐわつひとひのひ
ぢもくおこなはれて、えちごのくにのぢうにんじやうのたらうすけながを、えちごのかみのにんず。これはきそつひたうせらる
べきはかりごとぞきこえし。おなじき五かのひ、だいじんくぎやういへいへには、そんしようだらに、ならびにふどうみやうわう

かきくやうせらる、これはへいらんつつしみのためとぞきこえし。おなじきここぬかのひ、かはちのくににはいし
かはのこほりをちぎやうしける、むさしのごんのかみにふだうよしもと、しそくいしかはのしんはうぐわんだいよしかぬ、これもへいけをそむ
いて、よりともにこころをかよはしけるが、とうごくへおちくだるべきよしきこえしかば、へいけやがてうつて
をさしむけらる。たいしやうぐんには、げんたいふのはうぐわんすゑさだ、せつつのはうぐわんもりずみをさきとして、つがふそのぜい
三千よき、かはちのくにへはつかうす。じやうのうちにはよしもとぼつしをはじめとして、はづか百きばかりには
すぎざりけり。うのこくよりやあはせして、一にちたたかひくらし、よにいりければよしもとぼつしうちじに
す。しそくいしかはのはうぐわんだいよしかぬは、いたでおうていけどりにこそせられけれ。おなじき十一にち、よし
もとぼつしがかうべ、みやこへいつておほちをわたさる。りやうあんにぞくしゆをわたされけることは、ほりかはのゐんほうぎよ
のとき、さきのつしまのかみみなもとのよしちかがかふべわたされし、そのれいとぞきこえし。おなじき十二にち、ちんぜいよ
りひきやくたうらい、うさだいぐうじきんみちがまをしけるは、をがたの三らうこれよしをはじめとして、九しうの
ものどもうすき、へつき、まつらとうにいたるまで、みなへいけをそむいて、げんじにどうしんのよしまをしければ、
へいけのひとびと、とうごくほくこくのそむくだにあるに、さいごくさへこはいかにとて、てをうつてあざ
みあはれけり。おなじき十六にち、いよのくによりひきやくたうらい、こぞのふゆのころより、いよのくにの
ぢうにんかうのの四らうみちきよをはじめとして四こくのものどもみなへいけをそむいて、げんじにどうしんのあひだ、ひごの
くにのぢうにんぬかのにふだうさいじやくは、へいけにこころざしふかかりければ、いよのくにへおしわたり、だうぜんだうごの

さかひなるたかなうのじやうにおしよせて、さんざんにせめさふらへば、かうのの四らうみちきようたれぬ。しそくかはの
の四らうみちのぶは、あきのくにのぢうにん、ぬたのじらうはははがたのおぢなりければ、それへこえて
ありあはす。ちちをうたせてやすからずやおもひけむ、いかにもしてさいじやくをうちとらんとぞうかがひ
ける。ぬかのにふだうさいじやくは、四こくのらうぜきをしづめて、こんねんしやうぐわ十五にち、びんごのともにおしわたり、
いうくんいうぢよどもめしあつめて、あそびたはむれさかもりしけるに、かうのの四らう、おもひきつたるつはものども百よ
にんあひかたらつて、ばつとおしよす。さいじやくがかたにも三百よにんありけれども、にはかごとにてはあ
り、おもひまうけず、たちあふものはいふくせきりふせ、まづさいじやくをいけどつて、ちちがうたたれたるたか
なうのじやうまでひつさげもちゆき、のこぎりにてくびをきりたりともきこゆ。またはりつけにしたりともきこえけ
り。

おなじき二十三にち、ゐんのでんじやうにてにはかにくぎやうせんぎあり。さきのうだいしやうむねもりのきやうのまをされけ
るは、せんねんばんとうへうつてはまかりむかうたりとはまをせども、させるしいだしたることもなし。こん
どはむねもりうけたまはつて、とうごくほくこくのきようとらをつひたうすべきよしそうもんせられたりければ、しよきやうしき
だいして、むねもりのきやうのまをすでうゆゆしうさふらひなんずとぞまをされける。ほふわうおほきにぎよかんなり

けり。くぎやうもでんじやうびとも、ぶくわんにそなはりすこしもゆみやにたづさはらんずるほどのものひとりものこら
ずみなむねもりのきやうをたいしやうぐんとして、とうごくほつこくのきようとらをつゐたうすべきよしおほせくださる。おなじき
二十七にちかどでして、すでにうちいでんとしたまひけるよはばかりより、にふだうさうこくゐれいのここ
ちとてそのひはとどまりたまひぬ。あくる二十八にちにふだうぢうびやうをうけたまへば、きやうらうろくはら、す
は、しつるは、さみつることよとぞさあやきあはれける。やみつきたまへるひよりして、ゆみづも
のどへいれられず、みのうちのあつきことはひをやくがごとし。ただのたまふこととては、あたあたとば
かりなり。ふしたまへるところ、四五けんがうちへいるものはあつさたえがたし。あまりにあつさのたえがたき
にや、ひえいざんよりせんじゆゐのみづをくみおろし、いしのふねにたたえて、それにをりてひえたまへ
ば、みづわきあがつて、ほどなくゆにぞなりにける。もしやとかけひのみづをまかすれば、いしや
くろがねなんどのやけたるやうに、みづほとばしつてよりつかず。あたるみづは、ほむらとなつてもえけ
れば、くろけむりでんちうにみちて、ほのほうづまいてぞのぼりける。これやむかしほふざうそうづといひしひと、えん
わうのちやうにおもむいて、ははのせいしよをたづねし。えんわうあはれみたまひて、ごくそつをあひそへて、せうねつぢごく
へつかはさる。くろがねのもんのなかへさしいつてみれば、りうせいなんどのごとくに、ほのほそらにうちのぼり、
たあ百ゆじゆうにおよびけんも、これにはすぎじとぞみえし。又にふだうさうこくのきたのかた、八でうの二ゐ
とのの、おんゆめにみたまひけることこそおそろしけれ。たとへばめうくわのおびただしうもえたるくるまのぬしもなき

を、もんのうちへやりいれたり。二ゐとののゆめのうちに、あれはいづこよりぞととひたまへば、へい
けのだいじやうのにふだうどののおむかひなりとまをす。くるまのぜんごにたちたるものは、あるはうしのおもて
のやうなるものもあり、あるはうまのやうなるものもあり、くるまのまへにはむといふもじばか
りあらはれたるくろがねのふだをぞうちたりける。二ゐどのあれはなんのふだぞととひたまへば、なんえんぶ
だいこんどう十六ぢやうのろしやなぶつ、やきほろぼしたるそのつみによつて、むげんのそこにしづみたまふべきよし、
えんまのちやうにてごさたさふらふが、むげんのむをばかかれたれども、いまだげんのじをばかかれ
ぬなりとぞまをしける。二ゐどのゆめさめてのち、このよしかたりたまへば、きくひとみなみのけよだちけ
り。れいぶつれいしやへこんごん七はうをなげ、うま、くら、よろひ、かぶと、ゆみや、たち、かたなにいたるまで、とり
いではこびいだいていのりまをされけども、そのしるしなし。ただなんによのきんたち、あとまくらにさしつどひて、
なげきかなしみたまひけり。うるふにんぐわふつかのひ、二ゐとのあつさたえがたけれども、おんまくらによりなく
なくのたまひけるは、ひにそひてたのみすくなうみえたまへば、それになにごとにもあれ、おぼしめされん
ずるおんことあらば、もののすこしおぼえさしましますとき、おほせられおけとぞのたまひける。にふだうさう
こく、ひごろはさしもゆゆしうおはせしかども、いまはのときにもなりぬれば、よにくるしげに
て、いきのしたにてのたまひけるは、たうけはほうげんへいぢよりこのかた、たびたびのてうてきをたひらげ、けんじやう
みにあまり、かたじけなくもいつてんのきみのごぐわいせきとなつて、しやうじやうのくらゐにいたり、えいぐわすでにしそんに

