白梅集
若山牧水
第10歌集
大正6年8月5日 抒情詩社発行
菊半截 定価75銭。
巻首に
「過ぎゆく時」、それを静かに見まもつてゐる場合と、時そのもののなかに自分自身をぶち込んで、若しくは巻き込まれて、よれつもつれつしてゆく場合とが私にはある。歌にも自然この二つの場合が出て来る。本集に収めた歌は総じて後者の場合に出来たものが多いやうである。そして、ともすれば絶望的な、自暴自棄的な、とり乱した心のひびきが随所に見えて居ることが自分自身にもよく感ぜられて誠に苦しい心地である。
年齢境遇の関係があるかも知れない。また漸次に歌を作り進んでゆく上から、是非経ねばならぬ一の道程であつたかも知れぬ。兎に角、従来のわが歌風に無かつた斯の傾向を自らいま嫌悪と驚きの眼を以て私は見て居るのである。而して、心よりなつかしく本集を顧る日の一日も速く来らむことを祈つて居るものである。
大正六年晩春
於小石川金富町寓居
牧 水 生
夏の歌
椋の葉の風
朝床の枕のうへにながれ入る椋の葉の風雨よぶらしも
けふもまた明けにけるかな軒端なる椋の青葉に風は見えつつ
椋の葉の風は流れて朝床のわが眼わが手の萎えしに吹く
朝起きの萎えごころか椋の葉にうごける風を見ればいとはし
さわさわに朝風吹けば深みどり椋はそびえて大空曇る
ある朝
夏草のなびける山に真向ひて今朝をさびしく歩み居るかも
砂みちの砂のほこりの今朝立たずゆく手にほそき苗代田見ゆ
浪の音今朝は凪ぎたれ坂みちの木がくれにして聞けば凪ぎたれ
麻の葉
麻の葉の茂りさびしも砂畑のくろの細みちゆけば袖濡る
麻にいつ花咲くものぞ茂り葉の青きがままの夏のしののめ
ある朝
しぶしぶと顔洗ひをれば真青に梅雨の朝日の落ちて来にけり
梅雨雲の垂れに垂れつつひさかたの空の隅より朝日子させり
自嘲
妻子らを怖れつつおもふみづからのみすぼらしさは目も向けられず
犬に追はるる猫といへどもわがごとき醜きなりはえはなさざらむ
われと身を思ひ卑しむ眼のまへに吾子こころなう遊びほけたり
砂浜の浜ひるがほのしよんぼりと咲けるこころか涙ながるる
めづらしく妻をいとしく子をいとしくおもはるる日の昼顔の花
友
相逢ひて顔みてをればなにほどかこころ安まるこの友とわれ
慰むる慰めらるる新しき言葉もあらねうれしきぞ友
さびしげにほほゑめる汝をいつもいつも思ひいだきてこひしきぞ友
山百合
夏草の茂りの上にあらはれて風になびける山百合の花
夏山の風のさびしさ百合の花さがしてのぼる前にうしろに
折りとればわれより高き山百合の青葉がくれの大白蕾
たわたわに蕾ばかりが垂れゐつつこの山百合の長し真青し
山百合の花のひとたばさげ持ちて都へのぼる友に逢はむため
ある庭
鳳仙花しらじら咲きて細庭の夏もさかりとならむとすらむ
柿の木のおほき根もとに虎耳草木賊しげりて梅雨明けにけり
白き蝶そらのかたよりふわふわと木賊の茎にきてとまりたる
古池
青苔の地にしみ入る樫の葉の影のゆれゐてわが歩む二人
古池のみぎはの草にみそはぎのほそぼそ咲きてわが歩む二人
古池のひるのかがやきなかなかにうとましくしてわが歩む二人
古池のめぐりにおふる八重葎分けて歩めば日の光さびし
ゆるびたる手足の筋に八重葎しみて痛むとねころびてをり
うつつなく眺めてをれば古池の藻草のかげをゆける魚の子
眼の前の夏のひかりのさびしさよ古池をゆく魚の子の群
