童子教

(『〔新板〕実語教 童子教』雲出屋板による)

(原本は、本文の右に読みがなを振ってある。今、白文・書き下し文・仮名書きの3種を示す)

(白文)
夫貴人前居   顕露不得立
遇道路跪過   有召事敬承
両手当胸向   慎不顧左右
不問者不答   有仰者謹聞
三宝尽三礼   神明致再拝
人間成一礼   師君可頂戴
過墓時則慎   過社時則下
向堂塔之前   不可行不浄
向聖教之上   不可致無礼
人倫有礼者   朝廷必在法
人而無礼者   衆中又有過
交衆不雑言   事畢者速避
触事不違朋   言語不得離
語多者品少   老狗如吠友
懈怠者食急   疲猿如貪菓
勇者必有危   夏虫如入火
鈍者亦無過   春鳥如遊林
人耳者附壁   密而勿讒言
人眼者懸天   隠而勿犯用
車以三寸轄   遊行千里路
人以三寸舌   破損五尺身
口是禍之門   舌是禍之根
使口如鼻者   終身敢無事
過言一出者   駟追不返舌
白圭●可磨   悪言●難磨 (●は共に「王」+「占」)
禍福者無門   唯人在所招
天作災可避   自作災難逃
夫積善之家   必有余慶矣
亦好悪之処   必有余殃矣
人而有陰徳   必有陽報矣
人而有隠行   必有照名矣
信力堅固門   災禍雲無起
念力強盛家   福祐月増光
心不同如面   譬如水随器
不挽他人弓   不騎他人馬
前車之見覆   後車之為誡
前事之不忘   後事之為師
善立而名流   寵極而禍多
人者死留名   虎者死留皮
治国土賢皇   勿侮鰥寡矣
君子不誉人   則民作怨矣
入境而問禁   入国而問国
入郷而随郷   入俗而随俗
入門先問諱   為敬主人也
君所無私諱   無二尊号也
愚者無遠慮   必可有近憂
如用管●天   似用錐指地  (●は、モンガマエ+「規」)
神明罰愚人   非殺為令懲
師匠打弟子   非悪為令能
生而無貴者   習修成智徳
貴者必不冨   冨者未必貴
雖冨心多欲   是名為貧人
雖貧心欲足   是名為福人
師不訓弟子   是名為破戒
師呵責弟子   是名為持戒
畜悪弟子者   師弟堕地獄
養善弟子者   師弟到仏果
不順教弟子   早可返父母
不和者擬冤   成怨敵加害
順悪人不避   緤犬如廻柱
馴善人不離   大船如浮海
随順善友者   如麻中蓬直
親近悪友者   如藪中荊曲
離祖附疎師   習戒定恵業
根性雖愚鈍   好自致学位
一日学一字   三百六十字
一字当千金   一点助他生
一日師不疎   況数年師乎
師者三世契   祖者一世眤
弟子去七尺   師影不可踏
観音為師孝   宝冠頂弥陀
勢至為親孝   頭戴父母骨
宝瓶納白骨   朝早起洗手
摂意誦経巻   夕遅寝洒足
静性案義理   習読不入意
如酔寝●語   読千巻不復  (●は、ゴンベン+「閻」)
無財如臨町   薄衣之冬夜
忍寒通夜誦   乏食之夏日
除飢終日習   酔酒心狂乱
過食倦学文   温身増睡眠
安身起懈怠   匡衡為夜学
