平曲譜本 藝大本 九巻

じゆえい三ねんしやうぐわつひといのひ、ゐんのごしよはだいぜんのだいぶなりただがしゆくしよ、六でうにしのどうゐんなりけ
れば、ごしよのていしかるべからずとて、れいぎととめられてはいれいもなし。ゐんのはいれいなかりしか
ば、だいりのこてうはいもおこなはれず。へいけはさぬきのくにやしまのいそにおくりむかへて、としのはじめなれ
ども、ぐわんにち、ぐわんざんのぎしきごとよろしからず。しゆじやうわたらせたまへども、せちゑもおこなはれず。し
はうばいもなし、はらかもそうせず。よしののくずもまゐらず。よみだれたりしかども、みやこにてはさす
がかくはなかりしものをとぞ、おのおののたまひあはれける。せいやうのはるもきたり、うらふくかぜもやは
らかに、ひかげものどかなりゆけど、ただへいけのひとびとは、いつもこほりにとぢこめられたるここ
ちして、かんくてうにことならず、とうがんせいがんのやなぎちそくをまじへ、なんしほくしのうめかいらくすでにことに
して、はなのあした、つきのよ、しいかくわんげん、まり、こゆみ、あふぎあはせ、ゑあはせ、くさづくし、むしづくし、
さまざまきようありしことども、おぼしめしいでかたりつづけて、ながきひをくらしかねたまふぞあはれなる。

おなじき十一にち、きそのさまのかみよしなかゐんさんして、へいけつゐたうのゐんざんをうけたまはつて

さいこくへはつかうすべきよしをそうもんす。おなじき十三にち、すでにかどいですときこえしかば、かまくらのさき
のひやうゑのすけよりとも、きそがらうぜきしづめんとて、のりよりよしつねをさきとして、すうまんきのぐんぴやうをさ
しのぼせられけるが、すでにみののくに、いせのくににもつくときこえしかば、きそおほいにおどろき、
うぢせたのはしをひいて、ぐんびやうともをわかちつかはす、をりふせいこそなかりけれ、まづおほてなれば
とて、せたのはしへはいまゐの四らうかねひら、八百よきにてさしつかはす。うぢばしへはにしな、なかなし、
やまだのじらう、五百よきにてつかはしけり。いもあらひへは、をぢのしだの三らうぜんじやうよしのり、三百よ
きにてむかはれけり。さるほどに、とうごくよりせめのぼる、おほてのたいしやうぐんには、かばのおんざうしのり
より、からめてのたいしやうぐんには、九らうおんざうしよしつね、むねとのだいみやう三十よにん、つがふそのせい六まんよきとぞ
きこえし、そのてろかまくろどのには、いけずき、するすみとて、きこゆるめいはありけり。いきずきをばかぢばらげんた
かげすゑ、しきりにしよまうまをしけれども、これはしぜんのことのあらんとき、よりともがもののぐしてのるべきうま
なり。これもおとらぬめいばぞとて、かぢばらにはするすみをこそたまうでんげれ。そののちあふみのくにの
ぢうにん、ささき四らうたかつなおんいとままをしにまゐられたるに、かまくらどのいかがおぼしめされけん、しよまうの
ものはいくらもありけれども、そのむねぞんちせよとて、いきずきをばささきにたぶ。ささきいき
ずきをたまはつておんまへにかしこまりてまをしけるは、こんどこのおんうまにて、うぢがはのまつさきわたしさふらふ
べし。もししんだりときこしめされさふらはば、ひとにさきをせられてんげりと、おぼしめされさふら

へ。またいきたりときこしめされてさふらはば、さだめてうぢがはのせんぢんをばささきぞしつらんも
をと、おぼしめされさふらへとて、おんまへをまかりたつ。さんくわいしたるだいみやうせうみやうあつぱれくわうりやう
のまをしやうかなどぞ、ささやきあはれける。おのおのかまくらをたつて、あしがらをへてゆくもあり、
はこねにかかるせいもあり、おもひおもひにのぼるほどに、するがのくにうきしまがはらにてかぢばらげんたかげすゑ、
たかきところにうちのぼり、しんばしひかへて、おほくのうまどもをみけるに、おもひおもひのくらおかせ
いろいろのしりがひかけ、あるひはのりくちにひかせ、あるひはもろくちにひかせ、いくせんまんといふかずをしら
ず、ひきほとしひきほとししけるなかにも、かげすゑがたまはつたるすろすみに、まさるうまこそなかりけれと、
うれしうおもひてみるところに、ここにいきずきとおぼしきうまこそ、いできたれ。きんぷくりんのくらおかせ、
をぶさのしりがひかけ、しろくつわはげ、しらあわかませて、とねりあまたついたりけれども、ひとりひきもたわめず、
をどらせてこそいできたれ。かぢばらうちよつて、このおんうまはだれかおんうまさふらふぞ。ささきどののおうま
さふらふ、ささきは、三らうどのか、四らうどのか、四らうどののおんうまざふらふとてひきとほす、かぢはらやすから
ぬことなり、おなじやうにめしつかはるるかげすゑを、ささきにおぼしめしかへられけることこそ
ゐこんのしだいなれ、こんどみやこへのぼり、きそどののみうちに、四てんわうときこゆる、いまゐ、ひぐち、
たて、ねのゐとくんでしぬるか、しからずばさいこくにむかつて、へいけのさむらひといくさして、しなんとこ
をおもひしに、このごきしよくでは、それもせんなしせんずるところ、たんだいまここにてささきをまちう

けひきくんでさしちがへ、よきさふはひ二にんしんで、かまくらどのにそことらせたてまつらんとつぶやいて
ぞまちかけたる。ささきなにごころもなうのりかへにのつてあゆませていできたり。かぢはらおしならべて
やくむべき、むかふさまにあてやおとすとおもひけるが、まづことばをぞかけける。いかにささき
どのは、いきずきたまはらせたまひて、のぼらせたまふなといひければ、ささきあつぱれこのじんも、ない
ないしよまうまをしつるとききしものをときつとおもひ、さんざふらふ、こんどこのおんだいじにまかりのぼりさふらふ
が、うぢもせたもさだめてはしをやひいたるらん、のつてかはをわたすべきうまはなし、いきずきをまを
さばやとはぞんじつれど、ごへんのまをさせたまふだにおんゆるされなきに、ましてたかつななんどが
まをさばとて、よもたまはらじ、ごじつにいかならんごかんだうもあらばあれとぞんぢつつあすたた
んとのあかつき、とねりにこころをあはせて、さしもごひざうのいきずきを、ぬすみすましてのぼりさふは、い
かにかぢはらとのといひければ、かぢはら、このことばにはらがいて、ねつたいさらば、かげすゑもぬすむべ
かりつるものをとて、どつとわらつてぞのきにける。

ささき四らうのたまはられたるけるおうまは、くろぐりげなるうまの、きはめてふとうたくましきが、
うまをもひとをもあたりをはらひてくひければ、いきずきとはつけられたり。はつすんのうまとぞきこ
えし、かぢはらがたまはつたりけるおうまもきはめてふとうたくましきが、まことにくろかりければ、するすみと

はつけられたり。いづれもおとらぬめいばなり、さるほどに、とうごくのおほせいおひてからめて、二てにわかつ
てせめのぼる。おひてのたいしやうぐんには、かばのおんざうしのりより、あひともなふひとびと、たけだのたらう、かがみ
のじらう、いちでうのじらう、いたがきの三らう、いなげの三らう、はんがいの四らう、くまがいのじらう、ゐのまたのこ
へいろくをさきとして、つがふそのせい三まん五せんよき、あふみのくにのぢしのはらにぞぢんをとる。からめてのたい
しやうぐんには九らうおんざうしよしつね、おなじうともなふひとびと、やすだの三らう、おほうちのたらう、はたけやまのしやうじじ
らう、かぢはらげんた、ささき四らう、かすやのとうた、しぶやのうまのすけ、ひらやまのむしやどころをさきとして
つがふそのせい二まん五せんよき、かがのくにをへて、うぢばしのつめにぞおしよせたる。うぢもせた
もはしをひき、みづのそこにはらんぐひうつておほつなはり、さかもぎつないでながしかけたり。ころはむつき
はつかあまりのことなれば、ひらのたかね、しがのやま、むかしながらのゆきもきえ、たにだにのこほりうち
とけて、みづはをりふしまさりたり。はくらうおびただしうみなぎりおち、せまくらおほいにたきなりて、さまかく
みづもはやかりけり。よはすでにあけゆけど、かはぎりふかくたちこめて、うまのけもよろひのいろもさだ
かならず。たいしやうぐん九らうおんざうしよしつね、かはのはたにうちいで、はるかのみづのおもてをみわたいて、ひとびと
のこころをみんとやおもはれけん、よどいもあらひへやむかふべき、またかはうちぢへやまはるべき、みづのおちあし
をやまつべき、いかがせんとのたまふところに、ここにむさしのくにのぢうにん、はたけやまのしやうじじらうしげただ、
しやうねん二十一になりけるが、すすみいでまをしけるは、このかはのごさたは、かまくらにてもよくよく

さふらひしぞかし。ひごろしろしめされぬかいがの、にはかにいできてもさふらはばこそ。あふみのみづうみのすゑ
なれば、まつともまつともみづひまじ、はしをばまただれかわたいてまゐらすべき、さんぬるぢしようのかつせん
に、あしかがのまたたらうただつな、しやうねん十七さいとなのつてわたしけんも、おにがみにてはよもさふらはじ、
しげただまづせぶみつかまつりさふらはんとて、たんのたうをたねとして、五百よきひしひしとくつばみをはせなら
ぶるところに、ここにびやうとうゐんのうしとら、たちばなのこじまがさきよりむしや二き、ひきかけひきかけいできたり。
一きはかぢはらげんたかげすゑ、一きはささき四らうたかつなり。ひとめにはなんともみえざりけれど
も、ないないさきにこころをかけければ、かぢはらはささきに一たんばかりぞすすんだる。ささき、いか
にかぢはらどの、このかははさいこくいちのだいがぞや、はるびののびてみえさうはしめたまへといひけれ
ば、かぢはらさもあるらんとやおもひけん、たつなをうまのゆかみにすて、さうのあぶみをふみすかし、
はるびをといてぞしめたりける。ささきそのあひだに、そこをつとはしらせぬいて、かはへざつとぞ
うちいれたる。かぢはらたばかられぬとやおもひけん、やがてつづいてうちいれたり。かぢはら、いかにさ
さきどの、かうめいせうどてふかくしたまふな、みづのそこにはおほつなあるらん、こころえたまへといひけれ
ば、ささきげにもとやおもひけん、たちをぬいて、うまのあしにかかりけるおほつなどもをふつ
ふつとうちきりうちきり、うぢがははやしといへども、いきずきといふよいちのうまにはのつたりけり。
一もんじにさつとわたいて、むかひのきしにぞつきにける。かぢはらがのつたりけるするすみは、かはなかよ