のこすもおもひおくこととてはこんじやうに一つもなし。ただしおもひおくこととては、にふだうがいちごのうち
によりともがかうべをみざりけることこそくちをしけれ。われいかにもなりなんのち、ぶつじけうやうもす
べからず。だうたうをもたつべからず。まづかまくらへうつてをつかはして、よりともがくびをきつて、
わがはかのまへにかくべし。それぞおもふことよとのたまひけるこそ、いとどおそろしけれ。もしや
たすかると、いたにみづおいてふしまろびたまへども、すこししもたすかりたまふここちもしたまはず。おなじ
き四かのひ、もんぜつびやくぢして、つひにあつちじににぞしたまひける。うまくるまのはせたがふおとは、てん
もひびきだいちもゆるぐばかりなり。いつてんのきみばんじようのあるじの、いかなるおんことましますとも、
これにはいかでかまさるべき。こんねんは六十四にぞなられける。おいしにといふべきにあらね
ども、しゆくうんたちまちにつきぬれば、しんめい三ばうのゐくわうもきこえ、だいほふひほふのかうけんもなく、しよてん
もえうごしたまはず、いはんやぼんりよにおいてをや。みにかはりめいにかはらんと、ちうをぞんぜしすまんの
ぐんりよは、だうじやうだうげにならみゐたれども、これはめにもみず、ちからにもかかはらぬむじやうのせつきをば、
しばしもたたかひかへさず。またかへりこぬしでのやま、さんのせがは、くわうせんちううのたびのそらに、ただいちにんこ
そおもむかれけれ。されどもひごろつくりおかれしあくごふばかりや、ごくそつとなつてむかへにもきた
りけむ。あはれなりしことどもなり。さてしもあるべきことならねば、おなじきなぬかのひ、をたぎ
にてけふりになしたてまつり、ほねをばゑんじつほふげんくびにかけ、せつつのくにへくだり、きやうのしまにぞをさめける。

さしもにほんいつしうになをあげ、ゐをふるひしひとなれども、みはいつときのけふりとなつて、ほのほそらに
たちのばり、かばねはしばしためらひて、はまのまさごにたはむれつつ、むなしきつちとぞなられける。

さうそうのよふしぎのことあり。たまをのべきんぎんをちりばめてつくられたりける。西八でうどのも、そ
のよにはかにやけにけるこそふしぎなれ。なにもののしわざにやありけん、はうくわとぞきこえし。また
そのよのよはばかりろくはらのみなみにあたつて、ひとならば二三十にんばかりがこゑして、うれしや
みづ、なるはたきのみづ、といふひやうしをいだいて、まひをどりどつとわらひなんどしけり。さんぬる
しやうぐわには、じやうわうかくれさせたまひて、てんかりやうあんになりぬ。またうちいちりやうぐわつとをへだてて、にふだうさう
こくこふぜられぬ。こころなきあやしのものも、いかがうれへざるべき。いかさまにもこれはてんぐの
しよゐといふさたにて、ろくはらのはやりをのつはものども百よにん、わらふこゑについて、これをたづ
ぬるに、ゐんのごしよほふぢうじでんには、へいけのあくぎやうによつてこのいちりやうねんはゐんもわたらせたまはず、
ごしよあづかり、びぜんのぜんじもとむねといふものあり。かのもとむねがあひしりけるものども、さけをもつてきた
りあつまり、はじめはかかるをりふしにおとなせそとてのみけるが、しだいにのみよひて、かやうには
まひをどりけるなり。ろくはらのつはものどもわらふこゑについて、百よにんばつとおしよせ、さけゑびもの

ども二三十にんからめとつて、ろくはらへゐてまゐる。さきのうだいしやうむねもりのきやう、おほゆかにたつて、
ことのしさいをとひたまうて、げにもそれほどまでにのみよひたらんずるものを、さうなうきるべ
きにあらずとて、みなゆるされけり。ひとのしするあとには、あさゆふにかねうちならし、いつもせんぼふ
することはつねのならひひれども、このぜんもんごふぜられてのちは、いささかくぶつせそうのいとなみといふこともな
く。あさゆふはただいくさかつせんのくはだてのほかは、またたじなしとぞみえし。すべてはさいごのしよらうのありさまど
もこそうたてけれども、まことにはただびとともおぼえぬことどもおほかりけり。ひよしのやしろへまゐり
たまひしには、たうけたけのくぎやうおほくぐぶして、せつろくのしんのかすがのごさんぐううじいりなんどまを
すとも、これにはいかでかまさるべきとぞ、ひとまをしける。それになによりもまたせつつのくにわだの
みさきにきやうのしまついて、じやうかわうらいのふねの、いまのよにいたるまで、わづらひなきこそめでたけれ。
かのしまは、さんぬるおうほぐわんねんにんぐわづげじゆんにつきはじめられたりけるが、おなじき八ぐわつふつかのひ、
にはかにおほかぜふき、おほなみたつてみなゆりうしなひてき。おなじき三ねん三ぐわつに、あはのみんぶしげよしをぶ
ぎやうにてつかれけるに、ひとばしらたてらるべしなんど、くぎやうせんぎありしかども、それはなかなか
ざいごふなるべしとて、いしのおもてにいつさいきやうをかいてつかせられたりけるゆゑにこそ、きやうのしまと
はなづけけれ。

あるひとのまをしけるは、きよもりこうはただびとのあらず、じゑそうじやうのけしんなり。そのゆゑはせつつの
くにせいちようじのひじり、じしんばうそんゑとまをししは、もとはえいざんのがくりよ、たねんほつけのぢしやなり。しかる
をだうしんおこし、りさんしてこのてらにすみけるを、ひとみなきえしけり。さんぬるしようあん二ねん十にんぐわつ二
十二にちのよのいぬのこくばかりにじやうぢうのぶつぜんにまゐり、けうそくにもたれかかつてほけきやうをよみたてまつられ
けるが、ゆめともなくうつつともなく、じやういにたてゑぼしきて、わらんづはばきしたるをとこいちにん、たてぶみ
をもつてきたれり。そんゑ、ゆめのうちに、あれはいづこよりぞととひたまへば、えんまわうきうよりせんじ
のさふらふとて、そんゑにわたす。そのゑこれをひらいてみるに、なんゑんぶだい、だいにほんのこくせつつのくにせい
ちようじのひじり、じしんばうそんゑ、らい二十六にち、えんまらじやうだいこくでんにして、十まんぶのほけきやうてんどくいた
さるることあり。よつていそぎさんきんすべし、えんわうのせんよつてくつじやうくだんのごとし。しようあん二ねん十にんぐわつ
二十二にち、えんまちやうとぞかかれたる。そんゑいなみまをすにおよばねば、やがてりやうしやうのうけぶみをかい
てわたすとおぼえて、ゆめさめぬ。これをゐんしゆのくわうようばうにかたりたまへば、きくひとみのけよだちけ
り。そんゑそののちはひとへにしきよのおもひをなして、くちにはみだのぶつみやうをとなへ、こころにいんせつのひぐわん
をねんず。やうやう二十五にちのよにいつて、またじやうぢうのぶつぜんにまゐり、れいのごとくねんぶつどくきやうす。

ねのこくばかりねまりしきりなるがゆゑに、ぢうばうにかへつてうちふす。うしのこくばかり、またさきのごと
くをとこふたりきたつて、とうとうとすすむるあひだ、そんゑさんけいいたさんとすれば、えはつさらになし。
えんわうせんをじせんとすれば、はなはだそのおそれあり。このおもひをなすところに、ほふいじねんにみに
まとうてかたにかかり、てんよりこがねのはちくだる。ににんのじゆそう、ににんのどうじ、十にんのげそう、七
はうのだいしや、じばうのまへにげんず。そんゑよろこびてくるまにのり、にしきたにむかつてこくうをかけるとおぼえ
て、ほどなくえんまわうぐうにいたりぬ。わうきうのていをみるに、ぐわいくわくくわうくわうとして、そのうちべうべうた
り。そのなかに、七はうしよじやうのだいこくでんあり。かうくわうこんじきにして、ぼんぶのまなこにおよびがたし。そのひの
ほふゑをはつてのち、よそうらみなかへりさんぬ。そんゑはだいこくでんのなんばうのちうもんにたつて、はるかのだいごく
でんをみわたせば、みやうくわんみやうしゆう、みなえんまほふわうのごぜんにかしこまる。そんゑめでたかりけるさんけいか
な。このついでにごしやうのざいしやうをたづねまをさんとおもつて、あゆみむかふ。そのあひだにふたりのじゆぞうはこ
をもち、ふたりのどうじかさをさす、十にんのげそうれつをひいて、やうやうあゆみちかづくとき、えんま
ほふわうをはじめたてまつて、みやうくわんみやうしゆうことごとくおりむかふ。やくわうぼさつ、ゆうせぼさつ、ふたりのじゆぞう
にへんじ、たもん、ぢこくふたりのどうじにげんず。じふらせつによ十にんのげそうにへんじて、ずゐらくきふじしたま
へり。えんわうとうていはく、よそうらかへりさんぬ、ごばうひとりきたることいかに、そんゑごしやうのざいしやう
をたづねまをさんがためなり。えんわうこたへて、わうじやうふわうじやうはひとのしむぶしんにありとうんぬん。えんわう

