平曲譜本 藝大本 巻十一
げんりやく二ねんしやうぐわつ十かのひ、九らうたいふのはうぐわんよしつねゐんぜんして、おほくらきやうやすつねのあつそんをもつてそう
もんせられけるは、へいけはすでにしんめいにもはなたれたてまつり、きみにもすてられまゐらせて、ていとを
いでてなみのうへにただよふおちうととなれり。しかるをのの三がねんがあひだせめおとさずして、おほくのくに
くにを、ふさげられけることこそやすからね。こんどよしつねにおいては、きかいかうらいてんぢく、しんだんま
でも、へいけをせめおとさざらんかぎりは、わうじやうへかへりいるべからざるよし、そうもんせられたりけ
れば、はふわきおほきにごかんなつて、あひかまへてよをひについで、しようぶをけつすべしとぞあふせくださ
る。はうぐわんかしこまりうけたまはつてしゆくしよにかへり、とうごくのだいみやうせうみやうにむかつてのたまひけるは、こんどよしつね
こそかまくらどののおんだいくわんとして、へいけつゐたうのためにさいこくへまかりむかふ、さればりくはこまのあしの
かよはんをかぎり、うみはろかいのたたんのところまでせめゆくべし、それにすこしもしさいをぞんぜんとの
ばらはこれよりとうとうかまくらへくだらるべしとぞのたまひける。さるほどにやしまにはひまゆくこまのあし
はやくして、しやうぐわつもたちにんぐわつにもなりぬ。はるのくさかれて、あきのかぜにおどろき、あきのかぜやんで
またはるのくさになれり。おくりむかへて、すでにみとせになりにけり。へいけさぬきのやしまへわたりたまひ
てのちも、とうごくよりあらてのぐんびやうすうまんぎみやこについてせめくだるともきこゆ。またちんぜいよりうすき、へ
つぎ、まつらたう、どうしんしておしわたるともきこえけり。かれをききこれをきくにも、ただみみをおどろかし、
きもたましひをけすよりほかのことぞなき。によゐんきたのまんどころ、二ゐどのいげのにようばうたちはさしつどひて、
あはれわがかたざまに、いかなるうきことをかきかんずらん、いかなるうきめをかみんず
らんと、なげきあひかなしみあはれけり。なかにもしんぢうなごんとももりのきやうののたまひけるは、とうごくほくこく
のきようとらも、ずゐぶんぢうおんをかふむつたりしかども、たちまちにおんをわすれちぎりをへんじて、よりともよしなからに
したがひき。ましてさいこくとても、さこそはあらんずらめとおもひしかば、ただみやこのうちにていか
にもならむと、さしもまをしつるものを、わがみ一つのことならねば、こころよわうあこがれいで
て、けふはかかるうきめをみるくちをしさよとぞのたまひける、まことにことわりとおぼえてあはれなり。
にんぐわつ三かのひ、九らうたいふのはうぐわんよしつねみやこをたつて、つのくにわたなべふくしまりやうしよにてふなぞろへして、
やしまへすでによせんとす、あにの三かはのかみのりようもどうにちにみやこをたつて、これもつのくにかんざきにてへい
せんをそろへて、せんやうだうへおもむかんとす。おなじき十かのひ、いせいはしみづへくわんぺいしをたてらる。
しゆじやう、ならびに三じゆのしんき、いとゆゑなうみやこへかへしいれたてまつるべきよし、じんぎくわんのくわんじん、もろもろのしやし、
ほんぐうほんじやにてきせいまをすべきむねあふせくださる。さるほどにわたなべふくしまりやうしよにてそろへたりけるふねど
もの、ともづなすでにとかんとす。をりふしきたかぜきををつて、はげしうふきたりければ、ふねはみなうち
そんぜられて、いだすにおよばず。しゆりのためにとて、そのひはとどまりたまひぬ。おなじき十六にち
わたなべにはとうごくのだいみやうせうみやうよりあひたまひて、そもそもわれらふないくさのやうをばいまだてうれんせず、い
かがせんとひやうぢやうす。かぢはらすすみいでて、こんどのふねには、さかろをたてさふらはばやとまをしければ、
はうぐわんさかろとはなんぞ。かぢはら、うまはかけんとおもへばかけ、ひかんとおもへばひき、ゆんでへも
めてへもまはしやすうさふらふ。ふねはさやうのとき、きつとおしまはすがだいじにてさふらへば、ともへにろ
をたてちがへ、わきかぢをいれて、どなたへもまはしやすいやうにしさふらはばや、とまをしければ、
はうぐわんまづかどでのあしさよ、いくさにはひとつひきもひかじとおもふだに、あはひあしければ、ひく
はつねのならひなり。ましてさやうににげまうけせんに、なじかはよかるべき。とのばらのふねには、
さかろをも、かへさまろをも、百ぢやう千ぢやうもたてたまへ。よしつねはただもとのろでさふらはんとのたまへ
ば、かぢはらかさねて、よきたいしやうぐんとまをすは、かくべきところをもかけ、ひくべきところをもひき、
みをまつたうしててきをほろぼすをもつてこそ、よきたいしやうぐんとはしたるざふらふ。さやうにかたおもむきなるをば、
ゐのししむしやとまをして、よきにはせずとこそまをせ。はうぐわん、ゐのししのしし、しかのししはしらず、いくさ
はただひらぜめにせめて、かちたるぞここちはよきとのたまへば、とうごくのだいみやうせうみやう、かぢはらに
おそれて、たかくはわらはねども、めひきはなひきさざめきあへり。そのひはうぐわんとかぢはらと、すで
にどうしいくさせんとす。されどもいくさはなかりけり。はうぐわんふなどものしゆりして、あたらしうなつた
るに、おのおの一しゆ一へいして、いはひたまへとて、とかくいとなむたいにもてなし、ふねにひやうらうまい
つみ、もののぐいれ、うまどもたてさせ、ふねとうとうつかまつれとのたまへば、かこかんどりども、これはおひ
てにてはさふらへども、ふつうにはすこしすぎさふらふ。おきはさぞふいてさふらふらんとまをしければ、はう
ぐわんおほいにいかつて、おきにいでうかびたるふねの、かぜこはければとてとどまるべきか。のやまのすゑにて
しに、うみかはにおぼれてしぬるも、みなこれぜんぜのしゆくごふなり。むかへかぜにわたらんといはばこそ、よし
つねがひがことならめ。おひてなるが、すこしつよければとて、これほどのおんだいじに、ふねつかまつらじとは
いかでかまをすぞ。ふねとうとうつかまつれ、つかまつらずば、しやつばら一々にいころせ、ものどもとぞ、げち
したまひける。うけたまはりさふらふとて、いせのさぶらうよしもり、あうしうのさとう三らうひやうゑつぎのぶ、おなじき四
らうひやうゑただのぶ、えたのげんざう、くまゐのたらう、むさしばうべんけいなどいふ、一にんたうぜんのつはものども、かたて
やはげてごぢやうであるぞふねとうとうつかまつれ。つかまつらずばしやつばら一々にいころさんとて、はせまは
るあひだ、かこかんどりども、ここにていころされんもおなじこと、かぜつよくば、おきにて、はせじににも
しねやものどもとて、二百よさうがなかより、ただ五さういでてぞはしりける。五さうのふねとまをすは、
まづはうぐわんのふね、つぎにたしろのくわんじやのふね、ごとうひやうゑふし、かねこきやうだい、よどのがうないただとしとて、
ふなぶぎやうののつたるふねなりけり。のこりのふねはかぢはらにおそるるか、かぜにおづるかして、いで
ざりけり、はうぐわん、ひとのいでねばとてとどまるべきかは、ただのときはかたきもおそれてようじんしてんず
かかるおほかぜおほなみにおもひもよらぬところへよせてこそ、おもふかたきをばうたんずれとぞのたまひける。
はうぐわんのこりのふねにかがりなともしそ、よしつねがふねをほんぶねとして、ともへのかがりをまぼれや、ひかずおう
みえば、かたきもおそれてようじんしてんずとて。はしるほどに、そのあひ三かにわたるところをば、ただみ
ときばかりにぞはしりける。にんぐわつ十六にちうしのこくに、つのくにわたなべふくしまをいで、あくるうのこく
には、あはのぢへこそふきつけけれ。
あけければなぎさにはあかはたせうせうひらめいたり。はうぐわん、すはやわれらがまうけどもしおいたるぞ、ふね
ひらづけにつけて、くださんとせば、かたきのまとになつていられなんず。なぎさちかうならぬさきに、ふね
どものりかたむけかたむけ、うまどもおひくだしくだし、ふねにひきつけひきつけおよがすべし。うまのあし
