風流俗謡集
湯朝竹山人
序文
かかる冊子のはしかきに、長たらしい口上は野暮の沙汰だとは思ふけれど、私の性分としてあつさりとやつてのけることができず、こけと知りつつ敢てこの長口上を述べる。
本文の唄の文句は、今の人にはとにかくめづらしい句振りである、これを選集したる事情やら、一冊に纏めた次第を記述しておくことは、選者としての義務であらうと思ふ。
(一)
私は今ここに「よしこの」「どどいつ」かういつた短詩型俗謡の文学的批判を試み、及び彼れらの発生推移について史的調査の結果を述べるいとまがない。かういつた専門的の研究は、他日ゆつくり発表したいつもりである。
今の多忙な世に、私がかかる選集に没頭、といふほどでないけれど、骨を折つたのは、全く私の趣味道楽に外ならぬのである。趣味道楽からの仕事ゆゑ、骨折りなどといへた義理ではないのである。まして世態を知り人情を知るの方便説などは私にとつては第二義に属する。更に焦燥と殺風景との現代の生活を嫌ひ、のんきな気分に陶酔せんがために、いたづらにこんな仕事に耽けるものだとの評は、実のところ邪推である。なんとなれば、ひとへに私自身の道楽嗜好が、私をしてかかる選集に携はらしめたのに外ならぬからである。
然り、趣味道楽の結果に外ならぬけれど、この選集も私に於ては聯絡があるのである。私は十年以前より俗謡──四句二十六文字体の小唄、民謡、俚謡──の選集を志し、先づ「諸国俚謡傑作集」(大正四年、辰文館発行)にて古来伝はる諸国諸地方の二十六文字唄を選集し。次に「小唄選」(大正五年、阿蘭陀書房発行)に於て文禄、慶長の隆達節より天保嘉永の流行唄に至る、凡そ二百五十年間に遺されたる書籍中の二十六文字唄を選集した。以上二種の選集を試みたる結果、さらに天保嘉永より慶応、明治に至る幕末の終期三十余年と、明治維新より同十年頃までの約四十余年間の「よしこの」と「どどいつ」とを選集せんと欲し、今日やうやく、この選集によりて多年志望の幾分が成就された次第なのである。
その「よしこの」と「どどいつ」に限つたわけは、投節去り、潮来節去つて後ちの小唄、私の所謂二十六文字唄は「よしこの」「どどいつ」とがその命脈をつなぐ正統であり、本流であり、時間的に空間的に流行勢力の代表となつてゐるからである。
なほ明治十年頃と制限をつけたのは、明治十年「団々珍聞」発行以後は、斯道の面目が一変し、私の嗜好とする軟派的特有の句調が幕を閉じて仕舞ひ、「団珍」以後の調査は「月並百々一」「親釜集」等を中心として、明治新時代の都々一流行期に属し、もはや我等には大分嗜好の遠ざかつたものと思惟したからである。
今一つ、活字の物は一切顧みない方針を厳守したことである。彼の「親釜」も「月並」もいづれの活字の月刊物である。かういつた事情から、自然に明治十年頃といふ制限を立つることになつたのである。
私の俗謡選集も、不完全ながら、この選集を以ておのづから一先づ終りを告げることとなつたわけである。
(二)
私はこの選集を試みるために、機会ある毎に、先づ材料の蒐集につとめた。
曩の「小唄選」に比較すると、時間的には五分の一の短さではあるけれど、何をいふにも幕末流行唄全盛時代の所産であり。楽天の如く捨鉢の如く、殆んど頽敗気分の横溢が、我がヨシ此とドド一とを駆つて遠慮会釈なく盛んに鬱憤をはらしてゐるのと、かつは今日より年代を経ること未だ遠からざるゆゑ、比較的材料の遺れると、この二つの理由が、幕末以前に比較し、幕末以後の流行唄蒐集に、多くの歌詞を採収せしむるところとなつたのである。
けれど、幕末以後の材料とても、現在はもはや容易にこれを得ること能はず、今の内にこれが精選を致さずんば、或はかへつて、幕末以前の唄を集むよりも、困難とならんやも計りがたき事態にあるを恐れるのである。何となれば、幕末以前の小唄は歌詞の乏しいままに、とにもかくにもその書籍は貴重品扱ひをされ、中には翻刻もされて、永久に遺存するところだが、幕末以後、明治初年頃の唄の本といふのが如何に贔負目に見ても貴重品扱ひを受くるの品格を備へず、今は殆んど散逸され、放棄され盡し、一部の数寄者が珍蔵するの外は人の顧みるものなきの有様だからである。私が多年これが選集を志し、今日やうやつとその幾分を纏め得たのも、その材料を得るに当つて、私はこれが蒐集に一定の方針を立ててゐたからである。
幕末より明治に亙り、民間に盛んに流布されたのは「絵入り端唄」「絵入り都々一」「絵入大津絵」「絵入り流行うた」等の小冊子であつた。無論木版で和紙和装の半紙四つ折り型の五枚乃至十枚乃至二十枚三十枚位の所謂おもちや本、絵草紙本である。文字ばかりで絵画の無いのもあるけれど、大抵は絵がついてゐる。唄の文句を絵で解いてゐるが如く、絵の意を唄でうたつてゐるが如く、唄と絵とを対照してこれらの絵入り木の趣味が浮動するのである。多くは粗末な、きたならしい本、今日の人の眼には、紙屑籠に投げ棄つるに躊躇せぬほどの代物だが、これを趣味の眼で見ると、何んともいへぬをかしいおもしろい本であり。中には絵画といひ、用紙といひ、製本といひ、昔を懐はずにはゐられない趣味あるものもある。さういつた「絵入り都々一本」ばかりを蒐集し、それらの本の中の文句ばかりを選集しようと定めたのが先づ第一の方針であつた。
絵入り都々一本から、絵を省き、唄の文句のみを採収することは、いはば趣味の半減である。けれど絵入り都々一本を原形のままで、本書にをさめたほどの分量を再現せしむることは容易ならぬ事業である。殊に、私の目的が、歌詞の選集にあるのだから、唄の文句のみを選抄して満足するの外はなかつたのである。
(三)
幕末維新の流行唄、それが「絵入り本」以外の他の何にものから採収することができようか。一般市井に流行し、民間に伝唱された文句を採収せんには、我が「絵入り本」以外に求むること能はぬ。ここを以て私は全力をこの種「木版の絵入り本」蒐集に傾倒するに至つたのである。
これらの絵入り本が、図書館などに蔵せられべきものではなく、さりとて好事家の蒐集癖を満足せしむるほど珍重なものでもなく、或は一部江戸趣味者の間にこれを蔵する人があるかも知れないと思はれるほどのものである。それで私は東京市中の古本屋あたりを根気よく探すの外はなからうと思ひ、一時は随分あせつて探し廻つこともあつた。
十年以前には、夜店の古本屋だの古道具屋だのに二冊三冊位ひは発見されることもあり、一冊三銭位ひで買へたのだが、和本の相場が上がり、江戸時代の軟派的古書が一部の人士に買占められる傾向を来たし、古書籍展覧会の即売が愛書家、好事家に期待されるやうになり、さういつた気運が、いつしか我が絵入り都々一本を夜店の古本屋だの古道具屋だのの店先きでは見つからぬことにならしめ、浅草の浅倉屋だの、京都の細川開益堂あたりから買ひ入れねばならぬことになり、往年は一冊三銭五銭で買へたるものが、一冊三十銭となり五十銭となり、少し奇麗な本になると一冊一円といふ直段がつき、殊に、京都、浪華、名古屋版の「よしこの本」は一冊が二円、三円といふ相場を見るに至つたのである。けれど最近ではもはや直段の問題ではなく、品物を手に入れることが困難である。
私は漸く五十冊ばかり集めることができ、友人で矢張り絵入りうた本の蒐集家があり、それらの友人の蔵書も見ることができ、天保以後明治二十年頃までの絵入り都々一本を百冊余り見ることができた。その結果が終に茲に本選集を作る材料とはなつたのである。
本書が選抄した書目は、幕末の分が十六、明治の分が十、併せて二十六目である。百余冊を通閲して採用するところ二十六、約四分の一である。殆んど無数といつてもよいほどの多数の絵入り本の中から代表的の書、代表的の文句を選抄したいものだと心がけたのだが、砂の中から金を選り出すやうな仕事であり、前人未開拓の事業にひとしいこととて、最初に予期したほどの結果が得られなかつたのを遺憾とはするのだが、通閲した原本については、私は先づ第一に選者の名を吟味し、次に年代の明かなるもののみを採用することに定めた。この種の小冊子は多く年代が不明である、或は序文により、或は選者の名により、或は巻末の他書の広告文の年号により、やうやくその上梓された時代を知るのであつた、とにかく本集にをさめられた二十余種の書が、殆んど大部分発行の年代が明かであり、年代順によりて輯録されてあるから、天保以後、明治二十年までの流行「ドド一」と「ヨシ此」との変遷推移の一面はこれを看取することができやうと信ずる。
内容は幕末の分が多く、維新の分が乏しい、百冊あまり通読した唄の本の半分以上は維新の唄本であつた、けれど私は嚴密に内容を吟味し、選写するに足らずと思ふものは皆これを顧みなかつたがために、維新以後の分が乏しくなつてゐるのである。
(四)
本書は「幕末維新ヨシ此ドド一集」とでもいふのが一番適当な名なのである。けれど世間一般の人が、何に故か、かういつた名を嫌ひ、かういつた名がいかにも野卑な名の如くに思はれてゐる。その「ヨシ此」といひ「ドド一」といひ、いつれも三味線又太鼓の調子又は囃子言葉から出た名であるから、その名に豪も擯斥すべき道理はないのである。けれども今は私も飽までも自説を立て通さうとはせぬ。それゆゑ出版元の希望も容れ、思案の上で「風流俗謡集」と名けた。「都々一」も「好シ此」も風流の二字にて表現せしめ、風流の二字に印象せしめたつもりである。
本文選集書目に添へて著書の名の分つたものはこれを示めし、年代の知られたものはこれを示めしたのは、その冊子の価値と位置とを知り易からしめんがためである。全部紹介とした分は中の文句の全部を写しとつたもの、部分紹介としたのはその冊子には他の唄ものせてある中から、都々一と情歌のみを写しとつたことを明にしたのである。唄の文句の頭に○を置いたこと。かゞみ、しりつゝ等をかがみ、しりつつ等になつてゐること。志の字がしの字となつてゐる等、いづれも私が勝手にしたことである。
同一の文句が、他の幾冊にもあらはれ、甚だしいのは一つの文句が、一冊の中に二個所も出てゐるのもある、この種の冊子にはこんな例はめづらしくないのである。私はよくよく目触りの場合の時は、すべて原本のままにしておいた。一つの唄が、他の幾種かの冊子に載つてゐるのを知ることもまた一の研究であり、諸方に現はれてゐる文句が、どんな文句であるかを知ることもまた一つの研究であると思ふたからである。
「よしこの」本の唄は、いづれも作者の名がつけてあり「どどいつ」の方にも、作者の名がつけてあるのもあつたけれども、それらの名は一切省くことにした。序文、はしがき等も多少見るに足るものはこれを添へんと欲したが、わざ/\写すに足らずと思ふものは省いた。而して「よしこの本」は全部上方版であり「どどいつ」は江戸又は東京版であることはいふまでもない。
努めて原本のままに写すことに念を入れたけれど、ただ言葉が文字にうつされるだけで満足せしものかと見える仮名文字本位のこの種の冊子のことゆゑ、文字の誤りは甚だしく、歌沢能六斎の選集本さへも、仮名遣ひも天爾遠波も殆んど無視されてゐるほどだから、他の小冊子に於てはいふまでもない。古書の翻刻に際し、文字上の注意に二説あり、一は原本通りに忠実なるべしとの説、一はたとひ原本たりとも誤りと知られたるものはこれを訂正すべしとの説である。私は成るべく原本の文字を変へない方針ではあつたが、実際は仮名の訂正を余儀なくされずにはゐられなかつた。。
例せば、こひ(恋)がこいとなつてをり、うはき(浮気)がうわき、みさを(操)がみさほ、きしやう(記請)がきせう、にようばう(女房)がにようぼとなつてゐるの類で、一々列記の煩にたへぬほどである。とにかくいとひ、えとゑ、しよう、しやうとせう、かういつた仮名文字は一首として完全なものはないほどである。私は余りに目触りに感じ、歌の意を破らざる限り手の届くだけは訂正をしておいたつもりだが、校了を見て随分見誤りやら見落しのところもあり。後ちには、一層のこと全部原本通りにしておけばよかつたと後悔したほどである。また三味線がさみせん、しゃみせん、世帯がしよたい、せたい等二様の仮名がつけられてゐるのもある、それらはいづれも原本通りにしておいた。蓋し、この一冊を選集するために、材料の蒐集、内容の吟味、随分苦心を払つたけれど、その苦心には苦心以上の報いがあつたことを公言するに憚らない、ただ仮名文字の訂正と校合には一方ならぬ難渋だつた。
原本の字体及び彫刻の不鮮明も少なからず、また虫に食はれてゐるところもあり、また中には文字足らずの唄もあり、また意味の通じかねる唄もあり、できるだけ注意はしたけれど、結局疑はしいままで原本通りにしておくの外なかつたのもある、この点は読者の領会を得ておきたい。更に又、私の道徳心の咎めた文句はヽ印を以て、不鮮明又は欠字には□を用ゐることにしておいた。
(五)
歌沢能六斎の「新撰度独逸大成」前後両編は、恐らくは幕末都々一の代表的選集であらうと思はれる。簡略ながらとにかく唄の文句を類別し、目録を示し、唄の員数を記し、在来のこの種の唄の本にはいまだ試みられざる選集創意があらはれてをり、殊に、半紙四つ折りといふ一般の型を破り、半紙八つ折りの横本型で一流特色をあらはし、さらに多くの本が絵入りといふのに、彼の選集本には絵を入れず、努めて多数の文句を輯録しようと試みてゐるところにも他と異る点を認められる。
極言すれば、幕末都々一調の特色は、或は能六斎の「度独逸大成」二冊によりて代表されやうかと思はれる。彼の名はノロクサイだが、あの道と唄の道とにはなか/\抜めなく、余りに多数の選集があつて、それが今日未だ完全に知られてゐないやうにも思へる。
最後に附記しておきたいことは、世人若し、この選集より唄の文句を転載する場合には、必らず/\本書より転写せしことを明記されたいことである。従来、私の選集中より、しば/\無断転載されてをる事実を見る。而もたま/\私の筆写の誤りがあると、その誤りのまま転写されてゐるのである。今この冊子中にも筆写の上に誤り無きを保し難いのである。いはんや文筆に携はる学者の徳義でもあり、責任でもあらねばならぬからである。
大正十年夏
湯朝竹山人
目次
滑稽東都一図会 初編
東都一図会 二編
辻うらどゞ逸
情歌花言輯 完
よしこの玉撰集 全
江戸の花あたり都々一
寿井の太頃 全
どゞいつ別な世界
浄瑠理入端唄の交張 初へん
新撰度独逸大成 前編
新撰度独逸大成 後編
都々一ぶし
よしこの恋のしをり 二編
古本の都々一
拾ひ集めの都々一
都々逸恋の美南本 全
唐詩作加那 初編
唐詩作加那 二編
流行新令どゞ一
酔興漫戯声くら辺 初編
声くらべ 二編
開化芸妓都々逸
開化さわりどゞ一
情歌恋のすがた見
四季情歌林 全
開化都々一
滑稽東都一図会 初編
銀庵主人撰集 為永春水補章
一筆庵英泉画 風雅堂蔵版
〔全部紹介〕
百々一図絵の序
慶長年間の小唄の上手な泉州境の隆達が唄ひ初て隆達節と世にもてはやし這ぞ小唄の元祖なるべし、さて寛永の(数字磨滅)女郎衆は今も初心の糸道を伝へて習ふ(数字磨滅)せり、明暦の頃の流行唄はやり、小唄の惣まくりは小唄の八兵衛やあつめ置けん、寛文年中の菅笠節は破れて後も一節切に能合の手と聞伝ふ、亦元禄の松の葉は志の通もよく、松の落葉に拾ひ出して昔の容体を見るに等し、其風流に引かへて菖蒲咲とはしほらしやと唄ひし潮来の唱哥に基く是等もよしこの射然捨りぬ、夫より以来年久しく時花て盡せぬ這一節は、月待日待代夜待田町にござる法印さんも懴悔々々の間に唄ひ、古きに似たれど其土地の風俗調子が種々かはりて同じ文句も聞度に珍しければ、時鳥例も初音の心底、いふに云れぬ信実を、唯一口に黄楊の櫛、婀娜にも唄へば品よくも唄はるゝのが百々一なり、百度ふより一唄にて思ひを述る小唄ゆゑ百々一とこそ名号たり抔と申は戯作の癖か、図絵を添たるトツチリ頓作二上り三編追々に新文句を出し候