またみやうくわんにちよくして、このおんばうのさぜんのふみばこたいごくでんのなんばうのはうざうにあり。ゆいてとりだし、
いつしやうのけたのひもんをみせたてまつれとぞのたまひける、みやうくわんかしこまりうけたまはつて、なんばうのはうざうにゆき、
ひとつのふみばこをとつてまゐり、すなはちふたをひらいてよみきかす。みやうくわんふでをそめていちいちにこれをかく
そんゑがいちごがあひだおもひとおもひ、せしとせしことの、ひとつとしてあられずといふことなし。
そんゑひたんていきふして、こひねがはくはしゆつりしやうしのみちををしへへ、しようだいぼだいのぢきだうをしめしたまへと、まを
されければ、えんわうあいみんけうげして、しゆじゆけをじゆす。
妻子王位財眷屬 死去無一來相親
常随業鬼繋縛我 受苦叫喚無邊際
このげをじゆしをはつて、そんゑにふぞくす。そんけいずゐきのなみだをながいて、なんえんぶだいだいにつほんこくに、にふ
だうさうこくとまをすひとこそ、せつつのくにわだのみさきをてんじて、しめん十よちやうにやをたて、おほくぢ
きやうしやをくつしやうして、ばうばうにいちめんにざにつけ、こんにちの十まんそうゑのごとく、ねんじゆどくきやうていねいにきん
ぎやういたされさふらふとまをされたりければ、えんわうずゐきかんたんしたまひて、きよりこうはただひとにあら
ず、じけいそうじやうのけしんなり。そのゆゑはてんだいのぶつぱふごぢのために、かりににほんにさいたんするゆゑに、
われかのひとをひびにさんどらいするもんあり、くだんのにふだうにえさすべしとて、
敬禮慈恵大僧正 天台佛法擁護者

示現最初将軍身 悪刧衆生同利益
このげをしようしをはつて、そんゑにまたふぞくす。そんゑなのめならずによろこび、なんばうのちうもんにいづるとき、
十よにんのじゆうぞうら、またさきのごとし。くるまのぜんごにしたがひつつとうなんにむかつてそらをかけり、ほどなくかへり
きたるかとおぼえて、ゆめさめぬ。そののちそんゑみやこへのぼり、にふだうさうこくのにし八でうのやしきにゆきむかつ
て、このよしつぶさにかたりまをされたりければ、にふだうさうこくなのめならずによろこび、やうやうにもてな
され、さまざまのひきでものたうで、そのときのけんじやうには、りつしになされけるとぞきこえし。それよ
りしてこそ、きよもりこうをば、じけいそうじやうのけしんとは、ひとみなしりてんげり。ぢきやうしやうにんはこうぼふ
だいしのさいたん、しらかはゐんはまたぢきやうしやうにんのけしんあり。このきみはくどくのはやしをなし、ぜんこんのとくをかさ
ねさせおはします。まつだいにもきよもりこう、じけいそうじやうのけしんとして、あくごふもぜんこんもともにこうを
つみて、よのためひとのために、じたのりやきをなすとみえたり。かのだつたとしやくそんのどうしゆ
じやうのりやくにことならず。

またふるいひとのまをしけるは、きよもりこうはただびとにあらず。まことにはしらかはゐんのおんこなり。そ
のゆゑは、さんぬるえいきうのころほひ、ぎをんのにようごとて、さいはひじんおはしき。かのにようばうのすまゐどころは、

ひんがしやまのふもと、ぎをんのかたはらにてぞありける。しらかはのゐんつねはごかうなる。あるとき、でんじやうびと一
りやうにん、ほくめんせうせうめしぐして、しのびのごかうありしに、ころはさつきはつがあまり、まだよひのこと
なるに、さみだれさへかきくれて、よろづものいぶせかりけるをりふし、くだんのにようばうのしゆくしよちかうみ
だうあり、みだうのかたほとりより、ひかるものこそいできたれ、かしらはしろがねのはりをみがきたてたるやうに
きらめき、さうのてとおぼしきをさしあげたるをみればかたてにはつちのやうなるものをもち、
かたてにはひかるものをぞもちたりける。これぞまことのおにとおぼゆる。てにもてるものは、きこ
ゆるうちでのこづちなるべし、こはいかがせんとて、きみもしんもおほきにおそれさせおはします。
ただもりそのときはほくめんのげらうにてぞさぶらはれけるを、ごぜんへめして、このなかにはなんぢぞあるら
ん。あのものいもころしてきりもとどめてんやとおほせければ、かしこまゐりうけたまはつてごぜんをまかりた
つ、ただもりないないおもひけるは、かのものさしてたけきものとはみえず、さだめてこりのしざわにてぞ
あるらん。それをいもころし、きりもとどめたらんは、いかにねんなからまし。おなじうばいけどり
にせんとおもつてあゆみむかふ。とばかりあつては、さつとはひかり、とばかりあつては、さ
つとはひかり、二三どしけるを、ただもりすたすたとはしりよりむづとくむ。くまれて、こは
いかにとさわぐ。へんげのものにてはなくして、はやひとにてぞさふらひける。そのときじやうかてんにでに
ひをともいて、これをごらんじみたまへば、六十ばかんのほふしなり。たとへばみだうのしようじほふし

にてありけるが、ごとうみやうをまゐらせんために、かたてにはてがめといふものにあぶらをいれても
ち、かたてにはかはらけにひをいれてもつたりけるが、あめはいてふる、ぬれれじとて、こむぎの
わらをひきむすんでかついだるが、こむぎのわらがかはらけのひにかがやいて、ひとへにしろがねのはりのごとく
にはみえたんなり。ことのていいちいちしだいにあらはれぬ。そをいもころし、きりもとどめたらんは、
いかにねんなからまし。ただもりがふるまひこそまことにしりよふかけれ。ゆみやとりはやさしかりけ
るものかなとて、さしもごひざうときこゆるぎをんのにようごを、ただもりにこそくだされけれ。このによう
ごはらみたまへり。にようごのうめらんこによしならば、ちんがこにせん、なんしならばしんがこにし
てゆみやとりにしたてよとおほせけるに、すなはちなんをうめり。ことにふれてはひろうせざりけれど
も、ないないはもてなしけり。いかにもしてひろせばや、とおもはれけれども、よきべんぎも
なかりけるが、あるときしらかはのゐんくまのへごかうある、きのくにいとがざかといふところに、みこしかきす
ゑさせ、しばらくごきうそくありけり。そのときただもり、やぶにいくらもありけるぬかごをそでにもい
れ、ごぜんへまゐりかしこまつて、
いもがこははふほどにこそなりにけれ
とまをされたりければ、ゐんやがておんこころえあつて、
ただもりとりてやしなひにせよ

とぞつけさせおはします。それよりしてこそわがことはもてなされけれ。このわかぎみあまり
によなきをしたまひしければ、ゐんきこしめして、いつしゆのおんうたをあそばいてぞくだされける。
よなきすとただもりたてよすゑのよにきよくさかふることもこそあれ
さてこそ、きよもりとはなのられけれ。十二にてひやうゑのすけになり、十八のとし四ほんして、四
ゐのひやうゑのすけとまをししをだに、しさいぞんぢせぬひとは、くわそくのひとこそかうはといへば、と
ばゐんはしろしめして、きよもりがくわそくは、ひとにおとらじなとぞおほせける。むかてんちてんわうはらみたまへ
るにようごを、だいしよくくわんにたばふとて、にようごのうめらんこ、によしならばちんがこにせん、なんし
ならばしんがこにせよとおほせけるに、すなはちなんをうめり。たぶのみねのほんぐわん、ぢやうゑぐわしやうこれなり。
むかしもかかるためしありければ、まつだいにもきよもりこう、まことにはしらかはのゐんのわじとして、さしもてん
がのだいじ、みやこうつりなどいふことをも、おもひたたれけるにこそ。

