新訂尋常小学唱歌 第一学年用 文部省
緒言
一、本書ハ音楽教育ノ進歩ト時代ノ要求トニ鑑ミ、従来本省著作ニ係ル「尋常小学唱歌」ニ改訂ヲ加ヘタルモノナリ。
二、本書ハ毎巻二十七章トシ、取扱者ニ選択ノ余地を与ヘタリ。
三、本書ノ歌詞ハ、旧歌詞中ノ適切ナルモノ、新作ニ係ルモノ、及び〔尋常小学〕国語読本・尋常小学読本中ノ韻文ノ一部ヨリ成ル。
四ル本書ノ歌詞ハ努メテ材料ヲ各方面ニ採リル文体・用語等ハ成ルベク読本ト歩調ヲ一ニセンコトヲ期セリ。
五、本書ノ教材排列ハ強ヒテ程度ノ難易ノミニヨラズ、一面季節ニツキテモ考慮セリ。
六、本書ハ取扱者ノ便宜ノタメ、唱歌曲ノミノ楽譜を掲ゲタルモノト、伴奏附ノ楽譜ヲ掲ゲタルモノト、二種類ヲ作製セリ。教授ニ際シテハ其ノ何レヲ採用スルモ可ナリ。
昭和七年三月 文部省
一、日の丸の旗
一、白地に赤く
日の丸染めて、
ああうつくしや、
日本の旗は。
二、朝日の昇る
勢見せて、
ああ勇ましや、
日本の旗は。
二、鳩
一、ぽつぽつぽ、
鳩ぽつぽ、
豆がほしいか、
そらやるぞ。
みんなで仲善く
食べに来い。
二、ぽつぽつぽ、
鳩ぽつぽ.
豆はうまいか、
食べたなら、
一度にそろつて
飛んで行け。
三、兵隊さん
一、鉄砲かついだ
兵隊さん、
足並そろへて
歩いてる。
とつとことつとこ
歩いてる。
兵隊さんは
きれいだな。
兵隊さんは
大すきだ。
二、お馬に乗つた
兵隊さん、
砂を蹴立てて
かけて来る。
ぱつぱかぱつぱか
かけて来る。
兵隊さんは
勇ましい。
兵隊さんは
大すきだ
四、おきやがりこぼし
一、投り出されてころころ転び、
体ゆすつてむつくと起きて、
あちらを向いて默つてすわる。
おきやがりこぼしはおもしろい。
二、幾度投げても何時でも起きる。
体ゆすつてむつくと起きて、
こちらを向いて人をばにらむ。
おきやがりこぼしはをかしいな。
五、電車ごつこ
一、運転手は君だ、
車掌は僕だ、
あとの四人が電車のお客。
お乗りはお早く。
動きます、ちんちん。
二、運転手は上手、
電車は早い。
つぎは上野の公園前だ。
お降りはお早く。
動きます、ちんちん。
六、人形
一、わたしの人形はよい人形。
目はぱつちりといろじろで、
小さい口もと愛らしい。
わたしの人形はよい人形。
二、わたしの人形はよい人形。
うたをうたへばねんねして、
ひとりでおいても泣きません。
あたしの人形はよい人形。
七、ひよこ
一、ひよひよひよこ、
ちひさなひよこ、
兄弟なかよく一しよに歩け。
あしの強くならぬうちに、
とほくへ行くな、
ひとりで行くな。
二、ひよひよひよこ、
かはいいひよこ、
いつでも親にだかれて眠れ。
はねの長くならぬうちに、
離れて寝るな、
ひとりで寝るな。
八、砂遊び
一、積んでも積んでもくづれるお山、
砂のお山はむづかしい。
お山が出来たら、トンネル掘つて、
汽車を通さう、ぴいぽつぽ。
二、掘つても掘つてもうづまるお池、
砂のお池はむづかしい。
お池が出来たら、うかさう、お船。
船はささ舟、木の葉舟。
九、かたつむり
一、でんでん虫虫
かたつむり、
お前のあたまは
どこにある。
角だせ、槍だせ、
あたま出せ。
二、でんでん虫虫
かたつむり、
お前のめだまは
どこにある。
角だせ、槍だせ、
めだま出せ。
一〇、牛若丸
一、京の五条の橋の上、
大のをとこの弁慶は
長い長刀ふりあげて、
牛若めがけて切りかかる。
二、牛若丸は飛びのいて、
持つた扇を投げつけて、
来い来い来いと欄干の
上へあがつて手を叩く。
三、前やうしろや右左
ここと思へば又あちら、
燕のやうな早業に、
鬼の弁慶あやまつた。
一一、朝顔
一、毎朝、毎朝
咲くあさがほは、
をととひきのふと
だんだんふえて、
今朝はしろ四つ
むらさき五つ。
二、大きなつぼみは
あす咲くはなか。
ちひさなつぼみは
あさつて咲くか。
早く咲け咲け、
絞や赤も。
一二、夕立
一、降る降る夕立、
鳴る鳴る雷。
小川にめだかを
取つてゐた子供は、
笊をかぶつて
急いで帰る。
二、照る照るお日様、
飛ぶ飛ぶ白雲。
学校にはれまを
待つてゐた子供は、
本をかかへて
静かに帰る。
一三、桃太郎
一、桃太郎さん、桃太郎さん、
お腰につけた黍団子、
一つわたしに下さいな。
二、やりませう、やりませう、
これから鬼の征伐に
ついて行くならやりませう。
三、行きませう、行きませう、
あなたについて何処までも
家来になつて行きませう。
四、そりや進め、そりや進め、
一度に攻めて攻めやぶり、
つぶしてしまへ、鬼が島。
五、おもしろい、おもしろい、
のこらず鬼を攻めふせて、
分捕物をえんやらや。
六、万万歳万万歳、
お伴の犬や猿雉子は、
勇んで車をえんやらや。
一四、僕の弟
一、僕のおとうと五郎ちやん、
汽車のおもちやがだいすきで、
おうちの中でぴいぽつぽ、
朝から晩までぴいぽつぽ。
二、僕のおとうと五郎ちやん、
御本をよむのがお上手で、
どの本見ても鳩ぽつぽ、
書いてもないのに鳩ぽつぽ。
一五、池の鯉
一、出て来い、出て来い、池の鯉。
底の松藻のしげつた中で、
手のなる音を聞いたら来い。
二、出て来い、出て来い、池の鯉。
岸の柳のしだれた陰へ、
投げた焼麩が見えたら来い。
一六、親の恩
一、軒に巣をくふ燕を見たか。
雨の降る日も風吹く日にも、
親は空をばあつちこつち飛んで、
虫をとつて来て子に食べさせる。
二、ひよこ育てる牝●(「鶏」の右側が「隹」)見たか。
ここここここと子供を呼んで、
庭の隅やらはたけの中で、
餌をば探して子に拾はせる。
一七、一番星みつけた
一、一番星みつけた。
あれあの森の
杉の木の上に。
二、二番星みつけた。
あれあのどての
柳の木の上に。
三、三番星みつけた。
あれあの山の
松の木の上に。
一八、烏
かあかあ、
烏がないて行く。
烏、烏、
何処へ行く。
お宮の森へ、
お寺の屋根へ、
かあかあ、
烏がないて行く。
一九、菊の花
一、見事に咲いた
かきねの小菊、
一つ取りたい、
黄色な花を、
兵隊遊の勲章に。
二、見事に咲いた
垣根の小菊、
一つ取りたい、
真白な花を、
飯事遊の御馳走に。
二○、月
一、出た、出た、月が。
円い円いまんまるい
盆のやうな月が。
二、隠れた、雲に、
黒い黒いまつくろい
墨のやうな雲に。
三、また出た、月が。
円い円いまんまるい
盆のやうな月が。
二一、木の葉
一、何処から来たのか、飛んで来た木の葉、
くるくるまはつて、蜘蛛の巣にかかり、
風に吹かれて、ひらひらすれば、
蜘蛛は虫かと寄つて来る。
二、何処から来たのか、飛んで来た木の葉、
ひらひら舞つて来て、池の上におちて、
波にゆられて、ゆらゆらすれば、
鯉は餌かと浮いて来る。
二二、つみ木
一、つみ木つみましよ、
三角、四角、
四角、三角、
つみ木つんだら、
かはいい人形の
おうちが出来た。
二、つみ木つみましよ、
青、赤、緑、
緑、赤、青、
つみ木つんだら、
西洋人形の
おうちが出来た。
二三、兎
一、私は兎と申すもの、
顔や体の小さい割に、
耳の長いのが何より自慢。
皆さんよく見て下さいな。
二、芸はこれとて無いけれど、
前脚短く後脚長く、
飛んで跳ねるのが誰より上手。
皆さん囃して下さいな。
二四、雪達磨
一、達磨、達磨、雪達磨、
御門の前の雪達磨、
大きな炭団の目玉をむいて、
こはい顔して立つてるね。
二、達磨、達磨、雪達磨、
通の角の雪達磨、
長い松葉のおひげをはやし、
ゐばつてあたりを見てゐるね。
二五、紙鳶の歌
一、紙鳶紙鳶揚れ。
風よくうけて、
雲まで揚れ、
天まで揚れ。
二、絵紙鳶に字紙鳶、
どちらも負けず、
雲まで揚れ、
天まで揚れ。
三、あれあれ、下る。
ひけひけ、糸を。
あれあれ、揚る。
放すな、糸を。
二六、犬
一、外へ出る時とんで来て、
追つても追つても附いて来る。
ぽちはほんとにかはいいな。
二、内へ帰ると尾を振つて、
袂に縋つて嬉しがる。
ぽちはほんとにかはいいな。
二七、花咲爺
一、正直爺が灰まけば
野原も山も花ざかり。
殿様大層よろこんで
ぢぢいに褒美を下される。
二、意地悪爺が灰まけば
目鼻も口も灰だらけ。
殿様大層はらを立て
ぢぢいに縄をかけられる。
発行所 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁日五番地
印刷所 共同印刷株式会社
東京市小石川区久竪町百〇八番地
印刷者 大橋光吉
東京市小石川区久竪町百〇八番地
代表者 専務取締役 杉山常次郎
発行者 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
著作権者 文 部 省
昭和七年三月三十日発行 定価金拾参銭
昭和七年三月二十六日印刷 新訂尋常小学唱歌第一学年用