江戸 狂訓亭主人戯述
○つもるはなしは世間もしんと日本橋にも夜の雪
○東なまりといはんすけれど真似て見たがる江戸の癖
〇あはれぬからとて女のみさを立て見せませふあくまでも
〇ろんはないぞへほれたが負よどんな無理でもいはしやんせ
〇添ひとげる人もはじめはふとした事よ惚たが縁ではあるまいか
○すゑにそふのはそりや縁づくよ当座あはずに居られふか
○すてる神ありやたすける神がなまじあるゆゑ気がもめる
○人の噂も七十五日くやしかうはさをされて見や
○あひも見もせざこがれもせまひなまじあふみの水かがみ
○まかせぬこの身をかんにんさんせ実も不実になるつらさ
○親元へわたるまことも的にはならぬすゑにや手ぎれを取ふため
○つらい悲しいとふげを越てなんでたやすくきれられふ
〇女房ざかりを白歯の島田似合ふ気がねの板がしら
〇五月雨のある夜ひそかに格子の先で見れば嬉しい月の顔
○さらへ置け人に気がねが何入るものか立たうき名がきへはせぬ
○契情に実ないとはむかしのたとへお客に実がありもせず
○こぼれ松葉にうはきな胡蝶つがひはなれぬなかを見て
○そなたひとりに苦労はさせぬどんなはかない暮しでも
○雪の肌になびきし竹のとけて身がるなわがおもひ
○月はかたむく夜はほの/゛\と心ぼそさよ鳥の声
○しがみつくほどくやしいけれどわけをいはれりやぜひがない
○道ならぬ事としりつつはて気がもめる無理なねがひの朝参り
○遠くはなれてくらすも時代ままになるまでまたしやんせ
○たとへどのよな風ふくとてもよそへなびくないとやなぎ
〇泣ざなるまい野に住む蛙水にあはずに居られふか
〇世につれて辛苦するのはいとひもせぬがそはれないのがわしやつらい
〇たつた一夜がよみぢのさはり知らざ他人でくらすだろ
〇わたしの心にあまればとてもなんの他人にはなされふ
〇早くやめたかやかよふも呼もまつもわかれもないやうに
○先は浮気であらうとままよわたしや実意をどこまでも
○口舌した日は鏡の蓋をあけてふさいで又あけて
○達引づくなら住かへしても年の明まで呼とげる
○泣て咄せば勤となぶりこれが笑ふて咄さりよか
○金じやせかれぬそなたの気しやうといふて惚人は数多し
○向ふ鏡にやつれた顔をうつし心の悔みなき
○楽をふりすて苦労をもとめ人にわらはれぬしの側
○啌も吐んせ浮気もさんせ心がらから泣しやんせ
○否であらふがまあ聞しやんせつらい別れもぬしの為
○長ひ苦労で今日日の世帯気のまじかいのも事による
○気が合へばいはずかたらず眼顔で知れる口説やうでは(三字不明)せぬ
〇短夜の鶏は恨まず長夜の鐘を恨む心の客と間夫
〇待宵の鐘は丑満別れの鶏(「鶏」の右側が「隹」)にまさるつらさよ憂思ひ
〇今さらに愚痴もいふまいなげきもせまい添ざ命がありやせまい
○散花を定めなき世と歌にもよめど咲ざなるまい春の風
○あきらめましたよ何様あきらめたあきらめられぬとあきらめた
○白露や無分別でも草葉が便り恋のうき身の置どころ
○胸気な一座もお前の連とおもや言伝せじもいふ
〇秋の野の花の千種に置露見てもわしが涙と思はんせ
○すまぬ顔色見てとる実は他人に知れない惚た中
○数ならぬ身でも恋路の誠はまこと惚たに上下があるものか
○思案する程きれてはならぬ今まで苦労の甲斐がない
○月にむら雲花には風が邪魔をするのも千話のたね
○恋のやみぢは兼ての覚悟晴てあはれる身ではない
○鉄釘の折の様でもゆかりの文はまもり袋へいれておく
〇艶言もいふまいき気がねもせまいいおまへも浮気をやめさんせ
〇艶言と苦界は涙の笑顔泣かせるお前は無理ばかり
〇人に気がねもお前のおかげ明暮悔しい事ばかり
〇ちればこそ花はよけいに猶をしまるる苦労するのは色の花
○めぐり逢事もあらうと月日をすごし永い年季をうか/\と
○酒のどくだといはんすけれど酒が主をばのみやせまい
○それ見やしやんせ言ない事か先も血道を上て居る
○花に百度来る客よりも雪の初会がたのもしい
○愚痴なわたしにさばけたおまへ柳に蔦じやと人がいふ
〇義理を世間のそりや言退れ実は否だと断はりか
○わけもないことわけあるやうに言れりやぎりにもせにやならぬ
○似た事がもしやあるかと人情本をよんでなほますものおもひ
〇草の葉の露はわたしが涙の雫それにおまへは秋の空
○門付のしんないぶしも身につまされてもしやとあんじるひよんな気を
〇たいたとてこげたおまんまどうなるものか喰ずとほしひにするがよい
〇ないたとてせかれたものがどうなるものかなかずと時節をまつがよい
○たまのごげんにはや明わたるくがいしらずのむちや烏
○今は待身をわらはばはらへすゑは高砂そうてみしよ
〇帰らしやんせと口ではいへど立ばおどろくむねのうち
〇内の女房は栄螺のやうに尻もかしらも角ばかり
○ぬしは田毎の浮気な月よどこへまことをてらすやら
○あへばいつでもふんだり蹴たり島田のけまりはありやせまい
〇まつがつらいかまたるるわしがうちのしゆびして出るつらさ
○ぬしを思へばてる日も曇るひく三味線も手に付ぬ
○月はかたむく夜はしん/\と心ぼそさよ明のかね
○ぬす人をとらへて見れば我子のたとへとい詰だてすりや身のつまり
○むすび玉ほどいてみれば永くなるたとへこくらかつては手にあまり
○さらべおけ人の噂も七十五日此土地ばかりが日はてらぬ
〇いやなざしきで笑ふのつらさないてうれしいぬしのそば
○きれたなかとてたよりはさんせいやで別れたえんじやない
〇腹が立てもまたわけ聞ばのろひやうだが夫もそれ
〇ぶたれる覚悟のわしや結び髪色であふときやかうじやない
○色と浮気を重荷に小づけ馬も合口うわの空
○人はこり性とただ一ト口にこるもこらぬもさきしだい
東都一図会 二編
〔全部紹介〕
○百度参りを小舟ですればさしであはれぬ事ばかり
○あだも是限モウ惚仕舞他人の恍惚を聞も否
○油でかためた聖天さまをあらいかみとは誰がいふた
〇逢は別れのはじめといへど
上るり「昨日の淵は今日の瀬とかはりやすさよ人心」
くやしいながらもきれられぬ
〇花の笑顔で操の松の色もかはらずぬしの側
〇横しまながらも此所聞わけていたらぬ私も立様に
○あふが誠かあはぬが実か末を遂よと遠ざかる
○遠ざかるのはこらへもせうが他人のしやくりが気にかかる
○気にもかかろが互の実は絶ずたよりの文のつて
○案じ顔さへ花にもまさる婀娜が苦労をさせる種
○文も遣るまい返事もせまいあはれぬつらさをますかがみ
○かがみに向へばやつれたすがたあひそがつきよと案じ顔
○しんの夜中にふと目をさまし聞ばとなりの小鍋立
○お店者でも出番の衆でもやぼと油断がなるものか
○あきらめられうかこりしよなわたし
上るり「あふは別れのはじめとはきくもうるさい世のたとへ」
命かけてもそひとげる
〇恋の綾瀬を辛苦にするな今に中よくすみだ川
〇つらい峠やかなしい浮瀬越てけふ日の新世帯
○お店者だか店さらしだかすれて紋日もしらぬ顔
○人に異見も仕かねぬぬしが人に云れる此始末
○泣て待夜にふけ行鐘は明の鶏より猶つらさ
○わが惚りや他人も斯かと邪推をまはし愚痴な様だがはらがたつ
○遠ざかるのは末咲花よ日々に咲のはちりやすい
○酔ばつもりし恨もいへどさめて嬉しい梅の雪
○お前ゆゑには憂身をやつし
上るり「アノ川端の祖師さんへ日に千遍のおだひもくとなへてむりなおながひを」
かけて結んだ縁の糸
○愚痴もいふまいりんきもせまい他人の好人持果報
〇わけを云のにマア聞しやんせ否でわかれる気ではない
〇深い契りをかはらぬ願ひ他人は浮名をたつみ風
〇軽ひ世帯もお前と二人気がねせぬのを楽しみに
〇吹ばとぶよな玉やの身でもあはぬつらさのもの思ひ
○聴解がないとお前は云んすけれど離別覚悟で惚はせぬ
〇他人に心配もいらざる艶言も
上るり「流れわたりの芸者の身ゆふべ過した拳酒の」
ほれて勤たわけぢやない
○酒が云するお前の癖か
上るり「まはらぬ舌で燭台や丼火箸でなむさんばう」
そふに忽泣上戸
○この丼の割たのを見るに付ても娘が事
上るり「今年十二で痲疹も軽くはやり風さへ引もせずつい十三で此やうにとしやくり上たる溜涙」
笑ひ上戸にならしやんせ
〇内に待気もおまへの顔を
上るり「三保のあたりであらうかと聞て後から御ひゐき請ておかげ参りは皆さまへお礼にちよつと旅がけの連になるみの染浴衣」
きて見りや今更帰られぬ
〇好風な人でも不実があればすゑは愛相の尽るもと
〇切た当座はがまんもいへど日数たつほど思ひ出す
〇あげて心配はお客か凧か揚代もいとめを付てゐる
〇ないてたもるな途方に暮る月は雲間の時鳥
〇春の初日の豊にさして呑はめでたひとその酒
〇きげん直してマア寝やしやんせ
上るり「小夜ウふウけヱて蕎麦イ引にうめん、そはイそばイ引」
上るり「ヤ八アツウかア、ボヲン、按摩ア、ワン/\/\、そばやさん何時だネ」
上るり「七アツウか(鳥の羽音きもののそでにて、バタ/\/\)こつけつかう」
上るり「あけむウツウの」
かねがかたきの世のならひ
○花も若葉も月日がたてばやがてわたしの秋に風
○庭の雪間のあの梅さへも寒苦をしのび花が咲
○花も紅葉もモウあきらめたぬしの便りを松ばかり
○せけばやむかとお部屋の叱言おちやをひくにはましであろ
〇親の気入私も惚る好風で律義な人はない
○泣ば誠とお客のこけがいろの仕送り仕舞札
〇たよりない身で尽したまことぬしは浮気できれ言葉
〇待ば海路の日和もあろが得手に帆どよく乗せて見な
〇二の足をふんで居るのに異見をされりやまたもみれんできれられぬ
〇医者さまが小首をかたげて二の匕を投げてやつれ姿を見るつらさ
○契情も元は素人秘蔵の娘うそも誠も人に依
○いへばどふやら催促らしく言ねば返さぬかりたもの
○変るまいとの互のまこと
上るり「欲な事ぢやが極楽の蓮とやらの新世帯」
うまれかはろがそひとげる
○待ば甘露とそりやあま口な待れる程なら気はもまぬ
○鶯にまけぬ音色がたまさかあれば谷の中へも花の兄
○きけば気になるお前の噂
一中ぶし「所詮此世はかり髷の恋にうき身をなげしまだ」
かみも乱れてもの思ひ
○お部やへ気がねもお前が大事艶言も勤もぬしの為
○松に並びしあの山桜
上るり「ちればこそ身にふりつもる花ふぶき」
峯の嵐や恋のじやま
○他の願ひと私はちがふ思ひ切度身のねがひ
○富士とつくばのながめをそへて土手の桜を都鳥
〇はへば立たてば歩めと育た親はお前ゆゑでも捨られぬ
○縁も時節も実が便りあだや浮気でそはれふか
○恋に上下の隔がないといふは不義理の勝手づく
○艶言も詞花もモウ言倦たお酌をするのも癪の種
○胸に手をあて思案をすれば婀娜な人ほど実はない
○子を思ふ親となる身のあすをもしらず今日は夜桜月見酒
○月に村雲私にやお前邪魔としりつつ切られぬ
○花にあらしは浮世のたとへ
一中ぶし「せかれて逢れぬ様になりあはれあふせの首尾あば」
つらい辛苦をしのがんせ
○実も不実となる身のつらさ送る客にも義理がある
○私はかはつた心もないにぬしは口舌の言がかり
○すなをに咄すをお前はじれて横に車の無理ばかり
〇送る茶屋でもむね気な仕方あの妓に呼れてなるものか
〇たつを引とめマア聞しやんせ市に餅つき松の内
○春の霞もみすじをひくは花にうかれる心いき
○しんの夜中にふと目を覚しとなり座しきの貰ひなき
〇名ごりおしげに見送る顔へ露か涙か朝ざくら
○土手の桜をまた夜ざくらと酒が乗気の山谷堀
○降雪をふむも惜いがふまずば人が問てくれまい此けしき
○花のけしきも降つむ雪も心々の目の詠め
○この頃は涙もろいとわらはれ癖がついてふさぐもぬしの事
○春の野に思ひすぎ菜はおまへのうわき案じ心のつく/\し
○ききわけがないと我身で知つては居れど思ひきられぬ恋のよく
○実に思へばわけない事を
「ぐちな女子にみれんな男子よくあひぼれの実くらべ」
思ひ過して苦労する
〇土地はもとより世間は猶も広くさせ度こちの人
〇みよしを突出しさらばの胸にぐつとさし込しやくのむし
〇梅も柳も皆夫々に恋の意無地のあだくらべ
○おそまきながらも辛防さんせト云て涙にむせかへり
○雪のはだへに桜の目もと月にいくらと噂する
○貴ひお方にほれまひものよ
上るり「かはるまひぞやかはらじとおふせうれしく返答さへ」
ごめんあそばせひぢまくら
○無理な願ひもやう/\叶ひ
上るり「しのぶまがきがはし渡し」
あふて嬉しい花の顔
○蔦かつらからみつく程思ふて居れどぬしの心にはぢもみぢ
○気づよふ帰した背後見送りて
上るり「かはる心のつれなさをさぞやうらみてふがひない女子心と思はんしよが」
みんなおまへのためじやぞへ
○今戸焼の様な姿で自惚らしいかはらなひとはよく云た
○かはらないとは田舎の住居野でも山でもいとやせぬ
○衿に顔入何にも云ず泣て男の胸に釘
○行が帰りか帰りが行か蟹と廓の仲の丁
〇引汐に声もかすかなアノ浜千鳥遠くなるみの海になく
〇何卒と思ふたはじめをわすれ悋気するのも恋のよく
○千代に八千代の寿こめて結ぶ妹背の門の松
〇お前を案じてふさがる胸が明の方とはよしわるし
○明て嬉しや初日のかげに花の笑顔や福寿草
○年の内に春のまふけのアノしめかざりめでた/\を松と竹
○市の縁起の破魔弓おかめはづむ手まりのみやげもの
辻うらどど逸
梅暮里谷峩著
〔全部紹介〕
○鶺鴒にとんだよいことをしへてもらひ数の子宝神の末
○うわ気するはずヽヽヽさまも天の岩戸の穴ばいり
〇辛抱しなんせ雪間のわか菘やがて嫁菘の花が咲く
〇見すてさんすなわしや蔦紅葉からむたよりはぬしばかり
〇露の干ぬ間の朝がほならで越すにこされぬ大井川
〇親兄弟にも見かへた人をあいつにとられてなるものか
○実をつくすもふじつをするもこころひとつの相手しだい
○程も可ければ男も美くてそれで金満家女房もち
○月も入さの山の端がくれ身につまさるる鹿のこゑ
○したしき中にも礼儀がだいじもとは他人のことだもの
○夫婦おや子の中よい家は奉公人までつとめよい
〇むかふも否なら此方もいやよ最初からむしが好なんだ
○たがひに独身何はばからふはれて女夫に成がよい
○おもふとをりに願ひもかない実にうれしい身の果報
○己が身をあとへ/\と田うゑもやうに卑下すりや憎むものはない
○ひよんな浮気をするのも楽な栄耀すぎての菜ごのみ
〇老人すぎるとわらはば笑へわたしにヤ大事なうちの人
〇若い男に気をもみぢ葉の後家に浮名がたつ田川
○中がよいとてゆだんをするととんだ悪魔が水さす
○花は咲ども梢の枝で手折られもせず見るばかり
○たのむといはれりや捨てもおけぬどうかしうちをつけてやる
○酒はのめどもつつしみ深く義理をかかねば身がもてる
○欺されて根こそげむしりとられたうへに突出されるとは口をしい
○今まで首をおされてゐたが是から世に出て楽をする
○いやな辛抱する気にならばこんな貧苦を仕はせまい
○金利の上りで小いきなくらし夫婦小をんな朝寝して
○咽へ出るほどとうなすおさつたべて見たいが身のねがひ
○役に立うがさてたつまいが武士に二言があるものか
○風にもまれてただよひながら岸へつくかよあま小舟
〇萩の下露つゆちりほどもきみに命はをしみやせぬ
○梅のむすめに柳のわかしゆ陽雛陰雛のさくら色
○色のせかいをさらりと捨て是から夫婦でともかせぎ
○ねとるたくみの胸わる女人のなげきもしらぬかほ
○うるさすぎると愛想がつきるりんきふかいもほどにしな
○日にまし繁昌家とみさかえ上下そろふてむつましや
