俳諧七部集


冬の日


冬の日  尾張五哥仙 全

(潁原退蔵編『〔校註〕俳諧七部集』〈昭和16年。明治書院刊〉による)



笠は長途の雨にほころび、紙衣はとまり/\のあらしにもめたり。侘つくしたるわび人、我さへあはれにおぼえける。むかし狂哥の才士、此国にたどりし事を、不図おもひ出て申侍る。
狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉 芭蕉
 たそやとばしるかさの山茶花 野水
有明の主水に酒屋つくらせて 荷兮
 かしらの露をふるふあかむま 重五
朝鮮の細りすゝきのにほひなき 杜国
 日のちり/\に野に米を苅 正平
わがいほは鷺にやどかすあたりにて 野水
 髮はやすまをしのぶ身のほど 芭蕉
いつはりのつらしと乳をしぼりすて 重五
 きえぬそとばにすご/\となく 荷兮
影法のあかつきさむく火を燒て 芭蕉
 あるじはひんにたえし虚家 杜国
田中なるこまんが柳落るころ 荷兮
 霧にふね引人はちんばか 野水
たそかれを横にながむる月ほそし 杜国
 となりさかしき町に下り居る 重五
二の尼に近衛の花のさかりきく 野水
 蝶はむぐらにとばかり鼻かむ 芭蕉
のり物に簾透顔おぼろなる 重五
 いまぞ恨の矢をはなつ声 荷兮
ぬす人の記念の松の吹おれて 芭蕉
 しばし宗祇の名を付し水 杜国
笠ぬぎて無理にもぬるゝ北時雨 荷兮
 冬がれわけてひとり唐苣 野水
しら/\と砕けしは人の骨か何 杜国
 烏賊はゑびすの国のうらかた 重五
あはれさの謎にもとけし郭公 野水
 秋水一斗もりつくす夜ぞ 芭蕉
日東の李白が坊に月を見て 重五
 巾に木槿をはさむ琵琶打 荷兮
うしの跡とぶらふ草の夕ぐれに 芭蕉
 箕に鮗の魚をいたゞき 杜国
わがいのりあけがたの星孕むべく 荷兮
 けふはいもとのまゆかきにゆき 野水
綾ひとへ居湯に志賀の花漉て 杜国
 廊下は藤のかげつたふ也 重五
 
おもへども壮年いまだころもを振はず
はつ雪のことしも袴きてかへる 埜水
 霜にまだ見る蕣の食 杜国
野菊までたづぬる蝶の羽おれて 芭蕉
 うづらふけれとくるまひきけり 荷兮
麻呂が月袖に鞨皷をならすらん 重五
 桃花をたをる貞徳の富 正平
雨こゆる浅香の田螺ほりうへて 杜国
 奧のきさらぎを只なきになく 埜水
床ふけて語ればいとこなる男 荷兮
 縁さまたげの恨みのこりし はせを
口おしと瘤をちぎるちからなき 野水
 明日はかたきにくび送りせん 重五
小三太に盃とらせひとつうたひ 芭蕉
 月は遅かれ牡丹ぬす人 杜国
縄あみのかゞりはやぶれ壁落て 重五
 こつ/\とのみ地蔵切町 荷兮
初はなの世とや嫁のいかめしく 杜国
 かぶろいくらの春ぞかはゆき 野水
櫛ばこに餅すゆるねやほのかなる かけい
 うぐひす起よ紙燭とぼして 芭蕉
篠ふかく梢は柿の蔕さびし 野水
 三線からん不破のせき人 重五
道すがら美濃で打ける碁を忘る 芭蕉
 ねざめ/\のさても七十 杜国
奉加めす御堂に金うちになひ 重五
 ひとつの傘の下挙りさす 荷兮
蓮池に鷺の子遊ぶ夕ま暮 杜国
 まどに手づから薄樣をすき 野水
月にたてる唐輪の髮の赤枯て 荷兮
 恋せぬきぬた臨済をまつ はせを
秋蝉の虚に声きくしづかさは 野水
 藤の実つたふ雫ほつちり 重五
袂より硯をひらき山かげに 芭蕉
 ひとりは典侍の局か内侍か 杜国
三ケの花鸚鵡尾ながの鳥いくさ 重五
 しらかみいさむ越の独活苅 荷兮
 
つえをひく事僅に十歩
つゝみかねて月とり落す齊かな 杜国
 こほりふみ行水のいなづま 重五
歯朶の葉を初狩人の矢に負て 野水
 北の御門をおしあけの春 芭焦
馬糞掻あふぎに風の打かすみ 荷兮
 茶の湯者おしむ野べの蒲公英 正平
らうたげに物よむ娘かしづきて 重五
 灯籠ふたつになさけくらぶる 杜国
つゆ萩のすまふ力を撰ばれず 芭蕉
 蕎麦さへ青し滋賀楽の坊 野水
朝月夜双六うちの旅ねして 杜国
 紅花買みちにほとゝぎすきく 荷兮
しのぶまのわざとて雛を作り居る 野水
 命婦の君より米なんどこす 重五
まがきまで津浪の水にくづれ行 荷兮
 仏喰たる魚解きけり 芭蕉
県ふるはな見次郎と仰がれて 重五
 五形菫の畠六反 とこく
うれしげに囀る雲雀ちり/\と 芭蕉
 真昼の馬のねぶたがほ也 野水
おかざきや矢矧の橋のながきかな 杜国
 庄屋のまつをよみて送りぬ 荷兮
捨し子は柴苅長にのびつらん 野水
 晦日をさむく刀売る年 重五
雪の狂呉の国の笠めづらしき 荷兮
 襟に高雄が片袖をとく はせを
あだ人と樽を棺に呑ほさん 重五
 芥子のひとへに名をこぼす禅 杜国
三ケ月の東は暗く鐘の声 芭蕉
 秋湖かすかに琴かへす者 野水
烹る事をゆるしてはぜを放ける 杜国
 声よき念仏薮をへだつる 荷兮
かげうすき行燈けしに起侘て 野水
 おもひかねつも夜るの帯引 重五
こがれ飛たましゐ花のかげに入 荷兮
 その望の日を我もおなじく はせを
 
なに波津にあし火焼家はすゝけたれど
炭売のをのがつまこそ黒からめ 重五
 人の粧ひを鏡磨寒 荷兮
花棘馬骨の霜に咲かへり 杜国
 鶴見るまどの月かすかなり 野水
かぜ吹ぬ秋の日瓶に酒なき日 芭蕉
 萩織るかさを市に振する 羽笠
加茂川や胡磨千代祭り徽近み 荷兮
 いはくらの聟なつかしのころ 重五
おもふこと布搗哥にわらはれて 野水
 うきははたちを越る三平 杜国
捨られてくねるか鴛の離れ鳥 羽笠
 火をかぬ火燵なき人を見む 芭蕉
門守の翁に紙子かりて寝る 重五
 血刀かくす月の暗きに 荷兮
霧下りて本郷の鐘七つきく 杜国
 冬まつ納豆たゝくなるべし 野水
はなに泣桜の黴とすてにける 芭蕉
 僧ものいはず欸冬を呑 羽笠
白燕濁らぬ水に羽を洗ひ 荷兮
 宣旨かしこく釵を鑄る 重五
八十年を三つ見る童母もちて 野水
 なかだちそむる七夕のつま 杜国
西南に桂のはなのつぼむとき 羽笠
 蘭の油に卜木うつ音 芭蕉
賤の家に賢なる女見てかへる 重五
 釣瓶に粟をあらふ日のくれ 荷兮
はやり来て撫子かざる正月に 杜国
 つゞみ手向る弁慶の宮 野水
寅の日の旦を鍛冶の急起て 芭蕉
 雲かうばしき南京の地 羽笠
いがきして誰ともしらぬ人の像 荷兮
 泥にこゝろのきよき芹の根 重五
粥すゝるあかつき花にかしこまり やすい
 狩衣の下に鎧ふ春風 芭蕉
北のかたなく/\簾おしやりて 羽笠
 ねられぬ夢を責るむら雨 杜国
 
田家眺望
霜月や鸛の彳々ならびゐて 荷兮
 冬の朝日のあはれなりけり 芭蕉
樫檜山家の体を木の葉降 重五
 ひきずるうしの塩こぼれつゝ 杜国
音もなき具足に月のうす/\と 羽笠
 酌とる童蘭切にいで 野水
秋のころ旅の御連歌いとかりに 芭蕉
 漸くはれて富士みゆる寺 荷兮
寂として椿の花の落る音 杜国
 茶に糸遊をそむる風の香 重五
雉追に烏帽子の女五三十 野水
 庭に木曾作るこひの薄衣 羽笠
なつふかき山橘にさくら見ん 荷兮
 麻かりといふ哥の集あむ 芭蕉
江を近く独楽菴と世を捨て 重五
 我月出よ身はおぼろなる 杜国
たび衣笛に落花を打払 羽笠
 籠輿ゆるす木瓜の山あい 野水
骨を見て坐に泪ぐみうちかへり 芭蕉
 乞食の蓑をもらふしのゝめ 荷兮
泥のうへに尾を引鯉を拾ひ得て 杜国
 御幸に進む水のみくすり 重五
ことにてる年の小角豆の花もろし 野水
 萱屋まばらに炭団つく臼 羽笠
芥子あまの小坊交りに打むれて 荷兮
 おるゝはすのみたてる蓮の実 芭蕉
しづかさに飯台のぞく月の前 重五
 露をくきつね風やかなしき 杜国
釣柿に屋根ふかれたる片庇 羽笠
 豆腐つくりて母の喪に入 野水
元政の草の袂も破ぬべし 芭蕉
 伏見木幡の鐘はなをうつ かけゐ
いろふかき男猫ひとつを捨かねて 杜国
 春のしらすの雪はきをよぶ 重五
水干を秀句の聖わかやかに 野水
 山茶花匂ふ笠のこがらし うりつ
 
   追加
いかに見よと難面うしをうつ霰 羽笠
 樽火にあぶるかれはらの松 荷兮
とくさ苅下着に髪をちやせんして 重五
 檜笠に宮をやつす朝露 杜国
銀に蛤かはん月は海 芭蕉
 ひだりに橋をすかす岐阜山 野水
  貞享甲子歳

   京寺田二条上ル町 井筒屋庄兵衛板
 
 






春の日
春の日   全

(潁原退蔵編『〔校註〕俳諧七部集』〈昭和16年。明治書院刊〉による)


曙見んとル人/\の戸扣あひて、熱田のかたにゆきぬ。渡し舟さはがしくなりゆく比、并松のかたも見へわたりて、いとのどかなり。重五が枝折をける竹墻ほどちかきにたちより、けさのけしきをおもひ出侍る。
   二月十八日
春めくや人さま/゛\の伊勢まいり 荷兮
 桜ちる中馬ながく連 重五
山かすむ月一時に館立て 雨桐
 鎧ながらの火にあたる也 李風
しほ風によく/\聞ば鴎なく 昌圭
 くもりに沖の岩黒く見へ 執筆
須磨寺に汗の帷子脱かへむ 重五
 をの/\なみだ笛を戴く 荷兮
文王のはやしにけふも土つりて 李風
 雨の雫の角のなき草 雨桐
肌寒み一度は骨をほどく世に 荷兮
 傾城乳をかくす晨明 昌圭
霧はらふ鏡に人の影移り 雨桐
 わや/\とのみ御輿かく里 重五
鳥居より半道奥の砂行て 昌圭
 花に長男の帋鳶あぐる比 李風
柳よき陰ぞこゝらに鞠なきや 重五
 入かゝる日に蝶いそぐなり 荷兮
うつかりと麦なぐる家に連待て 李風
 かほ懐に梓きゝゐる 雨桐
黒髪をたばぬるほどに切残し 荷兮
 いともかしこき五位の針立 昌圭
松の木に宮司が門はうつぶきて 雨桐
 はだしの跡も見へぬ時雨ぞ 重五
朝朗豆腐を鳶にとられける 昌圭
 念仏さぶげに秋あはれ也 李風
穂蓼生ふ蔵を住ゐに侘なして 重五
 我名を橋の名によばる月 荷兮
傘の内近付になる雨の昏に 李風
 朝熊おるゝ出家ぼく/\ 雨桐
ほとゝぎす西行ならば哥よまん 荷兮
 釣瓶ひとつを二人してわけ 昌圭
世にあはぬ局涙に年とりて 雨桐
 記念にもらふ嵯峨の苣畑 重五
いく春を花と竹とにいそがしく 昌圭
 弟も兄も鳥とりにゆく 李風
 
   三月六日野水亭にて
なら坂や畑うつ山の八重ざくら 旦藁
 おもしろふかすむかた/゛\の鐘 野水
春の旅節供なるらん袴着て 荷兮
 口すゝぐべき清水ながるゝ 越人
松風にたをれぬ程の酒の酔 羽笠
 売のこしたる虫はなつ月 執筆
笠白き太秦祭過にけり 野水
 菊ある垣によい子見てをく 旦藁
表町ゆづりて二人髪剃ん 越人
 暁いかに車ゆくすじ 荷兮
鱈負ふて大津の浜に入にけり 旦藁
 何やら聞ん我国の声 越人
旅衣あたまばかりを蚊やかりて 羽笠
 萩ふみたをす万日のはら 野水
里人に薦を施す秋の雨 越人
 月なき浪に重石をく橋 羽笠
ころびたる木の根に花の鮎とらん 野水
 諷尽せる春の湯の山 旦藁
のどけしや筑紫の袂伊勢の帯 越人
 内侍のえらぶ代々の眉の図 荷兮
物おもふ軍の中は片わきに 羽笠
 名もかち栗とぢゞ申上ゲ 野水
大年は念仏となふる恵美酒棚 旦藁
 ものごと無我によき隣也 越人
朝夕の若葉のために枸杞うへて 荷兮
 宮古に廿日はやき麦の粉 羽笠
一夜かる宿は馬かふ寺なれや 野水
 こは魂まつるきさらぎの月 旦藁
陽炎のもへのこりたる夫婦にて 越人
 春雨袖に御哥いたゞく 荷兮
田を持て花みる里に生けり 羽笠
 力の筋をつぎし中の子 野水
漣や三井の末寺の跡とりに 旦藁
 高びくのみぞ雪の山/\ 越人
見つけたり廿九日の月さむき 荷兮
 君のつとめに氷ふみわけ 羽笠
 
   三月十六日、旦藁が田家にとまりて
蛙のみきゝてゆゝしき寝覚かな 野水
 額にあたるはる雨のもり 旦藁
蕨烹る岩木の臭き宿かりて 越人
 まじ/\人をみたる馬の子 荷兮
立てのる渡しの舟の月影に 冬文
 蘆の穂を摺る傘の端 執筆
磯ぎはに施餓鬼の僧の集て 旦藁
 岩のあひより蔵みゆる里 野水
雨の日も瓶焼やらん煙たつ 荷兮
 ひだるき事も旅の一つに 越人
尋よる坊主は住まず錠おりて 野水
 解てやをかん枝むすぶ松 冬文
今宵は更たりとてやみぬ。同十九日、荷兮室にて
咲わけの菊にはおしき白露ぞ 越人
 秋の和名にかゝる順 旦藁
初雁の声にみづから火を打ぬ 冬文
 別の月になみだあらはせ 荷兮
跡ぞ花四の宮よりは唐輪にて 旦藁
 春ゆく道の笠もむつかし 野水
永き日や今朝を昨日に忘るらん 荷兮
 簀の子茸生ふる五月雨の中 越人
紹鴎が瓢はありて米はなく 野水
 連哥のもとにあたるいそがし 冬文
滝壷に柴押まげて音とめん 越人
 岩苔とりの籠にさげられ 旦藁
むさぼりに帛着てありく世の中は 冬文
 莚二枚もひろき我菴 越人
朝毎の露あはれさに麦作ル 旦藁
 碁うちを送るきぬ/゛\の月 野水
風のなき秋の日舟に網入よ 荷兮
 鳥羽の湊のおどり笑ひに 冬文
あらましのざこね筑摩も見て過ぬ 野水
 つら/\一期聟の名もなし 荷兮
我春の若水汲に昼起て 越人
 餅を喰つゝいはふ君が代 旦藁
山は花所のこらず遊ぶ日に 冬文
 くもらずてらず雲雀鳴也 荷兮
 
   追加
   三月十九日舟泉亭
山吹のあぶなき岨のくづれ哉 越人
 蝶水のみにおるゝ岩はし 舟泉
きさらぎや餅洒すべき雪ありて 聴雪
 行幸のために洗ふ土器 螽髭
朔日を鷹もつ鍛冶のいかめしく 荷兮
 月なき空の門はやくあけ 執筆


昌陸の松とは尽ぬ御代の春 利重
元日の木の間の競馬足ゆるし 重五
初春の遠里牛のなき日哉 昌圭
けさの春海はほどあり麦の原 雨桐
門は松芍薬園の雪さむし 舟泉
鯉の音水ほの闇く梅白し 羽笠
舟/\の小松に雪の残けり 旦藁
曙の人顔牡丹霞にひらきけり 杜国
腰てらす元日里の睡リかな 犀夕
星はら/\かすまぬ先の四方の色 呑霞
けふとても小松負ふらん牛の夢 聴雪
朝日二分柳の動く匂ひかな 荷兮
先明て野の末ひくき霞かな 同
芹摘とてこけて酒なき瓢哉 旦藁
   のがれたる人の許へ行とて
見かへれば白壁いやし夕がすみ 越人
古池や蛙飛こむ水のをと 芭蕉
傘張の睡リ胡蝶のやどり哉 重五
山や春墻根/\の酒ばやし 亀洞
花にうづもれて夢より直に死んかな 越人
   春野吟
足跡に桜を曲る菴二つ 杜国
麓寺かくれぬものはさくらかな 李風
榎木まで桜の遅きながめかな 荷兮
   餞別
藤の花たゞうつぶいて別哉 越人
山畑の茶つみをかざす夕日かな 重五
蚊ひとつに寐られぬ夜半ぞ春のくれ 同


ほとゝぎすその山鳥の尾は長し 九白
郭公さゆのみ焼てぬる夜哉 李風
かつこ鳥板屋の脊戸の一里塚 越人
うれしさは葉がくれ梅の一つ哉 杜国
若竹のうらふみたるゝ雀かな 亀洞
傘をたゝまで蛍見る夜哉 舟泉
   武蔵坊をとぶらふ
すゞかけやしてゆく空の衣川 商露
   逢坂の夜は、笠見ゆるほどに明て
馬かへておくれたりけり夏の月 聴雪
   老●(ミミヘンに「冉」)曰知足之足常足
夕がほに雑水暑き藁屋哉 越人
箒木の微雨こぼれて鳴蚊哉 柳雨
はゝき木はながむる中に昏にけり 塵交
萱草は随分暑き花の色 荷兮
蓮池のふかさわするゝ浮葉かな 同
暁の夏陰茶屋の遅きかな 昌圭
夏川の音に宿かる木曾路哉 重五
   譬喩品ノ三界無安猶如火宅といへる心を
六月の汗ぬぐひ居る台かな 越人


脊戸の畑なすび黄はみてきり/゛\す 旦藁
   貧家の玉祭
玉まつり柱にむかふ夕かな 越人
雁きゝて又一寐入する夜かな 雨桐
雲折/\人をやすむる月見哉 芭蕉
山寺に米つくほどの月夜哉 越人
瓦ふく家も面白や秋の月 野水
   八島をかける屏風の絵をみて
具足着て顔のみ多し月見舟 野水
   待恋
来ぬ殿を唐黍高し見おろさん 荷兮
   閑居増恋
秋ひとり琴柱はづれて寐ぬ夜かな 荷兮
朝皃はすゑ一りんに成にけり 舟泉


馬はぬれ牛は夕日の村しぐれ 杜国
   芭蕉翁を宿し侍りて
霜寒き旅寐に蚊屋を着せ申 大垣住如行
雪のはら蕣の子の薄かな 昌碧
馬をさへながむる雪のあした哉 芭蕉
行燈の煤けぞ寒き雪のくれ 越人
   芭蕉翁をおくりてかへる時
この比の氷ふみわる名残かな 杜国
   隠士にかりなる室をもうけて
あたらしき茶袋ひとつ冬籠 荷兮
  貞享三丙寅年仲秋下浣   寺田重徳板
 
 


阿羅野


阿羅野   上、下、員外
 
(潁原退蔵編『〔校註〕俳諧七部集』〈昭和16年。明治書院刊〉による)
 


尾陽蓬左橿木堂主人荷兮子、集を編て名をあらのといふ。何故に此名有事をしらず。予はるかにおもひやるに、ひとゝせ此郷に旅寐せしおり/\の云捨、あつめて冬の日といふ。其日かげ相続て春の日また世にかゞやかす。げにや衣更着やよひの空のけしき、柳桜の錦を争ひ、てふ鳥のをのがさま/゛\なる風情につきていさゝか実をそこなふものもあればにや、いといふのいとかすかなる心のはしの、有かなきかにたどりて、姫ゆりのなにゝもつかず、雲雀の大空にはなれて、無景のきはまりなき、道芝のみちしるべせむと、此野の原の野守とはなれるべらし。
 元禄二年弥生
                     芭蕉桃青
 

荒野集日録
巻之一
 花 郭公 月 雪
巻之二
 歳旦 初春 仲春 暮春
巻之三
 初夏 仲夏 暮夏
巻之四
 初秋 仲秋 暮秋
巻之五
 初冬 仲冬 歳暮
巻之六
 雑
巻之七
 名所 旅 述懐 恋 無常
巻之八
 釈教 神祇 祝
員外
 
曠野集 巻之一

  花 三十句
  よしのにて
これは/\とばかり花の芳野山 貞室
我まゝをいはする花のあるじ哉 路通
薄曇りけだかくはなの林かな 信徳
はなのやまどことらまへて哥よまむ 晨風
暮淋し花の後の鬼瓦 友五
山里に喰ものしゐる花見かな 尚白
何事ぞ花みる人の長刀 去来
みねの雲すこしは花もまじるべし 野水
はなのなか下戸引て来るかいな哉 亀洞
下々の下の客といはれん花の宿 越人
はなの山常折くぶる枝もなし 一井
見あげしがふもとに成ぬ花の滝 津島俊似
兄弟のいろはあげゝり花のとき 鼠弾
ちるはなは酒ぬす人よ/\ 舟泉
冷汁に散てもよしや花の陰 胡及
はつ花に誰が傘ぞいまいまし 長虹
柴舟の花咲にけり宵の雨 津島卜枝
おるときになりて逃けり花の枝 岐阜鴎外
連だつや従弟はおうし花の時 荷兮
疱瘡の跡まだ見ゆるはな見哉 傘下
あらけなや風車売花のとき 薄芝
花にきてうつくしく成心哉 たつ
山あひのはなを夕日に見出したり 心苗
おもしろや理窟はなしに花の雲 越人
なりあひやはつ花よりの物わすれ 野水
独来て友選びけり花のやま 冬松
花鳥とこけら葺ゐる尾上かな 冬文
首出して岡の花見よ蚫とり 荷兮
  酒のみ居たる人の絵に
月花もなくて酒のむひとり哉 芭蕉
  ある人の山家にいたりて
橿の木のはなにかまはぬすがた哉 同
 
  杜宇 二十句
  ほとゝぎすを飼をくものに求得て放やるときに
鳥籠の憂目見つらん郭公 季吟
目には青葉山ほとゝぎす初がつほ 素堂
いそがしきなかに聞けり蜀魄 釣雪
蝋燭のひかりにくしやほとゝぎす 越人
おひし子の口まねするや時鳥 津島松下
跡や先気のつく野辺の郭公 重五
ほとゝぎすどれからきかむ野の広き 柳風
  ある人のもとにて発句せよと有ければ
ほとゝぎすはゞからもなき烏かな 鼠弾
晴ちぎる空鳴行やほとゝぎす 落梧
蚊屋臭き寐覚うつゝや時鳥 一髪
三声ほど跡のおかしや郭公 同
  淀にて
ほとゝぎす十日もはやき夜舟哉 風泉
嬉しさや寐入らぬ先のほとゝぎす 岐阜杏雨
あぶなしや今起て聞郭公 傘下
くらがりや力がましきほとゝぎす 同
馬と馬よばりあひけり時鳥 鈍可
  たゞありあけの月ぞのこれると吟じられしに
哥がるたにくき人かなほとゝぎす 大津智月
うつかりとうつぶきゐたり時鳥 李桃
うつかりと森の心ぞほとゝぎす
 
  月 三十句
かる/゛\と笹のうへゆく月夜哉 十二歳梅舌
それがしも月見る中の独かな 湍水
月ひとつばひとりがちの今宵哉 一雪
雨の月どこともなしの薄あかり 越人
けうとさに少脇むく月夜哉 昌碧
屋わたりの宵はさびしや月の影 津島市柳
おかしげにほめて詠る月夜哉 一髪
どこまでも見とをす月の野中哉 長虹
峠迄硯抱て月見かな 任他
一つ屋やいかいこと見るけふのつき 亀洞
名月は夜明るきはもなかりけり 越人
名月やとしに十二は有ながら 文鱗
名月やかいつきたてゝつなぐ舟 昌碧
めいげつやはだしでありく草の中 傘下
名月や皷の声と犬のこゑ 二水
見るものと覚えて人の月見哉
  名月の心いそぎに
むつかしと月を見る日は火も焼かじ 荷兮
いつの月もあとを忘れて哀也 同
名月や海もおもはず山も見ず 去来
めいげつや下戸と下戸とのむつまじき 胡及
めいげつはありきもたらぬ林かな 釣雪
宵に見し橋はさびしや月の影 一髪
  十三夜
影ふた夜たらぬ程見る月夜哉 杉風
  朔日
暮いかに月の気もなし海の果 荷兮
  二日
見る人もたしなき月の夕かな 同
  三日
何事の見たてにも似ず三かの月 芭蕉
  四日
夕月夜あんどんけしてしばしみむ 卜枝
  五日
何日とも見さだめがたや宵の月 伊予一泉
  六日
銀川見習ふ比や月のそら 岡崎鶴声
  七日
能ほどにはなして帰る月夜哉 岐阜一髪
 
  雪 二十句
  大津にて
雪の日や船頭どのゝ顔の色 其角
いざゆかむ雪見にころぶ所まで 芭蕉
竹の雪落て夜るなく雀かな 塵交
かさなるや雪のある山只の山 京加生
車道雪なき冬のあした哉 加賀小春
はつ雪を見てから顔を洗けり 越人
はつ雪に戸明ぬ留主の菴かな 是幸
ものかげのふらぬも雪の一つ哉 松芳
くらき夜に物陰見たり雪の隈 二水
雪降て馬屋にはいる雀かな 鳧仙
夜の雪おとさぬやうに枝折らん 岐阜除風
ゆきの日や川筋ばかりほそ/゛\と 鷺汀
初雪やおしにぎる手の寄麗也 傘下
雪の江の大舟よりは小舟かな 芳川
雪の朝から鮭わくる声高し 冬文
雪の暮猶さやけしや鷹の声 桂夕
ちら/\や淡雪かゝる酒強飯 荷兮
はつ雪や先草履にて隣まで 路通
はかられし雪の見所有り所 野水
舟かけていくかふれども海の雪 芳川
 