たちくらづめひたるほどにもなるならば、ひたひたとうちのつて、かけよものどもとぞげちしたまひ
ける。五さうのふねにはひやうらうまいつみ、もののぐいれたりければ、うまただ五十よひきぞたつたりけ
る。あんのごとくなぎさちかうならぬさきに、ふねどものりかたむけかたむけうまどもおひくだしくだし、ふねにひき
つけひきつけおよがず。うまのあしたちくらづめひたるほどにもなりしかば、ひたひたとうちのつて、はう
ぐわん五十よき、をめきてさきをかけたまへば、なぎさにひかへたりける百きばかりのつはものども、しばしも
たまらずさつとひいて二ちやうばかりぞのきにける。そののちはうぐわんなぎさにのぼり、うまのいきやすめて
おはしけるが、いせの三らうよしつねをめして、あのせろのなかにさりぬべきものやある、一にんぐ
してまゐれたづぬべきことありとのたまへば、よしもりかしこまりうけたまはつて、ただ一きおほぜいのなかへ、かけい
つて、なんとかいひたりけん、としのよはひ四十ばかんなるをとこの、くろかはおどしのよろひきたるを、かぶとを
ぬがせ、ゆみのつるをはづさせ、かうにんになして一にんぐしてぞまゐりたる。はうぐわんあれはいかに
とのたまへば、たうごくのぢうにんはんぜいのこんどう六ちかいへとなのりまをす。はうぐわんそれはなにいへにてもあらば
あれ、しやつにめはすな、もののぐなさせそ。これよりやしまへのあんないしやにぐせんずるぞ。に
げてゆかばいころせ、ものども、とぞげぢしたまひける。はうぐわん、ちかいへをめして、ここをばいづく
といふぞととひたまへば、かつうらとまをしさふらふ。はうぐわんわらひて、しきだいなとのたへば、一ぢやうかつうらに
てさふらふ。げらうのまをしやすきままに、かつらとはまをせども、もんじにはかつうらとかいてさふらふ
とまをしければ、はうぐわんあれききたまへとうごくのとのばらいくさしにむかふよしつねが、かつうらにつくめでたさ
よとぞのたまひける。もしこのへんにへいけのうしろやいつべきじんはたれかあるとのたまへば、あはのみんぶしげ
よしがおとうと、さのらばのすけよしとほとてさふらふとまをす。はうぐわんいざさらば、けちらしてとほらんとて、こん
どう六がせい百きばかりがなかより、うまやひとをすぐつて、三十きわがせいにこそつけられけれ。
よしとほがじやうにおしよせてみれば、三ぱうはぬま、一ぱうはほりなりけり。ほりのかたよりおしよせて、
ときをどつとぞつくりける。じやうのうちにはこれをみて、ただいとれやいとれとて、さしつめひきつ
つめさんざんにいけれども、げんじのかたのつはものども、これをことともせず、かぶとのしころをかたむけ、ほりをこ
えをめきさげんでせめいりければ、よしとほかなはじとやおもひけん。わがみはくつきやうのうまをもつた
りければ、それにうちのりけうにしておちにけり。のこりとどまつてふせぎやいけるつはものども、二
十よにんがくびきりかけさせ、ぐんじんにまつり、ときをどつとつくりかどでよしとぞよろこばれける。
そののちはうぐわんちかいへをめして、これよりやしまへいくかぢととひたまへば、二かぢざふらふとまをす。せい
いかほどあるらん、千きにはよもさふらはじとまをす。はうぐわん、などすくないぞ。かやうにしこくのうら
うらしまじまに五十き百きづつさしおかれてさふらふ。そのうへやしまには、あはのみんぶしげよしがしやく
し、でんないさゑもんのりよしは、いよのくにかはの四らうがめせどもまゐらぬをせめめんとて、そのせい
三千よきにていよへこえてさふらふとまをす。はうぐわんさてはよきひまござんなれ、かたきのきか
ぬさきに、さらばとうとうよせずやとて、はせあしにないつ、あゆませつ、はせつ、むかへつ、あ
はとさぬきのさかひなる、おほさかごえといふやまを、よもすがらこそこえられけれ。そのよのやはんばか
りに、たてぶみもちたるををとこ一にん、はうぐわんにゆきつれたり。このをとこよのことなれば、かたきとはゆめ
にもしらず。へいけのつはものどものよもすがらやしまへまゐるとやおもひけん、うちとけてものがたりをぞし
ける。はうぐわんこれもやしまへまゐるが、あんないをしらぬぞ、じんじよせよとのたまへば、このをとこはたびたびまゐつ
て、あんないよくしつてうさふらふとまをす。はうぐわんさてそのふみはいづくよりいづがたへまゐらせらるるぞと
のたまへば、これはきやうよりにようばうのやしまのおほいとのへまゐらせられさふらふ。そもそももなにごとにやととひたまへば、
よもべつのしさいにてはよもさふらはじ、げんじすでによどがはじりにいでうかうでさふらへば、さだめてそれを
こそつげまをされさふらふらめとまをしければ、はうぐわんさぞあるらん、あのふみうばへとて、もち
たるふみうばへとらせ、しやつからめよ、つみつくりにくびなきつそとて、やまなかのきにたしかにしばり
つけさせてこそとほられけれ。さてかのふみをあけてみたまへば、まことににようばうのふみとおぼしきうて、
九らうはすすどきをとこにて、かかるおほかぜ、おほなみをもきらひさふらはず、よせさふらふ。あひかまへて、おん
ぜいどもちらさせたまはで、ようじんようくせさせたまへとぞかかれたる。はうぐわんこれはよしつねにてんのあたへ
たまふふみよ、かまくらどのにみせまをさんとて、ふかうをさめてぞおかれける。あくる十八にち、ひけた
といふところにじんばのやすやすめて、それより、しろとり、にぶのや、うちすぎうちすぎ、やしまのじやうへ
ぞよせられける。はうぐわんまたちかいへをめして、これよりやしまのたちへはいかやうなるぞ、ととひたま
へば、しろしめされねばこそさふらへ、むげにあさまにさふらふ。しほのひてさふらふときは、をかとしまとのあひだ
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のさいけにひをかけて、やしまのじやうへぞよせられける。やしまには、あはのみんぶしげよしがしやくし、
でんないざゑもんのりよしは、いよのかはのの四らうが、めせどもまゐらぬをせめんとて、そのせい三千よ
きにていよへこえたりしが、かはのをばうちもらしぬ。いへのこらうどう百五にんがくびきつて、や
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とおぼえさふらふ。とうとうめされさふらへとて、そうもんのまへのなぎさにいくらもつけならべたるふねどもに、
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されけり。おほいとのふしは一つふねにぞのりたまふ。そのほかのひとびとは、おもひおもひにとりのつ
て、あるひは一ちやうばかり、七八だん五六だんなんど、こぎだしたるところに、げんじのつはものどもひたかぶと七
八十き、そうもんのまへのなぎさに、つうとぞうちいでたる。しほひかたの、をりふししほひたるさかりなり
ければ、うまのからすがしら、むながひつくし、ふとばらにたつところもあり。それよりあさきところもあり。けあ
ぐるしほのかすみとともにしぐろうたるなかより、しらはたさつとさしあげたれば、へいけはうんつきて、
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うちむれうちむれいできたる。
はうぐわんそのひのしやうぞくには、あかぢのにしきにひたたれに、むらさきすそごのよろひきて、くはがたちうつたるかぶとのを
をしめ、こがねづくりのたちをはき、二十四さいたるきりふのやおひ、しげとうのゆみもつて、くろき
うまのふたうたくましき、きんふくりんのくらをおいてのりたまひたりけるが、おきのかたをにらまへあぶみふん
ばりたちあがり、だいおんじやうをあげて、一ゐんのおんつかひけんびゐし五ゐのじやうみなもとのよしつねぞやとたか
らかにこそなのられけれ。ついでな乗るはいづのくにのぢうにん、たしろのくわんじやのぶつな、むさしのくに
のぢうにんかねこの十らういへただ、おなじきよいちちかのり、いせの三らうよしもりとこそ、なのつたれ。つぎに