○何かにつけて邪魔するやつは河豚にあたツて死ねばよい
○家のはんじやうよしあしともに女房ひとりの胸にある
○門の犬にも用あるたとへ愛想づかしをせぬがよし
○先は主持たよりもしれずいつて見たいにや籠の鳥
○中口きかれてうたがはれたも春の氷ととけてゆく
○ほれた性根を見透されてかやみとよわみへつけこまれ
○ほれたお方にまたほれられてこんな嬉しい事はない
○じいうになるとて我ままするな満ればかける世のならひ
○ふざけさせるは男のせいよ女に鼻毛のばすから
〇神や仏をしん/゛\しやんせねがひのかなはぬ事はない
○賢い子ならばその母おやもさぞやさぞ/\さぞ利口
〇不義理さへせにや世間は広いたとへまづしくくらしても
○汲どへらないくまねど増ぬ井戸の水性うわき性
○なまじ互にあらたまるからをかしく他のめにもつく
○鍋のいとこ煮ごた/\すれど妾ばらでも種は子
○かんしやくもちでもこツちの仕やう馬の手綱に舟の楫
○ひとめ忍んであひ引したも今じやはなしのたねになる
○ないしよはできても世間があれば媒をたてて御婚礼
○親はふしようちわたしにやすいた意気な人ならなまけもの
○ふところが豊ならねば万事につけてゆきとどくとは讃られぬ
〇しらぬ旅ぢにくらうをしても人にひと鬼はないものだ
○夫たいせつ親にも孝行するが女のあたりまへ
○うれしがらせつ又おこらせつわざはひまねくも口がもと
〇風に木の葉のちらされたのもかきあつめれば籠の中
〇呉竹の慾をはなれて操節をまもり他のとのごの肌しらず
○きりこ燈籠のうわべの飾腹も実もないこころよし
○こみ入た綾があつてはちよいとはとけぬささいな邪魔ならわけはない
○酔たしやツ面つく/゛\見れば歯くそよだれに筋だらけ
○妖し上手よ水性狐どうか末まで化とげる
情歌花言輯 完
一荷堂半水編輯〔嘉永四年〕
〔全部紹介〕
〇綾衣社
○きらはるるともめつたに余処で好たりすかれて来ぬやうに
○わけは出来たに訳ないさきの片おもひをばいまにさす
○来るとのたよりをしらせてもろたひとまで恋しひあはぬ間は
○すんだ顔すりや済事にしていつも素気なうしやさんす
〇あかぬ他にんとおもへじやなぞと実の他人にいはれても
○啌がまことでまことがうそであらばぬしかて実じやけど
○あへぬも道理よ逆夢じややら否よまい夜さ逢ひつづけ
○主にや得いはず人にも言へずあてつけ言ふたは猫ばかり
○また啌かいなモウおかさんせ適に寝ゐらずまたんすりや
○泣ずこらへて笑顔がなろかすげなかろとはおもへども
○にくひよ此雨はん時まへに降ば無理でもとめるもの
○可愛さうなのそのこころ根があらば此苦もすけさんせ
○雪輪社
○ひとのこころのかがみとおもふ月さへ折にはくもるもの
○すきと思たが初会でなくばあのままいなせる人じやない
〇気をばまはせばみな気やすめとおもふうちにも実らしく
○襟あかはまだつかないさきにそではなみのしゆみにした
○しげ/\逢てりやアノ鶏鐘も耳にやつくまい是ほどに
○このみだれがみ此やつれがほ主ときくまで気もつかず
○大川社
○筆まで苦労の相伴さすよなんと書ふとおもふ間は
○ひとりのそしりにさされたゆびを喰へさせたいこの苦労
○いつとて気づやうされてはゐれど嬉しくかへせる人でない
○こころのうれしさツイ言ひかねて人にしん気な顔もした
○をなごに油断はならない物とおもうてゐさんせ余処でなら
○モウ女房じやとあきらめさんせよそから他人にしておかにや
○すこしの浮気は苦にせぬ迄に思ひなほしてまたのろけ
○余処の癪おすこのにくひ手をまくらにかる夜がうれしとは
○こがれ仲間のより合つけてなみだの直あげがしてほしい
○わかれぎたない恋こん性とて鐘のかづさへよみなほす
○あし音にさへなじみが出来てふたつときり戸はたたかさぬ
○わたしひとりに身をいれさしてぬしは鱶だよ高いびき
○松花社
○あかし合たらこころがゆるみツイうすくしたさきの気を
○なぶられてさへこれほどまでにわたしや実意におもひ詰
○いはずかたらず笑がほを見せて浮気しぶりのにくらしさ
○逢へるあしたがけふいち日とおもや恋しひこの夜とて
○花川社
○いはぬさきからあやまらさんすそのこころ根の気味わるさ
〇それがうわ気のしたごころかよ今いふた事すてさんす
○此つめがたののかないうちに首尾のへんじをきめさんせ
〇南浮世社
○わたしも主ほど気がかはるなら楽なほれ様とかへるもの
○ぬしより他人に物かづ言ふたはたからそねみをうけぬよう
○さもつらさうなおまへの素ぶりわたしにおもいれほれられて
○他にんはともあれわたしの気ではのろけすぎたとおもはれぬ
○気がねだらけよ世けんもひともおまへたよりときめてから
○たまさか逢のにさうすねずとも実意おもうていふた愚ち
○無理どめする様な気の女子なら遠ざからしはせぬものに
○すきと言ふ人しらないさきはこんな愚ちでもなかつたに
〇気づよい口絶もまつはらいせにいうてはこころで手をあはせ
○あはずにゐれども気は知りながら逢ばいつもの愚ちばかり
○河豚にやいのちも打込むぬしがなぜにわたしにやすげなかろ
○竹龍社
○啌いうてなととめおく智恵がでたよ去せたそのあとで
○うれしいおまへの顔見てからは帰した実意にやなりにくい
○見すかされたよこころのそこを主のうわ気で他人にも
〇ひとつのはん台ふたりが中へ苦らうわむかしのはなし酒
〇逢てほしいの来てほしいのといひくたびれたよおまへには
○文久社
○すてられたかとおもふたひとの膝になみだもひさし振
○おまへにあかれて泣つつ余処で好れて笑がほが見せらりやうか
○やさしくさんすりや又啌らしく泣されたとて実はなし
○きめた此夜をなぜこのやうにしびれましたよひぢまくら
○今まできいたる啌ほど実がありやそうてゐよこのごろは
○なにか気ずみのせぬかほつきと猪口をさしては気取する
○せめて一度もうれしく逢はばそれからかなしくくらすとも
○気はづかしい気がまだのかぬ内モウ気苦労をささんすか
〇江岸社
〇鐘はうれしいくれかたなれどヱヽこの雨にもかへすかと
○初手から添ないわけ承知して世帯づもりを口ぐせに
○嬉しはづかし其転び寝がかなしくくらすよこのごろは
○ぬしと女房にやいひかはさねどこころできめたも首尾の度
○添へぬえんならいらないいのちそへる縁ならいるいのち
〇髪に手を遣る気はなけれどもせめて夕べのまくら癖
○歌柳社
○とめず去す気推量せずにうたがひことばがはらがたつ
○作病おこしてまつうれしさがいまじや真から癪にした
○寝間へゆくさへ氣味わるいほどうらみ聞した言ひすぎた
○北陽社
○エヽ逢せたとて無ごんのわかれこのまちびとが義理の間を
○野暮なをとことしりつつ惚りや苦にもならぬよその無理も
○愚痴じやと堪忍さんすりやよいにとがないまくらを投てまで
○むごらし人じやが癪まで見すてそりやいぬる気もないやうに
○花楓社
○うらむ中にもやさしいひとよまだしも気がねをさんすだけ
○身にもしみ込ほどうれしさがいまじやこころのやつれとは
○素面で言うてか酒きげんでか日ごろこころにおふてか
○そのくせふつつり忘れもせずに来さんす気で居て泣すとは
○たれゆゑおこそかわたしが癪を意気なやまひとおまへまで
○とくしん仕ながらわかれてさへもつらひにふりきり去れては
○はれぬよおまへがなかせたとがか曇るかがみも愚痴にみりや
○主を寝かせてうれしく解ば帯もにくひよねづみ啼
○おちかひうちにと言ふまでもない遠座からずに来やさんせ
○不自由がちでもとくしんづくよ三味をまくらで出来た中
○合間にや此手もまくらにさんせとめるばかりにつかはずと
○さからはぬやうおまへの機げんとるばかりでは気がすまず
○社外之部
○こころはともあれ膝だけなりとわたしがなみだにぬれさんせ
○つくしぬいたるまことがすぎてをかしくおまへにうたがはれ
○切れるわけでもわしやきれられぬ義理がみれんに勝ものか
○うらみいはせて気にあたるやらをり/\笑がほをにくらしく
○逢夜だけなとやさしくされりやこんなに苦労もせぬものを
○他人はばかる他にんも他にんめうと中とはいつの間に
○むねのくもりもはてどこへやらはれて月夜にして見たい
○あてこといはぬもうらまぬふりようたぐりやなんだか気にかかる
○江鳥社
○機げんがほ見りや又見るにつけうれし人でも出来たかと
○あかし合たりうたがひ逢ふてたがひに気やつれさせるとは
○うれしさ離れて恥かしはじめ寝た夜がかなしさごはじめてとは
○知らずにうらんだかんにんさんせなぜ今までにこのじつを
○寝させておきたし鶏鐘ごろはいひたいうらみののこりかて
○だきしめ合たる此うれしさをあくまでおまへもすてぬよう
〇花鳥社
〇やつれついでにおまへも痩て似たは女夫と言はれたら
〇顔は見ながらものさへいはず皮肉で知らせて迷はされ
○猪口もすすいだ宵にはかへてこのさめた茶の口うつし
〇あんまりやさしう聞やあんじるよまた遠座かるした地かと
〇かくしながらもこころのうちで此首尾見せたいひともある
○ぬしへつとめるこのつとめさへ浮気でする様な言ひはなし
○此方からこがれた人には実がしれぬよ他人のくちさきで
○すねてわかれて寝る気で居たにまたおもひ出し/\
○うらんで居さんせう此苦は知らず待せて居る身のつらさより
○ふくんでもらふたひとにも啌を言うて首尾した気もしらず
○何を見とめて此年季までますよ苦労を増ひとに
○針のさきほどきくしん実でわすれて仕舞たよ癪までも
○をとこの癖かとおもふたときがつれないまことであつたとは
〇とくしんならこそ素直にしばしわかれもしますとなみだぐむ
〇兎や角ふ言ふはず此夜明しにしやくもおこさせわすれさし
○やけでかよふて居やさんせうかとつづけて逢やまた気がもめる
○素気なうしてまで此くるしみは他にんがたにんとおもふやうに
○笹蔓社
○まかせて居る身をまかせぬひとがいつまでつとめとさぐらんす
○わたしや客じやと諦らめてると言ひつつやつぱり間夫気取
○啌もまこともかうふけたなら千にひとつはかなふはず
〇ちつとは気も折真実が出よと素根てる間のむやくしさ
〇待もたのしみまた苦しみよツイ思案からしあんすりや
〇無理もいはんせ無理ききますよそしてしん実あかさんせ
〇うれしなみだもとまらぬさきに一人寝せうなぞ素根さんす
〇夢かとおもふよおまへと今宵まくらならべて寝やうとは
〇いつもひとり寝する身でゐては憎ひわかれはゆめでより
〇ほれたと言うてもをなごの口にや神にあかしていふばかり
〇翌もいちにち居さんす実がありや素根さんせいつまでも
〇うれしく聞れぬその気休の中に女房とひとことが
○顔見りや寝られず寝りや猶の事これが他にんと言はりやうか
○三橋社
○恋しさ逢たさまはらぬ筆でおもはぬ愚痴さへかいて見た
○のろけさされたおまへにさへも蕩気た浮名がはづかしい
○どうでも一座はヱヽしん気だよツイいふことも気がねして
○雪花社
○わたしを出しぬき主やすずみ船このごろうわさのアノひとと
○浮気なぬしもち気をもみ抜てわたしがいんぐわとあきらめう
○かくし様もない啌でもむねにつつんでいはんす気がうれし
○浪速社
○さうでもあるまいありや悪口とうはさにあきらめつけるほど
○ゆめを見る様な今宵の首尾にどうぞしたいよあすの夜も
○うたがひ過して腹だたせたも主のこころがさぐりたさ
○気苦労しててもつとめの啌とうたがはさんすも無理でない
〇逢て見せたひやつれたままですこしややさしい気も出よと
〇蔦松連
○今朝のわかれでさへこれじやものそれが夕べにかへさりやうか
〇浮気さんしたおまへのつみがこんなにわたしにむくうとは
〇うれしく逢夜は恨みもわすれうつかりあかすよ実と夜を
〇待つ夜うらみし寝よとの鐘をふたり聞様になつたらなら
○夢になりともおもふだけのはなしが仕たいよこがれては
○かまはぬ/\世間はせけんわたしやわたしでほれた人
○そのまア浮気で其まアうそがそのまアかほしてにくらしい
○それが実じやとどうおもはりやうわたしのいふことおまへから
〇ふけて見えるといはれりや嬉しモウ女房気でこのごろは
〇恋蔓社
○やう/\この胸はらした夜からまたあたらしいもつれごと
○せめて寝る間をわすれたならばよもやこれほどやせぬもの
○そんなさきぐり苦労はよして今の苦界のおもひやり
○あふてわらふて腹たてさすもすきがさしますなかします
○をなごにのろひは男の常よちつとはぬしにもそんな気が
○うれし口絶がまこととなつて人にもはなせぬわけにした
○素気ないぬしだといふても見たがやさしいぬしだとこころでは
○どうした合性か三世相にもないよ悪性と苦らう性は
○いひのこしたとおもたが愚ちよわかれにや得しんさされたに
○知りつつうつつでツイより添ばしりつつうつつでにげさんす
○そんないひわけ聞やうたがひもはらすよ素人になつたうへ
○梅情社
○逢たその夜のふたりのゆめをあはぬ夜ふたりが案じつめ
○袖ぬらすはずアノ蓮でさへおもひきるときやアノやうに
○ぬしの寝がほをまたながめつめいつか此苦がたへるやら
〇社外情子
○気やすめいふたらモウ去んすかなんぼいふさきふえたとて
○あくまですかせたをとことおもや無理さへ道理をつけてきく
○あかす実意も主や聞ぬふり夢見て居たとはむごらしい
○浮気の証拠にやそれ見やさんせしらぬあて名をまたしても
○恋のあはれをおぼえてからはにくひ可愛が身をせめる
○すげない人とはいふても見たさやさしひぬしだとこころでは
○気にもせなんだアノすてことばあふたびこのごろ気に当る
○とてもあぶらを取るるならばとつてほしいよかのひとに
○間夫があるなら添はしてやろといま由良さんはないかいな
○のぼりつめたるのろけの玉章はいつもくだらぬ事ばかり
○おもひおうて添はれぬときは実もたからのもちぐさり
追加
○笑がほにかへしてためいきほつと是じや一人でそえぬはず
よしこの玉撰集 全
〔嘉永六年〕
〔全部紹介〕
○深い情の根引にすれど松はさほどに思ふまい
○あだなねびきになるともしらずまつはすなほに身を任す
〇たまの子の日に引残された松もそぶりが悪い故
〇なまぜ常磐の色さへなくばまつもねのひの苦はしらぬ
〇むかし子の日の苦労を思や今は気楽な古木松
○もゆる思ひの蛍も草の影で逢瀬を遂た露
○露に逢せをとげたる故かうれしほたるの羽つくろひ
○月の出ぬ間とおもひにこがれ人めいとはず飛ほたる
○すかむ蚯蚓のぬらくらものがだまし懸たる蛍狩
○泣になかれぬ身に引くらべもゆるほたるのおもひやり
○しばし盛の朝顔故とさはり次第にまとひつく
○抜て出たかよ気はあさかほの聞ば隣で咲うはさ
〇ぬけつ潜りつ咲朝顔は垣の外面に芽をくばる
〇みだれ咲なるあの朝顔は露の情も薄いやら
〇ほんに勤の身はあさかほでその日/\の花がさく
〇月に捨られ気も細/゛\とやつれ果たるかれを花
〇見かへられたかあの月影にうつす姿も枯尾花
〇ゑヽもすげない夜寒の月と招き果たるかれを花
〇もはや月には添れぬ色とうき世捨たる枯尾花
〇月もそふたる昔を思や捨て置れぬ枯尾花
○とかく邪見な風ゆゑ波も船に思はぬ苦労かけ
○事と品との流によらばついて沈まん碇綱
○いれぬうちこそ気をせくけれど入りや落つく港船
○きつとたよりになる木と見込つなぎとめたる舟の綱
○つらい鳴戸で苦労をしたるかひも渚の捨小船
○いやか応かのまだ返事せぬうちは花やら嵐やら
○あだな咄しについすべり込親にあかせぬ疵をつけ
○肩の縫上おろさぬうちにかくし所をふくろばし
○きへたあの灯が結ぶの神かただしやくらうのさせ初か
○くらい所へ引入ながら他言するなと五重さす
〇意ひとつが定かにならぬあだし心はもたねども
〇言てさへふさぐ思ひの重るものがいはでつつしむ身のつらさ