おなじき二十かのひ、五でうだいなごんくにつなのきやうも、うせたまひぬ。これはにふだうさうこくとさしもおん
ちぎりぶかかりしが、どうじつにやみつきて、おなじひにうせたまひけるこそふしぎなれ。おなじき二十
二にち、さきのうだいしやうむねもりのきやうゐんさんして、ゐんのごしよを、ほふぢゆうじでんへごかうなしたてまつるべきよしそう

せらる。かのごしよはさんぬるおうはうぐわんねんしんぐわつ十五にちにつくりいだされて、いまひえ、いまくまの、
まぢかうくわんじやうしたてまつり、せんずゐこだちにいたるまで、おんこころままなりしが、へいけのあくぎやうによつて
て、このいちりやうねんは、ゐんもわたらせたまはず、ごしよのはいゑしたるをしゆりして、ごかうなしたてまつるべ
きよし、そうもんせられたりければ、ほふわうなんのようもあるまじ、ただとうとうとてごかうなる。
まづこけんしゆんもんゐんのおはしつるかたをごらんずれば、きしのまつ、みぎはのさくら、としへにけりとおぼし
くて、こだかくなれるにつけても、たいえきのふよう、みあうのやなぎ、これにむかふに、いかんがなみだすす
まざらん。かのなんゑんせいぐうのむかしのあと、いまこそおぼしめししられけれ。三ぐわつひといのひ、ぢもく
おこなはれしなんとのそうかうら、みなゆるされてほんくわんのふくす。まつじさうゑん、ひとところもさうゐあるべからざ
るよしおほせくださる。おなじき三かのひ、だいぶつでんことはじめあるべしとて、ことはじめのぶぎやうには、さき
のさせうべんゆきたかとぞきこえし。このゆきたかせんねんやはたへまゐり、つやせられたりけるゆめに、ごはうでん
のうちよりびづらうたるてんどうのいでて、われはこれだいぼさつのおつかひなり。だいぶつでんことはじめのぶぎやうのとき
にはこれをもつべしとて、しやくをたまはるといふゆめをみて、さめてのちみたまへば、うつつにまくらがみ
にぞたてたりける。あなふしぎ、たうじなにごとあつてか、だいぶつでんことはじめのぶぎやうにまゐるべきは
おもはれけれども、くわいちうしてしゆくしよにかへり、ふかうをさめておかれけるが、へいけのあくぎやうによつ
て、いままたなんとえんじやうのあひだ、おほくのべんのなかに、このさせうべんゑらみいだされて、だいぶつでんことはじめのぶぎやう

にまゐられける、しゆくえんのほどこそめでたけれ。おなじき十かのひ、みののくにのもくだい、はやうまを
もつてみやこへまをしけるは、きよねんのふゆのころよりげんじすでにをはりのくにまでせめのぼり、みちをふさいで、
いつかうひとをとほさぬよしまをしたりければ、へいけのひとびとおほきにさわいでやがてうつてをさしむけ
らる。たいしやうぐんには、さひやうゑのかみとももり、こまつのしんざんみのちうじやうすけもり、ひだんのちうじやうきよつねおなじき
せうしやうありもり、たんごのじじゆうただふさ、さぶらひだいしやうには、ゑつちうのじらうひやうゑもりつぐ、かづさの五らうひやうゑただみつ、
あく七ひやうゑかげきよをさきとして、つがふそのぜい三まんよき、をはりのくにへはつかうす。にふだうさうこくかくれさ
せたまひて、いまだ五じゆんをだにもみたざるに、さこそみだれたるよといひながら、あさま
しかりしことどもなれ。げんじのかたには、十らうくらんどゆきいへ、ひやうゑのすけのおとうときやうのきみぎゑん、つがふ
そのぜい六千よき、をはりがはをへだてて、げんぺいりやうはうにぢんをとる。おなじき十六にちのよにいつて、
げんじ六千よきかはをわたいてへいけ三まんよきがなかへかけいり、とらのこくよりやあはせして、よのあ
くるまでたたかふに、へいけのかたにはちつともさわがず。げんじはかはをわたいたれば、うまもののぐもみなぬ
れたるぞ、それをしるしにうつてやとて、げんじをなかにとりこめて、われうちとらんとぞすす
みける。ひやうゑのすけのおとうと、きやうのきみぎゑん、ふかいりしてうたれにけり。十らうくらんどゆきいへは、いへの
こらうどうおほくうたせ、ちからおよばでかはよりひんがしへひきしりぞく、へいけやがてつづいてかはをこして、おちゆ
くげんじをおふものいにいてゆくに、あそこここにてかへしあはせあはせ、ふせぎたたかふといへども、たぜい

にぶぜいかなふべしともみえざりけり。すゐゑきをあとにすることなかれとこそいへ、こんどのげん
じのはかりごとはおろかなりとぞひとまをしける。十らうくらんどゆきいへは、みかはのくにへひきしりぞき、やはぎがは
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じんをこそやぶられたれども、ざんたうをせめざれば、させるしだしたることなきがごとし、へいけは
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はなりしかば、ねんらいおんこのともがらのほかは、したがひつくものなかりけり。とうごくはくさもきも、みな
げんじにぞなびきける。

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に、きそつゐたうのためにとて、そのせい三まんよきにてしなののくにへはつかうす、六ぐわ十五にちにかどでし
て、すでにうつたたんとしけるあくる十六にちに、にはかにそらかききもり、かみなりおびただしうあんつて
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のるしやなぶせうばうしたてまつつたる、へいけのかたうどするものここにあり、よつてめしとれやと、みこゑ
さけびてぞとほりける。じやうのたらうをはじめとして、これをきくつはものども、みなみのけよだちけり。
らとうどもこれほどにてんのおんつげのさふらふに、ただりをまげてとまらせたまへといひければ、ゆみやとる
みのそれによるべきやうなしとて、しろをいでて、十よちやうをぞゆいたりける。くろくもひとむら
たちきたつて、すけなががうへにおふとみえしが、たちまちみすくみ、こころほれてらくばしてんげり。
こしにかかれてやかたへかへり、うちふすことみときばかりして、やがてしにぬ。ひきやくをもつて、
このよしみやこへまをしたりければ、へいけのひとびとおほきにおそれさわがれけり。これによつて七ぐわ十しにち、
かいげんあつてやうわとがうす。そのひぢもくおこなはれて、ちくごのかみさだよしひごのかみになつて、ちくぜんひ
ごりやうごくをたまはつて、ちんぜいのむほんたひらげに、そのぜい三千よきにてちんぜいへはつかうす。またひじやうのしや
おこなはれて、さんぬるぢしよう三ねんにながされさせたまひしひとびと、みなゆるされてのぼらせたまふ。にふだうまつ
どのでんが、びぜんのくによりごじやうらく。めうおんゐんのだいじやうのおほいとの、をはりのくによりのぼらせたまふ。あ
ぜちのだいなごんすけかたのきやうは、しなののくによりきらくとぞきこえし、おなじき二十八にち、めうおんゐんでんご
さんゐん、さんぬるちやうくわんのきらくには、ごぜんのすのこにして、がわうおん、げんじやうらくをはじきたまひしが、
やうわのいまのききやうには、せんどうにして、しうふうらくをぞあそばされける。いづれもいづれもふぜいをりをおぼ
しめしよらせたまひけん、おこころばせこそめでたけれ。あぜちだいなごんすけかたのきやうも、そのひおなじ

うゐんさんせらる、ほふわうえいらんなつて、いかにやいかにただゆめとのみこそおぼしめせ、このごろは
ならはぬひなのすまゐして、えいきよくなんども、いまはあとかたあらじとこそおぼしめせども、まづいま
やうひとつあれかしとおほせければ、だいなごんひやうしとつて、しなのにあんなるきそぢがはといふ
いまやうを、これはみたまひたりければ、しなのにありしきそぢがはとうたはれけるこそ、ときにと
つてのかうみやうなれ。

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くわんじゆをしんじたりけるをひけんせられけるに、へいしてうふくのよしを、ちうしんしけるぞおそろしき。
こはいかにとおほせければ、てうてきてうぷくのよしおほせくださる。つらつらたうじのていをみさふらふに、へいけもつぱ