なのるは、ごとうひやうゑさねもと、しそくしんべやうゑのじようもときよ、あうしうのさとう三らうびうゑつぎのぶ、おなじき四
らうひやうゑただのぶ、えだのげんざう、くまゐのたらう、むさしのばうべんけいなどいふ、一にんたうぜんのつはものども、こゑごゑ
にのつてはせきたる。へいけのかたにはこれをみて、ただいとれやいとれとて、あるひはとほやに
いるふねもあり。あるひにさしやにいるふねもあり。さしせめひきせめさんざんにいけれども、げんじのかた
のつはものども、これをことともせず、ゆんでになしてはいてとほり、めてになしてはいてとほる。
あげおいたるふねどものかげを、うまやすめどころとして、をめきさけんでせめたたかふ。
なかにもごとうひやうゑさねもとは、ふるつはものにてありければ、いそのいくさをばせず、まづだいりへみだれ
いり、てんでにひをはなつて、へんじのけふりとやきはらふ。おほいとの、さふらひをめして、げんじのせいは
いかほどあるぞととひたまへば、七八きにはよもすぎさふらはじ。あなこころうや、そのせいならば、
かみのすぢを一すぢづつわけてとるとも、たるまじかりつるものを、なかにとりこめてうたず
して、あわててふねにのつて、だいりをやかせぬることこそくちをしけれ。のとどのはおはせ
ぬか、くがにあがつて一いくさしたまへかしとのたへば、うけたまはりさふらふとて、ゑつちうのじらうひやうゑもりつぎかづ
さの五らうひやうゑただみつ、あく七びやうゑかげきよをさきとして、二百よさうのひやうせんにのりつれてこぎきたり、
やきはらひたるそうもんのまへのみぎはにおしよせてぢんをとる。はうぐわんも七八十き、やごろによせてひか
へたり。へいけのかたよりゑつちうのじらうびやうゑもりつぎ、ふねのやかたにすすみいで、だいおんじやうをあげて、
いぜんになのりたまふとはききつれども、かいじやうはるかにへだつて、そのけみやうじつみやうぶんみやうならず
けふのげんじのたいしやうぐんをばたれびとといふぞ、なのりたまへといひければ、いせの三らうよしもりあゆ
ませよせて、あなこともおろかや、せいわてんのうに十だいのこういん、かまくらのどののおとうと、九らうだいふのはう
ぐわんどのぞかし。もりつぎきいて、さることあり、ひととせへいぢのかつせんに、ちちうたせみなしごにておは
せしが、くらまのちごして、のちにはかねあきしどのしよじうとなつて、らうれうせおうておうしうのかたへおち
まどひし、そのこくわんじやがことかとぞいひける。よしもりきいてしたのやはらかなるままに、きみのおんことな
まをしそ。さいふわじんどもこそ、ほくこくとなみやまのいくさにうちまけ、からきいのちいきつつ、ほくりくだう
にさまよひ、こつじきしてのぼつたる、そのひとかとぞいひける。もりつぎきいて、あんんでうきみのごおん
にあきみちて、なんのふそくあつてかこつじきをばすべき。さいふわひとどもこそ、いせのくにすず
かやまにてやまだちし、わがみもすぎ、しよじうもすぎけるとききしかと、いひければ、かねこの十
らうこれをきいて、せんないとのばらのざふごんかな。われもひともそらごといひつけて、ざふごんせんにたれかは
おとるべき。さてもこぞのはる、つのくに一のたににて、むさしさがみのわかとのばらのてなみのほどをばみ
てんものをといひければ、おとうとのよいち、かたはらにありけるが、いはせもはてず、十二そくみつぶ
せよつぴいてひやうとはなつ。すすんでたつたるじらうびやうゑがよろひのむねいたに、うらかくほどにぞ
たつたりける。さてこそたがひのことばたたかひはやみにけれ。のとどの、ふないくさはやうあるものぞとて、
よろひひたたれをばきたまはず、からまきぞめのこそでに、からあやおどしのよろひきて、いかものづくりのたちをはき二十
四さしたるたかうすべうのやおひ、しげとうのゆみをもちたまへり。わうじやう一のつよゆみせいびやうなりけれ
ば、のとどののやさきにまはるもの、一にんもいおとされずといふことなし。なかにもげんじのたい
しやうぐんげん九らうよしつねをただひとやにとはわらはれけれども、げんじのかたにもさきにこころえて、いせの三
らうよしもり、あうしうのさとう三らうびやうゑつぎのぶ、おなじき四らうぴやうゑただのぶ、えだのげん三、くまゐのたらう、む
さしばうべんけいなんどいふ、一にんたうぜんのつはものども、うまのかしらを一めんにならべて、たいしやうぐんのやおもてには
せふさがりければ、ちからおよびたまはず。のとどの、そこのきさふらへ、やおもてのざふにんばらとて、さしつめ
ひきつめさんざんにいたまへば、やにはによろひむしや十きばかりいおとさる。なかにもあうしうのさとう三らう
ぴやうゑつぎのぶは、まつさきにすすんでたたかひけるが、ゆんでのかたよりめてのわきへつといぬかれて、しば
しもたまらずうまよりさかさにどうとおつ。のとどののわらはに、きくわうまるといふだいぢからのがうのもの、もえぎ
にほひのはらまきをきて、おなじいろの三まいかぶとのををしめ、うちもののさやをはづいてつぎのぶがくびをとらん
ととんでかかる、ただのぶこれをみてあにがくびをとらせじと、十三ぞくみつぷせようつぴいて、ひや
うとはなつ。きくわうまるはくさずりのはづれをあなたへつといぬかれて、いぬゐにたふれぬ。のとどの
これをみたまひて、かたてきにくびをとらせじと、いそぎふねよりとんでおりひだんりのてにはゆみをもちなが
ら、みぎのてにてきくわうまるをつかんで、ふねへからりとなげいれたまふ。いたでなればやしににけ
り。このわらはとまをすは、ゑちぜんの三ゐみちもりのきやうのわらはなり。さるを三ゐうたれたまひてのち、の
とどのにぞつかはれける。しやうねん十八さいとぞきこえし。のとどのこのわらはをうたせて、あまりにあはれにおも
はれければ、そののちはいくさをもしたまはず。はうぐわんもつぎのぶをぢんのうしろへかつぎいれさせ、いそぎうま
よりとんでおり、てをとつて、いかがおぼゆる三らうぴやうゑとのたまへば、いきのしたにていまはかうと
おぼえさふらふ。おもひおくことはなきかとのたまへば、べつになにごとをかおもひおきさふらふべき。さ
はさふらへども、きみのみよにわたらせたまはんをみまゐらせずして、しにさふらふこそこころにかかり
さふらへ。ささふらはでは、ゆみやとるみのかたきのやにたつてしぬることは、かねてよりごするところでこ
そさふらへ。なかんづくあうしうのさとう三らうぴやうゑつぎのぶといひけんもの、げんぺいのかつせんのときさぬきのくにやしまの
いそにて、しゆのおんいのちにかはつてうたれたりなんど、まつだいまでのものがたりにまをされんこと、こん
じやうのめんぼく、めいどのおもひでにてこそさふらへとて、ひたよわりにぞよわりける。はうぐわんもあはれにおぼえて、
よろひのそでをぞぬらされける。ややあつて、もしこのへんにたつときそうやあるとて、たづねいだしておひ
のただいましにさふらふに、一にちぎやうかいて、とぶらひたまへとて、くろきうまのふとうたくましきに、よいくらお
いて、かのそうにぞたびにける。このうまは、はうぐわん五ゐのじようになられしとき、これをも五ゐに
なして、たいふぐろとよばれしうまなり、一のたにのうしろひよどりごこをも、このうまにてぞおとされける。
おとうとただのぶをはじめとして、これをみるさふらひども、この君のおんためにいのちをうしなはんことは、まつたくつゆちり
ほどもをしからずとぞまをしける。
さるほどに、あはさぬきにへいけをそむいて、げんじをまちけるつはものども、あそこのみね、ここの
ほらより、十四五き、二十き、うちつれうちつれはせきたるほどに、はうぐわんほどなく三百よきになり
たまひぬ。けふはひくれぬ、しようぶをけつすべからずとて、げんぺいたがひにひきしりぞくところに、ここにおき
のかたよりじんじやうにかざつたるこぶねを一さうみぎはへむかつてぞこがせける。なぎさ七八だんにもなりしかば、
ふねをよこさまになす。あれはいかにとみるところに、ふねのうちよりとしのよはひ十八九ばかんなるによう
ばうの、やなぎのいつつぎぬにくれなゐのはかまきたりけるが、みなくれなゐのあふぎのひいだいたるを、ふねのせがいにはさ