○親も時節もただもどかしくあだに忘れてたつ月日
○とこふ思案で柱にもたれ起てゐながら主の夢
○恋の屋の路の夜が明兼てうかと踏れぬ迷ひ道
○かわり易さのうき世は夢とうつつ定めて無分別
○色は思案の外道筋とそれて迷ひの路に出る
○恋の細道せかれてゐればふとい心が出るわいな
○死なばともにとおもふが無理か生てゐてさへ迷ふもの
○初手にや嬉しい情も今はほんに苦労の仇がたき
○何を悋気か木の根が廻りあかぬ野水のわかれさす
○ぬけつくぐりつ岩間の水も末はひとつに添遂る
〇とめて止らぬ出ばなのみづよ関を打越はしる川
〇水の出はなをせかるるからは末は泥とも真水とも
〇関にせかれて早瀬はほんに深い思案もみづの泡
〇こころ強いと尻ひねられてひんとはねたる扛秤の棹
〇おめにかかれば不足を言れ合ぬ秤に狂ふ身は
〇きめるあのめを忍びし恋のおも荷一はい掛たちぎ
○かはら無との心を鎮に恋の重荷をさげくらべ
○かるい身じや故釣合ませぬなぞとひん/\はねるやつ
○金がほしさに惚たと言ばいやな命もやろといふ
○ひかす/\は三味線ばかり調子合すも馬鹿らしい
○お茶挽た夜さは主がにへくりかへしほんに身もよもあられ釜
○はおり商売して居るけれど胸にくくりは付てある
〇尽す誠も三十日の月と気障なたとへがくもらせる
〇へんな風から別れた蝶がみれんらしくも元の艸
〇蝶の気儘に思ひが増とひとりくよ/\もゆる草
○あちらこちらで馴染が出来てとどき兼たる春の蝶
○咲た菜の花こがるる蝶も尻のすはらぬ浮気もの
〇夢になりともてふ/\の様に主と荘子てくらしたい
〇待し苦労もただ一声とおもやくやしい郭公
〇まつた程には思はぬ故かわかれつれない子規
○あだな声聞きや一座の前もうはの空なるほととぎす
○しらぬむかしを思へば愚痴に迷ひつめたる時鳥
○昼もおもはぬことなけねどもまして夜に啼杜鵑
○もはや秋かといふ間もなくて草のたもとに露を持
○艸葉たよりに身をおく露もわづか一夜の憂思ひ
○おもひ/\により添中を風がそはさぬ草の露
○うつり易さの一夜の露も草にや誠の身を任す
○思ひ置露草葉にやどり朝日さすまで濡つづけ
〇ひよむな嵐にゆりつめられて積り兼たる竹の雪
〇しをりそふだが又はねかえし知らぬ振する雪の竹
〇じつとこらへて受てはゐれどをりにやすねたるゆきの竹
〇横にこかされもう得心と雪の手づめに成た竹
〇雪の情を受たはよいが竹も苦労の見えた振
追加
○へんなとこからもつれが出来て風も柳をいぢるやら
江戸の花あたり都々一
〔嘉永甲寅〕
〔全部紹介〕
○はらたたせぐちをいふのもみなじつぎから
新内「おまへのそふしたかんしやくは、常のこととはいひながら、四つ谷ではじめてあふたとき」
とうざの花ならいひはせぬ
〇なみだふき/\身をすりよせてひざに手をかけうらみがほ
〇おもふこころをめかほでしらせいつかほにでるはなすすき
〇神にかけたるきしやうをすててこころがらとてくらうする
○さいけんをとつてなげだす女房のりんき
端唄「よどのくるまは水ゆゑまはる、わたしやりんきできがまはる、ほんにやるせがないわいな、じつ/\やるせがないぞへ」
ふみならつのでもはへるだろ
○たよりずくないこのみのうへをしつてゐながらにくらしい
○うちの女房のつのをる夜半にやさきもつのかとあんじられ
○ぬしにいはれたあのひとことがおもひだすたびふさぐたね
○かむろだちにてはねつくむすめ
常磐津「ひとごにふたご身はよめごいつかむかしのささめごと」
どこのをとこにそふであろ
○久しくあはねばすがたもかほもかはるものかよこころまで
○広い世界にせまいはわたしうわきなおまへをひとすぢに
〇おもふほどおもふまいかとはなれてゐればぐちなやうだがはらがたつ
○ほどもきりやうもすぐれたおまへ
常磐津「いつたいそさまのふうぞくは、はなにもまさるなりかたち、かつらのまゆずみあをうして、またとあるまいおすがたを、おくげさんがたおやしきさんの、おほくの中でみそめたが」
人のほれぬがわからない
○おれもをとこだ口へはださぬむねにはだん/\すゑのこと
○はやく苦界をめでたくかしこかへす/゛\のなきように
○ままになるよでならないからはいづもにもめでもできたやら
○ゑはうまいりにはつ卯をかけて
清元「春げしき、ういてかもめの、ひいふうみいよ」
ゑふてたけやのふねをよぶ
○親のゆるさぬ三味せんまくらひくにやひかれぬばちあたり
○あめのふる日と日のくれがたはなほもおもひがますはいな
○一日あはねばぢびやうのしやくが夜ふけてさしこむまどの月
○これぢやならぬときをとりなほしなみだながらにうすげしやう
○月のまるさと恋路のみちは
常磐津「ちいさいときからおまへにだかれ、手ならいせいといはしやんして、お手ほんかいてもろふたが、いろのいろはのおししやうさん」
どこのいづくもおなし事
○きしやうせいしもむかしのことよくらうしとげたはなしぐさ
〇人のはなしにうはさをきいてむねのくらうがなほまさる
〇はでやうはきでよぶものならばしんぼしやんせといひはせぬ
○わたしにひとこといはせておいて
新内「なんのいんぐわに、そのやうな、きづよいをとこが、わしやかはい」
あとでぶつともたたくとも
○くらうしどほしきはもみどほしお茶はまいばんひきどほし
○なにをいふにもおまへがちからほかにたよりがないわたし
○すゑのすゑまでもつれてとけてむねの柳に恋のかぜ
○かれしばのもへたつやうにわしや思へども
常磐津「いはぬはいふにますほのすすき、百夜かよふてまことを見せて」
さきがなまきで火がつかぬ
○あだに吹よるいたづら風にうかとなびかぬ女郎花
○日かずかぞへてやれうれしやとおもふまもなくこのしだら
○結んだままなるかれののすすきにくい夜かぜがなかにたつ
○わたしばかりにぢやうたてさせて
「千も二千もさんぜんも、世かいに一人のをとこじやと、たのしむなかのわかみどり」
それにおまへはういてゐる
○口にやださねどわたしがこころぬしにしらせるしのびこま
○苦労するがのあのふじの雪とけぬおもひに身をこがす
〇三日月のくしをいただくやなぎのかみをすゐな夜かぜがうごかせる
○しんにつらさをしんばうするも
常磐津「人目しのびて、おほざかの、せきよりつらい世のならひ」
ぬしのためだとさつしやんせ
○月かげで顔をあはしてそのままわかれあとのこひしさやるせなや
○玉川のみづももらさぬおまへとわたし通ふ恋路にあひにくる
○ふたつならべし船ぞこまくらこがれ/\てふかいなか
○おまへいやならつん/\しやんせ
清元「それよりわしがいやならば、ひとりみらいへいつて見や、男心はさうしたものか」
わたしやわたしでぢやうたてる
○いろのとりもちやなぜこのやうに人の恋路にきがもめる
〇わたしやはかなきかこひの花よ風がわるけりやちりやすい
〇ぐちぢやなけれどこれまアきかしやんせたまにあふよのたのしみさ
〇十二ひとへのきうくつよりも
新内「ごしんぞさんのおくさんのと、うへ見ぬわしでくらすとも」
ねまきひとつでぬしのそば
○ふみのやりとりはれてはできぬうわきするのもむねのうち
○夢でみめぐりくるかとまつちあへばこころもすみだ川
○おまへひとりが男じやないとこいうてこころでないてゐる
○なまきをさくよなこんどのしまつ
義太夫かぶと軍記「さらばといふまもないほどに、せわしないわかれゆゑ」
これがなかずにゐらりやうか
○うきなたてられ一度もあはずこんなつまらぬことはない
○ぬしをおもへばてる日もくもるこころはるるもまたおまへ
○山吹の花のてる/\こがねのいろを里にうつせし井出のけい
〇夜なかすぎてのすゐつけたばこよひのくぜつのなかなほり
○しんにつらさをしんばうするも
宮本あさま「いやなきやくにもひよくござ、おもふおとこのやまどりの、おろのかがみのかげをだに、見ぬめにくもるうすづきよ」
ぬしのためだとしんぼする
○人もほめるしわたしもすいたほんにどうともしてみたい
○ほれたこころをさとられまいとすいたおかたにやあらたまる
○さきはせじものてとりのいろしつくす手くだもせんこされ
○わたしばかりにくらうをさせて
清元「それそのやうにいはんすけれど、この梅川が身のつらさ」
おまへのこころがしれかねる
○くどきじやうずについかけられてさいてくやしきむろのうめ
○朝がほの花はうわきですゑたのまれぬおもひ/\のいろにさく
○おくる玉づさ心のたけを筆のいのちげたえるまで
○たま/\ふたりで花見に出れば
清元「てんにわかにかきくもり、たい雨しきりにふりしかば」
そこでこつそりしゆびのまつ
〇おほいおきやくのあるそのなかにまことあかすは主ばかり
○まけぬきしやうでつよくはいへどほれたぢやうにはをれやすい
〇門づけのあだなもんくも身につまされてわたしやこころでないてゐる
〇はるかぜにうかれあるいてうか/\土手へ
一中節「日本一の大門口、瀬田の夕せふいまここに、ゆふぐれてらすなかの町」
のぼりつめたるうわきなおまへ
○つめびきのふとしたことからてうしがくるひいまじやたがひにしのびごま
○なみだではげしおしろいなほしいやなざしきでせじわらひ
○あふても/\まだあひたらぬそわじややむまいこのくらう
○用のありそな手がみをよこし
清元「うちをしのんでやう/\と」
きてみりやいつものぐちばなし
○みせでわかれてらうかでないてすかぬざしででにがわらひ
寿井の太頃 全
〔嘉永時代〕
〔部分紹介〕
(この書は浄瑠璃、端唄、大津絵その他いろ色の唄を集めをれり、中に「よしこの」もあり、ここにはそのよしこののみを抜記したり、この書の年代は明かならざれども、一荷堂は前掲「情歌花言輯」の編者にして、同書は嘉永四年の出版なれば、この書を嘉永時代のものと認め置くなり)
初編
○まことつくせどまだ疑のかかる此身のやるせなや
○かなしくくらしてたまさかあへばつらさ忘れて嬉し泣
〇さした手枕抜さしならぬ実とふじつの右ひだり
○捨て見さんせ斯なるからはおまへに習ふたいきぢでも
○初手はてくだにさす手枕も今ぢや抜れぬ身のつらさ
○追れはらはれして飛蝿も放れかねたる主のそば
○かたい心はもう止さんせ心太さへいろでうる
○薄くなるからあの甘酒もそこを見せては水くさい
○添て居ながら身はあさ東風に便りないぞへ蓮の露
○おもはぬ口絶に凉が更てたがひに袖さへしめり勝
○おもひすごしの口絶がつのりあとは命の延ちぢみ
○つぼにのろけて寝るのがばちで出るにでられぬ手長蛸
〇早う三すじのつとめを止ておもふひとすぢ遂るよう
○古いやつじやがざこばのしけで鯛のないほどおもひつめ
○やがて儘にも鳴子の引手きれて稲とはどふよくな
O宵にや程よく合た鐘がうつてかはつて別れさす
○あはぬ癪より逢たる今朝の鐘で別るる身のつらさ
○今は重なるおもひが叶ひ丸ふそふたるかがみ餅
○枕当がひひざすりよせて吸つけたばこの口うつし
○浅瀬と知らずに乗上られて引にひかれぬ登りふね
○嬉し泪を悟れまいと人眼かざしの袖あふぎ
○羽おり着せかけ又さきの首尾胸で結で別れ際
〇いやな客には水つぼ抱せあとで大きな尻がくる
○おなじ船でもわしや引船よあとのお祭知りはせぬ
○昼も正月摺鉢まわししのび隠れて乗たがる
○主を松むし鳴音を止ばもしやそれかと気がもめる
〇すぎし一言まだ耳底にあつて夜ごとの夢にまで
〇おもひ切たとことばのはしにどうか未練の残り口
〇逢ぬ其夜のしんきに連てともに枕もいぢられる
○すがた見せずに憎いよ風はそつと通ふて花ちらす
二編
○たとへ岩きる早瀬の水もあとへ引ない登り鮎
○恋の山路に分入ながら花も手折ずかへる野夫
〇鳥渡うわ気でむりから突てじきにとまつてこまる羽根
○かんにこたへて眼にもつなみだうらみ顔なるからしあへ
○今朝のわかれになごりををしみないてわかるるはつ烏
○ぬしの合酌こころにこめてちらぬほどつぐ花見酒
○思ひあふたる中とは見えぬ声にさうゐの猫の恋
○のぼりつめたる身は奴凧きれてくやしく木にかかる
○梅に眼鼻があるのかしらんにくいうつり香さすはいな
〇かたいつぼみも一夜の床に咲て色ます福寿草
〇つもり/\しはなしの数も合てとけたる春の雪
〇花を見捨ていぬ雁がねはなんぞつもりの有であろ
○恋で落ぶれ暮そとままよさがりながらも藤は咲
○なさけしらずに折れはせんと花も深山にかくれ咲
○たがひ違ひに声はり上てさわぐ島路の百千鳥
○都そだちの梅の木なれどぬしへ此身を筑紫潟
○ぬしにあをふと冬から門に出はなるる旭をまつの内
○捨てあれどもあいけうあれば人の眼につく春の草
○花が花やら咲ぬが花かさかぬつぼみの内が花
○むりにいとないはらさぐられて笑顔ながらになく市松
〇恋の苦労で海山こへてしらぬ他国で炭俵
〇三輪のおみわはわしやしらねどもぬしの帰りに糸を引
○それとさとられ言訳しても袖のうつりかのきはせぬ
〇佐用姫が石に成たもそりやまだ愚金に成身のわが物を
〇一と夜二た夜はそりやありうちよ九十九夜さも合ぬ恋
〇主の心と此三味線はとかくヒンシヤンなるわいな
〇早ふ咲そと気は席台の笑顔見せたる糸さくら
○千草結びのべつたり合て嬉しながらもはづかしい
○村雨にみののかわりに山吹出してやたけ心をやわらげた
○つらひ勤も身が可愛さにしんぼ仕とげる二日灸
○寝ても覚ても苦にやむ胸はあいた/\の癪のたね
○人の手前は薄茶じやけれど主の濃茶で目を覚す
○是此雪におまへをむりにいなす心に成て見な
○闇も月夜もいとはずかよひおもひはらした猫の恋
○はれた夕日が添よるゆゑにまよふ色なる花の峯
○だます泪を滝ほど流しそれにのろけて登る鯉
○今朝の追手に友綱とけば恋に別るる舟の猫
○うそとしりつつのせられましたうまく車の廻る口
○底の底まで沈んだうへはあまで此世を渡ります
○合ぬ不足をきく度々にほんにしんきな小遣ひ帳
○はだと/\重り合て色をあらそふ菱の餅
○いの字かくにもお師匠さんがいるにいらない恋のみち
○かね付る迄はだいじと人にもすかれひねて捨おくはじき豆
○親がさしづをする間もまたず先へちぎつた庭の柿
○たたむ小袖のしわ引延し火のし片手に当こすり
○露のなさけがツイ重りて深ふ紅葉に色がつく
○軒に青/\つられてまつもぬしに合たさ忍ぶ草
○夢かうつつか起ても寝ても君のおもかげ眼にのこる
○鐘やからすに苦がないやうになつて今さら身の苦労
○こころよさそな顔して穴を人にせせらすみみの垢
○かたい要の扇でさへもあきが来たので捨られた
〇みづにすなをな心を見せてかぜに浮気な川柳
〇花の散ころ鐘の音きけば秋のくれより哀れなり
○留守にした事かぎつけられて青い顔する木のめみそ
○すいたぐわへも泥みづ住居そこの風味が水くさい
○青すだれかけた小舟のなかにくらしや仇な根〆の羽織妻
○風もをり/\こころが変るわたしや一筋恋のかぜ
○陽気浮氣の心も今はさかり過たる姥ざくら
○ながめある野に分るる春と聞て雲雀も鳴くらす
○たれも見とれぬ浮気な風が前をまくりに来るわいな
○長い夜じやとは恋せぬ人か秋も逢ふ夜は明やすい
○じつとしてゐる木馬でさへもこしのひねりにいのき出す
○愚痴や恨の文引出してあてる枕の中直り
○坊主持とんと忘れて見とれ居れどほんにやさしい尼の顔
○勘当されたは一世の親子二世のおまへにや替られぬ
○縁をむすぶも切のも筆の心ひとつのむすび文
〇みだれ心になつたと見えてくさい身持をする玉子
〇手ふき紙からふともめ出して事のやぶれとなりし文
○手づまはやしの調子にのせて馬を呑だす床の内
○手鍋どころか地獄の釜もぬしとそふならなんのその
○つらや障子にうつりし影の小声咄しが気にかかる
○花にほめられ葉でにくまれて色でまよはす糸ざくら
○うたた寝にすきなお方の夢をば見たがさめて恋風引そへる