 
曠野集 巻之二

  歳旦
二日にもぬかりはせじな花の春 芭蕉
たれ人の手がらもからじ花の春 釈古梵
わか水や凡千年のつるべ縄 風鈴軒
松かざり伊勢が家買人は誰 其角
うたか否連歌にあらずにし肴 文鱗
月雪のためにもしたし門の松 去来
かざり木にならで年ふる柏哉 一晶
元朝や何となけれど遅ざくら 路通
元日は明すましたるかすみ哉 加賀一笑
歯固に梅の花かむにほひかな 大垣如行
ふたつ社老にはたらねとしの春 岐阜落梧
若水をうちかけて見よ雪の梅 亀洞
伊勢浦や御木引休む今朝の春 同
ことぶきの名をつけて見む宿の梅 昌碧
去年の春ちいさかりしが芋頭 元広
小柑子栗やひろはむまつのかど 舟泉
とし男千秋楽をならひけり 同
山柴にうら白まじる竃かな 重五
松高し引馬つるゝ年おとこ 釣雪
月花の初は琵琶の木どり哉 同
連てきて子にまはせけり万歳楽 一井
うら白もはみちる神の馬屋哉 胡及
見あぼえむこや新玉の年の海 長虹
今朝と起て縄ぶしほどく柳哉 鼠弾
さほ姫やふかいの面いかならむ 同
蓬莱や舟の匠のかんなくず 湍水
仏より神ぞたうとき今朝の春 京とめ
のゝ宮やとしの旦はいかならん 朴什
かざりにとたが思ひだすたはら物 冬文
正月の魚のかしらや炭だはら 傘下
けさの春寂しからざる閑かな 冬松
あい/\に松なき門もおもしろや 柳風
大服は去年の青葉の匂哉 防川
鶯の声聞まいれ年おとこ 犬山昌勝
傘に歯朶かゝりけりえ方だな 夕道
袖すりて松の葉契る今朝の春 梅舌
たてゝ見む霞やうつる大かゞみ 野水
曙は春の初やだうぶくら 同
はつ春のめでたき名なり賢魚々 越人
初夢や浜名の橋の今のさま 同
しづやしづ御階にけふの麦厚し 荷兮
万歳のやどを隣に明にけり 同
巳のとしやむかしの春のおぼつかな 同
我は春目かどに立るまつ毛哉 僧般斎
我等式が宿にも来るや今朝の春 貞室
 
  初春
若菜つむ跡は木を割畑哉 越人
精出して摘とも見えぬ若菜哉 野水
七草をたゝきたがりて泣子かな 津島俊似
女出て鶴たつあとの若菜哉 加賀小春
側濡て袂のおもき磯菜かな 藤羅
吾うらも残してをかぬ若菜哉 岐阜素秋
石釣てつぼみたる梅折しけり 玄察
鷹居て折にもどかし梅の花 鴎歩
むめの花もの気にいらぬけしき哉 越人
薮見しれもどりに折らん梅の花 落梧
梅折てあたら見廻す野中かな 一髪
華もなきむめのすはいぞ頼もしき 冬松
みのむしとしれつる梅のさかり哉 蕉笠
  網代民部の息に逢て
梅の木になをやどり木や梅の花 芭蕉
うぐひすの鳴そこなへる嵐かな 長良若風
鶯の鳴や餌ひろふ片手にも 去来
あけぼのや鶯とまるはね釣瓶 伊賀一桐
鶯にちいさき薮も捨られじ 津島一笑
うぐひすの声に脱たる頭巾哉 同市柳
鶯になじみもなきや新屋敷 同夢々
うぐひすに水汲こぼすあした哉 梅舌
さとかすむ夕をまつの盛かな 野水
行/\て程のかはらぬ霞哉 塵交
行人の蓑をはなれぬ霞かな 冬文
かれ芝やまだかげろふの一二寸 芭蕉
かげろふや馬の眼のとろ/\と 傘下
水仙の見る間を春に得たりけり 路通
蝶鳥を待るけしきやものゝ枝 荷兮
 当座題
  さし木
つきたかと児のぬき見るさし木哉 舟泉
  接木
つまの下かくしかねたる継穂かな 傘下
  椿
暁の釣瓶にあがるつばきかな 荷兮
  同
薮深く蝶気のつかぬつばき哉 卜枝
  春雨
はる雨はいせの望一がこより哉 湍水
  同
春の雨弟どもを呼でこよ 鼠弾
  白尾鷹
はやぶさの尻つまげたる白尾哉 野水
蛛の井に春雨かゝる雫かな 奇生
立臼に若草見たる明屋哉 十一歳亀助
すご/\と親子摘けりつく/\し 舟泉
すご/\と摘やつまずや土筆 其角
すご/\と案山子のけけり土筆 蕉笠
土橋やよこにはへたるつく/\し 塩車
川舟や手をのべてつむ土筆 冬文
つく/\し頭巾にたまるひとつより 青江
 蘭亭の主人池に鵝を愛せられしは筆意有故也
池に鵝なし仮名書習ふ柳陰 素堂
風の吹方を後のやなぎ哉 野水
何事もなしと過行柳哉 越人
さし柳たゞ直なるもおもしろし 一笑
尺ばかりはやたはみぬる柳哉 小春
すがれ/\柳は風にとりつかむ 一笑
とりつきて筏をとむる柳哉 昌碧
さはれども髪のゆがまぬ柳哉 杏雨
みじかくて垣にのがるゝ柳哉 此橋
ふくかぜに牛のわきむく柳哉 杏雨
吹風に鷹かたよするやなぎ哉 松芳
かぜふかぬ日はわがなりの柳哉 校遊
いそがしき野鍛冶をしらぬ柳哉 荷兮
蝙蝠にみだるゝ月の柳哉 同
青柳にもたれて通す車哉 素秋
引いきに後へころぶ柳かな 鴎歩
菊の名は忘れたれども植にけり 生林
 
  仲春
麦の葉に菜のはなかゝる嵐哉 不悔
菜の花や杉菜の土手のあい/\に 長虹
なの花の座敷にうつる日影哉 傘下
菜の花の畦うち残すながめ哉 清洞
うごくとも見えで畑うつ麓かな 去来
万歳を仕舞ふてうてる春田哉 昌碧
つばきまで折そへらるゝさくら哉 越人
広庭に一本植しさくら哉 笑艸
とき/゛\は蓑干さくら咲にけり 除風
手のとゞくほどはおらるゝ桜哉 一橋
うしろより見られぬ岨の桜哉 冬松
すご/\と山やくれけむ遅ざくら 一髪
はる風にちからくらぶる雲雀哉 野水
あふのきに寐てみむ野辺の雲雀哉 除風
高声につらをあかむる雉子かな 一雪
行かゝり輪縄解てやる雉子哉 塩車
手をついて哥申あぐる蛙かな 山崎宗鑑
鳴立ていりあひ聞ぬかはづかな 落梧
あかつきをむつかしさうに鳴蛙 越人
いくすべり骨おる岸のかはづ哉 去来
飛入てしばし水ゆく蛙かな 落梧
不図とびて後に居なをる蛙哉 津島松下
ゆふやみの唐網にいる蛙かな 一井
はつ蝶を児の見出す笑ひ哉 柳風
●櫚の葉にとまらで過る胡蝶哉 梅餌
かやはらの中を出かぬるこてふかな 炊玉
かれ芝や若葉たづねて行胡蝶 百歳
 
  暮春
何の気もつかぬに土手の菫哉 忠知
ねぶたしと馬には乗らぬ菫草 荷兮
ほうろくの土とる跡は菫かな 野水
昼ばかり日のさす洞の菫哉 舟泉
草刈て菫選出す童かな 鴎歩
行蝶のとまり残さぬあざみ哉 燭遊
麦畑の人見るはるの塘かな 杜国
はげ山や朧の月のすみ所 大坂式之
ほろ/\と山吹ちるか滝の音 芭蕉
松明にやま吹うすし夜のいろ 野水
山吹とてふのまぎれぬあらし哉 卜枝
一重かと山吹のぞくゆふべかな 岐阜襟雪
とりつきてやまぶきのぞくいはね哉 同蓬雨
あそぶともゆくともしらぬ燕かな 去来
去年の巣の土ぬり直す燕かな 俊似
いまきたといはぬばかりの燕かな 長之
燕の亀を覗行すゞめかな 長虹
黄昏にたてだされたる燕哉 鼠弾
友減て鳴音かいなや夜の鴈 旦藁
角落てやすくも見ゆる小鹿哉 蕉笠
なら漬に親よぶ浦の塩干哉 越人
おやも子も同じ飲手や桃の酒 傘下
人霞む舟と陸との塩干かな 三輪友重
山まゆに花咲かぬる躑躅かな 荷兮
朧夜やながくてしろき藤の花 兼正
●(タケカンムリ+「冊」)火に藤のすゝけぬ鵜舟かな 亀洞
永き日や鐘突跡もくれぬ也 卜枝
永き日や油しめ木のよはる音 野水
行春のあみ塩からを残しけり 同
 
曠野集 巻之三
  初夏
ころもがへや白きは物に手のつかず 路通
更衣襟もおらずやだゞくさに 傘下
ころもがへ刀もさして見たき哉 釈鼠弾
  肖柏老人のもちたまひしあらし山といふ香を、馬のはなむけに文鱗がくれけるとて、雪の朝越人が持きたるを忘れがたく、明るわ
か葉の比文鱗に申つかはしける
髭に焼香もあるべしころもがへ 荷兮
  山路にて
なつ来てもたゞひとつ葉の一つ哉 芭蕉
いちはつはおとこなるらんかきつばた 一井柿の木のいたり過たる若葉哉 越人
切かぶのわか葉を見れば桜哉 岐阜不交
若葉からすぐにながめの冬木哉 同藤蘿
わけもなくその木/\の若葉哉 亀洞
ひら/\とわか葉にとまる故蝶哉 竹洞
ゆあびして若葉見に行夕かな 鈍可
はげ山や下行水の沢卯木 夢々
上ゲ土にいつの種とて麦一穂 玄寮
枯色は麦ばかり見る夏の哉 生林
麦かりて桑の木ばかり残りけり 作者不知
むぎがらにしかるゝ里の葵かな 鈍可
しら芥子にはかなや蝶の鼠いろ 嵐蘭
鳥飛であぶなきけしの一重哉 落梧
けし散て直に実を見る夕哉 岐阜李桃
大粒な雨にこたえし芥子の花 東巡
散たびに児ぞ拾ひぬ芥子の花 吉次
  深川の庵にて
菴の夜もみじかくなりぬすこしづゝ 嵐雪
さびしさの色はおぼえずかつこ鳥 野水
  仲夏
宵の間は笹にみだるゝ蛍かな 桜井元輔
刈草の馬屋に光るほたるかな 一髪
窓くらき障子をのぼる蛍哉 不交
闇きよりくらき人呼蛍かな 風笛
道細く追はれぬ沢の蛍かな 青江戸
あめの夜は下ばかり行蛍かな 含帖
くさかりの袖より出るほたる哉 卜枝
水汲て濡たる袖のほたるかな 鴎歩
  はじめて葎室をとぶらはれける比
こゝらかとのぞくあやめの軒端哉 秋芳
蚊のむれて栂の一木の曇けり 小春
かやり火に寐所せまくなりにけり 杏雨
雨のくれ傘のぐるりに鳴蚊かな 二水
蚊の痩て鎧のうへにとまりけり 一笑
藻の花をかづける蜑の鬘かな 胡及
塩引て藻の花しぼむ暑さかな 児竹
足伸べて姫百合艸おらす昼ね哉 此橘
竹の子に行燈さげてまはりけり 長虹
笋の時よりしるし弓の竹 去来
聞おればたゝくでもなき水鶏哉 野水
五月雨に柳きはまる汀かな 大津一龍
この比は小粒になりぬ五月雨 尚白
五月雨は傘に音なきを雨間哉 亀洞
  岐阜にて
おもしろうさうしさばくる鵜縄哉 貞室
  おなじ所にて
おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉 芭蕉
  おなじく
鵜のつらに●(タケカンムリ+「冊」)こぼれて憐也
  同
声あらば鮎も鳴らん鵜飼舟 越人
先ふねの親もかまはぬ鵜舟哉 大津淳児
曲江に●(タケカンムリ+「冊」)の見えぬうぶねかな 梅餌
鴨の巣の見えたりあるはかくれたり 路通
松笠の緑を見たる夏野哉 卜枝
虹の根をかくす野中の樗哉 鈍可
蘭の花や泥によごるゝ宵の雨 同
撫子や蒔絵書人をうらむらん 越人
冷じや灯のこる夏のあさ 藤羅
夏の夜やたき火に簾見ゆる里 旦藁
  菴の留守に
すびつさへすごきに夏の炭俵 其角
夕がほや秋はいろ/\の瓢かな 芭蕉
ゆふがほのしぼむは人のしらぬ也 野水
夕皃は蚊の鳴ほどのくらさ哉 偕雪
山路来て夕がほみたるのなか哉 津島市柳
名はへちまゆふがほに似て哀也 長虹
  暮夏
楠も動くやう也蝉の声 昌碧
雲の峰腰かけ所たくむなり 野水
夕立に干傘ぬるゝ垣穂かな 傘下
すゞしさに榎もやらぬ木陰哉 玄旨法師
涼しさよ白雨ながら入日影 去来
簾して涼しや宿のはいりぐち 荷兮
はき庭の砂あつからぬ曇哉 同
おもはずの人に逢けり夕涼み 鳴海如風
飛石の石龍や草の下涼み 津島俊似
涼しさや楼の下ゆく水の音 同
挑燈のどこやらゆかし涼み舟 卜枝
すゞしさをわすれてもどる川辺哉 未学
吹ちりて水のうへゆく蓮かな 岐阜秀正
蓮みむ日にさかやきはわるゝとも 松坂晨風
笠を着てみな/\蓮に暮にけり 古梵
河骨に水のわれ行ながれ哉 芙水
はら/\としみづに松の古葉哉 長虹
すみきりて塩干の沖の清水哉 俊似
連あまた待せて結ぶし水哉 文調
引立て馬にのまするし水かな 潦月
かたびらは浅黄着て行清水哉 尚月
直垂をぬがずに結ぶしみづかな 一髪
虫ぼしや幕をふるえばさくら花 卜枝
麻の露皆こぼれけり馬の路 岐阜李晨
釣鐘草後に付たる名なるベし 越人
綿の花たま/\蘭に似たるかな 素堂
 
曠野集 巻之四

  初秋
ちからなや麻刈あとの秋の風 越人
梧の葉やひとつかぶらん秋の風 円解
  松島雲居の寺にて
一葉散音かしましきばかり也 仙化
かたびらのちゞむや秋の夕げしき 津島方生
男くさき羽織を星の手向哉 杏雨
朝皃は酒盛しらぬさかりかな 芭蕉
蕣や桓ほのまゝのじだらくさ 文鱗
あさがほの白きは露も見へぬ也 荷兮
  子を守るものにいひし詞の句になりて
朝顔をその子にやるなくらふもの 同
隣なるあさがほ竹にうつしけり 鴎歩
あさがほやひくみの水に残る月 胡及
葉より葉にものいふやうや露の音 鼠弾
秋風やしらきの弓に弦はらん 去来
涼しさは座敷より釣鱸かな 昌長
畦道に乗物すゆるいなばかな 鷺汀
まつむしは通る跡より鳴にけり 一髪
きり/゛\す燈台消て鳴にけり 素秋
あの雲は稲妻を待たより哉 芭蕉
いなづまやきのふは東けふは西 其角
ふまれてもなをうつくしや萩の花 舟泉
ひよろ/\と猶露けしや女郎花 芭蕉
棚作ルはじめさびしき蒲萄哉 作者不知
草ばう/\からぬも荷ふ花野哉 伏見任口
もえきれて紙燭をなぐる薄哉 荷兮
行人や堀にはまらんむら薄 胡及
  宗祇法師のこと葉によりて
名もしらぬ小草花咲野菊哉 素堂
とし/゛\のふる根に高き薄哉 俊似
  仲秋
かれ朶に烏のとまりけり秋の暮 芭蕉
つく/゛\と絵を見る秋の扇哉 加賀小春
谷川や茶袋そゝぐ秋のくれ 津島益音
石切の音も聞けり秋の暮 傘下
斧のねや蝙蝠出るあきのくれ 卜枝
鹿の音に人の貌みる夕部哉 一髪
田と畑を独りにたのむ案山子哉 伊予一泉
山賤が鹿驚作りて笑けり 重五
紅葉にはたがをしへける酒の間 其角
しらぬ人と物いひて見る紅葉哉 東順
薮の中に紅葉みじかき立枝哉 林斧
どことなく地にはふ蔦の哀也 越水
わが宿はどこやら秋の草葉哉 宗和
  わが草庵にたづねられし比
恥もせず我なり秋とおごりけり 加賀北枝
はすの実のぬけつくしたる蓮のみか 越人
一本の蘆の穂痩しゐせき哉 防川
松の木に吹あてられな秋の蝶 舟泉
ばつとして寐られぬ蚊屋のわかれ哉 胡及
心にもかゝらぬ市のきぬたかな 暁●(「鼠」+「吾」)
  関の素牛にあひて
さぞ砧孫六やしき志津屋敷 其角
  よしのにて
きぬたうちて我にきかせよ坊がつま 芭蕉
いそがしや野分の空の夜這星 加賀一笑
  暮秋
なにとなく植しが菊の白き哉 巴丈
しら菊のちらぬぞ少口おしき 昌碧
山路のきく野菊とも又ちがひけり 越人
一色や作らぬ菊のはなざかり 暁●(「鼠」+「吾」)
  荷兮が室に旅ねする夜、草臥なをせとて、箔つけたる土器出されければ
かはらけの手ぎは見せばや菊の花 其角
菊のつゆ凋る人や鬢帽子 同
けふになりて菊作ふとおもひけり 二水
かなぐりて蔦さへ霜の塩木哉 伊予千閣
淋しさは橿の実落るね覚哉 濃州蘆夕
残る葉ものこらずちれや梅もどき 加生
蘆の穂やまねく哀れよりちるあはれ 路通
 
曠野集 巻之五

  初冬
あめつちのはなしとだゆる時雨哉 湖春
  京なる人に申遣しける
一夜きて三井寺うたへ初しぐれ 尚白
はつしぐれ何おもひ出すこの夕 湍水
  万句興行に
見しり逢ふ人のやどりの時雨哉 荷兮
  人を待うくる日に
今朝は猶そらばかり見るしぐれ哉 落梧
釣がねの下降のこすしぐれかな 炊玉
渡し守ばかり蓑着るしぐれ哉 傘下
こがらしに二日の月のふきちるか 荷兮
一葉づゝ柿の葉みなに成にけり 一髪
このはたく跡は淋しき囲炉裏哉 同
枇杷の花人のわするゝ木陰かな 同
茶の花はものゝつゐでに見たる哉 李晨
梨の花しぐれにぬれて猶淋し 野水
蓑虫のいつから見るや帰花 昌碧
麦まきて奇麗に成し庵哉 同
のどけしや麦まく比の衣がへ 一井
縫ものをたゝみてあたる火燵哉 落梧
石臼の破ておかしやつはの花 胡及
青くともとくさは冬の見物哉 文鱗
あたらしき釣瓶にかゝる荵かな 卜枝
冬枯に風の休みもなき野哉 洞雪
蓮池のかたちは見ゆる枯葉哉 一髪
鷹居て石けつまづくかれ野哉 松芳
こがらしに吹とられけり鷹の巾 杏雨
鷹狩の路にひきたる蕪哉 蕉笠
  寒月
爐を出て度/\月ぞ面白き 野水
あさ漬の大根あろふ月夜哉 俊似

  仲冬
おろしをく鐘しづかなる霰哉 津島勝吉
しら浪とつれてたばしる霰哉 津島重治
掻よする馬糞にまじるあられ哉 林斧
柴の戸をほどく間にやむ霰哉 杏雨
いたゞける柴をおろせば霰かな 宗之
霜の朝せんだんの実のこぼれけり 杜国
水棚の菜の葉に見たる氷かな 勝吉
深き池氷のときに覗きけり 俊似
つきはりてまつ葉かきけり薄氷 除風
打おりて何ぞにしたき氷柱哉 夜舟
  兼題雪舟
峠より雪舟乗をろす塩木哉 鼠弾
ぬつくりと雪舟に乗たるにくさ哉 荷兮
夜をこめて雪舟に乗たるよめり哉 長虹
馬屋より雪舟引出す朝かな 一井
雪舟引や休むも直に立てゐる 亀洞
つけかへておくるゝ雪舟のはや緒哉 含●(クチヘン+「占」)
青海や羽白黒鴨赤がしら 白炭ノ忠知
舟にたく火に声たつる鵆哉 亀洞
朝鮮を見たもあるらん友千鳥 村俊
  井を掘る者は六月寒く、米つくおとこは冬裸かなり
汗出して谷に突こむ氷室哉 冬松
海鼠腸の壺埋めたき氷室哉 利重
炭竃の穴ふさぐやら薄けぶり 亀洞
膝節をつゝめど出るさむさ哉 塩車
火とぼして幾日になりぬ冬椿 加賀一笑
いつこけし庇起せば冬つばき 亀洞
冬籠りまたよりそはん此はしら 芭蕉
  歳暮
餅つきや内にもおらず酒くらひ 李下
吾書てよめぬもの有り年の暮 尚白
もち花の後はすゝけてちりぬべし 野水
はる近く榾つみかゆる菜畑哉 亀洞
煤はらひ梅にさげたる瓢かな 一髪
  木曾の月みてくる人の、みやげにとて杼の実ひとつおくらる。年の暮迄うしなはず、かざりにやせむとて
としのくれ杼の実一つころ/\と 荷兮
門松をうりて蛤一荷ひ 内習
田作に鼠追ふよの寒さ哉 亀洞
 
曠野集 巻之六

  雑
 年中行事内十二句      荷兮
  供屠蘇白散
いはけなやとそなめ初る人次第
  春日祭
としごとに鳥居の藤のつぼみ哉
  石清水臨時祭
沓音もしづかにかざすさくら哉
  灌仏
けふの日やついでに洗ふ仏達
  端午
おも痩て葵付たる髪薄し
  施米
うち明てほどこす米ぞ虫臭き
  乞巧奠
わか菜より七夕草ぞ覚へよき
  駒迎
爪髪も旅のすがたやこまむかへ
  撰虫
草の葉や足のおれたるきり/゛\す
  十月更衣
玉しきの衣かへよとかへり花
  五節
舞姫に幾たび指を折にけり
  追難
おはれてや脇にはづるゝ鬼の面

 詩題十六句           野水
  今日不知誰計会 春風春水一時来
氷ゐし添水またなる春の風
  白片落梅浮澗水
水鳥のはしに付たる梅白し
  春来無伴閑遊少
花売に留主たのまるゝ隣哉
  花下忘帰因美景
寐入なばもの引きせよ花の下
  留春春不留 春帰人寂寞
行春もこゝろへがほの野寺かな
  厳風吹袂衣 不寒復不熱
綿脱は松かぜ聞に行ころか
  池晩蓮芳謝
蓮の香も行水したる気色哉
  暑月貧家何処有 客来唯贈北窓風
涼めとて切ぬきにけり北のまど
  大底四時心惣苦 就中断腸是秋天
雪の旅それらではなし秋の空
  夜来風雨後 秋気颯然新
秋の雨はれて瓜よぶ人もなし
  遅々鐘漏初夜長 耿々星河欲曙天
ひとしきりひだるうなりて夜ぞ長き
  残影燈閇牆 斜光月穿●
独り寐や泣たる皃にまどの月
  万物秋霜能懐色
白菊や素顔で見むを秋の霜
  十月江南天気好 可憐冬景似春美
こがらしもしばし息つく小春哉
  寂寞深村夜 残雁雪中聞
鉢たゝき出もこぬむらや雪のかり
  白頭夜礼仏名経
仏名の礼に腰懐く白髪哉

 禅閤の撰びのこし給ひしも、さすがにおかしくて
              舟泉
  鋸●(カネヘン+「屑」)目立
かげろふの夕日にいたきつぶり哉
  付木突
五月闇水鷄ではなし人の家
  釣瓶縄打
かへるさや酒のみによる秋の里
  糊売
あさ露のぎぼう折けむつくもがみ
  馬糞掻
こがらしの松の葉かきとつれ立て

  李夫人          越人
  魂在何許 香煙引到焚処
かげろふの抱つけばわがころも哉
  楊貴妃
  雲●(「髪」+「丐」)半偏新睡覚 花冠不整下堂
はる風に帯ゆるみたる寐貌哉
  昭陽人
  小頭鞋履窄衣裳 青黛点眉々細長 外人不見々応笑
もの数寄やむかしの春の儘ならん
  西施
  宮中拾得娥眉斧 不献吾君是愛君
花ながら植かへらるゝ牡丹かな
  王照君
  玉貌風沙滕画図
よの木にもまぎれぬ冬の柳哉

  一日留守をする事侍りて   釣雪
  卯
寐やの蚊や御仏供焼火に出て行
  辰
杜若生ん絵書の来る日哉
  巳
講釈の眠につかふ扇哉
  午
水あびよ藍干す上を踏ずとも
  未
蝉の音に武家の夕食過にけり
  申
五月雨や鶏とまるはね作り
  所にありて生をたつ事是非なし。
  山●(「豸」+「犬」)
鹿笛の上手を尽すあはれさよ 樹水
  野鳥
鴫突の行影長き日あし哉 児竹
  里虫
枝ながら虫うりに行蜀●(サンズイ+「來」)かな 含●(クチヘン+「占」)
  海魚
おもしろと鰯引けり盆の月 同
  川魚
秋の昏鵜川/\の火ぶり哉 含●(クチヘン+「占」)

  牛馬四足是謂天落馬首穿牛鼻是謂人
一方は梅さく桃の継木かな 越人
  蔵舟於壑山於沢謂之固然而夜半有々力者負之而走
からながら師走の市にうるさゞい
  絶聖棄知大盗乃止
七夕よ物かすこともなきむかし
  鋭者天
散はてゝ跡なきものは花火哉 桂夕
  鈍者寿
鶏頭の雪になる迄紅かな 市山
  藤 房
ほとゝぎす鳴やむ時をしりにけり 一井
  師直
うつくしく人にみらるゝ荊哉 長虹
  一休
いろ/\のかたちおかしや月の雲 湍水
  法然
鳴声のつくろひもなきうづら哉 鼠弾
  山岩
おくやまは霰に減るか岩の角 湍水
  海苔
苔とりし跡には土もなからけり 同
 