り。のだめがたにおしながされて、はるかのしもよりうちあげたり。そののちささき、あぶみふんばりたち
あがり、だいおんじやうをあげて、うたのてんわうに九だいのこういん、あふみのくにのぢうにん、ささき三らうひでよし
がしなん、ささき四らうたかつな、うぢがはのせんぢんぞや、きそどののおんかたにわれとおもはんひとびとはよりあひ
へやげんざんせんとてをめいてかく、そののちはたけやま五百よきうちいれてわたす。むかひのきしよりやま
だのじらうがゐけるやに、はたけやまうまのひたひをのぶかにゐさせはぬれば、かはなかにゆんづゑをついており
たつたり。いはなみかぶとのしころへさつとおしかけけれども、はたけやまこれをことともせず、みづのそこを
くぐつてむかふのきしにぞつきにける。うちあがらんとするところに、あとよりものこそむずとひかへた
れ。たぞととへば、しげちかとこたふ。おほぐくか、さんざふらふ。おほぐしのじらうは、はたけやまがためにはゑ
ぼしごにてぞさふらひける。あまりにみづがはやうて、うまをばかちうにておしながされぬ。ちかやおよばでやうやう
にここまでつきたてまつつてさふらふとまをしければ、はたけやまいつもわどのがやうなるものは、しげただにこそ
たすけられんずれとて、おほぐしをつかんで、きしのうへへぞなげあげたる、なげあげられてたたなほ
り、たちをぬいてひたいにあて、だいおんじやうをあげて、むさしのくにのぢうにん、おほぐしのじらうしげちか、う
ぢがはのかちだちのせんぢんぞやとぞなのりつたる。てきもみかたもこれをききて、いちどにどつとぞわらひけ
る。そののちはたけやまのりかへにのつて、をめいてかく、ここにうをあやのひただれにひおどしのよろひきてれんぜんあしげ
なるうまにきんぷくりんのくらをおいて、のつたりけるむしや一き、まつさきにすすんだるを、はたけやまここに

かくるはなにものぞ、なのれやといひければ、ここはきそどののいへのこに、ながせのはんぐわんだいしげつな
となのる。はたけやま、いざさらば、けふのいくさがみいははんとて、おしならべてむづとくんでひき
おとし、わがのつたりけるくらのまへわにおしつけ、ちつともはたらかさず、くびねぢきつて、ほんだ
のじらうが、くらのとつつきにこそつけさせけれ。これをはじめて、うぢばしかためたりけるつはものども、
あそこここにてかへしあはせふせぎたたかふといへども、とうごくのおほぜいみなわたいてせめければ、ちからおよば
ず。こばたやま、ふしみをさしてぞおちゆきける、せたをば、いなげの三らうしげなりがはかひにて、
たながみのぐごのせをこそわたしけれ。

うぢせだやぶれにしかば、たいしやうぐんくらうおんせうしよしつね、ひきやくをもつて、かまくらとのへかつせんのしだい
を、くはしうしるいてまをされけり。かまくらどのこのおつかひに、ささきはいかにとおんたづねあり。うぢ
がはのまつさきさぶらふとまをす。さてにつきをひらいてみたまへば、うぢがはのせんぢんささき四らうたかつな、二ぢん
かぢはらげんだかげすゑとこそかかれたれ。うぢせたやぶれぬときこえしかば、きそはさいごのおんいとままを
さんとて、ゐんのごしよ六でうとのへはせまゐる。きそもんぜんまでさんじたりしかども、さしてそう
すべきむねもなくしてとつてかへす。六でうかまくらなるところに、はじめてみそめたりけるにようばうのあ

りければ、そこにうちよつて、さいごのなごりをしまんとて、とみにいでもやらざりけり。こ
こにいままゐりしたる、ゑちごのちうだいへみつといふものあり。おんかたきすでにかはらまでせめいつてさふらふに、
なんとてさやうにうちとけわたらせたまひてはさふらふやらん、たんだいまいぬじにせさせたまひさふらひなんず、
とまをしけれども、なほいでもやらざりければ、ささふらはば、いへみつはまづさきだちまゐらせて、
しでのやまにてこそまちまゐらせたさふらはめとて、はらかききつてぞしににける。きそこれはわれ
をすすむるじがいにこそとて、これもやがてぞうちたたる。ここにかうづけのくにのぢうにんなはのた
らうひろずみ、そのせい百きばかりにはすぎざりけり。六でうがはらにうちいでてみれば、とうごくの
ぶしとおぼしくて、まづ三十きばかりにていできたり、そのうちよりむしや二きさきにすすんだ
り。一きはしほのやの五らうこれひろ、一きはてつしがはらの五三らうありなほなり。しほのやがまをしける
は、ごぢんのせいをやまつべき。またてつしがはらがまをしけるは、一ぢんやぶれぬれば、ざんたうまつたから
ず、ただかけよやとて、をめいてかく。きそはけふをさいごとたたかへば、とうごくのおほぜい、き
そをなかにとりこめて、われうちとらんとぞすすみける。たいしやうぐんくらうおんぞうしよしつね、いくさをばぐん
びやうどもにせさせ、わがみはゐんのごしよのおぼつかなさに、しうごしまゐらせんとて、ひたかぶと五六き、ゐん
のごしよ六でうどのへはせまゐる。ごしよには、だいぜんのだいぶしげただ、ごしよのひんがしのついがきのうへにのぼりあが
つて、わななぐわななぐみわたせば、ぶし五六きのけかぶとにたたかひなつて、はるかぜにいむけのそでふきなびか

せ、しらはたさつとさしあげ、くろけぶりだててはせまゐる。しげただあまりのあさまじさに、きそが
またまゐつてさふらふとまをしければ、ゐんぢうのくぎやうでんじやうびとつぼねのにようばうたちにいたるまで、こんどぞよ
のうせはてとて、てをにぎり、たてぬぐわんもましまさず。しげただかさねてそうもんしけるは、けふ
はじめてみやこへいるとうごくのぶしとおぼえさふらふ、いかさまにもみなかさじるしがかはつてさふらふとまをしもはて
ぬに、たいしやうぐんくらうおんぞうしよしつね、もんぜんにてうまよりとんでおり、もんをたたかせ、だいおんじやうをあげ
て、かまくらのさきのうひやうゑのすけよりともが、しやてい九らうよしつねこそ、うぢのてをせめやぶつて、このご
しよしゆごのためにはせさんじてさふらへ、あけていれさせたまへとあんないをいひいれられたりければ、
しげただあまりのうれしさに、いそぎついがきのうへよりをどりおるとて、こしをつきそんじたりけれども、
いたさはうれしさにまぎれておぼえず。はふはふごぜんへまゐつて、このよしそうもんしたりければ、はふわう
おほひにぎよかんあつて、もんをあけさせてぞいれられける。よしつねそのひのしやうぞくには、あかぢのにしき
のひたたれに、むらさきすそごのよろひきて、くわがたうつたるかぶとのををしめ、こがねづくりのたちをはき、二十
四さいたるきりふのやおひ、しげとうのゆみのとりうちのもとを、かみをひろさ一すんばかりにきつて、ひだり
まきにぞまいたりける。これぞこんにちのたいしやうぐんのしるしとはみえし。ほふわうちうもんのれんじよりえいらんあ
つて、ゆゆしげなるものどもかな、みななのらせよとあふせければ、かしこまりうけたまはつてまづたい
しやうぐんくらうおんぞうしよしつね、つぎにやすだの三らうよしさだ、おほうちのたらうこれしげ、かぢはらげんた、ささき四らう、

しぶやのうまのすけしげすけとこそなのつたれ。よしつねぐして、ぶしは六にん、よろひはいろいろにかはりた
れども、つらたましひこつがらいづれもおとらず、しげただあふせうけたまはつて、よしつねをごぜんのおほゆかのきはへめ
して、かつせんのしだいをくはしうおんたづねあり。よしつねかしこまつてまをされけるは、かまくらのさきのうひやうゑの
すけよりともこそ、きそがらうぜきしづめんとて、のりよりよしつねをさきとして、つがふ六まんよきをさしのぼ
せさふらふが、のりよりはせたよりまゐりさふらへども、いまだ一きもみえさふらはず。よしつねこそうぢの
てをせめやぶつて、このごしよしゆごのためにはせさんじてさふらへ、きそはかはらをのぼりにおち
ゆきさふらふを、ぐんびやうどもをもつておはせさふらふが、いまはさだめてうちとりさふらひぬらんと、いとことも
なげにぞまをされける。ほふわうおほひにぎよかんあつて、きそがまたよたうなどまゐつて、らうぜきもぞつかまつる。
なんぢはこのごしよよくしゆごつかまつれとあふせければ、かしこまりうけたまはつて、四はうのもんをかためてまつところに、
つはものどもはせあつまつて、ほどなく一まんきばかりにぞなりたまひぬ。きそもしものことあらば、ほふ
わうとりたてまつつて、さいこくへおちくだり、へいけとひとつにならんとて、りきしや二十にんそろへてまつた
りけれども、ごしよにはよしつねはせさんじて、きびしうしゆごしたてまつるよしきこえしかば、ちからおよばず、かはら
をのぼりにおちゆきけるが、すうまんきのてきのせいのなかにとりこめられて、うたれんとすることたび
たびにおよぶ、かけやぶりかけやぶりとほりぬ。きそなみだをながいて、かかるべしとだにしりたりせば、
いまゐをせたへはやらざらまし。えうせうちくばのむかしより、しなばひとつところでしなんとこそちぎりし

か、いまはところどころでうたれんことこそかなしけれ。いま一どいまゐがゆくへをきかんとて、か
はらをのぼりにかかるほどに、六でうがはらと三でうがはらのあはひにて、かたきおそひかかれば、とつてかへ
しかへし、きそわづかなるこぜいにて、くもかすみのごとくなるかたきのおほぜいを五六までおひかへし、か
もがはざつとうちわたり、あはだぐちまつざかにもなりにけり。こぞしなのをいでしには、五まんよ
きときこえしが、けふしのみやがはらをすぐるには、しゆじゆ七きになりにけり。ましてちううのたび
のそら、おもひやられてあはれなり。