鑿壁招月光   孫敬為学文
閉戸不通人   蘇秦為学文
錐刺股不眠   俊敬為学文
縄懸頸不眠   車胤好夜学
聚螢為燈矣   宣士好夜学
積雪為灯矣   休穆入意文
不知冠之落   高鳳入意文
不知麦之流   列寔乍織衣
誦口書不息   倪寛乍耕作
腰帯文不捨   此等人者皆
昼夜好学文   文藻満国家
遂致碩学位   縦磨●振筒  (●は、タケカンムリ+「塞」)
口恒誦経論   亦削弓短矢
腰常挿文書   張儀誦新古
枯木結菓矣   亀耄誦史記
古骨得膏矣   伯英九歳初
早至博士位   宋史七十初
好学登師傅   智者雖下劣
登高台之閣   愚者雖高位
堕奈利之底   智者作罪者
大不堕地獄   愚者作罪者
小必堕地獄   愚者常懐憂
譬如獄中囚   智者常歓楽
猶如光音天   父恩者高山
須弥山猶下   母徳者深海
滄溟海還浅   白骨者父淫
赤肉者母淫   赤白二●和  (●は、サンズイ+「帝」)
成五体身分   処胎内十月
身心恒苦労   生胎外数年
蒙父母養育   昼者居父膝
蒙摩頂多年   夜者臥母懐
費乳味数斛   朝交于山野
殺蹄養妻子   暮臨于江海
漁鱗資身命   為資旦暮命
日夜造悪業   為嗜朝夕味
多劫堕地獄   戴恩不知恩
如樹鳥枯枝   蒙徳不思徳
如野鹿損草   酉夢打其父
天雷裂其身   班婦罵其母
霊蛇吸其命   郭巨為養母
堀穴得金釜   姜詩去自婦
汲水得庭泉   孟宗哭竹中
深雪中抜笋   王祥歎叩氷
堅凍上踊魚   舜子養盲父
涕泣開両眼   刑●養老母  (●は、「王」+「巨」+「木」)
噛食成齢若   董永売一身
備孝養御器   楊威念独母
虎前啼免害   顔烏墓負土
烏鳥来運埋   許牧自作墓
松柏生作墓   此等人者皆
父母致孝養   仏神垂憐愍
所望悉成就   生死命無常
早可欣涅槃   煩悩身不浄
速可求菩提   厭可厭娑婆
会者定離苦   恐可恐六道
生者必滅悲   寿命如蜉蝣
朝生夕死矣   身体如芭蕉
随風易壊矣   綾羅錦繍者
全非冥途貯   黄金珠玉者
只一世財宝   栄花栄耀者
更非仏道資   官位寵職者
唯現世名聞   致亀鶴之契
露命不消程   重鴛鴦之衾
身体不壊間   ●利摩尼殿  (●は、リッシンベン+「刀」)
歎遷化無常   大梵高台閣
悲火血刀苦   須達之十徳
無留於無常   阿育之七宝
無買於寿命   月支還月威
被縛●王使   龍帝投龍力  (●は、「王」+「炎」)
被打獄卒杖   人尤可行施
布施菩提粮   人尤不惜財
財宝菩提障   若人貧窮身
不布施無財   見他布施時
可生随喜心   悲心施一人
功徳如大海   為己施諸人
得報如芥子   聚砂為塔人
早研黄金膚   折花供仏輩
速結蓮台趺   一句信受力
超転輪王位   半偈聞法徳
勝三千界宝   上須求仏道
中可報四恩   下偏及六道
共可成仏道   為誘引幼童
住因果道理   出内典外典
見者勿誹謗   聞者不生笑


