対髑髏
幸田露伴
旅に道連の味は知らねど
世は情ある女の事/\
但しどこやらに怖い所あり難い
我元来洒落(しやれ)といふ事を知らず、又数奇と唱ふる者にもあらで、唯ふら/\と五尺の殻を負ふ蝸牛の浮れ心止み難く東西南北に這ひまはりて、覚束なき角頭の眼に力の及ぶだけの世を見たく、いざさらば当世江口の君の宿仮さず、宇治の華族様香煎湯一杯を惜み玉ふとも関はじよ、里遠しいざ露と寐ん草まくらとは一歳陸奥の独り旅、夜更て野末に疲れたる時の吟、それより吾が身を露の友として頓て脆くも下枝を落なば、摺附木となりて成仏する大木の蔭小暗き近辺に、何の功をも為さゞる苔の碧みを添へん丈の願ひにて、●語にばかりは滴水とく/\試みに浮世そゝがばやと果敢なき僭上、是れ無分別なる妄想の置所、我から呆るゝ程定まらぬ魂塊宙宇に彷徨し三十年来、自ら笑ふ一生定力なく、行蔵多くは業風に吹ると、故人の遺されし金句に、歳の市立つ冬の半夜、蝙蝠騒ぐ夏の夕暮などは、胆を冷し骨を焚く感じを起す事もありしが、三日坊主の一時精進、後はゆつたりのつたりにて、丁度明治二十二年四月の頃は、中禅寺の奥、白根が岳の下、湯の湖のほとりの客舎に五目并べの修業を兼て病痾を養ひ居たりしに有難き温泉の功能、忽ち平愈するや否、丈夫素より存す衝天の気なぞといきり出して、元来し道を帰るを嫌ひ、御亭主是から先へ行く道は無いかと問へば、どうも此処は行留りの山の中、見らるゝ通り前は前白根奥白根雲の上に頭を出して居る始末、登山は夏さへ六かし、其続きの横手の方は魂精峠と俗に呼ぶ木叢峠、此頂上は上野下野両国の境界、山々折り累なりて、当方より越る六里の間に暖湯飲むべき家もなし、殊更時候大分違ひて大沢徳次良あたりは、野州の名花八汐の真盛りなれど此近辺はそれもまだ咲かず、況して峠は一面の雪、五尺六尺谷間には積り居りて道も碌には知れず、今年になつてから越した人は指の数に足らぬ位、とても遊び半分なぞに行かるべき地にあらず、御客様是非もなし、中禅寺までお戻りあつて足尾とか庚申山とか里近き孫山でも見物致されよとの言葉。
おのれ我を都会育ちの柔弱者と侮つたりや、其義ならば旋毛曲りの根性、天の邪鬼の意気地見せつけ呉れんと詰らぬ事に偽勢張り、股引もなき細臑踏みはだけて、其峠何程の事あらん、焼飯作れ草鞋買て来よ、少しばかり難義でも同じ道を帰るより面白からんに、鼻歌を山の神に聞せて越ん。さてさて途方もない事、雪沓ならでは中々凍ゆべし、強てとならば国境まで案内者●はるべし、然し名産の肉●蓉取つて腎薬にでもせんとの御思召ならば時節悪し、酔興は要らぬ者と昔時よりの教もあるものを。面倒な事愚図々々云はずと我云ふ通りにせよ、案内者は●ふべし雪沓も買ふべしと罵りて、裾其儘にグイと端折り、沓しつかりと穿き締め、身の丈六尺計りの樵夫を案内として心いさましく登ける。
四五町ばかり来て見れば成程人は嘘つかぬ者、一面の雪表面は凍りて下は柔なり。段々と登り行く勾配急になり屡々滑るに少し萎みて、見れば案内者は猪の毛皮の沓はきて鉄雪橇に踏答へ、悠々と歩む憎さ、負じと我も息張りて追付ば其大男顧みて、此通りの雪なれば道も何もある訳では無ければ谷を伝はりて行くだけの分、あなた様若し堪忍強く少時の難渋を忍ばれるなら一層勾配の烈しき代り頂上へ達する近道を行きませうかと問はれ、ヱーまゝの皮、そう仕やうと決断し、又登る一里あまり、樅の木柘の木タモの木ドロの木唐松など生ひ茂りて蔭暗く、此山の本名木叢峠の名は体をあらはして森々と物凄く、梢を渡る風に露はら/\と襟首に落ち、顔を撲つ空翠は気息に伴なつて胸悪し。雪に印せる兎鹿の足痕漸く減りて、耳に音信し鳥の声も次第々々に絶え、身は攀ぢ登るの苦しさに汗ばみながら、心を掩ひし五慾の塵衣は一枚々々剥るゝ如く、昨日の栄華縦横無尽に神通を逞しくせし第六識魔王は眷属味方を失ひて薄ら淋しく、何といふ事はなけれど世界よりの落武者となつたる様に心臆せられて、人間老衰の暁五官半死して最期に近よりたらん時此境界に似通ふ者あらば、何程なさけなく如何程力弱く如何程頼み少なき者ならん乎とそゞろ悲しく思ふ時、岩を透すまで鋭き鳥の声真黒の梢より射出され、ギョッとして頸を縮むる途端、眼にはくら/\と湧き乱るゝ唐草様の者見へしが、是にてお別れ申します、此処両国の境界即ち頂上なり、是より左り手左り手と谷を伝ひ下らるれば一つの沼あり、其沼の左をまた/\下らるれば片科川の水源、是ぞ坂東太郎と末は呼ばるゝ、それに傍て行れなば温泉湧き出る小川村といふに着べし、此処より其村までまだ四里余少しも人家なし、能々気を注けて迷はぬ様致されよ、さらば、と案内者の云ふに又一段の淋しさを増し、今朝の似非勇気挫け果て茫然と見下すに、曇り空の日の光り力なく、常は見ゆると聞し会津の方の山々も雲がくれて見えず、流石に足の爪先佇む間に冷を覚えける。
案内者に別かれて独り下る覚束なさ、雪沓なれば滑り/\薄ら氷に向臑疵つき、岩角に頬を擦り、雪流に埋められし木の枝に衣を裂き、行けども行けども迷うたりや沼の辺りに出ず。樺の木折りて火を焼き、あたりながら焼飯を取り出して食ふに、木屑を噛様にて甘からねど餓を凌ぎたれば、色々方角を考へ正して進む。元より時計も持ぬ男なれば時刻分らず頻りと気をあせる中ほの暗くなつて来たれば、是は大変なり又々曽て荒山に行き暮したる時の様になりては叶はじと、急ぐ程に沼のほとりに来たり、嬉しやと思ふほどなく日は谷の没り易く、雪は最早無けれど沓の底は切れて足は痛む折ふし、プツリと紐さへ断れぬ。悲しやと道の辺に坐りて夫を繕ひ繋がんとするに、燈の光り遙彼方に幽に動ぐを見付たり。嬉しや嬉しやとたどり行けば、丸木の掘立柱笹葺の屋根したる小家、尚蕾の堅き山桜の大木の根方に立り。所がらとて時候のかくも変る者ぞと驚かれぬ。萩の垣結ふ丈の事もせざるは枝折戸の面倒も嫌へるにや、家の横手に幅一間計りの小河流るれば、筧して水呼ぶ世話も要らぬと見へたり。