きそはしなのをたちしとき、ともへ、やまぶきとて、ににんのびぢよをぐせられたり。やまぶきはいたはること
ありとてみやこにとどまりぬ。なかにもともゑはいろしろうかみながく、ようがんまことにびれいなりけるがくつきやうのあらうま
のりのあくしよおとし、うまのうへかちたち、ゆみやうちうのとつてはいかなるおににもかみみもあふといふ一
にんたうぜんのつはものあり。いくさといふときは、さねよきよろひきせ、つよゆみおほたちもたせて、いつばうのたいしやうに
むけられけるに、とどのかうみやうかたをならぶるものなし。さればこんどもおほくのもの、おちうせう
たれけるなかに、七きがうちまでも、ともゑはうたれざりけり。きそはながさかをへて、たんばぢへ
ともきこゆ。りうげごゑにかかつて、またほくこくへともきこえけり。かかりしかども、いまゐがゆくへ

のおぼつかなさに、とつてかへして、せたのかたへぞおちゆきたまふ。いまゐの四らうかねひらも、八百
きにてせたをかためたりけるが、五十きばかりにうちなされ、はたをばまかせてもたせつ
つ、しゆのつくへのおぼつかなさに、みやのかたへのぼるほどに、おほつのうちでのはまにて、きそとの
にゆきあひたてまつる。なか一ちやうばかりより、たがひにそれとみしつて、しゆしゆこまをはやめてよりあふ
たり。きそとのいまゐがてをとつてのたまひけるは、よしなか六でうがはらにて、いかにもなるべかり
しかども、なんぢがゆくへのおぼつかなさに、おほくのかたきにうしろをみせて、これまでのがれたるはいかに
とのたまへば、いまゐの四らうまをしけるは、おんぢやうまことにかたじけなうさふらふ、かねひらもせたにてうちじにつかまつるべ
うさふらひしかども、おんゆくへのおぼつかなさに、おほくのかたきにうしろをみせて、これまでのがれまゐつてさふらふ
とまをしければ、きそとの、さてはちぎりはいまだくちせざりけり。よしなかがせいさんりんにはせちつて、
このへんにもひかへたるらんぞ、なんぢがはたをあげさせよとのたまへば、まいてもたせたるいまゐがはたを
さしあげたり。これをみつけて、きやうよりおつるせいともなく、またせたよりまゐるものともなく、
ほどなく三百きばかりぞはせあつまる。きそどのなのめならずよろこび、このせいにては、さごのいくさひといくさなど
かせざるべき。あれにしぐろうてみゆるは、たれがてやらん。かひの一でうのじらうどののおんて
とこそうけたまはつてさふらへ。せいはいかほどあらん。六千よきときこえさふらふ。きそとのおなじうしぬとも
あおのおほぜいのなかへかけいり、よいてきにあうてこそうちじにをもせめとて、まつさきにぞすすみたまふ。

きそどのそのひのしやうぞくには、あかぢのにしきのひたたれに、からあやおどしのよろひきて五まいかぶとのををしめいかもの
づくりのたちをはき、二十四さいたるいしうちのやのそのひのいくさにいて、せうせうのこりたりける
をづだかにおひなし、しげとうのゆみもつて、きこゆるきそのおしあしげといふうまに、きんぷくりんのくらを
おきてのりたまひたりけるが、あぶみふんばりたちあがり、だいおんじやうをあげて、ひごろはききけんも
のを、きそのくわんじやいまはみるらん。さまのかみかねいよのかみ、あさひのしやうぐんみなもとのよしなかぞや、
かひの一でうのじらうとこそきけ、よしなかうちてひやうゑのすけにみせよやとて、をめいてかく。一
でうのじらうこれをききて、たんだいまなのるはたいしやうぐんぞや、あますなものども、もらすなわかたう、う
てやとて、おほぜいのなかにとりこめて、われうちとらんとぞすすみける。きそ三百よき、六千よ
きがなかへかけいり、たてざま、よこざま、くもで、十もんじにかけやぶつて、あとへつつといでたれ
ば、五十きばかりになりにけり。そこをやぶつてゆくほどに、どひのじらうさねひら、二千よき
にてささへたり。そこをもやぶつてゆくほどに、あそこにては四五百き、ここにては二三百
き、百四五十き百きばかりがなかを、かけわりかけわりゆくほどに、しゆじゆ五きにぞなりに
ける。五きがなかまでも、ともへはうたれざりけり。きそどのともへをめして、おのれはをんななれば、
これよりいづちへもとうとうおちゆけ、よしなかはうちじにをせんずるなり。ひとでにかからずば、
じがいをせんずれば、よしなかがさいごに、をんなをぐしたりなどいはれんこと、くちをしかるべしと

のたまへども、なほおちもゆかざりけるが、あまりにつよういはれたてまつつて、あつぱれよからうかたきの
いでこよかし、さいごのいくさひといくさしてきみにみせたてまつらんとおもひて、ひかへてまつところに、ここにむさ
しのくにのぢうにん、おんだの八らうもろしげ、三十きばかりにていできたる。ともへそのなかへわつていり、ま
づおんだの八らうにおしならべ、むずとくんでひきおとし、われのつたりけるくらのまへわにおしつ
け、ちつともはたらかさず、くびかききつてすてんげり。そののちいそぎうまよりとんでおり、もののぐ
ぬぎすて、とうごくのかたへぞおちゆきける。てづかのたらううちじにす。てづかのべつたうおちにけり。
きそとのいまゐの四らう、ただしゆじゆ二きになつてのたまひけるは、ひごろはなんともおぼえぬよろひが、けふは
おもうなつたるぞや、いまゐの四らうまをしけるは、おんみもつかれさせたまひさふらはず、おんうまもよわり
さふらはず、なにによつてただいま一りやうのおんきせをにはかにおもうはおぼしめされさふらふべき。それはみかた
につづくおんせいもさふらはねば、おくびやうでこそさはおぼしめされさふらふらめ。かねひら一きをば、よのむしや
千きとおぼしめされさふらへ。ここにいのこしたるや七つ八つさふらへば、いつばうはまづふせぎまゐらせさふら
はん、みこころやすうおぼしめされさふらへ、あれにしぐろうでみゆるはあはづのまつばらとまをしさふらふ。きみ
はあのまつのなかへいらせたまひて、しずかにおんじがいさふらへとて、うちてゆくほどに、またあらてのむしや
五十きばかりでおつかけたり。かねひらはこのおんてきしばらくふせぎまゐらせさふらふべし、きみはあのまつ
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じきよ一ちかのり、たたらの五らうよしはる、そのこのたらうみつよし、げんばつひろつな、かたをかのたらうつねはる、い
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とるものはゆみをしらず、あわてふためきけるが、うまにあてられじとやおもひけん、みななか
をあけてぞとほしける。げんじはおちゆくへいけを、あそこにおひかけ、ここにおひつめ、
さんざんにうちければ、やにはに五百よにんうたれぬ。ておふものもおほかりけり。へいけのかたのたいしやうぐん
こまつのしん三みのちうじやうすけもり、おなじきせうせうありもり、たんごのじじゆうただふさは、みぐさのてをやぶられて
めんぼくなうやおもはれけん、はりまのたかさごよりおふねにめして、さぬきのやじまへわたりたまひぬ。さ
れどもそのうちにびちうのかみもろもりばかりこそ、なんとしてかはもれさせたまひたりけん、へいないびやう
ゑえみのじらうをめしぐして、いちのやへぞまゐられける。

おほいとの、あきのうまのすけよしゆきをししやにていちもんのなかへ、九らうよしつねこそ、みぐさのてをせ
めやぶつて、すでにみだれいりさふらふなれ。やまのてがだいじでさふらへば、おのおのむかはれさふらひなんやと、
のたまひつかはされたりければ、みなじしまをされけり、おほいとのまたのととののもとへししやをたて、たびたび
のことにてはさふらへども、こんどもまたごへんむかはれさふらひなんやと、のたまひつかはされたりければ、のと
とののへんじに、いくさはわがみひとつのだいじとおもうてしさふらはんにこそ、ようさふらはんづれ。かり
すなどりなんどのやうに、あしだちのよからうかたへはむかはう、あしからんかたへはむかはじなんど
さふらはんに、いくさにかつことはよもさふらはじ。いくたびでもさふらへ、こはからんかたへは、のりつねうけたはつてまか
りむかひ。一ばううちやぶつてまゐらせさふらはん、みこころやすうおぼしめされさふらへと、まをされたりけれ
ば、おほいとのなのめならずよろこびたまひて、ゑつちうのぜんじもりとしに、一まんよきをさしそえてのととのにぞ
つけられける。あにゑつぜんの三みみちもりのきやうをあひぐして、やまのてをぞかためたまふ。このやまのてと
まをすは、へいけのじやうくわくいちのやのうしろ、ひよどりごゑのふもとなり。みちもりのきやうのととののかりやへ、きたの
かたむかへたまひて、さいごのなごりをしまれけり。のととのおほきにいかつて、このてはだいじのかたとて、
のりつねむかけられてさふらが、まことにこはうさふらふなり。ただいまもかみのやまよりてきおとすほどならば、とるもの

もとりあへさふらふまじ。たとへゆみをばはつてもつたりとも、やをはげずんばあしかるべし、
たとへやをばにげたりとも、ひかかずばなほもあしかるべし。ましてさやうにうちとけわたらせたま
ひては、なんのせんにかたらせたまふべきといさめられて、みちもりのきやうげにもやとおもはれけん、
いそぎもののぐして、ひとをばかへしたまひけり。おなじき五かのひのくれほどに、げんじこやのをたつ
て、やうやういくたのもりにめめちかづく。すずめのまつばら、みかげのまつ、こやののかたをみわたせば、げんじ
てんでにぢんをとつて、とほびをたく、ふけゆくままにながむれば、やまのはいづるつきのごとし。
へいけもとほびたけやとて、いくたのもりにもかたのごとくぞたいたりける。あけゆくままにみわたせ
ば、はれたるそらのほしのごとし。これやむかし、かはべのほたるとえいじたまひけんも、いまこそおもひしら
れけれ。かやうにげんじは、ここにぢんどつてはうまやすめ、かしこにぢんとつてはくさかひなんど
しけるほどに、さうなうちかづかず、へいけのかたには、いまやよするよするとあひまつて、やすいこころも
せざりけり。おなじき六かのあけぼのに、たいしやうぐん九らうおんざうしよしつね、一まんよきをふたてにわけて
どひのじらうさねひらに七せんよきをあひそへて、はりまぢよりにしのてへさしむけらる。わがみはそのせい
三ぜんよき、いちのやのうしろ、ひよどりごえをおとさんとて、たんばぢよりからめてへこそむかはれけれ。つはもの
どもこれはきこゆるあくしよにてあんなり。おなじうしぬるとも、かたきにあうてこそしにたけれ。あく
しよにおちてはしにたからず。あつぱれこのやまのあんないしややあると、くちぐちにまをすところに、ここ