企画・制作・日本音楽教育センター
東京都新宿区大久保二−一八−一四 (復刻版)
新訂尋常小学唱歌 第二学年用 文部省
緒言
一、本書ハ音楽教育ノ進歩ト時代ノ要求トニ鑑ミ、従来本省著作ニ係ル「尋常小学唱歌」ニ改訂ヲ加ヘタルモノナリ。
二、本書ハ毎巻二十七章トシ、取扱者ニ選択ノ余地を与ヘタリ。
三、本書ノ歌詞ハ、旧歌詞中ノ適切ナルモノ、新作ニ係ルモノ、及び〔尋常小学〕国語読本・尋常小学読本中ノ韻文ノ一部ヨリ成ル。
四ル本書ノ歌詞ハ努メテ材料ヲ各方面ニ採リル文体・用語等ハ成ルベク読本ト歩調ヲ一ニセンコトヲ期セリ。
五、本書ノ教材排列ハ強ヒテ程度ノ難易ノミニヨラズ、一面季節ニツキテモ考慮セリ。
六、本書ハ取扱者ノ便宜ノタメ、唱歌曲ノミノ楽譜を掲ゲタルモノト、伴奏附ノ楽譜ヲ掲ゲタルモノト、二種類ヲ作製セリ。教授ニ際シテハ其ノ何レヲ採用スルモ可ナリ。
昭和七年三月 文部省
一、桜
一、霞につづくは花の雲、
野山につもるは花の雪
春の四月はうつくしや、
どちら向いても花ばかり。
二、向ふの山のは山桜、
こちらの岡のは八重桜、
八重も一重もうつくしや、
花はこの花、桜花。
二、ラヂオ
一、朝のラヂオが申します、
「皆さんお早うございます。」
さあ始つた、ラヂオの体操。
みんなでやりませう、
元気にやりませう。
二、晩のラヂオが申します、
「皆さんお待ちどほでした。」
さあ始つた、子どもの時間。
みんなで聞きませう、
楽しく聞きませう。
三、二宮金次郎
一、柴刈り、縄なひ、草鞋をつくり、
親の手を助け、弟を世話し、
兄弟仲よく孝行つくす
手本は二宮金次郎。
二、骨身を惜しまず仕事をはげみ、
夜なべ済まして手習読書、
せはしい中にも撓まず学ぶ
手本は二宮金次郎。
三、家業大事に、費をはぶき、
少しの物をも粗末にせずに、
遂には身を立て、人をもすくふ
手本は二宮金次郎。
四、雲雀
一、ぴいぴいぴいと囀る雲雀
囀りながら何処まであがる、
高い高い雲の上か、
声は聞えて見えない雲雀。
二、ぴいぴいぴいと囀る雲雀、
囀りやんで何処らへ落ちた、
青い青い麦の中か、
姿かくれて見えない雲雀。
五、折紙
一、白い紙で何折らう、
私の好きな鶴折らう。
そよそよ春風吹いたなら、
高く大きく羽ばたいて、
つうつと空まで飛んで行け。
二、赤い紙で何折らう、
私の好きな船折らう。
ゆらゆら大波寄せたなら、
高く真赤な帆を張つて、
すいすい島まで走り出せ。
六、小馬
一、はいしい、はいしい、
あゆめよ、小馬。
山でも、坂でも、
ずんずん歩め。
お前が進めば
わたしも進む。
歩めよ、歩めよ、
足音たかく。
二、ぱかぱか、ぱかぱか、
走れよ、小馬。
けれども急いで
つまづくまいぞ。
お前が転べば
わたしも転ぶ。
走れよ、走れよ、
転ばぬやうに。
七、田植
一、白い菅笠、赤だすき、
揃ひ姿の早少女が
歌ふ田植歌きけば
揃うた、揃たよ、早少女が揃た、
稲の出穂よりなほ揃た。
二、植ゑる手先も足取も
節も揃へて早少女が
歌ふ田植の歌きけば、
今年は豊年、穂に穂がさいて、
路の小草も米がなる。
八、竹の子
一、くらいおうちの戸をあけて、
こつそりおもてを見るやうに、
むつくりこ、むつくりこと
土おしあげて、
竹の子一本頭を出した。
二、広いこの世がうれしいか、
やつぱり日影がこひしいか、
むつくりこ、むつくりこと
土おしあげて、
竹の子ぐんぐん大きくなつた。
九、雨
一、降れ降れ雨よ、都の雨よ。
馬や車の往来絶えぬ
町の埃のしづまる程に、
雨よ降れ降れ、程よく降れ。
二、降れ降れ雨よ、田舎の雨よ。
茄子や胡瓜の花咲き揃ふ
畠の土のうるほふ程に、
雨よ降れ降れ、程よく降れ。
一○、金魚
一、赤い大きな鰭ゆらゆらと
金魚は泳ぐ、静かに泳ぐ、
水とりかへて
きれいになつたガラスの中で、
たのしさうに、うれしさうに。
二、長い見事な尾を振りながら
金魚は浮かぶ、つづいて浮かぶ、
皆元気よく
私のやつた麩をたべようと、
うれしさうに、たのしさうに。
一一、蝉
一、かみなりが遠く鳴る。
吹くともなしに風が吹く。
木といふ木には蝉が鳴く。
二、夕立がひとしきり。
みどりの葉から露がちる。
涼しい声で蝉が鳴く。
一二、蛙と蜘蛛
一、しだれ柳に
飛びつく蛙、
飛んでは落ち、
落ちては飛び、
落ちても、落ちても、
また飛ぶほどに、
とうとう柳に
飛びついた。
二、風吹く小枝に
巣を張る小蜘蛛、
張つてはきれ、
きれては張り、
きれても、きれても、
また張るほどに、
とうとう小枝に
巣を張つた。
一三、こだま
一、おういと呼べばおういと答へ、
誰だといへば誰だと返す。
むかふの森にすむものは
人か、狐か、木の精か。
二、やあいと呼べばやあいと返し、
何だといへば何だとまねる。
むかふの山にすむものは
魔法つかひか、仙人か。
一四、浦島太郎
一、昔昔、浦島は
助けた亀に連れられて、
竜宮城へ来て見れば、
絵にもかけない美しさ。
二、乙姫様の御馳走に、
鯛や比目魚の舞踊、
ただ珍しくおもしろく、
月日のたつも夢の中。
三、遊にあきて気がついて、
お暇乞もそこそこに、
帰る途中の楽しみは、
土産に貰つた玉手箱。
四、帰つて見れば、こは如何に、
元居た家も村も無く、
路に行きあふ人人は、
顔も知らない者ばかり。
五、心細さに蓋とれば、
あけて悔しき玉手箱、
中からぱつと白煙、
たちまち太郎はお爺さん。
一五、ポプラ
一、高い空につつ立つポプラ、
夕日にもえて、枝枝の
金の木の葉がきらきらと、
嬉しさうにふるへてる。
二、暗い夜につつ立つポプラ、
天までとどく黒い影、
黒い梢がひそひそと、
お星さまと話してる。
一六、かけつこ
一、あつまれ、あつまれ、かけつこだ。
目あては向ふの松の木だ。
用意がよければ、一二三、
まけるな、まけるな、
赤勝て、白勝て。
二、今度はかへりのかけつこだ。
今出たとこまで戻るのだ。
用意がよければ、一二三、
まけるな、まけるな、
白勝て、赤勝て。
一七、案山子
一、山田の中の一本足の案山子、
天気のよいのに蓑笠着けて、
朝から晩までただ立ちどほし。
歩けないのか、山田の案山子。
二、山田の中の一本足の案山子、
弓矢で威して力んで居れど、
山では烏がかあかと笑ふ。
耳が無いのか、山田の案山子。
一八、がん
一、雁が来る、雁が来る、飛んで来る。
大きな雁はさきに、小さな雁はあとに。
雁が来る、雁が来る、飛んで来る。
二、空を飛ぶ、、雲を飛ぶ、鳴いて飛ぶ。
さきの雁も鳴いた、あとの雁も鳴いた。
空を飛ぶ、雲を飛ぶ、鳴いて飛ぶ。
三、雁が行く、雁が行く、飛んで行く。
小さな雁はさきに、大きな雁はあとに
雁が行く、雁が行く、飛んで行く。
一九、富士山
一、あたまを雲の上に出し、
四方の山を見おろして、
かみなりさまを下に聞く、
富士は日本一の山。
二、青空高くそびえ立ち、
からだに雪の着物着て、
霞のすそを遠く曳く、
富士は日本一の山。
二〇、影法師
一、ピヤノの音に足並そろへ、
みんなで仲よく遊戯をすれば、
まつくろくろのかげぼふし、
やつぱり揃つてをどつてる。
二、仲よし同志手と手をひいて、
夕日のこみちを帰ろとすれば、
ながいながいかげぼふし、
やつぱり並んでついてくる。
二一、紅葉
一、秋の夕日に照る山紅葉、
濃いも薄いも数ある中に、
松をいろどる楓や蔦は、
山のふもとの裾模様。
二、渓の流に散り浮く紅葉、
波にゆられて離れて寄つて、
赤や黄色の色さまざまに、
水の上にも織る錦。
二二、時計の歌
一、時計は朝から、かつちん、かつちん、
おんなじ響で動いて居れども、
ちつともおんなじ所を指さずに、
晩までかうして、かつちん、かつちん。
二、時計は晩でも、かつちん、かつちん、
我等が寝床で休んで居る間も、
ちつとも休まず、息をもつがずに、
朝までかうして、かつちん、かつちん。
二三、うちの子ねこ
一、うちの子ねこは
かはいい子ねこ、
くびのこすずを
ちりちりならし、
すそにからまり、
たもとにすがる。
二、うちの子ねこは
かはいい子ねこ、
くびのこすずを
ちりちりならし、
まりとじやれては
えんからおちる。
二四、雪
−、雪やこんこ、霰やこんこ。
降つては降つては、ずんずん積る。
山も野原も綿帽子かぶり、
枯木残らず花が咲く。
二、雪やこんこ、霰やこんこ。
降つても降つても、まだ降りやまぬ。
犬は喜び庭駆けまはり、
猫は火燵でまるくなる。
二五、梅に鶯
一、日のよくあたる庭前の
垣根の梅が咲いてから、
毎朝来ては鶯が
かはいい声でほうほけきよう。
二、鳴くのを聞いて、縁側の
籠の中でも鶯が
垣根の方を眺めては、
調子を合はせてほうほけきよう。
二六、母の心
一、朝早くから井戸ばたで、
母はせいだす洗ひ物。
たらひの中にあるは何。