ふと仰ぐみそらの雲に真ひるの日てりよどみゐて古池さびし
眼にうつるもののわびしく見入らるるけふの日なれや古池ひかる
藺といふもさびしき草ぞうつつなうわがをる今日の眼の前にして
ある夕
いと遠き人の世に啼く蜩のこゑかも雨とすみて聞ゆる
東京より相模なる妻の許に
ほがらかに晴れゆく夏の朝空のいよよ深みてひとのこひしき
こころややに冴えゆけば夏の朝空の窓に垂れゐてひとのこひしき
真ひる空窓に垂れつつわが腕に汗のながれてひとのこひしき
たちいでて見る細庭の夏草の真ひるしなえてひとのこひしき
昼の空ひかりのなかにまふ塵の見ゆとも見えてひとのこひしき
をりからやゆきずりびとの声さへも身にしみわたりひとのこひしき
ちりほこり光り煙れる昼の街ゆきかふ子らを見つつこひしき
屑買のひそひそすぐる裏街の窓にこもりゐて恋ふは苦しき
こひしさのいまはたへがたくかきさぐり小さき鏡をとりにけるかも
秋風と蓮の花
蓮ひらくしらじら明けに不忍の池にまひ降るる白鷺のむれ
朝露の蓮みるひとの静かなるつかれたる顔をよしとおもへり
しののめの蓮見るむれにまじりたる白蓮よりも静かなる少女
雨よべる風なるらしも朝空に雲のみだれて白蓮さけり
黒黒と雨に濡れつつ水鳥のかいつむり啼けり蓮の花のかげに
暴風雨すぎし池はあふれて今朝の秋咲きいづる蓮のひともと紅
いまは早やこぼれむとするくれなゐの蓮の花あはれくもり日のもとに
はちす葉の青みかわきて秋風の吹き立つ池の白蓮の花
秋立つや池の水錆の片よりに白はちすのみ咲きて風吹く
葉がくれにくれなゐの花ゆれゐつつ秋風しるきはちす葉の池
あかあかと朝日さしゐて池の蓮みながら秋の風ならぬなき
秋の歌
失題
つきつめてなにが悲しといふならず身のめぐりみなわれにふるるな
とりにがすまじいものぞといつしんにつかまへてゐしこころなりけむ
ある時は身体いつぱい眼となりてつまらなさをば見てゐる如し
つまらなさ手足にあふれふらふらとさまよひあるく身体なりけり
ぢつとしてひとみ落せば早や其処に来てちぢまれるつまらなさなる
ちからなき足をうごかしあゆまむとあせる甲斐なさいまはやめなむ
何も彼もおもひあぐめるはてに来て見ゆるひとといふひとみないぢらしき
ゆゑはなく今はたのしとおもひあがりつと立ちにしか眼こそくるめけ
何もかもつまらなく見ゆるこの日頃いかなる面をわれのせるらむ
新しき出来ごとといふ聞よろしその出来ごとの近づくなゆめ
秋の風
秋の風吹きしきれどもよそにのみ見てちぢまれるこころなりけり
とりとめのなき日と今日も暮れにけり日にけに秋の風は吹きつつ
落葉のころ
わがすきの落葉のころとなりにけり身体のつかれくやしけれども
こほろぎ
何草ぞこの草むらの硬さよと腰をおろせばこほろぎ啼けり
われと身の重みを地におぼえつつ草むらに見る秋の風かな
こほろぎのなきたつところそこにここに桜の落葉ちらばれるかな
耳は耳目は目からだがばらばらに離れて虫をきいてをるものか
ほのぼのとわが頬染まるかこほろぎの啼きしきりたる草むらのかげに
夜の窓
夜の窓ひるのつかれのやはらかう身にはうかびてこほろぎ啼けり
窓を開けよ風邪はひくともこのごろの夜空ながめでねむらるるものか
だんだんにからだちぢまり大ぞらの星も窓より降り来るごとし
このままに落ちむ底なき穴もあれいまをたのしく睡らむとする
秋の雨
倦みはてしわが身つつみて降るものか濡れゆく屋根の秋雨の音