にむさしのくにのぢうにん、ひらやまのむしやしよすゑしげすすみいでて、このやまのあんないよくぞんちつかまつてさふさふ
とまをす。おんざうしわどのはとうごくそだちのものの、けふはじめてみるさいこくのやまのあんないしや、おほきにまことし
からずとのたまへば、すゑしげかさねてまをしけるは、これはごぢやうともおぼえさふらはぬものかな、よしのはつ
せのはなをばみねども、かじんがしり、かたきのこもつたるじやうのうしろのあんないをば、がうのむしやがしり
さふらふとぞまをしける。これまたばうじやくぶじんにぞきこえし。またおなじきくにのぢうにん、べつぷのこたらうきよしげ
すすみいで、ちちにてさふらひしよししげほふしがまをしおきさふらひしは、やまこえのれふにもせよ、またかたきにもおそ
はれよ、しんざんにまよひたらんずるときには、らうばをたづなうちかけて、さきにおひたてゆけ、かなら
ずみちへいでうずるぞとこそをしへさふらひしか、とまをしければ、おんざうし、やさしうもまをしたる
ものかな。ゆきはのはらをうめども、おいたるうまぞみちはしるといふためしありとて、しろあしげな
るらうばにかがみくらおき、しろぐつわはげ、たづなむすんでうちかけ、さきにおつたて、まだしらぬしんざん
へこそいりたまへ。ころはきさらぎはじめのことなれば、みねのゆきむらぎえて、はなかとみゆるところもあり
たにのうぐひすおとづれて、かすかにまよふところもあり。のぼればはくせつかうかうとしてそびえ、くだればせいざんがが
としてがけたかし、まつのゆきだにきえやらで、こけのほそみちかすかなり。あらしにたぐふをりをりは、ばいくわと
もまたうたがはれ、とうざいにむちをあげ、こまをはやめてゆくほどに、やまぢにひくれぬれば、みなおり
ゐてぢんをとる。ここにむさしばうべんけい、あるらうをういちにんぐしてまゐりたり。おんざうし、あれはいかがと

のたまへば、これはこのやまのれふしにてさふらふとまをす。さこそあんないよくしつたるらめとのたまへば、い
かでかぞんちつかまつらではさふらふべきとまをす。おんざうし、さぞあるらん、これよりへいけのじやうくわく、
いちのたにのうしろひよどりごえをおとさんとおもふはいかにとのたまへば、いかにもかなはせさふらふまじ。
およそ三十ぢやうのたに、十五ぢやうのいはさきなどをば、たやすうひとのまゐりかよふべきところにてもさはず。
ましておうまなんどにては、ゆめゆめかなはせたまふべからず、そのうへじやうのうちには、おとしあなをも
ほり、ひしをもうゑて、まちまゐらせさふららはめとまをしければ、おんざうし、さてさやうのところをししはかよふ
か。ししはかよひさふらふ。せけんだにあたたかになりさふらへば、くさのふかきにふさんとて、はりまのししはたん
はへこえ、せけんだにさむくなりさふらへば、ゆきのあさりにくまんとて、たんはのししははりまのいな
みのへこえさふらとまをしける。おんざうじ、さてはばばござんなれ、ししのかよふところを、うまのかよは
ざるべきやうやある。さらばなんぢやがてあんないしやせよとのたまへば、このみはとしおいて、いかに
もかなひさふらふまじ。さてなんぢにこはないか。さふらふとて、くまわうまるとて、ようねん十八さいになりけ
るこくわんじやをおんざうしにたてまつる。おんざうし、かたじなくもかしらとりあげさせたまひて、ちちをばわしをのしやう
じたけひさといふあひだ、これをばわしをの三らうよしひさとのなのらせて、さきうちせさせ、いちのたにのあんないしや
にこそぐせられけれ。へいけほろび、げんじのよになつてのち、かまくらどのとなかちがうて、おうしうでう
だれたまひしとき、わしをの三らうよしひさとなつて、いつしよでしにけるつはものなり。

六かのよのやはんばかりまでは、くまがい、ひらやま、からめてにぞさふらひける。くまがい、しそくのこじ
らうをようでいひけるは、このてはあくしよであんなれば、だれさきといふこともあるまじいぞ。い
ざうれ、どひがうけたはつてむかひたる、にしのてへよせて、いちのたにのまつさきかけうといひければ、
こじらう、このぎもつともしかるべうさふらふ、さらばとうよせさせたまへとまをす。くまがい、ただしこのてに
はあるぞかし。うちこみのいくさこのまぬものなり、へらやまがやうみてまゐれとて、げにんをみせにつかは
す。あんのごとくひらやまは、くまがいよりさきにいでたつて、ひとをばしらずべからず。すゑしげにおいて
は、ひとひきもひくまじいものをものをと、ひとりごとをそしゐたりける。げにんがうまをかふとて、
につくいうまのながくらひかなとうちければ、ひらやまさうなせそ、そのうまのなごりもこよひばかりぞと
て、うちたちけり。げにんはしりかへつて、しゆにこのよしつげたりければ、くまがいさればこそ
とて、これもやがてぞうちいでたる。くまがいがそのよのしやぞくには、かちのひただれにひおどしのよろゑき
て、くれなゐのほろをかけ、ごんだくりげといふ、きこゆるめいばにぞのつたりける。しそくのこじらう
なほいへは、おもだかをひとしほすつたるひただれに、ふしなはめのよろひきて、せいろうといふしらあしげなるうまにぞの
つたりける。はたさしはきぢんのひただれにこざくらをきにかいたるよろひきて、きかはらげなるうまにぞのつた

りける。しゆじゆう三きうちつれおとさんずるたにをばゆんでになし、めてへあゆませゆくほどに、とし
ごろひともかよはぬ、たゐのはたけといふふるみちをへて、いちのたにのなみうちぎはへぞうちいでたる。いち
のたにちかうしほやといふところあり。まだよふかかりければ、どひのじらうさねひら、七せんよききにてひか
へたり。くまがいよにまぎれてなみうちぎはよりそこをばつつとうちとほり、いちのたにのにしのきどぐちにぞお
しよせたる。そのときまでもいまだよふかかりければ、じやうのうちにはしづまりかへつておともせず。くま
がい、しそくのこじらうをようでいひけるは、われもわれもと、さきにこころをかけたるものどもおほか
るらん。すでによせたれども、よのあぐるをあひまつて、このへんにもひかへたるらんぞ、こころ
せばうなほざねひとりとおもふべからず。いざなのらうとて、かいだてのきはへあゆませよせ、あぶみふんばり
たちあがり、だいおんじやうをあげて、むさしのくにのぢうにんくまがいのじらうなほざね、しそくのこじらうなほいへいちの
たにのせんぢんぞやとぞなのつたる。じやうのうちにはこれをきいて、よしよしおとなせそ、かたきがうまの
あしつからかさせよ、やだねをいつくさせよとて、あひしらものこそなかりけれ。ややあつて、うしろより
むしやこそ二きつづいたれ、だぞととへば、すゑしげとこたふ。とふはたぞ、なほざねぞかし。いか
にくまがいどのは、いつよりぞ。よひよりとこそこたへけれ。すゑしげもやがてつづいてよせすべかりつ
るを、なりた五らうにたばかられて、いままではちちしたりつるなり。なりたがしなば、いつしよ
でしなんとちぎりしあひだ、うちならべてよせつれば、いたうへらやまどの、さきがけばやりなしたまひそ、

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ふべきといふあひだ、げにもとおもひ、こさかのありつるをうちのぼせ、くだりざまにうまのかしらをひ
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けば、くまがい、ひらやま、かれこれ五きでぞひかへたる。くまがいはさきになのつつれども、いまひらやまがき
くまへにて、またなのらうとやおもひけん、かいだてのきは、あゆませよせ、あぶみふんばりたちあがり、だい
おんじやうをあげて、いぜんになのりつるむさしのくにのぢうにんくまがいのじらうなほざね、しそくのこじらうなほいへ
いちのやのせんぢんぞやとぞなのつたる。ひろのうちにはこれをきいて、いざよもすがらなのるくまがいおやこ
をひさげてきたらんとてすすむ。へいけのさむらひだれだれぞ、ゑつちうのじらうひやうゑもりつぎ、かづさの五らうびやうゑただ
みつ、あく七びやうゑかげきよ、ごとうないさだつねをさきとして、むねとのさぶらひ二十よき、きどをひらいてうつ

ていでたり。ここにひらやまは、しげめゆひのひただれにひおどしのよろひきて、ふたつひきりやうのほろをかけ、
めかすげといふきこゆるめいばにぞのつたりける。はたざしはくろかはをどしのよろひきて、かぶとゐくびにきなし
つつ、さびつきげなるうまにぞのつたりける。ひらやまあぶみふんばりたちあがりだいおんじやうをあげて、さんぬるほう
げんへいぢにさきかげてかうめいしたる、むさしのくにのぢうにんひらやまのむしやどころすゑしげとなのつて、はたさしと
二きをめいてかく。くまがいかくればへらやまつづき、ひらやまかくればくまがいつづく、たがひにわれおとらじと、
いりかへいりかへ、なのりかへかへ、もみにもんで、ひいづるほどにぞせめたりける。へいけのかた
のさふらひども、くまがひひらやまにてあまりにてとうかけられ、かなはじとやおもひけん、じやうのうちへさつとひ
いて、てきをとざまになしてぞふせぎける。くまがいはのつたりけるうまのふとももゐさせてはぬれば
あしをこえてさがりたつたり。しそくのこじらうなほいへも、かいだてのきはへうまのはなつかするほどによせ
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る。くまがい、いかにこじらうはておひたるか。さんざふらふ。よろひづきをつねにせよ、うらかかすな、しころ
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みづしま二かどのいくさにうちかつて、かうみやうしたりとなのるなる。ゑつちうのじらうびやうゑ、かづさの五らう

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いきやすめて、これもまたつづいたり。やぐらのうへのつはものども、ただいとれやいとれとて、さしつめひ
きつめ、さんざんにいけれども、かたきはこぜいなりければ、みかたのおほぜいにまぎれてやにもあたらず。ただ
くまがいへらやまにおちあへやおちあへ、くめやくめといひけれども、へいけのかたのうまは、のることはしげし