これは太郎の小倉の袴。
太郎昨日は運動会で、
泥によごしたこの袴。
二、夜遅くまで奥の間に、
母はせい出す針仕事。
ひざの上には何がある。
これはお春の晴着の羽織
お春明日は雛様祭。
着せてやりたいこの晴着。
発行所 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁日五番地
印刷所 共同印刷株式会社
東京市小石川区久竪町百〇八番地
印刷者 大橋光吉
東京市小石川区久竪町百〇八番地
代表者 専務取締役 杉山常次郎
発行者 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
著作権者 文 部 省
昭和七年四月六日発行 定価金拾参銭
昭和七年四月二日印刷 新訂尋常小学唱歌第二学年用
企画・制作・日本音楽教育センター (復刻版)
東京都新宿区大久保二−一八−一四 (復刻版)
新訂尋常小学唱歌 第三学年用 文部省
緒言
一、本書ハ音楽教育ノ進歩ト時代ノ要求トニ鑑ミ、従来本省著作ニ係ル「尋常小学唱歌」ニ改訂ヲ加ヘタルモノナリ。
二、本書ハ毎巻二十七章トシ、取扱者ニ選択ノ余地を与ヘタリ。
三、本書ノ歌詞ハ、旧歌詞中ノ適切ナルモノ、新作ニ係ルモノ、及び〔尋常小学〕国語読本・尋常小学読本中ノ韻文ノ一部ヨリ成ル。
四ル本書ノ歌詞ハ努メテ材料ヲ各方面ニ採リル文体・用語等ハ成ルベク読本ト歩調ヲ一ニセンコトヲ期セリ。
五、本書ノ教材排列ハ強ヒテ程度ノ難易ノミニヨラズ、一面季節ニツキテモ考慮セリ。
六、本書ハ取扱者ノ便宜ノタメ、唱歌曲ノミノ楽譜を掲ゲタルモノト、伴奏附ノ楽譜ヲ掲ゲタルモノト、二種類ヲ作製セリ。教授ニ際シテハ其ノ何レヲ採用スルモ可ナリ。
昭和七年三月 文部省
一、春が来た
一、春が来た、春が来た、
どこに来た。
山に来た、里に来た、
野にも来た。
二、花が咲く、花が咲く、
どこに咲く。
山に咲く、里に咲く、
野にも咲く。
三、鳥が鳴く、鳥が鳴く、
どこで鳴く。
山で鳴く、里で鳴く、
野でも鳴く。
二、かがやく光
一、御弓の弭に
金色の鵄、
かがやく光
きらきら、ぴかぴか。
眼くらんで
逃行くわるもの。
二、昔の光
今もそのまま、
むねの勲章
きらきら、ぴかぴか。
誉かがやく
日本軍人。
三、摘草
一、野辺は春風、
そよそよ吹いて、
土筆ついつい
よめなもまじる。
一つ見つけた
すみれを摘めば、
籠にむらさき、
春の色。
二、空は水色、
うらうら晴れて、
たどる田圃に
根芹も青む。
袂ぬらして
三つ四つ摘めば、
春の香がする、
指の先。
四、木の芽
一、昨夜の雨で生まれたか、
今朝の光で育つたか、
赤や緑やさまざまの
色美しい木の新芽、
二、日に日に延びる木の新芽、
春の力を身に受けて、
赤も緑もいつしかに
皆美しい葉となるよ。
五、茶摘
一、夏も近づく八十八夜、
野にも山にも若葉が茂る。
「あれに見えるは茶摘ぢやないか。
あかねだすきに菅の笠。」
二、日和つづきの今日此の頃を、
心のどかに摘みつつ歌ふ。
「摘めよ、摘め摘め、摘まねばならぬ、
摘まにや日本の茶にならぬ。」
六、青葉
一、雨がやむ、
雲が散る。
雲のあとにうねうねと、
青葉若葉の山山が
遠く近く残る。
二、風が吹く、
木が揺れる。
木木の影はゆらゆらと、
水の面に地の上に、
青く黒く映る。
七、蛍
一、蛍のやどは川ばた楊、
楊おぼろに夕やみ寄せて、
川の目高が夢見る頃は、
ほ、ほ、ほたるが灯をともす。
二、川風そよぐ、楊もそよぐ、
そよぐ楊に蛍がゆれて、
山の三日月隠れる頃は、
ほ、ほ、ほたるが飛んで出る。
三、川原のおもは五月の闇夜、
かなたこなたに友よび集ひ、
むれて蛍の大まり小まり、
ほ、ほ、ほたるが飛んで行く。
八、汽車
一、今は山中、今は浜
今は鉄橋渡るぞと、
思ふ間も無く、トンネルの
闇を通つて広野原。
二、遠くに見える村の屋根、
近くに見える町の軒。
森や林や田や畠、
後へ後へと飛んで行く。
三、廻り燈籠の画のやうに
変る景色のおもしろさ。
見とれてそれと知らぬ間に
早くも過ぎる幾十里。
九、燕
一、町のはづれの電線に
友まちがほのつばくらめ、
潮路はるばる越えて来た
旅の仲間は何処にゐる。
山は夕日が赤く照る。
二、右に左に身をかはし、
餌をさがしゆくつばくらめ、
家にのこした子つばめは、
母のかへりを待つてゐよう。
山で夕の鐘が鳴る。
一〇、虹
一、虹が出た、
虹が出た。
空を衣裳に見立てたら、
七つの色に染分けた
だんだら模様、はで模様。
二、虹が出た、
虹が出た。
空を一面水と見て、
珊瑚や瑠璃をちりばめた
天女の橋よ、玉の橋。
一一、夏休
一、明日から嬉しい夏やすみ、
まぶしく晴れた大空に
真白い雲が浮いてゐる。
二、明日から嬉しい夏やすみ、
山辺に野辺に白百合が
夢見るやうに咲いてゐる。
三、明日から嬉しい夏やすみ、
牧場の駒が朝風に
嘶きながら呼んでゐる。
四、明日から嬉しい夏やすみ、
大波小波打寄せて、
わたしを海が待つてゐる。
一二、波
一、青いうねり、
波のうねり、
生きてるやうに
寄つて来て、
平らな浜に
真白な布をしく。
かもめがとんで、
海はのどか。
二、をどる、をどる、
波がをどる、
生きてるやうに
寄せて来て、
きりたつ岩に
散る波は滝のやう。
かもめが鳴いて、
海は叫ぶ。
一三、噴水
一、金や銀に輝いて、
空をめがけてふき上げる
噴水の水。
ぱつと大きくひろがれば、
池の鯡鯉がちよつとはねた。
二、金や銀に輝いて、
しぶきとなつて降つて来る
噴水の水。
さつとくづれて吹散れば、
池の睡蓮ちよつとゆれた。
−四、虫のこゑ
一、あれ、松虫が鳴いてゐる。
ちんちろちんちろ、ちんちろりん。
あれ、鈴虫も鳴き出した。
りんりんりんりん、りいんりん。
秋の夜長を鳴き通す、
ああ、おもしろい虫のこゑ。
二、きりきりきりきりこほろぎや、
がちやがちやがちやがちや、くつわ虫、
あとから馬おひおひついて、
ちよんちよんちよんちよん、すいつちよん。
秋の夜長を鳴き通す、
ああ、おもしろい虫のこゑ。
一五、村祭
一、村の鎮守の神様の
今日はめでたい御祭日、
どんどんひやらら、どんひやらら、
朝から聞える笛太鼓。
二、年も豊年満作で、
村は総出の大祭。
どんどんひやらら、どんひやらら、
夜まで賑ふ宮の森。
三、治まる御代に神様の
めぐみ仰ぐや村祭。
どんどんひやらら、どんひやらら、
聞いても心が勇み立つ。
一六、鵯越
一、鹿も四つ足、馬も四つ足、
鹿の越えゆくこの坂路、
馬の越せない道理はないと、
大将義経真先に。
二、つづく勇士も一騎当千。
鵯越に着いて見れば、
平家の陣家は真下に見えて、
戦今や真最中。
三、油断大敵、裏の山より
三千余騎のさか落しに、
平家の一門驚きあわて、
屋島をさして落ちてゆく。
一七、雁がわたる
一、雁がわたる、
鳴いてわたる。
鳴くはなげきか喜か。
月のさやかな秋の夜に、
棹になり、かぎになり、
わたる雁、おもしろや。
二、雁がおりる、
連れておりる。
連は親子か友だちか。
霜の真白な秋の田に、
睦ましく連れだちて
おりる雁おもしろや。
一八、赤とんぼ
一、秋の水、すみきつた
流の上を赤とんぼ、
何百何千、
揃つて上へ、ただ上へ、
上つて行くよ、上つてゆくよ。
二、秋の空、
金色の
夕日に浮かぶ赤とんぼ、
何百何千、
並んで西へ、ただ西へ、
流れてゆくよ、流れて行くよ。
一九、取入れ
一、春のたがやし・鋤ならし、
夏の植附・田草取、
骨身惜しまぬ働に
穂に穂がさいた稲の出来。
豊年ぢや、満作ぢや。
二、日和つづきの昨日今日、
揃うた親子兄弟。
刈つて束ねる、干て扱く。
見る間に積る籾の山、
豊年ぢや、満作ぢや。
三、畦の小路の一休、
話の種は俵数。
やがてめでたく積上げる
取入れ時の楽しさよ。
豊年ぢや、満作ぢや。
二〇、麦まき
一、ならやくぬぎの葉は黄にそまり、
広いたんぼに北風あれる。
風に吹かれて、なま土ふんで、
今日も朝からせい出すおや子。
二、おやは返して、子はくれうつて、
広いたんぼの麦まきすます。
「やつとすんだ。」と見上げる空に、
あすも天気か、夕日が赤い。
二一、日本の国
一、日本の国は松の国。
見上げる峯の一つ松、
はまべはつづく松原の
枝ぶりすべておもしろや。
わけて名におふ松島の
大島小島、その中を
通ふ白帆の美しや。
二、日本の国は花の国。
梅・桃・桜・藤・菖蒲、
白つゆむすぶ秋の野の
ちぐさの花もおもしろや。
わけてさくらの吉野山、
一目千本咲きみちて、
かすみか雲か美しや。
二二、飛行機
一、とんぼのやうに軽くうかんで、
高い青空ま一文字に
かける飛行機、
見よ、あのすがた。
二、鳶のやうにつばさをはつて、
広い大空我が物顔に