曠野集 巻之七

  名所
八重がすみ奥迄見たる龍田哉 杜国
しら魚の骨や式部が大江山 荷兮
から崎の松は花より朧にて 芭蕉
藁一把かりて花見る阿波手哉 湍水
嵯峨までは見事あゆみぬ花盛 荷兮
  琵琶橋眺望
雪残る鬼獄さむき弥生かな 含●(クチヘン+「占」)
関こえて爰も藤しろみさか哉 宗祇法師
 芙濃国関といふ所の山寺に、藤の咲たるを見て吟じ給ふとや
芳野出て布子売おし更衣 杜国
麦うつや内外もなき志賀のさと 重五
五月雨にかくれぬものや瀬田の橋 芭蕉
湖の水まさりけり五月雨 去来
牛もなし鳥羽のあたりの五月雨 一髪
  隅田川にて
いざのぼれ嵯峨の鮎食ひに都鳥 貞室
みよしのはいかに秋立貝の音 破笠
いざよひもまださらしなの郡哉 芭蕉
夕月や杖に水なぶる角田川 越人
  九月十三夜
唐土に富士あらばけふの月もみよ 素堂
鴫突の馬やり過す鳥羽田哉 胡及
鴫突は萱津のあまのむまご哉 淵支
武蔵野やいく所にも見る時雨 舟泉
湖を屋ねから見せん村しぐれ 尚白
から崎やとまりあはせて初しぐれ 伊予随友
むさしのとおもへど冬の日あし哉 洗悪
めづらしと生海鼠を焼や小のゝ奥 俊似
冬ざれの独轆轤やをのゝおく 津島一笑
雪の富士藁屋一つにかくれけり 湍水
よし野山も唯大雪の夕哉 野水
星崎のやみを見よとや鳴千鳥 芭蕉
夜るの日や不破の小家の煤はらひ 如行

 旅
雲雀より上にやすろふ峠かな 芭蕉
  大和国平尾村にて
花の陰謡に似たる旅ねかな 同
桜咲里を眠りて通りけり 夕楓
日の入や舟に見て行桃の花 一髪
のどけしや湊の昼の生ざかな 荷兮
ひとつ脱で後におひぬ衣がへ 芭蕉
  ある人の餞別に
ほとゝぎすなみだおさへて笑けり 除風
寐いらぬに食焼宿ぞ明やすき 冬松
蚊をころすうちに夜明る旅ね哉 昌碧
五月雨や柱目を出す市の家 松芳
夕立にどの大名か一しぼり 傘下
  芭蕉士を送る
稲妻にはしりつきたる別かな 釣雪
なき/\て袂にすがる秋の蝉 一非
あき風に申かねたるわかれ哉 野水
物いはじたゞさへ秋のかなしさよ 舟泉
霧はれよすがたを松に見へぬ迄 鼠弾
  さらしなに行人々にむかひて
更級の月は二人に見られけり 荷兮
  越へ旅立けるよし聞て、京より申つかはす
月に行脇差つめよ馬のうへ 野水
おくられつおくりつはては木曾の秋 芭蕉
蜘の巣の是も散行秋のいほ 路通
  狩野桶といふ物、其角のはなむけにおくるとて
狩野桶に鹿をなつけよ秋の山 荷兮
とまり/\稲すり歌も替けり 京ちね
入月に今しばし行とせまり哉 玄寮
能きけば朝舟に打碪かな
  品川にて人にわかるゝとて
沢庵の墓をわかれの秋の暮 文鱗
草枕犬もしぐるゝか夜るの声 芭蕉
旅なれぬ刀うたてや村しぐれ 津島常秀
  鳴海にて芭蕉子に逢ふて
いく落葉それほど袖もほころびず 荷兮
夢に見し羽織は綿の入にけり 野水
  其角にわかるゝとき
あゝたつたひとりたつたる冬の宿 荷兮
天龍でたゝかれたまへ雪の暮 越人
から尻の馬にみてゆく千鳥哉 傘下
里人のわたり候かはしの霜 宗因
  越人と吉の駅にて
寒けれど二人旅ねぞたのもしき 芭蕉
旅寐して見しや浮世の煤払 同
 
 述懐

  艸庵を捨て出る時
きゆる時は氷もきえてはしる也 路通
子を独守りて田を打孀かな 快宣
余所の田の蛙入ぬも浮世かな 落梧
  高野にて
散花にたぶさ恥けり奥の院 杜国
桜見て行あたりたる乞食哉 梅舌
  高野にて
父母のしきりに恋し雉子の声 芭蕉
あやめさす軒さへよそのついで哉 荷兮
さうぶ入湯をもらひけり一盤 同
一本のなすびもあまる住居かな 杏雨
肩衣は戻子にてゆるせ老の夏 杉風
似はしや白髪にかづく麻木売 亀洞
  九月十日素堂の亭にて
かくれ家やよめ菜の中に残る菊 嵐雪
かり家を貪るきくの垣穂かな 暁●(「鼠」+「吾」)
  人のいほりをたづねて
さればこそあれたきまゝの霜の宿 芭蕉
  旧里の人に云つかはす
こがらしの落葉にやぶる小ゆび哉 杜国
  鎌倉建長寺にまふでゝ
落ばかく身はつぶ姶共ならばやな
 ある人のもとより、見よやとて落葉を一籠おくられて
あはれなる落葉に焼や島さより 荷兮
  古郷の事思ひ出る暁に
たらちめの暖甫や冷ん鐘の声 鼠弾
榾の火に親子足さす佗ね哉 去来
目や遠う耳やちかよるとしのくれ 西武
ふるさとや臍の緒に泣年の暮 芭蕉
さま/゛\の過しをおもふ年のくれ 除風う
  老をまたずして鬢先におとろふ
行年や親にしらがをかくしけり 越人
 
 恋
春の野に心ある人の素皃哉 伊勢一有妻
きぬ/゛\や余のことよりも時鳥 除風
蚊屋出て寐がほまたみる別かな 長虹
むし干の目に立枕ふたつかな 文瀾
虫干に小袖着て見る女かな 冬文
さゝげめし妹が垣ねは荒にけり 心棘
  六宮粉黛無顔色
宵闇の稲妻消すや月の顔 長虹
一めぐり人待かぬるをどりかな 尚自
   さびしき折に
つまなしと家主やくれし女郎花 荷兮
しりながら薄に明るつまどかな 小春
妻の名のあらばけし給へ神送り 越人
松の中時雨ゝ旅のよめり哉 俊似
物おもひ火燵を明ていかならむ 舟泉
うたゝねに火燵消たる別れ哉 嵐蓑
山畑にもの思はゞや蕪引 松芳
きぬ/゛\を霰見よとて戻りけり 冬松
おそろしやきぬ/゛\の比鉢敲き 昌碧
 
 無常

  末期に
散る花を南無阿弥陀仏と夕哉 守武
  無常迅速
咲つ散つひまなきけしの畠哉 傘下
  末期に
南無や空たゞ有明のほとゝぎす 堺元順
  松坂の浮瓢といふ人の身まかりたるにいひやりける
橘のかほり顔見ぬばかり也 荷兮
  いもうとの追善に
手のうへにかなしく消る蛍かな 京去来
  ある人子うしなはれける時申遣す
あだ花の小瓜とみゆるちぎりかな 荷兮
  世をはやく妻の身まかりける比
水無月の桐の一葉と思ふべし 野水
  辞世
あはれ也蟷螂一つに主コ斉
  子にをくれける比
似た顔のあらば出てみん一躍り 落梧
 一原野にて
をく露や小町がほねの見事さよ 釣雪
  妻の追善に
をみなへししでの里人それたのむ 自悦
  李下が妻のみまかりし心をいたみて
ねられずやかたへひえゆく北おろし
  コ斉身まかりし後
その人の鼾さへなし秋のくれ 其角
  母におくれける子の哀れを
おさな子やひとり食くふ秋の暮 尚白
   ある人の追善に
埋火もきゆやなみだの烹る音 芭蕉
  旅にてみまかりける人を
あは雪のとゞかぬうちに消にけり 鼠弾
鳥辺野ゝかたや念仏の冬の月 加賀小春
 
曠野集 巻之八

 釈教
  伊勢にて
神垣やおもひもかけず涅槃像 芭蕉
負てくる母おろしけりねはんぞう 鼠弾
  西行上人五百歳忌に
はつきりと有明残る桜かな 荷兮
  おなじ遠忌に
連翹や其望日としほれけり 胡及
うで首に蜂の巣かくる二王哉 松芳
木履はく僧も有けり雨の花 杜国
つりがねを扇で鼓く花の寺 冬松
花に酒僧とも侘ん塩ざかな 其角
  貞享つちのへ辰の歳、弥生一日東照宮の別当、僧正の御房に、慈恵大師遷座執筆法華八講の侍るよし、尊き事なれば聴聞にまかり
て、序品のこゝろを
散花の間はむかしばなし哉 越人
 女房の聴聞所と覚て、御簾たれおく暗き所あり、龍女成仏の所に至りて、しのびあへず鼻かむ声のしければ
ほろ/\と落るなみだやへびの玉 同
観音の尾上のさくら咲にけり 俊似
古寺やつるさぬかねの菫草 一井
   八島にて
海士の家聖よびこむやよひ哉 伊予千閣
咲にけりふべんな寺の紅牡丹 一井
夏山や木蔭/\の江湖部屋 蕪葉
  奈良にて
灌仏の日に生れ逢ふ鹿の子哉 芭蕉
灌仏の其比清ししらがさね 尚白
  高野にて
腰のあふぎ礼義ばかりの御山哉 一雪
斎に来て菴一日の清水哉 加賀一笑
  十如是
おもふ事ながれて通るしみづ哉 荷兮
  即身即仏
夏陰の昼寐はほんの仏哉 愚益
ほころびや僧の縫おる夏衣 鼠弾
おどろくや門もてありく施餓鬼棚 荷兮
折かけの火をとるむしのかなしさよ 探丸
石籠に施餓鬼の棚のくづれ哉 文里
魂祭舟より酒を手向けり 亀洞
たままつり道ふみあくる野菊哉 卜枝
摂待のはしら見たてん松の陰 釣雪
  平等施一切
摂待にたゞ行人をとゞめけり 俊似
稲妻に大仏おがむ野中哉 荷兮
垣越に引導覗くばせを哉 卜枝
  ある人四時の景物なりとて、水鶏と鶉とを不食、不図其心を感じて、我も鴈をくらはず
鴈くはぬ心仏にならはぬぞ 荷兮
  ある寺の興行に
燕も御寺の鼓かへりうて 其角
進み出て坊主おかしや月の舟 一井
鉢の子に木綿をうくる法師哉 卜枝
  人のもとにありて、たち出むとしけるに、またしぐれければ
衣着て又はなしけり一時雨 鼠弾
  鎌倉の安国論寺にて
たうとさの涙や直に氷るらん 越人
  古寺の雪
曙や伽藍/\の雪見廻ひ 荷兮
  同
雪折やかゝる二王の片腕 俊似
つくり置てこはされもせじ雪仏 一井
朝寐する人のさはりや鉢鼓 文潤
千観が馬もかぜはし年のくれ 其角
 薬王品七句
  如寒者得火
まつ白にむめの咲たつみなみ哉 胡及
  如裸者得衣
雪の日や酒樽拾ふあまの家
  如商人得主
双六のあひてよびこむついり哉
  如子得母
竹たてゝをけば取つくさゝげかな
  如渡得船
月の比隣の榎木きりにけり
  如病得医
かはくとき清水見付る山辺哉
  如暗得燈
秋のよやおびゆるときに起さるゝ

 神祇
古宮や雪しるかゝる獅子頭 釣雪
  二月廿五日奉納に
きさらぎや廿四日の月の梅 荷兮
しん/\と梅散かゝる庭火哉 同
鶯も水あびてこよ神の梅 亀洞
上下のさはらぬやうに神の梅 昌碧
灯のかすかならけり梅の中 釣雪
何とやらおがめば寒し梅の花 越人
覚えなくあたまぞさがる神の梅 舟泉
月代もしみるほど也梅の露 雨桐
門あかで梅の瑞籬おがみけり 重五
絵馬見る人の後のさくら哉 玄察
花に来て歯朶かざり見る社哉 鈍可
宮の後川渡り見るさくら哉 李桃
御手洗の木の葉の中の蛙哉 好葉
ほとゝぎす神楽の中を通りけり 玄察
宮守の灯をわくる火串かな 亀洞
破扇一度にながす御祓かな 未学
川原迄瘧まぎれに御祓哉 荷兮
こがらしや里の子覗く神輿部屋 尚白
此月の恵比須はこちにゐます哉 松芳
冬ざれや禰宜のさげたる油筒 落梧
きゝしらぬ哥も妙也神々楽 利重
跡の方と寐なをす夜の神楽哉 野水
鈴鹿川夜明の旅の神楽哉 昌碧
かづらきの神にはふとき庭火哉 村俊
橋杭や御祓かゝる煤はらひ 卜枝

  祝
肩付はいくよになりぬ長閑也 冬文
  荷兮が四十の春に
幾春も竹其儘に見ゆる哉 重五
君が代やみがくことなき玉つばき 越人
青苔は何ほどもとれ沖の石 傘下
いきみたま畳の上に杖つかん 亀洞
千代の秋にほひにしるしことし米 同
  しばしかくれゐける人に申遣す
先祝へ梅を心の冬籠り 芭蕉
 
 

曠野集員外

 誰か華をおもはざらむ。たれか市中にありて朝のけしきを見む。我東四明の麓に有て、花のこゝろはこれを心とす。よつて佐川田喜六の、よしの山あさな/\といへる哥を、実にかんず。又
   麦喰し鴈と思へどわかれ哉
 此句尾陽の野水子の作とて、芭蕉翁の伝へしをなをざりに聞しに、さいつ比、田野へ居をうつして、実に此句を感ず。むかしあまた
有ける人の中に、虎の物語せしに、とらに追はれたる人ありて、独色を変じたるよし、誠のおほふべからざる事左のごとし。猿を聞て実に下る三声のなみだといへるも、実の字、老杜のこゝろなるをや。猶鴈の句をしたひて
麦をわすれ華におぼれぬ鴈ならし 素堂
  この文人の事づかりてとゞけられしを、三人開き幾度も吟じて
 手をさしかざす峰のかげろふ 野水
●(カネヘン+「橇」の右側)(かんじき)の路もしどろに春の来て 荷兮
 ものしづかなるおこし米うり 越人
門の石月待闇のやすらひに 水
 風の目利を初秋の雲 兮
武士の鷹うつ山もほど近し 人
 しをりについて滝の鳴る音 水
袋より経とり出す草のうへ 兮
 づぶと降られて過るむら雨 人
立かへり松明直ぎる道の端 水
 千句いとなむ北山のてら 兮
姥ざくら一重桜も咲残り 人
 あてこともなき夕月夜かな 水
露の身は泥のやうなる物思ひ 兮
 秋をなをなく盗人の妻 人
明るやら西も東も鐘の声 水
 さぶうなりたる利根の川舟 兮
冬の日のてか/\としてかき曇 人
 豕子に行と羽織うち着て 水
ふら/\ときのふの市の塩いなだ 兮
 狐つきとや人の見るらむ 人
柏木の脚気の比のつく/゛\と 水
 さゝやくことのみな聞えつる 兮
月の影より合にけり辻相撲 人
 秋になるより里の酒桶 水
露しぐれ歩鵜に出る暮かけて 兮
 うれしとしのぶ不破の万作 人
かしこまる諫に涙こぼすらし 水
 火箸のはねて手のあつき也 兮
かくすもの見せよと人の立かゝり 人
 水せきとめて池のかへとり 水
花ざかり都もいまだ定らず 兮
 捨て春ふる奉加帳なり 人
墨ぞめは正月ごとにわすれつゝ 水
 大根きざみて干にいそがし 兮

遠浅や浪にしめさす蜊とり 亀洞
はるの舟間に酒のなき里 荷兮
のどけしや早き泊に荷を解て 昌碧
 百足の懼る薬たきけり 野水
夕月の雲の白さをうち詠 舟泉
 夜寒の蓑を裾に引きせ 釣雪
荻の声どこともしらぬ所ぞや 筆
一一駄過して是も古綿 亀洞
道の辺に立暮したる宜禰が麻 荷兮
 楽する比とおもふ年栄 昌碧
いくつともなくてめつたに蔵造 釣雪
 湯殿まいりのもめむたつ也 舟泉
涼しやと莚もてくる川の端 野水
 たらかされしや彳る突き 荷兮
秋風に女車の髭おとこ 亀洞
 袖ぞ露けき嵯峨の法輪 釣雪
時/\にものさへくはぬ花の春 昌碧
 八重山吹ははたちなるべし 野水
日のいでやけふは何せん暖に 舟泉
 心やすげに土もらふなり 亀洞
向まで突やるほどの小ぶねにて 荷兮
 垢離かく人の着ものの番 昌碧
配所にて干魚の加減覚えつゝ 釣雪
 哥うたふたる声のほそ/゛\ 舟泉
むく起に物いひつけて亦睡り 野水
 門を過行茄子よびこむ 荷兮
いりこみて足軽町の薮深し 亀洞
 おもひ逢たりどれも高田派 釣雪
盃もわするばかりの下戸の月 昌碧
 やゝはつ秋のやみあがりなる 野水
つばくらもおほかた帰る寮の窓 舟泉
 水しほはゆき安房の小湊 亀洞
夏の日や見る間に泥の照付て 荷兮
 桶のかづらを入しまひけり 昌碧
人なみに脇差さして花に行 釣雪
 ついたつくりに落る精進 野水

美しき鯲うきけり春の水 舟泉
 柳のうらのかまきりの卵 松芳
夕霞染物とりてかへるらん 冬文
 けぶたきやうに見ゆる月影 荷兮
秋草のとてもなき程咲みだれ 松芳
 弓ひきたくる勝相撲とて 舟泉
けふも亦もの拾はむとたち出る 荷兮
 たま/\砂の中の木のはし 冬文
火鼠の皮の衣を尋きて 舟泉
 涙見せじとうち笑ひつゝ 松芳
高みより踏はづしてぞ落にける 冬文
 酒の半に膳もちてたつ 荷兮
幾年を順礼もせず口おしき 松芳
 よまで双紙の絵を先にみる 舟泉
なに事もうちしめりたる花の貌 荷兮
 月のおぼろや飛鳥井の君 冬文
灯に手をおほひつゝ春の風 舟泉
 数珠くりかけて脇息のうへ 松芳
隆辰も入歯に声のしはがるゝ 冬文
 十日のきくのおしき事也 荷兮
山里の秋めづらしと生鰯 松芳
 長持かふてかへるやゝさむ 舟泉
ざぶ/\とながれを渡る月の影 荷兮
 馬のとをれば馬のいなゝく 冬文
さびしさは垂井の宿の冬の雨 舟泉
 莚ふまへて蕎麦あふつみゆ 松芳
つく/゛\と錦着る身のうとましく 冬文
 暁ふかく提婆品よむ 荷兮
けしの花とりなをす間に散にけり 松芳
 味噌するをとの隣さはがし 舟泉
黄昏の門さまたげに薪分 荷兮
 次第/\にあたゝかになる 冬文
春の朝赤貝はきてありく児 舟泉
 顔見にもどる花の旅だち 松芳
きさらぎや瀑をかひに夜をこめて 冬文
 そら面白き山口の家 荷兮
 
ほとゝぎす待ぬ心の折もあり 荷兮
 雨のわか葉にたてる戸の口 野水
引捨し車は琵琶のかたぎにて 同
 あらさがなくも人のからかひ 荷兮
月の秋旅のしたさに出る也 同
 一荷になひし露のきくらげ 野水
初あらしはつせの寮の坊主共 水
 菜畑ふむなとよばりかけたり 兮
土肥を夕/\にかきよせて 同
 印判おとす袖ぞ物うき 水
通路のついはりこけて逃かへり 同
 六位にありし恋のうはきさ 兮
代まいりたゞやす/\と請おひて 同
 銭一貫に鰹一節 水
月の朝鶯つけにいそぐらむ 同
 花咲けりと心まめなり 兮
天仙蓼に冷食あさし春の暮 同
 かけがねかけよ看経の中 水
たゞ人となりて着物うちはをり 同
 夕せはしき酒ついでやる 兮
駒のやど昨日は信濃けふは甲斐 水
 秋のあらしに昔浄瑠璃 兮
めでたくもよばれにけらし生身魄 水
 八日の月のすきといるまで 兮
山の端に松と樅とのかすかなる 水
 きつきたばこにくら/\とする 兮
暑き日や腹かけばかり引結び 同
 太鼓たゝきに階子のぼるか 水
ころ/\と寐たる木賃の艸枕 兮
 気だてのよきと聟にほしがる 水
忍ぶともしらぬ顔にて一二年 同
 庇をつけて住居かはりぬ 兮
三方の数むつかしと火にくぶる 同
 供奉の艸鞋を谷へはきこみ 水
段/\や小塩大原嵯峨の花 同
 人おひに行はるの川岸 筆
 
  月さしのぼる気色は、昼の暑さもなくなるおもしろさに、柄をさしたらばよき団と、宗鑑法師の句をずむじ出すに、夏の夜の疵といふ、なを其跡もやまずつゞきぬ。
月に柄をさしたらばよき団哉
 蚊のおるばかり夏の夜の疵 越人
とつくりを誰が置かへてころぶらん 傘下
 おもひがけなきかぜふきのそら 同
真木柱つかへおさへてよりかゝり 人
 使の者に返事またする 同
あれこれと猫の子を選るさま/゛\に 筆
 としたくるまであはう也けり 下
どこでやら手の筋見せて物思ひ 同
 まみおもたげに泣はらすかほ 人
大勢の人に法華をこなされて 同
 月の夕に釣瓶縄うつ 下
喰ふ柿も又くふかきも皆渋し 同
 秋のけしきの畑みる客 人
わがまゝにいつか此世を背くべき 同
 寐ながら書か文字のゆがむ戸 下
花の賀にこらへかねたる涙落つ 同
 着ものゝ糊のこはき春かぜ 人
うち群て浦の苫屋の塩干見よ 同
 内へはいりてなをほゆる犬 下
酔ざめの水の飲たき比なれや 同
 たゞしづかなる雨の降出し 人
歌あはせ独古鎌首まいらるゝ 同
 また献立のみなちがひけり 下
灯台の油こぼして押かくし 同
 臼をおこせばきり/゛\す飛 人
ふく風にゑのころぐさのふら/\と 同
 半はこはす筑やまの秋 下
むつ/\と月みる顔の親に似て 同
 人の請にはたつこともなし 人
にぎはしく瓜や苴を荷ひ込 下
 干せる畳のころぶ町中 人
おろ/\と小諸の宿の昼時分 下
 皆同音に申念仏 人
百万もくるひ所よ花の春 下
 田楽きれてさくら淋しき 人
 
  深川の夜
鴈がねもしづかに聞ばからびずや 越人
 酒しゐならふこの比の月 芭蕉
藤ばかま誰窮窟にめでつらん 同
 理をはなれたる秋の夕ぐれ 越人
瓢箪の大きさ五石ばかり也 同
 風にふかれて帰る市人 芭蕉
なに事も長安は是名刹の地 同
 医のおほきこそ目ぐるほしけれ 越人
いそがしと師走の空に立出て 芭蕉
 ひとり世話やく寺の跡とり 越人
此里に古き玄番の名をつたへ 芭蕉
 足駄はかせぬ雨のあけぼの 越人
きぬ/゛\やあまりかぼそくあてやかに 芭蕉
 かぜひきたまふ声のうつくし 越人
手もつかず昼の御膳もすべりきぬ 芭蕉
 物いそくさき舟路なりけり 越人
月と花比良の高ねを北にして 芭蕉
 雲雀さえづるころの肌ぬぎ 越人
破れ戸の釘うち付る春の末 同
 見世はさびしき麦のひきはり 蕉
家なくて服裟につゝむ十寸鏡 人
 ものおもひゐる神子のものいひ 蕉
人去ていまだ御坐の匂ひける 人
 初瀬に籠る堂の片隅 蕉
ほとゝぎす鼠のあるゝ最中に 人
 垣穂のさゝげ露はこぼれて 蕉
あやにくに煩ふ妹が夕ながめ 人
 あの雲はたがなみだつゝむぞ 蕉
行月のうはの空にて消さうに 人
 砧も遠く鞍にいねぶり 蕉
秋の田をからせぬ公事の長びきて 人
 さい/\ながら文字問にくる 蕉
いかめしく瓦庇の木薬屋 人
 馳走する子の痩てかひなき 蕉
花の比談義参もうらやまし 人
 田にしをくふて腥きくち 蕉
 
  翁に伴なはれて来る人のめづらしきに
落着に荷兮の文や天津雁 其角
 三夜さの月見雲なかりけり 越人
菊萩の庭に畳を引づりて 同
 飲てわするゝ茶は水になる 角
誰か来て裾にかけたる夏衣 同
 歯ぎしりにさへあかつきのかね 人
恨たる泪まぶたにとゞまりて 人
 静御前に舞をすゝむる 角
空蝉の離魂の煩のおそろしき 同
 あとなかりける金二万両 人
いとをしき子を他人とも名付けたり 同
 やけどなをして見しつらきかな 角
酒熟き耳につきたるさゝめごと 同
 魚をもつらぬ月の江の舟 人
そめいろの富士は浅黄に秋のくれ 同
 花とさしたる草の一瓶 角
饅頭をうれしさ袖に包みける 角
 うき世につけて死ぬ人は損 人
西王母東方朔も目には見ず 同
 よしや鸚鵡の舌のみじかき 角
あぢきなや戸にはさまるゝ衣の妻 同
 恋の親とも逢ふ夜たのまん 人
やゝおもひ寐もしねられずうち臥て 同
 米つく音は師走なりけり 角
夕鴉宿の長さに腹のたつ 同
 いくつの笠を荷ふ強力 人
穴いちに塵うちはらひ草枕 同
 ひいなかざりて伊勢の八朔 角
満月に不断桜を詠めばや 同
 念者法師は秋のあきかぜ 人
夕まぐれまたうらめしき紙子夜着 同
 弓すゝびたる突あげのまど 角
道ばたに乞食の鎮守垣ゆひて 同
 ものきゝわかぬ馬士の鬮とり 人
花の香にあさつき鱠みどり也 同
 むしろ敷べき喚続の春 同
 
我もらじ新酒は人の醒やすき 嵐雪
 秋うそ寒しいつも湯嫌 越人
月の宿書を引ちらす中にねて 同
 外面薬の草わけに行 雪
はねあひて牧にまじらぬ里の馬 同
 川越くれば城下のみち 人
疱瘡貌の透とをるほど歯のしろき 人
 唱哥はしらず声ほそりやる 雪
なみだみるはなれ/゛\のうき雲に 同
 後ぞひよべといふがはりなき 越
今朝よりも油あげする玉だすき 人
 行燈はりてかへる浪人 嵐
着物を碪にうてと一つ脱 雪
 明日は髪そる宵の月影 越
白露の群て泣ゐる女客 人
 つれなの医者の後姿や 雪
ちる花に日はくるれども長咄 越
 よぶこ鳥とは何をいふらん 人
 
初雪やことしのびたる桐の木に 野水
 日のみじかきと冬の朝起 落梧
山川や鵜の喰ものをさがすらん 同
 賤を遠から見るべかりけり 野水
おもふさま押合月に草臥つ 同
 あらこと/゛\し長櫃の萩 落梧
川越の歩にさゝれ行龝の雨 水
 ねぶと痛がる顔のきたなき 梧
わがせこをわりなくかくす縁の下 水
 すがゝき習ふ比のうきこひ 梧
更る夜の湯はむつかしと水飲て 水
 こそぐり起す相住の僧 梧
峰の松あぢなあたりを見出たり 水
 旅するうちの心寄麗さ 梧
烹た玉子なまのたまごも一文に 水
 下戸は皆いく月のおぼろげ 梧
耳や歯やようても花の数ならず 水
 具足めさせにけふの初午 梧
いつやらも鶯聞ぬ此おくに 同
 山伏住て人しかるなり 水
くはら/\とくさびぬけたる米車 梧
 挑灯過て跡闇きくれ 水
何事を泣けむ髪を振おほひ 梧
 しか/゛\物もいはぬつれなき 水
はつかしといやがる馬にかきのせて 梧
 かゝる府中を飴ねぶり行 水
雨やみて雲のちぎるゝ面白や 梧
 柳ちるかと例の莚道 水
軒ながく月こそさはれ五十間 同
 寂しき秋を女夫居りけり 梧
占を上手にめさるうらやまし 水
 黍もてはやすいにしへの酒 同
朝ごとの干魚備るみづ垣に 梧
 誰より花を先へ見てとる 同
春雨のくらがり峠こえすまし 水
ねぶりころべと雲雀鳴也 梧
 