みたて、をかへむかひてぞまねきける。はうぐわんごとうぴやうゑさねもとをめして、あれはいかにとのたまへば、
いよとにこそさふらふめれ。ただしたいしやうぐんのやおもてにすすんで、けいせいをごらんぜられんところを、てだれ
にねらうていおとさんとのはかりごとこそぞんじさふらへ。さりながらあふぎをばいさせらるべうもやさふらふ
らん、とまをしければ、はうぐわんみかたにいつべきじんはたれかある、とのたまへば、じやうずどもおう
さふらふなかに、しもづけのくにのぢんにんなすのたらうすけたかがこに、よいちむねたかとてこひやうにてはさふらへども
てはきいてさふらふとまをす。はうぐわんしようこはいかにとのたまへば、さんさふらふ、かけとりなんどをあらそ
うて、三つに二つはかならずいおとしさふらふ、とまをしければ、はうぐわん、さらばよいちよべとてめさ
れけり。よいちそのころはいまだ二十ばかんのをのこなり。かちにあかぢのにしきをもつて、おほくび、はたそでい
ろひたるひたたれに、もえぎにほひのよろひきて、あしじろのたちをはき、二十四さしたるきりふのやおひ、
うすきりふにたかのはわりあはせてはいだりける、のためのかぶらやをぞさしそへたる。しげとうのゆみわきに
はさみ、かぶとをばぬいでたかひもにかけ、はうぐわんのおんまへにかしこまり。はうぐわん、いかによいち、あのあふぎ
のまんなかいて、かたきにけんぶつをせさせよかしとのたまへば、よいちつかまつるともぞんじさふらはず、あのあふぎ
いそんずるほどならば、ながきみかたのおんゆみやのきずにてさふらふべし、いちぢやうつかまつらうずるじんにあふせ
つけらるべくもやさふらふらんとまをしければ、はうぐわんおほきにいかつて、こんどかまくらをたつてさいこく
へおもむかんずるものどもは、みなよしつねがめいをばそむくべからず。それにすこしもしさいをぞんぜんとのばらは、
これよりとうとうかまくらへかへらるべしとぞのたまひける。よいちかさねてじせば、あしかりなんと
やおもひけん、ささふらはば、はづれんをばぞんじさふらはず、ごぢやうでさふらへば、つかまつりてこそ、みさふらは
めとて、おんまへをまかりたつ。くろきうまのふとうたくましきに、まるぼやすつたるきんぷくりんのくらをお
いてのつたりけるが、ゆみとりなほし、てづなかいくつて、みぎはへむかつてぞあゆませける。み
かたのつはものども、よいちがうしろをはるかにみおくつて、いちぢやうこのわかものつかまつるべうぞんじさふらふとまをしければ、
はうぐわんもたのもしげにぞみたまひける。やごろすこしとほかりければ、うみのおもて一だんばかりうちいり
たりけれども、いまだあふぎのあはひ、七だんばかりもあるらんとぞみえし。ころはにんぐわつ十八にち
とりのごくばかんのことなれば、をりふしきたかぜはげしくて、いそうつなみもたかかりけり。ふねはゆりあ
げ、ゆりすゑてただよへば、あふぎもくしにさだまらでひしめいたり。おきにはへいけ、ふねを一めんにならべ
てけんぶつす。をかにはげんじ、くつばみをならべてこれをみる。いづれもいづれもはれならずといふことなし。
よいちめをふさいで、なむ八まんだいぼさつ、べつしてわがくにのしんめい、につくわうのごんげん、うつのみやなす
のゆぜんだいみやうじん、ねがはくば、あのあふぎのまんなかいさせてたまはせたまへ。これをいそんずるほどなら
ば、ゆみきりをりじがいして、ひとにふたたびおもてをむかふべからず。いま一どほんごくへかへさんとおぼしめ
さば、このやはづさせたまふなと、こころのうちにきねんして、めをみひらいたれば、かぜもすこしふき
よわつて、あふぎもいよげにこそなりにけれ。よいちかぶらやをとつてつがひ、ようつぴてひやうと
はなつ。こひやうといふでう、十二そく三ぶせ、ゆみはつよし、かぶらやはうらひびくほどに、ながなりして、あやま
たずあふぎのかなめぎは一すんばかりおいて、ひいふつとぞいきりたる。かぶらやはうみにいりければ、
あふぎはそらへぞあがりける。はるかぜに一もみ二もみもまれてうみへさつとぞちつたつたりける。みなくれなゐ
のあふぎのひいでたるが、ゆふひにかがやいて、しらなみのうへにうきぬしづみぬゆられけるを。をきにはへい
け、ふなばたをたたいてかんじたり。をかにはげんじ、ゑびらをたたいてどよめきけり。
かんにたへずとおぼしくて、ふねのうちより、としのよはひ五十ばかんなるをのこの、くろいとおどしのよろひき
たるが、しらつかのなぎなたつゑにつき、あふぎたてたるところにたつてまひしめたり。いせの三らうよしもり、
よいちがうしろにあゆませよつて、ごぢやうであるぞ、これをもまたつかまつれといひければ、よいちこんどは
なかざしをとつてつがひ、まひすましたるをのこの、まつただなかをひやうばつといて、ふなそこへまつさかさまに
いたふす。ああいたりといふものもあり、いやいやなさけなしといふものもおほかりけり。へいけの
かたには、おともせず。げんじはまたゑびらをたたいてどよめきけり。へいけこれをほいなしとやおもひけ
ん、たてついて一にん、ゆみもつて一にん、なぎなたもつて一にん、むしや三にんなぎさにあがり、げんじここ
をよせよやとぞまねきける。はうぐわんやすからぬことなり、うまづよならんわかたうども、はせよつて
けつらせとのたまへば、うけたまはりさふらふとてむさしのくにのぢうにんみをのやの十らう、おなじき五らう、おなじ
き藤じち、かうづけのくにのぢうにんにふの四らう、みののくにのぢうにんきそのちうじ、五きつれてをめい
でかく。まづたてのかげより、ぬりのに、くろほろはいだるだいのやをもつて、みをのやの十らう
が、うまのひだりのむながひづくしに、はずのかくるるほどにぞいこしたる。べうぷをかへすやうに、うまは
どうとたふるれば、ぬしはゆんでのあしをこえ、めてのかたにおりたつて、やがてたちをぞぬい
たりける。またたてのかげより、しらつかのおほなぎなたうちふるつてかかりければ、みをのやの十らう、
こたち、おほなぎなたにかなはじとやおもひけん、かひふいてにげければ、やがてつづいておつかけ
たり。なぎなたにてながんずるかとみるところに、さはなくしてなぎなたをばゆみてのわきにかいはさみ、
めてのてをさしのべて、みをのやの十らうが、かぶとのしころをつかまうどす。つかまれじとにぐ、
三どつかみはづいて、四どのたびむんずとつかむ。しばしぞたまつてみえし。はちつけのいたより、
ふつとひつきつてぞのきにける。のこり四きはうまををしうでかけず、けんぶつしてぞゐたりける。
みをのやの十らうは、みかたのおうまのかげににげいつて、いきづきゐたり。かたきはおうてもこず。
しらつかのなぎなたにかぶとのしころをたかくさしあげ、だいおんじやうをあげて、これこそきやうわらべのよぶなるかづさのあく
七びやうゑかげきよよとなのりすててぞのきにける。へいけこれにすこしここちをなほいて、あく七びやうゑ
うたすな、ものども、かげきようたすな、つづけやとて、二百よにんなぎさにあがり、たてをめんどりばにつ
きならべ、げんじこをよせよやとぞまねきたる。はうぐわんいざさらばけちらさんとていせの三らう
をまへにあて、たしろのくわんじやをうしろになして、ごとうびやうゑふしかねこきやうだいをゆんでめてになし、そ
のせい八十よき、をめいてさきをかけたまへば、へいけのかたにはうまにのつたるせいはすくなし、おほ
かたかちむしやなりければ、うまにあてらじとやおもひけん、ひきしりぞき、ふねにぞのりにける。
たてはさんをちらいたるやうに、さんさんにかけなされ。げんじかちにのつて、うまのふとばらつかるるほど
に、うちいれうちいれたたかひけり。ふねのうちよりくまでなぎかまをもちて、はうぐわんのかぶとのしころにからり
からりと、うちたてうちたて二三どしけれども、みかたのつはものども、たちなぎなたのさきにて、うち
はらひはらひたたかひけり。はうぐわんいかはしたまひたりけん、ゆみをばかけおとさぬ。うつぶし、むち
をもつてかきよせ、とらんとらんとしたまへば、みかたのつはものども、ただすてさせたまへたまへとまを
しけれども。つひにとつて、わらひてぞかへられける。おとなどもはみなつまはぢきをして、たとへ千びき