うなる飛行機、
聞け、あのひびき。
三、町・村見下し、山・谷越えて、
雲をぬひつつまたたく中に
かすむ飛行機、
あれ、あの早さ。
二三、豊臣秀吉
一、百年このかた乱れし天下も、
千なり瓢箪一たび出づれば、
四海の波風忽ち治り、
六十余州は草木も靡く。
ああ太閤、豊太閤。
二、余力を用ひて朝鮮攻むれば、
八道見る間に我が手に破られ
国光かがやき国威あがりて、
四百余州も戦き震ふ。
ああ太閤、豊太閤。
二四、冬の夜
一、燈火ちかく衣縫ふ母は
春の遊の楽しさ語る。
居並ぶ子どもは指を折りつつ
日数かぞへて喜び勇む。
囲炉裏火はとろとろ、
外は吹雪。
二、囲炉裏のはたに縄なふ父は
過ぎしいくさの手柄を語る。
居並ぶ子どもはねむさ忘れて、
耳を傾け、こぶしを握る。
囲炉裏火はとろとろ、
外は吹雪。
二五、川中島
一、千曲・犀川二川の間、
甲越二軍の戦場ここか。
海津の城跡僅かに残り、
見渡す限り桑畑しげる。
三、川の瀬音は人馬の声か。
乱るるすすきは旗指物か。
昔の英雄今はた在らず、
記念は野べに苔むす墓石。
二六、私のうち
一、もえる木のめに春風吹けば、
うちのまはりの梅・桃・桜、
かはるがはるに花咲きみだれ、
人も来て見る、小鳥もうたふ。
二、うちの前には小川が流れ、
舟もうかべば、あひるもうかぶ。
つりも出来るし、およぎも出来て、
あつい夏でもすずしくくらす。
三、つゆや時雨が色よくそめた
うらの小山に秋風吹けば、
木木の雫もきのことなつて、
ばんの御飯のおかずにまじる。
四、松をのこして木の葉がちれば、
庭は一日日がよくあたる。
本のおさらひすました後は、
枝につるしたぶらんこ遊。
二七、かぞへ歌
一つとや、人人忠義を第一に、
あふげや、高き君の恩、国の恩。
二つとや、二人のおや御を大切に、
思へや、ふかき父の愛、母の愛。
三つとや、みきは一つの枝と枝、
仲よく暮せよ、兄弟・姉妹。
四つとや、善き事たがひにすすめあひ、
悪しきをいさめよ、友と友、人と人
五つとや、いつはりいはぬが子供らの
学びのはじめぞ、慎めよ、いましめよ。
六つとや、昔を考へ、今を知り、
学びの光を身にそへよ、身につけよ。
七つとや、難儀をする人見るときは、
力のかぎりいたはれよ、あはれめよ。
八つとや、病は口より入るといふ、
飲物・食物気を附けよ、心せよ。
九つとや、心はかならず高くもて、
たとひ身分はひくくとも、軽くとも。
十とや、 遠き祖先のをしへをも
守りてつくせ、家のため、国のため。
発行所 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
印刷所 共同印刷株式会社
東京市小石川区久竪町百〇八番地
印刷者 大橋光吉
東京市小石川区久竪町百〇八番地
代表者 専務取締役 杉山常次郎
発行者 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
著作権者 文部省
昭和七年四月六日発行 定価金拾参銭
昭和七年四月二日印刷 新訂尋常小学唱歌第三学年用
企画・制作・日本音楽教育センター
東京都新宿区大久保二−一八−一四 (復刻版)
新訂尋常小学唱歌 第四学年用 文部省
緒言
一、本書ハ音楽教育ノ進歩ト時代ノ要求トニ鑑ミ、従来本省著作ニ係ル「尋常小学唱歌」ニ改訂ヲ加ヘタルモノナリ。
二、本書ハ毎巻二十七章トシ、取扱者ニ選択ノ余地を与ヘタリ。
三、本書ノ歌詞ハ、旧歌詞中ノ適切ナルモノ、新作ニ係ルモノ、及び〔尋常小学〕国語読本・尋常小学読本中ノ韻文ノ一部ヨリ成ル。
四ル本書ノ歌詞ハ努メテ材料ヲ各方面ニ採リル文体・用語等ハ成ルベク読本ト歩調ヲ一ニセンコトヲ期セリ。
五、本書ノ教材排列ハ強ヒテ程度ノ難易ノミニヨラズ、一面季節ニツキテモ考慮セリ。
六、本書ハ取扱者ノ便宜ノタメ、唱歌曲ノミノ楽譜を掲ゲタルモノト、伴奏附ノ楽譜ヲ掲ゲタルモノト、二種類ヲ作製セリ。教授ニ際シテハ其ノ何レヲ採用スルモ可ナリ。
昭和七年三月 文部省
一、春の小川
一、春の小川はさらさら流る。
岸のすみれやれんげの花に、
にほひめでたく、色うつくしく
咲けよ咲けよと、ささやく如く。
二、春の小川はさらさら流る。
蝦やめだかや小鮒の群に、
今日も一日ひなたに出でて
遊べ遊べと、ささやく如く。
三、春の小川はさらさら流る。
歌の上手よ、いとしき子ども、
声をそろへて小川の歌を
うたへうたへと、ささやく如く。
二、かげろふ
一、ゆら ゆら ゆら
きら きら きら
春の日の光を受けて、
石のほとりに、橋の上に
燃ゆるかげろふ。
道行く人の袂にもつれ、
飛びかふ蝶の羽風にゆれて。
二、ゆら ゆら ゆら
きら きら きら
春の日ののどけさ見せて、
草の葉末に、花の上に
燃ゆるかげろふ。
くづれて立ちて、乱れてゆれて、
あるかと見れば、はや影もなく。
三、ゐなかの四季
一、道をはさんで畑一面に、
麦は穗が出る、菜は花盛。
眠る蝶蝶、とび立つひばり、
吹くや春風、たもとも軽く、
あちらこちらに桑つむ少女、
日まし日ましにはるごも太る。
二、ならぶ菅笠、涼しいこゑで
歌ひながらに植行く早苗、
ながい夏の日いつしか暮れて、
植ゑる手先に月かげ動く。
かへる道道あと見かへれば、
葉末葉末に夜つゆが光る。
三、二百十日も事なくすんで、
村の祭の太鼓がひびく。
稲は実がいる、日和はつづく、
刈つて、ひろげて、日に乾かして、
もみに仕上げて、俵につめて、
家内そろつて、笑顔に笑顔。
四、そだを折りたくゐろりの側で、
夜はよもやま話がはずむ。
母がてぎはの大根膾、
これもゐなかの年こしざかな。
棚の餅ひく鼠の音も
更けて、軒端に雪降積る。
四、靖国神社
一、花は桜木、人は武士。
その桜木に囲まるる
世を靖国の御社よ。
御国の為に、いさぎよく
花と散りにし人人の
魂は、ここにぞ鎮まれる。
二、命は軽く、義は重し。
その義を践みて大君に
命ささげし大丈夫よ。
銅の鳥居の奥ふかく
神垣高くまつられて、
誉は世世に残るなり。
五、蚕
一、風暖き五月のはじめ、
里の少女が取るや羽箒。
掃きおろしたる春のかひこ、
さながら黒き塵の如く。
二、四度の眠いつしか過ぎて、
箸の太さは小指となりぬ。
きそひきそひて桑はむ音、
木の葉に雨のそそぐ如く。
三、髪も結ばず、夜さへ寝ねず、
心つくして一月あまり
努めしかひの見えたる今日、
うれしや、繭は山の如く。
六、五月
一、風わたる
五月の山を見上ぐれば、
山をおほへる椎の木の、
若葉・青葉の陽に映えて、
さわさわゆらぐいさぎよさ。
さながら生きてあるやうに。
二、風かをる
五月の浜に来て見れば、
浜に咲いたるはまなすの、
砂にはひつつ陽に照りて、
ゆらゆらゆらぐ美しさ。
さながらものをいふやうに。
七、藤の花
一、野山もかすむ春雨の
晴れて、なごりの
「水嵩に車はげしや藤の花。」
しぶきに濡れて、日に映ゆる。
二、雲雀の声は夕空に
消えて、此方の
「薮畑や穂麦にとどく藤の花。」
しづかに揺れて、日は暮るる。
八、動物園
一、動物園ののどかな午後は、
孔雀がすつかり得意になつて、
うち中一ぱいひろげて見せる、
金ぴか模様の晴着の衣裳。
二、ライオンも、虎も、眠つてゐるが、
駱駝は、のんきなとぼけた顔で、
煎餅たべては、けろりとしてる、
故郷の沙漠も忘れたやうに。
三、木のぼり上手、ぶらんこ上手、
お猿はいつでも愛敬者よ。
鵞鳥のかなでるオーケストラに、
よちよちダンスを、あひるが踊る。
九、お手玉
一、一・二・三・四、五つのあつかひ、
手先のはたらき、
一つに受けて、
さらりと投げれば、
みだれて落ちては
花もやう、花もやう。
二、白・黒・赤・青、紫加へて、
五つのお手玉、
あやに飛んだり、
ちどりにぬけたり、
飛びかひ行きかふ
蝶のまひ、蝶のまひ。
三、上・下・縦・横、両手の早わざ、
みごとに受止め、
五つ五色
残らず揃へて、
まづまづ一貫
かしました、かしました。
一〇、曾我兄弟
一、富士の裾野の夜はふけて、
うたげのとよみ静まりぬ。
屋形屋形の灯は消えて、
あやめも分かぬさつきやみ。
二、「来れ、時致、今宵こそ、
十八年のうらみをば」
「いでや、兄上、今宵こそ、
ただ一撃に敵をば。」
三、共に松明ふりかざし、
目ざす屋形にうち入れば、
かたき工藤は酔臥して、
前後も知らぬ高鼾。
四、「起きよ、祐経、父の仇、
十郎・五郎、見参」と、
枕を蹴つておどろかし、
起きんとするを、はたと斬る。
五、仇は報いぬ、今はとて、
「出合へ、出合へ。」と呼ばはれば、
折しも小雨降りいでて、
空にも名のるほととぎす。
一一、夢
一、金の自動車に飛乗ると、
走るよ走るよ、何処までも、
大きな道をまつしくら、
とうとう崖からさかさまに、
落ちたと思へば夢だつた。