一里の炭売はいつ冬籠り 一井
 かけひの先の瓶氷る朝 鼠弾
さきくさや正木を引に誘ふらん 胡及
 肩ぎぬはづれ酒によふ人 長虹
夕月の入ぎは早き塘ぎは 鼠弾
 たはらに●(ウオヘン+「卿」の右側)をつかみこむ秋 一井
里深く踊教に二三日 長虹
 宮司が妻にほれられて憂 胡及
問はれても涙に物の言にくき 一井
 葛籠とゞきて切ほどく文 鼠弾
うと/\と寐起ながらに湯をわかす 胡及
 寒ゆく夜半の越の雪鋤 長虹
なに事かよばりあひてはうち笑ひ 鼠弾
 蛤とりはみな女中也 一井
浦風に脛吹まくる月涼し 長虹
 みるもかしこき紀伊の御魂屋 胡及
若者のさし矢射ておる花の陰 一井
 蒜くらふ香に遠ざかりけり 鼠弾
はるのくれありき/\も睡るらん 胡及
 紙子の綿の裾に落つゝ 長虹
はなしする内もさい/\手を洗 鼠弾
 座敷ほどある蚊屋を釣けり 一井
木ばさみにあかるうなりし松の枝 長虹
 秤にかゝる人/\の興 胡及
此年になりて灸の跡もなき 一井
 まくらもせずについ寐入月 鼠弾
暮過て障子の陰のうそ寒き 胡及
 こきたるやうにしぼむ萩のは 長虹
御有様入道の宮のはかなげに 鼠弾
 衣引かぶる人の足音 一井
毒なりと瓜一きれも喰ぬ也 長虹
 片風たちて過る白雨 胡及
板へぎて踏所なき庭の内 一井
 はねのぬけたる黒き唐丸 鼠弾
ぬく/\と日足のしれぬ花曇 長虹
 見わたすほどはみなつゝじ也 胡及

      京寺町通二条上ル町井筒屋
             筒井庄兵衛板
 
 
 





ひさご



ひさご  膳所

(潁原退蔵編『〔校註〕俳諧七部集』〈昭和16年。明治書院刊〉による)

江南の珍碩我にひさごを送レり。これは是水漿をもり酒をたしなむ器にもあらず、或は大樽に造りて江湖をわたれといへるふくべにも異なり。吾また後の恵子にして用ることをしらず。つら/\そのほとりに睡り、あやまりて此うちに陥る。醒てみるに、日月陽秋きらゝかにして、雪のあけぼの闇の郭公もかけたることなく、なを吾知人ども見えたきりて、皆風雅の藻思をいへり。しらず是はいづれのところにして、乾坤の外なることを、出てそのことを云て、毎日此内にをどり入。
 元禄三 六月
               越智越人
 
 
花見
木のもとに汁も鱠も桜かな 翁
 西日のどかによき天氣なり 珍碩
旅人の虱かき行春暮て 曲水
 はきも習はぬ太刀の●(「革」+「背」。ひきはだ) 翁
月待て仮の内裏の司召 碩
 籾臼つくる杣がはやわざ 水
鞍置る三歳駒に秋の來て 翁
 名はさま/゛\に降替る雨 碩
入込に諏訪の涌湯の夕ま暮 水
 中にもせいの高き山伏 翁
いふ事を唯一方え落しけり 碩
 ほそき筋より恋つのりつゝ 水
物おもふ身にもの喰へとせつかれて 翁
 月見る顏の袖おもき露 碩
秋風の船をこはがる波の音 水
 鴈ゆくかたや白子若松 翁
千部読花の盛の一身田 碩
 巡礼死ぬる道のかげろふ 水
何よりも蝶の現ぞあはれなる 翁
 文書ほどの力さへなき 碩
羅に日をいとはるゝ御かたち 水
 熊野みたきと泣給ひけり 翁
手束弓紀の関守が頑に 碩
 酒ではげたるあたま成覽 水
双六の目をのぞくまで暮かゝり 翁
 仮の持仏にむかふ念仏 碩
中/\に土間に居れば蚤もなし 水
 我名は里のなぶりもの也 翁
憎れていらぬ躍の肝を煎 碩
 月夜/\に明渡る月 水
花薄あまりまねけばうら枯て 翁
 唯四方なる草庵の露 碩
一貫の銭むつかしと返しけり 水
 医者のくすりは飲ぬ分別 翁
花咲けば芳野あたりを欠廻 水
虻にさゝるゝ春の山中 碩
  翁 十二
  珍碩十二
  曲水十二
 
いろ/\の名もむつかしや春の草 珍碩
 うたれて蝶の夢はさめぬる 翁
蝙蝠ののどかにつらをさし出て 路通
 駕籠のとをらぬ峠越たり 同
紫蘇の実をかますに入るゝ夕ま暮 碩
 親子ならびて月に物くふ 同
秋の色宮ものぞかせ給ひけり 通
 こそぐられてはわらふ俤 同
うつり香の羽織を首にひきまきて 碩
 小六うたひし市のかへるさ 同
鮠釣のちいさく見ゆる川の端 通
 念仏申ておがむみづがき 同
こしらえし薬もうれず年の暮 碩
 庄野ゝ里の犬におどされ 同
旅姿稚き人の嫗つれて 通
 花はあかいよ月は朧夜 同
しほのさす縁の下迄和日なり 碩
 生鯛あがる浦の春哉 同
此村の広きに医者のなかりけり 荷兮
 そろばんをけばものしりといふ 越
かはらざる世を退屈もせずに過 兮
 また泣出す酒のさめぎは 人
ながめやる秋の夕ぞだゞびろき 兮
 蕎麦真白に山の胴中 人
うどんうつ里のはづれの月の影 兮
 すもゝもつ子のみな裸むし 人
めづらしやまゆ烹也と立とまり 兮
 文珠の智恵も槃特が愚痴 人
なれ加減又とは出来ひしほ味噌 兮
 何ともせぬに落る釣棚 人
しのぶ夜のおかしうなりて笑出ス 兮
 逢ふより顔を見ぬ別して 同
汗の香をかゝえく衣をとり残し 人
 しきりに雨はうちあけてふる 同
花ざかり又百人の膳立に 兮
 春は旅ともおもはざる旅 同
   珍碩九
   翁 一
   路通八
   荷兮十
   越人八
 

   城下
鉄炮の遠音に曇る卯月哉 野径
 砂の小麦の痩てはら/\ 里東
西風にますほの小貝拾はせて 泥土
 なまぬる一つ餬ひかねたり 乙州
碁いさかひ二人しらける有明に 怒誰
 秋の夜番の物もうの声 珍碩
女郎花心細気におそはれて 筆
 目の中おもく見遣がちなる 野径
けふも又川原咄しをよく覚へ 里東
 顔のおかしき生つき也 泥土
馬に召神主殿をうらやみて 乙州
 一里こぞり山の下苅 怒誰
見知られて岩屋に足も留られず 泥土
 それ世は泪雨としぐれと 里東
雪舟に乗越の遊女の寒さうに 野径
 壱歩につなぐ丁百の銭 乙州
月花に庄屋をよつて高ぶらせ 珍碩
 煮しめの塩のからき早蕨 怒誰
くる春に付ても都わすられず
 半気違の坊主泣出す 珍碩
のみに行居酒の荒の一●(ウマヘン+「操」の右側) 乙州
 古きばくちののこる鎌倉 野径
時/\は百姓までも烏帽子にて 怒誰
 配所を見廻ふ供御の蛤 泥土
たそがれは船幽霊の泣やらん 珍碩
 連も力も皆座頭なり 里東
から風の大岡寺縄手吹透し 野径
 虫のこはるに用叶へたき 乙州
糊剛き夜着にちいさぎ御座敷て 泥土
 夕辺の月に菜食嗅出す 怒誰
看経の嗽にまぎるゝ咳気声 里東
 四十は老のうつくしき際 珍碩
髪くせに枕の跡を寐直して 乙州
 酔を細めにあけて吹るゝ 野径
杉村の花は若葉に雨気づき 怒誰
 田の片隅に苗のとりさし 泥土
  野径六
  里東六
  泥土六
  乙州六
  怒誰六
  珍碩五
  筆 一
 

   雑
亀の甲烹らるゝ時は鳴もせず 乙州
 唯牛糞に風のふく音 珍碩
百姓の木綿仕まへば冬のきて 里東
 小哥そろゆるからうすの縄 探志
独寐て奥の間ひろき旅の月 昌房
 蟷螂落てきゆる行燈 正秀
秋萩の御前にちかき坊主衆 及肩
 風呂の加減のしづか成けり 野径
鶯の寒き声にて鳴出し 二嘯
 雪のやうなるかますごの塵 乙州
初花に雛の巻樽居ならべ 珍碩
 心のそこに恋ぞありける 里東
御簾の音に吹そこなひし笛の役 探志
 寐ごとに起て聞ば鳥啼 昌房
銭入の巾着下て月に行 正秀
 まだ上京も見ゆるやゝさむ 及肩
蓋に盛鳥羽の町屋の今年米 野径
 雀を荷ふ籠のぢゝめき 二嘯
うす曇る日はどんみりと霜おれて 乙州
 鉢いひならふ声の出かぬる 珍碩
染て憂木綿袷のねずみ色 里東
 撰あまされて寒きあけぼの 探志
暗がりに薬鑵の下をもやし付 昌房
 伝馬を呼る我まわり口 正秀
いきりたる鑓一筋に挟箱 及肩
 水汲かゆる鯉棚の秋 野径
ざは/\と切籠の紙手に風吹て 二嘯
 奉加の序にもほのか成月 乙州
喰物に味のつくこそ嬉しけれ 珍碩
 煤掃うちは次に居替る 里東
目をぬらす禿のうそにとりあげて 探志
 こひにはかたき最上侍 昌秀
手みじかに手拭ねぢて腰にさげ 正秀
 縄を集る寺の上茨 及肩
花の比昼の日待に節ご着て 野径
 さゝらに狂ふ獅子の春風 二嘯
   乙州四
   珍碩同
   里東四
   探志同
   昌房同
   正秀同
   及肩同
   野径同
   二嘯同
 
 
   田野
畦道や苗代時の角大師 正秀
 明れば霞む野鼠の顔 珍碩
觜ぶとのわやくに鳴し春の空 同
 かまゑおかしき門口の文字 秀
月影に利休の家を鼻に懸 同
 度/\芋をもらはるゝなり 碩
虫は皆つゞれ/\と鳴やらむ 秀
 片足/\の木履たづぬる 碩
誓文を百もたてたる別路に 秀
 なみだぐみけり供の侍 碩
須磨はまだ物不自由なる台所 秀
 狐の恐る弓かりにやる 碩
月氷る師走の空の銀河 秀
 無理に居たる膳も進まず 碩
いらぬとて大脇指も打くれて 秀
 独ある子も矯鷄に替ける 碩
江戸酒を花咲度に恋しがり 秀
 あいの山弾春の入逢 同
雲雀啼里は厩糞かき散し 碩
 火を吹て居る禅門の祖父 秀
本堂はまだ荒壁のはしら組 碩
 羅綾の袂しぼり給ひぬ 秀
歯を痛人の姿を絵に書て 碩
 薄雪たはむすゝき痩たり 秀
藤垣の窓に紙燭を挟をき 碩
 口上果ぬいにざまの時宜 秀
たふとげに小判かぞふる革袴 碩
 秋入初る肥後の隈本 秀
幾日路も苫で月見る役者船 碩
 す布子ひとつ夜寒也けり 秀
沢山に兀め/\と叱られて 碩
 呼ありけども猫は帰らず 秀
子規御小人町の雨あがり 碩
 やしほの楓木の芽萌立 秀
散花に雪踏挽づる音ありて 碩
 北野ゝ馬場にもゆるかげろふ 秀
  正秀十九
  珍碩十七

         寺町二条上ル町
           井筒屋庄兵衛板
 
 
 


猿蓑  乾坤

  晋其角序
誹諧の集つくる事、古今にわたりて此道のおもて起べき時なれや。幻術の第一として、その句に魂の入ざれば、ゆめにゆめみるに似たるべし。久しく世にとゞまり、永く人にうつりて、不変の変をしらしむ。五徳はいふに及ばず、心をこらすべきたしなみなり。彼西行上人の、骨にて人を作りたてゝ、声はわれたる笛を吹やうになん侍ると申されける、人には成て侍れども、五の声のわかれざるは、反魂の法のをろそかに侍にや。さればたましゐの入たらば、アイウヱヲよくひゞきて、いかならん吟声も出ぬべし。只誹諧に魂の入たらむにこそとて、我翁行脚のころ、伊賀越しける山中にて、猿に小蓑を着せて、誹諧の神を入たまひければ、たちまち断腸のおもひを叫びけむ、あだに懼るべき幻術なり。これを元として此集をつくりたて、猿みのとは名付申されける。是が序もその心をとり魂を合せて、去来凡兆のほしげなるにまかせて書。
  元禄辛未歳五月下弦          雲竹書



猿蓑集 巻之一

  冬

初しぐれ猿も小簔をほしげ也  芭蕉
あれ聞けと時雨来る夜の鐘の声  其角
時雨きや並びかねたる●(ウオヘン+「少」)ぶね  千那
幾人かしぐれかけぬく勢田の橋  僧 丈艸
鑓持の猶振たつるしぐれ哉  膳所 正秀
広沢やひとり時雨るゝ  沼太郎
舟人にぬかれて乗し時雨かな 尚白
  伊賀の境に入て
なつかしや奈良の隣の一時雨  曾良
時雨るゝや黒木つむ屋の窓あかり  凡兆
馬かりて竹田の里や行しぐれ  大津 乙州
だまされし星の光や小夜時雨  羽紅
新田に稗殻煙るしぐれ哉  膳所 昌房
いそがしや沖の時雨の真帆片帆  去来
はつ霜に行や北斗の星の前  伊賀 百歳
一いろも動く物なき霜夜かな  野水
  淀にて
はつしもに何とおよるぞ船の中  其角
帰花それにもしかん莚切レ  同
禅寺の松の落葉や神無月  凡兆
百舌鳥のゐる野中の杭よ十月  嵐蘭
こがらしや頬腫痛む人の顔  芭蕉
砂よけや蜑のかたへの冬木立  凡兆
  ならにて
棹鹿のかさなり臥る枯野かな  伊賀 土芳
渋柿をながめて通る十夜哉  膳所 裾道
ちやのはなやほるゝ人なき霊聖女  越人
みのむしの茶の花ゆへに折れける  伊賀 猿雖
古寺の簀子も青し冬がまゑ  凡兆
  翁の堅田に閑居を聞て
雑水のなどころならば冬ごもり  其角
この寒さ牡丹のはなのまつ裸  伊賀 車来
  草津
晦日も過行うばがいのこかな  尚白
神迎水口だちか馬の鈴  珍碩
膳まはり外に物なし赤柏  伊賀 良品
水無月の水を種にや水仙花  羽州坂田 不玉
今は世をたのむけしきや冬の蜂  尾張 旦藁
尾頭のこゝろもとなき海鼠哉  去来
一夜/\さむき姿や釣干菜  伊賀 探丸
みちばたに多賀の鳥井の寒さ哉  尚白
茶湯とてつめたき日にも稽古哉  江戸 亀翁
炭竈に手負の猪の倒れけり  凡兆
佳つかぬ旅のこゝろや置火燵  芭蕉
寝ごゝろや火燵蒲団のさめぬ内  其角
門前の小家もあそぶ冬至哉  凡兆
木兎やおもひ切たる昼の面  尾張 芥境
みゝづくは眠る処をさゝれけり  伊賀 半?
  貧交
まじはりは紙子の切を譲りけり  丈艸
浦風や巴をくづすむら鵆  曾良
あら礒やはしり馴たる友鵆  去来
狼のあと踏消すや浜千鳥  史邦
背門口の入江にのぼる千鳥かな  丈艸
いつ迄か雪にまぶれて鳴千鳥  千那
矢田の野や浦のなぐれに鳴千鳥  凡兆
筏士の見かへる跡や鴛の中  木節
水底を見て来た顔の小鴨哉  丈艸
鳥共も寝入てゐるか余吾の海  路通
死まで操成らん鷹のかほ  旦藁
襟巻に首引入て冬の月  杉風
この木戸や鎖のさゝれて冬の月  其角
からじりの蒲団ばかりや冬の旅  長崎 暮年
見やるさえ旅人さむし石部山  大津尼 智月
  翁行脚のふるき衾をあたへらる。記あり略之
首出してはつ雪見ばや此衾  美濃 竹戸
  題竹戸之衾
畳めは我が手のあとぞ紙衾
魚のかげ鵜のやるせなき氷哉  探丸
しづかさを数珠もおもはず網代守  丈艸
  御白砂に候す
膝つきにかしこまり居る霰かな  史邦
椶櫚の葉の霰に狂ふあらし哉  野童
鵲の橋よりこぼす霰かな  伊賀 示蜂
呼かへす鮒売見えぬあられ哉  凡兆
みぞれ降る音や朝飯の出来る迄  膳所 画好
はつ雪や内に居さうな人は誰  其角
初雪に鷹部屋のぞく朝朗  史邦
霜やけの手を吹てやる雪まろげ  羽紅
わきも子が爪紅粉のこす雪まろげ  探丸
下京や雪つむ上の夜の雨  凡兆
なが/\と川一筋や雪の原  同
  信濃路を過るに
雪ちるや穂屋の薄の刈残し  芭蕉
  革庵の留主をとひて
衰老は簾もあげず菴の雪  其角
雪の日は竹の子笠ぞまさりける  尾張 羽笠
誰とても健ならば雪のたび  長崎 卯七
ひつかけて行や雪吹のてしまござ  去来
  青亜追悼
乳のみ子に世を渡したる師走哉  尚白
から鮭も空也の痩も寒の内  芭蕉
鉢たゝき憐は顔に似ぬものか  乙州
一月は我に米かせはちたゝき  丈艸
  住吉奉納
夜神楽や鼻息白し面ンの内  其角
節季候に又のぞむべき事もなし  伊賀 順琢
家/\やかたちいやしきすゝ払  同 祐甫
  乙州が新宅にて
人に家をかはせて我は年忘  芭蕉
弱法師我門ゆるせ餅の札  其角
歳の夜や曾祖父を聞けば小手枕  長和
うす壁の一重は何かとしの宿  去来
くれて行年のまうけや伊勢くまの  同
大どしや手のをかれたる人ごゝろ  羽紅
やりくれて又やさむしろ歳の暮  其角
いね/\〜と人にいはれつ年の暮  路通
年のくれ破れ袴の幾くだり  杉風


猿蓑集 巻之二

  夏

有明の面おこすやほとゝぎす  其角
夏がすみ曇り行衛や時鳥  木節
野を横に馬引むけよほとゝぎす  芭蕉
時鳥けふにかぎりて誰もなし  尚白
ほとゝぎす何もなき野の門構  凡兆
ひる迄はさのみいそがず時鳥  智月
蜀魂なくや木の間の角櫓  史邦
入相のひゞきの中やほとゝぎす  羽紅
ほとゝぎす滝よりかみのわたりかな  丈艸
心なき代官殿やほとゝぎす  去来
こひ死ば我塚でなけほとゝぎす  遊女 奥州
  松島一見の時、千鳥もかるや鶴の毛衣とよめりければ
松島や鶴に身をかれほとゝぎす  曾良
うき我をさびしがらせよかんこ鳥  芭蕉
  族館庭せまく庭草を見ず
若楓茶いろに成も一さかり  膳所 曲水
  四月八日詣慈母墓
花水にうつしかへたる茂り哉  其角
葉がくれぬ花を牡丹の姿哉  江戸 全峯
  別僧
ちるときの心やすさよ米嚢花  越人
智恵の有る人には見せじけしの花  珍碩
  翁に供られてすまあかしにわたりて
似合しきけしの一重や須磨の里  亡人 杜国
青くさき匂もゆかしけしの花  嵐蘭
井のすゑに浅/\清し杜若  半残
  起出て物にまぎれぬ朝の間の
起/\の心うごかすかきつばた  仙花
  題去来之嵯峨落柿舎二句
豆植る畑も木べ屋も名処哉  凡兆
破垣やわざと鹿子のかよひ道  曾良
  南都旅店
誰のぞくならの都の閏の桐  千那
洗濯やきぬにもみ込柿の花  尾張 薄芝
  豊国にて
竹の子の力を誰にたとふべき  凡兆
たけの子や畠隣に悪太郎  去来
たけのこや稚き時の絵のすさび  芭蕉
猪に吹かへさるゝともしかな  正秀
  明石夜泊
蛸壺やはかなき夢を夏の月  芭蕉
君が代や筑摩祭も鍋一ツ  越人
  五月三日わたましせる家にて
屋ね葺と並てふける菖蒲哉  其角
綜結ふかた手にはさむ額髪  芭蕉
隈篠の広葉うるはし餅綜  江戸 岩翁
さびしさに客人やとふまつり哉  尚白
  五月六日大坂うち死の遠忌を弔ひて
大坂や見ぬよの夏の五十年  伊賀 蝉吟
  奥州高館にて
夏草や兵共がゆめの跡  芭蕉
這出よかひ屋が下の蟾の声  同
  此境はひわたるほどゝいへるもこゝの事にや
かたつぶり角ふりわけよ須磨明石  同
五日雨に家ふり拾てなめくじり
ひね麦の味なき空や五月雨  木節
馬士の謂次第なりさつき雨  史邦
  奥州名取の郡に入て、中将実方の塚はいづくにやと尋侍れば、道より一里半ばかり左りの方、笠島といふ処有とをしゆ。ふりつづきたる五月雨いとわりなく打過るに
笠島やいづこ五月のぬかり道  芭蕉
  大和紀伊のさかひはてなし坂にて、往来の順礼をとゞめて奉加すすめければ、料足つゝみたる紙のはしに書つけ侍る
つゞくりもはてなし坂や五月雨  去来
髪剃や一夜に金情て五月雨  凡兆
日の道や葵傾くさ月あめ  芭蕉
縫物や着もせでよごす五月雨  羽紅
  七十余の老医みまかりけるに、弟子共こぞりてなくまゝ、予にいたみの句乞ける。その老医いまそかりし時も、さらに見しれる人にあらざりければ、哀にもおもひよらずして、古来まれなる年にこそといへど、とかくゆるさゞりければ
六尺も力おとしや五月あめ  其角
百姓も麦に取つく茶摘歌  去来
しがらきや茶山しに行夫婦づれ  正秀
つかみ合子共のたけや麦畠  膳所 游刀
  孫を愛して
麦藁の家してやらん雨蛙  智月
麦出来て鰹迄喰ふ山家哉  江戸 花紅
  しら川の関こえて
風流のはじめや奥の田植うた  芭蕉
  出羽の最上を過て
眉掃を面影にして紅紛の花  同
  法隆寺開帳、南無仏の太子を拝す
御袴のはづれなつかし紅粉の花  千那
田の畝の豆つたひ行蛍かな  伊賀 万乎
  膳所曲水之楼にて
蛍火や吹とばされて鳰のやみ  去来
  勢田の蛍見 二句
闇の夜や子共泣出す蛍ぶね  凡兆
ほたる見や船頭酔ておぼつかな  芭蕉
  三熊野へ詣ける時
蛍火やこゝおそろしき八鬼尾谷  長崎 田上尼
あながちに鵜とせりあはぬかもめ哉  尚白
草むらや百合は中々はなの顔  半残
  病後
空つりやかしらふらつく百合の花  大坂 何処
すゞ風や我よら先に百合の花  乙州
  焼蚊辞を作りて
子やなかん其子の母も蚊の喰ン  嵐蘭
  餞別
立ざまや蚊屋もはづさぬ旅の宿  膳所 里東
  うとく成人につれて、参宮する従者にはなむけして
みじか夜を吉次が冠者に名残哉  其角
隙明や蚤の出て行耳の穴  丈艸
下闇や地虫ながらの蝉の声  嵐雪
客ぶりや居処かゆる蝉の声  膳所 探志
頓て死ぬけしきは見えず蝉の声  芭蕉
哀さや盲麻刈る露のたま  伊賀 槐市
渡り懸て藻の花のぞく流哉  凡兆
舟引の妻の唱歌か合歓の花  千那
白雨や鐘きゝはづす日の夕  史邦
  索堂之蓮池辺
白雨や蓮一枚の捨あたま  嵐蘭
日焼田や時/\つらく鳴く蛙  乙州
日の暑さ盥の底の●(ムシヘン+「蔑」)かな  凡兆
水無月も鼻つきあはす数寄屋哉  同
日の岡やこがれて暑き牛の舌  正秀
たゞ暑し籬によれば髪の落  木節
じねんごの薮ふく風ぞあつかりし  野童
夕がほによばれてつらき暑さ哉  羽紅
青草は湯入ながめんあつさかな  江戸 巴山
  千子が身まかりけるをきゝて、みのゝ国より去来がもとへ、申つかはし侍ける無き人の小袖も今や土用干  芭蕉
水無月や朝めしくはぬ夕すゞみ  嵐蘭
じだらくにねれば涼しきタベかな  宗次
すゞしさや朝草門ンに荷ひ込  凡兆
唇に墨つく鬼のすゞみかな  千那
月鉾や児の額の薄粧  曾良
夕ぐれや●(ヤマヘン+「兀」)並びたる雲のみね  去来
  はじめて洛に入て
雲のみね今のは比叡に似た物か  大坂 之道