童子教終  書林 津宿屋町 雲出屋伊十郎

 

 


童子教
(『〔新板〕実語教 童子教』雲出屋板による)


(書き下し文)
夫(そ)れ貴人の前に居ては  顕露に立つことを得ざれ
道路に遇ふては過(すぎ)に跪(ひざまづ)いて  召す事有らば敬ふこと承れ
両の手を胸に当てて向ひ  慎んで左右を顧みざれ
問はずんば答へざれ  仰せ有らば謹しんで聞け
三宝には三礼を尽し  神明には再拝を致し
人間には一礼を成し  師君には頂戴すべし
墓を過ぐる時は則ち慎め  社を過ぐる時は則ち下(を)り
堂塔の前に向かつて  不浄を行ふべからず
聖教(しやうけう)の上に向かつて  無礼を致すべからず
人倫礼有れば  朝廷必ず法在り
人として礼無きは  衆中(しゆぢう)又過(とが)有り
衆に交はりて雑言(ざうごん)せざれ  事畢(おは)らば速(すみやか)に避(さ)れ
事に触るれば朋(とも)に違(たが)はざれ  言語(げんぎよ)離るることを得ず
語(ことば)多きは品少なし  老ひたる狗(いぬ)の友を吠(ほ)ゆるが如し
懈怠(けだい)の者は食を急ぐ  疲れたる猿の菓(このみ)を貪(むさぼ)るが如し
勇める者は必ず危(あやふ)きこと有り  夏の虫の火に入(い)るが如し
鈍(にぶ)き者は亦(また)過(とが)無し  春の鳥の林に遊ぶが如し
人の耳は壁に附く  密(ひそ)かにして讒言(ざんげん)すること勿(なか)れ
人の眼(まなこ)は天に懸(かか)り  隠して犯し用ゆること勿れ
車は三寸の轄(くさび)を以て  千里の路(みち)を遊行す
人は三寸の舌を以つて  五尺の身を破損す
口は是(これ)禍(わざはひ)の門(かど)  舌は是(これ)禍(わざわひ)の根なり
口をして鼻の如くならしめば  身を終るまで敢へて事無し
過言(くわごん)一たび出(い)づれば  駟追(しつい)舌を返さず
白圭の●(たま)は磨くべし  悪言(あくごん)の●(たま)は磨き難し (●は共に「王」+「占」)
禍福は門無し  唯(ただ)人の招く所に在り
天の作(な)せる災は避(のが)るべし  自(みづか)ら作(な)す災は逃(のが)れ難し
夫(そ)れ積善(しやくぜん)の家には  必ず余慶有り
亦(また)悪を好むの処(ところ)には  必ず余殃(よあう)有り
人として陰徳有れば  必ず陽報有り
人として隠行(いんぎやう)有れば  必ず照名有り
信力(しんりき)堅固の門(かど)には  災禍の雲起ること無し
念力強盛(ごうせい)の家には  福祐の月光を増す
心不同なるは面(おもて)の如し  譬(たと)へば水の器(うつわ)に随(したが)ふが如し
他人の弓を挽(ひ)かざれ  他人の馬に騎(の)らざれ
前車の覆(くつがへ)るを見ては  後車の誡(いましめ)とす
前事の忘れざるを  後事(ごじ)の師とす
善立つて名を流し  寵(ちやう)極(きはま)つて禍(わざはひ)多し
人は死して名を留(とど)め  虎は死して皮を留む
国土を治むる賢皇(けんわう)は  鰥寡(くはんくわ)を侮(あなど)ること勿れ
君子は人を誉めず  則ち民(たみ)怨(あた)を作(な)す
境(さかひ)に入(い)つては禁(いましめ)を問へ  国に入つては国を問へ
郷(ごう)に入(い)つては郷に随ひ  俗に入つては俗に随ひ
門(もん)に入(い)つては先(ま)づ諱(いみな)を問へ  主人を敬(うやま)はん為なり
君所(くんしよ)に私(わたくし)の諱(いみな)無く  無二の尊号なり
愚者は遠慮無し  必ず近き憂(うれ)ひ有るべし
管(くだ)を用ひて天を●(うかが)ふが如し  錐(きり)を用ひて地を指すに似たり  (●は、モンガマエ+「規」)
神明(しんめい)愚人を罰す  殺すにあらず懲(こ)らさしめんが為なり
師匠弟子を打つ  悪(にく)むにあらず能(よ)からしめんが為なり
生れながらにして貴(たつと)き者無し  習ひ修(しゆ)して智徳と成る
貴(たつと)き者は必ず冨めず  冨める者は未(いま)だ必ず貴からず
冨むと雖(いへど)も心に欲多ければ  是(これ)を名づけて貧人(ひんじん)とす
貧しと雖(いへど)も心足(た)んぬと欲(ほつ)せば  是(これ)を名づけて福人(ふくじん)とす