此様にしても世は渡らるゝ者と有り難く、尚近く寄て火の洩るゝ戸の際に立ち、中禅寺の湯元より峠越して道に迷ひし者、尽く疲れ果て夜道に難義いたしまするが、小川村まではまだどれ程の道法でござりますか、且は雪沓を切らして歩み難く困りますに草鞋一足御譲り下さるまいか、と云へば、それは/\お気の毒な事、小川まではもう二十町ばかり、川に添ふて行かれさへすれば間違なし、お履物をお切らしなされては真に御難義ならんが、生憎草鞋一足もない事恥かし、然し私しのはき捨の草履にても宜しくば参らせませう、と云は不思議、なまめかしき女の声。かゝる山中に似合しからず、されど是も猟師か何ぞの娘ならん、唯弱りたるは足の裏痛み悩みて、右の小指左りの拇指は生爪まで剥したれば、是より二十町到底あるけず、出来る事なら一夜の宿を頼まんと、真に申し兼たれど小川まで二十町と承はりては疲れたる身の中々に歩み難く、痛み所さへあれば憫然と思し召て一夜の宿りを許したまへ。それは思ひも寄らぬ事、女子許りなれば、と云ひ乍ら板戸引き開け身体を半分出す女、年は二十四五なるべし、後面に燈を負ひたれば後光さす天女の如く、其色の皎さ、其眼のぱつちりとしたる、其眉つきの長く柔和なる、其口元の小さく締りたる、其髪の今日洗ひたる乎と覚えて結もせず後に投掛て末の方を引裂き紙にて一寸纏めたる毛のふさ/\としてくねらざる、美しさ人にあらず。おのれ妖怪かと三足ほど退つて覗へば、女も我をつく/゛\と見て、傷ましやお前様の風情、御足のあちこち怪我なされしか紅き者も見ゆるに、御袖も草木に障えられてか綻び切れ、御顔色もいたく衰へ苦し気に居らせらるゝに、成程是より小川まで僅の道なれど行き悩み玉ふべし、お留め申し難き所なれども世捨人にもあらぬ御方に、仮の宿りに心止むなとも申し難ければ枉て一夜を明させ申すべし、強くお断絶申すもつらし、いざ爰に御腰かけられよ、御洗足の湯持て参らん、と云はれて気味の悪さ、今更逃出さんも流石なれば、よしやわざくれ何とするものぞと腰打掛て、有難しと礼いふ中、小桶に熱き湯汲み来りて甲斐々々しく洗ひくれんとするを、是は恐れ入り升、ナニ自分で濯ぎます。イヱ/\御遠慮なしに、サア御足をお伸しあそばせ、と問答する暇に指の股の泥まで奇麗になりぬ。
畳の上にあがり丁寧に挨拶すれば、女莞爾と笑ひながら、山中なれば御馳走も出来ねど幸ひ小川村と同じ脈の温泉の背戸の方に湧き居れば、一風呂御這入りあつて一日の疲労をお休めなされ、サア此方へござれ、御背中を流しませうか。ハテ狐にでも誑さるゝではないかと内々危ぶみ居る我手を取る様にして、湯殿へと申しても片庇廂、雨露を凌ぐばかり、いぶせけれど湯は天然の霊泉まことに能く暖まります、といふ口上嘘らしくなく底まで見え透く清き湯槽、大事なかろうと這入れば、無類の心持は湯元より結構なり。昼間のつらかりしも忘れ悠々と揚つて来るを待ち付て女、御召憎うはござりませうが御着物の綻びを縫ふてあげます間是を、と後より引かけて呉れるは、ぼてつかぬフラネルの浴衣に重ねし黒出八丈の綿入れ、女物なれば丈ありてユキ無く、両手のぬつと出るは可笑けれど、親切かたじけなし、余程ふしぎな取り扱ひ、どうした運命だろうと怪みながら少し煙にまかれて、ハイハイ是はどうも恐縮。御帯にも岩角の苔が付て居りますれば、可笑とも之を、と笑ひながら出すは緋縮緬のしごき。ハイ/\と帯にして、是も大方藤蔓か知れぬと観念し、座敷へ来て居炉裏の傍に坐る肩へ羽折り呉るゝは八反の鼠弁慶のねんねこ。湯覚をなされては若しお風邪でも召ては何処ぞのお方に済みませぬ、と味な口きゝ、どん/\と柴折くべ、自在鍵にかけし鍋の沸き立を取り下して、定めし御空腹でござんしたろう、サア御膳も出来ましたがお気の毒なは麦飯、暖い丈を取り柄に山家の不自由をお許しなされ、と取り出す蝶足の八寸膳、盛て呉るゝ山独活の味噌汁、香気椀に溢る。礼云ひながら我は甘く食へば女も、妾も御一所に片付て仕まひましよか、と無造作に喰ふに膳なく、椀を炉縁に置んとして流石に馴ずやたゆたふを、此膳お用ゐなされと突やれば、そんならおとり膳とやらに、オホヽ、御免なされ、と顔も赤めず、宵よりの所業一々合点の行ぬ事どものみなり。
さて飯も了りたれば女は我に関はず、手ばしこく膳椀とり片付て火影ゆらぐ行燈の下に坐り、我衣物の綻びを綴くる様、十年も連添ふたる女房の様に見栄も色気もなく仕こなす不思議さ、さりとては何物ならん。世を捨たる女かと見れば黒髪匂やかにして尼にもあらず、世を捨ざる女かと見れば此容色を問ふ人もなき深山の独り住訝かしく、何にせよ口不調法なる我口惜く、問ひ出る詞を知らで様々考ふる中、女は綻び繕ひ了りて其まゝ畳み置き、炉の傍に来て我とさしむかひ笑まし気に、若き御方の何故の御旅行か知ねど定めし面白き事もござりましたろうにチトお聞せなされ、と却つて向ふより切り掛けられ、イヤ/\我等山あるきは好なれど歌の一つも読み得ねば、面白き所あつてもお話し申す言葉拙し、お前様こそ見受る所御風流の御生活、由緒あるお方とは先程より思ひましたが、さりとては盛りの御身を無残の山住み、如何なる仔細か御話しなされてよき事ならば。ホヽ中々の事、賤の女に何の由緒のありませう、唯妾しは妙と申す気軽者、去歳より此処に移りしばかり、おまへ様は。露伴と名乗る気軽者。扨は気軽と云はるゝか。如何にも。何の上の気軽。我は何とも知らず山に浮れ水に浮るゝだけの気軽、おまへ様は。浮世を厭ふだけの気軽。ハテ怪しからぬ、浮世を真誠に厭ひ玉ひなば御頭をもゴッソリと剃り丸め玉ひ、墨染の衣に御身をやつされ、朝は山路に花を採り夕は渓川に閼伽を汲て本尊に供ぜられ、看経念仏の勤めあるべきに、珠数さへ持ち玉はざる計りか、昔しの人は美しき面に熱鉄当たるさへあるに、お前様は誰に見よとての黒髪、油こそ無れしなやかに、友仙の御下着、紅こそ見えね仇めかしくも色作らせらるゝ事疑はし、世を疎み玉ふとは詐り、深く云ひ替せし殿御を恨むる筋の有るかなどにて、口舌の余り強玉ふての山籠り、思はせぶりの初紅葉あきくちから濃ふなるといふ色手管か、是は失礼、図に乗て饒舌りました。