猿蓑集 巻之三


  秋

龝風や蓮をちからに花一つ  不知読人
   此句東武よりきこゆ、もし素堂か
がつくりとぬけ初る歯や秋の風  杉風
芭蕪葉は何になれとや秋の風  路通
人に似て猿も手を組秋のかぜ  珍碩
  加賀の仝昌寺に宿す
終夜秋風きくや裏の山  曾良
蘆原や鷺の寝ぬ夜を秋の風  江戸 山川
あさ露や鬱金畠の秋の風  凡兆
はつ露や猪の臥芝の起あがり  去来
大比叡やはこぶ野菜の露しげし  野童
三葉ちりて跡はかれ木や桐の苗  凡兆
文月や六日も常の夜には似ず  芭蕉
合歓の木の葉ごしもいとへ星のかげ  同
七夕やあまりいそがばころぶべし  伊賀小年 杜若
みやこにも住まじりけり相撲取  去来
朝がほは鶴眠る間のさかりかな  伊賀 風麦
蕣やぬかごの蔓のほどかれず  膳所 及肩
笑にも泣にもにざる木槿かな  嵐蘭
手を懸ておらで過行木槿哉  杉風
高燈籠ひるは物うき柱かな  千那
はてもなく瀬のなる音や秋黴雨リ  史邦
そよ/\や薮の内より初あらし  旦藁
秋風やとても薄はうごくはず  三川 子尹
迷ひ子の親のこゝろやすゝき原  羽紅
  八瀬おはらに遊吟して、柴うりの文書ける序手に
まねき/\枴の先の薄かな  凡兆
  つくしよりかへりけるに、ひみといふ山にて卯七に別て
君がてもまじる成べしはな薄  去来
草刈よそれが思ひか萩の露  平田 李由
  元禄二年翁に供せられて、みちのくより三越路にかゝり行脚しけるに、かゞの国にていたはり侍りて、いせまで先達けるとて
いづくにかたふれ臥とも萩の原  曾良
桐の木にうづら鳴なる塀の内  芭蕉
百舌鳥なくや入日さし込女松原  凡兆
初雁に行燈とるなまくらもと  亡人 落梧
  堅田にて
病鴈の夜さむに落て旅ね哉  芭蕉
海士の屋は小海老にまじるいとゞ哉  同
  加賀の小松と云処、多田の神社の宝物として、実盛が菊から草のかぶと、同じく錦のきれ有。遠き事ながらまのあたり憐におぼえて
むざんやな甲の下のきり/゛\す  芭蕉
菜畠や二葉の中の虫の声  尚月
はたおりや壁に来て鳴夜は月よ  風麦
  いせにまうでける時
葉月や矢橋に渡る人とめん  亡人 千子
三ケ月に●(「劵」の「力」の代りに「魚」)のあたまをかくしけり  之道
粟稗と目出度なりぬはつ月よ  半残
月見せん伏見の城の捨郭  去来
  翁を茅舎に宿して
おもしろう松笠もえよ薄月夜  伊賀 土芳
  加茂に詣禁でに涙のかゝる成とかの上人の
     たなこのやしろの神垣に
     取つきてよみしとや
月影や拍手もるゝ膝の上  史邦
  友達の六条にかみそりいたゞくとてまかりけるに
影ぼうしたぶさ見送る朝月夜  伊賀 卓袋
ばせを葉や打かへし行月の影  乙州
京筑紫去年の月とふ僧中間  丈艸
吹風の相手や空に月一つ  凡兆
ふりかねてこよひになりぬ月の雨  尚白
向の能き宿も月見る契かな  曾良
  元禄二年つるがの湊に月を見て、気比の明神に詣、遊行上人の古例をきく
月清し遊行のもてる砂の上  芭蕉
  仲秋の望、猶子を送葬して
かゝる夜の月も見にけり野辺送  去来
明月や処は寺の茶の木はら  膳所 昌房
月見れば人の砧にいそがはし  羽紅
僧正のいもとの小屋のきぬたかな  尚白
初潮や鳴門の浪の飛脚舟  凡兆
一戸や衣もやぶるゝこまむかへ  去来
稗の穂の馬逃したる気色哉  越人
渋糟やからすも喰はず荒畠  正秀
あやまりてぎゞうおさゆる●(ウオヘン+「庸」)哉  嵐蘭
  一鳥不鳴山更幽
物の音ひとりたふるゝ案山子哉  凡兆
むつかしき拍子も見えず里神楽  曾良
旅枕鹿のつき合軒の下  江戸 千里
鳩ふくや渋柿原の蕎麦畠  珍碩
上行と下くる雲や龝の天  凡兆
●(ウオヘン+「夸」)釣比の有らし鱸つり  半残
ゐなか間のうすべり寒し菊の宿  尚白
菊を切る跡まばらにもなかりけり  其角
高土手に鶸の鳴日や雲ちぎれ  珍碩
この比のおもはるゝ哉稲の秋  土芳
稲かつぐ母に出迎ふうなひ哉  凡兆
  自題落柿舎
柿ぬしや梢はちかきあらし山  去来
しら浪やゆらつく橋の下紅葉  賀州小松 塵生
肌さむし竹切山のうす紅葉  凡兆
  神田祭
   さればこそひなの拍子のあなる哉
   神田祭の皷うつ音   蚊足
   拍手さへあづまなりとや
花すゝき大名衆をまつり哉  嵐雪
行秋の四五日弱るすゝき哉  丈艸
立出る秋の夕や風ぼろし  凡兆
世の中は鶺鴒の尾のひまもなし  凡兆
塩魚の歯にはさかふや秋の暮  荷兮



猿蓑集 巻之四


  春

梅咲て人の怒の悔もあり  露沾
  上臈の山荘にまし/\けるに候し奉りて
梅が香や山路猟入ル犬のまね  去来
むめが香や分入里は牛の角  加賀 句空
  庭興
梅が香や砂利しき流す谷の奥  土芳
はつ蝶や骨なき身にも梅の花  半残
梅が香や酒のかよひのあたらしき  膳所 蝉鼠
むめの木や此一筋を蕗のたう  其角
  子良館の後に梅有といへば
御子良子の一もと床し梅の花  芭蕉
痩薮や作りだふれの軒の梅  千那
灰捨て白梅うるむ垣ねかな  凡兆
日当りの梅咲ころや屑牛房  膳所 支幽
  暗香浮動月黄昏
入相の梅になり込ひゞきかな  風麦
  武江におもむく旅亭の残夢
寝ぐるしき窓の細目や闇の梅
  辛未のとし弥生のはじめつかた、よしのゝ山に日くれて、梅のにほひしきりなりければ、旧友嵐窓が見ぬかたの花や匂ひを案内者といふ句を、日ごろはふるき事のやうにおもひ侍れども、折にふれて感動身にしみわたり、涙もおとすばかりなれば、その夜の夢に正しくま見えて悦るけしき有。亡人いまだ風雅を忘ざるや
夢さつて又一匂ひ宵の梅  嵐蘭
百八のかねて迷ひや闇のむめ  其角
ひとり寝も能宿とらん初子日  去来
野畠や鴈追のけて摘若菜  史邦
はつ市や雪に漕来る若菜船  嵐蘭
宵の月西になづなのきこゆ也  如行
  憶翁之客中
裾折て菜をつみしらん草枕  嵐雪
つみすてゝ踏付がたき若な哉  路通
七種や跡にうかるゝ朝がらす  其角
我事と鯲のにげし根芹哉  丈艸
うすらひやわづかに咲る芹の花  其角
朧とは松のくろさに月夜かな  同
鉢たゝきこぬよとなれば朧なり  去来
鶯の雪踏落す垣穂かな  伊賀 一桐
鶯やはや一声のしたりがほ  江戸 渓石
うぐひすや遠路ながら礼がへし  其角
鶯や下駄の歯につく小田の土  凡兆
鶯や窓に灸をすえながら  伊賀 魚日
やぶの雪柳ばかりはすがた哉  探丸
此瘤はさるの持べき柳かな  江戸 卜宅
垣ごしにとらへてはなす柳哉  同 遠水
よこた川植処なき柳かな  尚白
青柳のしだれや鯉の住所  伊賀 一啖
雪汁や蛤いかす場のすみ  同 木白
待中の正月もはやくだり月  揚水
  田家に有て
麦めしにやつるゝ恋か猫の妻  芭蕉
うらやましおもひ切時猫の恋  越人
うき友にかまれてねこの空ながめ  去来
  露沾公にて余寒の当座
春風にぬぎもさだめぬ羽織哉  亀翁
野の梅のちりしほ寒き二月哉  尚白
出がはりや櫃にあまれるござのたけ  亀翁
出替や幼ごゝろに物あはれ  嵐雪
骨柴のかられながらも木の芽かな  凡兆
白魚や海苔は下部のかい合せ  其角
人の手にとられて後や桜海苔  尾張 杉峯
春雨にたゝき出したりつく/\し  元志
陽炎や取つきかぬる雪の上  荷兮
かげろふや土もこなさぬあらおこし  百歳
かげろふやほろ/\落る岸の砂  土芳
いとゆふのいとあそぶ也虚木立  伊賀 氷岡
野馬に子共あそばす狐哉  凡兆
かげろふや柴胡の糸の薄曇  芭蕉
いとゆふに貌引のばせ作り独活  伊賀 配力
狗脊の塵にゑらるゝわらびかな  嵐雪
彼岸まへさむさも一夜二夜哉  路通
みのむしや常のなりにて涅槃像  野水
蔵並ぶ裏は燕のかよひ道  凡兆
立さはぐ今や紀の雁いせの鴈  伊賀 沢雉
春雨や屋ねの小草に花咲ぬ  嵐虎
  高山に臥て
春雨や山より出る雲の門  猿雖
不性さやかき起されし春の雨  芭蕉
春雨や田蓑のしまの鯲売  史邦
はるさめのあがるや軒になく雀  羽紅
泥亀や苗代水の畦つたひ  史邦
蜂とまる木舞の竹や虫の糞ン  昌房
振舞や下座になをる去年の雛  去来
春風にこかすな雛の駕籠の衆  伊賀 荻子
桃柳くばりありくやをんなの子  羽紅
もゝの花境しまらぬかきね哉  三川 烏巣
里人の臍落したる田螺かな  嵐推
蝶の来て一夜寝にけり葱のぎぼ  半残
帋鳶切て白根が嶽を行衛哉  加州山中 桃妖
いかのぼりこゝにもすむや潦  伊賀 園風
日の影やごもくの上の親すゞめ  珍碩
荷鞍ふむ春のすゞめや縁の先  土芳
闇の夜や巣をまどはしてなく鵆  芭蕉
  越より飛弾へ行とて、籠のわたりのあやうきところ/゛\、道もなき山路にさまよひて
鷲の巣の樟の枯枝に日は入ぬ  凡兆
かすみより見えくる雲のかしら哉  伊賀 石口
子や待ん余り雲雀の高あがり  杉風
ひばりなく中の拍子や雉子の声  芭蕉
  芭蕉菴のふるきを訪
菫草小鍋洗しあとやこれ  曲水
木瓜莇旅して見たく野はなりぬ  江戸 山店
  画讃
山吹や宇治の焙爐の匂ふ時  芭蕉
白玉の露にきはづく椿かな  車来
  わがみかよはくやまひがちなりければ、髪けづらんも物むつかしと、此春さまをかへて
笄もくしも昔やちり椿  羽紅
蝸牛打かぶせたるつばき哉  津国山本 坂上氏
うぐひすの笠おとしたる椿哉  芭蕉
はつざくらまた迫々にさけばこそ  伊賀 利雪
  東叡山にあそぶ
小坊主や松にかくれて山ざくら  其角
一枝はおらぬもわろし山ざくら  尚白
鶏(本当は「奚」+「隹」)の声もきこゆるやま桜  凡兆
真先に見し枝ならんちる桜  丈艸
有明のはつ/\に咲く遅ざくら  史邦
常斎にはづれてけふは花の鳥  千那
  葛城のふもとを過る
猫見たし花に明行神の顔  芭蕉
  いがの国花垣の庄は、そのかみ南良の八重桜の料に、附られけると云伝えはんべれば一里はみな花守の子孫かや  同
  亡父の墓東武谷中に有しに、三歳にて別れ、廿年の後かの地にくだりぬ。墓の前に桜植置侍るよし、かね/゛\母の物かたりつたへて、その桜をたづね佗けるに、他の墓猶さくら咲みだれ侍れば
まがはしや花吸ふ蜂の往還リ  園風
知人にあはじ/\と花見かな  去来
ある僧の嫌ひし花の都かな  凡兆
  浪人のやどにて
鼠共春の夜あれそ花靱  半残
腥きはな最中のゆふべ哉  伊賀 長眉
  花も奥有とや、よしのに深く吟じ入て
大峰やよしのゝ奥の花の果  曾良
  道灌山にのぼる
道灌や花はその代を嵐哉  嵐蘭
  源氏の絵を見て
欄干に夜ちる花の立すがた  羽紅
  庚午の歳家を焼て
焼にけりされども花はちりすまし  加州 北枝
はなちるや伽藍の枢おとし行  凡兆
海棠のはなは満たり夜の月  江戸 普船
  大和行脚のとき
草臥て宿かる比や藤の花  芭蕉
山鳥や躑躅よけ行尾のひねり  探丸
やまつゝじ海に見よとや夕日影  智月
兎角して卯花つぼむ弥生哉  山川
鷽の声きゝそめてより山路かな  伊賀 式之
  木曾塚
其春の石ともならず木曾の馬  乙州
春の夜はたれか初瀬の堂籠  曾良
  望湖水惜春
行春を近江の人とおしみける  芭蕉


猿蓑集 巻之五

鳶の羽も刷ぬはつしぐれ  去来
 一ふき風の木の葉しづまる  芭蕉
股引の朝からぬるゝ川こえて  凡兆
 たぬきをゝどす篠張の弓  史邦
まいら戸に蔦這かゝる宵の月  蕉
 人にもくれず名物の梨  来
かきなぐる墨絵おかしく秋暮て  邦
 はきごゝろよきめりやすの足袋  兆
何事も無言の内はしづかなり  来
 里見え初て午の貝ふく  蕉
ほつれたる去年のねござのしたゝるく  兆
 芙蓉のはなのはら/\とちる  邦
吸物は先出来されしすいぜんじ  蕉
 三里あまりの道かゝえける  来
この春も盧同が男居なりにて  邦
 さし木つきたる月の朧夜  兆
苔ながら花に並ぶる手水鉢  蕉
 ひとり直し今朝の腹だち  来
いちどきに二日の物も喰て置  兆
 雪げにさむき嶋の北風  邦
火ともしに暮れば登る峯の寺  来
 ほとゝぎす皆鳴仕舞たり  蕉
痩骨のまだ起直る力なき  邦
 隣をかりて車引こむ  兆
うき人を枳殻垣よりくゞらせん  蕉
 いまや別の刀さし出す  来
せはしげに櫛でかしらをかきちらし  兆
 おもひ切たる死ぐるひ見よ  邦
青天に有明月の朝ぼらけ  来
 湖水の秋の比良のはつ霜  蕉
柴の戸や蕎麦ぬすまれて歌をよむ  邦
 ぬのこ着習ふ風の夕ぐれ  兆
押合て寝ては又立つかりまくら  蕉
 たゝらの雲のまだ赤き空  来
一構鞦つくる窓のはな  兆
 枇杷の古葉に木芽もえたつ  邦

  去来九
  芭蕉九
  凡兆九
  史邦九



市中は物のにほひや夏の月  凡兆
 あつし/\と門/\の声  芭蕉
二番草取りも果さず穂に出て  去来
 灰うちたゝくうるめ一枚  兆
此筋は銀も見しらず不自由さよ  蕉
 たゞとひやうしに長き脇指  来
草村に蛙こはがる夕まぐれ  兆
 蕗の芽とりに行燈ゆりけす  蕉
道心のおこりは花のつぼむ時  来
 能登の七尾の冬は住うき  兆
魚の骨しはぶる迄の老を見て  蕉
 待人入し小御門の鎰  来
立かゝり屏風を倒す女子共  兆
 湯殿は竹の簀子侘しき  蕉
茴香の実を吹落す夕嵐  来
 僧やゝさむく寺にかへるか  兆
さる引の猿と世を経る秋の月  蕉
 年に一斗の地子はかる也  来
五六本生木つけたる潴  兆
 足袋ふみよごす黒ぼこの道  蕉
追たてゝ早き御馬の刀持  来
 でつちが荷ふ水こぼしたり  兆
戸障子もむしろかこひの売屋敷  蕉
 てんじやうまもりいつか色づく  来
こそ/\と草鞋を作る月夜さし  兆
 蚤をふるひに起し初秋  蕉
そのまゝにころび落たる升落  来
 ゆがみて蓋のあはぬ半櫃  兆
草庵に暫く居ては打やぶり  蕉
 いのち嬉しき撰集のさた  来
さま/゛\に品かはりたる恋をして  兆
 浮世の果は皆小町なり  蕉
なに故ぞ粥すゝるにも涙ぐみ  来
 御留主となれば広き板敷  兆
手のひらに虱這はする花のかげ  蕉
 かすみうごかぬ昼のねむたさ  来

  凡兆十二
  芭蕉十二
  去来十二



灰汁桶の雫やみけりきり/せ\す  凡兆
 あぶらかすりて宵寝する秋  芭蕉
新畳敷ならしたる月かげに  野水
 ならべて嬉し十のさかづき  去来
千代経べき物を様/゛\子日して  蕉
 鴬の音にだびら雪降る  兆
乗出して肱に余る春の駒  蕉
 摩耶が高根に雲のかゝれる  水
ゆふめしにかますご喰へば風薫  兆
 蛭の口処をかきて気味よき  蕉
ものおもひけふは忘れて休む日に  水
 迎せはしき殿よりのふみ  来
金鍔と人によばるゝ身のやすさ  蕉
 あつ風呂ずきの宵/\の月  兆
町内の秋も更行明やしき  来
 何を見るにも露ばかり也  水
花とちる身は西念が衣着て  蕉
 木曾の酢茎に春もくれつゝ  兆
かへるやら山陰伝ふ四十から  水
 柴さす家のむねをからげる  来
冬空のあれに成たる北颪  兆
 旅の馳走に有明しをく  蕉
すさまじき女の智恵もはかなくて  来
 何おもひ草狼のなく  水
夕月夜岡の萱ねの御廟守る  蕉
 人もわすれしあかそぶの水  兆
うそつきに自慢いはせて遊ぶらん  水
 又も大事の鮓を取出す  来
堤より田の青やぎていさぎよき  兆
 加茂のやしろは能き社なり  蕉
物うりの尻声高く名乗すて  来
 雨のやどりの無常迅速  水
昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ  蕉
 しよろ/\水に藺のそよぐらん  兆
糸桜腹いつぱひに咲にけり  来
 春は三月曙のそら  水

  去来九
  芭蕉九
  野水九
  去来九



  餞乙州東武行
梅若菜まりこの宿のとろゝ汁  芭蕉
 かさあたらしき春の曙  乙州
雲雀なく小田に土持比なれや  珍碩
 しとき祝ふて下されにけり  素男
片隅に虫歯かゝえて暮の月  州
 二階の客はたゝれたるあき  蕉
放やるうづらの跡は見えもせず  男
 稲の葉延の力なきかぜ  碩
ほつしんの初にこゆる鈴鹿山  蕉
 内蔵頭かと呼声はたれ  州
卯の刻の箕手に並ぶ小西方  碩
 すみきる松のしづかなりけり  男
萩の札すゝきの札によみなして  州
 雀かたよる百舌鳥の一声  智月
懐に手をあたゝむる秋の月  凡兆
 汐さだまらぬ外の海づら  州
鑓の柄に立すがりたる花のくれ  去来
 灰まきちらすからしなの跡  兆
春の日に仕舞てかへる経机  正秀
 店屋物くふ供の手がはり  来
汗ぬぐひ端のしるしの紺の糸  半残
 わかれせはしき鶏(本当は「奚」+「隹」)の下 土芳
大胆におもひくづれぬ恋をして  残
 身はぬれ紙の取所なき  芳
小刀の蛤刃なる細工ばこ  残
 棚に火ともす大年の夜  園風
こゝもとはおもふ便も須磨の浦  猿雖
 むね打合せ着たるかたぎぬ  残
此夏もかなめをくゝる破扇  風
 醤油ねさせてしばし月見る  雖
咳声の隣はちかき縁づたひ  芳
 添へばそふほどこくめんな顔  風
形なき絵を習ひたる会津盆  嵐蘭
 うす雪かゝる竹の割下駄  史邦
花に又ことしのつれも定らず  野水
 雛の袂を染るはるかぜ  羽紅

  芭蕉三
  乙州五    土芳三
  珍碩三    園風三
  素男三    猿雖二
  智月一    嵐蘭一
  凡兆二    史邦一
  去来二    野水一
  正秀一    羽紅一
  半残四




猿蓑集 巻之六

  幻佳菴記          芭蕉艸

石山の奥、岩間のうしろに山有、国分山と云。そのかみ国分寺の名を伝ふなるべし。麓に細き流を渡りて、翠微に登る事三曲二百歩にして、八幡宮たゝせたまふ。神体は弥陀の尊像とかや。唯一の家には甚忌なる事を、両部光を和げ、利益の塵を同じうしたまふも又貴し。日比は人の詣ざりければ、いとゞ神さび物しづかなる傍に、住捨し草の戸有。よもぎ根笹軒をかこみ、屋ねもり壁落て孤狸ふしどを得たり。幻住菴と云。あるじの僧何がしは、勇士菅沼氏曲水子の伯父になん侍りしを、今は八年計むかしに成て、正に幻住老人の名をのみ残せり。予又市中をさる事十年計にして、五十年やゝちかき身は、蓑虫のみのを失ひ、蝸牛家を離て、奥羽象潟の暑き日に面をこがし、高すなごあゆみくるしき北海の荒礒にきびすを破りて、今歳湖水の波に漂、鳰の浮巣の流とゞまるべき蘆の一本の陰たのもしく、軒端茨あらため、垣ね結添などして、卯月の初いとかりそめに入し山の、やがて出じとさへおもひそみぬ。さすがに春の名残も遠からず、つゝじ咲残り、山藤松に懸て、時鳥しば/\過る程、宿かし鳥の便さへ有を、木つゝきのつゝくともいとはじなど、そゞろに興じて、魂呉楚東南にはしり、身は瀟湘洞庭に立つ。山は未申にそばだち、人家よきほどに隔り、南薫峯よりおろし、北風海を浸して凉し。日枝の山比良の高根より、辛崎の松は霞こめて、城有、橋有、釣たるゝ舟有。笠とりにかよふ木樵の声、麓の小田に早苗とる歌、蛍飛かふ夕闇の空に、水鶏の扣音、美景物としてたらずと云事なし。中にも三上山は士峯の俤にかよひて、武蔵野ゝ古き栖もおもひいでられ、田上山に古人をかぞふ。さゝほが嶽、千丈が峯、袴腰といふ山有。黒津の里はいとくろう茂りて、網代守ルにぞとよみけん万葉集の姿なりけり。猶眺望くまなからむと、後の峯に這のぼり、松の棚作、藁の円座を敷て、猿の腰掛と名付。彼海棠に巣をいとなび、主薄峯に菴を結べる王翁除●(ニンベン+「全」)が徒にはあらず。唯睡辟山民と成て、孱顔に足をなげ出し、空山に虱を捫て座ス。たま/\心まめなる時は、谷の清水を汲て自ら炊ぐ。とく/\の雫を侘て一炉の備へいとかろし。はた昔住けん人の、殊に心高く住なし侍りて、たくみ置る物ずきもなし。持仏一間を隔て、夜の物おさむべき処などいさゝかしつらへり。さるを、筑紫高良山の僧正は、加茂の甲斐何がしが厳子にて、此たび洛にのぼりいまそかりけるを、ある人をして額を乞。いとやす/\と筆を染て、幻住菴の三字を送らる。頓て草菴の記念となしぬ。すべて山居といひ旅寝と云、さる器たくはふべくもなし。木曾の桧笠越の菅蓑計、枕の上の柱に懸たり。昼は稀/\とぶらふ人々に心を動し、あるは宮守の翁、里のおのこ共入来りて、いのしゝの稲くひあらし、兎の豆畑にかよふなど、我聞しらぬ農談、日既に山の端にかゝれば、夜座靜に月を待ては影を伴ひ、燈を取ては罔両に是非をこらす。かくいへばとて、ひたぶるに閑寂を好み、山野に跡をかくさむとにはあらず、やゝ病身人に倦て、世をいとひし人に似たり。倩年月の移こし拙き身の科をおもふに、ある時は仕官懸命の地をうらやみ、一たびは仏籬祖室の扉に入らむとせしも、たどりなき風雲に身をせめ、花鳥に情を労して、暫く生涯のはかり事とさへなれば、終に無能無才にして此一筋につながる。楽天は五臓の神をやぶり、老杜は痩たり。賢愚文質のひとしからざるも、いづれか幻の栖ならずやと、おもひ捨てふしぬ。
  先たのむ椎の木も有夏木立


   題芭雀翁国分山幻住菴記之後
何世無隠士。以心隠為賢也。何虚無山川。風景囚人美也。間読芭蕉翁幻住菴記。乃識其賢且知山川得其人而益美矣。可謂人与山川共相得焉。迺作鄙章一篇歌之曰。
  琶湖南兮国分嶺   古松鬱兮緑陰清
  芽屋竹椽纔数間   内有佳人独養生
  満口錦繍輝山川   風景依稀入誹城
  此地自古富勝覧   今日因君尚益栄
 元禄庚午仲秋日       震軒具艸




  几右日記

時鳥背中見てやる麓かな  曲水
くつさめの跡しづか也なつの山  野水
鶏もばら/\時か水鶏なく  去来
海山に五月雨そふや一くらみ  凡兆
軒ちかき岩梨おるな猿のあし  千那
細脛のやすめ処や夏のやま  珍碩
  贈紙帳
おもふ事紙帳にかけと送りけり  野径
いつたきて蕗の葉にもるおぶくぞも  里東
螢飛畳の上もこけの露  乙州
顔や葎の中の花うつぎ  膳所 怒誰
たど/\し峰に下駄はく五月闇  探志
五羽六羽菴とりまはすかんこ鳥  元志
木つゝきにわたして明る水鶏哉  膳所 泥土
笠あふつ柱すゞしや風の色  史邦
月待や海を尻目に夕すゞみ  正秀
しづかさは栗の葉沈む清水哉  亡人 柳陰
涼しさやともに米かむ椎が本  如行
  訪に留主なり
椎の木をだかへて啼や蝉の声  膳所 朴水
目の下や手洗ふ程に海涼し  美濃垂井 市隠
  文に云こす
膳所米や早苗のたけに夕涼  半残
  麦の粉を土産す
一袋これや鳥羽田のことし麦  之道
  書音
一夏入る山さばかりや旅ねずき  長崎 魯町
夕立や檜木の奥の一しきり  及肩
  昇猿腰掛
龝風や田上山のくぼみより  尚白
  贈簑
しら露もまだあらみのゝ行衛哉  北枝
木履ぬぐ傍に生けり蓼の花  木節
  包紙に書
縫にこす薬袋や萩の露  膳所 扇
稲の花これを仏の土産哉  智月
石山や行かで果せし秋の風  羽紅
桶の輪やきれて鳴やむきり/゛\す  昌房
里はいま夕めしどきのあつさ哉  何処
啼やいとゞ塩にほこりのたまる迄  越人
  越人と同じく訪合て
蓮の実の供に飛入菴かな  等哉
  明年弥生尋旧菴
春雨やあらしも果ず月のひづみ
  同夏
涼しさや此菴をさへ住捨し  曾良




   跋
猿蓑者芭蕉翁滑稽之首●(「音」+「景」)也。非比彼山寺偸衣朝市頂冠笑。只任心感物写興而已矣。洛下逸人凡兆去来随豪遊学。楳館竹窓●(「臘」の左側がアシヘン)等凌節、斯有歳。属撰此集玩弄無已。自謂絶超狐腋白裘者也。於是四方●(クチヘン+「金」)友憧々往来、或千里寄書、々中皆有佳句。日蘊月隆各程文章。然有昆仲騒士不集録者、索居竄居栖為難通信。且有旄倪婦人不琢磨者、麁言細語為喜同志。雖無至其域何棄其人乎哉。果分四序作六巻。故不遑広捜他家文林也。維●(ニチヘン+「之」)元禄四稔辛未仲夏、余掛錫於洛陽旅亭、偶会兆来吟席。見需記此事題書尾、卒援毫不揣拙。庶幾一蓑高張有補于詞海漁人云。
               風狂軒衲 丈艸漢書
                    正竹書之
            京寺町二条上ル丁井筒屋庄兵衛板