師弟子を訓(をし)へず  是(これ)を名づけて破戒とす
師弟子を呵責(かしやく)す  是(これ)を名づけて持戒とす
悪しき弟子を畜(たくは)ゆれば  師弟地獄に堕(お)つ
善き弟子を養へば  師弟仏果に到る
教へに順(したが)はざる弟子は  早く父母に返すべし
和(くわ)せざる者を冤(なだ)めんと擬(ぎ)すれば  怨敵(おんでき)と成つて害を加ふ
悪人に順(したが)ひて避(はな)れざれば  緤(つな)げる犬の柱を廻(めぐ)るが如し
善人に馴(な)れて離れざれば  大船の海に浮ぶが如し
善き友に随順すれば  麻の中の蓬(よもぎ)の直(なを)きが如し
悪しき友に親近すれば  藪(やぶ)の中の荊曲(けいきよく)の如し
祖に離れ疎師に附く   戒定恵(かいぢやうゑ)の業(ごう)を習ひ
根性は愚鈍と雖(いへど)も  好めば自(みづか)ら学位に致る
一日に一字を学べば  三百六十字
一字千金に当り  一点他生を助く
一日の師をも疎(おろそ)かにせざれば  況(いはん)や数年師をや
師は三世(さんぜ)の契り  祖は一世(いつせ)の眤(むつみ)
弟子七尺(しちしやく)を去つて  師の影を踏むべからず
観音は師孝の為に  宝冠に弥陀を頂(いただ)き
勢至(せいし)は親孝(しんかう)の為に  頭(かしら)に父母の骨(こつ)を戴(いただ)き
宝瓶に白骨を納め  朝(あした)に早く起きて手を洗ひ
意(こころ)に摂して経巻を誦(じゆ)せよ  夕(ゆふべ)に遅く寝(いね)て足を洒(あら)ひ
性(せい)を静めて義理を案ぜよ  習ひ読めども意(こころ)に入らざれば
酔(ゑ)い寝(いね)て●(むつごと)を語るが如し  千巻を読むとも復せざれば  (●は、ゴンベン+「閻」)
財無くして町を臨むが如し  薄衣(はくゑ)の冬の夜(よ)も
寒を忍んで通夜(つうや)に誦(じゆ)せよ  食乏(とぼ)しきの夏の日
飢(うへ)を除いて終日(ひめもす)習へ  酒に酔(ゑ)ゑば心狂乱す
食過ぐれば学文に倦(う)む  身温(あたたか)なれば睡眠(すいめん)を増す
身安ければ懈怠(けだい)起る  匡衡(きやうこう)は夜学の為に
壁を鑿(うが)ちて月光を招く  孫敬(そんけい)は学文の為に
戸を閉ぢて人を通さず  蘇秦は学文の為に
錐を股(もも)に刺して眠らず  俊敬(しゆんけい)は学文の為に
縄を頸(くび)に懸(か)けて眠らず  車胤(しやいん)は夜学を好み
螢を聚(あつ)めて燈(ともしび)とす  宣士(せんし)は夜学を好み
雪を積んで灯(ともしび)とす  休穆(きうぼく)は意(こころ)に文を入れ
冠(かんむり)の落つるを知らず  高鳳(かうほう)は意(こころ)に文を入れ
麦の流るるを知らず  列寔(れつしよく)は衣(きぬ)を織り乍(なが)ら
口に書を誦(じゆ)して息(いき)せず  倪寛(げいくわん)は耕作し乍(なが)ら
腰に文を帯(たい)して捨てず  此等(これら)の人は皆
昼夜学文を好んで  文藻国家に満つ
遂に碩学の位に致(いた)る  縦(たと)ひ●(さい)を磨き筒を振るとも  (●は、タケカンムリ+「塞」)
口には恒(つね)に経論(きやうろん)を誦(じゆ)せよ  亦(また)弓を削り矢を短(は)ぐとも
腰には常に文書を挿(さしはさ)め  張儀新古を誦(じゆ)し
枯木菓(このみ)を結ぶ  亀耄(きもう)史記を誦(じゆ)して
古骨膏(あぶらづ)くことを得たり  伯英は九歳にして初めて
早く博士の位に至る  宋史七十にして初めて
学を好んで師傅に登る  智者は下劣なりと雖(いへど)も
高台の閣に登る  愚者は高位なりと雖(いへど)も
奈利の底に堕(お)つ  智者の作る罪は
大いなれども地獄に堕(お)ちず  愚者の作る罪は
小さけれども必ず地獄に堕(お)つ  愚者は常には憂(うれい)を懐(いだ)く
譬(たと)へば獄中の囚(とらはれ)の如し  智者は常に歓楽す
猶(なを)光音天(くはういんてん)の如し  父の恩は山より高く
須弥山猶(なを)下(ひく)し  母の徳は海より深く
滄溟海還(かへ)つて浅し   白骨は父の淫
赤肉は母の淫  赤白(しやくびやく)二●(にたい)和(くわ)して  (●は、サンズイ+「帝」)