うつとりと雨をながむるこころかも疲れていまは何もおもはなくに
めづらしくこころ晴れつつながめ入るけふ秋雨のかなしくもあるか
冬晴
秋の樹木
樫の木と山毛欅の木立とさしかはす小枝小枝に秋深みたれ
樫の木の瑞枝の伸びのみづみづし山毛欅の紅葉に入りまじりたる
冬 晴
稀なれや今日のうらら日庭さきの真冬篠竹ひかりてやまず
夜 霧
ガラス戸に夜露垂る見ゆ下宿屋のそのガラス戸の蔭に坐れば
冬の空ガラス戸越しに墨よりも深きをながめ夜半居るはたのし
独 酌
おひおひに酒を止むべきからだともわれのなりしか飲みつつおもふ
酒のめばなみだながるるならはしのそれもひとりの時に限れる
たいねんと静もれる山もありがたししかおもへども心は騒ぐ
知るひとのそれもこれもがみな可愛くなりゆく時ぞ涙ながるる
めいめいのこころそれぞれに向きてゆくこの友どちをとどめかねつも
遠国なる友を訪ねむとて
相逢はば先づ何事を語らはむその事をおもふ面はゆきかな
老いふけしといふにはあらねそのかみのわれにもあらず面はゆきかな
君が妻和歌子もいまはいささかを老いやしつらむ夙く逢はましを
落葉木の木の間晴れなば遠山の見ゆとふ君が庭を夙く見む
君が妻君が子庭の落葉ふみ出で入る冬をゆきて夙く見む
冬の夜
とりとめて何おもふとにはあらねども夜半ひとり居るはたのしかりけり
つま子等がねくたれ床を這ひいでてともし掻き上ぐる冬の夜の机
その湯釜この水さしにいつぱいに湛へて冬の夜を起きてをる
箱の隅の粉炭つげば何の枯葉かまじりて燃ゆる匂ひするなり
次第次第にほそくなりゆくともしびに夜半をつぎたす石油のながれ
永き夜の夜床いぶせみ起きてをれば蝿も出で来てわがめぐり飛ぶ
長火鉢にひとりつくねんと凭りこけて永き夜あかずおもふ銭のこと
棚の隅あさりさがして食ひものに鼻うごめかす冬の夜の餓鬼
失 題
わがことのやうにはあらねこれやこの三十三歳になるといふなり
やうやくに此処に来にしか今日のわが我が思ふことをよろしとはする
何はあれあたり明るく見え来たりここに斯くあるわれとなりにけり
われとわが浅間しさなど時折に思ひ出せども煙には似る
かにかくにわれの歩みは遅きなりさなりたゆまで歩もとおもへ
梅
梅の木の蕾みそめたる庭の隅出でて立てればさびしさおぼゆ
梅のはな枝にしらじら咲きそむるつめたき春となりにけるかな
日比谷公園にて
公園に入れば先づ見ゆ白梅の塵にまみれて咲けるはつ花
公園の白けわたれる砂利みちをゆき行き見たり白梅の花
眼に見えぬ篭のなかなる鳥の身をあはれとおもへ篭のなかの鳥を
椎や椎や家をつくらば窓といふ窓をかこみて植ゑたきこの樹
椎の木の葉にやや赤み見ゆるぞとおもふこの日のこころのなごみ
冬深き日比谷公園ゆき行けば楮しら梅さきゐたりけり
酒
酒のめばからだいささか身にかへる身としおもふにたへられなくに
今もなほ心かわけば時わかず飲まむとおもふこの酒ばかり
汝が顔の酔ひしよろしみ飲め飲めと強ふるこの酒などかはのまぬ
失題
ためいきも腹いつぱいにつきがたきこころぼそさが身より離れず
一時もやすむひまなくわれの身より何かはなれて消えゆくごとし
われもしらぬ大きな力前に後に押しつ引きつつわれを運ぶかも
われと身のめぐりをふつとふりかへる癖がをりをり眼につけるかな
ぽつちりと開いてはをれわがまなこ動かぬもののごとくおもはる
なにごともまともにものを見さだむるちからをもたぬわが眼なりけり