すみたはら   建順



  炭俵序

此集を撰める孤屋野坡利牛らは、常に芭蕉の軒に行かよひ、瓦の窓をひらき心の泉をくみしりて、十あまりなゝの文字の野風をはげみあへる輩也。霜凍り冬とのゝあれませる夜、この二三子庵に侍て火桶にけし炭をおこす。菴主これに口をほどけ、宋人の手亀らずといへる薬是ならんと、しのゝ折箸に●(ヒヘン+「唐」)のさゝやかなるを竪にをき横になをしつゝ、金屏の松の古さよ冬籠と、舌よりまろびいづる声のみたりが耳に入、さとくもうつるうのめ鷹のめどもの、是に魂のすはりたるけにや、これを思ひ立、はるの日のゝつと出しより、秋の月にかしらかたぶけつゝ、やゝ吟終り篇なりて、竟にあめつちの二まきにわかつとなん。是をひらきみるに、有声の絵をあやどり、おさむれば又くぬぎ炭の筋みへたり。けだしくも題号をかく付侍事は、詩の正義にいへる五つのしな、あるはやまとの巻/\のたぐひにはあらねど、例の口に任せたるにもあらず、竊により所ありつる事ならし。ひと日芭蕉旅行の首途に、やつがれが手を携へて再会の期を契り、かつ此等の集の事に及て、かの冬籠の夜、きり火桶のもとにより、くぬぎ炭のふる歌をうちずしつるうつりに、炭だはらといへるは誹也けりと、独ごちたるを、小子聞をりてよしとおもひうるとや、此しうをえらぶ媒と成にたり。この心もて宜しう序書てよと云捨てわかれぬ。今此事をかうがへ、其初をおもふに、題号をのづからひゞけり。さらに弁をつくる境にはあらじかしとくちをつぐむ。

 元禄七の年夏閏さつき初三の日     素龍書




誹諧炭俵集 上巻

むめがゝにのつと日の出る山路かな  芭蕉
 処/\に雉子の啼たつ  野坡
家普請を春のてすきにとり付て  同
 上のたよりにあがる米の直  芭蕉
宵の内はら/\とせし月の雲  同
 薮越はなすあきのさびしき  野坡
御頭へ菊もらはるゝめいわくさ  野坡
 娘を堅う人にあはせぬ  芭蕉
奈良がよひおなじつらなる細基手  野坡
 ことしは雨のふらぬ六月  芭蕉
預けたるみそとりにやる向河岸  野坡
 ひたといひ出すお袋の事  芭蕉
終宵尼の持病を押へける  野坡
 こんにやくばかりのこる名月  芭蕉
はつ雁に乗懸下地敷て見る  野坡
 露を相手に居合ひとぬき  芭蕉
町衆のつらりと酔て花の陰  野坡
 門で押るゝ壬生の念仏  芭蕉
東風々に糞のいきれを吹まはし  同
 たゞ居るまゝに肱わづらふ  野坡
江戸の左右むかひの亭主登られて  芭蕉
 こちにもいれどから臼をかす  野坡
方/\に十夜の内のかねの音  芭蕉
 桐の木高く月さゆる也  野坡
門しめてだまつてねたる面白さ  芭蕉
 ひらふた金で表がへする  野坡
はつ午に女房のおやこ振舞て  芭蕉
 又このはるも済ぬ牢人  野坡
法印の湯治を送る花ざかり  芭蕉
 なは手を下りて青麦の出来  野坡
どの家も東の方に窓をあけ  野坡
 魚に喰あくはまの雑水  芭蕉
千どり啼一夜/\に寒うなり  野坡
 未進の高のはてぬ算用  芭蕉
隣へも知らせず嫁をつれて来て  野坡
 屏風の陰にみゆるくはし盆  芭蕉



  三吟
兼好も莚織けり花ざかり  嵐雪
 あざみや苣に雀鮨もる  利牛
片道は春の小坂のかたまりて  野坡
 外をざまくに囲ふ相撲場  嵐雪
細々と朔日ごろの宵の月  利牛
 早稲も晩稲も相生に出る  野坡
泥染を長き流にのばすらん  野坡
 あちこちすれば昼のかねうつ  利牛
隣から節々嫁を呼に來る  野坡
 てう/\しくも誉るかいわり  嵐雪
黒谷のくちは岡崎聖護院  利牛
 五百のかけを二度に取けり  野坡
綱ぬきのいぼの跡ある雪のうへ  嵐雪
 人のさわらぬ松黒む也  利牛
雑役の鞍を下せば日がくれて  野坡
 飯の中なる芋をほる月  嵐雪
漸と雨降やみてあきの風  利牛
 鶏頭みては又鼾かく  野坡
奉公のくるしき顔に墨ぬりて  嵐雪
 抱揚る子の小便をする  利牛
ぐはた/\と河内の荷物送り懸  野坡
 心みらるゝ箸のせんだく  嵐雪
婿が来て娘の世とは成にけり  利牛
 ことしのくれは何も●(クチヘン+「羅」)はぬ  野坡
金仏の細き御足をさするらん  嵐雪
 此かいわいの小鳥皆よる  利牛
黍の穂は残らず風に吹倒れ  野坡
 馬場の喧嘩の跡にすむ月  嵐雪
弟はとう/\江戸で人になる  利牛
 今に庄やのくちはほどけず  野坡
売手からうつてみせたるゝき鉦  嵐雪
 ひらり/\とゆきのふり出し  利牛
鎌倉の便きかせに走らする  野坡
 かした処のしれぬ細引  嵐雪
独ある母をすゝめて花の陰  利牛
 まだかびのこる正月の餅  野坡



  ふか川にまかりて
空豆の花さきにけり麦の縁  孤屋
 昼の水鶏のはしる溝川  芭蕉
上張を通さぬほどの雨降て  岱水
 そつとのぞけば酒の最中  利牛
寝処に誰もねて居ぬ宵の月  芭蕉
 どたりと塀のころぶあきかぜ  孤屋
きり/゛\す薪の下より鳴出して  利牛
 晩の仕事の工夫するなり  岱水
妹をよい処からもらはるゝ  孤屋
 僧都のもとへまづ文をやる  芭蕉
風細う夜明がらすの啼わたり  岱水
 家のながれたあとを見に行  利牛
鯲汁わかい者よりよくなりて  芭蕉
 茶の買置をさげて売出す  孤屋
この春はどうやら花の静なる  利牛
 かれし柳を今におしみて  岱水
雪の跡吹はがしたる朧月  孤屋
 ふとん丸げてものおもひ居る  芭蕉
不届な隣と中のわるうなり  岱水
 はつち坊主を上へあがらす  利牛
泣事のひそかに出来し浅ぢふに  芭蕉
 置わすれたるかねを尋ぬる  孤屋
着のまゝにすくんでねれば汗をかき  利牛
 客を送りて提る燭台  岱水
今のまに雪の厚さを指てみる  孤屋
 年貢すんだとほめられにけり  芭蕉
息災に祖父のしらがのめでたさよ  岱水
 堪忍ならぬ七夕の照り  利牛
名月のまに合せ度芋畑  芭蕉
 すた/\いふて荷ふ落鮎  孤屋
このごろは宿の通りもうすらぎし  利牛
 山の根際の鉦かすか也  岱水
よこ雲にそよ/\風の吹き出す  孤屋
 晒の上にひばり囀る  利牛
花見にと女子ばかりがつれ立て  芭蕉
 余のくさなしに菫たんぽゝ  岱水

  芭蕉
  孤屋
  岱水
  利牛
    各九句



  百韻
子は裸父はてゝれで早苗舟  利牛
 岸のいばらの真ツ白に咲  野坡
雨あがり珠数懸鳩の鳴出して  孤屋
 与力町よりむかふ西かぜ  利牛
竿竹に茶色の紬たぐりよせ  野坡
 馬が離れてわめく人声  孤屋
暮の月干葉の茹汁わるくさし  利牛
 掃ば跡から檀ちる也  野坡
ぢゝめきの中でより出するりほあか  孤屋
 坊主になれどやはり仁平次  利牛
松坂や矢川へはいるうら通り  野坡
 吹るゝ胼もつらき闇の夜  孤屋
十二三弁の衣裳の打そろひ  利牛
 本堂はしる音はとろ/\  野坡
日のあたる方はあからむ竹の色  孤屋
 只奇麗さに口すゝぐ水  利牛
近江路のうらの詞を聞初て  野坡
 天気の相よ三か月の照  孤屋
生ながら直に打込むひしこ漬  利牛
 椋の実落る屋ねくさる也  野坡
帯売の戻り連立花ぐもり  孤屋
 御影供ごろの人のそはつく  利牛
ほか/\と二日灸のいぼひ出  野坡
 ほろ/\あへの膳にこぼるゝ  孤屋
ない袖を振てみするも物おもひ  利牛
 舞羽の糸も手につかず繰  野坡
段々に西国武士の荷のつどひ  孤屋
 尚きのふより今日は大旱  利牛
切●(ムシヘン+「羌」)の喰倒したる植たばこ  野坡
 くばり納豆を仕込広庭  孤屋
瘧日をまぎらかせども待ごゝろ   利牛
 藤ですげたる下駄の重たき  野坡
つれあひの名をいやしげに呼まはり  孤屋
 となりの裏の遠き井の本  利牛
くれの月横に負来る古柱  野坡
 ずいきの長のあまるこつてい  孤屋
ひつそりと盆は過たる浄土寺  利牛
 戸でからくみし水風呂の屋ね  野坡
伐透す椴と檜のすれあひて  孤屋
 赤い小宮はあたらしき内  利牛
浜迄は宿の男の荷をかゝえ  野坡
 師走比丘尼の諷の寒さよ  孤屋
餅搗の臼を年々買かえて  利牛
 天満の状を又忘れけり  野坡
広袖をうへにひつぱる船の者  孤屋
 むく起にして参る観音  利牛
燃しさる薪を尻手に指くべて  野坡
 十四五両のふりまはしする  孤屋
月花にかきあげ城の跡ばかり  利牛
 弦打颪海雲とる桶  孤屋
機嫌能かいこは庭に起かゝり  野坡
 小昼のころの空静也  利牛
椽端に腫たる足をなげ出して  孤屋
 鍋の鑄かけを念入てみる  野坡
麦畑の替地に渡る傍爾杭  利牛
 売手もしらず頼政の筆  孤屋
物毎も子持になればだゞくさに  野坡
 又御局の古着いたゞく  利牛
妓王寺のうへに上れば二尊院  孤屋
 けふはけんがく寂しかりけり  野坡
薄雪のこまかに初手を降出し  利牛
 一つくなりに鱈の雲腸  孤屋
銭さしに菰引ちぎる朝の月  野坡
 なめすゝきとる裏の塀あはひ  利牛
めを縫て無理に鳴する鵙の声  孤屋
 又だのみして美濃だよりきく  野坡
かゝさずに中の巳の日をまつる也  利牛
 入来る人に味曾豆を出す  孤屋
すぢかひに木綿袷の龍田川  野坡
 御茶屋のみゆる宿の取つき  利牛
ほや/\とどんどほこらす雲ちぎれ  孤屋
 水菜に鯨まじる惣汁  野坡
花の内引越て居る樫原  利牛
 尻軽にする返事聞よく  孤屋
おちかゝるうそ/\時の雨の音  野坡
 入舟つゞく月の六月  利牛
拭立てお上の敷居ひからする  孤屋
 尚言つのる詞からかひ  野坡
大水のあげくに畑の砂のけて  利牛
 何年菩提しれぬ栃の木  孤屋
敷金に弓同心のあとを継  野坡
 丸九十日湿をわづらふ  利牛
投打もはら立まゝにめつた也  孤屋
 足なし棊槃よう借に来る  野坡
里離れ巡礼引のぶらつきて  利牛
 やはらかものを嫁の襟もと  孤屋
気にかゝる朔日しまの精進箸  野坡
 うんぢ果たる八専の空  利牛
丁寧に仙台俵の口かゞり  孤屋
 訴訟が済で土手になる筋  野坡
夕日に医者の名字を聞はつり  利牛
 包て戻る鮭のやきもの  孤屋
定免を今年の風に欲ぼりて  野坡
 もはや仕事もならぬおとろへ  利牛
暑病の殊土用をうるさがり  孤屋
 幾月ぶりでこゆる逢坂  野坡
減もせぬ鍛冶屋のみせの店ざらし  利牛
 門建直す町の相談  孤屋
彼岸過一重の花の咲立て  野坡
 三人ながらおもしろき春  執筆



 春之部発句

  立春
蓬莱に聞ばや伊勢の初便  芭蕉
東雲やまいら戸はづすかざり松  濁子
みちのくのけふ関越ん箱の海老  杉風
春や祝ふ丹波の鹿も帰とて  京 去来
刀さす供もつれたし今朝の春  膳所 正秀
いそがしき春を雀のかきばかま  大坂 洒堂
喰つみや木曾のにほひの檜物  岱水
猶いきれ門徒坊主の水祝ひ  沾圃
目下にも中の詞や年の時宜  孤屋
初日影我茎立とつまればや  利牛
長松が親の名で来る御慶哉  野坡

  梅
梅一木つれ/゛\草の姿かな  露沾
むめ咲や臼の挽木のよきまがり  曲翠
むめが香の筋に立よるはつ日哉  支考
  窓のうちをみこみて
むめちるや糸の光の日の匂ひ  伊賀 土芳
梅さきて湯殿の崩れなをしけり  利牛
赤みその口を明けりむめの花  游刀
みな/\に咲そろはねど梅の花  野坡
紅梅は娘すまする妻戸哉  杉風
  おなごどもの七くさはやすをみて
とばしるも顔に匂へる薺哉  其角
七種や粧ひしかけて切刻み  野坡
うちむれてわかな摘野に脛かゆし  仙杖
  洛よりの文のはしに
朧月一足づゝもわかれかな  去来
大はらや蝶の出てまふ朧月  僧 丈艸
おぼろ月まだはなされぬ頭巾かな  仙花
  深川の会に
長閑さや寒の残りも三ケ一  利牛
十五日立や睦月の古手売  大坂 之道
猫の恋初手から鳴て哀也  野坡
ねこの子のくんづほぐれつ胡蝶哉  其角

  鶯
うぐひすにほうと息する朝哉  嵐雪
鶯に薬をしへん声の文  其角
うぐひすの声に起行雀かな  桃隣
うぐひすや門はたま/\豆麩売  野坡
鶯の一声も念を入にけり  利牛

  柳
こねりをもへらして植し柳かな  湖春
障子ごし月のなびかす柳かな  素龍
五人ぶちとりてしだるゝ柳かな  野坡
せきれいの尾は見付ざる柳哉  一風
町なかへしだるゝ宿の柳かな  利牛
傘に押わけみたる柳かな  芭蕉

  椿
土はこぶ●(タケカンムリ+「羅」)にちり込椿かな  孤屋
枝長く伐らぬ習を椿かな  湖春
念入て冬からつぼむ椿かな  曲翠
鋸にからきめみせて花つばき  嵐雪
鳥のねも絶ず家陰の赤椿  支考
はき掃除してから椿散にけり  野坡

  花
 うへのゝ花見にまかり侍しに、人々幕打さはぎ、ものゝ音小うたの声さま/゛\なりにける、かたはらの松かげをたのみて
四つごきのそろはぬ花見心哉  芭蕉
めづらしや内で花見のはつめじか  杉風
うか/\と来ては花見の留守居哉  丈艸
  何がしのかうの殿の花見に侍りて
中下もそれ相応の花見かな  素龍
花守や白きかしらを突あはせ  去来
朝めしの湯を片膝や庭の花  孤屋
あすと云花見の宵のくらき哉  荊口
だかれてもおのこゞいきる花見哉  斜嶺
柿の袈裟ゆすり直すや花の中  北枝
牡丹すく人もや花見とはさくら  湖春
あだなりと花に五戒の桜かな  其角
花はよも毛虫にならじ家桜  嵐雪
やまざくらちるや小川の水車  大津あま 智月
老僧も袈裟かづきたる花見哉  大坂 之道
誰が母ぞ花に珠数くる遅ざくら  祐甫
山桜小川飛こすおなご哉  越前福井 普全
昆布だしや花に気のつく庫裏坊主  利牛
おちつきは魚やまかせや桜がり  同
折かへる桜でふくや台所  孤屋
祭まであそぶ日なくて花見哉  野坡
食の時みなあつまるや山ざくら  仝

  上巳
帯ほどに川のながるゝ塩干哉  沾徳
昼舟に乗るやふしみの桃の花  桃隣
かざらきの神はいづれぞ夜の雛  其角
鬼の子に餅を居るもひなゐ哉  みの 如行
日半路をてられて来るや桃の花  野坡
麻の種毎年踏る桃の華  利牛
藪垣や馬の貌かくもゝの花  孤屋
青柳の泥にしだるゝ塩干かな  芭蕉

  題知らず
滝つぼに命打こむ小あゆ哉  嵯峨田夫 為有
春雨や蜂の巣つたふ屋ねの漏  芭蕉
散残るつゝじの蘂や二三本  子珊
ほそ/゛\とごみ焼門のつばめ哉  怒誰
鳥の行やけのゝ隈や風の末  伊賀 猿雖
気相よき青葉の麦の嵐かな  仙華
  旅行にて
法度場の垣より内はすみれ哉  野坡
 此集いまだ半なる比、孤屋旅立事ありけるに、品川までみ送りて
雲霞どこまで行もおなじ事  野坡
梅さくらふた月ばかり別れけり  利牛



 夏部之発句

  首夏
塩うをの裏ほす日也衣がへ  嵐雪
衣がへ十日はやくば花ざかり  野坡
綿をぬく旅ねはせはし衣更  九節
雀よりやすき姿や衣がへ  雪芝
花の跡けさはよほどの茂りかな  子珊
扇屋の暖簾白し衣がへ  利牛

  うの花
卯の花やくらき柳の及ごし  芭蕉
うのはなの絶間たゝかん闇の門  去来
  旅行に
うの花に蘆毛の馬の夜明哉  許六
卯の花に扣ありくやかづらかけ  支考

  題しらず
棹の歌はやうら涼しめじか舟  湖春
髭宗祇池に蓮ある心かな  素堂
うぐひすや竹の子藪に老を鳴  芭蕉

  郭公
聞までは二階にねたりほとゝぎす  桃隣
ほとゝぎす一二の橋の夜明かな  其角
行燈を月の夜にせんほとゝぎす  嵐雪
挑灯の空に詮なしほとゝぎす  杉風
木がくれて茶摘も聞やほとゝぎす  芭蕉
青雲や舟ながしやる子規  素龍
時鳥啼々風が雨になる  利牛
子規顔の出されぬ格子哉  野坡

  麦
柿寺に麦穂いやしや作どり  みの 荊口
麦の穂と共にそよぐや筑波山  千川
麦跡の田植や遲き蛍どき  許六
  翁の旅行を川さきまで送りて
刈こみし麦の匂ひや宿の内  利牛
  おなじ時に
麦畑や出ぬけても猶麦の中  野坡
  おなじこゝろを
浦風やむらがる蠅のはなれぎは  岱水

  端午
五月雨や傘に付たる小人形  其角
さうぶ懸てみばやさつきの風の音  大坂 洒堂
五日迄水すみかぬるあやめかな  桃隣
文もなく口上もなし粽五把  嵐雪
みをのやは首の骨こそ甲なれ  仙花
帷子のしたぬぎ懸る袷かな  素龍
  夏旅
並松をみかけて町のあつさかな  臥高
枯柴に昼貌あつし足のまめ  斜嶺
二三番鶏は鳴どもあつさ哉  長崎 魯町
はげ山の力及ばぬあつさかな  猿雖
するが地や花橘も茶の匂ひ  芭蕉
   この句は島田よりの便に

  五月雨
さみだれやとなりへ懸る丸木橋  素龍
五月雨の色やよど川大和川  桃隣
さみだれに小鮒をにぎる子供哉  野坡
五月雨や露の葉にもる●(クサカンムリ+「商」)●(クサカンムリ+「陸」)  嵐蘭    この句は嵐蘭より書てよこしぬ
五月雨や顔も枕もものゝ本  岱水

  涼
川中の根木によろこぶすゞみ哉  芭蕉
月影にうごく夏木や葉の光り  女 可南
涼しさよ塀にまたがる竹の枝  長崎 卯七
行燈をしいてとらするすゞみかな  探芝
崎風はすぐれて涼し五位の声  智月
すゞしさをしれと杓の雫かな  備前 兀峯
すゞしさや浮洲のうへのざこくらべ  去来
夕すゞみあぶなき石にのぼりけり  野坡
三か月の隠にてすゞむ哀かな  素堂

  題しらず
橘や定家机のありどころ  杉風
熨斗むくや礒菜すゞしき島がまへ  正秀
世の中や年貢畠のけしの花  里東
早乙女にかへてとりたる菜飯哉  嵐雪
  木曽路にて
やまぶきも巴も出る田うへかな  許六
ひるがほや雨降たらぬ花の貌  智月
はへ山や人もすさめぬ生ぐるみ  北鯤
暁のめをさまさせよはすの花  乙州
雨乞の雨気こはがるかり着哉  丈艸
蛍みし雨の夕や水葵  仙花
一いきれ蝶もうろつくわか葉哉  楚舟
なりかゝる蝉がら落す李かな  みの 残香
猪の牙にもげたる茄子かな  さが 為有
団売侍町のあつさかな  怒風
けうときは鷲の栖や雲の峰  祐甫
一枝はすげなき竹のわかば哉  仙花
竹の子や児の歯ぐきのうつくしき  嵐雪
  さるべき人、僕が酒をたしむ事を、かたく戒め給ひて諾せしむ。しかるにある会にそれをよく知て、あらきあはもりなど、名あるかぎりを取出て、あるじせられければ、汗をかきて
改て酒に名のつくあつさ哉  利牛
  ある人の別墅にいざなはれ、尽日打和て物がたりし其夕つかた、外のかたをながめ出して
行雲をねてゐてみるや夏座敷  野坡






俳諧炭俵 下巻

 穐之部  秋のあはれいづれか/\の中に月を翫て時候の序をえらばず


  名月
名月や見つめても居ぬ夜一よさ  湖春
名月や椽取まはす黍の虚  去来
家買てことし見初る月夜哉  荷兮
名月や誰吹起す森の鳩  洒堂
松陰や生船揚に江の月見  里東
もち汐の橋のひくさよけふの月  利牛
家こぼつ木立も寒し後の月  其角
  むさしの仲秋の月、はじめて見侍て、望峰ノ不尽筑波を
明月や不二みゆかとするが町  素龍

  七夕
笹のはに枕付てやほしむかへ  其角
星合にもえ立紅やかやの縁  孤屋
七夕やふりかへりたるあまの川  嵐雪

  盂蘭盆
とうきびにかげろふ軒や玉まつり  洒堂
踊るべきほどには酔て盆の月  江州 李由
盆の月ねたかと門をたゝきけり  野坡

  朝貌
  閉関
朝貌や昼は錠おろす門の垣  芭蕉
朝貌や日傭出て行跡の垣  利合
てしがなと朝貌ははす柳哉  湖春

  秋虫
年よれば声はかるゝぞきりぎりす  大津 智月
悔いふ人のとぎれやきりぎりす  丈艸
蟷螂にくんで落たるぬかごかな  さが 為有
こうろぎや箸で追やる膳の上  孤屋

  鹿
友鹿の啼を見かへる小鹿かな  車来
  人のもとめによりて
鹿のふむ跡や硯の躬恒形  素龍
  旅行のとき
近江路やすがひに立る鹿の長  土芳

  草花
宮城野の萩や夏より秋の花  桃隣
花すゝきとらへぢからや村すゞめ  野童
片岡の萩や刈ほす稲の端  猿雖
蘆の穂や貌撫揚る夢ごゝろ  丈草
  なには津にて
蘆のほに箸うつかたや客の膳  去来
  女中の茸狩をみて
茸狩や鼻のさきなる歌がるた  其角
  園菊
菊畑おくある霧のくもり哉  杉風
紺菊も色に呼出す九日かな  桃隣

  秋植物
柿のなる本を子どもの寄どころ  利牛
落栗や谷にながるゝ蟹の甲  祐甫
秋風や茄子の数のあらはるゝ  木白
箕に干て窓にとちふく綿の桃  孤屋
  とうがらしの名を南蛮がらしといへるは、かれが治世南ばんにてひさしかりしゆへにや。未詳。ほうづき、天のぞき、そら見、八つなりなどいへるは、をのがかたちをこのめる人々の、もてあそびて付たる成るべし。みなやさしからぬ名目は、汝がむまれ付のふつゝかなれば、天資自然の理、さら/\恨むべからず。かれが愛をうくるや、石台にのせられて、竹椽のはしのかたにあるは、上々の仕合なり。ともすればすりばちのわれ、そこぬけのつるべに土かはれて、やねのはづれ、二階のつま、物ほしのひかげをたのめるなど、あやうくみへ侍を、朝貌のはかなきたぐひには、たれも/\おもはず、大かたはかづら髭つり髭のますらおにかしづかれて、びんぼ樽の口をうつすさかなとなり、不食無菜のとき、ふと取出され、おほくはやつこ豆麩の比紅葉の色をみするを、栄花の頂上とせり。かくはいへど、ある人北野もうでの帰さに、みちのほとりの小童に、こがね一両くれて、なんぢが青々とひとつみのりしを、所望せし事ありといへば、いやしめらるべきにもあらず。しかしいまは、その人々も此世をさりつれば、いよ/\愛をもたのむべからず。からきめもみすべからずと、小序をしかいふ。
石台を終にねこぎや唐がらし  野坡

  題しらず
相撲取ならぶや秋のからにしき  嵐雪
水風呂の下や案山子の身の終  丈草
碪ひとりよき染物の匂ひかな  洒堂
秋のくれいよ/\かるくなる身かな  荷兮
茸狩や黄蕈も児は嬉し貌  利合
夕貌の汁は秋しる夜寒かな  支考
くる秋は風ばかりでもなかりけり  北枝
秋風に蝶やあぶなき池の上  僧 依々
包丁の片袖くらし月の雲  其角



   冬之部

  初冬
凩や沖よりさむき山のきれ  其角
市中や木の葉も落ずふじ颪  桃隣
冬枯の礒に今朝みるとさか哉  芭蕉
桜木や菰張まはす冬がまへ  支梁
蜘の巣のきれ行冬や小松原  斜嶺
刈蕎麦の跡の霜ふむすゞめ哉  残香
初霜や猫の毛も立台所  楚舟
凩や盻しげき猫の面  八桑
  南宮山に詣て
木枯の根にすがり付檜皮かな  桃隣
箒目に霜の蘇鉄のさむさ哉  游刀

  時雨
芋喰の腹へらしけり初時雨  荊口
黒みけり沖の時雨の行どころ  丈艸
  芭蕉翁をわが茅屋にまねきて
もらぬほど今日は時雨よ草の庵  斜嶺
在明となれば度々しぐれかな  許六
  旅ねのころ
小夜●(アメカンムリ+「衆」)となりの臼は挽やみぬ  野坡