五体身分(しんぶん)と成る  胎内に処(お)ること十月(とつき)
身心恒(つね)に苦労す  胎外(たいげ)に生じて数年(すねん)
父母の養育を蒙(かふむ)る  昼は父の膝に居て
摩頂(まてう)に蒙(かふむ)ること多年  夜は母の懐(ふところ)に臥(ふ)して
乳味を費すこと数斛(すこく)  朝(あした)には山野に交り
蹄(ひづめ)を殺して妻子を養ひ  暮には江海に臨み
鱗(うろくづ)を漁(すなど)つて身命(しんめい)を資(たす)く  旦暮の命を資けん為なり
日夜悪業(あくごう)を造る  朝夕のこの味はひを嗜(たしな)まんが為なり
多劫(たこう)地獄に堕(お)つ  恩を戴(いただ)ひて恩を知らざるは
樹の鳥の枝を枯らすが如し  徳を蒙(かふむ)つて徳を思はざるは
野の鹿の草を損ずるが如し  酉夢(ゆうむ)其の父を打つ
天雷其の身を裂く  班婦其の母を罵(ののし)る
霊蛇其の命を吸ふ  郭巨(くわつきよ)母を養はん為
穴を堀れば金(こがね)の釜を得たり  姜詩(きやうし)自婦を去つて
水を汲めば庭に泉を得たり  孟宗竹中に哭(な)きしかば
深雪の中(うち)に笋(たかんな)を抜く  王祥歎いて氷を叩(たた)けば
堅凍(けんとう)の上に魚踊る  舜子盲父を養ひ
涕泣せしかば両眼の開く  刑●(けいきよ)老母を養ひ  (●は、「王」+「巨」+「木」)
食を噛めば齢(よはひ)若(わか)を成る  董永(とうゑい)一身を売つて
孝養の御器(みつぎ)に備ふ  楊威独りの母を念(おも)ひ
虎の前に啼(な)きしかば害を免(まぬが)る  顔烏(がんう)墓に土を負へば
烏鳥(うてう)来つて運び埋(うづ)む  許牧自(みづか)ら墓を作れば
松柏生じて墓と作(な)る  此等(これら)の人は皆
父母に孝養を致し  仏神憐愍(れんみん)を垂れ
望む所悉(ことごと)く成就す  生死(せうじ)の命は無常なり
早く涅槃(ねはん)を欣(よろこ)ぶべし  煩悩の身は不浄なり
速(すみやか)に菩提を求むべし  厭(いと)ふても厭ふべきは娑婆なり
会者定離(ゑしやぢやうり)の苦しみ  恐れても恐るべきは六道(ろくどう)なり
生者必滅(しやうじやひつめつ)の悲しみ  寿命は蜉蝣(ふゆう)の如し
朝(あした)に生じ夕(ゆふべ)に死す  身体芭蕉の如し
風に随つて壊(やぶ)れ易く  綾羅錦繍(りやうらきんしう)は
全く冥途の貯へに非(あら)ず  黄金珠玉は
只一世(いつせ)の財宝  栄花栄耀は
更に仏道の資(たす)けに非(あら)ずば  官位寵職は
唯(ただ)現世の名聞(みやうもん)  亀鶴の契りを致し
露命消えざる程  鴛鴦(ゑんわう)の衾(ふすま)を重ぬるも
身体壊(やぶ)れざる間(あいだ)  ●利摩尼殿(とうりまにでん)も  (●は、リッシンベン+「刀」)
遷化(せんげ)無常を歎く  大梵高台の閣も
火血刀の苦しみを悲しみ  須達(しゆだつ)の十徳も
無常を留(とど)むること無し  阿育の七宝も
寿命を買ふこと無し  月支(ぐはつし)が月を還(かへ)せし威も
●王(ゑんわう)の使ひに縛(しば)られ  龍帝龍を投げる力も  (●は、「王」+「炎」)
獄卒の杖(つえ)に打たるる  人尤(もつと)も施しを行ふべし
布施は菩提の粮(かて)  人尤(もつと)も財を惜しまざれ
財宝は菩提の障(さは)り  若(も)し人貧窮の身にて
布施すべき財無くば  他の布施を見る時
随喜の心を生ずべし  心に悲しみて一人(いちにん)に施せば
功徳大海(だいかい)の如し  己(おのれ)が為に諸人に施せば
報ひを得ること芥子の如し  砂(いさご)を聚(あつ)めて塔を為(す)る人
早く黄金の膚(はだへ)を研(みが)く  花を折りて仏に供(くう)ずる輩(ともがら)は
速(すみや)かに蓮台の趺(あなうら)を結ぶ  一句信受の力
転輪王の位に超へたり  半偈(はんげ)聞法(もんぼう)の徳
三千界の宝に勝(まさ)れり  上(かみ)は須(すべから)く仏道を求む
中は四恩を報ずべし  下は偏(ひとへ)に六道に及ぶ
共に仏道成るべし  幼童を誘引せん為
因果の道理を住(ぢう)す  内典外典より出でたり
見る者誹謗すること勿れ  聞く者笑を生ぜざれ