まんびきにかへさせたまふべき、おんだらしなりとまをすとも、いかでかおんいのちにはかへさせたまふ
べきかとくちぐちにまをしければ、はうぐわん、ゆみのをしきにもとらばこそ、よしつねがゆみといはば、
二にんしてもはり、もしは三にんしてもはり、をぢためともなんどがゆみのやうならば、わざと
もおとしてとらすべし。わうじやくたるゆみをかたきのとりもつて、これこそげんじのたいしやうぐんげん九らうよしつね
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またこれをぞかんじける。一にちたたかひくらし、よにいりければ、へいけのふねはおきにうかび、げんじはをか
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この三かがあひだはねざりけり。おととひわたなべふくしまをいで、よもすがらおほなみにゆられてまどろまず。
きのふあはのくにかつうらについていくさし、よもすがらやまなかこえ、けふまた一にちたたかひくらしたりけれ
ば、うまもひともみなつかれはてて、あるいはかぶとをまくらにし、あるひはよろひのそでゑびらなんどをまくらとして、ぜんご
もしらずぞふしにける。されどもそがなかに、はうぐわんといせの三らうはねざりけり。はうぐわんは
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よせば、まづうまのふとばらいんとてまちかけたり。へいけのかたには、のとどのをたいしやうぐんとして
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そのよもむなしうあけにけり。よせたりせば、げんじなじかはたまるべき。よせざりける
こそ、せめてのうんのきはめなれ。
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て、千よにんなげさにあがり。げんじをなかにとりこめてわれうちとらんとぞすすみける。さるほどに
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いで、そればんどうむしやは、うまのうへにてこそくちはききさふらへども、ふないくさはいつてうれんしさふらふべ
き。たとへば、ただうどのきにのぼつたるでこそさふらはんずらめ。いちいちにとつてうみへいれなんもの
をとまをしける。ゑつちうのじらうびやうゑすすみいで、おなじうはたいしやうのげん九らうとくんだまへかし、
九らうはせいのちいさう、いろしろう、むかばのすこしさしあらはれたるが、とくにしろかんなるぞ。ただしよろひ
とひたたれをつねにきかふなれば、きつとみわけかたかんなりとぞまをしける。あく七びやうゑかさねて、
なんでうそのこくわんじやこころこそたけくとも、なにほどのことのあるべき。しやかたわきにはさんで、うみへつ
けなんものをとぞまをしける。しんぢうなごんとももりのきやうは、かやうにげちしたまひてのち、おほいとの
おんふねへまゐらつさせたまひて、みかたのつはものどもけふはようみえさふらふ。ただしあはのみんぶしげよし
ばかりこそ、こころがはりしたるとおぼえさふらへ、かうべをはねさふらはばやとまをしされければ、おほいとのさ
しもほうこうのものにてあるものを、あはのみんぶしげよしは、いかでかかうべをばはねらるべき、しげ
よしよべとてめされけり。しげよしはむくらんぢのひたたれに、あらはがはのよろひきて、おんまへにかしこまつてぞさふらひけ
る。おほいどの、しげよしか、さんざふらふ、四こくのものどもに、いくさようせよとげちせよ、けふはあし
くみゆるは、おくしたんなとのたまへば、なんでうおくしさふらふべきとて、おんまへをまかりたつ。しんぢうな
ごんは、につくいやつめがかうべうちおとさばやとたちのつかくだけよとにぎつて、おほいとののおんかたを、しきり
にみまゐらつさせたまへども、おんゆるされなければ、ちからおよびたまはず。さるほどに、へいけは千よさう
を三てにつくる。まづやまがのひやうとうじひでとほ、五百よさうでせんぢんにこぎむかふ。まつらたう、三百
よさうで二ぢうにつづく、へいけのきんだち、二百よさうでごぢんにひかへたまへり。なかにもやまがのひやうとう
じひでとほは、九ごくいちのつよゆみせいびやうなりければ、われほどこそなけれども、ふつうざまのせいひやう五百にんすぐ
つてふねぶねのともへさきにたて、かたを一めんにならべて、五百のやを一どにはなつ。げんじのかたにも三
千よさうのふねなりければ、さこそはせいのかずおほかりけめども、あそこここよりいけるほどに、
いづくにもつはものありともみえざりけり。なかにもげんじのたいしやうぐんげん九らうよしつねは、まつさきに
すすみてたたかひけるが、たてもよろひもこらへずして、さんざんにいしらまさる。へいけみかたかちぬと
てしきりにせめ、つづみをうつて、よころびのときをどつとぞつくりける。
げんじのかたには、わだのこたらうたひらのよしもり、ふねにはのらず、うまにうちのり、あぶみのはなふみそら
し、うまのふとはらつぶるるほどにうちいれてたたかひけるが、三ちやうがうちそとのものをばはづさずつよういけり。なか
にもことにとほくいたりとおぼしきやをば、あふぎをあげて、そのやたまはらんとぞまねきける。しんちうな
ごんとももりのきやう、このやをぬかせてみたまへば、しらのにつるのもとじろ、こうのは、わりあはせて、はいけた
るやの、十三ぞく三つぶせありけるに、くつまきより一そくばかりおいて、さがみのくにのぢうにんわだの
こたらうたひらのよしもりと、うるしにてぞかきつけたる。へいけのかたにもせいびやうおほしといへども、さすが
とほやいるじんやなかりけん、ややあつて、いせのくにのぢうにんにゐのき四らうちかきよ、たまはつてこれを
いかへす。これも三ちやうよを、つといわたして、わだがうしろ一だんばかりにひかへたる三うらのすけざこの
たらうがゆんでのかなひにしたたかにこそたつたりけれ。みうらのひとどもよりあひて、あなにつく
や、わだのこたらうが、われほどのつよゆみなしとこころえて、はぢかきぬるをかしさよとぞわらひける。よし
もりやすからずやおもひけん、こんどは、こぶねにのつて、こぎいださせ、へいけのせいのなかを、さしつめ
ひきつめ、さんざんにいければ、ものどもおほくておひいころさる。ややあつて、またおきのかたより、はう
ぐわんののりたまひたるふねのへさきに、しらののおほやをひとついたて、これもわだがやうに、そのやたまは
らんとまねぎける。はうぐわん、このやをぬかせてみたまへば、しらのにやまどりのををもつてはいだり
けるやの、十四そく三つぷせありけるに、くつまきよりいつそくばかりおいて、いせのくにのぢうにんに
ゐのき四らうちかきよと、うるしにてぞかいつけたる。はうぐわん、このやみかたにいつべきじんはたれかある
とのたまへば、じやうずともおほうさふらなかに、かひのげんじにあさりのよいちどのこそせいびやうのてききにてはさふら
へとまをしければ、はうぐわん、さらばよいちよべとてめされけり。あさりのよいちいできたり。はう
ぐわんこのやただいまおきよりいてさふらふが、わだがやうに、そのやたまはらんとまねぎさふらふ。ごへん
いられさふらひなんやとのたまへば、たまはつてみさふらはんとて、とつてつまゆつて、これはのがようさふら
ふ。やたばもすこしみじうさふらへば、おなじうはよしなりがぐそくにてつかまつりさらふはんとて、ぬりのにくろぼろ
はいだりけるやの、わがおほてにおしにぎつて、十五そく三つぶせありけるを、ぬりごめどうのゆみの九
しやくばかりありけるに、とつてつがひよつぴいてひやうとはなつ。これも四ちやうよを、つといわた
して、おほぶねのともにたつたるにゐのき四らうちかきよが、まつただなかをひやうつばといて、ふなそこへ
まつさかうまにいたふす。もとよりこのあさりのよいちは、せいびやうのてききにて、二ちやうがうちをはしるしかをば
はづさずつよういけり。さるほどにげんぺいのつはものども、たがひにおもてもふらず、いのちもをしまずせめたたかふ。さ