アラ此人の口の憎さ、其様な浮たる事にはあらず、全く世をば避け厭ひて。マザ/\とした御戯談、さらば世を厭ふとは如何なる訳、と押返して問ば、要らぬ事尋ねて可惜夜の更るに御休みなされ、と身を起して戸棚より出すは綿まづしき痩せ蒲団かと思ひの外、緋緞子の蒲団、浅黄綸子の抱巻、紅羽二重の裏付て猟虎の襟、驚かるゝ贅沢。サア御寝なされと我を押やりて小屏風立まはすに、是非なく話しを中途にして、然らばお先へ御免蒙ると横になれば、蓬莱の夢見さうな雲鶴の錦の丸枕に茶を詰あるやらゆかしき香、鼻の頭に不審が立ってどうも眠られゝばこそ。ソッと屏風の外を覗けば、炉の傍に尚端然と坐して何やらを読み居る美しさ人形の様なり。
一時間も経ど我は尚寝られねば又彼方を見るに矢張動かず、二時間も過ぎて又伺ふに女は元の通り、真夜中頃にも心愈々冴て後先揃はぬ此家の始末を考へながら又覗けば、女は頻りと火箸もて灰掻き起し居れど、柴木最早尽て炉の暖ならず、木叢峠の山下風流石に寒気を覚えてや、独り言に温泉にでも入らんと云ひ捨てゝ湯殿の方へ行けるが、少時して帰り、炉の火は全く細々となりしに尚其傍に端然と坐りたる様子、何の用ありとも見えず、全く寝るべき夜具なき故と知れたれば、我男の身として自分ばかり暖まり居をさもしき様に思ひなし、今眼さめたる振して突と起出ば、御手水か、と案内す。用たしての戻りがけ心付たる顔して、お妙さま、まだおよらずか。ハイ。誰人を待るゝ恋か知らねど大分夜も更けましたろうに。ホゝ御調戯なされずと能うおやすみなされ。イヤ違ひましたら幾重にもお詫をしますが、お独り住の御様子、其処へ推て一泊を願ひましたれば御臥床を奪ひましたかとも危みます、若し万一左様なれば我等こそ男の身の野宿の覚もござれば柱に●れて眠る一夜位苦にもならざれ、お前様そうして居られては心苦しゝ、寝温もりの残りしは気味あしくも思しめさんがどうかお休みなされ、と云へば顔少し赤め、御言葉の通り真に夜具一揃より持ざれど、おとめ申したる時より妾しは斯うして夜を明して大事ないと思ひ定めましたれば御構ひなく。それではどうも。そう仰しやらずと。我らが困ります。妾しが困ります。マアお前様御臥みなされ。マア/\あなた御寝なされ。其では際限なし、小生も男でござる、痩我慢致して是より御暇申す、女性に難義さして我心よく眠らば一生の瑕瑾、母の手前朋友の手前恥かし、夜道まだ/\楽な事なり。それ程までに仰せらるゝを背き難し、あなたに夜道歩行せましては妾しの心遣ひ皆空となる事なれば御言葉には従ひませうが、それではあなたに寝床暖めて頂いた様な者、のめ/\と其にくるまつてあなたを火もなき炉の傍に丸寝さしては仮令ば妾し夢に恋人に逢はふとも面白からず、妙も女でござんす、妾しの一生の瑕瑾、持仏の手前はづかしゝ、どうしてもあなたを能うお臥ませ申さでは。其様に言葉を廻されてはどうして良いやら訳が分からず、無骨者の我等閉口しますに。ホヽ閉口なされたら温順く妾しの云ふ事を聞てお臥みあれ。イヤ/\拙者の申す通りになされ。マア頑固に剛情を張られずとも。頑固でも何でも拙者の申す事聞るゝがよい。ハイ/\到底あなたの頑固には叶ひませぬから、あなたの申さるゝ通りに致しましよ、ホヽホヽ、まあ怖い顔をして。怖い顔は生れ付です。怒られたの。イヱ御厚意に向つて何の怒りましよ、唯少し真面目になつた計り。ホヽ可愛らしい、真面目に。ハイ真面目に。妾しも真面目に申しませう、サア露伴様。何。殿御の仰しやる事さへ通れば女子の云ふ事は通らずともよいと思はるゝか。何。御自分の御言葉だけを無理やりに心弱い妾しに承知させて、妾しの真実には露かゝらぬと酷らしうおつしやるか。知らん。知らんとは御卑怯な、サア此方へござれ御一所に臥みませう、妾しもあなたの御言葉を立ますればあなたとて妾しの一言を立て下さつたとて、御身体の解くるでもあるまい汚るゝでもござるまいに、何故そう堅うなつて四角ばつてばかり居らるゝか、ヱヽ野暮らしい、と柔らかな手に我手を取りて睛も動かさず平気に引立んとする其美しさ恐ろしさ。
我肝も凍るばかり慄然として眼を暝ぎ唇を咬み切め心の中にて「蘖海茫々たり首悪色慾に如くは無く、塵寰擾々たり犯し易きは惟邪淫なり、抜山蓋世の雄、此に坐して身を亡ぼし国を喪ひ、繍口錦心の士、茲に因りて節を敗り名を堕す、始は一念の差たり遂に畢世贖ふ莫きを致す、何ぞ乃ち淫風日に熾んにして天理淪亡するや、当に悲むべく当に憾むべきの行を以て反て計を得たりとなし、而して衆怒衆賤の事恬として羞るを知らず、淫詞を刊し麗色を談じ、目は道左の嬌姿に注ぎ腸は簾中の窈窕に断ゆ、或は貞節、或は淑徳、嘉すべく敬すべきを遂に計誘して完行なからしめ、若くは婢女、若くは僕妾、憫むべく憐むべきに竟に勢逼して終身を●すを致し、既に親族をして羞を含ましめ、猶子孫をして垢を蒙らしむ、総て心昏く気濁り、賢遠ざかり佞親しむに由る、豈知らんや天地容し難く神人震怒し、或は妻女酬償し或は子孫受報す、絶嗣の墳墓は好色の狂徒にあらざるなく、妓女の祖宗は尽く是れ貪花の浪子なり、富むべき者は玉楼に籍を削られ、貴かるべき者も金榜に名を除かる、笞杖流大辟、生ては五等の刑に遭ひ、地獄餓鬼畜生、没しては三途の苦を受く、従前の恩愛此に至つて空と成り、昔日の風流而も今安にか在る、其後悔以て従ふなからんよりは蚤く思ふて犯す勿きに胡れぞ、謹で青年の佳士、黄巻の名流に勧む、覚悟の心を発し色魔の障を破らん事を、芙蓉の白面は帯肉の●●に過ず、美艶紅妝、乃ち是れ殺人の利刀なり、縦ひ花の如く玉の如きの貌に対しても、常に姉の如く妹の如くするの心を存して、未行者は失足を防ぐべく已行者は務めて早く回頭せよ、更に望む、展転流通し迭に相化導し、必らず在々斉しく覚路に帰し、人々共に迷津を出でんことを、首悪既に除き万邪自ら消し、霊台滞りなく世栄遠きに垂れん矣、」とうろ覚えの文帝遏慾文を唱へたり。