童子教終  書林 津宿屋町 雲出屋伊十郎

 

 

童子教
(『〔新板〕実語教 童子教』雲出屋板による)


(仮名書き文)
それきにんのまへにゐては  けんろにたつことをゑざれ
どうろにあふてはすぎにひざまづいて  めすことあらばうやまふことうけたまはれ
りやうのてをむねにあててむかひ  つつしんでさゆうをかへりみざれ
とはずんばこたへざれ  あふせあらばつゝしんできけ
さんぽうにはさんれいをつくし  しんめいにはさいはいをいたし
にんげんにはいちれいをなし  しくんにはちやうだいすべし
はかをすぐるときはすなはちつつしめ  やしろをすぐるときはすなはちをり
だうとうのまへにむかつて  ふじやうをおこなふべからず
しやうけうのうへにむかつて  ぶれいをいたすべからず
じんりんれいあれば  ちやうていかならずほうあり
ひととしてれいなきは  しゆぢうまたとがあり
しゆにまじはりてざうごんせざれ  ことおはらばすみやかにされ
ことにふるればともにたがはざれ  げんぎよはなるることをゑず
ことばおほきはしなすくなし  おひたるいぬのともをほゆるがごとし
けだいのものはしよくをいそぐ  つかれたるさるのこのみをむさぼるがごとし
いさめるものはかならずあやふきことあり  なつのむしのひにいるがごとし
にぶきものはまたとがなし  はるのとりのはやしにあそぶがごとし
ひとのみみはかべにつく  ひそかにしてざんげんすることなかれ
ひとのまなこはてんにかかり  かくしておかしもちゆることなかれ
くるまはさんずんのくさびをもつて  せんりのみちをゆぎやうす
ひとはさんずんのしたをもつて  ごしやくのみをはそんす
くちはこれわざはひのかど  したはこれわざわひのねなり
くちをしてはなのごとくならしめば  みをおはるまであへてことなし
くわごんひとたびいづれば  しついしたをかへさず
はくけいのたまはみがくべし  あくごんのたまはみがきがたし
くわふくはもんなし  ただひとのまねくところにあり
てんのなせるわざはひはのがるべし  みづからなすわざわひはのがれがたし
それしやくぜんのいへには  かならずよけいあり
またあくをこのむのところには  かならずよあうあり
ひととしていんとくあれば  かならずようほうあり
ひととしていんぎやうあれば  かならずしやうめいあり
しんりきけんごのかどには  さいくわのくもおこることなし
ねんりきごうせいのいへには  ふくゆうのつきひかりをます
こころふどうなるはおもてのごとし  たとへばみづのうつわにしたがふがごとし
たにんのゆみをひかざれ  たにんのうまにのらざれ
ぜんしやのくつがへるをみては  ごしやのいましめとす
ぜんじのわすれざるを  ごじのしとす
ぜんたつてなをながし  ちやうきはまつてわざはひおほし
ひとはししてなをとどめ  とらはししてかわをとどむ
こくどをおさむるけんわうは  くはんくわをあなどることなかれ
くんしはひとをほめず  すなはちたみあたをなす
さかひにいつてはいましめをとへ  くににいつてはくにをとへ
ごうにいつてはごうにしたがひ  ぞくにいつてはぞくにしたがひ
もんにいつてはまづいみなをとへ  しゆじんをうやまはんためなり
くんしよにわたくしのいみななく  むにのそんがうなり
ぐしやはゑんりよなし  かならずちかきうれひあるべし
くだをもちひててんをうかがふがごとし  きりをもちひてちをさすににたり
しんめいぐにんをばつす  ころすにあらずこらさしめんがためなり
しせうでしをうつ  にくむにあらずよからしめんがためなり
うまれながらにしてたつときものなし  ならひしゆしてちとくとなる
たつときものはかならずとめず  とめるものはいまだかならずたつとからず
とむといへどもこころによくおほければ  これをなづけてひんじんとす
まづしといへどもこころたんぬとほつせば  これをなづけてふくじんとす
しでしををしへず  これをなづけてはかいとす