多摩川
何処にゆかむ山ことごとし海も憂し多摩川ぞひの冬木の中か
行くべくばみちのくの山甲斐の山それもしかあれ今日は多摩川
案のごとく川は痩せ痩せ流れをり岸の冬木もまたその如く
戸をさすや窓のめぐりは落葉木の櫟のみなる冬の夜の宿
多摩の川真冬ほそぼそ痩せながれ音を立つるか冬の夜ふけに
多摩川の冬の川原のさざれ石くぐれる水か枕には来る
雪のこる痩庭ながめ朝はやく宿屋にのめる麦酒の濁
ひる過ぎて庭の冬竹さやさやに鳴りさやぎつつ西晴れにけり
知る人の顔を見ざりし今日ひと日ひと日の旅をうれしとはする
友東籬が許に送る
津軽野や落葉木立のまばらかにつづける村の端に住む君
戸を繰れば雪は背よりも高かりしその窓かげに今日もこもるか
君が前にたはけつくせしゑひどれの旅の姿を何と見つらむ
君をおもへばたもの根もとによどみたる冬野の川ぞおもかげに見ゆ
わがこころさびしき時しはつきりとはるかなれどもうつれるは君
しよんぼりと瞳おとしてありとなくあるらむ君をおもひこそやれ
ありありと耳にのこれる君がこゑこよひ静かに聞えをるなり
いまいちどあひておかねばならぬごときおもひは苦しいつ逢ふべしや
津軽野をおもへば遠しいつしんに君をおもへばいよいよ遠し
あやふかるもろかるものに故はなくおもひなされてこひしきぞ君
はつきりと眼をみひらかぬその性の相似しものか忘られかねつ
みちのくの津軽のはてとおもふよりこころいよいよこひしくなりぬ
そばかき
戸棚の戸あけたてすれば鳴りひびき氷れる夜半にかける蕎麦かき
そばかきの上手の我妹とくいねて小夜の深きにかけるそばかき
そばかきをかきつつふつとおもひ出し戸棚あくればありし残り酒
信濃なる彼もさびしきひとりなる友が送りしこれの蕎麦の粉
そばかきの辛からぬはた甘からぬこの蕎麦かきの味のよろしも
春浅し
倦怠
梅の花紙屑めきて枝に見ゆわれのこころのこのごろに似て
褪せ褪せてなほ散りやらぬ白梅の花もこのごろうとまれなくに
乗るはなほ電車通りをゆくこともこころいためば耐へられなくに
地とわれと離ればなれにある如き今朝のさびしさを何にたとへむ
失題
はつきりととらへかねたるわがかげの今日もふらりとこころにうかべり
おほかたのひとのこころはいかならむ今日も今日とてわれのさびしく
世の常の身のゆく末といふ言葉いまは言葉にあらざりにけり
うろたへて見張りしひとみそのままに二月もいつか終りけるかな
梅
きさらぎや起きいでて縁に立つ朝のつかれにさびし白梅の花
庭の土白けわたりて草萌えず一もとの梅咲けるわびしも
この庭に芝草植ゑよ白梅も金糸桜の木もこちごちに立つ
なにごとぞ今朝の霞といひすてて庭にいづれば白梅咲けり
白梅のはなが咲きたり咲きたりと朝な夕なに過すこのごろ
鴨
寒む寒むと起きいでし門に郵便屋来たりておきぬ二羽の真鴨を
新聞紙の上にころがれる二羽の鴨羽根のむらさきさびしくもあるか
手にとりてしみじみ見れば鴨の羽根みどりむらさきいたましきかな
いそいそと鴨を料ると立ちあがれば研屋来にけり庖丁研がす
失 題
ゐつ立ちつ動けるわれを影のごと眺めくらせるこころすべなさ
わが前を過ぎ去り過ぎ行く時の歩みのまざまざ見ゆるこのさびしさよ
思ふさへわが身つめたしましてわがめぐりのものはすべてつめたし
燃ゆといふ心の種の燃えつきていまは斯くまでさびしきものか