かふことはまれなり、ふねにはひさしうたてたりければ、みなゑりきつたるやうなりけり。くまがいひら
やまがのつたるうまは、かひにかうたるだいのうまどもなりければ、ひとあたあてば、みなけたふされぬべ
きあひだ、さすがおしならべてくむむしや一きもなかりけり。ここにひらやまは、みにかへておもい
けるはたさしをうたせて、やすからずやおもひけん、じやうのなかへかけいり、やがてそのかたきがくびと
つてぞいできたる。くまがいおやこもぶんどりかずおほくしてんげり。くまがいはさきによせたれども、きどを
ひらかねばかけいらず。ひらやまはのちによせたれどもきどをひらけたればかけいりぬ。さてこそ
そくまがいひらやまが一ニのかけをばあらそひけれ。

さるほどに、なりた五らうもいできたり、どひのじらうさねひら七せんよき、いろいろのはたさしあげ、をめ
きさけんでせめたたかふ。おほていくたのもりをも、げんじ五まんよきにて、かためたりけるせいのなかに、
むさしのくにのぢうにん、かはらたらう、かはらじらうとておととひあり。かはらたらう、おとうとのじらうをよばうでい
ひけるは、だいみやうはわれとてをおろさねども、けにんのかうみやうをもつてめいよす。われらはみづからてを
おろさではかなひがたし、かたきをまへにおきながら、やひとつをだにいずしてまちゐたれば、
あまりのこころもとなきに、たかなほはじやうのうちへまぎれいつて、ひとやいんとおもふなり、なんぢはのこりとど

つて、のちのしようにんにたてといひければ、おとうとのじらうなみだをはらはらとながいて、こはくちをしきこと
をのたまふものかな、ただおととひふたりあるものが、あにをうたせておとうとがあとにのこりとどまりたらばと
て、いくほどのえいぐわをかたもつべき。ところところにてうたれんより、いつしよでこそうちじにをもせめと
て、げんにどもよびよせ、つまこのもとへさいごのありさまいひつかはし、うまにはのらでげげをはき、ゆん
づゑをついて、いくたのもりのさかもぎをのぼりこえて、じやうのなかへぞいつたりける。ほしあかりによろひの
けもさだかならず。かはらたらうだいおんじやうをあげて、むさしのくにのぢうにん、かはらたらうきさいちのたかなほ、
おなじきじらうもりなほ、いくたのもりのせんぢんぞやとぞなのつたる。じやうのうちにはこれをきいて、あつぱれ
とうごくのぶしほどおそろしかるけるものはなし、このおほせいのなかへただおととひふたりかけいりたらばと
て、なにほどのことをかしだすべき、ただおきてあいせよやとてうたんといふものこそなかりけ
れ。かはらおととひくつきやうのゆみのじやうずなりければ、さしつめひきつめさんざんにゐる。じやうのうちには
これをみて、いまはこのものあいしにくし、うてやといふほどこそありけれ。さいっくにきこえたるつよゆみ
せいびやうのてきぎ、びちうのくにのぢうにん、まなべの四らう、まなべの五らうとておととひあり。あにの四らうをば
いちのたににおかれたり。おとうとの五らうは、いくたのもりにありけるが、これをみて、よつぴき、しんば
したもつてひやうとはなつ。かはらたらうよろひのむないたを、うしろへつといぬかれて、ゆんづゑにすがりすくむ
ところを、おとうとのじらうはしりより、あにをかたにひつかけて、いくたのもりのさかもぎをのぼりこえんとす

るところを、まなべが二のやにおとうとのじらうがよろひのくさずりのはづれをいさせて、おなじまくらにふしにけ
り。まなべがげにんおちあひて、かはらおととひがくびをとる。たいしやうぐんしんちうなごんとももりのきやうの、おんげんざん
にいれたりければ、あつぱれがうのものや、これらをこそいちにんたうせんのつはものどもといふべけれ。あ
つたらものどもが、いのちをたすけてみでとぞのたまひける。そののちかはらがげにんはしりちつて、かはらどの
のおととひこそ、じやうのなかへまつさきかけてうたれさせたまひるはと、よはつたりければ、かぢばら
へい三かげときこれをきいて、これはきさいちのたうのとのはらのふがくでこそ、かははらおととひをばうたせたれ、とき
よくなりぬるぞ、よせよやとてときをどつとぞつくりける。これをきいておほての五まんよきも
おなじうときのこゑをぞあはせたる。かぢはらまづあしがるどもをつかはしていくたのもりのさかもぎをとりのけ
させ、そのせい五百よきをめいてかくれば、じなんへいじかげたか、あまりにさきをかけうとすすむあひだ、ちちの
へい三ししやをたてて、ごぢんのせいのつづかざらんに、さきかけたらんずるともがらには、けんじやうあ
るまじきよし、たいしやうぐんよりのおほせぞといひおくつたりければ、へいじしばらくひかへて、
もののふのとりつたへたるあづさゆみひきてはひとのかへすものかは
とまをさせたまへやとて、をめいてかく。かぢはらこれをみて、へいじうたすなものども、かげたかうたすな
つづけやとて、ちちのへい三、あにのげんた、おなじき三らうつづいたり。かぢはら五百よき、じやうのなかへか
けいり、たてざま、よこざま、くもで、十もんじにかけわつて、さつとひいていでたれば、ちやくしの

げんたはみえざりけり。かぢはら、らうとうどもに、げんたはいかにととひければ、あまりにふかいりしてう
たれさせたまひてさふらふやらん。はるかにみえさせたまひさふらはずとまをしければ、かぢはらなみだをはら
はらとながいて、いくさのさきをかけうとおもふも、こどもがため、げんじうたせて、かげときいのちいきて
もなににかはせんなれば、かへせやとてまたとつてかへす。そののちかぢはらあぶみふんばりたちあがり、だい
おんじやうをあげて、むかし八まんどののご三ねんのおんたたかひに、でばのくにせんほくかなざはのじやうをせめさせたまひ
しとき、しやうねん十六さいとなのつてまつさきかけて、ゆんでのめをはちつけのいたにいつけられながら、
そのやをぬかで、たうのやをいて、やがてそのかたきがくびとつて、なをこうたいにあげたりし、かま
くらのごん五らうかげまさがばちえふ、かぢはらへい三かげときとて、いちにんたうぜんのつはものぞや。じやうのうちにわれとおもはん
ひとびとは、よりあへや、げんざんせんとて、をめいてかく。じやうのうちにはこれをきいて、ただいまなのる
は、とうごくにきこえたるつはものぞや、あますな、もらすなうてやとて、かぢはらをなかにとりこめて、われ
うつとらんとぞすすみける。かぢはら、わがみのうへをばしらずして、げんたはいづこにあるやらん
と、かけやぶり、かけまはりたづぬるほどに、あんのごとく、げんたはうまをもいさせかちだちになり、
かぶをもうちおとされ、おほわらはになつて、二ぢやうばかりありけるきしをうしろにあて、らうとうににんさう
にたちて、かたき五にんがなかにとりこめられて、おもてもふらずいのちもをしまず、ここをさいごとせめたたかふ。
かぢはらこれをみて、げんたはまだうたれざりけりと、うれしうおもひ、いそぎうまよりとんでおり、

いかにげんた、なげときここにあり、おなじうしぬるとも、かたきにうしろなみせそとて、おやこして、五
にんのかたきを三にんうちとり、ふたりにておはせて、ゆみやとりは、かくるもひくもをりにこそよれ、
いざうれげんたとて、かいぐしてぞいでたりける。かぢはらが二どのかけとはこれなり。

これをはじめて、三うら、かまくら、ちつぶ、あしかが、のゐよ、よこやまたうには、ゐのまた、こだまにしたうつづ
きたう、きさいちのたうのつはものども、そうじてげんぺいみだれあひ、いれかへいれかへときをどつとぞつくりける。
をめきさけぶこゑやまをひびかし、はせちがふるうまのおとはいかづちのごくく、いちがふるやはあめのふるにことな
らず。あるひはうすでおうてたたかふものもあり、あるひはておひかたにひきかけてうしろへひきしりぞくものもあり
あるひはひきくみさしちがへてしぬるもあり、あるひはとつておさへてくびをかくもあり、かかるるもあり、
いづれひまありともみえざりけり。かかりしかども、おほてばかりにては、いかにもかなふ
べしともみえざりしに、六かのひのよのあけぼのに、たいしやうぐん九らうおんざうしよしつね、そのせい三ぜんよ
きにてひよどりごえにうちのぼり、じんばのいきやすめておはしけるが、そのせいにやおどろきたりけん。
をじかふたつめじかひとつ、へいけのじやうくわくいちのたにへぞおちたりける。へいけのかたのつはものどもこれをみて
さとちかからんししだにも、われらにおそれてやまふかういるべきに、ただいまのししのおちやうこそあやし

けれ。いかさまにも、これはうへのやまよりかたきおとすにこそとて、おほきにさわぐところに、ここにいよの
くにのぢうにん、たけちのむしやどころきよのりすすみいで、たとひなにものにてもあらばあれ、かたきのかたよりい
できたらんずるものを、さうなうとほすべきあらずとて、をじかふたついとめて、めじかをば
いでぞとほしける。ゑつちうのせんじこれをみてせんないとのはらのししのいざまかな。ただいまのやひとすずでは
かたき十にんをばふせがんずるものを、つみつくりにやだふなにとぞせいしける。たいしやうぐん九らうおんざうし
しよしつねうへのやまよりへいけのじやうくわくはるかにみくだいておはしけるが、うまどもおちいてみんとて、せう
せうおとされけり。あるひはころんでおちるもあり、あるひはなかにはあしうちをつてしぬるもあり。され
どもそのなかに、くらおきうま三ひきさうゐなくおちついて、ゑつちうのせんじがやかたのまへにみぶるひしてぞた
つたりける。おんざうしこれをみて、うまどもはしゆじゆがこころえておとさんには、よもそんずまじかり
けるぞ、ただおとせ、よしつねをてほんにせよとて、まづ三十きばかり、まつさきかけておとされけれ
ば、三ぜんよきのつはものどももみなつづいておとす。こいしまじりのまさごなれば、ながれおとしに、二ちやうばかり
さつとおといて、だんあるところにひかへたり。それよりさきをみくだせば、だいばんじやくのこけむしたるが、
つるべおろしに十四五ぢやうぞくだつたる。それよりさきへはすすむべしともおぼえず、またうしろへとつてかへ
すべきやうもなかりしかば、つはものども、ここぞさいごとまをして、あきれてひかへたるところに、ここにさが
みのくにのぢうにん、三うらのさはらの十らうよしつら、つつみいで、われらがかたでは、とりひとつたちてだに、