二、銀の飛行機に飛乗ると、
上るよ上るよ、何処までも、
重なる雲を突抜けて、
とうとう火星の世界へと、
ついたと思へば、夢だつた。
一二、雲
一、朝日に燃ゆればもみの絹、
夕日に映ゆれば錦にて、
晴れたる空の白無垢は、
雨降る前に墨染と
変るぞ不思議、雲のいろ。
二、時には連なる峯となり、
時にはかさなる波と見え、
あるひは獣、鳥のはね、
魚のうろこと種種に
変るぞ不思議、雲のさま。
三、遥けき山の端、遠き沖、
しづかに休むと見る中に、
大空わたり、海を越え、
あらしを起し、雨をよび、
変るぞ不思議、雲のわざ。
一三、漁船
一、えんやら、えんやら、艪拍子そろへて
朝日の港を漕出すれふ船。
見よ、見よ、あの雲、今日こそ大れふ。
それ、漕げ、それ、漕げ、おも舵とり舵。
二、ゆらりや、ゆらりと、浪間に揺られて、
磯には網船・沖には釣船。
見よ、見よ、あれ、見よ。かかるは、捕れるは。
網にも、糸にも、魚のかずかず。
三、えんやら、えんやら、獲物に勇んで
入日の沖をば急いで漕ぐ船。
見よ、見よ、浜辺に妻子が迎へる。
それ、漕げ、漕げよや、艪拍子早めて。
一四、夏の月
一、涼しい風に、ゆらゆらと
波うつ広い稲田の上に、
いつの間に浮出たか、
まんまるい夏の月。
きれいな顔して、にこにこと、
空から私をながめてる。
二、涼しい風に、ゆらゆらと
ゆられる蚊帳の中から見れば、
いつに間に出て来たか、
また此処へ夏の月。
嬉しい顔して、にこにこと、
窓から私をのぞいてる。
一五、牧場の朝
一、ただ一面に立ちこめた
牧場の朝の霧の海。
ポプラ並木のうつすりと
黒い底から、勇ましく
鐘が鳴る鳴る、かんかんと。
二、もう起出した小舎小舎の
あたりに高い人の声。
霧に包まれ、あちこちに、
動く羊の幾群れの
鈴が鳴る鳴る、りんりんと。
三、今さし昇る日の影に
夢からさめた森や山。
あかい光に染められた
遠い野末に、牧童の
笛が鳴る鳴る、ぴいぴいと。
一六、水車
一、桃の花散る小川の水に、
一つかかつた水車。
のどかに照らす春の日浴びて、
こつとん、こつとん、車は廻る。
こつとん、こつとん、車は廻る。
二、月の流れる小川の水に、
一つかかつた水車。
汀の虫の鳴く音につれて、
こつとん、こつとん、車は廻る。
こつとん、こつとん、車は廻る。
一七、広瀬中佐
一、轟く砲音、飛来る弾丸。
荒波洗ふデツキの上に、
闇を貫く中佐の叫。
「杉野は何処、杉野は居ずや。」
二、船内隈なく尋ぬる三度。
呼べど答へず、さがせど見えず。
船は次第に波間に沈み、
敵弾いよいよあたりに繁し。
三、今はとボートにうつれる中佐、
飛来る弾丸に忽ち失せて、
旅順港外、恨ぞ深き、
軍神広瀬と其の名残れど。
一八、たけがり
秋の日の空すみわたり、
風暖に、さてもよき日や。
山遊するによき日や。
友よ、来よ、手かごを持ちて。
いざ、裏山にきのこたづぬん、
山深く行きてたづねん。
たどり行く細路づたひ、
はや、かうばしくきのこ匂へり。
山風にきのこかをれり。
「うれし、この松の根もとに、
まづ見つけつ。」と高く呼ぶ声、
やまびこにひびく呼声。
いでや、あの岩の木かげに、
皆うちよりてえもの数へん、
茸狩のいさをくらべん。
一九、山雀
一、くるくる廻る、目が廻る、
とんばう返り、宙返り、
川瀬にかかる水車。
ぴいぴい山雀、ぴい山雀。
二、よいこら引いた、綱引いた、
もいちど引いた、綱引いた。
釣瓶の水をこぼすまい。
ぴいぴい山雀ぴい山雀。
三、つけつけ鐘を、一・二・三。
お寺の鐘が鳴る時は、
お前も山がこひしかろ。
ぴいぴい山雀ぴい山雀。
二〇、霜
一、笹の葉の白きは霜の
光にて、まだ夜は深し、
野辺の道、野辺の道。
二、有明の消えにし影を、
松の葉にしばし残せる
霜の色、霜の色。
二一、八幡太郎
一、駒のひづめも匂ふまで、
「道もせに散る山桜かな。」
しばしながめて、「吹く風を
勿来の関と思へども、」
かひなき名やとほほ笑みて、
ゆるく打たせしやさしさよ。
二、落ちゆく敵をよびとめて、
「衣のたては綻びにけり。」
敵は見かへり、「年を経し
糸のみだれの苦しさに、」
つけたることのめでたきに、
めでてゆるししやさしさよ。
二二、村の鍛冶屋
一、しばしも止まずに槌うつ響。
飛散る火の花、はしる湯玉。
ふいごの風さへ息をもつがず、
仕事に精出す村の鍛冶屋。
二、あるじは名高きいつこく老爺、
早起・早寝の、病知らず。
鉄より堅しとほこれる腕に
勝りて堅きは、彼がこころ。
三、刀はうたねど、大鎌・小鎌、
馬鍬に作鍬、鋤よ、鉈よ。
平和のうち物休まずうちて、
日毎に戦ふ、懶惰の敵と。
四、かせぐにおひつく貧乏なくて、
名物鍛冶屋は日日に繁昌。
あたりに類なき仕事のほまれ、
槌うつ響にまして高し。
二三、餅つき
一、今日はうちでは餅つきぢや。
ぺつたんこ、ぺつたんこ。
お父さんがついて、
お母さんが手がへし、
ねえさん手つだひ、
うち中ぐるぐる、
てんてこまひぢや。
師走は短い、
それつけ、それつけ。
二、今日は隣の餅つきぢや。
ぺつたんこ、ぺつたんこ。
お爺さんがのして、
お婆さんも手つだひ、
をぢさん・をばさん、
鉢巻・たすきで、
てんてこまひぢや
お正月はめでたい、
それつけ、それつけ。
二四、雪合戦
一、晴れたる朝の雪の原、
東と西に立ちわかれ、
用意、はじめの声の下、
手に手にとばす雪つぶて。
二、あたりてひるむ卑怯もの、
恐れず進む剛のもの、
雪を蹴ちらし、雪をあび、
互に寄する敵味方。
三、劇戦今と見るうちに、
後にひびく休戦の
ラツパと共に、西東、
一度にどつと鬨のこゑ。
二五、近江八景
一、琵琶の形に似たりとて
其の名をおへる湖の、
鏡の如き水の面、
あかぬながめは八つの景。
二、まづ渡り見ん、瀬田の橋、
かがやく入日美しや。
粟津の松の色はえて、
かすまぬ空ののどけさよ。
三、石山寺の秋の月、
雲をさまりてかげ清し。
春より先に咲く花は、
比良の高ねの暮の雪。
四、滋賀唐崎の一つ松、
夜の雨にぞ名を得たる。
堅田の浦の浮御堂、
落来るかりもふぜいあり。
五、三つ四つ五つうち連れて、
矢橋をさして帰り行く
白帆を送る夕風に、
声程近し、三井のかね。
二六、何事も精神
一、軒よりおつる雨だれの、
たえず、休まず打つ時は、
石にも穴をうがつなり、
我等は人と生まれ来て、
一たん心定めては、
事に動かず、さそはれず、
はげみ進むに、何事の
など成らざらん、鉄石の
堅きもつひにとほすべし。
二、小さき蟻も、いそしめば、
塔をもきづき、燕さへ、
千里の波を渡るなり。
ましてや人と生まれ来て、
一たんめあて定めては、
わき目もふらず、怠らず、
ふるひ進むに、何事か
など成らざらん、盤石の
重きもつひにうつすべし。
二七、橘中佐
一、かばねは積りて山を築き、
血汐は流れて川をなす、
修羅の巷か、向陽寺。
雲間をもるる月青し。
二、「みかたは大方うたれたり、
暫く此処を。」と諫むれど、
「恥を思へや、つはものよ。
死すべき時は今なるぞ。
三、御国の為なり、陸軍の
名誉の為ぞ。」と諭したる
ことば半ばに散りはてし
花橘ぞ、かぐはしき。
発行所 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
印刷所 共同印刷株式会社
東京市小石川区久竪町百〇八番地
印刷者 大橋光吉
東京市小石川区久竪町百〇八番地
代表者 専務取締役 杉山常次郎
発行者 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
著作権者 文 部 省
昭和七年十二月十日発行 定価 金拾四銭
昭和七年十月二十九日印刷 新訂尋常小学唱歌 第四学年用
企画・制作・日本音楽教育センター
東京都新宿区大久保二−一八−一四 (復刻版)
新訂尋常小学唱歌 第五学年用 文部省
緒言
一、本書ハ音楽教育ノ進歩ト時代ノ要求トニ鑑ミ、従来本省著作ニ係ル「尋常小学唱歌」ニ改訂ヲ加ヘタルモノナリ。
二、本書ハ毎巻二十七章トシ、取扱者ニ選択ノ余地を与ヘタリ。
三、本書ノ歌詞ハ、旧歌詞中ノ適切ナルモノ、新作ニ係ルモノ、及び〔尋常小学〕国語読本・尋常小学読本中ノ韻文ノ一部ヨリ成ル。
四ル本書ノ歌詞ハ努メテ材料ヲ各方面ニ採リル文体・用語等ハ成ルベク読本ト歩調ヲ一ニセンコトヲ期セリ。
五、本書ノ教材排列ハ強ヒテ程度ノ難易ノミニヨラズ、一面季節ニツキテモ考慮セリ。
六、本書ハ取扱者ノ便宜ノタメ、唱歌曲ノミノ楽譜を掲ゲタルモノト、伴奏附ノ楽譜ヲ掲ゲタルモノト、二種類ヲ作製セリ。教授ニ際シテハ其ノ何レヲ採用スルモ可ナリ。
昭和七年三月 文部省
一、みがかずば
みがかずば
玉もかがみも
なにかせん。
まなびの道も
かくこそありけれ。