れども、へいけのおんかたには、十ぜんていわう、三じゆのしんきをたいしてわたらせたまへば、げんじいかん
かあらんずらんとあやううおもふところに、しばしははくうんかとおぼしくて、こくうにただよひけるが、くもに
てはなかりけり。ぬしもなきしらはた一りうまひさがつて、げんじのふねのへさきに、さをつけのをのさは
るほどにぞみえたりける。
『はうぐわん、これはだいぼさつのおんぱからひなりとて、かぶとをぬぎてうずうがひして、はいしたまひけん、こころ
のうちこそたのもしけれ。ややあつてまたおきのかたよりいるかといふうを一ニ千はうで、へいけのふねの
かたへぞむかひける。おほいとの、こはかせはれのぶをめして、いるかはつねにおほけれども、いまだかやうの
ことなし。きつとかんがへまをせとのたまへば、かしこまりうけたまはつて、このいるか、みかへりさふらふはば、げんじほろびさふら
ひなんず。またすぐにとほりさふらはば、みかたのおんくさあやうおぼえさふらふ、とまをしもはてぬに、はやへいけ
のふねのしたをすぐに、はうてぞとほりける。よのなかのありまさは、今はかうとぞみえし、』さるほどに
あはのみんぶしげよしは、しそく、でんないざゑもんのりよしをいけどりにせられて、いまはかなはじとやおもひけ
ん、かぶとをぬぎゆみのつるをはづいてかうにんにこそなりにけれ。しんぢうなごんとももりのきやう、にくからむ
しげよしめを、きつてすてつべかりつるものをと、こうくわいせられけれどもかひぞなき。さるほどにへい
けのかたのはかりごとには、よきむしやをばひやうせんにのせ、ざうにんばらをばたうせんにのせて、げんじこころにく
さに、たうせんをせめば、なかにのりこめてうたんと、したくせられたりしかども、しげよしがかへり
ちうのうへは、たうせんにはめもかけず、たいしやうぐんのやつしのりたまふひやうせんをこそせめたりけれ。そ
ののちは、四こくちんぜいのつはものどもみなへいけをそむいてげんじにつく、いままでしたがひつきたてまつりし
かども、きみにむかつてゆみをひき、しゆにたいしてたちをぬく。さればかのきしにかかんとすれ
ば、なみたかうしてかなひがたし、このみぎはによらんとすれば、かたきやさきをそろへてまちかけた
り。げんぺいのくにあらそひ、けふをかぎりとぞみえし。さるほどに、げんじのつはものども、へいけのふねにのりうつ
りければ、かこかんどりども、あるひはいころされ、あるひはきりころされて、ふねをなほすにおよばず、
ふなそこにみなたふれふしにけり。しんぢうなごんとももりのきやう、いそぎごしよのおんふねにまゐらつさせたまひて、
このよのなかのありさま、さりともとこそぞんぜしか、いまはかうにこそさふらめふれ。みぐるしきもの
どもをば、うみへいれて、ふねのさうぢめされさふらへとて、はきぬぐひちりひろはせ、ともへさきにはしりまは
つててづからさうぢしたまひけり。にようばうだちは、さしつどひて、いかにや、ちうじやうごんどの、いくさの
やうはいかがにやいかがにととひたまへば、たんだいまにめづらしきあづまをとこをこそ、おらんぜられさふらは
んずらめとて、からからとわらはれければ、にようばうたち、なんでうただいまのたはぶれぞやとて、を
めきさけびたまひけり。二ゐどのは、ひごろよりおもひまうけたまへることなれば、にぶいろのふたつぎぬうち
かづき、ぬりはかまのそばたかくとつて、しんじをわきにはさみほうけんをこしにさいて、われはをんななりと
も、かたきのてにはかかるまじ、しゆしやうのおんともにまゐるなり。きみにおんこころざしおもひまゐらせんひとびとは、
いそぎつづきたまへやとて、しづしづとふなばたへぞあゆみいでられける。しゆしやうはこんねし、八さいになら
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ばかんなり。おんぐしくろうゆらゆらと、おせなかすぎさせおはします。あきれたるおんありさまに
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ののちにしにむかはせたまひて、ざいはうじやうどのらいがうにあづらんと、ちかはせおはしませ。このくにはそくさん
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ちいさううつくしきおんてをあはせて、まづひんがしにむかはせたまひて、いせだいじんぐうをふしをがみおはしまし
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もりこう、ないだいじんになつてよろこびまをしのありしとき、くぎやうにはくわざんゐんのちうなごんかねよしのきやうをはじめ
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のひきでものたまうでいだされたりしには、またたちならぶひともなかりしぞかし。けふはげつきやううんかく一
にんもぐぶせられず。おなじうだんのうらにて、いけどりにせられたりし二十よにんのさぶらひどもも、みな
しろきひたたれにて、くらもまへわにしめけてぞわたされける。六でうをひんがしへかはらまでわたし
て、それよりかへつて、はうぐわんのしゆくしよ、六でうほりかはなるところにすゑたてまつつて。きびしうしうごしたてまつる。
おんものまゐらせけれども、むねせきふさがつて、おはしをだにもたてられず、おほいとのはよるになれど
も、つゆまどろみたまはず。そでかたしきてふしたまひたりけるが、おんこうゑもんのかみに、おんじやう
いのそでをうちきせたまへるを、げん八ひろつなみたてまつつて、あはれ、たかきもいやしきも、おんあいの
みちほどかなしかりけることはなし。おんじやういのそでをうちきせたまひたればとて、なにほどのことか
おはすべき。せめてのおんこころざしのふかきかなとて、みなよろひのそでをぞぬらしける。
へいだいなごんときただのきやうも、はうぐわんのしゆくしよちかうおはしけるが、しそくさぬきのちうじやうときざねをまねい
で、ちらすまじきふみども、ひとはこはうぐわんにとられてあるぞとよ、これをかまくらのげん二ゐにみせ
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らうはたけきもののふなれども、にようばうなんどのうつたへまをすことをば、もてはなれずとこそうけたまははれ。
夫れにひめぎみたちあまたましましさふらへば、いづれにても、ごいつしよみせさせおはしまし、したしう
ならせたまひてのち、さてかのふみのことをばのたまひいださるべきもやさふらふらんと、まをされければ、
そのときだいなごん、なみだをはらはらとながいて、さりともわれよにありしときは、ひめどもをばみなにようごきさき
にたてんとこそおもひしか、なみなみのひとにみすべしとは、たれかおもひよりしぞやとて、な
かれければ、さぬきのちうじやうまをされけるは、いまだゆめゆめおぼしめすべからずとて、ちうじやうの
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にいとほしきことにおもはれければ、さきのはらのひめぎみのしやうねん二十二になりたまふをぞ、はうぐわんには
みせられける。これはとしこそすこしおとなしけれども、みめかたちよにすぐれ、こころざまにいうにおはし
ければ、はうぐわんもなのめならずうれしきことにして、さきのうへのかはごえのこたらうしげふさがむすめもありけれど
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りければ、あめがしたのひとはみな九らうたいふのはうぐわんほどのひとぞなき。かまくらのげん二ゐなにごとをかしいだ
したる、よはひたすらはうぐわんのままにてあらばや、なんどいふことを、げん二ゐもれききたまひて、
これはよりともがよくはからひて、さきにうつてをつかはしたればこそ、へいけはたやすうほろびたれ。九