○竹婦人さへ勤のうさに通ふ嵐の間夫がある
○間夫にや下紐とかせて置て客に日がらを括りつけ
○色けついたかもうちぎり初めあだにや茄子の咲の花
○親の後とると思はぬ器量がじまん男ぐるひをする娘
○こひの薄いのしつくわいいはれ色で苦労をする染家
○ぬつと這入て出りや青くさふにほふ菖蒲の風呂の湯
〇ふたり添寝の枕もゆめでさめてかひなくぬらす袖
〇月は真事をうつしもせうがそこのしれないにごり水
〇こよひ逢ふとの約束きはめ永ふ覚えるくれのかね
〇色もない身を水あげしられ客へつき出すところてん
○ぬしと蟹とはようにた心にくやいじから横に出る
○いやなそひ寝のつとめの夜さはあけのからすを待かねる
○坊主にくけりや袈裟までにくいあけの鐘をばつくゆゑに
〇茄子田楽わたしのこころむねをやいたり味噌つける
〇しのび車としつてか牛もよだれながして曳わいな
○仇なうはさが世けんにたつて気がねして出る門すずみ
○すぐで居たものおまへにすられにくやいがんだわしの墨
○地場をえらんで種まいたゆゑひとつ咲てもとまるうり
○よい首尾を早ふ聞ふとかんざしぬいて耳のあかをば取て待
〇二世や三世はそりやさて置て当座そふさへままならぬ
〇鐘もうらまず浮名も立ずほんにきらくなひとり住
〇露にあこがれまつ虫さへもいつか籠をばぬけて出る
〇くるい出したる心のこまをつなぐ立場がないわいな
○にやいますかと眉毛をゆびでおさへながらもはづかしや
○逢ぬしんきにふさがる夜さは蝉の音めが耳に立
○光り有身をついうか/\とやみに迷うて飛ほたる
○糸へつば付あかりで穴へ入る日ぐれの針仕事
○たまに逢ても枕のちりはつもるはなしに山と成
○意知が有のか二人りが中をくらい身にする火取虫
○浅い/\と思ひし内にいつか深なる川遊び
○かいた物さへやくには立ぬ今宵来るとて今に来ぬ
○おだてかへせばアノ甘酒もなれてまことのあじが出る
○はりつめし胸の氷のいつしかとけてうれし涙と成わいな
○あふてうらみの数々よりもつらや無言の別れぎは
〇合ぬおもひに案じた手事きれて気に成三味の糸
〇暑い情が外にも有というて出て行門凉み
○初物と聞チヤどこやらこのもし成て味はさほどにない茄子
〇来るか/\と待せて置てよそへ逃たる夕立雲
〇恋に上下の隔てがないと聞てうれしき一人言
○親指と小指ばかりで願ひの紙を結ぶえにしも末の為
○月のころびねして居る処へよばひぼしとは気に懸る
○隔てられても心の奥がすけて見へすくよし障子
○とても今宵は逢ぬと知れば早ふ寝てまつぬしの夢
三編
○おまへゆゑなら苦労はおろかたとへ身を粉に砕いても
○まかすからには此たましいをぬしのうはきに入かへて
〇命あつての二人が中にすてて添りやう筈はない
〇無理な願ひの縁さへとげて捨るいのちもをしくなる
〇ちぢまる程にも苦をした主にそへば長生したくなる
〇長い命を短ふもつもみんなおまへがさせるわざ
〇恋のいぢだよこうなりやせつぱ仇に命はかへぬもの
〇添れぬ中とて今さら外になんのしあんがある物で
〇余そで偽いふ程主にあふてまことが明したい
○さして寝たのか此かんざしの蝶もすすきも乱れだす
○偽いふたがまこととなつてまこといふたが仇となる
〇あふて気のぼせするかほ色を火鉢に酔たと紛かす
○そふた中とて脊中を腹にかへた火ばちの獅子がしら
○むりにいぬ気は外ではないがさきへこころが廻りみち
○色にめづらしまだその内は一重桜に気がひける
○笑がほ見せたる山さへ今朝は春に別れて気がふさぐ
○そふた中とてアノ万ざいがちよつと出るさへ二人づれ
○変ぬようにと年玉入てぎりをかけるもすゑだのみ
○うつつぬかしてけふ此ごろは花に胡蝶もいろぐるひ
○口の誠は筆にていはせ腹のまことはせなでする
〇風におもはずちりゆく梅も今は松葉につながれる
〇やがて見初る頃ともなればとかく噂がはなにたつ
○主といへどもまだよその人いつ迄かへさずおかりやうぞ
○人目つくりてはく白粉はほんに当座のはなのさき
○ちつた梅にはみれんはないがのこる実でする此くらう
〇心うかれぬこの捨小ぶねあかのたまるはむりでない
○酒で忘れて又たばこではおもひだしてはひとりごと
O聞程咄しが我身に迫りなほさらおもひが捨られぬ
○水をさすほど猶色まして心ちらさぬ床のはな
四編
○いやよ音信はつがみなりが始めからして案じさす
○油とらるるアノ菜のはなも浮気してきた後の事
〇雨に濡てはなの花さへもすがた乱してへばりつく
〇仇な桜がちらずにあらば松がうらみをいふであろ
〇焼野の芒と身は痩ながら月に添日を待ばこそ
○あちらこちらと浮気をするか蝶ももつれてゐるわいな
○けふが日迄の恨みははれて又の首尾をば言のこす
○袖にとめたる移香迄もおしやちらせる朝あらし
○昼のうつつが夜は夢となりゆめがうつつの種となる
○吹て退様な其偽りがわたしや気になる癪に成
○つとめする身は皆偽りといつ迄いはれてゐらりやうか
○仁義五常によしはづれても立るみさをは外にある
○首尾に心をくだくも義理をやぶりとむなくおもふから
○あつき二人が恩ある人に礼もいはれぬ此しだら
○風を引たといふてはゐれどむねに覚えの声がはり
○親の落した初雷りにしばし逢夜の道がたへ
〇いやな人をば去せるようと立た箒木が主にまで
○主に智恵をばみな買込れとかくわたしは愚痴になる
○お前に尽した此しんせつは礼をうけたい気ではない
○よし偽りでも聞たい迄におもひこがれた此ごろは
五編
○色と定めて合したからはひしの餅さへかたくなる
○おなじ添ても雛見た様に気むづかしよな主はいや
○切の焼のとアレ菱のもち見た様なお前の色重ね
O雨に叩かれちるやま吹はそれさへ人にはいはぬ色
○言兼さんした心にほれて明くれ心を砕くむね
〇笑うて山さへ別るる春とおもや今さら樹がふさぐ
○鳥渡裾から桜の陰でぬれて出にくひ別れ際
○浮気者だよアノ初虹はまるい中にも色分る
○胸にたづねて心で引てして迄一こゑ鼠啼
〇待身辛気な辻占迄もあはぬ今宵の拍子間
〇鐘を別れとしていぬ人に名残をしいか慕ふ花
〇罪な男が可愛くなつて人にもしらせぬ苦を造
○仇惚さす様なアノ桜にはつれない嵐が添わいな
○おしていはれず我胸いため心でいさむる気の苦労
○行衛定ぬ流れの水に浮て添たる花筏
○若い気性に任せて鮎も登りつめるは無理でない
O明しおくれて誠も啌となつて苦労が又ひとつ
○梅の若ばも実を持からは花を咲せた後の事
〇ぱつと世間へ浮名を立て花は当座に散安い
○やがて身持の気ざしとみえて花もやつれた顔見せる
〇当座かるのは別れのもとよ霜も日に/\薄くなる
〇主に飽れて私はたれに好れて嬉しい人があろ
〇花と蝶さひ迷ひがあるにまして定めぬ中じや物
〇偽り聞さへ嬉しい迄におもひこがれて逢ぬとは
〇添たき綱が切たるからはかたい火ばしも替る縁
〇宵に降ては流れの水もすまぬ気を持朝の色
〇おもひ積雪落して仕舞や傘も今では骨折ぬ
○よもや人眼に悟られまひというてさしたる紛へ櫛
○せつない思ひに啼時鳥それをきことは情無
上るりさはりどゞ一
〇すむのすまんのあんじをやめな
菅原二「あなたになんぞ恨みがあるかただしは時平にたのまれしかよくにはなじみの女房もすて母さまのぎりも思はず」
うをと水との中直り
○富士の山さへ十里にや足ぬ
忠八道行「はづしいやら嬉しいやらあんじてむねも大井川水のながれと人ごころもしや心はかはらぬか日かげに花はさかぬかと」
恋の登りはきりがない
○可愛男に誠をつくし
いもせ山「なみだにしぼるふりそでにむちよ手綱よ立上り竹にサア雀は品よくとまるナ止てサとまらぬナいろの道かいな」
アヽモしんきな事ばかり
○一寸も放れまいぞとおもふたなかは
夏祭「そでなし襦袢一つになりぬいてわたせば針さしの糸のむすぼれえんのはし」
主も五分なら私も五分
どどいつ別な世界
〔安政乙卯〕
〔全部紹介」
○じれつたいほどおもはせぶりな
大工「いなかものじやと思うてからに、あんまりなぶつてくれめすな、じたいそ様のやうな美男をとこのくせとして、女子たらしのすてことば」
こちも木竹じやあるまいし
○程も男もしうちもよいが金のないのが玉にきず
○しゆびをまつちのはなしもふけてあとはうれしのもりのかげ
〇雪はともゑに降しく朝も
言葉「ヘイおはやうござい舛、こん日はごようはございませんか、御酒はいかがでございます」
トマァあれも人の子樽ひろひ
〇夫婦げん嘩は三日の月よひとよ/\にまるくなる
○神かけておくる玉章こころをこめて筆の命毛きれるとも
○かはりやすきのただ人ごころ
み津のあさ「うき世はゆめのやるせなく、ちよきは矢をいるしほどきも、ちやうどよいころしゆびの松、舟じやさむかろきてゆかさんせ、わしがきかへのこのこそで」
こちの心もさつしやんせ
○親のゆるさぬ夫婦のえんも実がありやこそひとげる
○麦のわか葉もたび/\ゆきにおされなければ身はもてぬ
○はらたたせぐちをいふのもみなじつぎから
白糸主水やんれ節「これさわがつまもんどさん、わしが女房でやくのじやないが、十九二十の身じやあるまいし、人にいけんをいふ年頃で、けふもあすもと女郎かいばかり」
たうざの花ならいひはせぬ
○聞けばききばら腹たちまぎれ顔見りやまさかにほれたじやう
○鬼も十七ばん茶もにばなどつか色香のあるもんだ
○雪の初会についたのもしとおもひこんだがこのいんぐわ
○風のつよさに切ても見たがまたもむすんであげる凧
○さし引わからぬおまへのしうちながれの身ながら汲かねる
〇おとなになり田や今全盛をめにも三升は江戸の花
○ぐちをならべしひよくのまくら
三かつ「アレまたやつぱりそんなこと、云てなかせて下さんすな、これがせけんに有ふれた、いろやうはきじやあるまいし、しよてはしられずしらぬどし、異なえんを神さんが、ひよんなおせわのそののちに、尽ぬえにしを松のもん」
いろとこひとのかげもひなたも
○えんがきれてもこころがのこるくれて見にゆくはつのぼり
〇すいた同士に子をんなひとり小袖ぐるみで朝寝ばう
○ほれちやゐれどもいひ出しにくい
小ひな「あきのほたるの身をこがす、はかないこひじやないかいな」
さきの手だしをまつばかり
〇ちよいとなりとも顔さへ見れば雪の夜みちも苦にやならぬ
○花の木の間にあれ誰やらがたれをまつのか柳ごし
○はやくこのさととてつるてんと
とてつりけん「そりやむごいぞへなんじやいな、おまへのせわでかりたくの、しかも初会はさわりの夜、初名代をがてんして、あがらしやんした心いき」
いでてきままがわしや嬉し
○こころゆゑなら手なべはおろか冬もたのしき水しわざ
○山家そだちの芋ほり小僧も金をもたせりやだんなさま
○しづのおだまきくりことながら
忠のぶ「むかしをいまになすよしもがな、たにのうぐひすはつねのつづみ、しらべあやなすねにつれて、おくればせなる忠信が」
恋のしらべのもつれいと
○むりにたび/\あふたが罰かいまははかなや遠ざかる
〇ばかになるほどほれたとしつてじらしてくれることもない
浄瑠理入端唄の交張 初へん
〔万延庚申〕
〔全部紹介〕
○もしもきたかとあんどうけして
女「はるさんかへ」
男「なんかまつくらだぜ」
女「しれたことさおまへがくるからあかりをけしたはね」
男「そりやアまたどういふわけだ」
ぬしのおかげじやくらうする
○ここでそへざばかしこへのいて
清元おかる「やぼないなかのくらしには、はたもおりそろちんしごと」
くちのさきなるうそばかり
○けふはおだやかいざまゐらんと
二上リ大尽舞「しかいなみもおだやかに、をさまるみよこそめでたけれサアほほだいじんまひをみさいな、そのつぎのだいじんは、そも/\くるはのはじまりて、ゆげのだうきやうちよくをうけ」
うかれくるわとなづけたり
○だいじんごかしにおだててやればだんなきどりで手めへづけ
○なにかささやぎやくそくかたく
清元康ひで「おきよどころのくらまぎれ、ばんにやいのとみみにくち」
むべやまかぜはいやじやぞへ
○さてはたよりとてがみをひらき
詞「なんだふみにはかはつたこともないが、なかにまつばがはいつてゐるははてなはんじものか、たよりをまつとかきみをまつとかくるをまつといふことか」
まつはういものつらいもの
〇あたりみまはしそばへとよつて
詞「これさおまつさん、こんなにわたしがいふのに、そんなにかんがへてゐることはねへはサ、ことしはふじへもつれていきやす、あれさだまつてゐてはわからねへよ」
とけぬおもひはみねのゆき
○いしやのなかだちこんれいすんで
詞「モシあなた、あのなかうどをよびにおやんなさるからには、なにかわたくしにおあきなさつたのでありませう」
男「なにさうではないが」
せきがでるゆゑきにかかる
○きしやうかけとてしむひつにむかひ
青柳すずり「これで/\となげつくるうばがことばにげにそれよ、かみまつくろにかきよごし」
ほかにこころのないしようこ
○こひのみちではちからでゆかぬ
声色伴左衛門「そこをすなほにとうさぬが、しらつかぐみのだてしゆのいぢづく」
そのいなづまじやこげはせぬ
○つもりつもればはなしもつきて
「なぜおめへはたなのだるまばかりみてゐるのだ」
「わたしはうらやましい」
「なぜ」
「おまへとふたりでうちをもつてね」
「それから」
ねたりおきたりしてゐたい
○ながいつきひをまめにてくらし
詞「このけつかうなまち/\を、こんなしやうばいをしてあるくゆゑ、さだめしばかなやつだと思ふだらうが、そのかはりきらくなものよ」
うまいよのなかいつぱいに
○ひよんなことからふと座をたてば
先代はぎ「あとみまはして、まさをかが、まさなきことのきにかかり」
なみだぐむのもこひのよく
○ほそだにがはのこのみはほたる
声色ごん八「みはこがせどもこころにまかせず、そりやこれぎりにはならぬとか」
よしあしのはのくされえん
〇どううかくふうとさうだんすれば
声色ふか七「そのわけかたらん、よつくきけ」
つれてにげるがはやがてん
○えびす三郎つりをばたれて
詞「たいをつらんと思ひしに、ふぐがかかつた、これはどうじや」
みづがにごつてゐたせいか
新撰度独逸大成 前編
歌沢能六斎集〔万延二年〕
〔全部紹介〕
(歌沢能六斎の選集した新撰度独逸大成四冊の中から、二冊だけを紹介したいと思ふ、この二冊は前編後編となつてをり、他の二冊は文句入りだともいひ、前両冊の文句の訂正もされてゐるらしいが、未だ調査の機会がなかつた)
叙
行水の流は絶ずして、しかももとの水にあらずと、鴨の長明がいはれしは、どゞ逸ぶしのことなりけり、五六十年以前より流行して今に至て廃ことなく、その文句はしかも旧のもんくにあらず、日々新作の詞花言葉、意は詩歌におとらずといへども詞賤しきをもて同席せられず、仮令おなじ流の身なれど、全盛三分の娼妓と、小莚一枚の辻君なるべし、されば都鄙老少男女どどいつうたはざる通客なければ、諸家の秀作多かりけるを、こたび新古のわいためなく撰集して大成と号け、且加ふるにわが連中の、新作をもて補ひしはしかも旧のもんくにはあらざらましと云れん為のみ
万延二酉孟春
隆典堂主人
鰥寒翁谷峩述
目録 唄員通計七百三章
〇正述体 唄員三百四十章
おもふよしをうちつけにうたふなりたとへば
たまにあひ嬉しいちよんの間わかれたあとはつねになほますもの思ひ
○寄物述思 唄員二百六十七章
ものによそへて思ひをのぶるなりたとへば
めぐる因果の車のわたしひくにひかれぬ此しだら
○名所地名 唄員九十六章
ところの名によせてこころいきをあかすなりたとへば
ぬしにわかれてそれ辛崎の夜ごとなみだの雨ばかり
新撰度独逸大成
歌澤能六齋輯
正述体
○孝を立れば人情がすたるこころふたつに身はひとつ
○早く染たいわたしのねがひいつまでしら歯でおくのだへ