しでしをかしやくす  これをなづけてぢかいとす
あしきでしをたくはゆれば  していぢごくにおつ
よきでしをやしなへば  していぶつくわにいたる
おしへにしたがはざるでしは  はやくふぼにかへすべし
くわせざるものをなだめんとぎすれば  おんできとなつてがいをくわふ
あくにんにしたがひてはなれざれば  つなげるいぬのはしらをめぐるがごとし
ぜんにんになれてはなれざれば  たいせんのうみにうかぶがごとし
よきともにずいじゆんすれば  あさのなかのよもぎのなをきがごとし
あしきともにしんきんすれば  やぶのなかのけいきよくのごとし
そにはなれそしにつく   かいぢやうゑのごうをならひ
こんじやうはぐどんといへども  このめばみづからがくゐにいたる
いちにちにいちじをまなべば  さんびやくろくじうじ
いちじせんきんにあたり  いつてんたしやうをたすく
いちにちのしをもおろそかにせざれば  いはんやすねんのしをや
しはさんぜのちぎり  そはいつせのむつみ
でししちしやくをさつて  しのかげをふむべからず
くはんをんはしかうのために  ほうくわんにみだをいただき
せいしはしんかうのために  かしらにふぼのこつをいただき
ほうへいにはつこつをおさめ  あしたにはやくおきててをあらひ
こころにせつしてきやうくはんをじゆせよ  ゆふべにおそくいねてあしをあらひ
せいをしづめてぎりをあんぜよ  ならひよめどもこころにいらざれば
ゑいいねてむつごとをかたるがごとし  せんくはんをよむともふくせざれば
ざいなくしてまちをのぞむがごとし  はくゑのふゆのよも
かんをしのんでつうやにじゆせよ  しよくとぼしきのなつのひ
うへをのぞいてひめもすならへ  さけにゑゑばこころきやうらんす
しよくすぐればがくもんにうむ  みあたたかなればすいめんをます
みやすければけだいおこる  きやうこうはやがくのために
かべをうがちてげつかうをまねく  そんけいはがくもんのために
とをとぢてひとをとふさず  そしんはがくもんのために
きりをももにさしてねむらず  しゆんけいはがくもんのために
なわをくびにかけてねむらず  しやいんはやがくをこのみ
ほたるをあつめてともしびとす  せんしはやがくをこのみ
ゆきをつんでともしびとす  きうぼくはこころにぶんをいれ
かんむりのおつるをしらず  かうほうはこころにぶんをいれ
むぎのながるるをしらず  れつしよくはきぬをおりながら
くちにしよをじゆしていきせず  げいくわんはこうさくしながら
こしにぶんをたいしてすてず  これらのひとはみな
ちうやがくもんをこのんで  ぶんさうこつかにみつ
ついにせきがくのくらいにいたる  たとひさいをみがきつつをふるとも
くちにはつねにきやうろんをじゆせよ  またゆみをけづりやをはぐとも
こしにはつねにぶんしよをさしはさめ  ちやうぎしんこをじゆし
こぼくこのみをむすぶ  きもうしきをじゆして
ここつあぶらづくことをえたり  はくゑいはくさいにしてはじめて
はやくはかせのくらいにいたる  そうししちじうにしてはじめて
がくをこのんでしふにのぼる  ちしやはげれつなりといへども
かうだいのかくにのぼる  ぐしやはかういなりといへども
なりのそこにおつ  ちしやのつくるつみは
おほいなれどもぢごくにおちず  ぐしやのつくるつみは
ちいさけれどもかならずぢごくにおつ  ぐしやはつねにはうれいをいだく
たとへばごくちうのとらはれのごとし  ちしやはつねにくはんらくす
なをくはういんてんのごとし  ちちのをんはやまよりたかく
しゆみせんなをひくし  ははのとくはうみよりふかく
さうめいかいかへつてあさし  はくこつはちちのゐん
しやくにくはははのいん  しやくびやくにたいくわして
ごたいしんぶんとなる  たいないにおることとつき
しんしんつねにくらうす  たいげにせうじてすねん
ふぼのよういくをかふむる  ひるはちちのひざにゐて