色仕掛生命危ふき鬼一口と
逃てまはりし臆病もの
仔細うけたまはれば仔細なき事
年は今色の盛り、春の花咲き乱れたる様に美しき婦人と一ツ屋の中に居るさへ、我柳下恵に及ぶべくもあらぬ身の気味悪し。然しながら何千万人浮世男の口喧しく我を罵り責むるとも、顧みて内に疚しからず、鉄年角上の蚊の声の何かあらんと、此家に止まりて此女とさしむかひに食もたべたれ談話も仕たれ、素より人間の批判取沙汰何とも思はざる我も、天道の見る前に山中なればとて見ず知らずの女と同衾のなるべきことか。よしそれは羞かしからぬにせよ、其柔らかき肌近く、僅に衣服幾重かを隔てゝ身の内の温暖みの互に通ふまで密接合ひて我眠らるべきことか。共に寝よとの言葉かけられし丈にてさへ今遏慾の文を口の中に唱え了りしまでは、婆子焼庵の公案をひねくりしやうにはあらざりし。況や此美しき婦人と咎め手の無きかゝる山奥の庵中に眠らば、枯木寒岩に●りて三冬に暖気なかるべきや否や。美人今夜若し我に約さば枯楊春老て更に蘖を生ぜんとは、紫野の大徳一体様さへ白状されし真実の所。危い哉/\、婦女の居ぬ山蔭ならば羅漢と均しく悟り切ても居らるべし、白い臑見ては通を得し仙人でも雲の台を踏外して落たる古話あり。若も久米殿其女と同衾したら多分は底の無い地獄の奥深く堕落せん事必定なり。我今此美くしくて心和しげな女と一つ抱巻掛て枕をならべ、仔細なく一夜を明さんとするとも、背中合せでは肩寒し、山里の夜風透間洩りて一しほ寒ければと、我肩に夜着品よく着せ掛て、此方お向なされいでは両人の間に風が入りてと云はれなば愈々むづかしく、萎やかなる鬢の毛我頬を摩でゝ、花のやうな顔我鼻の先にありては尚々むづかしからん。玉の腕何処にか置きなん乳首何処にか去らん、扨は愈々大事なり。女猫抱て寝しと同じ心にて我眠らるべきか。叱。若しや夜着の内人の見ぬ所、身動きに衣引まくれて肉置程良き女の足先腿後など我毛臑に触らば其こそ。喝。生死一機に迫る一大事。素より道力堅固ならず戒行常に破れ居る凡夫の我、あさましき心は起さゞるにもせよ長閑なる夢は結び難し。且は此女真実に人間か狐狸か、先程よりの処置一一合点ゆかず。人間普通の女の言ひ得まじき事を恥らふ様子もなく我に言う女め、妖怪ならで何ならん。小人は多く謹慎の礼を以て来り、悪魔は毎に親切の情を以て誘ふと聞く。扨こそ/\ござんなれ悪魔め、鉄拳は模糊たる人情を存せず真向より打て下して乃公が力量の恐ろしさを知らせ呉れんか。噫それも頼み薄し。我不動明王ほどの強き者にもあらねど、魔は却て梵天を攻めし摩醯修羅の力あるかも知れず。水を拍ちて飛沫を浴び草を打て蛇に会ふは拙き上の拙き事なり。如何に答へん何と為ん、アヽ思ひ付たり、昔時は芭蕉も女に袖を捉へられし事あるに彼黙然として動かず、女終に去らんとする時芭蕉却つて女の袂を捉へ、こちら向け我も淋しき秋の暮と一句の引導渡せしよし、小耳に挟んで聞覚ヘたり。我又芭蕉をまなんで黙然たらんのみ、と漸く一心を決し、胸中には九想の観を凝らしながら乾坤を坐断する勢ひ逞しく兀然と坐着すれば、女はもどかしがりて握りし手を尚強く握しめ、サア何考へて居らるゝ、此方へ/\と引立る。引れじ/\引れてはと満身に力を籠むれば、サア此方へござんせ、さりとては頑固な御方、山に浮れ水に浮れたまふ気軽にも似たまはぬ、と尚引立る。大事大事、此妖魔めに一歩を転ぜられてはと石地蔵のやうに堅くなってゐるに、尚悠然と女は引く。引れじと張る力の弱るに、思はずアと叫びて手を振はらひ逃出せば、女追ひ縋りて袂をとらへ、ホヽと笑ひながら、扨は妾を妖怪変化の者かと思はれて夫程までに厭がらるゝなるべし、ホヽホヽ、今少し胆太く心強きお方ならんと存じての親切が仇となり、却つてお胸を騒がしたる罪深し、真誠妾は妖怪変化にもあらず、浮世を捨し身のあさましき慾に迷ふにもあらず、兎にも角にも厭がりたまふことを強ては申さじ、今より夜道あるかせ申さば亭主振り余りに拙く、悔み限りなし、先づ/\坐り玉へ、と止むるを我又無下に振り切るも恐ろしく、炉の向ふに坐れば、女は鉈取り出して立上る。これはと我又々驚き訝るを見てホヽと笑ひ、草履つつ掛て戸の外に出で、丁々と響かする木を切る音。
生木なりと焚かんとて薪取りに外へ出しぞと悟れば、漸く安堵してつゞいて外に出で、燃し木を取り玉ふならば男の事我助力致さんと鉈借り受け、そこらの雑木切り倒して一卜抱えだけ家の内に投込み、戸口確りと風を遮ぎり対ひ坐れば、女は火を掻起して僅に焚し初む。頓て漸く焚え立ちて暖気室に満るを見て、此通り炉に火もあり、妾は愈々独り起居る事つらからねばサアゆつくりと御やすみなされ、ホヽホヽ、胆の小さい御客様に可惜御気をもませ申しましたは妾があやまりました、御心配なしにおやすみなされまし。イヤ先刻も申せし通りおまへ様おやすみなされ。ホヽホヽ、又剛情を張らるゝか、夫ならば御一所にか。夫は御免蒙りたし。ヲホヽホヽ、嫌はれては今更是非もなけれど真実妾の了見では、夜風寒き山中何の御馳走申す風情もなければ、其むかし乳母があなたを抱て寝かして進た時の様に、あなたを緊乎と抱て妾の懐中で暖めて進やうばかりの親切、妾も仏菩薩の見玉ふ前に決して如何はしき念は露もつにあらず、あなたとて一箇の大丈夫、初めて逢ふて抱て寝た女位に心を動かす様な弱いお方ではあるまいと存じたに、御卑怯千万未練の御性根、ホヽ、是は失礼、兎も角もあなたの御自由になされ、妾は亭主の身で独り寝る事致し難し、といふ。我呆れて明きし口閉ぎ得ず、茫然と此女の言葉を聞き、つく/゛\考ふるに、人の世の毀誉褒貶を心に留めざるのみか眼前の我をさへ、見て三歳の小児の如く取り扱ひ、然も悠々として胸中別に春ある悟りの開けし大智識のやうなるに益々不審晴れず、ハテ何物の子ならん何物の変化ならん、尋常の婦女とは思へず、抑々如何なる履歴ありて斯く可惜しき容貌和しき心持ながら山中には引籠りけん、当世の小督か仏か祇王か祇女か、それとも全く妖魔かと、そゞろ恐ろしく、さらばおまへ様はおまへ様の御自由、我等は我らの自由として我は此炉前に一夜を明すつもり。妾もあなたの向ふ坐に一夜を明して苦しからず、却つて心安し、と斯に押問答の埒明けば、我大きに安堵してつく/゛\と女の頭上より全体を観るに、一点の疵なき玉のやうにて、折から燃ゆる火炎の閃めく陰に隠現する女神、其気高さ美しさ、人間の絵師まだ是に似た者も書きたる例しあらざるべし。