あさゆふかやうのところをばはせありけ。これは三うらのかたのばばぞとてまつさきかけておとしければおほ
せいみなつづいておとす。ごぢんにおとすもののあぶみのはなは、せんぢんのよろひかぶとにさはるほどなり。あまり
のいぶせきに、めをふさいてぞおとしける。ゑいゑいごゑをしのびにして、うまにちからをつけておとす。
おほかたひとのしわざともみえず、ただきじんのしよゐとぞみえし。おとしもはてぬに、ときをどつとぞ
つくりける。三ぜんよきがこゑなれども、やまびここたへて、十まんよきとぞきこえし、むらかみのはんぐわんだい
やすくにがてよりひをいだいて、へいけのやかたかりやを、へんじのけむりとやきはらふ。こくえんすでにおし
かかりければ、もしやたすると。まへなるうみへぞおほくはしりいりける。なぎさにはたすけふねどもおほかり
けれども、ふね一そうにはよろふたるものの、四五百にんせんにんばかりこみのらふに、なじかはよか
るべき。なぎさより三ちやうばかり、こぎだいて、めのまへにておほふね三ぞうしづみにけり。そのごはよき
むしやをばのすともざふにんばらをばのすべからずとて、たちなぎなたのさきにてうちはらひはらひけり
かくすることとはしりながら、かたきにあうてはしなずして、のせじとするふねにとりつき、
つかみつき、あるひはうでうちおとされ、あるひはひぢうちきられて、いちのたにのみぎはにあけになつてぞなみ
ふしたる。さるほどに、おほてにもはまのてにもむさしさがみのわかとばら、おもてもふらずいちももをしまず
ここをさいごとせめたたかふ。のとどのはたびたびのいくさに、ひとたびもふかくしたまはぬひとの、こんどはいかが
おもはれけん、うすずみといふうまにうちのつて、にしをさしてぞおちたまふ。はりまのたかさごよりおん

ふねにめして、さぬきの八しまへわたりたまひぬ。

しんぢうなごんとももりのきやうは、いくたのもりのたいしやうぐんにておはしけるが、そのひのしやうぞくには、あかぢ
のにしきのひだたれに、ひをどしのよろひきて、れんぜんあしげなるうまにきんぷくりんのくらをおいてのりたまひたりける
が、ひんがしにむかつてたたかひたまふところに、ここにやまのそばよりよせけるこだまたうししやをたて、きみはひととせ
むさしのこくしにてましますあひだ、こだまのものどもがうちよりまをしさふらふ、いまだおんあとをばごらんぜられさふら
はぬやらん。とまをしおくつたりければ、げにやこくえんすでにおしかかりたり、ああはややまの
てがやぶるるはといふほどこそありけれ、われさきにわれさきにとぞおちゆきける。ゑつちうのせんじもりとし
は、やまのてのさふらひたいしやうにてありけるが、いまはおつともかなはじとやおもひけん、ひかへてかたきを
まつところに、ここにむさしのくにのぢうにんゐのまたのこへいろくのりつな、よきかたきとめをかけ、むちあぶみをあはせ
ておひつき、ゑつちうのせんじにおしならべむづとくんでどうとおつ、ゐのまたは八かこくにきこえたる
だいのちからなり、さればしかのつのの一ニのくさかりをば、たやすくひきさきけるとぞきこえし、ゑつちう
のせんじも、ひとめには二三十にんがりきげふあらはすといへども、ないないは六七十にんしてあげおろす
ふねをただひとりしておしあげおしなろすほどのしたたかものなり。さればゐのまたをとつておさへ、はたらかさ

ず。ゐのまたはしたにふしながらものをいはふとすれども、ゆびのまたすつてかたなのつかにぎるにもおよば
ず。ゐのまたはちからこそおとつたれどもがうなりければ、しばらくいきをついで、そもゆみやりの、かたきのくび
をとるるといふは、われもなのつてきかせ、かたきにもなのらせて、とつたらばこそたいせつなれ。
なもしらぬくびとつて、なにかせんといひければ、もりとしげにもとやおもひけん、もとはへいけの
もんたりしが、みふせうなるによつて、たうじはさふらひにはなされたる、ゑつちうのせんじもりとしと
いふものなり。わがきみはなにものぞ、なのれ、きかうといひければ、むさしのくにのぢうにん、ゐのまたの
こへいろくのりつなとなのる。さてたうせいのていをみさふらふに、げんじのかたは、いよいよつよく、へいけのおん
かたはまけいろにみえさせたまひさふらふ、あはれおなじうはのりつながいのちをたすけさせおはしませ、さだに
もさふらはばいけどりのうちにごへんのいちもんなん十にんもおはせよ。こんどのくんこうのしやうにまをしかへて、おん
いのちばかりをばたすけたてまつらんといひければ、もりとし、みふせうなれども、さすがへいけのいちもんな
り、もりとしげんじをたのまうともおもひもよらず、げんじまたもりとしにたのまれうとも、よもおもひたま
はじ、にくいきみがまをしやうかなとて、すでにくびをかかんとしければ、まさなうさふらふ、かうじんのくびか
くやうやあるといひければ、さらばたすけんとてゆるしけり。さきはかたたのやうにひあがつた
るが、うしろはみづたのこみかかりけるくろのうへに、ふたりながらこしうちかけていきつぎゐたりける
ところに、ここにくろがはおどしのよろひきて、つきげなるうまにのつたりけるむしや一き、もりとしにめをかけ

てあるませよる、ゑつちうのせんじあやしげにみければ、あれはゐのまたにしたしうさふらふひとみの四らうで
さふらふが、のりつながあるをみて、まうでくるとおぼえさふらふ、くるしうさふらふまじといひながら、あ
れがちかづくほどならば、しやくまんずるものを、おちあはぬことはよもあらじ、とおもひて
ひかへてまつところに、あはひ一ちやうばかりにはせきたる。ゑつちうのせんじ、はじめはふたりのかたきをひとめづつみ
けるが、しだいにちかづくかたきをはたとまもつて、のりつなをみぬすきに、ゐのまたちからあしをふんでたち
あがり、こぶしをつよくにぎり、ゑつちうのせんじがよろひのむねいたをばくとついて、うしろのみづたへのけにつきたふす。
おきあがらんとするところを、ゐのまたうへにのりかかり、ゑつちうのせんじがこしのかたなをぬき、よろひのくさ
ずりひきあげて、つかえもこぶしもとほれととほれとみかたなしてくびをとる。さるほどに、ひとみの四らう
もいでくたり、かやうのときはろんずることもこそあれとて、やがてくびをばたちのさきにつらぬき、たか
くさしあげ、だいおんじやうをあげて、このひごろにつほんごくにおにがみときこえたる、ゑつちうのせんじもりとしを
ば、むさしのくにのぢうにん、ゐのまたのこへいろくのりつながうつたるぞやとなのつて、そのひのかうみやうの
一のふでにぞつきにける。

さるほどにさつまのかみただのりは、にしのてのたいしやうぐんにておはしけるが、そのひのしやうぞくには、こんぢ

のにしきのひたたれにくろいとおどしのよろひきて、くろきうまのふとうたくましきに、いつかけぢのくらをおいてのりたまひ
たりけるが、そのせい百きばかりがなかにうちかこまれて、いとさわがずひかへひかへおちゆきたまふ
とここに、ここにむさしのくにのぢうにん、ゐのまたたうに、をかべのろくやたただすみよきかたきとめをかけ、むちあぶみを
あはせておひつき、あれはいかによきたいしやうぐんとこそみまゐらせてさふらへ、まさなうもかたきにうしろをみ
せたまふものかな、かへさせたまへと、ことばをかけければ、これはみかたぞとて、ふりあふぎたまふうち
かぶとをみいれたれば、かねぐろなり。たうじみかたにとうごくのせい、なんまんぎがあるらめどもかねつ
けたるぶしはなきものを、いかさまにも、これはへいけのきんだちにてこそおはすらめてとて、
おしならべてむんずとくむ。さつまのかみはきこゆるくまのそだちのだいぢから、くつきやうのはやわざのひとにておは
しければ、にくいやつがみかたぞといはばいはせよかしとて、うまのうへにてふたかたなおちつくところで
ひとかたな、みかたなまでこそつかれけれ。ふたかたなはあぶみのうへなればとほらず。ひとかたなはうちかぶとへつきいれら
れたりけれども、うすてなればしなざりけるを、とつておさへてくびをかかんとしたまふところに
ろくやたがらうとううちかたなをぬいておくればせにはせきたり、さつまのかみのかたなもちたまへるみぎのかひなを、
ひぢのもとよりふつとうちおとす。これをみて百きばかりのつはものども、みなくにぐにのかりむしやなりけ
れば一きもおちあはず、われさきにわれさきにとぞおちゆきける。さつまのかみいまはかなはじとやおもはれけん
しばしのけ、さいごのじふねんとへんとて、ろくやたをつかんでゆみたけばかりぞなげのけらる。その

のち、にしにむかひ、くわうみやうへんぜうじふばうせかい、ねんぶつしゆじやうせつしゆふしやとのたまひもはてぬに、ろくやたう
しろよりより、さつまのかみのくびをとる。よいくびうちたてまつたりとはおもへども、なをばたれ
ともしらざりけるが、ゑびらにむすびつけられたるふみを、といてみければ、りよしゆくのはなといふだい
にて、うたをぞ一しゆよまれたる。
ゆきくれてこのしもかげをやどとせばはなやこよひのあるじならまし ただのり
とかかれたりけるゆゑにこそ、さつまのかみとはしりてんげれ。やがてくびをばたちのさきにつらぬ
き、たかくさしあげ、だいおんじやうをあげて、このひごろ、につほんごくに、おにがみときこえさせたまひたる
さつまのかうのどのをば、むさしのくにのぢうにん、ゐのまたたうにをかべのろくやたただすみがうちたてまつたるぞや、
となのつたりければ、かたきもみかたもこれをきいて、あないとほし、ぶげいにもかだうにもすぐれ
て、よきたいしやうぐんにておはしつるひとをとて、みなよろひのそでをぞぬらしける。

ほんざんみのちうじやうしげひらのきやうは、いくたのもりのふくしやうぐんにておはしけるが、そのひのしやうぞくには、
かちふにしろうきなるいとをもつて、いはにむらちどりぬうたるひただれに、むらさきすそごのよろひきて、どうじかげ
といふきこゆるめいばにのりたまへり。めのとごのごとうひやうゑもりながはしげめゆひのひただれにひおどしのよろひき