二、金剛石
金剛石もみがかずば、
珠のひかりはそはざらむ。
人もまなびて後にこそ、
まことの徳はあらはるれ。
時計の針のたえまなく
めぐるが如く、ときのまの
日かげをしみて励みなば、
如何なる業かならざらむ。
水は器
水はうつはにしたがひて、
そのさまざまになりぬなり。
人はまじはる友により、
よきにあしきにうつるなり。
おのれにまさるよき友を
えらびもとめて、もろ共に
こころの駒にむちうちて、
まなびの道にすすめかし。
三、八岐の大蛇
一、めぐらす垣根、門八つ造り、
その門毎に棧敷しつらへ、
棧敷一つに酒槽一つ、
その槽槽に酒をぞ満てたる。
二、八岐の大蛇近づき来り、
その門毎に頭さし入れ、
頭一つに酒槽一つ、
酒飲み飲みて酔ひてぞ臥したる。
三、尊は立ちて、今こそ時と、
その御佩の剱引抜き、
一つ一つに、尾頭八つを
切捨てませば、流るる血の川。
四、年毎、人を、来て取食ひし、
その醜大蛇ここに滅びて、
尾より出でたる御剣一つ、
我がすめろぎの宝とたふとし。
四、舞へや歌へや
一、花に宿れる蝶は、今
眠さめたり。
舞へや、舞へや、
姿やさしく舞へや。
舞へや、舞へや。
たもと軽く舞へや。
春風渡る広野は、
汝が楽しき庭ぞ。
舞へや、舞へや、
花に、草に。
蝶の遊ぶ時は今なり。
舞へや、舞へや、
姿やさしく舞へや。
舞へや、舞へや、
たもと軽く舞へや。
二、葉陰に寝ねし鳥は、早
ゆめも見あきつ。
歌へ、歌へ、
心ゆたかに歌へ。
歌へ、歌へ、
しらべ高く歌へ。
緑色そふ林は、
汝が楽しき庭ぞ。
歌へ、歌へ、
枝に、こずゑに。
鳥の遊ぶ時は今なり。
歌へ、歌へ、
心ゆたかに歌へ。
歌へ、歌へ、
しらべ高く歌へ。
五、鯉のぼり
一、甍の波と雲の波、
重なる波の中空を、
橘かをる朝風に、
高く泳ぐや、鯉のぼり。
二、開ける広き其の口に、
舟をも呑まんさま見えて、
ゆたかに振るふ尾鰭には、
物に動ぜぬ姿あり。
三、百瀬の滝を登りなば、
忽ち龍になりぬべき、
わが身に似よや男子と、
空に躍るや、鯉のぼり。
六、菅公
一、日かげさへぎるむら雲に、
干すよしもなき濡衣を
身には著つれど、真心の
あらはれずして止まめやと、
神のまもりを頼みつつ、
配所に行きし君あはれ。
二、のちを契りし梅が枝に、
東風吹く春はかへれども、
菊の節会の後朝の
宴に侍りし秋は来ず、
御衣を日毎に拝しつつ、
配所にはてし君あはれ。
七、忍耐
一、野を流れての末遂に
海となるべき山水も、
しばし木の葉の下くぐるなり。
見よ、忍ぶなり、山水も。
二、身にふりかかる憂き事の、
なほこの上に積れかし。
限ある身の力ためさん。
いざ試みん、身の力。
八、朝日は昇りぬ
一、朝日は昇りぬ、日は出でぬ。
海には、帆綱をたぐり上げ、
追手に帆あげて船出する
海士人今や勇むらん。
二、朝日は昇りぬ、日は出でぬ。
山には、小牛を追ひながら、
朝露踏分け登りゆく
少女の歌や高からん。
三、朝日は昇りぬ、日は出でぬ。
町には、工場の笛鳴りて、
今しも薄らぐ朝靄に、
機械の音や響くらん。
九、朝の歌
一、またたく星影次第に消えて、
ほのかに匂ふよ、東の空は。
いざいざ歌へ、いざ声高く。
朝は来ぬ、朝は来ぬ、
おごそかに。
二、紫いろどるみ山の上に、
澄みたる大空紅さやか。
いざいざ歌へ、いざ声高く。
朝は来ぬ、朝は来ぬ、
ほがらかに。
三、よろこび溢れぬ、草木も、鳥も。
今こそ昇るよ、朝日の影は。
いざいざ歌へ、いざ声高く。
朝は来ぬ、朝は来ぬ、
はなやかに。
一○、日光山
一、二荒の山下、木深き所、
大谷の奔流岩打つほとり、
金銀・珠玉をちりばめなして、
終日見れども厭かざる宮居。
二、浮彫・毛彫の柱に、桁に
振るひし鑿の技、巧をきはめ、
丹南まばゆき格天井に、
心をこめたる絵筆ぞ匂ふ。
三、美術の光の輝く此の地、
山皆緑に、水また清く、
楽園日本の妙なる花と、
外国人さへめづるも宜ぞ。
一一、山に登りて
一、のぼりつきたる巓の
巌の上に我立てば、
山の風、
心地よく、
すがすがし、
我が心。
二、並ぶ山山見下ろしつ、
雲をば踏みて我立てば、
鳥の音も、
聞え来ず、
遥かなり、
人の世は。
一二、海
一、松原遠く消ゆるところ、
白帆の影は浮かぶ。
干網浜に高くして、
かもめは低く波に飛ぶ。
見よ、昼の海。
見よ、昼の海。
二、島山闇に著きあたり、
漁火、光淡し。
寄る波岸に緩くして、
浦風軽く沙吹く、
見よ、夜の海。
見よ、夜の海。
一三、納涼
一、一日の汗を湯浴に流し、
夕顔棚に下陰占めて、
親子同胞、一つむしろに
心をおかぬむつび語。
むつび語、たのしや。
二、蚊遣のけむり軒端をこめて、
緑の葉ごし月影涼し。
裏の細道、節もをかしく
聞ゆる歌の主は誰ぞ。
主は誰ぞ、ゆかしや。
三、見わたし遠き青田の上を、
小波たてて吹来る夜風。
風に流るる蛍火いくつ、
月影うけて消えつ、見えつ、
消えつ、見えつ、涼しや。
一四、風鈴
一、軒の風鈴、夕風に
ちりんりん、ちりんりん。
風鈴の音の涼しさよ。
昼の間のほてり消えうせ、
夏の日は今ぞ暮行く。
二、軒の風鈴、夕風に
ちりんりん、ちりんりん。
打水の跡心地よや。
大空に月は浮かびて、
夏の夜は今ぞ更行く。
一五、加藤清正
一、勝ちほこりたる敵兵を
一挙に破る賤嶽、
七本槍の随一と
誉は高き虎之助。
蛇の目の紋の陣羽織、
十字の槍の武者振は、
後の世までの語りぐさ。
二、友危しと、身をすてて
赴き救ふ蔚山や、
百万余騎の明軍の
荒胆ひしぐ鬼上官。
黒地に白き七文字の
妙法蓮華の旗風に、
異国までも靡きけり。
一六、鳥と花
一、鳥にならばや、み空の鳥に。
霞をわけては雲雀とあがり、
霧をわけては雁とかけり、
春と秋とをかざらばや。
二、花にならばや、園生の花に。
桜と咲きては朝日に匂ひ、
菊と咲きては露にかをり、
春と秋とを飾らばや。
一七、大塔宮
一、氷の刃御腹に当てて、
経巻かづき、かたづをのみて、
忍びおはしし般若寺あはれ。
二、山伏姿、嶮しき道を、
破るる御足、紅染めて、
落行きましし熊野路あはれ。
三、鎧の上に立てる矢七つ、
流るる血しほ拭ひもあへず、
酒酌みましし三芳野あはれ。
四、恨尽きせぬ建武の昔、
日影も闇き鎌倉山の
御最後あはれ、語るもゆゆし。
一八、秋の山
一、風清く、日はうららかに、
黄櫨の葉の紅にほふ
うつくしき秋の山。
花すすき分けて登れば、
かたはらの森の中に、
けたたまし、百舌の声。
二、打続く峯また峯も、
赤と黄の織りなす錦
かがやける秋の山。
眺めつつしばしいこへば、
足もとの草の陰に、
ほそぼそと虫の声。
一九、いてふ
一、五月の朝の丘の上
日の照りそへば、新緑の
梢さやけく、いさぎよく
青天を摩す、大いてふ。
王者に似たる姿あり。
二、暮行く秋の丘の上、
風そよ吹けば、金色の
小鳥群れつつ飛ぶごとく、
落日に散る大いてふ。
四海を照らす光あり。
二〇、入営を送る
一、ますらたけをと生ひ立ちて、
国のまもりに召されたる
君が身の上、うらやまし。
望めどかなはぬ人もあるに、
召さるる君こそ誉なれ。
さらば行け、国の為。
二、征矢を額に立たすとも、
背には負はじと誓ひたる
遠き祖先の心もて、
みかどの御楯とつかへまつり、
栄あるつとめを尽くせかし。
さらば行け、国の為。
二一、冬景色
一、さ霧消ゆる湊江の
舟に白し、朝の霜。
ただ水鳥の声はして、
いまだ覚めず、岸の家。
二、烏鳴きて木に高く、
人は畑に麦を踏む。
げに小春日ののどけしや。
かへり咲の花も見ゆ。
三、嵐吹きて雲は落ち、
時雨降りて日は暮れぬ。
若し燈のもれ来ずば、
それと分かじ、野辺の里。
二二、水師営の会見
一、旅順開城約成りて、
敵の将軍ステツセル
乃木大将と会見の
所はいづこ、水師営。
二、庭に一本なつめの木、
弾丸あともいちじるく、
くづれ残れる民屋に、
いまぞ相見る二将軍。
三、乃木大将はおごそかに、
御めぐみ深き大君の
大みことのりつたふれば、
彼かしこみて謝しまつる。
四、昨日の敵は今日の友、
語る言葉もうちとけて、
我はたたへつ、彼の防備、
彼はたたへつ、我が武勇。
五、かたち正していひ出でぬ、
『此の方面の戦闘に
二子を失ひ給ひつる
閣下の心如何にぞ。』と。
六、『二人の我が子それぞれに、
死所を得たるを喜べり。
これぞ武門の面目。』と、
大将答力あり。
七、両将昼食共にして、
なほも尽きせぬ物語。
『我に愛する良馬あり。
今日の記念に献ずべし。』
八、『厚意謝するに余りあり。
軍のおきてにしたがひて、
他日我が手に受領せば、
長くいたはり養はん。』
九、『さらば。』と、握手ねんごろに、
別れて行くや右左。
砲音絶えし砲台に
ひらめき立てり、日の御旗。
二三、児島高徳
一、船坂山や杉坂と、