らてうてきとみえたり。よつてかれをてうぷくす。なんのとがめやさふらふべきとまをす。このほふしきくわいなり、
しざいかるざいかとくぎやうせんぎありしかども、そうげきのだいせうじにうちまぎれて、そののちはさたもな
かりけるが、へいけほろびげんじのよになつてのちかまくらへくだり、このよしかくとまをしければ、かまくら
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二十四か、ちうぐうゐんがうかふむらせたまひて、けんれいもんゐんとぞまをしける。すじやういまだえうしゆのおんとき、ぼ
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せちゑいかつねのごとし。二ぐわ二十一にち、たいはく、ぼうせいををかす。てんもんえうろく/に\いはく、たいはくばう
せいををかせば、しいおこるといへり。またしやうぐんちよくめいをうけたまはつて、くにのさかひをいづともみえた
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ときこえしかば、たいしゆうにしさかもとへおりくだつて、こはいかにとせんぎす。でんそうのひともいろをうしなひ、

きみもえいりよをおどろかさせおはします。わかきくぎやうでんじやうびとのなかにはあまりにあわてさわいて、わうずゐ
をはくものおほかりけり。さんじやうらくちうのさうどうななめならず。さるほどにしげひらのきやう、あなふのあたりにてほふわう
むかへとりたてまつつて、みやこへくわんぎよなしたてまつる。いちゐんさんもんのだしゆうにおほせて、へいけつゐたうせらるべし
といふことも、へいけまたやませめんといふことも、あとかたもなきそらごとなり。ただてんまのよく
あれたるにこそとぞ、ひとまをしける。ほふわうおはせなりけるは、かくのみあらんには、こののちは
おんものまうでなんどまをすおんことも、おんこころにはまかすまじきことやらんとぞおほせける。おなじき二
十かのひ、二十二しやへくわんぺいしをたてらる。これはききんしつえきによりてなり。おなじき五ぐわ二
十しにちにかいげんあつて、じゆえいとがうす。そのひぢもくおこなはれて、ゑちごのくにのぢうにんじやうの四らうすけもち
ゑちごのかみににんず。あにすけながせいきよのあひだふきつなりとて、しきりにじしまをしけれども、ちよくめなればちから
およばず。これによつて、すけもちをながもちとかいめいす。さるほどに九ぐわ二かのひ、ゑちごのくにのぢゆうにんじやう
の四らうながもち、ゑちごのかみににんずるてうおんのかたじけなさに、きそつゐたうのためにとて、ゑちご、で
は、あひづ四ぐんのへいどもをいんそつして、つがふそのぜい四まんよき、しなののくにへはつかうす。きそはよだ
のしろにありけるが、三千よきでしろをいではせむかふ。おなじき九かのひ、たうごくよこたがはらに
ぢんをとる。きそどののかたよりゐのうへの九らうみつもりがはかりごとに、にはかにあかはた七ながれつくつて、三千よき
をななてにわかち、てにてにさしあげ、あそこのみねここのほらよりよせければ、ゑちごのぜいども

これをみて、あはやこのくににもみかたのありけるにこそとて、いさみよろこぶところに、しだいにちかうな
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るが、あるひはかはへおゐつばめられ、あるひはあくしよにおひおとされて、たすかるものはすくなう、うたるる
ものぞおほかりける。じやうの四らうがたのみきつたるゑちごのやまのたらう、あひづのじようたんばうなんどいふ、
いちにんたう千のつはものどもも、そこにてきそにうちとられぬ。わがみておひ、からきいのちいきつつ、かは
につたうてゑちごのくにへひきしりぞく。ひきやくをもつてこのよしみやこへまをしけれども、へいけのひとびとはちつ
ともさわぎたまふここちもしたまはず。おなじき十六にち、さきのうだいしやうむねもりのきやう、だいなごんにくわんぢやくし
たまふ、十ぐわつ三かのひ、ないだいじんになつて、やがておなじき七か、よろこびまをしのありしに、くぎやう
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くらんどのかみのちかむねいかのでんじやうびと十六にんぜんくす。ちうなごん四にん、三みのちうじやうも三にんまでおは
しき。とうごくほつこくのげんじら、はちのごとくにおこりあひ、ただいまみやこへみだれいるよしきこえしかども、
へいけのひとびとはかぜのふくやらん、なみのたつらやらんをもしりたまはず、かやうにはなやかなり
しぎしきは、なかなかいふかひなうぞみえし。さるほどにことしもくれてじゆえい二ねんになりにけり。
せちゑいかつねのごとし。しやうぐわ五かのひ、すじやうごげんぷくあつて、おなじき三かてうきんのみゆきありけ

り。これはとばのゐん六さいにててうきんのぎやうかうありし、そのれいとぞきこえし。二ぐわつ二十一にち、むねもり
こうじゆ一ゐしたまふ。そのひやがてないだいじんをばじやうへうせらる。これはへいらんつつしみのためとぞきこえし。
なんとほくれいのだいしゆう、ゆやきんぷぜんのそうと、いせだいじんぐうのさいしゆ、しんくわんにいたるまで、みなへいけ
をそむいて、げんじにこころをかよはしけり。しかいにせんじをなしくだし、よもへゐんぜんをつかはせど
も、ゐんぜんせんじをも、ただいつかうにへいけのげちとのみこころえて、したがひつくものもなりけり。



平曲譜本 藝大本 巻七

巻七
じゆえい二ねん三ぐわつじやうじゆんに、きそのくわんじやよしなか、うひやうゑのすけよりとも、ふくわいのことありときこえけ
り。さるほどにかまくらのさきのうひやうゑのすけよりとも、きそよしなかつゐたうのためにとて、そのせい十まんよき
をいんそつしてしなののくにへかつかうす。きそはそのころよだのじやうにありけるが、これをきいて三千よ
きでじやうをいで、しなのとゑちごのさかひなる、くまさかやまにぢんをとる。うひやうゑのすけよりともはおなじきくに
のうち、ぜんくわうじにこそつきたまへ。きそめのとごのいまゐの四らうかねひらをししやにて、うひやうゑのすけ
のもとへつかはす。なんのしさいあつてかよしなかうたんとはしたまふなるぞ。ごへんはとうはつかこくをうち
したがへて、とうかいだうよりせめのぼり、へいけをおひおとさんとはしたまふなれ。よしなかも、とうせん、ほくろく
りやうだうをうちしたがへて、ほくりくだうよりせめのぼり、いま一にちもさきにへいけをほろぼさんとすることでこ
そあれ、そのうへごへんとよしなかなかをたがううて、へいけにわらはれんとはおもふべき。ただしおじの十らう
くらんどどのこそ、ごへんをうらみたてまつることありとて、よしなかがもとへおはしたるを、よしなかさへすげなう
もてなしまをさんこといかんぞやさふらへば、これまではうちつれたてまつたれ。よしなかにおいては、まつたくいしゆ
おもひたてまつらぬよし、いひおくられたりければ、うひやうゑのすけどの、いまこそさやうにのたまへども、まさし

うよりともうつべきよしのむほんのくはだてありと、つげしらするものあり。ただしそれにはよるべから
ずとて、どひかぢはらをさきとして、すまんぎのぐんびやうをさしむけらるるよしきこえしかば、きそ、
しんじついしゆなきよしをあらはさんがために、ちやくしにしみづのくわんじわよししげとてしやうねん十一さいになり
けるせうくわんに、うんの、もちづき、すは、ふぢさはなんどいふ、いちにんたう千のつはものどもをあひそへて、う
ひやうゑのすけのもとへつかはす。うひやうゑのすけどの、このうへはまことにいしゆなかりけり。よりともいまだせいじんの
こをもたず、よしよし、さらばこにしまをさんとて、しみづのくわんじやうをあひぐして、かまくらへこそかへ
られけれ。さるほどにきそよしなかは、とうせんほくろくりやうだうをうちしたがへて、ほくろくだうよりせめのぼり、すでに
みやこへみだれいるよしきこえけり。へいけはこぞのふゆのころより、みやうねんはうまのくさかひについて、いくさあ
るべしとひろせられたりければ、せんぶん、せんやう、なんかい、さいかいのつはものども、うんかのごとくにはせ
あつまる。とうせんだうはあふみ、みの、ひだのつはものはまゐりたれども、とうかいだうは、たほとうみよりひんがしのつはものは
いちにんもさんせず、にしはみなまゐりたり。ほくろくだうは、わかさよりきたのつはものはいちにんものまゐらず。へいけの
ひとびと、まづほつこくへうつてをつかはして、きそよしなかをうつてのち、ひやうゑのすけよりともうつべきよしの
くぎやうせんぎあつて、ほつこくへうつてをさしむけらる。たいしやうぐんにはこまつのさんみのちうじやうこれもり、ゑちぜん
のさんみみちもり、ふくしやうぐんにはさつまのかみただのり、くわうごうぐうのすけつねまさ、あはぢのかみきよふさ、みかはのかみとも
のり、さぶらひだいしやうには、ゑつちうのぜんじのもりとし、かづさのたいふのはうぐわんただつな、ひだのたいふのはうぐわんかげたか、