て、三みのちうじやうのさしもひざうせられける、よめなしつきげといふうまにぞのらせられた
る。しゆじゆう二きうちつれたすけぶねにのらんとて、ほそみちにかかつて、みぎはのかたへおちゆきたまふところに、ここ
にむさしのくにのぢうにんしやうの四らうたかいへ、かぢはらげんだかげすゑ、むちあぶみをあはせておひかけたてまつる。なぎさには
たすけぶねどもおほかりけれども、うしろよりかたきはおつかけたり。のるべきひまもなかりしかば、みなとがは、
かるもがはをうちわたり、はすのいけうまてにみて、こまのはやしをゆんでになし、いたやど、すまをもうちすぎ
て、にしをさしてぞおちたまふ。三みちうじやうは、どうじかげといふきこゆるめいばにのりたまひたり
ければ、もちふせたるうまども、たやすうおつつくべきやうなかりしかば、かぢはらもしやと、
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ゑもりなが、わがうまめされなんとやおもひけん、むちをうつてぞにげたりける。三みちうじやういか
にもりなが、われをすてていづこへゆくぞ、ひごろはさはちぎらざりしものをとのたまへども、そらき
かずして、よろひにつけたるあかじるしども、みなかなぐりすて、ただにげにこそにげたりけれ。三
みのちうじやううまはよわる、かたきはつづく、のがるべきやうなかりしかば、そばなるうみへさつとぞうち
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たれたまひぬ。くわうごうのすけつねまさは、むさしのくにのぢうにん、かはごえのこたらうしげふさがてにかかつて
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かけいり、さんざんにたたかひ、いつしよでうちじにしたまひけり。しんぢうなごんとももりのきやうは、いくたのもりのたい
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たちべきやうなかりしかば、うまをばなぎさへおひかへさる。あはのみんぶしげよし、かたてやはげて
おんうま、すでにかたきのものとなりさふらひなんず、たまへつてつかまつりさふらはばやとまをしければ、ちうなごん
どのただいままでわがいのちたすけたるものを、あるべうもなしとのたまへば、ちからおよばでいざりけり。この
うま、しゆのなごりををしみつつ、しばしはふねをはれもやらず、おきのかたへぞおよぎける、しだいにとほ
うなりしかば、むなしきなぎさにおよぎかへり、あしたつほどにもなりしかば、なほふねのかたをかへりみて
二三どまでこそいななきけれ。そののち、なぎさにのぼりいきづきゐたりけるを、かはごえのこたらうしげふさ
とつて、ゐんへまゐらせたりければ、もともこのうま、ゐんのごひざうにて、一のおんうまやにたてられ
たりしを、むねもりこうないだいじんになつて、よろこびまをしのありしとき、くだしたまはられたりしをおとうとちう
なごんにあづけられたり。ちうなごんあまりにひざうして、このうまのいのりのためにとて、まいぐわつついたちごとに、
たいさんぶくんをぞまつられけり。そのいのりのゆゑにや、うまのいのちものびしゆのいのちをもたすけけるとぞきこ
えし。もとはこのうま、しなののくに、ゐのうへだちにてありしかば、ゐのうへぐろとぞめされしが、こんどは

かはごえがとつて、ゐんへまゐらせたりければ、かはごえぐるとぞめされける。そののちとももりのきやう、おほ
いとののおんまへにおはして、なくなくかきくどいてまをされけるは、むさしのかみにもおくれ
さふらひぬ。けんもつたらうをもうたせさふらひぬ。よのなかはよろづこころぼそうこそなつてさふらへ。されば
こはあつておやをうたせじと、かたきにくむをみながら、いかなるおやなればこのうちたるるを
たすけずして、これまでまゐつてさふらふぞや。あはれいかばかりひとのうへならば、もどかしうさらふ
ふべきに、わがみのうへになりぬれば、よういのちはをしいもにてさひふらひけりとて、そでをかほに
おしあてて、さめざめとかきくどかれければ、おほいとの、まことにむさしのかみのちちのいのちにかはら
れけることこそいとをしけれ。てもききこころもがうにして、すぐれてよきたいしやうぐんにておはしつ
るひとを、あのきよむねとどうねんにて、ことしは十六なとて、おんこうゑもんのすけのおはしつるかたを
みたまひて、なみだぐみたまへば、そのざにいくらもなみゐたまへるへいけいちもんのひとびと、こころもあるもこころな
きもみなよろひのそでをぞぬるされける。

こまつどののまつし、びつちうのかみもろもりは、しゆじゆう七にんこぶねにのぼり、こぎいだしたまふところに、ここにしん
ぢうなごんとももりのきやうのさぶらひに、せいうゑもんのじようきみながといふものあり、むちあぶみをあはせてはせきたり、

あれはいかに、びつちうのかうのとののおんふねとこそみまゐらせてさふらへ、まゐりさふらはんとまをしければ、
ふねをなぎさへさしよせらる。だいのをとこのよろひきながら、うまよりふねへがばととびのらうに、なじか
はよかるべき、ふねはちひさし、くるりとふみかへしてんげり。びつちうのかみ、うきぬしづむみぬし
たまふところに、ここにはたけやまがらうとう、ほんだのじらう、しゆじゆう十四五にん、おくればせにはせきたり、ま
づ、びつちうのかみをくまでにかけてひきあげたてまつり、つひにおんくびをぞたまはつてんげる、しやうねん
十四さいときこえし。ゑちぜんの三みのみちもりのきやうは、やまのてのたいしやうぐんにておはしけるが、そのひ
のしやうぞくには、あかぢのにしきのひただれに、からあやおどしのよろひきて、れんぜんあしげなるうまに、きんぷくりんの
くらをおいてのりたまひたりけるが、おほぜいにおしへだてられて、おとうとののとどのにもおくれたまひぬ、
いたておうて、しづかなるところにてじがいせんとて、ひんがしにむかつておちゆきたまふところに、ここにあふみの
くにのぢうにん、ささきのきむらの三らうなりつな、むさしのくにのぢうにん、たまのゐの四らうすけかげ、かれこれ七き
がなかに、とりこめまゐらせて、つひにそこにてうちたてまつりてげり。そのときまでも、さぶらひ一にんつ
きたてまつたりしかども、これもさいごのときはおちあはず、およそとうざいのきどぐち、ときうつるころにもな
りしかば、げんぺいかずをつくいてうたれにけり。やぐらのまへ、さかもぎのしたじんばのししむらのごとし。
いちのたにのをざさはら、みどんのいろとひきかへて、うすくれなゐにぞなりにける。いちのたに、いくたのもり、やま
のそば、うみのなぎさにいられきられて、しぬるはしらず。げんじのかたにきりかけらるるへいけ

のくびども、二せんよにんなり。こんどいちのたににてうたれたまへる、へいけのかたのむねとのひとびとには
まづゑちぜんの三みみちもりのきやう、くらんどのたいふなりもり、むさしのかみともあきら、さつまのかみただのり、びつちうのかみ
もろもり、をはりのかみきよさだ、あはぢのかみきよふさ、くわうごうぐうのすけつねまさ、おとうとわかさのかみつねとそのおとうとたいふ
あつもり、いじやう十にんとぞきこえし、しかるをいくさやぶれにしかば、しゆじやうをはじめまゐらせて、ひとびとみなお
ふねにめして、いでさせたまふこそかなしけれ。しほにひかれかぜにしたがつて、きのぢにおもむくふねも
あり。あしやのおきにこぎいで、なみにゆらるるふねもあり。あるひはすまよりあかしのうらづたひ、
とまりさだめぬかぢまくら、かたしくそでもしほれつつ、おぼろにみゆるはるのつき、こころをくだかぬひとぞなき。
あるひはあはぢのせどをおしわたりゑしまがいそにただよへば、なみぢはるかになぎわたり、とよもまよはせるさよ
ちどり、これもなぐみのたぐひかな。ゆくすゑいまだいづくとも、おもひさだめぬかとおぼしくて、いちの
たにのおきにやすらふふねもあり。かやうにうらうらしまじまにただよへば、たがひにししやうもしりがたし。くにを
したがふることも十四かこく、せいのつくことも十まんよき、みやこへちかづくこともわづかに一にちのみちな
れば、こんどはさりともと、たのもしうこそおもはれつるに、いちのたにをもせめおとされて、い
とどこころぼそうぞなられける。

ゑちぜんの三みのみちもりきやうのさぶらひに、くんだたきぐちときかずといふものあり。いそぎきたのかたのおふねにまゐ
つてまをしけるは、きみはけさみなとがはのしもにて、かたき七きがなかにとりこめられさせたまひて、つひ
にうたれさせたまひさふらひぬ。なかにもことにてをくだいてうちたてまつたりしは、あふみのくにのぢうにん、
ささきのきむらの三らうなりつな、むさしのくにのぢうにん、たまのゐの四らうすけかずとぞなのりまゐらせてさふら
ひしが、ときかずもいつしよでうちじにつかまつり、ごさいごのおともをもつかまつるべうさふらひしかども、かねてよ
りおほせさふらひしは、みちもといかになるとも、なんぢはいのちをすつべからず、いかにもしてながら
へて、おんゆくへをもたづねまゐらせよ、とおほせさふらひしほどに、かひなきいのちながらへて、つれなう
こそこれまでのがれまゐつてさふらへ、とまをしければ、きたのかたききもあへたまはず、ひきかづいてぞふ
したまふ。いちぢやううたれたまひぬとはききたまへども、もしひがことにてもやあるらん、いきてかへ
らるることもやと、二三にちはあからさまにいでたるひとを、まつここちしておはしけるが、四五
にちにもなりしかば、もしやのたのみもよわりはてて、いとどこころぼそうぞなられける。ただ一にん
つきたてまつたりけるめのとのにようばうも、おなじまくらにふししづみにけり。かくとききたまひし七かの
ひのくれほどより、十三にちのよまではおきあがりたまはず。あくる十しにち、いちのたにより八しまへつ
かんとてのよひうちすぐるまでは、ふしたまひたりけるが、ふけゆくままに、ふねのなかもしづ
まりしかば、きたのかためのとのにようばうにのたまひけるは、けさまでは三みうたれにしとききしか

ども、まことともおもはでありつるが、このくれほどより、げにもさもあるらんとおもひさだめてある
ぞとよ。そのゆゑは、みなひとごとにまなとがはとやらんにて、三みうたれにしとはいひしかども、
そののちいきてあひたりといふもの、一にんもなし。あすうちいでんとてのよる、あからさまなるところ
にてゆきあひたりしかば、いつよりもこころほそげにうちなげいて、あすのいくさにはみちもりかならずう
たれんずるはとよ、われいかにもなりなんのち、ひとはいかがはしたまふべきなんどいひしかど
も、いくさはいつものことなれば、いちぢやうさるべしともおもはでありつることこそかなしけれ。それ
をかぎりとだもおもはましかば、などのちのよとちぎらざりけんと、おもふさへこそくやしけれ。ただ
ならずなりたることをも、ひごろはかくしていはざりけるが、あまりにこころふかうおもはれじとて、
いひいだしたりしかば、なのめならずうれしげにて、みちもり三十になるまで、こといふもののな
かりつるに、あはれおなじうはなんしにてもあれかし、うきよのわすれがたみ、おもひおくばかりな
り。さていくつきほどになるやらん、ここちはなんとあるやらん、いつとなきなみのうへ、ふねのなかのすま
ゐなれば、しづかにみみとなつてのち、ひとはいかがはしたまふべきなんどいひしは、はかなかり
けるかねざとかな。まことやらん、をんなはさやうのとき、十に九はかならずしぬるあんれば、はぢがまし
きめをみて、むなしうならんもこころうし。しづかにみみとなつてのち、をさなきものをそだてて、なきひと
のかたみにもみばやとはおもへども、そのこをみんたびごとに、むかしのひとのみこひしくて、おもひのかず