荊茨の中に鹿は置きたく無く、鶴は老松の梢にあらせたし。目ざましき者尊きもの可愛きもの美くしき者、皆其所を得させたきは我人の情ならん。あはれ駿馬は勇士に伴なはせたく、名花の園に蝴蝶は眠らせたし。或歳我旅せし時旅宿の下司洒掃除の時懐中より日本政記一冊落せしを見て、心掛ありながら空しく人に仕へ居る其男の口惜さ如何ならんと涙ぐみたる事ありし。夫にもまして今此女、天晴の容貌むざ/\と深山の谷間に埋れ木の花も咲かせず朽果る気の毒さ、美人所を得ずして榾火に燻ぼり草の屋に終るとはなさけなき天道の為されかた。男児時を得ねば滄海に入ると同じく、既に見識ありて俗情に遠く、又風流を解して仙趣に近づき居る此女、浮世の塵を厭ひて山中に終らん所存か、さりとては又女の癖に男めきたる憎さよ。女の女らしからざる、男の男らしからざる、共に天然の道に背きて醜き事の頂上なり。さりながら女の女らしからずして神らしきと、男の男らしからずして神らしきは、共に尊き頂上ぞかし。今此女の言ふ所最速女らしからず、女の口より初めて達ひし我を抱て寐んなど中々以て言へた事ならざるに、然も乳母が幼稚人を抱て寐る如く我を抱て寐んと云ひし事若し虚誕ならずば、此女は女の男めきたるにはあらで、人より以上の方外の女なり。然し我凡夫の眼より見れば此女の斯く尊と気ならんより、良き配偶を得て市井の間に美しき一家を為したらんこそ望ましけれ、と思ふまに/\又●れば端然とせし有様は凡界の女の、恋に病み衣服に苦労し珊瑚の根掛の玳瑁の櫛のと慾にざわつく儔にあらず、眼の中の清しきは紛紜たる世事を胸の中に留めざるをあらはし、顔色のあざやかに艶々しきは充分今の境界に満足して何の苦しく思ふ事なきを示めして、且は口元の締りたるにぞ理非を判むる智恵の敏さも知られける。不思議々々々。
余りの不思議に堪えかねて我いと叮嚀に真実を籠て言葉緩く、先程も伺ひたれど歳若きおまへ様の尼にもあらでの山籠り、如何にも不思議に存ぜらるゝも、一ツは美しき御容貌和しき御心根持玉ひながら無惨や、猪狼の跡多き地所に潜み玉ふを慨かはしく存ずるよりなり、斯く山住し玉ふ其訳苦しからずば一通り御聞せ下されたし、と問へば女ホヽと笑ひながら、此頃うるさく世間に流行とか聞し小説にでも書玉はん御了見か、よしそれまでには至らざるにせよ、話しの土産と都の人に齎らし帰らん御意なるべし、恥かしき身の上明して云ふ迄もなけれど、若し人ありて聞きて、一点あはれと思ふ人あらば、妾が如き人の為に嬉しき事の限りなり、いで恥を忘れて羞かしき身の上語り申すべし、縁外の縁に引されて或は泣き或は笑ひし夫も昔の夢の跡、懺悔は恋の終りと悟りて今何をか匿し申すべき、と云ひつゝ榾を添たりけり。
聞けば聞く程筋のわからぬ
恋路のはじめと悟りの終り
能々たゞして見れば世間に多い事
其時お妙は長江を渡る風軽く雲を吹て、おぼろにかすむ春の夜の月大空に漂よふ様に、満面の神彩生々と然も柔しく、藍田を罩むる霞あたゝかに草を蒸して、ほやり/\と光り和らぐ玉に陽炎立つ如く、両眼の流光ちら/\と且つ嬉し気に、聞て玉はれ露伴様、妾し幼少より東京に生長て父母まづしからず、家計ゆたかなるにまかせて、露を薄の頭簪に何ぞと間ひし頃は蝶と愛られ、風を縮緬の振袖に厭ひし頃は花といつくしまれ、浮世に楽み長閑なりし年立ち年暮て冬を送り春を迎ふる度毎、買つて貰ふ羽子板と共に背丈歳々に大きうなりしが、十四の秋父様図らず卒れ玉ひしより悲しさ遣る方なく、芝居見る外には泣たるためし少なき身もひたすらに涙もろくなり、果敢なき野辺に一条の煙りを観じて後は、三度の御膳に向ふたびに、父上の平常坐り玉ひし所むなしく明きて、完全たる前歯の一本抜けたる如く、しよんぼりと母様ばかり心淋しく、箸持つ力も衰へ玉ひたるやうに召上りながら、我が母様を見て悲しむと同じく母様も我を顧み玉ひて御胸痞え給ふや、御飯の量少なく白湯のみいたづらに飲して私かに瞼の潤ひさし玉ふに、我口中の者の味いつしか消えて奥歯咬みしめしまゝに開く事難かりし、われそれより自然と垂籠り勝に日を費やし、平素好きたる三味の色糸弾き鳴さんともせず、琴の師匠にも忌中に休課たるまゝ遠ざかりて、母様が持玉ひし草紙くさ/゛\に馴れ泥み、有る事無き事かきつらねたる冊子の中に幽なる楽みをなせしが、終に癖となりて彼是見尽せし後は薄雪住吉伊勢竹取、三年の中に解らぬながら源氏狭衣にまで読み至り、其間つく/゛\人情の濃き薄きを考え世の態の真実虚妄を覚え、むかしより男といふ者のあさましく意一時なさけ一時、思ひ込強けれど辛防弱く、逢ふを悦こべど別れを悲まず、媚めかしく佞らへるおかしき女を好み、恋を栄華のわざくれ三昧、犬猫の色美しきを愛る様に女の髪容よきを愛る者なることをさとり、我縁もなき男なれど源氏業平の如き戯け者を憎く思ふ事深く、嫉妬するにもあらねど其戯け者に迷ひ焦れし色々の女どもを歯痒き馬鹿と心の内に思ひけるが、十八の年母様もまた老の病危ふくなり玉ひ、兄弟もなき身の気弱く朝に晩に胸中は泣ながら神仏を頼み御介抱申せし甲斐なく、我亡き後は是を見て一生の身の程を知れと、行水に散り浮く花を青貝摺りせし黒塗の小箱を与へられしまゝの御往生、悲しともつらしとも言ふ言葉を知らぬ歎き、漸く御葬式済して後彼小箱を開き見れば、何時の間に認め置れしやら一通の御書置、是ほどまでに我を可愛う思しめされしありがたさと、先づ涙こぼれながら読み見れば、噫其時の心持今思ひ出しても慄然とする程、恐しさ口惜さ悲しさ情無さ味気無さ胸悪さあさましさ心細さ、厭といふ厭な心持一時に込上げて氷水全身に打ちかけられたる如く、又猛火に眉毛焼かるゝ如く冷汗脇の下に湧きて身ぶるひ止め得ず、気も暗く目も暗くゆら/\とゆらぐ玉緒絶果ん計りなりしが、夫れより愈々浮世を厭ひて。イヤ御話しの中途ですが其黒塗の小箱の中の文に記しありし事、如何なればそれほどまでにお前様を驚ろかせしか。