○そんなに己を疑るやうじやそなたのこころもきまるまい
○髮もゆふまいけしやうもせまいかたの付までむすびさげ
〇うたた寝のさめてためいき心のもつれ人にヤはなせぬ此しだら
○末もとげない気安めならばよしておくれよ今のうち
○是といふきずもあるならあきらめやうがあくまでぬけめの無いお人
○ぬしの冷酒ひやりとするよきつとこれからよしなんし
○たま/\逢ときヤめもとがうるむ泣にもなかれぬ人のまへ
○義理をかいても斯なるからはあくまで女房にもつこころ
○人にやいはれぬわたしの病灸もくすりも水の沫
○ひとり寝る夜も枕をならべひとつはぬしとだいて寝る
○ほどにひかされついうち解て人にヤいはれぬ此くらう
○つらい勤の辛抱とげてらくなそひ寝がして見たい
○そはれぬ縁じやとしりつつ惚て死んでもそはずにヤゐられない
○わたしゆゑにはおまへにまでもくらうさせるがいぢらしい
○わたしヤ年わかまだ親がかりおもふおまへは女房もち
○逢たい見たいは山/\なれどこころにまかせぬ親がかり
○友達にわからぬ男のつくり名かいて心でたのしむ縁むすび
○あふは別のはじめといへど死ぬまでわかれてなる物か
〇今のくらうに百倍まそがそふたうへならいとやせぬ
○きれたお方のお顔を見ればふさぐこころが恥かしい
○ふとした事からついのりがきて今はかた時わすられぬ
○切るかくごで斯なるものかたとへうは気で出来たとて
○しれちやならぬとかくして居れど思はずのろけが口へ出る
○見まいと思へどついお互いに顔見合してはしらぬかほ
○逢ていはふと思ふたこともいはでわかれてあとくやむ
○りんきらしいと言はんすけれどだれがこんなにぐちにした
〇もしやさうかと悪察まはし口からひくのもほどにしな
〇わるく言れりヤとも/゛\むりにけどられまいとて悪くいふ
〇ぬしをかへして又寝の夢にまくら抱しめためなみだ
〇内でしつけぬ此水しわざそれたおまへのこころから
〇たまにあふても人目があればつもるはなしもなくばかり
○しつてしらない顔さるる程こころくるしいものはない
○かはいさうだよきはどい間にもめかほしのんで逢にくる
○しのびあふてもはかなきあふせたばこのんでも身ニヤならぬ
○待もせぬ客はくれどもまつあの人は声もまたせぬじれつたさ
○為を思ふていけんをするに腹をたつとはなさけない
○もとを正せば他人と他人あらひだてすりヤぬしのはぢ
○つまらぬ事からうたぐる物のわけをよくききヤ恥かしい
○をかしらしいと心を付て見れば目につくことばかり
○あんじなさんなよおまへを置て外にうはきをするものか
〇たまにきてさへ咄もできす顔でわらつてむねで泣
〇末はどうかとあんじるやうでてんからいろになるものか
〇うつつ心で柱にもたれ起てゐながれぬしの夢
〇せつかんもなんのいとをふ命もやつた男のゆゑなら苦にはせぬ
○癪を押し其手を押へぬしのたんきで此やまひ
○ぬしのあるのに命をかけてまよひそめたが因果づく
○恨いふのもすねるも泣もみんなおまへがさせるわざ
○たよりすくない此身の上としつてゐながらにくらしい
〇茶だちしほだち火の物だちでやせたもみんなぬしのせへ
○思ひ切とはむかしのことよ今さらいけんはやぼらしい
○おもふわたしに思ぬおまへどうでうは気はやみヤせまい
○人のいけんも火水の責もなんのいとをふ恋のいぢ
○腹たたせぐちをいふのもみな実ぎからたうざの花ならいひはせぬ
〇おもふ心のとどいたこよひはれてうれしきひとつよぎ
○あふて嬉しきわらひの種が朝はなみだのたねとなる
○末はどうかとあんじるやうな浅いほれやうをするものか
〇はらが立ならどふなとさんせおまへにまかせた此からだ
〇むかふ鏡にやつれた姿誰ゆゑこんなにくらうする
○絵にもかかれぬ互のまこと一所にならいでおくものか
○人目多さにたま/\来ても顔見るばかりでじれつたい
○女子たらしのおまへに惚て今じやいへないくらうする
○梶の葉うらへ書名がしらも人に見られてはづかしい
○帯もとかいであふが身が嬉しそへばなんでもない女房
○こんな心にしたのもおまへ今さらあきてはかはいそう
○うはきしやうばい笑はれながらこころの錠まへあけはせぬ
○鶏にわかれたむかしのからだ今じやいつまで寝てもすむ
○あとの為だとかへして見ればはなしが残てままならぬ
○うはきなおまへにまじめな私むすびちがひのあだ縁し
○なみだもろいは女の常かわざとじらすとしりながら
○火ばし持てもおまへの名の字ふだんこころにたへぬから
〇遠くはなれて待みのつらさ鳥の影さへそらだのみ
〇今朝の夢見によろこび烏こころうれしきねずみ鳴
〇たよりない身にたよりができてもとめて苦労をするはいな
〇筆にいはせた心のたけをあへば何やらくちごもる
○あんじるなやがてくらうをさせたもしたも寝ものがたりの種にする
○文をやつてもか只かたたよりわたしや是ほどおもふのに
○雨はよいもの昼さへしばへよつて居れども邪魔がない
○今さら互にうは気もできヨウかたいかいなに入ぼくろ
○ちよいと逢ねば心もすまずあへばひかるるうしろ髪
○かくすほど猶人にもしられ浮名たつほど切はせぬ
○くらうするのはてんからかくごいきな亭主をもつからは
○人めしのんで逢びきしたも今じやはなしの種になる
○ほれたお方に又惚られてほれた性根を見すかされてかやみとよはみへつけこまれ
○としより過ると笑はばわらへわたしにヤ大事な内の人
○おもふとほりに願もかなひ実に嬉しい身の果報
〇親兄弟にも見かへた人をあいつにとられてなるものか
○格子の内からそれとはしれど人のみるめにしらぬふり
○さうした浮きがある程ならばなんでこんなにぶたれやう
○切もせずおふもならずの身でゐるならば神や仏をたのみヤせぬ
○手なべ提てもあの人ならば慾をはなれて恋のよく
○かはる枕になさけはうれど心をうらぬがぬしへぎり
○いたらぬわたしが心のくらううはべばかりをはでにして
○はなしもきかずに又癇癪のやけじや理道もわからない
○此ごろはなみだもろいとわらはれぐせがついてふさぐもぬしの事
○土地はもとより世間はなほもひろくさせたいこちの人
○おそまきながらも辛抱さんせトいうてなみだにむせかへり
〇蚊屋を出てから又みる寝顔かうもゆかしくなるものか
〇二日あはねばとりこしぐらう風のくさめも気にかかる
〇人のほめるを亭主にもてばうれしいながらも気がもめる
〇今のくらうも楽ましやんせねものがたりの種にする
○ききわけがないとわが身でしつてはゐれど思ひきられぬ恋のよく
○むかしの馴染からふたりしてのろけあふのもたのもしき
○義りといふじにわしや別るれどすゑであひましよ弓のつる
○かあい男をかへさにヤならぬにくい鴉とあけのかね
○実もまこともつくしたふたり今さらうは気をするものか
○惚たがむりかよ心も顔も男にヤやさしいつまはづれ
○ぬしはいい気なもう寝なんすかわちきのこころもしらないで
○いひ度ことは山/\あれど顔みりヤさうは口へ出ぬ
○物思へとやばんじの事にやさしいからして忘られぬ
○うは気しやうとはしりつつ惚てくらうするのも心から
○たらはぬくちでも女子は女子すゑのくらうははじめから
○いつそ死でと思ふちヤみれどいのちありヤこそ末もある
○ばかよ頑とそしられながらおもひきられぬ恋のやみ
○わたしは変た心もないにぬしはくぜつのいひがかり
○実もふじつとなる身のつらさおくる茶やにもぎりがある
○縁も時節も誠がたよりあだやうはきでそはれふか
○お部屋へ気がねもおまへが大事せじもつとめもぬしのため
○たよりない身でつくした実ぬしはうはきできれことば
○親の気にいりわたしもすいたいきで律義な人はない
○切た当座はがまんもいへど日数たつほどおもひ出す
○軽いしよたいもおまへ二人気がねせぬのを楽しみに
○わけをいふのにまア聞しやんせいやでわかれる気ではない
○人にいけんもしかねぬ主が人にいはれる此しまつ
○つらい峠やかなしいうき世こしてけふ日のあら世帯
○わが惚りや人もそうかと邪すゐをまはしぐちなやうだがはらが立
〇気にもかかろが互の実はたへずたよりの文のつて
〇鏡にむかへばやつれた姿あいそがつきよとあんじられ
〇聞わけがないとおまへはいはんすけれどきれるかくごで惚はせぬ
○遠ざかるのはこらへもせうが人のしやくりが気にかかる
○朝な夕なの神しん/゛\もぬしに災難ないやうに
○友だちヨたのめば時節を待とじせつまつなら頼みヤせぬ
○心やたけに身ははやれどもさきへとどかぬふしあはせ
○苦労させたりしもするからはいやだあきたといはしやせぬ
○私ばかりかほうばい衆がおまへの実意をほめてゐる
〇惚たしやうこはおまへの癖がいつかわたしのくせになる
○おまへいやならつん/\しやんせわたしやひとりで情たてる
○いやならよしやがれあきたら殺せいきのあるうちヤ切はせぬ
○どきよう定てあはさつしやんせ酒のうへだといはしやせぬ
○欝ぎヤめに立とぼけてゐれど胸にしんくはたへはせぬ
〇ほつとため息枕にもたれたがひに見合す顔と顔
○斯なりヤふたりが手ごとにヤいかぬまことあかして人だのみ
〇何をいふにもとし若なればはなすはなしもあとや先
○気づよいばかりが男の情かすこしはなさけをかけさんせ
○せくなせきヤるな時節を待なおもふてそはれぬ事はない
○死なばもろともかせげば共に門にたつならふうふづれ
○酒はもとより上戸じやないがあはぬつらさにやけでのむ
○義りと世間と人めがなけりやこんなくらうはすまいもの
○その酒をとめておくれよ飲せちやいけぬしらふでいはせる事がある
○よかれ悪かれいらざるおせわわたしがめがねで惚た人
○事とすべなら親子の縁も切ておまへもたつやうに
○かへりヤさんすかちと待なんしはなし残した事がある
○やめてくだんせつきあひ遊びかよふうちにはあつくなる
○床のほてりもまださめぬのにかうもあひたくなるものか
〇世帯かためてやれ嬉しやと思やおまへの又うわき
〇そんならさうよといひたいが二日あはずにゐられうか
○おくばきり/\がまんはしてもいつかおぼえし癪とやら
○のつきつた事をしたならなげきもせうとかばい立して此様しぎ
○かくし立していひ訳すればけつく目にた詞じり
○いくらこつても思案におちぬいれざなるまい人の耳
○日にち毎日あふたる罰か今ははかなや遠ざかる
○さういはしやんすな全体凝性人がいふほどやめられぬ
○はたじや何とも思ひもせぬにじぶんの邪すゐでさとられる
○涙もろいとおいひだけれどこれが笑ツてはなさりよか
○近所へ来ながら逢ずに行もじつは身の為すゑの為
○腹じや泣てもうはべじや笑ひほんにつとめのうらおもて
○わたしや全体いちづなせいか人もさうかとひかされる
○しあんしかへてみる気はないかそれじや苦らうしたかひがない
○へたな異見を聞気はないが唄の文句じや身にしみる
〇いけん言なといひ人もあれどわるく聞れりヤなほつのる
○くるしいわたしの心もくんでたまにヤやさしくておくれ
〇人にはなせばわたしの恥とおまへのうわ気をひしがくし
○仕うちで惚たはわたしが悪い口をきいたはおまへから
○めんと対てむねきな異見しらをきつてもかほへでる
○人のうはさも七十五日どうせいちどは言れぐさ
○ほうばいづき合いびつになればあれもしやくかと気のひがみ
○頼みがひないおまへの胸をどふぞたのみにして見たい
○口へ出さねどくらうがあればどうかおしかと人がいふ
○人にヤきかないおまへのそぶりじつにわたしの目にあまる
○かんがへりヤかんがへるほどくらうがまさう愚ちになるのもむりはない
○はたじやまだ気も付ずにゐるにすねにきずもちや気の弱さ
○しやうばい冥りで嬉しい晩はつねの苦がいをとりかへす
○わが身でわが身がじ由にならぬぢれてくひつく夜ぎの衿
○相談づくなら遠ざからうがとひおとづれはしておくれ
○合せものはなれりヤ他人とそりやヤ情がないうつくしづくならいつまでも
○たま/\あふのにもういろ/\とがはじやなん癖つけたがる
○としが違ふがつり合まいがそれはおまへの逃こう上
○ほかで見たならをかしかろふがいふにいはれぬ事がある
○おまへもわたしも主あるからだどうせすゑよくそはれまい
〇もとめた苦らうはわたしのすゐきようどんなむりでも請てゐる
○末のくらうはしてあるけれどおまへを思へばなきわかれ
○あはぬ身ならばあきらめよいがなまじ顔みりやます思ひ
○つとめ酒をばあんまりのむなそれがしじゆうは身にさはる
○遠くはなれてくらすも時代からだ大事にしておくれ
○むしをころして言れてゐるもみんなおまへをかばふゆゑ
○惚たよはみをみこまれぬいてねこそげおまえにぢらされる
○つとめの身ならばどふしてなりとあげてたのしむこともある
○おまへにあふたびわがまいふもつらいつとめのうめあはせ
〇いしゆもいこんもない客人へつらくあたるもおまへゆゑ
○文のたよりじやいなやがしれぬみれんなやうだが顔見たい
○あはぬ昔とこらへもせうがどうぞたよりはしておくれ
○かくれてあがれば心のひがみしようちしてゐてぐちがでる
〇口じやいはれずしうちじやできずぢれてふさいで癪のたね
○できぬしんぼもおまへの為とつらい苦がいのうき月日
○口でいはれぬくがいのつらさおしてごらんよ胸のはり
○たつたひとりのおまへを便り鬼の中でもしんぼする
○寝がほのやつれを見つめてゐればなみだでおまへの目をさます
○せまい二階で人目は多しぬしもつらかろわたしやなほ
○つねにやさしいほうばいまでがおまへをそねんでむかふづら
〇くらうさせたり気をもむ本は身から出たさびぜひがない
〇かげで嬉しい思ひがなけりや苦がいが片ときつとまろか
〇年季かぞへてふさいでゐればうれしいおまへの初会口
○邪けんな親だと思ふてゐたがおまへとかうなりや結ぶ神
○人にヤいはれずわが胸ひとつなくもぢれるもこころがら
○のろけばなしについのりがきてかくすおまへがくちへでる
○らちのあかぬが月日と年季はやくふたりがあらせたい
○つうなおまへにわからぬわたしなんでつじつまあふものか
○そふて苦らうは世上のならひそはぬさきから苦らうする
○やうすきかなきヤさぞ腹が立とこれにはだん/\わけがある
○ぬしのかん癪日ごろの気しつどうできくまいとめはせぬ
○遠くはなれてゐるかなしさはうわきよされてもぜひがない
○嬉しい中にもこはいが三分ほれたおまへに新まくら
○女房もちとはしつてのことよほれるにかげんができやうか
○深くなるほど人めをしのび目も口ほどににものをいふ
○眉を落してざしきをひいてきげんとるのもぬしひとり
○親のいけんを何きくものかいぢはたがひの胸にある
○友だちヲ力になに惚やうぞそはれにヤ尼になるかくご
○末のとげない縁ならよしなくらうする身のかひもない
○文は逢どもわが身はあへぬふみになりたや一夜でも
○末のくらうは元よりしようちどうぞ添寝がして見たい
○ぐちもいふまい悋気もせまい人のすく人もつ果はう
○かるい世帯もおまへと二人きがねせぬのをたのしみに
○手なべどころか喰ずにゐても切るこころになりはせぬ
○犬がほへてももうお前かと閨のとぼそを明て見る
○親は此手で切文かけといふて手ならひさせはせぬ
○おまへにまかしたわたし体煮よと焼うとすきしだい
○庭の松むしなき止たびにもしやそれかと気がもめる
○うしと見し夜もけふ日になつて見ればこひしい事ばかり
○見捨られればわしや墨染の袖とかくごをきめてゐる
○たつた一言人づてならでいふて置たいことがある
〇鳥のそら音ははかりもせうがぬしの空寝ははかられぬ
○恋に朽なん名はをしけれど今さらいぢでもきれられぬ
〇忘まいぞや行すゑまでもかたいちかひのいれぼくろ
〇一人寝るよの其あくる間はいかに久しきものおもひ
○露の命を長くもがなとおもふもおまへがあればこそ