はまさるとも、わするることはよもあらじ、つひにはのがるまじきみちなり。もしこのよをしのび
すぐすとも、こころにまかせぬよのならひは、おもはぬほかのふしぎもあるぞとよ。それをおもへ
ばこころうし。まどろめばゆめにみえ、さむればおもかげにたつぞとよ。いきてゐて、とにかくにひと
をこひしとおもはんより、みづのそこへもいらばやと、おもひさだめてあるぞとよ。そこにひとりとどま
つて、なげかんずることこそこころぐるしけれども、それはいきみなればなげきながらもすごさんずらん。
わらはがしやうぞくのあるをばとつて、いかならんそうにもたてまつり、なきひとのごぼだいをもとぶらひまゐらせ、
わらはがごせをもたすけたまへ、かきおきたるふみどもをばみやこへつたへてたべなんど、こまごまとのたまへば、
めのとのにようばうなみだをおさへて、をさなきこをもふりすてて、おいたるおやをもとめおき、はるばると
これまでつきまゐらせてさふらふこころざしをば、いかばかりとかおぼしめされさふらふらん。こんどいちの
たににてうたれさせたまへる、ごいちもんのきたのかたのおんなげきども、いづれかおろそかにわたらせたまひさふろふべ
き、しづかにみみとならせたまひてのち、いかならんいはきのはざまにてもをさなきひとをそだてまゐらせ、おん
さまをかへ、ほとけのおんなをもとなへて、なきひとのごぼだいをともらひまゐらさせたまへかし、かならずひとつ
はちすにとおぼしめされさふらふとも、しやうかはらせたまひなんのち、六だう四しやうのあひだにていづれのみちへおもむか
せたまはんずらん、ゆきあはせたまはんこともかたければ、おみをなげてもよしなきおんことなり
そのうへ、みやこのおんおとづれをば、たれみつぎまゐらせよとて、かやうにこまごまとはおほせられさふろふ

やらんと、まをしければ、きたのがた、このことあしうもききぬやとおもはれけん、こはこころにかは
つてもおしはかりたまふべし。おほかたのよのうらめつさ、ひとのわかれのかなつさにも、みをなげなん
といふはつねのならひなり。それまではありがたきためしぞかし。たとへおもひたつことありとも
そこにしらせずしてあるまじいぞ。いまはよもふけぬ、いざやねんとのたまへば、めのとのによう
ばうこの四五にちはゆみづをだにも、はかばかしうごらんじいれさせたまはぬひとの、かやうにこまごま
とあふせらるるは、げにおぼしめしたつこともやとかなしうて、まことにそれほどまでおぼしたつこと
ならば、わらはをもちひろのそこまでも、ひきこそぐせさせたまふべけれ、おくれまゐらせなんのち、一にち
かたときもはなれまゐらすべうもおぼえぬものをなんどまをして、おんそばにありながら、ちつとうちまど
みみたりつるひまに、きたのかたやはらふなばたへおきいでたまひて、まんまんたるかいじやうなれば、いづ
ちをにしとはしらねども、つきのいるさのやまのはを、そなたのそらとやおぼしけん、しづかにねんぶつ
したまへば、おきのしらすになくちどり、あまのこわたるかぢのおと、をりからあはれやまさりけん、しのび
ごゑにねんぶつ百べんばかりとなへさせたまひつつ、なむさいはうごくらくせかいのけうしゆみだによらい、ほんぐわんあやま
たせたまはず、あくかでわかれしいもせのなからひ、かならずひとつはちすにと、なくなくはるかにかきくどき、
なむととなふるこゑともに、うみにぞしづみたまひける。あくれば十しにち、いちのたによりやしまへおしわた
らんとてのやはんばかりのことなりければ、ふねのなかしづまつて、ひとこれをしらざりけり。そ

のうちにかんどりの一にんねざりけるが、このよしをみまゐらせて、あれはいかに、あおのおんふねより
にようばうのうみへいらせたまひぬるはと、よばはつたりければ、めのとのにようばううちおどろき、むねうちされぎ
あさましさにそばをさぐれども、おはせざりければ、ただあれよあれよとぞあきれける。ひとあまた
おりてとりあげたてまつらんとしけれども、さらぬだにはるのよは、ならひにかすむものなれば、
よものむらくもうかれきて、かつげどもども、つきおほろにてみえたまはず。はるかにほどへてのち、とりあ
げたてまつたりけれども、はやこのよになきひととなりたまひぬ。しろきはかまにぬりぬきのふたつぎねをきたま
へり。かみもはかまもしほれつつ、とりあげけれどもかひぞなき。めのとのにようばう、てにてをと
りくみ、かほにかほをおしあてて、まことにこれほどまでおぼしめしたつことならば、わらはをもちひろの
そこまでも、ひきぐせさせたまふべきに、うらめしうも、ただひとりとどめさせたまふものかな。さ
るにてもいま一どものあふせられさふらひて、わらはにきかせさせたまへとて、もだえこがれけれども、
はやこのよになきひととなりたまひぬるうへは、いちごんのへんじにもおよびたまはず、わづかにかよひぬる
いきも、はやたえはてぬ。さるほどに、はるのよのつきもくもゐにかたむき、かすめるそらもあけゆけば
なごりはつくせずおへへども、さてしもあるべきことならねば、うきもやあがりたまふと、こ三み
どののきせながの一りやうのこつたりけるを、ひきまとひたてまつり、つひにうみにぞしづみける。めのとのにようばう、
こんどはおくれじと、つづきてうみにいらんとしけるを、ひとびとやうやうにとりとめければ、ちから

およばず、あまりになごりのせんかたなきにや、てづからかみをはさみおろし、ちうなごんのりつしちうくわいに
そらせたてまつり、なくなくかがをたもつてしゆのごせをぞとふらひける。むかしよりをとこにおくるるかずおほ
しといへども、さまをかはふるはつねのならひ、みをなぐるまではありがたきさまなり。ちうしんは
じくんにつかへず、ていぢよはじふにまみえずとも、かやうのことをやまをすべき、そもそもこのにようばうと
まをすはとうのぎやうぶきやうのりかたのむすめじやうせいもんゐんのしう、ぐうちう一のびじん、なをばこざいしやうのつぼねとぞまを
しける。このにようばう十六とまをししあんげんのはるのごろ、によゐんほふしようじへははなみのごかうのありしに、
みちもりのきやうそのときはいまだちうぐうのすけにてぐぶせられたりけるが、このにようばうを一めみて、あはれと
おもひそめしよりこのかた、はじめはうたをよみふみをばつくされけれども、たまづさのかずのみつもつて、と
りいれたまふこともなし。すでに三ねんとまをすに、みちもりのきやう、いまをかぎりのふみをかいて、こざいしやう
どののもとへつかさる。あまつさい、とりつたへたるにようばうにだにあはずして、つかひむなしうかへりまゐらんとし
けるが、をりふしこざいしやうどのは、さとよりごしよへぞまゐられけるみちにてゆきあうたり。つかひむなしうかへ
りまゐらんことのほいなさに、そばをつとはしりとほるやうにて、こざいしやうどののくるまのみすのうちへ、
みちもりのきやうのふみをぞなげいれたる。とものものどもにとひたまへば、しらずとのみぞまをしける。さ
てかのふみをあけてみたまへば、みちもりのきやうのふみなりけり。くるまにおくべきやうはなし。おほ
ぢにすてんもさすがにて、はかまのこしにはさみつつ、ごしよへぞまゐりたまひける。さてみやつかへたまひ

しほどに、ところしもこそおほけれ、ごぜんにふみをおとされたり。によゐんこれをとらせおはしまし、
いそぎぎよいのおんたもとにひきかくさせたまひて、めづらしきものをこそもとめたれ。このぬしはたれなるらんと
あふせければ、ごしよちうのにようばうだち、よろづのかみほとけにかけて、しらずとのみぞまをされけるなかにも、
こざいしやうどのばかりかほうちあかめて、ものもまをされず。によゐんもないないみちもりのきやうがまをすとは、しろし
めされたるあひだ、さてこのふみをあけてごらんずれば、きろのけむりのにほひことになつかしう、ふでのたち
ともよのつねならず。あまりにひとのこころつよきも、いまはなかなかうれしきものをなんどこまごまとかきて、
おくに一しゆのうたぞありける、
わがこひはほそたにがはのまろきばしふみかへされてぬるるそでかな
によゐん、これはあはぬをうらみたるふみよ。あまりにこころつよきも、なかなかいまはあだとなんなるものを、
なかごろをののこまちとて、みめかたちよにすぐれ、なさけのみちありがたかりしかば、みるひときく、
もの、きもたましひをいたましめずといふことなし。されどもこころつよきなをやとりたりけん、つひに
はひとのおもひのつもりとて、かぜをふせぐたよりもなく、あめをもらさぬわざもなし。やどにくもら
ぬつきほしはなみだにうかべ、のべのわかな、さはのねぜりをつみてこそ、つゆのいのちをばすごしけれ。いか
さまにもへんじあるべきことぞかしとて、かたじけなくもによゐんおんすずりめしよせて、みづからおんぺんじあそび
てぞくだされける。

ただたのめほそたにがはのまろきばしふみかへしてはおちざらめやは
むねのうちのおもひはふじのけふりとあらはれ、そでのうへのなみだはきよみがせきのなみなれや、みめはさいはひ
のはななれば、三みこのにようばうをたまはつて、たがひのこころざしあさからず、さればさいかいのなみのうへ、ふね
のうちまでひきぐして、つひにひとつみちへぞおもむかれける。さるほどにかどわきのへいぢうなごんのりもりのきやう
は、ちやくしゑちぜんの三みみちもりばつしなりもりにもおくれたまひぬ。いまたのみたまへるひととては、のとのかみ
のりつね、そうにはちうなごんのりつしちうくわいばかりなり。こ三みどののかたみとも、このにようばうをこそ
みたまふべきに、それさへかやうになりたまへば、いとどこころぼそうぞなられける。