マア御聞なされ、其文に記しありし事をわたくしの口から申すもつらし、扨も我年は十九の春を迎へて空に更行ば、親類のやうに親達と交際し誰彼、我を嫁にせん我婿を世話せんといひ来るを、早くもあさましき人情の詐りぞ、盛りは十年の色、用は一時の財貨にひかれての申し込と猜して、一々きびしく家の僕に謝絶せ、ひたすら母を慕ひまゐらせ、あはれ此身の朽よかし霊魂のみとなりて母様の御傍近く行かんものとあせり、つく/゛\生命も惜からず世間に何の楽みなく、読耽りし数々の草紙も打すてゝ又見ず、男と面を合すさへ忌み嫌ふ様になりて、蓮葉なる下女共が年若く美しき俳優なぞの噂するまで苦々しく覚えければ、自然と自分は髪に油の香も止めず、櫛の歯を入れて鬢の恰好気にするまでもなく、ましてや前差に鼈甲の詮義、根掛に鹿の子のよしあしなんどは問ひもせず質しもせず、紅脂白粉はまるで忘れつ、帯に苦労をせしはむかし、下駄に鼻緒を選みしもむかし、羽織の色がどうであろうと、着物の取合がどうであろうと一切女のたしなみを捨て、おもしろからぬ心中常に涙を湛えて天地も薄黒く見え、花は咲ても萎れたる我、鳥は歌ふても黙然たる我、皎々と澄む月に対つても濁り水の我には影清く宿らず、陰々濛々と寝て起て食ふて少しも何の業なさず、身をじだらくの吾儘にまかし、神を恨み仏を恨み人を恨み天地を恨みて悶え苦しむ一念の増長するばかり、遂には神を憤り仏を憤り、今世に若し正体在さば針の先で衝てやりたきまでに心逼り来りて、道理を見れば何の燈心の縄張り、道理も更に恐ろしからず、人情を察れば高が氷柱に彩色の一時、人情も夢うれしからず、胸中に霜雪寒く残りて惨らしき観念絶ゆる間もなくありしが、或日の事、立派なる蝋塗人車我家の門に付きて髯毛うるはしき官員風の男案内を請ふに、名刺を見れば何某局長奏任一等の御方とて当世の利物と評判ある人なれば、我後見ともなりて家事万端取り賄なひし老僕出でゝ、御用の筋を何ぞと承たまはるに、唐突の参上甚だ失礼なれど伝手の無きまゝ是非なく直に申し入れます、付ぬ事を御聞申すが当家の御主人御年頃なるに未だ何方とも縁談の御約束なきや、実は拙者旧藩主の若殿見ぬ恋にあくがれ玉ひて是非にと所望なされ居る訳、と申した計りにては御分りあるまじきが、今年の春若殿郊外を散歩せられし折或る墓地を通りかゝり、不図乞食共の話しを聞るれば、今帰つたあの娘、容貌の美しい計りか孝心のいぢらしさ見えて、母親の墓の前に蹲踞りたるまゝ動き得ず、涙は雨のふる程泣て/\、若い身にも似ず、生命も惜からねば早く母様の御傍に行たしとの述懐、何と今時珍らしい気立の女ではないか、と一人が云ふを又一人がひつとつて、貴様今日初て彼娘に気が付たか、あれは毎月の事、去年の何月なりしか彼娘の親の此処に葬られてから、毎月の命日怠る事なく此処に来てあの通りの悲歎、他所で見ても可愛想なありさま、殊更今日などは顔も大分痩せて血色も悪し、大方家に居ても始終泣てばかり居る事であろうかとの噂、耳に入るより若殿ゾッとし玉ひて、誘はれたまひし涙が一滴、是ぞ恋の水上思ひの泉、ゆめ/\浮たる御心ならで恋が為せし探索、其後御名前御住所まで何時の間にか聞知り玉ひ、ます/\焦れて遂に父上の許しを得玉ふ、これによりて兎も角も拙者中にたち周旋の労を取るべくと今日態々参上したり、内々承まはれば未だ何方と御縁談きまりたるにもあらぬよし、何と此話し、能々御考え下さるまいか、媒人口たゝくではなけれど拙者旧藩主の御嫡子、爵位財産は世間の沙汰でも御存じなるべし、殊に先年独乙国に留学せられて学位も有たせられ、華族間にて行末望みある方、全く浮たる戯言、大名気質の吾儘なる縁談申し入るゝにあらず、四民同等の今日、実以て後々は伯爵夫人と我等もあがめ申すべき所存、恋のはじまりの次第を考へ玉ひても成るべくは色よきお返事を玉はりたしとて帰りたる後、老僕は躍り上りて喜び、平常皺びたる顔の其時は光りをなして、我に向ひて縁組承知せよと説すゝむるに、我一度はやんごとなき人に恋れたりと聞てカッと上気し、又一度は是も男の一時の熱やがては褪める色好みの心鄙しと蔑視み、又一度は母の遺書思ひ出して忽に身ぶるひ生じ、厭、々、々、々、縁談など聞く耳もたずと強く云へば老僕は驚き、是ほど結構な縁談いやと云はるゝは片腹痛しと、理をせめ言葉を尽して我を諫むれど少しも動かねば、是非なく謝絶申して、情知らぬ者どもと蔭言さるゝを厭はざりし、されども我其時より何となく二心になりて然程むごくは男を嫌はず、むごかりし心いつしか和らぎて髪かたちをも治むるやうになりしが、三月ほど経て又彼何某局長見えられ、我後見に向ひて、過し日の話しの纏まらぬ以来、流石活溌に聡明に渡らせ玉ひし若殿御動静ガラリと変り玉ひ、外出も仕玉はず書見も仕玉はで、花にも月にも嗟歎の御声ばかり、望みは絶し此世に絶ぬ玉の緒のあるは悲しき事の限りぞ、あるに甲斐なき生命誰が為にかながらへんなどと喞ち玉ひて、次第々々に三度の御食すゝまず、昼はうと/\眠り玉ひて夜は寐難に輾転玉ふ、あはれとは是なりと思ひて御付の者慰さめまゐらせ、愚とはそれなりとさとして父君叱り玉ヘど、唯々消なば消ぬべき露の身の散りなば人のあはれとや見ん、つれなき人は恨めしからで疎まれし我こそうとましき、とく/\捨ばや生命と朝夕の独り言、聞て母君