○なまじあひ見てなほ物思ひしらぬむかしにしてほしい
○人しれずおもひ染しがもうとやかうと浮名がたつては猶やめぬ
○今くるといつてわたしをよもやにかけてもはや有あけとりが鳴く
○風に吹るるしら露よりも人のこころはちり安い
○しのぶ恋ぢもつい色に出てものや思ふと人がとふ
○身をなげ出してもそはねばならぬ人にいはれた事もある
〇君が為なりヤわしや野に出てわか菘つむともいとやせぬ
〇人目ありヤこそ飛立むねをじつとこらへてしらぬ顔
〇左様しからばしかつべらしく他人ぶりよすりヤ猶かあい
〇およばぬこととは思ツちヤゐれどやつぱりみれんで神だのみ
○賤のをだ巻又くりかへしどうぞむかしにしてほしい
○足曳の山鳥の尾のなが/\し夜をどうしてひとり寝つかりよう
○秋の扇と身は捨られて風のたよりもなくばかり
〇どうせ足ないわたしだものをすてるおまへにむりはない
○あるものをないといはんす心がにくいりんきするではなけれども
○待たつらさをせなかでみせてしばしがまんも恋のいぢ
○初はたがひにうはきで出きて今はひとりで情たてる
○こちら向なと引よせられてうらみつらみもどこへやら
○いつそ邪見をとほしもせずにほんにおまへは罪な人
○なんの玉のを絶なばたへろあはで苦らうをするにヤまし
〇客にうそをばつく其罰かまことあかせどうたぐられ
〇りんきせぬのが女の道とうはきしたさのえてがつて
○おためごかしももうききあきたいやならいやだといふがよい
○逢ばあふほど猶やるせなやたま/\あふてもすんだもの
○為になる客つとめるつらさぬしに枕のばんをさせ
○燈心をひとすぢへらしあちらを向てぬしはねたのかいやだねへ
○人のてまへはてくだと見せてじつにほれたで胸の癪
○親の邪見も今では嬉しつとめなりヤこそあひもすれ
○灰に書てはけす男の名火ばしのてまへも恥かしや
○うはきな男がなぜ此やうにてまへで手まへの気がしれぬ
○うけさせやうとていふでもないがのろけばなしもうさはらし
○かはる枕のねざめのとこにヱヽもじれつたい此からだ
○血をわけてもらふた親でもわしやすてる気じやあらぬ他人のぬしゆゑに
○是が惚たといふのかしらずいとしなつかし気がもめる
○わたしヤどど逸でまぎれもせうがぬしはお帳合おきづまり
○じつも誠も皆いひつくし枕ならべて顔とかほ
〇あふて間もなく早東雲をにくやからすが告わたる
○松もみどりを幾千代かけてすゑをいはふてゐるわいな
○いふて置のになぜ浅はかな口ゆゑうき名がたつわいな
○ぐちもみれんも沢山あれどむかふかがみに恥てゐる
○女房さらずにわたしも切ずほかにしあんはあるまいか
○筆はかはいやはなれてゐても恋しゆかしのたよりきく
○思ひ出すとは忘るるからよわたしや夜の目も忘られぬ
○あふてわかれのつらさを思やあはぬつらさがましであろ
○人はこり性と只一ト口にこるもこらぬもさきしだい
○ぶたれる覚悟のわしや結髪色であふときヤかうじやない
○腹が立ても又わけきけばのろいやうだが夫もそれ
○切た中とてたよりはさんせいやで別れた縁じやない
〇いやな座敷で笑ふのつらさないてうれしきぬしのそば
〇ぬしを思へばてる日もくもるひく三味せんも手につかぬ
〇待がつらいかまたるるわしが内のしゆびして出るつらさ
○かへらしやんせと口ではいへど立ばおどろくむねのうち
○今は待身をわらはば笑へすゑは高砂そふて見しよ
○門付のしん内ぶしも身につまされてもしやとあんじるひよんな気を
○わけもないことわけあるやうに言れりヤぎりにもせにヤならぬ
○似たことがもしやあるかと人情本をよんでなほますものおもひ
○ぐちなわたしにさばけたおまへ柳に蔦じやと人がいふ
○それみやしやんせいはないことかさきも血道を上てゐる
○人に気がねもおまへのおかげ明くれくやしいことばかり
○せじとつとめに涙のゑがほなかせるおまへはむりばかり
○せじもいふまい気がねもせまいおまへもうは気はやめさんせ
○恋のやみぢはかねてのかくごはれてあはれる身ではない
○しあんするほど切るてはならぬ今まで苦らうのかひがない
〇数ならぬ身でも恋ぢのまことはまことほれたに上下があるものか
〇すまぬ顔色見てとる実は他人にしれない惚た中
○あきらめましたよどうあきらめたあきらめられぬとあきらめた
○今さらにぐちもいふまいなげきもせまいそはざ命がありやせまい
○待宵のかねはうしみつわかれのとりにまさるつらさようきおもひ
○みじか夜のとりは恨まず長よのかねをうらむ心の客と間夫
○いやであらふがまアきかしやんせつらいわかれもぬしのため
○楽をふり捨くらうをもとめ人にわらはれぬしのそば
○ひよんなことからついしたわけに今は他人とおもはれぬ
○達引づくならすみがへしても年の明までよびとげる
○金じやせかれぬそなたの気性といふてほれては数多し
○ないてはなせばつとめとなぶりこれが笑てはなさりよか
〇うわきしやうばい玉やじやないがぬしにあはずばくらされぬ
〇くぜつした夜は鏡の蓋をあけてふさいでまたあけて
○心がらとてわが土地はなれしらぬ他国でくらうする
〇先はうはきであらふとままよわたしや実意をどこまでも
○わたしの心にあまればとてもなんの他人にはなされふ
○はやくやめたや通ふも呼も待もわかれもないやうに
○たつた一ト夜がよみぢのさはりしらざ他人でくらすだろ
○夏やせと人にはいへどぬしゆゑかうもくらうするのをたのしみに
○世につれて辛苦するのはいとひもせぬがそはれないのがわしやつらい
○そなたひとりに苦らうはさせぬどんなはかないくらしでも
○つらいかなしい峠をこしてなんでたやすく切られふ
○あへばさほどにはなしもないがかほ見にやくらうでねつかれぬ
○じれつたいほどなぜ此やうにほれたわたしの気がしれぬ
○末にふのはそりや縁づくよ当座あはずにゐられうか
○そひとげる人もはじめはふとしたことよほれたが縁ではあるまいか
○論はないぞへ惚たがまけよどんなむりでもいはしやんせ
○あはれぬからとて女の操たてて見せましよあくまでも
○しがみつくほどくやしいけれどわけをいはれりヤぜひがない
寄物述思
○色になるみの襦袢もぬいで素肌じまんの夏の不二
〇ないてゐるのを面白さうにはたで見てゐる籠の虫
○鍋に耳あり徳りに口よちよくとはなしもできはせぬ
○寒い夜風に身をすりよせてうれしなきにかなく千鳥
○初鶯もうちきはいやよないてうれしい庭の梅
○さしひきわからぬおまへのしうちながれの身ながら汲かねる
○秋の風ゆゑ気をもみぢ葉のそめてくやしきちりごころ
○惚たき菊を露しら萩のつれないおまへは鬼あざみ
○ぬしのうは気はもみぢの時雨夜ごとぬれてもあとがない
〇三味せんの糸よりほそき芸者の身でもはりといきぢできれはせぬ
〇そろばんのたまにあふゆゑこころがしれぬ割て見たいはむねのうち
○更て青田にこがるる蛍れんじまで来てかやの外
○招ぐ尾花についさそはれてつゆのえにしの草まくら
○心つくして嫁菘とならば今にみもちか草の餅
○うまく根松で抱しめのうちかずの子だからおろし初
○みすぢ霞のひく三味せんやさかへさかふる門のまつ
○くぜつの種なし肌うち解ずかほはいつでもはじもみぢ
○雨の雁がね枕にひびきひとりなみだの露しぐれ
○風に蚊やりの燃たつままにむねのほむらが猶まさる
○どうした縁やらなま中染て今さら時雨にちるもみぢ
○開きかかりし寒紅梅を水あげすまして床の花
○鶯きどりであつかましくも梅に来てなく鷽の声
○恋のしよわけもしらはの娘おもひありげな手まり唄
○思ひやりにもまことはとどくつゆにやつるる草の花
○君をまつ葉のかんざし投てあふみおもての畳ざん
○青柳の水にうつりしあの三日月はやつるるはずだよ病あがり
○ちやんと備てはつ/\しくもぬしの影まつかがみもち
○うつかりと籠を出されてした切すずめもとのくがいがうらめしい
○ぎりにからまれ心の竹を八重にくんだる籠細工
○けふかあすかのかはいい中も淵が瀬となる世のならひ
○めぐる因果の車のわたしひくにひかれぬ此しだら
○雪かさくらか遠山鳥のおまへはあらしのした心
○のぼりつめさすほうづもなしに糸のありたけ奴凧
○羽子をつく/゛\あんじて見れば風にそれたも気にかかる
○恋の手ならひいつ書そめて筆にいはせるいろはもじ
○葭と芦との節ある中へ深くさしこむ秋のしほ
○心々のあの萍の岸にさくのも水による
○色の味をももうかみ分ておもひ切ます唐がらし
○親のゆるさぬしのびの駒はひくにひかれぬ罰あたり
〇雁にことづて乙鳥にたよりどれも聞たやはなしたや
○人が水さしてもいつかつい深草のつゆもいとはぬかよひみち
○弓をはる駒矢をはなの春的へあたりもいかめしや
○おもふお方の手をしめの内うれしいしゆびを松かざり
○火のし片てに羽織の皺へそれといはずにあてこすり
○梅がかのかをりゆかしきこころの竹にぬしのたよりを松ばかり
〇松にしのんで夜長の秋をあかしかねたる床のうち
○はかないやうだがあの朝顔はしぼみや又さく花がある
○梅の娘に柳のわかしゆ月はよごとの縁むすび
○としのはじめのあら玉娘だいてね松やしめかざり
〇雨の蛍とわたしの心ひとりこがれて夜もねぬ
○野べの若草嫁菜をつめば君がよながのさいになる
○葛の葉のうらみつらみはそりやあだ惚よ秋風たてぬまことどし
○揚りつめたるあの奴凧いろもつのればのめをつく
○夢に顔みて嬉い間なくさめてくやしき夜半の雁
○鰺な目元に蓼酢のうまみわるいとしりつつ過す酒
○あげる花火と浮きな恋ぢいくといふ間にあとがない
○堤あがれば柳の雫ちよいとぬれたる縁のはし
○宝舟して二日のまくら夢もうれしくみなめざめ
○あし曳の山鳥の尾のなが/\し夜をひとりかり寝の仇まくら
○いろの穂垣の朝がほさへも何をすねてかうしろむき
○ふたば葵のふたりが中は人がさかふと切はせぬ
○とけぬ恋でも月日をまてばいろになるもの谷もみぢ
○叩く水鶏もそれかとばかりまくらひとつがじれつたい
○嬬子の帯ほどとけあふ中もあきりやそろ/\切かかる
○梅の匂ひを桜にこめてしだれ柳に咲せたい
〇明ていふのに聞入なくば命ヤすてるぞ火とり虫
〇男心はあのあぢさゐよ日々にかはるがにくらしい
○鏡出してもそのことばかりなみだおぼろの薄ぐもり
○けむる蚊やりにまぎらしながらあはぬつらさになみだぐむ
○水にまかせた萍さへもすいたところで花がさく
○笛の中だち目がほも恥ずしたふ思ひを口うつし
○娘大事と人にも見せぬうちに色づく室の梅
○こんな容して恥かしらしい畳いつぱい松のかげ
○べにで書たる此はなし文雁のたよりをまつつらさ
○水を手まくら楽しいめうとすいな隅田のみやこ鳥
○鴛鴦のむつみとわらはば笑へ人が水さす透がない
○むすぶあやめも心の願ひつゆにぬれるの辻うらか
○心さとれとつく追羽子にいつか解たるしゆすの帯
○わらふ唇しら梅見せて声はうぐひすまよはせる
○ぬしをまつ虫こがるる蛍おもへば胸の火とりむし
〇門の鳴子の夜風にゆれてもしや来たかと胸さはぎ
○しのぶ恋ぢは遠くの蛍目には見えてもままならぬ
○つげの櫛はにかからぬ髪も人の口はにやうき名たつ
○けむは蚊やりの辛抱すればあとはすみよき夏ざしき
○恋の中がき真葛にゆはれうらみ/\て秋の風
○ござは青海蚊やりはもしほ船ぞこまくらのとまり船
○わたしや呉竹おまへは雀雨のねぐらが縁となる
○船のもやひもいつ解あふておまへしだいのながれの身
○いたら貝ない心をもつて君にあふとはあはび貝
○ちよいとお待な着ものをおくれ屏風の唐子が見てゐるよ
○風に木の葉のちらされたのもかきあつむれば籠の中
○中口きかれてうたがはれたもはるの氷と解てゆく
○さきは主持たよりはしれずいつて見たいにヤ籠の鳥
○梅の娘に柳のわかしゆ雛めびなのさくら花
○萩の下つゆ露ちりほども君にヤ命もをしみやせぬ
〇風にもまれてただよひながら岸へつくかよあまを船
○わかい男に気をもみぢばの後家にうき名が立田川
○おのが身をあとへ/\と田うゑのやうに卑下すりやにくむものはない
○見捨さんすなわしや蔦もみぢからむたよりは主ばかり
○辛抱しなんせ雪間の若なやがて嫁菜の花がさく
○うわきする筈ヽヽヽさまも天のいは戸のあなばいり
○鶺鴒にとんだよいことをしへてもらひ数の子だから神のすゑ
○あかつきのちわは隣かあのほととぎす鳴てこかれの今朝の雨
○しのび駒かけてくどいてできたるおまへばちでもあたらにや切はせぬ
○朝がほのからみつく竹ひきはなされて花がうつむきやつゆがちる
○まき紙のへるにつけてもわが身を思ふはやく年季を明くれよ
○あれ程いふたになぜまア遅いまつ葉かんざし畳ざん
○あはぬうらみにぬらした袖をとけて寝た夜に又ぬらす
○何かしあんで気をもみ裏のゑりにさしこむかほの雪
○かごの鳥をばほんねを出させどうすりや今さら切ことば
〇ふつつりと廊下で切たる此うはざうりたてるたてぬもさきしだい
○うかれくるはのあの里雀すぐな竹にはとまりがち
○待にかひなきあのほととぎす雲井へだたる声ばかり
○千々にくだけし白滝なればすゑにあふせはあるものを
〇玉のことばを錦にをりてつづれあげたる恋ごろも
○思ふ念力ぜひ今一度筆のいのち毛つづくだけ
〇はれてあはれぬ今宵のしまつにくい雲めが又しても
○くよ/\あんじて身はうつせみの心もぬけのからごろも
○もつれかかりし此黒髪をといてむすぶもをりがある
○さんさ桜に梅がかこめて芽ぶきやなぎに咲せたい
○五月雨のくされ縁じやとあきらめさんせ菖ぶかたなできれもせず
○三国一やの白酒娘雪のはだへにふじびたひ
○しんぼしなんせあの梅の木も雪の中からはながさく
○泣てうつむきヤかんざしよりもおつるなみだの玉あられ
○恋のまがきにしのぶは蔦よひとめかねては青々と
○雪のはだへに桜の目もと月にいくらとうはさする
○梅も柳もみなそれ/\に恋のいきぢのあだくらべ
○春の野に思ひすぎ菜はおまへのうわきあんじ心のつく/゛\し
○うぐひすに負ぬ音色がたまさかあれば谷の中へもはなの兄
○まてば甘露とそりや甘口なまたれるほどなら気はもまぬ
○医者さまが小首かたむけ二のさぢ投てやつれ姿をみるつらさ
○まてば海路の日和もあろがえてに帆どよくのせてみな
○泣てたもるな途方にくれる月は雲間のほととぎす
○たはむれと思ひながらもつい手まくらにぬしのこころをみだれがみ
○揚てきがねはお客が凧かつとめもいとめも付てある
○吹ばとぶよな玉やの身でもあはぬつらさのもの思ひ
○深いちぎりをかはらぬ願人はうき名を辰巳風
〇遠ざかるのは末さく花よ日々にさくのはちりやすい
○泣てまつ夜にふけゆく鐘は明のとりよりなほつらい
○文もやるまい返事もせまいあはれぬつらさをます鏡
○油でかためた聖天さまをあらいがみとは誰がいふた
○さきの折たるわしや三ツ目錐きばかりもんでもとふりやせぬ
○秋がきたかよ気はもみぢばのしかとれうけんせにやならぬ
○しら鷺が小くびかたむけ二のあしふんでやつれすがたの水かがみ
○紫ヤこうとおしではよいがぬしによく似てさめやすい
○わたしの心は萱ぶき屋ねよかはらないのとさつしやんせ
○石龍くらふかあのほととぎす人は見かけよらぬもの
〇三味せんの糸につながるげいしやの身でもひいちやくやしい此恋ぢ
○おまへ今来てもう帰るのかあさぎ染かよあいたらぬ
○とも綱はなせば身はうつろ舟誰とて揖とる人もない
○帯にヤみじかし襷にヤ長しながしみじかしままならぬ
○鬼を欺くしようきでさへもこひに見とれてゐるわいな
〇日のくれ方にはおまへの方を見てはなみだにくれの鐘
○門の柳のなびくを見てもこころ/゛\で気にかかる
○源氏の巻でも桐壺はいやよわたしや末つむ花がよい
○事をこはさざまとまるまいとならばやなぎにすましたい
〇三は切てもわしや二世のえんかはらしやんすなあくまでも