  大根引といふ事を
鞍壺に小坊主乗るや大根引  芭蕉
蜂まきをとれば若衆ぞ大根引  野坡
神送荒たる宵の土大根  洒堂

  さむさを下の五文字にすへて
人声の夜半を過る寒さ哉  野坡
この比は先挨拶もさむさ哉  示蜂
足もともしらけて寒し冬の月  我眉
魚店や莚うち上て冬の月  里東
  右の二句は、ふか川の庵へをとづれし比、他国よりの状のはしに有つるをみて、今爰に出しぬ

  雪
はつ雪にとなりを顔で教けり  野坡
初雪の見事や馬の鼻ばしら  利牛
はつ雪や塀の崩れの蔦の上  買山
雪の日に庵借ぞ鷦鷯  依々
雪の日やうすやうくもるうつし物  猿雖
  冬の夜飯道寺にて
杉のはの雪朧なり夜の鶴  支考
朱の鞍や佐野へわたりの雪の駒  北枝
はつ雪や先馬やから消そむる  許六
炭売の横町さがる雪吹哉  湖夕
海山の鳥啼立る雪吹かな  乙州
江の舟や曲突にとまる雪の鷺  素龍

  題不知
かなしさの胸に折込枯野かな  羽黒亡人 呂丸
寒菊や粉糠のかゝる臼の端  芭蕉
禅門の革足袋おろす十夜哉  許六
御火焼の盆物とるな村がらす  智月
白うをのしろき匂ひや杉の箸  之道
榾の火やあかつき方の五六尺  丈艸
庚申やことに火燵のある座敷  残香
誰と誰が縁組すんでさと神楽  其角
海へ降霰や雲に波の音  同

  すゝはき
煤はきは己が棚つる大工かな  芭蕉
煤払せうじをはくは手代かな  万乎
餅つきや元服さする草履取  野坡
山臥の見事に出立師走哉  嵐雪
待春や氷にまじるちりあくた  智月

  歳暮
このくれも又くり返し同じ事  杉風
はかまきぬ聟入もあり年のくれ  李由
なしよせて鶯一羽としのくれ  智月
鍋ぶたのけば/\しさよ年のくれ  孤屋
としの夜は豆はしらかす俵かな  猿雖
年のくれ互にこすき銭づかひ  野坡
  芭蕉よりの文に、くれの事いかゞなど在し其かへり事に
爪取て心やさしや年ごもり  素龍
行年よ京へとならば状ひとつ  湖春



  俳諧秋之部

秋の空尾上の杉に離れたり  其角
 おくれて一羽海わたる鷹  孤屋
朝霧に日傭揃る貝吹て  同
 月の隠るゝ四扉の門  其角
祖父が手の火桶も落すばかり也  同
 つたひ道には丸太ころばす  孤屋
下京は宇治の糞船さしつれて  同
 坊主の着たる簔はおかしき  其角
足軽の子守して居る八つ下り  孤屋
 息吹かへす霍乱の針  其角
田の畔に早苗把て投て置  孤屋
 道者のはさむ編笠の節  其角
行燈の引出さがすはした銭  孤屋
 顔に物着てうたゝねの月  其角
鈴縄に鮭のさはればひゞく也  孤屋
 鴈の下たる筏ながるゝ  其角
貫之の梅津桂の花もみぢ  孤屋
 むかしの子ありしのばせて置  其角
いさ心跡なき金のつかひ道  同
 宮の縮のあたらしき内  孤屋
夏草のぶとにさゝれてやつれけり  其角
 あばたといへば小僧いやがる  孤屋
年の豆蜜柑の核も落ちりて  其角
 帯ときながら水風呂をまつ  孤屋
君来ねばこはれ次第の家となり  其角
 稗と塩との片荷つる籠  孤屋
辛崎へ雀のこもる秋のくれ  其角
 北より冷る月の雲行キ  孤屋
紙燭して尋て来たり酒の残  其角
 上塗なしに張てをく壁  孤屋
小栗読む片言まぜて哀なり  其角
 けふもだらつく浮前のふね  孤屋
   孤屋旅立事出来て、洛へのぼりけるゆへに、今四句未満にして吟終りぬ。

 其角
 孤屋
   各十六句



   天野氏興行

道くだり拾ひあつめて案山子かな  桃隣
 どんどと水の落る秋風  野坡
入月に夜はほんのりと打明て  利牛
 塀の外まで桐のひろがる  桃隣
銅壺よりなまぬる汲んでつかふ也  野坡
 つよふ降たる雨のついやむ  利牛
瓜の花是からなんぼ手にかゝる  桃隣
 近くに居れども長谷をまだみぬ  野坡
年よりた者を常住ねめまはし  利牛
 いつより寒い十月のそら  桃隣
台所けふは奇麗にはき立て  野坡
 分にならるゝ嫁の仕合  利牛
はんなりと細工に染まる紅うこん  桃隣
 鑓持ばかりもどる夕月  野坡
時ならず念仏きこゆる盆の中  利牛
 鴫まつ黒にきてあそぶ也  桃隣
人の物負ねば楽な花ごゝろ  野坡
 もはや弥生も十五日たつ  利牛
より平の機に火桶はとり置て  桃隣
 むかひの小言たれも見廻ず  野坡
買込だ米で身体たゝまるゝ  利牛
 帰るけしきか燕ざはつく  桃隣
此度の薬はきゝし秋の露  野坡
 杉の木末に月かたぐ也  利牛
同じ事老の咄しのあくどくて  桃隣
 だまされて又薪部屋に待  野坡
よいやうに我手に占を置てみる  利牛
 しやうじんこれはあはぬ商  桃隣
帷子も肩にかゝらぬ暑さにて  野坡
 京は惣別家に念入  利牛
焼物に組合たる富田A  桃隣
 隙を盗んで今日もねてくる  利牛
髪置は雪踏とらする思案にて  野坡
 先沖まではみゆる入舟  桃隣
内でより菜がなうても花の陰  利牛
 ちつとも風のふかぬ長閑さ  野坡



  神無月廿日ふか川にて即興
振売の鴈あはれ也ゑびす講  芭蕉
 降てはやすみ時雨する軒  野坡
番匠が椴の小節を引かねて  孤屋
 片はげ山に月をみるかな  利牛
好物の餅を絶さぬあきの風  野坡
 割木の安き国の露霜  野坡
網の者近づき舟に声かけて  利牛
 星さへ見えず二十八日  孤屋
ひだるきは殊軍の大事也  芭蕉
 淡気の雪に雑談もせぬ  野坡
明しらむ籠挑灯を吹消して  孤屋
 肩癖にはる湯屋の膏薬  利牛
上をきの千葉刻むうはの空  野坡
 馬に出ぬ日は内で恋する  芭蕉
株モフ七つさがりを音づれて  利牛
 堺に門ある五十石取  孤屋
此島の餓鬼も手を摺月と花  芭蕉
 砂に暖のうつる青草  野坡
新畠の糞もおちつく雪の上  孤屋
 吹とられたる笠とりに行  利牛
川越の帯しの水をあぶながり  野坡
 平地の寺のうすき藪垣  芭蕉
干物を日向の方へいざらせて  利牛
 塩出す鴨の苞ほどくなり  孤屋
算用に浮世を立る京ずまひ  芭蕉
 又沙汰なしにむすめ産  野坡
どたくたと大晦日も四つのかね  孤屋
 無筆のこのむ状の跡さき  利牛
中よくて傍輩合の借りいらゐ  野坡
 壁をたゝきて寐せぬ夕月  芭蕉
風やみて秋の鴎の尻さがり  利牛
 鯉の鳴子の綱をひかゆる  孤屋
ちらほらと米の揚場の行戻り  芭蕉
 日黒まいりのつれのねちみやく  野坡
どこもかも花の三月中時分  孤屋
 輪炭のちりをはらふ春風  利牛

  芭蕉
  野坡
  孤屋
  利牛
    各九句



雪の松おれ口みれば尚寒し  杉風
 日の出るまへの赤き冬空  孤屋
下肴を一舟浜に打明て  芭蕉
 あいだとぎるゝ大名の供  子珊
身にあたる風もふは/\薄月夜  桃隣
 栗をかられてひろき畠地  利牛
熊谷の堤きれたる秋の水  岱水
 箱こしらえて鰹節売る  野坡
二三畳寐所もらふ門の脇  子珊
 馬の荷物のさはる干もの  沾圃
竹の皮雪踏に替へる夏の来て  石菊
 稲に子のさす雨のはら/\  杉風
手前者の一人もみへぬ浦の秋  野坡
 めつたに風のはやる盆過  利合
宵々の月をかこちて旅大工  依々
 脊中へのぼる児をかはゆがる  桃隣
茶むしろのきはづく上に花ちりて  子珊
 川からすぐに小鮎いらする  石菊
朝曇はれて気味よき雉子の声  杉風
 脊戸へ廻れば山へ行みち  岱水
物思ひたゞ鬱々と親がゝり  孤屋
 取集めてはおほき精進日  曾良
餅米を搗て俵へはかりこみ  桃隣
 わざ/\わせて薬代の礼  依々
雪舟でなくばと自慢こきちらし  沾圃
 となりへ行て火をとりて来る  子珊
又けさも仏の食で埒を明  利牛
 損ばかりして賢こがほ也  杉風
大坂の人にすれたる冬の月  利合
 酒をとまれば祖母の気に入  野坡
すゝけぬる御前の箔のはげかゝり  子珊
 次の小部屋でつにむせる声  利牛
約束にかゞみて居れば蚊に食れ  曾良
 七つのかねに駕籠呼に来る  杉風
花の雨あらそふ内に降出して  桃隣
 男まじりに蓬そろゆる  岱水

  杉風五   野坡三
  孤屋二   沾圃二
  芭蕉一   石菊二
  子珊五   利合二
  桃隣四   依々二
  利牛三   曾良二
  岱水三
          撰者芭蕉門人
              志田氏 野坡
              小泉氏 孤屋
              池田氏 利牛
  元禄七歳次甲戌六月廿八日

俳諧炭俵下巻之終
 
        京寺町通  井筒屋庄兵衛
        江戸白銀丁 本屋藤助





続猿蓑  上、下



続猿蓑集 巻之上


八九間空で雨降る柳かな  芭蕉
 春のからすの畠ほる声  沾圃
初荷とる馬子もこのみの羽織きて  馬●(クサカンムリ+「見」)
 内はどさつく晩のふるまひ  里圃
きのふから日和かたまる月の色  沾
 狗脊かれて肌寒うなる  蕉
渋柿もことしは風に吹れたり  里
 孫が跡とる祖父の借銭  ●(クサカンムリ+「見」)
脇指に替てほしがる旅刀  蕉
 煤をしまへばはや餅の段  沾
約束の小鳥一さげ売にきて  ●(クサカンムリ+「見」)
 十里ばかりの余所へ出かゝり  里
笹の葉に小路埋ておもしろき  沾
 あたまうつなと門の書つけ  蕉
いづくへか後は沙汰なき甥坊主  里
 やつと聞出す京の道づれ  ●(クサカンムリ+「見」)
有明におくるゝ花のたてあひて  蕉
 見事にそろふ籾のはへ口  沾
春無尽まづ落札が作大夫  ●(クサカンムリ+「見」)
 伊勢の下向にべつたりと逢  里
長持に小挙の仲間そは/\と  沾
 くはらりと空の晴る青雲  蕉
禅寺に一日あそぶ砂の上  里
 槻の角のはてぬ貫穴  ●(クサカンムリ+「見」)
浜出しの牛に俵を運ぶ也  蕉
 なれぬ娵にはかくす内証  沾
月待に傍輩衆のうちそろひ  ●(クサカンムリ+「見」)
 籬の菊の名乗さま/゛\  里
むれて来て栗も榎もむくの声  沾
 伴僧はしる駕のわき  蕉
削やうに長刀坂の冬の風  里
 まぶたに星のこぼれかゝれる  ●(クサカンムリ+「見」)
引立て無里に舞するたをやかさ  蕉
 そつと火入におとす薫  沾
花ははや残らぬ春のたゞくれて  ●(クサカンムリ+「見」)
 瀬がしらのぼるかげろふの水  里



雀の字や揃ふて渡る鳥の声  馬●(クサカンムリ+「見」)
 てり葉の岸のおもしろき月  沾圃
立家を買てはいれば秋暮て  里圃
 ふつ/\なるをのぞく甘酒  ●(クサカンムリ+「見」)
霜気たる蕪喰ふ子ども五六人  沾
 莚をしいて外の洗足  里
悔しさはけふの一歩の見そこなひ  ●(クサカンムリ+「見」)
 請状すんで奉公ぶりする  沾
よすぎたる茶前の天気きづかはし  里
 有ふりしたる国方の客  ●(クサカンムリ+「見」)
何事もなくてめでたき駒迎  沾
 風にたすかる早稲の穂の月  里
台所秋の住居に住かへて  ●(クサカンムリ+「見」)
 座頭のむすこ女房呼けり  沾
明はつる伊勢の辛洲のとし籠り  里
 簔はしらみのわかぬ一徳  ●(クサカンムリ+「見」)
俵米もしめりて重き花盛  沾
 春静なる竿の染●(イトヘン+「盧」)  里
鶯の路には雪を掃残し  ●(クサカンムリ+「見」)見
 しなぬ合点で煩ふて居る  沾
年々に屋うちの者と中悪く  里
 三崎敦賀の荷のかさむ也  ●(クサカンムリ+「見」)
汁の実にこまる茄子の出盛て  沾
 あからむ麦をまづ刈てとる  里
日々に寺の指図を書直し  ●(クサカンムリ+「見」)
 殿のお立のあとは淋しき  沾
銭かりてまだ取つかぬ小商  里
 卑下して庭によい料理くふ  ●(クサカンムリ+「見」)
肌入て秋になしけり暮の月  沾
 顔にこぼるゝ玉笹の露  里
此盆は実の母のあと問て  ●(クサカンムリ+「見」)
 有付て行出羽の庄内  沾
直のしれた帷子時のもらひ物  里
 聞て気味よき杉苗の風  ●(クサカンムリ+「見」)
花のかげ巣を立雉子の舞かへり  沾
 あら田の土のかはくかげろふ  里



いきみ立鷹引すゆる嵐かな  里圃
 冬のまさきの霜ながら飛  沾圃
大根のそだゝぬ土にふしくれて  芭蕉
 上下ともに朝茶のむ秋  馬●(クサカンムリ+「見」)
町切に月見の頭の集め銭  沾
 荷がちら/\と通る馬次  里
知恩院の替りの噂極りて  ●(クサカンムリ+「見」)
 さくらの後は楓わかやぐ  沾
爼の鱸に水をかけながし  里
 目利で家はよい暮しなり  ●(クサカンムリ+「見」)
状箱を駿河の飛脚請とりて  沾
 まだ七つにはならぬ日の影  里
草の葉にくぼみの水の澄ちぎり  ●(クサカンムリ+「見」)
 伊駒気づかふ綿とりの雨  沾
うき旅は鵙とつれ立渡り鳥  里
 有明高う明はつるそら  ●(クサカンムリ+「見」)
柴舟の花の中よりつと出て  沾
 柳の傍へ門をたてけり  里
百姓になりて世間も長閑さよ  ●(クサカンムリ+「見」)
 ごまめを膳にあらめ片菜  沾
賣物の渋紙づゝみおろし置  里
 けふのあつさはそよりともせぬ  ●(クサカンムリ+「見」)
砂を這ふ●(クサカンムリ+「棘」)の中の絡線の声  沾
 別を人がいひ出せば泣  里
火燵の火いけて勝手をしづまらせ  ●(クサカンムリ+「見」)
 一石ふみし碓の米  沾
折々は突目の起る天気相  里
 仰に加減のちがふ夜寒さ  ●(クサカンムリ+「見」)
月影にことしたばこを吸てみる  沾
 おもひのまゝに早稲で屋根ふく  里
手払に娘をやつて娵のさた  ●(クサカンムリ+「見」)
 参宮の衆をこちで仕立る  沾
花のあと躑躅のかたがおもしろい  里
 寺のひけたる山際の春  ●(クサカンムリ+「見」)
冬よりはすくなうなりし池の鴨  沾
 一雨降てあたゝかな風  里



猿蓑にもれたる霜の松露哉  沾圃
 日は寒けれど静なる岡  芭蕉
水かゝる池の中より道ありて  支考
 篠竹まじる柴をいたゞく  維然
鶏があがるとやがて暮の月  蕉
 通りのなさに見世たつる秋  考
盆じまひ一荷で直ぎる鮨の魚  然
 昼寐の癖をなをしかねけり  蕉
聟が来てにつともせずに物語  考
 中国よりの状の吉左右  然
朔日の日はどこへやら振舞れ  蕉
 一重羽織が失てたづぬる  考
きさんじな青葉の比の椴楓  然
 山に門ある有明の月  蕉
初あらし畠の人のかけまはり  考
 水際光る浜の小鰯  然
見て通る紀三井は花の咲かゝり  蕉
 荷持ひとりにいとゞ永き日  考
こち風の又西に成北になり  然
 わが手に脈を大事がらるゝ  蕉
後呼の内儀は今度屋敷から  考
 喧嘩のさたもむざとせられぬ  然
大せつな日が二日有暮の鐘  蕉
 雪かき分し中のどろ道  考
来る程の乗掛は皆出家衆  然
 奥の世並は近年の作  蕉
酒よりも肴のやすき月見して  考
 赤鶏頭を庭の正面  然
定らぬ娘のこゝろ取しづめ  蕉
 寐汗のとまる今朝がたの夢  考
鳥籠をつらりとおこす松の風  然
 大工づかひの奥に聞ゆる  蕉
米搗もけふはよしとて歸る也  考
 から身で市の中を押あふ  蕉
此あたり弥生は花のけもなくて  然
 鴨の油のまだぬけぬ春  考



   今宵譜
                野盤子 支考
今宵は六月十六日のそら水にかよひ、月は東方の乱山にかゝげて、衣裳に湖水の秋をふくむ。されば今宵のあそび、はじめより尊卑の席をくばらねど、しば/\酌てみだらず。人そこ/\に涼みふして野を思ひ山をおもふ。たま/\かたりなせる人さへ、さらに人を興ぜしめむとにあらねば、あながちに弁のたくみをもとめず、唯萍の水にしたがひ、水の魚をすましむるたとへにぞ侍りける。阿叟は深川の草庵に四年の春秋をかさねて、ことしはみな月さつきのあはいを渡りて、伊賀の山中に父母の古墳をとぶらひ、洛の嵯峨山に旅ねして、賀茂祇園の涼みにもたゞよはず。かくてや此山に秋をまたれけむと思ふに、さすが湖水の納涼もわすれがたくて、また三四里の暑を凌て、爰に草鞋の駕をとゞむ。今宵は菅沼氏をあるじとして、僧あり俗あり、俗にして僧に似たるものあり。その交のあはきものは、砂川の岸に小松をひたせるがごとし。深からねばすごからず、かつ味なうして人にあかるゝなし。幾年なつかしかりし人々の、さしむきてわするゝににたれど、おのづからよろこべる色人の顔にうかびて、おぼへず鶏啼て月もかたぶきけるや。まして魂祭る比は、阿叟も古さとの方へと心ざし申されしを、支考はいせの方に住ところ求て、時雨の比はむかへむなどおもふなり。しからば湖の水鳥の、やがてばら/\に立わかれて、いつか此あそびにおなじからむ。去年の今宵は夢のごとく、明年はいまだきたらず。今宵の興宴何ぞあからさまならん。そゞろに酔てねぶるものあらば、罰盃の数に水をのませんと、たはぶれあひぬ。

夏の夜や崩て明し冷し物  芭蕉
 露ははらりと蓮の縁先  曲翠
鶯はいつぞの程に音を入て  臥高
 古き革籠に反故おし込  維然
月影の雪もちかよる雲の色  支考
 しまふて銭を分る駕かき  芭蕉
猪を狩場の外へ追にがし  翠
 山から石に名を書て出す  高
飯櫃なる面桶にはさむ火打鎌  然
 鳶で工夫をしたる照降  考
おれが事哥に読るゝ橋の番  蕉
 持仏のかほに夕日さし込  翠
平畦に菜を蒔立したばこ跡  考
 秋風わたる門の居風呂  然
馬引て賑ひ初る月の影  高
 尾張でつきしもとの名になる  蕉
餅好のことしの花にあらはれて  翠
 正月ものゝ襟もよごさず  高
春風に普請のつもりいたす也  然
 藪から村へぬけるうら道  考
喰かねぬ聟も舅も口きいて  蕉
 何ぞの時は山伏になる  翠
笹づとを棒に付たるはさみ箱  高
 蕨こはばる卯月野ゝ末  蕉
相宿と跡先にたつ矢木の町  考
 際の日和に雪の気遣  然
呑ごゝろ手をせぬ酒の引はなし  翠
 着かえの分を舟へあづくる  高
封付し文箱来たる月の暮  蕉
 そろ/\ありく盆の上臈衆  考
虫籠つる四条の角の河原町  然
 高瀬をあぐる表一固  翠
今の間に鑓を見かくす橋の上  高
 大きな鐘のどんに聞ゆる  然
盛なる花にも扉おしよせて  考
 腰かけつみし藤棚の下  高





続猿蓑集 巻之下


   春之部

  花桜
温石のあかるゝ夜半やはつ桜  露沾
寝時分に又みむ月か初ざくら  其角
顔に似ぬほつ句も出よはつ桜  芭蕉
ちか道や木の股くゞる花の山  洞木
角いれし人をかしらや花の友  丈草
花散て竹見る軒のやすさかな  洒堂
  富貴なる酒屋にあそびて、文君が爪音も、酔のまぎれに思ひいでらるゝに
酒部屋に琴の音せよ窓の花  維然
賭にして降出されけりさくら狩  支考
人の気もかく窺はじはつ桜  沾徳
くもる日や野中の花の北面  猿雖
七つより花見におこる女中哉  陽和
見る所おもふところやはつ桜  乙州
咲花をむつかしげなる老木哉  木節
我庭や木ぶり見直すはつ桜  沾荷
二の膳やさくら吹込む鯛の鼻  子珊
蓑虫の出方にひらく桜かな  卓袋
   田家
蒟蒻の名物とはんやま桜  李里
咲かゝる花や飯米五十石  桃首
山門に花もの/\し木のふとり  一桐
ながれ木の根やあらはるゝ花の滝  如雲
花笠をきせて似合む人は誰  其角
はれやかに置床なほす花の春  少年 一鷺
ぬり直す壁のしめりや軒の花  卓袋
一日は花見のあてや旦那寺  沾圃
八重桜京にも移る奈良茶哉  同

  若菜
濡縁や薺こぼるゝ土ながら  嵐雪
梟の啼やむ岨の若菜かな  曲翠
夕波の船にきこゆるなづな哉  孤屋
一かぶの牡丹は寒き若菜かな  尾頭

  梅 附柳
春もやゝ気色とゝのふ月と梅  芭蕉
きさらぎや大黒棚もむめの花  野水
守梅のあそび業なり野老売  其角
里坊に碓きくやむめの花  昌房
投入や梅の相手は蕗のたう  良品
病僧の庭はく梅のさかり哉  曾良
あたらしき翠簾まだ寒し梅花  万乎
薄雪や梅の際まで下駄の跡  魚日
しら梅やたしかな家もなきあたり  千川
寐所や梅のにほひをたて籠ん  大丹
  天神のやしろに詣て
身につけと祈るや梅の籬ぎは  遊糸
それ/゛\の朧のなりやむめ柳  千那
時々は水にかちけり川やなぎ  意元
ちか道を教へぢからや古柳  江東 李由
青柳のしだれくゞれや馬の曲  九節
輪をかけて馬乗通る柳かな  巴丈

  鳥  附魚
鶯に長刀かゝる承塵かな  其角
うぐひすや野は塀越の風呂あがり  史邦
鶯に手もと休めむながしもと  智月
鶯や柳のうしろ藪のまへ  芭蕉
滝壺もひしげと雉のほろゝ哉  去来
春雨や簔につゝまん雉子の声  洒堂
駒鳥の目のさやはずす高根哉  傘下
こま鳥の音ぞ似合しき白銀屋  長虹
燕や田をおりかへす馬のあと  野童
巣の中や身を細しておや燕  少年 峯嵐
雀子や姉にもらひし雛の櫃  槐市
蠅うちになるゝ雀の子飼哉  河瓢
行鴨や東風につれての磯惜み  釣箒
  芳野西河の滝
鮎の子の心すさまじ滝の音  土芳
かげろふと共にちらつく小鮎哉  圃水
しら魚の一かたまりや汐たるみ  子珊
白魚のしろき噂もつきぬべし  山蜂
  深川に遊びて
しら魚をふるひ寄たる四手哉  其角

  春草
なぐりても萌たつ世話や春の草  正秀
若草や松につけたき蟻の道  此筋
春の野やいづれの草にかぶれけん  尼 羽紅
川淀や淡をやすむるあしの角  猿雖
宵の雨しるや土筆の長みじか  闇指
味ひや桜の花によめがはぎ  車来
茨はら咲添ふものも鬼あざみ  荒雀
堤よりころび落ればすみれ哉  馬●(クサカンムリ+「見」)
踏またぐ土堤の切目や蕗の塔  拙侯
ふみたふす形に花さく土大根  乃龍
早蕨や笠とり山の柱うり  正秀
みそ部屋のにほひに肥る三葉哉  夕可
日の影に猫の抓出す独活芽哉  一桐
蒲公英や葉にそぐはぬ花ざかり  圃箔

  猫恋  附胡蝶
我影や月になを啼猫の恋  探丸
うき恋にたへでや猫の盗喰  支考
おもひかねその里たける野猫哉  ミノ 巳百
  白日しづか也
とまりても翔は動く胡蝶かな  柳梅
衣更着のかさねや寒き蝶の羽  維然
蝶の舞おつる椿にうたるゝな  闇指
風吹に舞の出来たる小蝶かな  出羽 重行
昼ねして花にせはしき胡蝶哉  雪窓

  春鹿
振おとし行や広野の鹿の角  沢雉

  春耕
妙福のこゝろあて有さくら麻  木節
苗札や笠縫をきの宵月夜  此筋
千刈の田をかへすなり難波人  一鷺

  桃 附椿
白桃やしづくも落ず水の色  桃隣
金柑はまだ盛なり桃の花  介我
伏見かと菜種の上の桃の花  雪芝
梅さくら中をたるます桃の花  水鴎
花さそふ桃や哥舞伎の脇躍  其角
  江東の李由が祖父の懐旧の法事に、おの/\経文題のほつ句に、弥陀の光明といふ事を
小服綿に光をやどせ玉つばき  角上
穂は枯て台に花咲椿かな  残香
取あげて見るや椿のほぞの穴  洞木
ちり椿あまりもろさに続で見る  野坡

  款冬 附躑躅 藤
山吹や垣に干たる簔一重  闇指
  田家の人に対して
山吹も散るか祭の●(ウオヘン+「尋」)なます  洒堂
掘おこすつゝじの株や蟻のより  雪芝
藪疇や穂麦にとゞく藤の花  荊口

  春月
山の端をちから貌なり春の月  長崎 魯町

  春雨 附春雪 蛙
物よはき草の座とりや春の雨  荊口
咄さへ調子合けり春の雨  乃龍
春雨や唐丸あがる台どころ  游刀
  なにがし主馬が武江の旅店をたづねける時
春雨や枕くづるゝうたひ本  支考
はる雨や光りうつろふ鍛冶が鎚  桃首
淡雪や雨に追るゝはるの笠  風麦
行つくや蛙の居る石の直  風睡