の堪え玉はず、再度拙者を召して此御使ひ、何卒よろしく御推諒ありて御不足の廉は御遠慮なく申されべし、一々御指揮に随ひ申すべければ此恋成就する様、と情を尽し道理を責めての話し也、其時我ふすま越しに聞て思はず泣しが、老僕が我に向ひて返事相談する時には、又彼母上が残し玉ひし書置の事思ひ出して唯々つれなくも、縁を結ぶは厭なりと云ひ切つて、数多の人に憎まるゝを関はざりし、此度は最早思ひ切て来るまじと思ひしに又一月ほどたち彼人来りて、若殿終に浮世をあぢきなく思はれしあまり、うつら/\と病ひの床に打臥され其後御枕上らず、療治の詮方もなく父君母君今は共に最愛の御嫡子に引されて心よわく、共に御心配のありさま余所に見るさへ痛まし、願はくは思ひ返してよき返事きかせ玉ふやうとりなし玉はれ、是は若殿御病床の中にて書捨玉ひし反故ながら、恋の切なる事あらはれて隠れず、せめては是をだに見せまゐらせて、少しはあはれを汲まるゝたよりともなれかしと持て参りしなり、又是は若殿いまだ御病気になり玉はざりし前の写真なるが是も併せてまゐらすべし、御返事は明日また伺ひに上るべし、且は又其折御返事は如何にもあれ、若殿が生命かけてまで焦れし方の写真一枚玉はりたしと云残して帰りければ、老僕又我に色々説諭し、是非に此縁結ばれよ、浅からぬ因縁なるべしなど泣て勧むれど我剛情に承知せねば、少しは怒りて立去しあとに残せし写真、見るに気高く美しき御顔ばせ、いとしさも生じたるばかりか短冊に筆の歩みさへ健やかならずして、
燈火も暗ふなりゆく夜半の床に
こゝろきえ/゛\人をしぞ思ふ
と覚束なく記し玉ひしを見て、吾魂魄もゆら/\となりしが母君の遺書思ひ出して又、かゝる貴人に近づくべきにもあらずと、翌日も酷き返事させて写真も送らず、かくて十日程過て吾家の門に慌だゝしく車を寄せて、彼何某転ぶが如くに走せ入り眼付さへ常とは変りて涙ぐみながら、つれなき此所の恋れ人よ、今日は是非々々兎角の返事に及ばず邸第まで来られよ、若殿御生命今宵を過さずとの医師の鑑定、父君母君我等までの歎き察しても玉はれ、殊に今朝若殿の口ずさまれし一首、
厭はれし身はうきものと知りなから
尚捨てがたき…
と後の一句を残して血を吐かれし御ありさま、肺病もつまりは恋故、よしや女は鬼なりとも箇程まで思はれながらまだつらく当るべきやと、半分は恨み半分は怒りて我を引立行んとするに、我は又身を切らるゝより切なけれど愈々剛情に行じといふ折しも、亦車の音して御付の人を後になし、容儀取繕ろひ玉ふこともなく馳せ入られし上品の夫人、気も半乱に、お妙さまとはあなたか、我子が今臨終の際、一目おまへ様を見たしと、利かぬ舌を無理に動かしての望み、此通り手を合はして願ひます、御厭にもあらんが是非に来てと、伯爵夫人ともいはるゝ尊き人に拝まれて、心は洪水に漂よはされたるごとくうろ/\するを無理に引立られ、車の上も夢路をたどるやうにて立派なる御邸の中に入れば、人人声を限りに呼ぶ響きし、早や切々と悲み泣く女の声も聞ゆるに、夫人は慌てゝ幾間か通り過玉へば、我も引かゝるを振払ひえず其跡に跟て病室に入りける、見るに痩枯れ玉ひたる御ありさま、今とりつめて危かりしを呼び生られて母君の御顔見玉ひ、さめ/゛\と泣るゝ痛はしさ、是も誰故、我故と思へば没体なく消も入りたきを、夫人に推し出されて若殿の御側近く参り、我を忘れての涙つゝみ切れず御手を取りしまゝ何の理由とは知らず泣伏せば、若殿も涙ながら我を見玉ひて御言葉はなく、握られし手に微弱き力を籠めて我身に幽玄なる働きを与へ給ひしのみ、其儘我は絶入て夢の如くになりしも、覚めて見れば若殿は遂に蘇生らせ玉はず、我は身も世にあられず立帰りて後、其人の事のみ思はれて、なまじゐに生残りしを口惜く、ます/\天地を恨み憤りて気も狂ほしくなり、七日の夜独り吾家の持仏の前に看経したる時、朦朧とあらはれ玉ひし御姿のあとを慕て家を脱出で、何処ともしらず迷ひあるく眼には幻影をのみ見て実在の物を見ず、あさましく狂ふて此山中に我しらず来りしが、図らず道徳高き法師に遇ひ奉り一念発起して、坐禅の庵りを此処に引むすびしより、渓の水嵩増して春を知り、峰の木の葉の翻つて冬を悟る住居、閑寂の中に群妙を観じて頭を廻らし浮世を見れば皆おもしろき人さま/゛\、惨酷りし昔時の胸の氷砕けて東風吹く空に糸遊のあるかなきかの身もおもしろく、仏も可愛く凡夫も可愛くお前様も真に可愛し、天地に一つも憎きものなく、樹の間に巣くふ鳥も可愛く土に穴する狐も可愛し、心華開発して十方世界薫ばしく、おもしろき唯識の妙理味ひ更に濃く、泥水相分れて清浄に澄めば天上の月宿る瓔珞経のおもむきいよ/\面白し、我をあはれと人が云ふもおもしろく、我を厭よといふもおかし、お前様を可愛しと思ふたればこそ抱て寝んといひしに、厭がられしも愈々おかし、昔時は我死ぬほど人に恋はれてもつらくあたり、今は我死ぬほど人に厭がられても可愛し、一心の変化、同じ天地を恨みもし楽みもするこそおかしけれ、と長々しく語り尽せど我更に其故を悟らず。
もし/\お妙さま、其話しの中の骨となりし、行水に散り浮く花を青貝摺せし黒塗の小箱の中の書置は何事なりしか、其を聞かでは話し分らず。ハテ野暮らしい、其を聞ようでは貴君もまだ人情しらず、其書置読で後惨くなりしといへば云はずと知れし事、世を捨よといふ教訓、浮世を捨ねばならぬ訳を書きしるせしに極つた事。怪しからぬ事、浮世を捨ねばならぬ訳なし。イヤ/\妾等一類の者是非とも浮世を捨ねばならず、浮世を捨ねば安心の道おぼつかなし、さればこそ初は神をも仏をも恨みしなれ。扨も分らぬ話し。イヱ/\能く分つた話し、深山の中にのたれ死せねばならぬ妾等の身の上、浮世の人は眼くらく、種々のあはれは悟りながら、情なき妾等の身の上には月日も全く暗く花鳥も全くおもしろからぬを知らず、されば彼若殿に我身を早く任せざりしも、若殿の子孫をして我如くあさましからしめざらんとの真実の心、其時の苦しさ推量したまへ、と沈みし調子に答へしが急に語気を変て、ホヽホヽおもしろからぬ長話し、最早やめに致しませう、言もうるさく語るも尽じ、恋と恨みは隣り同志、これまでこれまで、これまでなりや繰言も、と云さして又榾を添ゆる容顔の美麗さ、水晶屈原の醒たる色ならで瑪瑙淵明の酔るがごときありさまなり。