らうばかりでは、いかでか、たやすうほろぶべき。ひとのかくいふにつていをごることしかるべ
からず、それにひとしもこそおほけれ、へいだいなごんのむこになつて、だいなごんもちてあつかふらんも
うけられず、だいなごんまたむことりしかるべからず、これへくだつても、さだめてくわぷんのふるまひをせんず
らんとぞのたまひける。』
げんりやく二ねん五ぐわつむゆかのひ、九らうたいふのはうぐわんよしつね、おほいとのふしぐそくしたてまつて、くわんとうへくだ
らるべきにさだまりしかば、おはいとのはうぐわんのもとへししやをたてて、みやうにちくわんとうげかうのよしきこえさふらふ。
それにつきさふらひては、いけどりのうちに、八さいのわらはとつけられまゐらせてさふらふは、いまだうきよ
にさふらふやらん、たまはつていまいちどみさふらはばやと、のたまひつかはされたりければ、はうぐわんのへんじ
に、たれとてもおんあいのみちは、おもひきられぬことにてさふらへば、まことにさこそおぼしめされさふらは
めとて、かはごえのこたらうしげふさがもとに、あづけおきたてまつたりけるわかぎみを、いそぎおほいとのもとへ
ぐそくしたてまつるべきよし、のたまひつかはされたりければ、かはごえ、ひとのくるまかつてうちのせたてまつる、二にんの
にようばうともも、ともにのつてぞいでにける。わかぎみはちちをはるかにみまゐらつさせたまはねば、よにも
おんなつかしげにてぞましましける。おほいとの、わかぎみをみたまひて、いかにやふくしやうこれへとのたまへば、
いそぎちちのおんひざのうへへぞまゐられける。おほいとの、わかぎみのかみかきなで、なみだをはらはらとながい
て、これききたまへおのおの、このこは、ははもなきものにてあるぞとよ。このこがははは、これ
れうむとて、さんをばたひらかにしたりしかども、やがてうちふしなやみしが、なぬかといふに
はかなくなつてあるぞとよ。もしこののちいかなるひとのはらにきんだちをまうけたまふとも、これをば
おぼしめしすてずして、わらはがかたみにごらんぜよ。あひかまへてめのとなんどのもとへもつかはすな、
とこそいひしか、てうてきをたひらけんとき、あのうゑもんのかみには、たいしやうぐんをせさせ、これにはふく
しやうぐんをせさせんずればとて、なをふくしやうとつけたりしかば、なのめならずうれしげにて、すDねい
かぎりのときまでも、なをいひなんどしてあいせしが、なぬかといふに、つひにはかなくなり
てあるぞとよ。このこをみるたびごとには、そのことがわれれがたくおぼゆるぞやとて、なかれけれ
ば、しうごのぶしどもも、みなよろひのそでをぞぬらしける。うゑもんかみもなきたまへば、めのともそで
をぞしぽりける。ややあつておほいとの、いかにやふくしやうよ、はやとうかへれとのたまへども、わかぎみ
かへりたまはず。うゑもんのかみこれをみたまひて、いかにやふくしやうごぜんこよひはとうかへれ、たんだいま
まらうとのきたらんずるに、あしたはいそぎまゐれとのたまへども、ちちのごじやういのそでにひしととりついて、
いなやかへらじとこそなかれけれ。かくてはるかにほどふれば、ひもやうやうくれかかりぬ。さて
しもあるべきことならねば、めのとのにようばういだきとつて、つひにくるまにのせたてまつる。二にんのにようばう
ども、ともにのつてぞいでにける。おほいとのわかぎみのおんあとをはるかにごらんじおくつて、ひごろのこひし
さは、このかずならずとぞ、かなしひたまひける。このこは、ははのゆいごんがむざんさにさしはなつて、
めのとなんどのもとへもつかはさず、あさゆふおんまへにてそだてたまふ、三さいにてうひかうぶりして、よしむねとぞな
のらせける。やうやうおひだちたまふほどに、みめかたちよにすぐれ、こごろさまいうにおはしけれ
ば、おほいとのもなのめならず、うれしきことにおぼして、さればさいかいのなみのうへ、ふねのうちまでもひ
きぐして、かたときもはなれたまはず。しかるをいくさやぶれてのちは、けふぞたがひにみたまひける。しげふさはう
ぐわんにまをしけるは、そもそもわかぎみのおんことをばなんとはからひさふらふやらんとまをしければ、かまくらまでぐ
そくしたてまつるにおよばず。なんぢこれにてともかくもよきやうにあひはからへとぞのたまひける。かしこまりうけたまはつて
しゆくしよにかへり、二にんのにようばうどもにいひけるは、おほいとのは、みやうにちくわんとうへおんげかうさふらふあひだ、わか
ぎみをばきやうとにとどめおきまゐらせて、をかたのさぶらうこれよしがてへわたしたてまつらるべし。とうとう
めされさふらへとて、おんくるまをよせたりければ、わかぎみなにごころなうぞめされける。二にんのにようばうども
またのつてぞいでにける。わかぎみはまたさきのやうに、ちちごぜんのおんもとへかとうれしげにおぼしたる
こといとをしけれ。六でうをひんがしへ、かはらまでやつてゆく。あはれこれはあやしきものかなと、
きもたましひをけしてみるにところに、ややあつて、つはものども五六きがほど、かはらなかへうつていでた
り。やがてくるまをやりとどめ、わかぎみおりさせたまへとて、しきがはしきてすゑたてまつる。あきれたるおん
ありさまにて、そもそもわれをばいづちへぐしてゆかんとはするぞとのたまへば、二にんのにようばうどもなみだ
のむせび、うつぷしてしばしはとかうのおんぺんじにもおよばず、こゑをはかりにをめきさけぶ。しげ
ふさがらうどうたちをひきそばめ、ひだんのかたよりわかぎみのおんうしろにたちまはり、すでにきりたてまつらんと
しけるを、わかぎみみつけたまひて、いかほどのがるべきことのやうに、いそぎて、めのとのふところのうちへに
げいらせたまひける。二にんのにようばうどもわかぎみをいだきまゐらせて、ただわれわれをうしなひたまへとて、てん
にあふぎちにふして、なきかなしめどもかひぞなき。ややあつてしげふさなみだをおさへてまをしけるは、
いまはいかにもかなはせたまふべからすとて、いそぎめのとのふところのうちより、わかぎみひきいだしまゐらせ、
こしのかたなにておしふせて、つひにおんくびをぞかいてんげる。くびをばはうぐわんにみせんとて、とつ
てゆく。二にんのにようばうどもかちはだしにておひつき、なにかくるしうさぶらふべき、おんくびをたまはつて、
けうやうしまゐらせさふらはんとまをしければ、はうぐわんなさけあるひとにて、もつともさるべし。とうとうとてた
びにけり。二にんのにようばうども、なのめならずよろこび、これをとつてふところにひきいれて、きやうのかたへ
かへるとみえし。そののち五六にちして、かつらがはににようばう二にん、みをなげたりといふことありけ
り。いちにん、をさなきひとのくびをいだいてしづみたりしは、このわかぎみのめのとのにようばうにてぞあり
ける。いまいちにんむくろをいだいてしづみたりしは、かいしやくのにようばうなり。めのとのがおもひきるは、せめめて
いかがせん。かいしやくのにようばうさへみをなげけるこそあはれなれ。
げんりやく二ねん五ぐわつなぬかのひ、九らうだいふのはうぐわんよしつね、おほいとのふしぐそくしたてまつつて、すでにみやこを
たちたまふ。あはだぐちにもかかりたまへば、おほうちやまはくもゐのよそにへだたりぬ。せきのしみづをみたま
ひて、おほいとのなくなくえいじたまひけり。
みやこをばけふをかぎりのせきみづにまたあふさかのかげやうつさん
みちすがらもこころぼそげにおはしければ、はうぐわんなさけあるひとにて、やうやうにいたはりなぐさめたてまつりたま
ふ。おほいとのあはれいかにもして、こんどのいのちをたすけてたべとぞのたまひける。はうぐわんささふらへばとて、
おんいのちうしなひたてまつるまでのことはよもさふらはじ。たとひささふらふとも、よしつねかうでさふらへば、こんどの
くんこうのしやうにまをしかへて、おんいのちばかりをばたすけたてまつらん。さりながらも、とほきくにはるかのしまへ
もうつしぞやりまゐらせんずらん、とまをされたりければ、おほいとの、たとへえぞがちしまなりと
も、いのちだにあらば、とのたまひけるこそくちをしけれ。おなじき二十三にち、はうぐわん、かまくらへくだり