まてうにかふむることたねん  よるはははのふところにふして
にうみをついやすことすこく  あしたにはさんやにまじはり
ひづめをころしてさいしをやしなひ  くれにはこうかいにのぞみ
うろくづをすなどつてしんめいをたすく  たんぼのいのちをたすけんためなり
にちやあくごうをつくる  てうせきのこのあぢはひをたしなまんがためなり
たこうぢごくにおつ  おんをいただひておんをしらざるは
きのとりのえだをからすがごとし  とくをかふむつてとくをおもはざるは
ののしかのくさをそんずるがごとし  ゆうむそのちちをうつ
てんらいそのみをさく  はんふそのははをののしる
れいじやそのいのちをすふ  くわつきよははをやしなはんため
あなをほればこがねのかまをえたり  きやうしじふをさつて
みづをくめばにはにいづみをゑたり  もうそうちくちうになきしかば
しんせつのうちにたかんなをぬく  わうしやうなげいてこおりをたたけば
けんとうのうへにうをおどる  しゆんしもうふをやしなひ
ていきうせしかばりやうがんのひらく  けいきよらうぼをやしなひ
しよくをかめばよはひわかをなる  とうゑいいつしんをうつて
かうやうのみつぎにそなふ  やういひとりのははをおもひ
とらのまへになきしかばがいをまぬがる  がんうはかにつちをおへば
うてうきたつてはこびうづむ  きよぼくみづからはかをつくれば
せうはくしやうじてはかとなる  これらのひとはみな
ふぼにかうやうをいたし  ぶつじんれんみんをたれ
のぞむところことごとくじやうじゆす  せうじのいのちはむじやうなり
はやくねはんをよろこぶべし  ぼんのうのみはふじやうなり
すみやかにぼだいをもとむべし  いとふてもいとふべきはしやばなり
ゑしやぢやうりのくるしみ  おそれてもおそるべきはろくどうなり
しやうじやひつめつのかなしみ  じゆみやうはふゆうのごとし
あしたにせうじゆふべにしす  しんたいばせをのごとし
かぜにしたがつてやぶれやすく  りやうらきんしうは
まつたくめいどのたくはへにあらず  わうごんしゆぎよくは
ただいつせのざいほう  ゑいぐわゑいようは
さらにぶつだうのたすけにあらずば  くはんゐちやうしよくは
ただげんせのみやうもん  きくはくのちぎりをいたし
ろめいきえざるほど  ゑんわうのふすまをかさぬるも
しんたいやぶれざるあいだ  とうりまにでんも
せんげむじやうをなげく  たいぼんかうだいのかくも
くわけつとうのくるしみをかなしみ  しゆだつのじつとくも
むじやうをとどむることなし  あいくのしつぽうも
じゆみやうをかふことなし  ぐはつしがつきをかへせしいも
ゑんわうのつかひにしばられ  りやうていりやうをなげるちからも
ごくそつのつえにうたるる  ひともつともほどこしをおこなふべし
ふせはぼだいのかて  ひともつともざいをおしまざれ
ざいほうはぼだいのさはり  もしひとひんきうのみにて
ふせすべきざいなくば  たのふせをみるとき
ずいきのこころをしやうずべし  こころにかなしみていちにんにほどこせば
くどくだいかいのごとし  おのれがためにしよにんにほどこせば
むくひをうることけしのごとし  すなをあつめてとうをするひと
はやくわうごんのはだへをみがく  はなををりてほとけにくうずるともがらは
すみやかにれんだいのあなうらをむすぶ  いつくしんじゆのちから
てんりんわうのくらいにこへたり  はんげもんぼうのとく
さんぜんかいのたからにまされり  かみはすべからくぶつだうをもとむ
なかはしをんをほうずべし  しもはひとへにろくだうにおよぶ
ともにぶつだうなるべし  ようどうをゆういんせんため
ゐんぐわのだうりをぢうす  ないてんげてんよりいでたり
みるものひばうすることなかれ  きくものわらひをせうぜざれ


童子教終  書林 津宿屋町 雲出屋伊十郎

 

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