かはちのはうぐわんひでくに、たかはしのはうぐわんながつな、むさしの三らうさゑもんありくに、ゑつちうのじらうひやうかんもりつぐ、かづ
さの五らうひやうゑただみつ、あく七ひやうゑかげきよをさきとして、いじやうたいしやうぐん六にん、しかるべきさぶらひ三百四十
よにん、つがふそのせい十まんよき、しんぐわつ十七にちのたつのいつてんにみやこをたつて、ほつこくへこそおもむかれ
けれ。へんだうをたまはつてんければ、あふさかのせきよりはじめて、ろじにもつてあふけんもんせいかのしやうぜい
くわんもつをもおそれず、いちいちにみなうばひとり。しが、からさき、みつかじり、まの、たかしま、しほつ、かいづ
のみちのほとりについてしだいにつゐぶしてとほりけければ、じんみんこらへずして、さんやにみなとうさんす。

たいしやうぐんこれもり、みちもりはすすみたまへども、ふくしやうぐんただのり、つねまさ、きよふさ、とものりなんどは、いまだあふ
みのくにしほづ、かいづにひかへたまへり。なかにもつねまさは、しいかくわんげんのみちにちやうじたまへるひとにてお
はしければ、かかるみだれのなかにも、あるあした、みづうみのはたにうちいで、はるかのおきなるしまを
みわたいて、ともにさふらふとうひやうゑのじようありのりをめして、あれをばいづくといふぞととひたまへば、
あれこそきこえさふろふちくぶじまにてさふらへ、とまをしければ、つねまささることあり、いざやまゐ
らんとて、とうひやうゑのじようありのり、あんゑもんのじようもりのりいげ、さぶらひ五六にんめしぐして、こぶねにのり、
ちくぶじまへぞまゐられける。ころはうづきなかの八かのことなれば、みどりにみゆるこずゑには、はるのなさけを

をしむかとうたがはれ、かんんこくのあうぜつのこゑおいては、はつねゆかしきほととぎす、をりしりがほにつげわた
り、まつにふぢなみさきかかつて、まことにおもしろかりければ、つねまさいそぎふねよりおり、きしにあが
り、このしまのけしきをみたまふに、こころもことばもおよばず。かのしんくわう、かんぶ、あるひはどうなんくわによをつかは
し、あるひははうしをしてふしのくすりをたづねしに、ほうらいをみずば、いなやかへらじといひて、
いたづらにふねのうちにておい、てんすゐばうばうとして、もとむることをえざりけん、ほうらいどうのありさまも、
これにはすぎじとぞみえし。あるきやうのもん/に\いはく、えんぶだいのなかにみづうみあり、そのなかにこんりんざいよ
りおひいでたるすゐしやうりんのやまあり、てんによすむところといへり。すなはちこのしまのおんことなり、つねまさ、
みやうじんのおんまへについゐつつ。それだいべんくどくてんは、わうこのによらいほつしんのだいじなり。めうおん、べん
ざい二てんのなは、かくべつなりとはまをせども、ほんちいつたいにしてしゆじやうをさいどしたまへり。いちどさん
けいのともがらは、しよぐわんじやうじゆゑんまんすとうけたまはれば、たのもしうこそさふらへとて、しづかにほつせまゐ
らせてゐたまへば、やうやうひくれ、ゐまちのつきさしいでて、かいじやうもてりわたり、しやだんも
いよいよかがやきければ、じやうぢうのそう、これはきこゆるおんことなりとて、おんびはをまゐらせたり。
つねまさこれをとつてひきたまふに、じやうげんせきじやうのひきよくには、みやのうちもすみわたり、まことにおもしろ
かりければ、みやうじんもかんおうにたへずやおぼしけん、つねまさのそでのうへに、びやくりうげんじてみえたまへ
り。つねまさあまりのかたじけなさに、よろこびのなんだせきあへたまはず。ややしばらくおんびはをさし

おいて、かうぞおもひつづけたまふ。
ちはやふるかみにいのりのかなへばやしるくもいろのあはれにけり
めのまへにててうのをんできをたひらげ、きようとをほろばさんこと、うたがひ-なしとよろこんで、またふねにの
り、ちくぶしまをぞいでられける。ありがたかりしことどもなり。

さるほどにきそのくわんじやよしなかは、みがらはしなのにありながら、ゑちぜんのくにひついがじやうをぞか
まへたる。かのじやうくわくにこもるせい、へいせんじのちやうりさいめいゐぎし、とがしのにふだうぶつせい、いなづのしん
すけ、さいとうだ、はやしの六らうみつあきら、いしぐろ、みやざき、つちだ、たけべ、にふぜん、さみをさきとして、六千
よきこそこもりけれ。ところ、もとよりくつきやうのじやうくわく、ばんじやくそばたちめぐつて、しはうにみねをつらね
たり。やまをまへにし、やまをうしろにあつ。じやうくわくのまへには、のみがは、しんだうがはとてながれたり。かの
ふたつのかはのおちあひに、たいせきをかさねあげ、おほきをきつてさかもぎにひき、しがらみをおびただしうかき
あげたれば、とうざいのやまのねにみづせきこうで、みづうみにむかへるがごとし。かげ、なんざんをひたし、あを
うしてくわうやうたり。なみ、せいじつとしづめて、くれなゐにしていんりんたり。かのむねつちのそこにはきんぎんの
いさごをしき、こんめいちのなぎさにはとくせいのふねをうかべたり。わがてうのひうちがじやうのつきいけは、つつみをつ

き、みづをにごして、ひとのこころをたぶらかす。ふねなくしては、たやすうわたすべきやうなかりしか
ば、へいけのおほぜい、むかひのやまにしやくして、いたづらににつしゆをぞおくりける。かのじやうくわくにこもつたるへい
ぜんじのちやうりさいめいゐぎし、へいけにこころざしふかかりければ、やまのねをめぐり、せうそくをかいて、ひき
めにいれ、へいしのぢんへぞいいれたる。へいけのかたのつはものどもこれをとりて、たいしやうぐんのおんまへに
まゐり、ひらいてみるに、このかはとまをすは、わうごのふちにはあらず。いつたんやまかはをせきとどめ、
みずをにごしてひとのこころをたぶらかす。よにいつてあしがるどもをつかはして、しがらみをきりおとさせられな
ば、みづはほどなくおつべし。うまのあしだちよきところにてさふらふ。いそぎわたさせたまへ。うしろやをつかまつらん。
かうまをすものは、へいぜんじのちやうりさいめいゐぎしがまをしじやうとぞかいたりける。へいけななめならずによろこ
び、やがてよにいりあしがるどもをつかはして、しがらみをとりのぞけさせられたりければ、げにもおびただしう
はみえけれどもやまかはではあり、みづはほどなくおちにけり。へいけしばしのちちにもおよばず
ざつとわたす。しろのなかにも六千よきふせぎたたかふといへども、たぜいにぶせい、かなふべしともみ
えざりけり。へいせんじのちやうりさいめいゐぎしは、へいけについてちうをいたす。とがしのにふだうぶつせい、
いなづのしんすけ、さいとうだ、はやしの六らうみつあき、かなはじとやおもひけん、じやうをいでてかがのくにへ
おちゆき、しらやま、かはちにたてこもる。へいけやがてつづいてかがのくにへうちこえ、とがし、はやし
がじやうくわく、二かしよやきはらふ。なにおもてをむかふべしともみえざりけり。ちかきしゆくじゆくよりひきやくをもつ