  汐干
のぼり帆の淡路はなれぬ汐干哉  去来
品川に富士の影なきしほひ哉  闇指

  雑春
出がはりやあはれ勧る奉加帳  許六
若草やまたぎ越たる桐の笛  風睡
黒ぼこの松のそだちやわか緑  土芳
かげろふや巌に腰の掛ぢから  配力
小米花奈良のはづれや鍛冶が家  万乎
声毎に独活や野老や市の中  苔蘇
木の芽たつ雀がくれやぬけ参  ミノ 均水
春の日や茶の木の中の小室節  正秀
三尺の鯉はぬる見ゆ春の池  仙化
引鳥の中に交るや田蝶とり  支浪

  三月尽
朧夜を白酒売の名殘かな  支考

  歳旦
若水や手にうつくしき薄氷  少年 武仙
莚道は年のかすみの立所哉  百歳
鶯や雑煮過ての里つゞき  尚白
蓬莱の具につかひたし螺の貝  沾圃
母方の紋めづらしやきそ始  山蜂
  詩にいへる衣裳を顛倒すといふ事を、老父の文に書越し侍れば
元日や夜ふかき衣のうら表  千川
人もみぬ春や鏡のうらの梅  芭蕉
明る夜のほのかに嬉しよめが君  其角
●(キヘン+「喋」の右側)の世阿弥まつりや青かづら  嵐雪
万歳や左右にひらひて松の陰  去来
鶯に橘見する羽ぶきかな  土芳
はつ春やよく仕て過る無調法  風睡
  冬年孫をまうけて
元日やまだ片なりの梅の花  猿雖
子共にはまづ惣領や蔵びらき  蔦雫
背たらおふ物を見せばや花の春  野童
歯朶の葉に見よ包尾の鯛のそり  耕雪
鮭の簀の寒気をほどく初日哉  左柳
はつ春や年は若狭の白比丘尼  前川
枇杷の葉のなを慥也初霞  斜嶺
世の業や髭はあれども若夷  山蜂
濡いろや大かはらけの初日影  任行
元日や置どころなき猫の五器  竹戸
我宿はかづらに鏡すえにけり  是楽
搗栗や餅にやはらぐそのしめり  沾圃
虫ぼしのその日に似たり蔵びらき  圃角



    夏之部

   郭公
暁の雹をさそふやほとゝぎす  其角
ほとゝぎす啼や湖水のさゝ濁  丈草
しら浜や何を木陰にほとゝぎす  曾良
蜀魄啼ぬ夜しろし朝熊山  支考
鳴滝の名にやせりあふほとゝぎす  如雪
燕の居なじむそらやほとゝぎす  蘆本
淀よりも勢田になけかし子規
  此句は石山の麓にて、順礼の吟じて通りけるとや
郭公かさいの森や中やどり  沾圃

  木 附草花
橙や日にこがれたる夏木立  闇指
里々の姿かはりぬなつ木だち  野萩
  園中 二句
此中の古木はいづれ柿の花  此筋
年切の老木も柿の若葉哉  千川
姫百合や上よりさがる蜘蛛の糸  素龍
  題山家之百合
しら雲やかきねを渡る百合花  支考
山もえにのがれて咲やかきつばた  尾頭
冷汁はひへすましたり杜若  沾圃
手のとゞく水際うれし杜若  イガ 宇多都
夏菊や茄子の花は先へさく  拙候
  ばせを庵の即興
昼がほや日はくもれども花盛  沾圃
夕顔や酔てかほ出す窓の穴  芭蕉
夕がほや裸でおきて夜半過  亡人 嵐蘭
藻の花をちゞみ寄たる入江哉  残香
蘭の花にひたひた水の濁り哉  此筋
蓮の葉や心もとなき水離れ  白雪
客あるじ共に蓮の蠅おはん  良品

  瓜
朝露によごれて凉し瓜の土  芭蕉
姫ふりや袖に入ても重からず  至暁

  ぼたん
麁相なる膳は出されぬ牡丹哉  風弦

  早苗
京入や鳥羽の田植の帰る中  長崎 卯七
早乙女に結んでやらん笠の紐  闇指
ふとる身の植おくれたる早苗哉  魚日
田植哥まてなる顔の謳ひ出し  重行
一田づゝ行めぐりてや水の音  北枝
里の子が燕握る早苗かな  支考

  蛍
蚊遣火の烟にそるゝほたるかな  許六
三日月に草の蛍は明にけり  野萩

  納涼
涼しさや竹握り行藪づたひ  半残
無花果や広葉にむかふ夕涼  維然
  深川の庵に宿して
ばせを葉や風なきうちの朝凉  史邦
凉しさや駕籠を出ての縄手みち  望翠
石ぶしや裏門明て夕凉み  長崎 牡年
  漫興 三句
腰かけて中に凉しき階子哉  洒堂
凉しさや椽より足をぶらさげる  支考
生酔をねぢすくめたる凉かな  雪芝
  はせを翁を茅屋にまねきて
凉風も出来した壁のこはれ哉  游刀
いそがしき中をぬけたる凉かな  同
立ありく人にまぎれてすゞみかな  去来
黙礼にこまる凉みや石の上  正秀
職人の帷子きたる夕すゞみ  土芳
凉しさや一重羽織の風だまり  我眉
夜凉やむかひの見世は月がさす  里圃

  盛夏
かたばみや照りかたまりし庭の隅  野萩
李盛る見世のほこりの暑哉  万乎
  藪医者のいさめ申されしに答へ侍る
実にもとは請て寐冷の暑かな  正秀
取葺の内のあつさや棒つかひ  乙州
煤さがる日盛あつし台所  怒風
茨ゆふ垣もしまらぬ暑かな  尾張 素覧
草の戸や暑を月に取かへす  我峯
あつき日や扇をかざす手のほそり  印苔
積あげて暑さいやます畳かな  卓袋
粘になる蚫も夜のあつさかな  里東
立寄ればむつとかぢやの暑かな  沾圃

  竹の子
筍にぬはるゝ岸の崩かな  可誠
若竹や烟のいづる庫裏の窓  曲翠

  五月雨 附夕立
しら鷺や青くもならず黴の中  出羽 不玉
さみだれや蚕煩ふ桑の畑  芭蕉
五月雨や踵よごれぬ磯づたひ  沾圃
夕立にさし合けり日傘  拙候
白雨や蓮の葉たゝく池の蘆  苔蘇
夕だちやちらしかけたる竹の皮  暁烏
ゆふ立に傘かる家やま一町  圃水

  蝉
白雨や中戻りして蝉の声  正秀
きつと来て啼て去りけり蝉のこゑ  胡故
森の蝉凉しき声やあつき声  乙州
蝉啼やぬの織る窓の暮時分  暁烏

  かつを
籠の目や潮こぼるゝはつ鰹  葉拾

  雑夏
昼寐して手の動やむ団かな  杉風
虫の喰ふ夏菜とぼしや寺の畑  荊口
夏痩もねがひの中のひとつなり  イセ 如真
  川狩にいでゝ
じか焼や麦がらくべて柳鮠  文鳥
異草に我がちがほや園の紫蘇  蔦雫
夕闇はほたるもしるや酒ばやし  水鴎
  せばきところに老母をやしなひて
魚あぶる幸もあれ渋うちは  馬●(クサカンムリ+「見」)
梅むきや●(タケカンムリ+「瓜」)かたぶく日の面  望翠
沢瀉や道付かゆる雨のあと  野童
蝸牛つの引藤のそよぎかな  水鴎
  晋の淵明をうらやむ
窓形に昼寐の台や簟  芭蕉
粘ごはな帷子かぶるひるねかな  維然
  貧僧のくるしみ、冬の寒さはふせぐよすがなきに、夏日の納凉は扇一本にして世上に交る
帷子のねがひはやすし銭五百  支考



    穐之部


  名月
名月に麓の霧や田のくもり  はせを
名月の花かと見へて棉畠
  ことしは伊賀の山中にして、名月の夜この二句をなし出して、いづれか是いづれか非ならんと侍しに、此間わかつべからず。月をまつ高根の雲ははれにけりこゝろあるべき初時雨かなと、円位ほうしのたどり申されし麓は、霧横り水ながれて、平田渺々と曇りたるは、老杜が唯雲水のみなりといへるにもかなへるなるべし。その次の棉ばたけは、言葉麁にして心はなやかなり。いはゞ今のこのむ所の一筋に便あらん。月のかつらのみやはなるひかりを花とちらす計にと、おもひやりたれば、花に清香あり月に陰ありて、是も詩哥の間をもれず。しからば前は寂寞をむねとし、後は風興をもつぱらにす、吾こゝろ何ぞ是非をはかる事をなさむ。たゞ後の人なをあるべし。   支考評
名月の海より冷る田簔かな  洒堂
名月や西にかゝれば蚊屋のつき  如行
もの/\の心根とはん月見哉  露沾
ふたつあらばいさかひやせむけふの月  智月
名月や長屋の陰を人の行  闇指
名月や更科よりのとまり客  凉葉
名月や灰吹捨る陰もなし  不玉
中切の梨に気のつく月見哉  配刀
名月や草のくらみに白き花  左柳
明月や遠見の松に人もなし  圃水
おがむ気もなくてたふとやけふの月  山蜂
明月や寝ぬ処には門しめず  風国
名月や四五人乗し●(フネヘン+「帯」)ぶね  需笑
老の身は今宵の月も内でみむ  重友
明月にかくれし星の哀なり  泥芹
  いせの山田にありて、かりの庵をおもひ立けるに
二見まで庵地たづぬる月見哉  支考
芥子蒔と畑まで行む月見哉  空牙
柿の名の五助と共に月みかな  如真
山鳥のちつとも寐ぬや峯の月  宗比
名月や里のにほひの青手柴  木枝
場に居て月見ながらや莚機  利合
明月や声かしましき女中方  丹楓
明月や何もひろはず夜の道  野萩
飛入の客に手をうつ月見哉  正秀
  淀川のほとりに日をくらして
舟引の道かたよけて月見哉  丈草
待宵の月に床しや定飛脚  景桃
  家に三老女といふ事あり。亡父将監が秘してつたへ侍しをおもひ出て
姨捨を闇にのぼるやけふの月  沾圃
露おきて月入あとや塀のやね  馬●(クサカンムリ+「見」)
月影や海の音聞長廊下  牧童
  深川の末、五本松といふ所に船をさして
川上とこの川しもや月の友  芭蕉
十六夜はわづかに闇の初哉  同
いざよひは闇の間もなしそばの花  猿雖

  七 夕
更行や水田の上のあまの河  維然
星合を見置て語れ朝がらす  凉葉
船形リの雲しばらくやほしの影  東潮
たなばたをいかなる神にいはふべき  沾圃
朝風や薫姫の団もち  乙州

  立秋
粟ぬかや庭に片よる今朝の秋  露川
秋たつや中に吹るゝ雲の峯  左次

  穐草
朝露の色透通す桔梗かな  柳梅
細工にもならぬ桔梗のつぼみ哉  随友
女郎花ねびぬ馬骨の姿哉  濁子
をみなへし鵜坂の杖にたゝかれな  馬●(クサカンムリ+「見」)
一筋は花野にちかし畑道  鳥栗
弓固とる比なれば藤ばかま  支浪
  贈芭蕉庵
百合は過芙蓉を語る命かな  風麦
さよ姫のなまりも床しつまぬ花  史邦
枯のぼる葉は物うしや鶏頭花  万乎
鶏頭や鴈の来る時なをあかし  芭蕉
鶏頭の散る事しらぬ日数哉  至暁
折々や雨戸にさはる萩のこゑ  雪芝
蔦の葉や残らず動く秋の風  荷兮
山人の昼寐をしばれ蔦かづら 加賀山中 桃妖
風毎に長くらべけり蔦かづら  杉下

  朝がほ
朝顔の莟かぞへむ薄月夜  田上尼
あさがほの這ふてしだるゝ柳かな  闇指
水も有あさがほたもて錫の舟  風麦
朝貌にしほれし人や鬢帽子  其角

  虫 附鳥
ぎぼうしの傍に経よむいとゞかな  女 可南
竈馬や顔に飛つくふくろ棚  北枝
火の消て胴にまよふか虫の声  正秀
秋の夜や夢と鼾ときり/゛\す  水鴎
みの虫や形に似合し月の影  杜若
蜻蛉や何の味ある竿の先  探丸
蟷螂の腹をひやすか足の上  蔦雫
蓮の実に軽さくらべん蝉の空   示峯
ぬけがらにならびて死る秋のせみ  丈草
雁がねにゆらつく浦の苫屋哉  馬●(クサカンムリ+「見」)
鶺鴒や走り失たる白川原  氷固
粟の穂を見あぐる時や啼鶉  支考
老の名の有ともしらで四十雀  芭蕉

  穐風
秋かぜや二番たばこのねさせ時  游刀
雀子の髭も黒むや秋の風  式之
何なりとからめかし行秋の風  支考
松の葉や細きにも似ず秋の声  風国
をのづから草のしなへを野分哉  圃燕
ふんばるや野分にむかふはしら売  九節
あれ/\て末は海行野分かな  猿雖

  稲妻
独いて留守ものすごし稲の殿  少年 一東
稲妻や雲にへりとる海の上  宗比
明ぼのや稲づま戻る雲の端  土芳
いなづまや闇の方行五位の声  芭蕉

  木実 附菌
団栗の落て飛けり石ぼとけ  為有
炭焼に渋柿たのむ便かな  玄虎
秋空や日和くるはす柿のいろ  洒堂
つぶ/\と箒をもるゝ榎み哉  望翠
はつ茸や塩にも漬ず一盛  沾圃
  伊賀の山中に阿叟の閑居を訪らひて
松茸や都にちかき山の形  維然
まつ茸やしらぬ木の葉のへばりつく  芭蕉

  楓
後屋の塀にすれたり村紅葉  北鯤

  鹿
尻すぼに夜明の鹿や風の音  風睡
寐がへりに鹿おどろかす鳴子哉  一酌

  農業
起しせし人は逃けり蕎麦の花  車庸
木の下に狸出むかふ穂懸かな  買山
さまたげる道もにくまじ疇の稲  如雪
  いせの斗従に山家をとはれて
蕎麦はまだ花でもてなす山路かな  芭蕉
早稲刈て落つきがほや小百姓  乃龍
山雀のどこやらに啼霜の稲  斗従
居りよさに河原鶸来る小菜畠  支考
一霜の寒や芋のずんど刈  同
肌寒き始にあかし蕎麦のくき  維然
百なりていくらが物ぞ唐がらし  木節
  大師河原にあそびて樽次といふものゝ孫に逢ひて
そのつるや西瓜上戸の花の種  沾圃

  菊
翁草二百十日も恙なし  蔦雫
ゑぼし子やなど白菊の玉牡丹  濁子
煮木綿の雫に寒し菊の花  支考
  題画屏
むかばきやかゝる山路の菊の露  兀峯
借りかけし庵の噂やけふの菊  丈草

  暮秋
広沢や背負ふて帰る秋の暮  野水
行秋を鼓弓の糸の恨かな  乙州
行あきや手をひろげたる栗のいが  芭蕉

  雑穐
五六十海老つゐやして●(ウオヘン+「殳」)一ツ  之道
粟がらの小家作らむ松の中  団友
あら鷹の壁にちかづく夜寒かな  畦止
残る蚊や忘れ時出る秋の雨  四友
身ぶるひに露のこぼるゝ靱哉 萩子
更る夜や稲こく家の笑声  万乎
柿の葉に焼みそ盛らん薄箸   桑門 宗波
  本間主馬が宅に、骸骨どもの笛鼓をかまへて能する処を画て、舞台の壁にかけたり。まことに生前のたはぶれなどは、このあそびに殊らんや。かの髑髏を枕として、終に夢うつゝをわかたざるも、只この生前をしめさるゝものなり。
稲妻やかおほのところが薄の穂  芭蕉



    冬之部

  時雨 附霜
この比の垣の結目やはつ時雨  野坡
しぐれねば又松風の只をかず  北枝
けふばかり人も年よれ初時雨  芭蕉
一時雨またくづをるゝ日影哉  露沾
初しぐれ小鍋の芋の煮加減  馬●(クサカンムリ+「見」)
平押に五反田くもる時雨かな  野明
柴売やいでゝしぐれの幾廻り  闇指
椀売も出よ芳野の初時雨  空牙
穴熊の出ては引込時雨かな  為有
更る夜や鏡にうつる一しぐれ  鶏口
石に置て香炉をぬらす時雨哉  野荻
柿包む日和もなしやむら時雨  露川
高みよりしぐれて里は寐時分  里圃
  浮雲をそなたの空にをきにしの日影よりこそあめになりけり
沖西の朝日くり出す時雨かな  沾圃
はつ霜や犬の土かく爪の跡  北鯤
ひとつばや一葉/\の今朝の霜  支考

   元禄辛酉之初冬九日素堂菊園之遊
  重陽の宴を神無月のけふにまうけ侍る事は、その比は花いまだめぐみもやらず、菊花ひらく時則重陽といへるこゝろにより、かつは展重陽のためしなきにしもあらねば、なを秋菊を詠じて人々をすゝめられける事になりぬ。
菊の香や庭に切たる履の底  芭蕉
柚の色や起あがりたる菊の露  其角
菊の気味ふかき境や藪の中  桃隣
八専の雨やあつまる菊の露  沾圃
何魚のかざしに置ん菊の枝  曾良
菊畠客も円座をにじりけり  馬●(クサカンムリ+「見」)
  柴桑の陰士、無絃の琴を翫しをおもふに、菊も輪の大ならん事をむさぼり、造化もうばふに及ばじ、今その菊をまなびて、をのづからなるを愛すといへ共、家に菊ありて琴なし、かけたるにあらずやとて、人見竹洞老人、素琴を送られしより、是を夕にし是を朝にして、あるは声なきに聴き、あるは風にしらべあはせて、自ほこりぬ。
うるしせぬ琴や作らぬ菊の友  素堂

  草 附木
水仙や練塀われし日の透間  曲翠
なを清く咲や葉がちの水仙花  氷固
水仙の花のみだれや藪屋しき  維然
  范蠡が趙南のこゝろをいへる、山家集の題に習ふ。
一露もこぼさぬ菊の氷かな  芭蕉
山茶花は元より開く帰り花  車庸
冬梅のひとつふたつや鳥の声  土芳
山茶花も落てや雪の散椿  露笠

  木葉 附冬枯 凩
おもひなし木の葉ちる夜や星の数  沾徳
星さえて江の鮒ひらむ落葉哉  露沾
冬川や木の葉は黒き岩の間  維然
麓より足ざはりよき木の葉哉  枳風
  本柳坊宗比の庵をたづねて
はいるより先取てみる落葉哉  イセ 一道
枯はてゝ霜にはぢずやをみなへし  杉風
牛の行道は枯野のはじめかな  桃酔
冬枯に去年きて見たる友もなし  乃龍
草枯に手うつてたゝぬ鴫もあり  利牛
野は枯てのばす物なし鶴の首  支考
木がらしや色にも見へず散もせず  智月
凩や背中吹るゝ牛の声  風斤
木枯や刈田の畔の鉄気水  維然
こがらしや藁まきちらす牛の角  塵生

  夷講
ゑびす講酢売に袴着せにけり  芭蕉
恵比須講鶩も鴨に成にけり  利合

  鳥 附いを
 のとの海をみて
塵浜にたゝぬ日もなし浦鵆  句空
追かけて雹にころぶ千鳥かな  蔦雫
小夜ちどり庚申まちの舟屋形  丈草
入海や碇の筌に啼千鳥  闇指
●(「敞」+「毛」)につゝみてぬくし鴨の足  芭蕉
たつ鴨を犬追かくるつゝみかな  乍木
杓汐にころび入べき生海鼠かな  亡人 利雪
うか/\と海月に交るなまこ哉  車庸
見へ透や子持ひらめのうす氷  岱水
一塩にはつ白魚や雪の前  杉風
かくふつや腹をならべて降霰  拙侯
  杜夫魚は河豚の大さにて水上に浮ぶ、越の川にのみあるうをなり。

  冬月 附衾
喰ものや門売ありく冬の月  里圃
あら猫のかけ出す軒や冬の月  丈草
何事も寐入るまでなり紙ふすま  小春
水仙や門を出れば江の月夜  支考

  埋火
埋火や壁には客の影ぼうし  芭蕉
侘しさは夜着を懸たる火燵かな  少年 桃先
自由さや月を追行置炬燵  洞木

  雪
初雪や門に橋あり夕間暮  其角
朝ごみや月雪うすき酒の味  同
雪あられ心のかはる寒さ哉  夕菊
鷦鷯家はとぎるゝはだれ雪  祐甫
雪垣やしらぬ人には霜のたて  蔦雫
ふたつ子も草鞋を出すやけふの雪  支考
片壁や雪降かゝるすさ俵  圃吟
思はずの雪見や日枝の前後  丈草
髪剃は降来る雪か比良のだけ  陽和
伊賀大和かさなる山や雪の花  配力

  神楽
夜神楽に歯も喰しめぬ寒哉  史邦

  鉢たゝき
食時やかならず下手の鉢扣  路草
鉢たゝき干鮭売をすゝめけり  馬●(クサカンムリ+「見」)
娵入の門も過けり鉢たゝき  許六
狼を送りかへすか鉢たゝき  沾圃

  煤掃 附餅つき
煤はきや鼠追込黄楊の中  残香
煤掃やあたまにかぶるみなと紙  黄逸
才覚な隣のかゝや煤見舞  馬●(クサカンムリ+「見」)
煤はきやわすれて出る鉢ひらき  ミノ 闇如
煤掃や折敷一枚踏くだく  維然
餅つきや火をかいて行男部屋  岱水
餅つきやあがりかねたる鶏のとや  嵐蘭
もち搗の手伝ひするや小山伏  馬仏

  歳暮 附節季候 衣配
こねかへす道も師走の市のさま  曾良
門砂やまきてしはすの洗ひ髪  里東
売石やとつてもいなず年の暮  草土
猿も木にのぼりすますやとしの暮  車来
大年や親子たはらの指荷ひ  万乎
袴きぬ聟入もありとしの昏  李由
年の市誰を呼らん羽織どの  其角
打こぼす小豆も市の師走哉  正秀
引結ぶ一つぶ銀やとしの暮  荻子
桶の輪のひとつあたらし年のくれ  猿雖
天鵞毛のさいふさがして年の暮  維然
浜萩に筆を結せてとしの暮
  此句は図司呂丸が羽ぐろより京にのぼるとて伊勢にまうで侍りければ、そのとしの暮かゝる事もいひ残して、今はなき人とはなりし。
盗人にあふた夜もあり年の暮  芭蕉
余所に寐てどんすの夜着のとし忘  支考
漸に寐所出来ぬ年の中  土芳
節季候や弱りて帰る藪の中  尚白
節季候の拍子をぬかす明屋哉  少年 桃後
裁屑は末の子がもつきぬ配  山蜂
一しきり啼て静けし除夜の鶏  利合

  雑 冬
小屏風に茶を挽かゝる寒さ哉  斜嶺
植竹に河風さむし道の端  土芳
井の水のあたゝかになる寒哉  李下
寒声や山伏村の長つゝみ  仙杖
霜ばしらをのがあげしや土龍  圃仙
火燵より寝に行時は夜半哉  雪芝
山陰や猿が尻抓く冬日向  コ谷
爼板に人参の根の寒さ哉  沾圃
菊刈や冬たく薪の置所  杉風



    釈教之部 附追善 哀傷
 
  涅槃
涅槃像あかき表具も目にたゝず  沾圃
ねはん会や皺手合る珠数の音  芭蕉
山寺や猫守り居るねはむ像  不撤
貧福のまことをしるや涅槃像  山蜂

  灌仏
灌仏やつゝじならぶる井戸のやね  曲翠
散花や仏うまれて二三日  不玉
灌仏や釈迦と提婆は従弟どし  之道

  魂祭
喰物もみな水くさし魂まつり  嵐雪
寐道具のかた/\やうき魂祭  去来
やま伏や坊主をやとふ玉祭  沾圃
  甲戌の夏大津に侍しを、このかみのもとより消息せられければ、旧里に帰りて盆会をいとなむとて
家はみな杖にしら髪の墓参  芭蕉
  悼少年 二句
かなしさや麻木の箸もおとななみ  維然
その親をしりぬその子は秋の風  支考
  かまくらの龍口寺に詣て
首の座は稲妻のするその時か  木節
はか原や稲妻やどる桶の水  支梁

  御影講
柚も柿もおがまれにけり御影講  沾圃

  臘八
腸をさぐりて見れば納豆汁  許六
何のあれかのあれけふは大師講  如行

  雑題
  洛東の真如堂にして、善光寺如来開帳の時
凉しくも野山にみつる念仏哉  去来
有ると無きと二本さしけりけしの花  智月
けし畠や散しづまりて仏在世  乙州
ものゝふに川越問ふや富士まうで  望翠
手まはしに朝の間凉し夏念仏  野坡
食堂に雀啼なり夕時雨  支考



    旅之部
 
  送別
  元禄七年の夏、ばせを翁の別を見送りて
麦ぬかに餅屋の見世の別かな  荷兮
別るゝや柿喰ひながら坂の上  維然
  許六が木曾路におもむく時
旅人のこゝろにも似よ椎の花  芭蕉

  留別
  洛の惟然が宅より故郷に帰る時
鼠ども出立の芋をこかしけり  丈草
鮎の子のしら魚送る別哉  芭蕉
  甲斐のみのぶに詣ける時、宇都の山辺にかゝりて
年よりて牛に乗りけり蔦の路  木節
稲づまや浮世をめぐる鈴鹿山  越人
にべもなくつゐたつ蝉や旅の宿  野径
  出羽の国におもむく時、みちのくのさかひを過て
そのかみは谷地なりけらし小夜碪  公羽
十団子も小つぶになりぬ秋の風  許六
大名の寐間にもねたる夜寒哉  同
  くま野路
くるしさも茶にはかつへぬ盆の旅  曾良
つばくらは土で家する木曾路哉  猿雖
明ぼのはたちばなくらし旅姿  我峯
煎りつけて砂路あつし原の馬  史邦
  回国の心ざしも漸々伊勢のくにゝいたりて
文台の扇ひらけば秋凉し  亡人 呂丸
我蒲団いたゞく旅の寒かな  沾圃
  常陸の国あしあらひといふ所に行暮て、やどり求んとせしに、その夜はさる事ありとて宿をかさゞりければ、一夜別時の軒の下にかゞまりふして
椽に寐る情や梅に小豆粥  支考
はつ瓜や道にわづらふ枕もと  同
  元禄三年の冬、粟津の草庵より武江におもむくとて、嶋田の駅塚本が家にいたりて宿かりて名をなのらするしぐれかな  芭蕉



続猿蓑は芭蕉翁の一派の書也。何人の撰といふ事をしらず。翁遷化の後、伊賀上野、翁の兄、松尾なにがしの許にあり。某懇望年を経て、漸今歳の春本書をあたえ、世に広むる事をゆるし給へり。書中或は墨けしあるひは書入等のおほく侍るは、草稿の書なればなり。一字をかえず、一行をあらためず、その書其手跡を以て直に板行をなす物也。

  元禄十一寅五月吉日     いづゝ屋庄兵衛書  重勝