御あと慕ひて院の庄、
微衷をいかで聞えんと、
桜の幹に十字の詩。
『天勾践を空しうする莫れ、
時范蠡無きにしも非ず。』
二、御心ならぬいでましの
御袖露けき朝戸出に、
誦じて笑ますかしこさよ、
桜の幹の十字の詩。
『天勾践を空しうする莫れ、
時范蠡無きにしも非ず。』
二四、三才女
一、色香も深き紅梅の
枝にむすびて、
勅なればいともかしこし、
鶯の問はば如何にと、
雲ゐまで
聞え上げたる言の葉は、
幾代の春かかをるらん。
二、みすのうちより、宮人の
袖引止めて、
大江山いく野の道の
遠ければ文見ずといひし
言の葉は、
天の橋立末かけて、
後の世永く朽ちざらん。
三、きさいの宮の仰言、
御声のもとに、
古の奈良の都の
八重桜今日九重に
にほひぬと、
つかうまつりし言の葉の
花は千歳も散らざらん。
二五、進水式
一、金色の槌高くをどれば、
山なす大船音なく滑り、
艦首に花降り、白鳩舞ひ舞ふ。
今、今、今ぞ生まるる
海の勇士。
二、万歳の声、天地をとよもし、
あらゆるもの皆さけびをあげて、
めでたき門出を喜び寿ぐ。
今、今、今ぞ生まるる
海の勇士。
三、征矢よりも疾く大海目がけて、
「我、今生まる。」とをどりて入れば、
海にもわき立つ歓呼の白波。
今、今、今ぞ生まるる
海の勇士。
二六、雛祭
一、お行儀正しい内裏さま、
赤い袴の官女たち、
五人ばやしが次次と、
きれいに並ぶ壇の上、
雪洞つけて、坐つて見れば
金の屏風がきらきらと、
夢のお国の御殿のやうに。
二、赤い毛氈美しく、
菱のお餅にお白酒、
お菓子・豆いり、いろいろと、
きれいに並ぶ壇の上、
花瓶にさした緋桃の花も、
半ば開いて、にこにこと、
お伽噺のお家のやうに。
二七、卒業生を送る歌
一、あまたの年月、兄としむつび、
姉とし慕ひし上級生よ。
日頃のつとめ、かひ見えて
栄ある今日のよろこびや。
二、我等に先だち学を卒へて、
今日しも出立つ卒業生よ。
君等の面にあふれたる
希望の色のたのもしや。
三、我等もやがては学を卒へて、
君等が行く道後より追はん。
ゆくての道のしるべして
正しきかたに導けや。
発行所 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
印刷所 共同印刷株式会社
東京市小石川区久竪町百〇八番地
印刷者 大橋光吉
東京市小石川区久竪町百○八番地
代表者 専務取締役 杉山常次郎
発行者 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
著作権者 文部省
昭和七年十二月十日発行 定価金拾四銭
昭和七年十一月三十日印刷 新訂尋常小学唱歌 第五学年用
企画・制作・日本音楽教育センター
東京都新宿区大久保二−一八−一四 (復刻版)
新訂尋常小学唱歌 第六学年用 文部省
緒言
一、本書ハ音楽教育ノ進歩ト時代ノ要求トニ鑑ミ、従来本省著作ニ係ル「尋常小学唱歌」ニ改訂ヲ加ヘタルモノナリ。
二、本書ハ毎巻二十七章トシ、取扱者ニ選択ノ余地を与ヘタリ。
三、本書ノ歌詞ハ、旧歌詞中ノ適切ナルモノ、新作ニ係ルモノ、及び〔尋常小学〕国語読本・尋常小学読本中ノ韻文ノ一部ヨリ成ル。
四ル本書ノ歌詞ハ努メテ材料ヲ各方面ニ採リル文体・用語等ハ成ルベク読本ト歩調ヲ一ニセンコトヲ期セリ。
五、本書ノ教材排列ハ強ヒテ程度ノ難易ノミニヨラズ、一面季節ニツキテモ考慮セリ。
六、本書ハ取扱者ノ便宜ノタメ、唱歌曲ノミノ楽譜を掲ゲタルモノト、伴奏附ノ楽譜ヲ掲ゲタルモノト、二種類ヲ作製セリ。教授ニ際シテハ其ノ何レヲ採用スルモ可ナリ。
昭和七年三月 文部省
一、明治天皇御製
一、物学ぶ道にたつ子よ、
おこたりに、まされる仇は
なしとしらなむ。
二、さし昇る朝日の如く、
さわやかにもたまほしきは
心なりけり。
三、おのが身はかへりみずして
人のため、尽すぞ人の
務なりける。
二、朧月夜
一、菜の花畠に、入日薄れ、
見わたす山の端、霞ふかし。
春風そよふく、空を見れば、
夕月かかりて、にほひ淡し。
二、里わの火影も、森の色も、
田中の小路をたどる人も、
蛙のなくねも、かねの音も、
さながら霞める朧月夜。
三、遠足
一、鳴くやひばりの声うららかに、
かげろふもえて野は晴れわたる。
いざや、我が友うち連れ行かん。
今日はうれしき遠足の日よ。
二、右に見ゆるは名高き御寺、
左に遠くかすむは古城、
春は絵のごと我等をめぐる。
今日はたのしき遠足の日よ。
三、たどりつきたる峠の上に、
菜の花にほふ里見下して、
笑ひさざめくひるげのむしろ。
今日はうれしき遠足の日よ。
四、風は音なくやなぎをわたり、
船は静かに我等をのせて、
行くは何処ぞ、桃さく村へ。
今日はたのしき遠足の日よ。
四、我等の村
一、霞む山べは紫にほひ、
野べは黄金の菜の花盛。
春の光はくまなく満ちて、
鳴くや鶏声さへのどか。
二、出でて耕すをとこのために、
空のひばりはひねもす歌ひ、
うちに働くをとめのために、
花はまがきの辺を飾る。
三、富める貧しき様様なれど、
村を愛する心は一つ。
老いも若きも互に助け、
村はさながら一家のむつび。
四、ここぞ我等の生まれし処。
ここぞ我等の育ちし処。
やがて我等の力によりて、
国のほまれとなすべき処。
五、瀬戸内海
一、のどけき春の朝ぼらけ
デツキに立ちて眺むれば、
朝日きらめく波の上、
おぼろにかすむ島山の
影おもむろに移りゆく。
二、前より来る白帆かげ、
忽ち後に消え去りて、
遠くかすかに見えたりし
島影やがて近づけば、
又あらはるる島いくつ。
三、静けき波に影うつす
緑にまじる花ざくら、
にほふ山辺もいつしかに、
眺は変るおもしろさ、
瀬戸内海の船の旅。
六、四季の雨
一、降るとも見えじ、春の雨
水に輪をかく波なくば、
けぶるとばかり思はせて。
降るとも見えじ、春の雨。
二、俄に過ぐる夏の雨、
物ほし竿に、白露を
なごりとしばし走らせて。
俄に過ぐる夏の雨。
三、をりをりそそぐ秋の雨、
木の葉・木の実を野に、山に、
色さまざまにそめなして。
をりをりそそぐ秋の雨。
四、聞くだに寒き冬の雨、
窓の小笹にさやさやと、
更行く夜半をおとづれて。
聞くだに寒き冬の雨。
七、日本海海戦
一、『敵艦見えたり、近づきたり、
皇国の興廃、ただ此の一挙、
各員奮励努力せよ。』と、
旗艦のほばしら信号揚る。
みそらは晴るれど風立ちて、
対馬の沖に浪高し。
二、主力艦隊、前を抑へ、
巡洋艦隊、後に迫り、
袋の鼠と囲み撃てば、
見る見る敵艦乱れ散るを、
水雷艇隊・駆逐隊、
逃しはせじと追ひて撃つ。
三、東天赤らみ、夜霧はれて、
旭日かがやく日本海上。
今はや遁るるすべもなくて、
撃たれて沈むも、降るもあり、
敵国艦隊全滅す。
帝国万歳、万万歳。
八、我は海の子
一、我は海の子、白浪の
さわぐいそべの松原に、
煙たなびくとまやこそ、
我がなつかしき住家なれ。
二、生まれてしほに浴して、
浪を子守の歌と聞き、
千里寄せくる海の気を
吸ひてわらべとなりにけり。
三、高く鼻つくいその香に、
不断の花のかをりあり。
なぎさの松に吹く風を、
いみじき楽と我は聞く。
四、丈余のろ・かい操りて、
行手定めぬ浪まくら、
百尋・千尋海の底、
遊びなれたる庭広し。
五、幾年ここにきたへたる
鉄より堅きかひなあり。
吹く塩風に黒みたる
はだは赤銅さながらに。
六、浪にただよふ氷山も、
来らば来れ、恐れんや。
海まき上ぐるたつまきも、
起らば起れ、驚かじ。
七、いで、大船を乗出して、
我は拾はん、海の富。
いで、軍艦に乗組みて、
我は護らん、海の国。
九、日本三景
一、緑したたる山を後に、
波にただよふ朱の廻廊、
たつのみやゐのすがたはこれか。
みぎはの灯籠、皆火をともして、
夜の宮島、さらに美し。
二、与謝の浦波遠く続ける
中をかぎりて浮かぶ松原、
天の通路絶えしは何時か。
かがやく日影に神の代おぼえて、
朝の橋立、殊にめでたし。
三、松のあらしはささやきあひて、
海にちりぼふ千島・五百島、
如何なる神のなしし巧ぞ。
くすしきながめ見る間に変りて、
雨の松島、いよよ珍し。
一○、風
一、風よ風、
そもいづちよりいづち吹く。
草の上、やぶの中、
岡を過ぎ、谷を過ぎ、
鹿も通はぬ
奥山こえて。
二、風よ風、
そもいづちよりいづち吹く。
池の上、森の中、
村を過ぎ、里を過ぎ、
鳥も通はぬ
荒海こえて。
三、夜はふけぬ。
燈消してねに行けば、
泣くがごと、むせぶごと、
戸をたたき、まどをうつ。
風やうらやむ、
我が此のふしど。
四、夜は明けぬ。
とく起出でて園見れば、
草はふし、木はたふれ、
花は散り、実は落ちぬ。
風や荒れけん、
夜すがら此処に。
一一、蓮池
一、丸葉・巻葉をそよがせて、