四辺みな凍れるごときさびしさのなかにゆくりなく眼をさましたれ
ふらふらと忘れものめける生心身にかへるありていのちさびしき
春の一日
朝戸出のこころづかれや行くかたの道もかすみて梅ところどころ
さらさらと清水ながれて畔のかげ芹は萌えたり摘まばや芹を
芹摘もとおもふこころのかなしさに指ぬらして芹つみにけり
ちろちろと音にこそいづれ芹つみをやめて坐れば畔のかげの水
白梅の老木のかげのくつきりと動かぬ芝にたんぽぽ咲けり
ぶよといふ虫の居るさへ春浅みなつかしきかも枯草の原
枯草のかげにまろびて煙草など吸へばよろしきわが姿かも
うつかりと立ちつくしたる身のめぐりけふの夕日のあきらけきかな
同じく
ゆきずりに日日見て通る椎の樹の梢あからみ春は来にけり
木木の芽の芽ぐみつのぐみ白梅の花はいよいよ褪せはてにけり
夜の歌
へとへとに疲れつくして一日の終りともいまはなりにけるかな
明日のことは明日ぞさだめむとにかくに寝むとおもへつかれしものを
かにかくに寝むとおもへいねてのち眼覚むることはおもふべからず
つかれはてて眠り沈めばいつしかにわが身につどふ夢のかずかず
泥のごと倦みつかれたる身のねむりおほかた夢の餌食とはなる
同じく
ひしと戸をさしかたむべき時の来て夜半をたのしくとりいだす酒
いつ知らず酔のまはりてへらへらとわれにもあらず笑ふなりけり
辛 夷
春はやく匂ひ出でたる白花の辛夷の枝の垂りのよろしも
落葉木の木の間たわたわに枝たれてひともと咲ける白花辛夷
しらじらと咲きしづもれる白花の辛夷に春の日はさし照れり
朝 夕
うつらうつら歩み更かせる春の夜の小暗き濠におつる水音
江戸川の水かさまさりて春雨のけふも煙れり岸の桜に
朝戸出や垣根の椎のしたゆけば葉がくれもるるうぐひすのこゑ
桜
顔の汗ぬぐひながらに九段坂桜ながめてのぼるひとりか
九段坂息づきのぼりながめたる桜の花はいまさかりなり
同じく
日なかには人目ゆゆしみおぼろ夜のくだちに妻と来し桜狩
いそいそとよろこぶ妻に従ひて夜半の桜を今日見つるかも
おほかたはひとの帰りし花見茶屋夜深きに妻と来て酒酌めり
同じく
花見むといでては来つれながらふるひかりのなかをゆけばさびしも
うらうらと芝生かぎろひわがひとり坐りて居れば遠き桜見ゆ
天つ日の光さびしも芝生よりふらふらとわれの立ちあがる時
遠見にも咲きこそなびけ酔ひどれてわが行くかぎり桜ならぬなき
同じく
けふもまた風か立つらしひんがしに雲あからひき桜さかりなり
風ひたと落ちし軒端のさくら花夕かけて雨の降りいでにけり
室 内
いづくより漏るるものかも部屋のうち風ありて春の真昼なりけり
ねがはくはわが居る部屋に水ひきて手のよごれなばつねに洗はむ
同じく
窓の障子ほそ目に繰れば風ほこり渦まけるなかに桜花見ゆ
春風や窓しめて部屋のまんなかに机はおけど来て溜るちり
酒
一杯をおもひ切りかねし酒ゆゑにけふも朝より酔ひ暮したり
それほどにうまきかと人のとひたらばなんと答へむこの酒の味
なにものにか媚びてをらねばたへがたきさびしさ故に飲めるならじか
酔ひぬればさめゆく時のさびしさに追はれ追はれてのめるならじか
しづしづと天日のもとに生くことの出来ねばこそあれ酔ひどれて居る
失題
いと浅き芝原の火のぢりぢりとけふもこころに燃えやまぬかも
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