て、このよしみやこへまをししたりければ、おほいどのをはじめたてまつて、へいけのひとびとみないさみよろこびあはれ
けり。五ぐわつ八かのひ、かがのくにしのはらにてせいぞろひして、おほてわらめでふたてにわかつてむかはれけり。
おつてのたいしやうぐんには、こまつのさんみのちうじやうこれもり、ゑちぜんのさんみみちもり、ふくしやうぐんには、さつまのかみ
ただのり、くわうごうのぐうのすけつねまさ、さぶらひだいしやうには、ゑつちうのじらうぜんじもりとしをさきとして、つがふそのせい
七まんよき、かがゑつちうのさかひなるとなみやまへぞむかはれける。からめてのたいしやうぐんには、あはぢのかみきよ
ふさ、みかはのかみとものり、さぶらひだいしやうには、むさしの三らうさゑもんありくにをさきとして、つがふそのせい三
まんよき、のとゑつちうのさかひなるしをのやまへぞむかはれける。きそはそのころゑちごのこふにあり
けるが、これをきいて、五まんよきでこふをたつて、となみやまへぞむかひける。よしなかがいくさの
きちれいなりとて、五まんよきをななてにわかつ。まづおぢの十らうくらんどゆきいへ一まんよき、しをのやま
へぞむかひける。ひぐちにじらうかねみつ、おちあひの五らうかねゆき、七千よき、きたくろぢかへさしつかはす。に
しな、たかなし、やまだのじらう、七千よきみなみくろさかからめてへこそつかはしけれ。一まんよきはとなみやま
のすそ、まつながのやなぎはら、ぐみのきんばやしにひきかくす。いまゐの四らう六千よき、わしのせをうちわ
たつて、ひのみやばやしにひかへたり。きそわがみ一まんよき、をやべのわたりをして、となみやま
のきたのはづれ、はにふにぢんをぞとつたりける。

きそどののたまひけるは、いくさはさだめてかけあひのいくさにてぞあらんずらん。かけあひのいくさといふは、
せいのたせうによることなり、おほぜいかさにまはり、とりこめられてはかなふべからず。まづはたさし
どもをさきたて、くろさかのうへにうつたてたらば、へいけこれをみて、あはやげんじのせんぢんのむかふ
たるはさだめておほせいにてぞあるらん。とりこめられてはかなふべからず。このやまはしはうがんせきに
てあんなれば、からめてよもめぐらじ、しばしおりゐてうまやすめんとて、となみやまにぞおりゐんず
らん。そのときよしなか、しばらくあひしらふていにもてふし、ひをまちくらし、よにいつてへいけのおほぜいをうしろ
のくりからがたにへおひおとさんとて、まづしらはた三十ながれ、くろさかのうへにうちたてたれば、あんの
ごとくへいけこれをみて、あはやげんじのせんぢんのむかふたるは、さだめておほぜいにてぞあらん、
かたきはあんないしや、みかたはぶあんないなり、とりこめられてはかなふべからず。このやまはしはうがんせきに
てあんなれば、からめてよもめぐらじ、うまのくさがひ、すゐびんともによげなり、しばしおりゐてうまやすめ
んとて、となみやまのさんちう、さるがばばといふところにぞおりゐたる。きそははにふにぢんどつて、
しはうをきつとみまはせば、なつやまのみねのみどりのこのまより、あけのたまがきほのみえて、かたそぎつく
りのやしろあり。まへにはとりゐぞたちたりける。きそどの、くにのあんないしやをめして、あのやしろをば

なんのやしろといひ、いかなるかみをあがめたてまつるぞととひたまへば、あれこそはちまんにてわたらせたまひ
さふらへ、やがてここもやはたのごりやうでさふらふとまをしければ、きそどのなのめならずによろこび、てかきに
ぐせられたりけるだいふぼうかくめいをめして、よしなかこそなんとなうよするとおもひゐたれば、いま
やはたのごはうぜんにちかづきたてまつて、かつせんをすでにとげんとすれ、さらんにとては、かつうはこうだい
のため、かつうはたうじのきたうのために、ぐわんよをひとふでまゐらせんとおもふはいかにとのたまへば、かく
めい、このぎもつともしかるべうさふらふとて、いそぎうまよりとんでおりきそどののおんまへにかしこまる。
かくめいがそのひのていたらく、かちのひたたれにくろいとおどしのよろひきて、こくしつのたちをはき、二十四さしたるくろ
ぼろのやおひ、ねりごめどうのゆみわきにはさみ、かふとをばぬいでたかひもにかけ、ゑびらのはうだてよりこすずりたたうがみ
とりいだし、ぐわんじよをかかんとす。あつぱれぶんぶ二だうのたつしやかなとぞみえし、このかくめいと
まをすは、もとじゆけのものなり、くらんどみちひろとて、くわんがくゐんにさふらひけるが、しゆつけして、さいじようばう
しんざうとぞまをしける。つねはなんとへもかよひけり。ひととせたかくらのみや、ゑんじやうじへじゆぎよのとき、やま、な
らへてうじやうをつかはされけるに、なんとのだいしゆういかがおもひけん、そのへんてふをばこのかくめいにぞかかせ
ける。きよもりにふだうはへいしのさうかう、ぶけのぢんかいとぞかいたりける。にふだうさうこくこのよしをつたへきき
たまひて、なんでうそのしんざうほふしめが、じやうかいほどのものを、へいしのさうかう、ぶけのぢんかいと、
かくべきやうこそきつくわいなれ。そのほふしからめとつて、しざいにおこなへとぞのたまひける。これによ

つて、なんとにはこらへずして、ほつこくへおちくだり、きそどののてかきして、だいぶばうかくめいとぞ
まをける。そのぐわんじよ/に\いはく、なむきみやうちやうらいはちまんだいぼさつたはじちゐきてうていのほんじゆ、るゐせいめいくんののうそ
たり。ほうさをまもらんがため、さうせいをりせんがために、さんじんのこんようをあらはして、さんじよのけん
びをおしひらきたまへり。ここにしきりのとしよりこのかた、へいさうこくといふものあつて、しかいをくわんれいし、
ばんみんをなうらんせしむ。これすでにぶつぽふのあだ、わうぼふのかたきなり。よしなかいやしくもきうばのいへにうまれて、
わづかにききうのあとをつぐ。かのばうあくをあんずるに、しりよかへりみるにあたはず。うんをてんだうにまかせて、
みをこくかになぐ。こころみにぎへいをおこして、きようきをしりぞけんとほつす。しかるにとうせんりやうけぢんをあはす
といへども、しそついまだいつちのいさみをえざるあひだ、まちまちのこころおそれたるところに、いまいちぢんはたをあぐ。
せんぢやうにして、たちまちにさんじよわくわうのしやだんをはいす、きかんじゆんじゆくあきらかになり。きようとちうりき\うたがひ-なし。
くわんきなみだこぼれて、くわつがうきもにそむ。なかんづく、そうそふさきのみちのくにのかみぎかのあつそん、みをそうべうのし
ぞくにきふして、なをはちまんたらうよしいへとがうせしよりこのかた、そのもんえふたるものの、ききやうせずといふ
ことなし。よしなかそのこういんとして、かうべをかたむけてとしひさし。いまこのたいこうをおこすこと、たとへばえいじ
のかいをもつてきよかいをはかり、たうらうがをのをいからかいてりうしやにむかふがごとし。しかりといへども、
きみのためくにのためにしてこれをおこす、まつたくみのためいへのためにしてこれをおこさず。こころざしのいた
りしんかんそらにあり。たのもしきかな、よろこばしきかな、ふしてねがはくは、みやうけんゐをくはへ、れいじん