頓て又かすかに我を見て、あら本意なき夜の短うて、可惜明放れなば仮初ながらの縁も是まで、君は片科川に浮く花、香は急流に伴つて十里を飛ぶ●やかに、我は其川の岸に立つ柳、影は水底に沈むで一歩も動ぎ難し、逢ての喜び別離のつらさ、戯けし恋の後朝ばかりにはあらず、といふ時しもあれ朝日紅々とさし登りて家も人も雲霧と消え、枯れ残りたる去歳の萱薄の中に、雪沓の紐続ぎかけしまゝ我たゞ一人にして、足下に白髑髏一つ。
見て知らざるの事。聞きて知るべし。聞いて知らざるの事、思ひて得べし。思ひて得ざるの事、感じて得べし。我彼を憐めば彼我を愛す、相憐み相愛すれば、彼の中に我あり、我の中に彼あり。彼我間隔無ければ、情意悟るべく境界会すべし。幽谷の髑髏、孤客の今の心を牽きて、深山の孤客、髑髏の前の生を観る。値遇の縁ありて擱抛の意無く、一夜相守る一樹の蔭、一河の流の水向に、梓の神の弓ならで心の絃の響に憑りし其の亡霊の、逝つてたゞ塊然として残りたる髑髏を埋め納め終り、合掌して南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、お蔭さまで昨夜は面白うござりましたと礼をのべ、段々川辺を小川村に出で温泉宿に入りて、此山奥に入りしまゝ出て来ざりし人なかりしやと問へば、亭主けゞん顔して暫く考へ、不思議の事を問はるゝものかな、オヽ去年の事なりしが乞食の女あさましく狂ひ/\て山深くの方へ入りし事ありしが日光の方へは行かざりしよし、何所へ行しかと今に其噂あり、それを尋ねらるゝか、と云ふに、それ/\、其女の様子知るだけ詳しく語れと逼れば、老父苦い顔して我をヂロ/\見ながら、年は大凡二十七八、何処の者とも分らず、色目も見えぬほど汚れ垢付たる襤褸を纏ゐ、破れ笠を負ひ掛け足には履物もなく竹の杖によわ/\とすがり、談すさへ忌はしきありさま、総身の色薄黒赤く処々に紫色がゝりて怪しく光りあり、手足の指生姜の根のやうに屈みて筋もなきまで膨れ、殊更左の足の指は僅に三本だけ残り其一本の太さ常の人の二本ぶりありて其続きむつくりと甲までふくだみ、右の足は拇指の失し痕かすかに見え、右の手の小指骨もなき如く柔らかそうに縮みながら水を持て気味あしく大きなる蚕のやうなり、左の手は指あらかた落て拳頭づんぐりと丸く、顔は愈々恐ろしく銅の獅子半ば熔ろけたるに似て、眉の毛尽く脱け額一体に凸く張り出して処々凹みたる穴あり、其穴の所の色は極めたる紫の上に溝泥を薄くなすり付たるよりまだ/\汚なく、黄色を帯て鼠色に牡蠣の腐りて流るゝ如き膿汁ヂク/\と溢れ、其膿汁に掩はれぬ所は赤子の舌の如き紅き肉酷らしく露はれ、鼻柱欠け潰て其所にも膿汁をしたゝか湛え、上唇とろけ去りて疎なる歯の黄ばみたると痩せ白みたる歯齦と互に照り合ひてすさまじく暴露れ、口の右の方段々と爛れ流れたるより頬の半まで引さけて奥歯人を睨まゆる様に見え透き、髪の毛都て亡ければ朱塗の賓頭廬幾年か擦り摩られて減りたる如く妙に光りを放ち、今にも潰え破れんとする熟柿の如く艶やかなるそれさへ見るにいぶせきに、右の眼腐り捨りて是にも膿汁尚乾かず、左の眼の下瞼まくれて血の筋あり/\と紅く見ゆる程裏がへり、白眼黄色く灰色に曇り、黒眼は薄鳶色にどんよりとして眼球なかば飛出で、人をも神をも仏をも逆目に睨む瞳子急には動かさず、時々ホッとつく息に満腔の毒を吐くかと覚えて犬も鳥も逃避ける、まして人間は一目見るより胸あしくなり、其あしき臭を飯食ふ折に思ひ出しては味噌汁を甘くは吸ひ得ず、膿汁を思ひ出しては珍重せし塩辛を捨ける、されば誰も彼も握り飯与ふるだけの慈悲もせず其女の為すまゝに任せしに、彼呂律たしかならぬ歌のようなる者をあはれに唸るを聞ば、世に捨られて世を捨てゝ、叱々と、覚束なく細々と繰り返しては息だはしく、ハッタと空を睨みて竹杖ふりあげ、道傍の石とも云はず樹とも云はず打たゝきては狂ひまわり、狂ひ躍ては打たゝき、瞋恚の炎に心を焼き、狂ひ/\て行衛しれずなりき、といひぬ。
縁外縁の後に書す
上は荘子列子の髑髏を仮りて言をなせしより、下は俗書の韓湘子嘆●髏詞、一休骸骨草紙の類に至るまで、思を構へ辞を属するものの、枯骨を累するもまた甚多しといふべし。是皆強ひて我の言はんと欲するところのものを彼の知ること無きの物に托して、以て意を敍べ人を動かさんことを冀ふのみ。縁外縁一篇亦復然り。然らば則予の髑髏に於ける、蓋しまた一累を加ふるものなり。然りと雖も、其上に君無く其下に臣無く、朋無く仇無きは、これ髑髏の楽にあらずや。繊微の域に洞して恍惚の庭に通じ、零落たり溟漠たるは、是豈髑髏の徳にあらずや。乃知る吾が言の喋々たり●々たること数千言なるも、其実一毫一糸もまた終に我が髑髏公を累するに足るあらざることを。それ造物の不仁なるや、人を労するに形を以てし、人を苦むるに生を以てす。こゝを以て人の造物に対するや、賢も不肖も不平怨嗟の声を発せざる無し。身に疾あるものの如きに至って特に然りとなす。唯髑髏に至っては即然らず。既に超然として造物の樊籠を脱して其の労苦するところとならざるのみならず、却てまた莞爾として、造物の不智にして自ら労し自ら苦み、営々汲々として人をして怨嗟せしむるを笑ふに似たり。噫それ既に造物を笑ふ、荘の馬●を以て撃てる、列の蓬を●げて指させる、予の加ふるに綺語を以てせる、いづれか敢て我が髑髏公を累するに足るものありとせんや。
(明治二十三年一月)
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