つきたまひたりしかば、かぢはらへいざかげとき、はうぐわんにさきだつて、かまくらどのにまをしけるは、いまはにつほん
ごく、のこるところもなく、したがひつきたてまつつてさふらふ。さはさふらへども、おんおとうと、九らうたいふのはうぐわんどのこ
そ、つひのおんかたきとは、みえさせたまひてさふらへ。そのゆゑは、一をもつてばんをさつすとて、一のたにを
うへのやまよりおとさずば、とうざいのきどぐちやぶれがたし。さればいきどりをもしにどりをも、みなよしつね
にこそみすべきに、もののようにもあひたまはぬ、かばどののげんざんにいるべきやうやある。ほん三
みのちうじやうどのを、いそぎこれへたびさふらへ、たばずばよしつねまゐつてたまはらんとて、すでにこといでこ
んとしさふらひしをも、かけときがよくはからひて、どひにこころをあはせて、ほん三みのちうじやうどのを、どひ
のじらうさねひらにあづけおきたてまつてこそ、よはしづまつてさふらへとまをしければ、かまくらどのおほきにうち
うなづいて、九らうがけふこれへいるなる、おのおのよういしたまへとのたまへば、はちかごくのだいみやうせうみやうは
せあつまつて、ほどなくす千きにこそなりたまへ。かまくらどのはぐんびやう七へ八へにすゑおき、わがみは
そのうちにおはしながら、九らうはすすどきをとこなれば、このたたみのしたよりもはひいでんずるものな
り。されどもよりともはせらるまじとぞのたまひける。かねあらひざはにせきすゑさせ、おほいとのふしこひう
とりたてまつて、それよりはうぐわんをば、こしごえへおひかへさる。はうぐわん、こはさればなにごとぞや。こぞ
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にあるときは、ををうごしてじきをものむとて、たけきとらのしんざんにあるとき、もものけだものおぢおそると
いへども、とつてをりのなかにこめられてのちは、ををふつてひとにむかふらんがやうに、このおほいとの
もこころたけきたいしやうぐんなれども、うんつきかくなつてのちは、かやうのこともおはするにこそと、まを
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かまくらどのもちひたまはず。六ぐわつ九かのひ九らうたいふのはうぐわんよしつねまたおほいどのふしぐしたてまつつてみやこへかへ
りのぼりたまふ。おほいどのは、いま一じつもひかずののぶることを、うれしきことにぞおもはれける。くに
ぐにしゆくじゆくうちすぎうちすぎのぼるほどに、をはりのくにうつみのといふところあり。これはひととせこさまのかみよしとも
がちうせられしところなれば、ここにてぞいちぢやうきられんずらん、とおもはれけれども、そこを
もすぎしかば、さてはわがいのちのたすからんずるにこそとうれしげにおぼしたるこそいとほしけれ。
うゑもんのすけはさはおもひたまはず、かやうにあつきころなれば、くびのそんぜぬやうにはからひて、みやこ
ちかうなつてこそきらんずらめ、とおもはれけれども、ちちのなげきたまふがいたはしさに、さ
はまをされず。ひとへにただねんぶつをのみぞすすめまをされける。おなじき二十三にちあふみのくにしのはらの
しゆくにつきたまひたりしかば、はうぐわんなさけあるひとにて、三かぢよりひとをさきたてて、ぜんちしき
のたまにとて、おほはらのほんしやうばうたんがうとまをすひじりをせうじくだされたり。きのふまでは、おやこ一つ
ところにおはせしかども、けさよりはひきわかしたてまつてところどころにすゑたてまつる。おほいとのぜんちしきのひじり
にむかつてのたまひけるは、そもそもうゑもんのすけは、いまだうきよにさふらふやらん。たとへくびをこ
そはねらるるとも、むくろは一つむしろにふせんとこそちぎりしか、この十七ねんがあひだひとひかたときも
みをはなたず、きやうかまくらはぢをさらすも、あのうゑもんのすけゆゑなりとて、なかれければ、みじりもあはれ
におもはれけれども、われさへこころよわうては、かなはじとやんおもはれけん、なみだおしのこひ、さらぬ
ていにもてなし、たれとてもおんあいのみちはおもひきられぬことにてさふらへば、まことにさこそおぼしめされ
さふらはめ、むかしもためしなし、みかどのごぐわいせきにて、じようさうのくらゐにいたらせたまひぬ、いままたかかるおんめに
あはせたまふことも、ただぜんせのしゆくごふなれば、よをもひとをも、かみをもほとけをも、うらみおぼしめす
べからず。だいぼんわうきうのしんぜんぢやうのたのしみ、おもへばほどなし。いはんやでんくわうてうろのげかいのいのちにおい
てをや、とうりてんのおくせんざいただゆめのごとし。三十九ねんをたもたせたまひけんも、わづかに一じのあはひな
り。たれかなめたりしふらうふしのくすり、たれかたもちたりけんとうぶさいぼがいのち、しんのしくわうのをごりを
きはめたまひしも、つひにはりさんのつかにうづもれ、かんのぶていのいのちををしみたまひけんも、むなしうもう
りようのこけにくちにき。しやうあるものはかならずめつす。しやくそんいまだせんだんのけふりをまぬかれたまはず。たのしみつ
きてかなしみきたる。てんにんなほ五すゐのひにあへりとこそうけたまはれ。さればほとけはがしんじくう、ざいふくむ
しゆ、くわんしんむしん、ほふふぢうほふと、ぜんもあくもくうなりとくわんずるが、まさしうほとけのみんこころにあひかなふこと
にてはさふらふなり。いかんなれば、みだによらいは五ふんがあひだしゐして、おこしがたきぐわんをおこしまし
ますに、いかなるわれらなれば、おくおくまんごふのあひだしやうしりんゑしてたにんまんごふああひだたからのやまにい
つててをむなしうせんこと、なげきのなかのくちをしいことにてはさふらはずや。いまはよねんおぼしめす
べからずとて、しきりにかねうちならしねんぶつをのみすすめたてまつれば、おほいとのもしかるべきぜんちしきと
おぼしめし、たちまちにもうねんをひるがへし、にしにむかつててをあはせ、かうじやりにねんぶつ百ぺんばかりとなへさせたま
ひつつくびをのべてぞまたれける。きつうまのすけきんなが、たちをひきそばめ、ひだんのかたよりおほ
いとののおんうしろにたちまはり、すでにきりたてまつらんとしけるを、おほいとのみつけたまひて、うゑもん
のすけも、すでにかと、のたまひけるこそあはれなれ。きんながうしろへよるかとみえしかば、くびはまへに
ぞおちにける。このきんながとまをすは、へいけさうでんのけにんにて、なかんづく、しんちうじやうなごんとももりのきやう
のもとにてうせきしこうのさぶらひなり。さこそよにつらふならひとはいひながら、むげになさけなかりつる
ことどもかなと、ざんぎするひともありけるとかや。うゑもんのすけにもまたさきのごとくかいたもたせたてまつり、
ねんぶつをのみすすめたてまつる。うゑもんのすけ、ぜんちしきのひじりにむかつてのたまひけるは、そもそもちちのご
さいごは、いかがましましさふらふらやらん、めでたうましましさふらひつ。おんこころやすうおぼしめされさふら
へ、とまをされければ、うゑもんのすけ、いまはうきよにおもひおくことなし。さらばとうきれ
とて、くびをのべてぞうたせらる。こんどはほりのやたらうちかつねきつてんげり。くびをばはうぐわんもた
せてみやこへのぼりたまふ。むくろはきんなががさたとして、ふし一けつにぞうめける。これはおほいどののあまりに
つみふかくのたまひけるによつてなり。あくる二十しにち、けんびゐしども、三でうかはらにいでむかつ
て、へいしのくびうけとる、三でうをにしへ、ひんがしのどうゐんをきたへわたいて、ごくもんのひだんのあふちのきにぞか
けたりける。三みいじやうのくび、をうぢをわたさるること、いこくにはそのためしもやらん、わがてうには
いまだきかず。へいぢにものぶよりのきやうは、さばかんのあくぎやうにんたりしかども、おほぢをばわたされ
ず、へいけにとつてぞわたされける。さいこくよりかへつては、いきて六でうをひんがしへわたされ。
とうごくよりかへつては、しんで三でうをにしへわたさる。いきてのはぢ、ししてのはぢ、いづれ
もおとらざりけり。