ちからをあはせて、かつことをいつじにけつし、あだをしはうへしりぞけたまへ。しかればすなはちたんきみやうりよにかな
ひ、げんかんかごをなすべくんば、まづこれにていちのずゐさうをみせしめたまへ。じゆえい二ねん五ぐわつ十
一にち、みなもとのよしなかつつしんでまをすとかいて、わがみをはじめて、十三きがうはやのかぶらをぬき、ぐわん
じよにとりそへて、だいぼさつのごはうでんにぞをさめける。たのもしきかな、はちまんだいぼさつ、しんじつの
こころざしふたつなきをや、はるかにせうらんしたまひけん、くものなかよりやまばとみつとびきたつて、げんじのしら
はたのうへにへんばんす。むかし、じんごうくわうごうしらぎをせめさせたまひしとき、みかたのたたかひよわく、いこくのいくさつよ
くして、すでにかうとみえしとき、くわうごうてんにむかつてごきせいありしかば、れいきうみつとびきたつ
て、みかたのたてのおもてにあらはれて、いこくのいくさまけにけり。またこのひとのせんぞらいぎのあつそん、あうしうの
えびす、さだたうむねたうをせめたまひしとき、みかたのたたかひよわく、きようぞくのいくさつよくして、すでにかうとみえ
しとき、らいぎのあつそんかたきのぢんにむかつて、これはまつたくわたくしのひにあらず、しんくわなりとてひをはな
つ。かぜたちまちにいぞくのかたへふきおひ、くりやがはのしろやけおちぬ。そのときさだたうむねたうほろびにけ
り。きそどのかやうのせんじゆうをおもひいでて、いそぎうまよりとんでおり、かぶとをぬぎてうづうがひを
して、れいきうをはいしたまひけん、こころのうちこそたのもしけれ。

さるほどにげんぺいりやうはうぢんをあはせ、ぢんのあはひわづかに三ちやうばかりぞよせあはせたりける。げんじもすすま
ず、へいけもすすまず、ややあつてげんじのかたよりせいびやうをすぐして、十五き、ぢんのもてにすすませ、
十五きがうはやのかぶらをとつてただいちどにへいしのぢんへぞいいれたる。へいけのかたにもおなじうせい
びやうをすぐつて十五きぢんのおもてにすすませ、十五のかぶらをいかへさす。げんじ三十きをいだいて、三
十のかぶらをいさすれば、へいけも三十きをいだいて三十のかぶらをいかへさす。げんじ五十きをいだせ
ば、へいけも五十きをいだし、百きをいだせば、百きをいだす。りやうはう百きづつぢんのおもてにすすませ、
たがひにしようぶをせんとはやりけれども、げんじのかたよりせいして、わざとしようぶをばせさせず。
かやうにあしらひ、ひをまちくらし、よにいつて、へいけのたいぜいを、うしろのくりからがたにへ
おひおとさんとたばかりけるを、へいけこれをばゆめにもしらず、ともにあしらひ、ひをまちくらすこそ
はかなけれ。さるほどに、からめてのせい一まんよき、くりからのだうのあたりにめぐりあひ、ゑびらのはうだてうちた
たき、ぜんごよりいちどにときをどつとぞつくりける。へいけうしろをかへりみたまへば、しらはたくものごとくにさし
あげたり。このやまはしはうがんせきにてあんなれば、からめてよもめぐらじとこそおもひつるに、こは
いかにとぞさわがれける。きそどのおつてより一まんよきで、ときのこゑをぞあはせたまふ。となみやまの
すそ、まつながのやなぎはら、ぐみのきんばやしに、ひきかくしたりける一まんよき、ひのみやばやしにひかへたる
いまゐの四らう六千よきも、おなじうときのこゑをぞあはせたる。ぜんご四まんよきがをめくこゑには、やま

もかはも、ただいちどにくづるるとこそきこえけれ。さるほどに、しだいにくらうはなる、ぜんごよりてきは
せめきたり、きたなしやかへせやかへせといふやからおほかりけれども、たいぜいのかたむきたつたるは、さう
なうとつてかへすことのかたければ、へいけのたいぜい、うしろのくりからがたにへ、われさきにわれさきにとぞお
ちゆきける。さきにおといたるもののみえねば、このたにのそこにもみちのあるにこそとて、おやおと
せばこもおとし、あにがおとせばおとうともつづき、しゆおとせばいへのこらうどうもつづいたり。うまにはひと、
ひとにはうま、おちかさなりかさなり、さばかりふかきたにひとつを、へいけのぜい七まんよきでぞうづめたりけ
る。がんせんちをながし、しがいをかをなせり。さればこのたにのほとりには、やのあな、かたなのきづのこつて
いまにありとぞうけたまはる。へいけのかたのさぶらひだいしやう、かづさのたいふのはうぐわんただつな、ひだのたいふのはう
ぐわんかげたか、かはちのはうぐわんひでくにも、このたにのそこにうづもれてぞうせにける。ここにびつちうのくにのぢうにん
せをのたらうかねやすは、きこゆるつはものなりしかども、うんやつきにけん、こんどほくほくにてかがのくに
のぢうにん、くらみつのじらうなりずみがてにかかつて、いけどりにこそせられけれ。またゑちぜんのくにひうちが
じやうにてかへりうちしたりける、へいぜんじのちやうりさいめいゐぎりしも、とらはれてこそいできたれ。きそどの、
そのほふしはあまりにくきに、まづきれとてきらせらる。たいしやうぐんこれもり、みちもりはけうにして、
かがのくにへひきしりぞく。七まんよきがなかより、わづかに二千よきこそのがれたれ。おなじき十二にち、
おくのひでひらがもとより、きそどのへりうてい二ひきたてまつる。いつぴきはくろつぎげ、いつぴきはれんぜんあしげなり。

きそとのやがてそのうまにかがみぐらおかせて、しらやまのやしろへじんめにたてらる。きそどのいまはおもふことな
しとておはしけるが、ただしおぢの十らうくらんどどのの、しほのたたかひこそおぼつかなけれ。いざや
ゆいてみんとて、四まんよきがなかよりうまやひとをすぐつて、二まんよきにてはせむかふ。ここにひ
みのみなとをわたさんとするところに、をりふししほみちて、ふかさあささをしらざりけり、きそどのま
づはかりごとに、くらおきうまども十ぴきばかりおひいれられける、くらづめひたしたるほどにて、さうゐなく
むかひのきしにぞつきにける。きそどのこれをみたまひて、あさかりけるぞ、わたせやとて、さつとわた
いてみたまへば、あんのごとく十らうくらんどどのは、さんざんにかけなされ、ひきしりぞいて、じんばのいきやす
めたまふところに、あらてのげんじ二まんよき、へいけ三まんよきがなかへかけいり、もみにもんで、ひ
いづるほどにぞせめたりける。へいけのかたたいしやうぐんみかはのかみとものりうたれたまひぬ。これはにふだうさう
こくのばつしなり。そのほかのつはものおほくほろびにけり。へいけそこをもおひおとされて、かがのくにへひ
きしりぞく。きそわがみ一まんよき、しほのやまうちこえて、のとのこだなか、しんわうのつかのまへにぞ
ぢんをとる。

きそどのやがてそこにて、しよやしろへじんりやうをよせらる。ただのやはたへはてふやのしやう、すがふの

やしろへはのみのしやう、けひのやしろへははんばらのしやう、しらやまのやしろへはよこえ、みやまる、二かしよのしやうをき
しんす。へいぜんじへはふぢしま七がうをこそよせられけれ。さんぬるちしようしねん八ぐわにいしばしやまのかつせん
のとき、ひやうゑのすけどのいたてまつつしもののふども、みなにげのぼつて、へいけのおんかたにぞさふらひける。むねとの
ひとびとには、まづながゐのさいとうべつたうさねもり、つぎにうきすの三らうかげちか、またのの五らうかげひさ、いとうの
九らうすけうし、ましもの四らうしげなうなり。これらはいくさのあらんほど、しばらくやすまんとて、ひごとによりあ
ひよりあひ、じゆんしゆをしてぞなぐさみける。まづながゐのさいとうべつたうがもとによりあひたりけるとき、さつもり
まをしけるは、つらつらたうせいのていをみさふらふに、げんじのかたはいよいよつよく、へいけのおんかた、まけいろにみえ
させたまひさふらふ。いざおのおのきそどのへまゐらうどいひければ、みなさんなうとぞどうじける。つぎの
ひ、またうきすの三らうがもとによりあひたりけるとき、さいたうべつたう、さてもきなふさねもりまをししことはい
かにおのおのといひければ、そのなかにまたのの五らうかげひさ、すすみいでててまをしけるは、さすが
われらは、とうごくではひとにしられて、なあるものでこそあれ。いまきちについて、あなたへまゐり、
こなたへまゐらんは、みぐるしかるべし。ひと