朝風わたる池のおも。
立つやさざなみ、浮葉を越えて、
まろびまろぶ露の玉。
ああ、涼し涼し、
あけぼの。
二、池のほとりにたたずめば、
花の香おそふ袖袂。
空は月しろ、ほのかに見えて、
水に白し花蓮。
ああ、涼し涼し、
ゆふぐれ。
一二、森の歌
一、森の老木は、こずゑに幹に、
神代ながらの神秘をこめて、
いとおごそかに静まり立てり。
ふしぎや、木霊は木霊を呼びて、
森のひめごと語ると聞けば、
あらず、木伝ふ鳥の声。
二、森の下道たどりて行けば、
しばし木の間の暗さは晴れて、
ふと見るかなた、泉はほがら。
ふしぎや、山姫ほほゑみ立ちて
水に姿をうつすと見れば、
あらず、一もと百合の花。
一三、滝
一、あへぎ登る山の懸路に、
はや聞ゆるは、滝の音、
あたりにひびく滝の音。
木の下闇を抜け出でて、
見上ぐれば、
目の前に、
荒野の吹雪さながらに、
落つるよ落つるよ、真白き流。
二、霧を含む風の冷たく
さと吹来れば、夏の日の
暑さも知らぬ岩の上、
木の下陰にいこひつつ、
見下せば、
足もとには、
幾百千の白龍の、
をどるよをどるよ、碧の淵に。
一四、出征兵士
一、行けや、行けや、とく行け、我が子。
老いたる父の望は一つ。
義勇の務、御国に尽くし、
孝子の誉、我が家にあげよ。
二、さらば行くか、やよ待て、我が子。
老いたる母の願は一つ。
軍に行かば、からだをいとへ。
弾丸に死すとも、病に死すな。
三、うれし、うれし、勇まし、うれし。
出征兵士の弟ぞ、我は。
兄君、我も後より行かん、
兄弟共に敵をば討たん。
四、親に事へ、弟を助け、
家を治めん、妹我は。
家の事をば心にかけず、
御国の為に行きませ、いざや。
五、さらば、さらば、父母、さらば。
弟さらば、妹さらば。
武勇のはたらき、命ささげて
御国の敵を討ちなん、我は。
六、勇み勇みて出行く兵士。
はげましつつも見送る一家。
勇気は彼に、情は是に、
勇まし、やさし、ををしの別。
一五、故郷
一、兎追ひしかの山、
小鮒釣りしかの川、
夢は今もめぐりて、
忘れがたき故郷。
二、如何にいます、父母、
恙なしや、友がき、
雨に風につけても、
思ひいづる故郷。
三、こころざしをはたして、
いつの日にか帰らん、
山はあをき故郷、
水は清き故郷。
一六、秋
一、蜻蛉とびかふのどけき日和、
わらぢ・脚絆に軽くいでたち、
野べに、山べに、さざめき遊ぶ。
ああ、この秋、心地よや。
二、林わけゆき、落栗ひろひ、
谷をわたりて茸かりゆき、
きそふえものに心は勇む。
ああ、この秋、面白や。
一七、燈台
一、空には月無く、星さへ見えぬ
雨の夜、雪の夜、嵐の夜半に、
さかまく荒波分けゆく船は、
何をかしるべに舵柄取れる。
二、知らずや、闇夜に海原とほく
船路を示せる光のあるを。
知らずや、夜すがら嵐に消えで、
ゆくてを教ふるあかしのあるを。
三、かしこの岬の巌の上に
聳ゆる燈台、頂高く、
夜夜輝くともし火こそは、
行きかふ船には尊きまもり。
一八、天照大神
一、『豊葦原の中つ国、
皇孫行きて知ろしめせ。
天つ日嗣は天地と
窮りなし。』と、国の基
定め給ひし天照らす
神の御言ぞ動なき。
二、天の営田に御田作り、
斎服殿に御衣織らせ、
尊き御身の、さきだちて、
蒼生のなりはひに
いそしみましし天照らす
神の恵ぞ限なき。
三、蒙古の敵の寄せし日も、
神風こそは起りしか。
こと国までもことむけて、
かがやく御稜威まのあたり、
今も、むかしも天照らす
神の護ぞいちじるき。
一九、鷲
一、雲を凌げる老木の
梢の上の荒鷲は、
広き宇宙を睥睨す、
み空の君主さながらに。
気高く、雄雄し、
鳥の王、鷲の姿、
二、怒涛逆巻く絶海の
孤島に巣くふ荒鷲は、
暴風雨をついて天翔り、
育む雛に餌を運ぶ。
やさしく、つよし、
鳥の王、鷲の心。
二○、鎌倉
一、七里が浜のいそ伝ひ、
稲村崎、名将の
剣投ぜし古戦場。
二、極楽寺坂越え行けば、
長谷観音の堂近く、
露坐の大仏おはします。
三、由比の浜辺を右に見て、
雪の下道過行けば、
八幡宮の御社。
四、上るや石のきざはしの
左に高き大いてふ、
問はばや、遠き世世の跡。
五、若宮堂の舞の袖、
しづのをだまきくりかへし
かへしし人をしのびつつ。
六、鎌倉宮にまうでては、
尽きせぬ親王のみうらみに、
悲憤の涙わきぬべし。
七、歴史は長し七百年、
興亡すべてゆめに似て、
英雄墓はこけむしぬ。
八、建長・円覚古寺の
山門高き松風に、
昔の音やこもるらん。
二一、霧
一、しらじらと、
朝霧野山をこめて、
月のごと、日輪ほのかに浮かぶ。
野路を行く人影ただちにきえて、
けたたまし、もずの音、
こずゑはいづこ。
谷間よりはひ出で、木の幹ぬらし、
しらじらと、
おぼろに朝霧流る。
二、しめやかに、
夜の霧ちまたをつつみ、
立ち並ぶ家家、ともしびうるむ。
影のごと、人去り人来る大路、
ほろほろと聞ゆる笛の音いづこ。
窓ぎはにはひ寄り、
ガラス戸ぬらし、
しめやかに、
ひそかに夜の霧流る。
二二、鳴門
一、阿波と淡路のはざまの海は、
此処ぞ名に負ふ鳴門の潮路。
八重の高潮かちどき揚げて、
海の誇のあるところ。
二、山もとどろに引潮たぎり、
たぎる引潮あら渦を巻き、
巻いて流れて、流れて巻いて、
空にとびたつ、潮けむり。
三、裸島より渦潮見れば、
胸も波だち眼もくらむ。
船頭勇まし、此の潮筋を、
落し漕ぎゆく、木の葉舟。
二三、雪
一、鮮かに雪こそ積れ、
明方の目ぬきの通。
街路樹も銀なして、
天そそる高き建物、
油絵の景色に似たり。
かかる時、朝の汽笛の
巷より巷をこめて
高鳴れば、人は目覚めぬ。
往来はざわめき立ちて、
雪かきの音もまじれり。
二、ひそひそとささやくけはひ、
降る雪の夜の静けさ。
程近き鎮守の森の
いてふの木ひとりそびえて、
浮彫の巨像の如し。
薄れ行く窓の燈、
人は皆ねやにこもりて、
村里は深く眠りぬ。
雪折れの竹の響も、
円かなる夢を乱さず。
二四、スキーの歌
一、輝く日の影、はゆる野山。
輝く日の影、はゆる野山。
麓を目がけてスタートきれば、
粉雪は舞立ち、風は叫ぶ、
風は叫ぶ。
二、飛ぶ飛ぶ大空、走る大地。
飛ぶ飛ぶ大空、走る大地。
一白影なき天地の中を
ストツクかざして我は翔る、
我は翔る。
三、山越え、丘越え、下る斜面。
山越え、丘越え、下る斜面。
忽ちさへぎる谷をば目がけ、
躍ればさながら飛鳥の心地、
飛鳥の心地。
二五、夜の梅
一、梢まばらに咲初めし
花は、さやかに見えねども、
夜もかくれぬ香にめでて、
窓はとざさぬ闇の梅。
二、花も、小枝もそのままに
うつる墨画の紙障子。
かをりゆかしく思へども、
窓は開かぬ月の梅。
二六、斎藤実盛
一、年は老ゆとも、しかすがに
弓矢の名をばくたさじと、
白き鬢鬚墨にそめ、
若殿原と競ひつつ、
武勇の誉を末代まで
残しし君の雄雄しさよ。
二、錦かざりて帰るとの
昔の例ひき出でて、
望の如く乞ひ得つる
赤地錦の直垂を、
故郷のいくさに輝かしし
君が心のやさしさよ。
二七、卒業の歌
一、うれし、うれしや、うれしやな。
人の子どもの、おしなべて
ふむを御国のおきてなる、
学の道の六年をば
卒へし今日こそうれしけれ。
柳桜の春にほふ、
錦をそへて野も、山も。
二、うれし、うれしや、うれしやな。
いろはのいをもわきまへぬ
身のいつしかに積得たる、
西も、東も知らざりし
身のいつしかに分得たる、
世の人並の文字の数、
世の人並の道の筋。
三、うれし、うれしや、うれしやな。
六年の月日、手を取りて
教へ給ひし師の君の
導なくば、いかで我が
心に開く、智は、徳は。
思へばうれし、師の情、
思へばうれし、師の恵。
四、うれし、うれしや、うれしやな。
師の賜の智を、徳を、
かぢに、しをりに、世の海を
わたりて行かん、なほ高き
学の高嶺よぢて見ん。
師の君さらば、健かに、
我が友さらば、健かに。
発行所 大日本図書株式会社
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印刷所 共同印刷株式会社
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印刷者 大橋光吉
東京市小石川区久竪町百〇八番地
代表者 杉山常次郎
発行者 大日本図書株式会社
東京市京橋区銀座一丁目五番地
著作権者 文部省
昭和七年十二月十日発行 定価 金拾四銭
昭和七年十一月三十日印刷 新訂尋常小学唱歌 第六学年用
企画・制作・日本音楽教育センター
東京都新宿区大久保二−一八−一四 (復刻版)
昭和52年発行歟
新訂尋常小学唱歌(復刻版)
発行者 品川恵保
発行所 日本音楽教育センター
〒160東京都新宿区大久保2-18-14
印刷所 凸版印刷株式会社