○わすれ草とて三味せんとればうたのもんくで又ふさぐ
○春のよめなのつみ残されて秋は野ぎくの花がさく
○とげの中にも花さく茨よしらずに手を出しやけがをする
○あやめかきつと似た中なれど今は目にたつ花しやうぶ
○定めなきとは時雨のことよまたも紅葉に気をもませ
○禿みどりも時さへくれば松のくらゐの八もんじ
○あんなすなほな柳でさへも風にかたよるいぢを出す
○おまへ木性わたしは金よきがねするとはしれたこと
○あぢきないぞへ草場の露の風にちるとはいぢらしい
〇ぬしの心と今戸のけむりかはり安さよ風しだい
○うかれ騒は千鳥のくせよをしはつがひの浪まくら
○春の草さへ秋にはかれるさがの庵の果をみな
○垣にまとへる朝がほさへもとかく出世はうしろ向
○秋のてふさへつがひて狂ふあれも旅ぢのめうとづれ
○文のたよりをまつ鴈よりもかへる乙鳥がいぢらしい
○八重の山吹はでには咲ど末は実のない事ばかり
○ぬしが舟ならわたしは水よ中のよいのも風しだい
〇宜こそき菊といはれふはずをしらぎくがほとは情ない
〇天の川竹ながれのうき身一夜妻とは誰がいふた
〇あはぬ恨も心のたけも明て氷室のとけ安い
〇雲にせかれて姿も見せずないて夜明のほととぎす
〇つもる恨をいつゆふ顔とあふてはなせばすまの浦
〇ねても覚ても其のかげらふはおもひきりつぼ厄となる
〇人めばかりは五月の闇にはれてあふ夜を松の風
〇じみなはなしについ夜がふけてなみだの雨かほととぎす
〇喧嘩じかけはかねてのしようちわたしや柳でとりあはず
〇五月雨に袖もかはかぬくぜつの中へ空でねをなくほととぎす
〇けさに別れし遠藤武者もすみのころもで世をしのぶ
○鬼のやうなる梶原さんもはだみはなさぬ梅の枝
○ことづてを口にくはへて出てくるつばめ返事もたせてかへる鴈
○朝がほの花のやうなるおまへの気まへ日ごと/\に気がかはる
○君をまつ虫夜はしん/\となさけしらずのかね叩
○まねく尾花にふとだまされてつゆのなさけの草まくら
○美しく咲たアノ花よくおみなへし秋がきたとてちりかかる
○客がきぎくと小菊に書てやればむかひのかむろ菊
○今はそら解くらうはすれどすゑはむすばるかいの口
○松のくらゐといはるる身でももとはかむろのみどりから
〇ありとみて手にはとられぬあの陽炎はぬしのこころとおなじこと
○ないしよの仕きせも厭はぬならば脱でこよひの貸小袖
○かささぎのはしたない身もわたりをつけてどうぞこよひはしゆびしたい
○霞むのもせの春駒よりもぬしにあふ夜はなほいさむ
○猪にだかれて寝る萩よりも客とねるのはなほつらい
○寿老人ではわしやなけれどもしかとはなしがして見たい
○蝿にまはさる燈心よりもかるいおまへのそら返じ
○矢猛心に気もはり弓のひいちやくやしい此こひぢ
○庭の雪間のあの梅さへも寒苦しのいで花がさく
○縁のはし姫とはいふもののぬしが綱なら手が切る
○心の底井をあかしていへど水にながしてぬしはきく
〇さはらびの握りこぶしにつみとがもない山のゑがほをはるの風
〇ひとすぢとばかりおもひしあの朝顔もいつかかき根にわかれざき
〇直なわたしに横笛ふいてどこおしや其よな音を出す
〇加茂のお祭わたしのことかあをひ/\人がいふ
〇野べの若菘と摘すてられて土におもひの根を残す
〇室の梅がえわしや欺されてさいたと思へばくちをしい
○女郎花さく此野の中へ誰がぬいだかふぢばかま
○船のかがりとわたしの胸はみづにこがれて燃てゐる
○ままになるなら野にさく小てふ草にねるにもめうと連
○思ふ木立へからんかだからははなりヤせぬぞへ蔦かづら
○ぬしを松風身にしみ/゛\とふけてさみしいかねの声
○ぬしとくらさばわしや八重葎茂らん宿もいとやせぬ
○ぬしは磯べのあのみをづくしさそふめなみが数多い
○心あかしのけしきはよいがぽんとだしぬくはやて風
○神の榊とおまへのうはき先へたつので気がもめる
〇峯のもみぢのからくれなゐに秋がきたとは気にかかる
〇うすツ闇いとまがきのそばへよつてゆふがほ覗きこむ
〇ぬしに入あげ身はうつせみの今ではもぬけのからごろも
○風もすきやの帷子ごしに夏もすずしき雪の肌
○やくやもしほの身もこがれつつぬしをまつ尾のうらざ敷
○沖の石かやわたしの袖はかはくひまさへなくなみだ
○きり/゛\すなくや霜夜のさみしいとこをどうして今ごろかへされふ
○芦のかりねの一トよさなりとあふてはなしがして見たい
○竹のはしらを何いとをふぞ山のおくにも鹿はすむ
○岩にせかるるあの滝川のわれてもすゑに又ひとつ
〇雲井はるかに帆の影みえておきつしら波たつかもめ
○ちぎり捨てもなほあを/\とつゆをいのちの草の花
〇めぐりあひて見しや夫ともわからぬうちにぬしははづして雲がくれ
〇衛士のたく火とわたしの胸はひるはきへても夜はもゆる
〇ついした事にもことばの嵐顔にもみぢをちらすのか
〇ぬしの心と門田のいなばいつしか秋風ふいてゐる
○枕ひきよせかけしや袖のぬれてうれしい床のうみ
○下戸のお酒に外山の霞たたずとやつばりのむがよい
○かぢをたへたるわした捨小舟ゆくへもしらずにこがれゐる
○をのの篠原しのぶとすれどわれを忘ちヤ口ばしる
○忘らるる身はしかたもないがそれじや誓のかみよごし
○しのぶもぢ摺そりヤ誰ゆゑにみだれてすずしいあらひ髪
○雲のかよひぢ風ふきとぢよをとめのすがたがおがみたい
○いやな針なりヤ何しられふぞ蜂やあんまじやあるまいし
○つたふ涙に枕のもんのつたもいろづく秋のくれ
○前髪かき/\アレじれつたい空にしられぬふけのゆき
○せじでとまつた大根の花の小てふ二心とはたいそふな
○小田のかりほにふく苫よりもあらばおまへのすてことば
○かたい契は千万代もつるの口ばしかめの甲
〇鼠よくきけあのおとなしい庭の千草のきり/゛\す
○紅葉ふみわけあのなく鹿も秋といふ字がかかなしいか
○かささぎの渡すはしさへふつつりたへてこぬのはあきたかぢらすのか
○夏山につまにあこがれなく鹿よりも松のほぐしが身をこがす
○春のはじめと泣ずにわかれあとでほろりと梅のつゆ
○かへる/\も屏風の中でやはりはなれぬてふつがひ
○なみだふき/\其袖合せぐはんをかけぢの神だのみ
○顔みせさんせや日にいく度もやさしいこころにいりかはり
○小ぎく重てかくはなし文もてくるつがひもかむろ菊
○秋のあふぎと身はなるとてもついやちよつとで喜鈴扇
〇かねのなる木はあのおみなへし花も黄いろに咲みだれ
〇眉は三日月はだへは雪でたのみすくない花ごころ
〇たとへどのよな風ふくとてもよそへなびくな糸柳
〇なかざなるまい野にすむ蛙水にあはずにいかれふか
〇五月雨のある夜ひそかにかうしのさきでみればうれしい月のかほ
○白つゆや無分別でも草葉がたより恋のうき身のおきどころ
○草の葉のつゆはわたしがなみだの雫それにおまへは秋のそら
○庭の松ぬしも梢にあのあふぎ凧切てぶら/\気にかかる
○とも綱のきれた此身は棚なし小舟かぢのとり人もなみのうへ
名所地名
○須磨ぬ心に夜を明し潟かよふ千どりの声ばかり
○つもる恨を庵崎とすれどあへばこころもすみだ川
○首尾を松ちのはなしも更てあとは嬉しの森のかげ
○心すみだに気もうく鴎花を見めぐり春げしき
○きり/゛\す千草はなれてわしやかごの内客にかはれて夜をあかす
○人にヤいはれぬ岩間の●(キヘン+「色」)すゑはうき名のたつた川
○撞てくりやるな浅草がねよまつちといふ名もあるわいな
○岩にせかれて樋にとめられておもひあづまのすみだ川
〇ぬしに別てそれ辛崎の夜ごとなみだの雨ばかり
○朝はひでりの田へ水かけて夜は潮来へ舟わたし
○人目せきやでままにはならぬぬしは秋葉のうすもみぢ
○末はめうとに業平ばしようれしの森やしゆびの松
○ぬしは秋葉とわしやしら髭よおもひまつ崎わたしぶね
○思ひ庵崎時せつを待乳首尾を松身のながし船
○露のひぬ間の朝がほならでこすにこされぬ大井川
○うき名たつたの●(キヘン+「色」)じやないが染てちるとはなさけない
○恋の綾瀬をしんくにするな今に中よくすみだ川
○伽羅をたかせた二人が昔今は嵯峨ので夕蚊やり
○女きんぜい高野の山に誰がうへたかをみなへし
○啌でかためた此よし原を又来てうそでさはがせる
○富士と筑波が何似るものかおもひ/\の山のなり
○花はよしのと風雅にいへどいきなさくらは仲の町
〇いかに秋風たつ田といへどかほにもみぢはにくらしい
〇思ひこがれし身はうぢはしの中をへだててとぶほたる
〇こよひみめぐり嬉しの森よどうぞあしたもしゆびの松
○霞ひき舟もう木ね川にとんだのろけを請ぢ道
○どんとはなした鉄砲ずよりあたるなかずの船のそこ
○抱て根ぎしや玉姫いなり深い中田と人がいふ
○人めしのぶの丘とは啌よ四季のけしきに名が高い
○水は二タすぢ三すぢをのせてすだと綾せのゆさん舟
○江のしま参りが弁天さまの貝でさいくのみやげもの
○秋の夜風の身にしみ/゛\と猪牙じや寒かろ隅だ川
○ふけよ川風気もうき舟のすだれあぐれば筑波山
○すまの浦なみ又たちかへり来てはまよはすはまちどり
○あまの小船のろかいを推てすまのあかしのわび住居
○宇治の川ぎり夜は明はなれぜぜのあじろがみえわたる
○天のはし立いくのの道の遠いたびぢをふみのつて
〇わたしやおまへに気がありま山今さらいなとは言しやせぬ
○末の松山なみこすとてもかはりやせぬぞへわがこころ
○峰のもみぢにあかるい道ををぐら山とは誰がいふた
○こよひ忍んであふ坂山を人にしられてなるものか
○難波潟みじかき芦のふしの間なりとどうしてあはずに過されふ
○岸による波小舟にゆられ夢のかよひぢさんや堀
○神代もきかないおまへのうはきわたしや小はらがたつ田川
○立別てはいなばの山のまつと聞てはまたかへる
○みなの川ではわしやなけれども恋ぞつもりてふちとなる
○堀をめあてに漕出しゆくと人にヤつげなよ此小船
○赤い前だれみごとな茶つみよいうぢ山だと人はいふ
〇箱根八里は馬でもこすが人の関ぢはこしにくい
〇うしろ見するは門松ばかり五万でもひきヤせぬ廓のいぢ
〇朝のかへりはすずかじやないが馬がものいふた衣もん坂
○商売のいとのみすぢはよしのの川かおかほ見ながらままならぬ
○あづま訛といはんすけれどまねて見たがる江戸の癖
前篇了
新撰度独逸大成 後篇
歌沢能六斎集〔万延二年〕
〔全部紹介〕
序
どゞいつは何所のどいつが唄ひ初けんとある人がものに書しは諂なき詞といへども其みなもとを能もあさらぬ只これ当座の即興のみ余かねて愚考ありそはこの前編の巻末に標目を記したる節用集に書つけてんつまるところはどゞ千年万年はやりもてゆく小歌といふべし
万延二年酉春日
隆興堂主人
鰥寒翁述
目録 唄員通計六百十三章
○雪月花 唄員百五十八章
三景によそへておもひをのぶるなり但し月ゆき花と部をわかちのしたり
○雑体 唄員四百十章
何にと片よらぬさま/゛\のもんくをまぜてのしたり俗にいふばれくてうのうたもこのうちに入る
〇問答 唄員四十五章
もんくにてとひ文句にてこたへるなり男女のしるしわけをなし且しりとりあり
新撰度独逸大成後篇
歌沢能六齋輯
雪月花
月の部
〇月はかたむく夜はしん/\とこころ細さよ明のかね
〇及びないとはそりや気がよわいしづがふせ屋も月はさす
〇朝のわかれがないものならばなんのきらはふ明の月
○まだ宵とおもふ間もなくもう明の空雲のいづこに月やどる
○待ど来ぬ夜はかたぶくまでの月のからすや明のかね
○わたしや芒の野にすむ兎こひしなつかし夜はの月
○雲のたへ間をもれ出る月にさへてきこゆる紙ぎぬた
○ぬしをかへしてれんじを見れば小田の有あけまだのこる
○ぬしは田ごとのうはきな月よどこへまことをてらすやら
○不破の関屋にさす月よりもかくすこひぢはもれやすい
○風のうす雲あの月かげを見せつかくしつ気をもます
○それと見る間にあのはつ蛍月のひかりでついなくす
○月のうさぎのはねてはゐれどどこかかあいいとこがある
〇水の月かげ手にとるやうにみえてなほさら気がもめる
〇げこも上戸も気にあふやうに丸くつきあふけふの月
〇邪魔な雲さへさつぱり晴てまるくふたりで床の月
〇月はさへても心の雲がはれぬおもひで上の空
○くもりがちなる最中の月よはれてあはれぬ辻うらか
〇一ト日あはねば持病の癪がふけてさしこむ窓の月
○月にむら雲わたしにヤおまへ邪魔としりつつ切られぬ
○月を友とてなく虫の音は萩の下つゆぬれたどし
○かやのすき間をもる月かげにみだれすがたのはづかしき
○月もいるさの山のはがくれ身につまさるる鹿のこゑ
〇心しらない月夜のからすだましに鳴とはどうよくな
○月がさすともしらないれんじにくや中よきひよく蓙
○月もはれ/゛\嬉しい世帯くらうしたのもかたり草
○果のはてまで見わたすすやうにはれてうれしき月の海
○三日月のくしをいただく柳のかみをすゐな夜風がうごかせる
○月夜がらすにヤ目は覚さねど闇のからすにものあんじ
○お月さまへ嫁いりなさる三五でだんごこがでけた
○月はすめども心はすまぬたよりながれのうきね鳥
〇夫婦げんくわは三日の月よひと夜/\に丸くなる
○月はかたむく夜はほの/゛\とゑゝもじれつたい鶏の声
雪の部
○雪のはだへになびきし竹のとけて身がるなわがおもひ
○花に百度来る客よりも雪の初会がたのもしい
○つもるはなしは世けんもしんと日本ばしにも夜るの雪
○じみな恋中まこととまこと雪の白鷺目にやたたぬ
○雪はきへてもはなしはつもるひるになつてもかへされふか
○しらむれんじにあれちら/\とながさざなるめへさとの雪
○田子の浦舟こぎでてみなよふじのたかねの雪げしき
〇うきにたへぬか此雪風に初はななみだでひく車
〇有明の月とみるまでよしののさとにけさはしら雪ふりつもる
○庭のあらしにふる雪ならでつもるわたしのものおもひ
○雪のうちなるあの紅梅もかんくしのいで春をまつ
○山も田はたもみないちやうに雪の夜明のぎん世界
○雪のあしたのあの明がらすかわい/\とこがれなき
○雪の中でも梅さへひらく人もじせつをまつがよい
○白の節句の八朔よりも今のすまひが銀せかい
○降雪をふむもをしいがふまずば人がとふてくれまい此けしき
○花のけしきもふりつむ雪もこころ/゛\の目のながめ
○毒くはばさらにゑんりよもないしよもあけて雪のあしたのふくと汁
○ふりつもる雪の夜道をすた/\かよひとけて寝るのをたのしみに
○しんのはなしに夜もついふけてうれしい雪になりいした
○ことばとがめてせ中とせなか雪のさむさが中なほり
〇色の手かげんこたつでおぼえ雪もうれしき新まくら
〇女房かたぎで花こそ咲ねじみなみさをは雪の松
〇しらぬ旅寝もおまへとならば夜みち雪道苦にはせぬ
〇ちよいとなりとも顔さへみれば雪の夜道も苦にヤならぬ
○麦のわか葉もたび/\雪におされなければ身はもたぬ
花の部
○花がちるとはおまへのせじよじつはふたりでさしむかひ
○ちる花をさだめなき世とうたにもよめど咲ざなるまいはるの風
○ちればこそ花はよけいになほをしまるれくらうするのは色の花
○末もとげなん当座の花にむすぶ出雲の人じらし
○酒くさいさゆで薬をうれしい手からしやくもさがりし花見ぶね
○恋といきぢとたとへていはば梅のにほひに花のつや
○花におくつゆをささの霰こぼれやすさはきらすつり
○花のいろかのうつるをみてもあんじらるるよひとごころ
〇ゆくも帰もさくらをかざししるもしらぬも酒きげん
○花の姿はふり捨たれどどこかむかしの香がのこる
○ならの桜はいろかもよいが八重といふ字がきにくはぬ
○ぬしに見せばやぬれにぞぬれし雨のよあけの花のつゆ
○とほざかる花すゑつむ花よ日々にさく花ちりやすい
○花のえんでもそはねばならぬどうせしじうはちるからだ
○傘のほねにからんでふる春雨はやがてはなちるさとがよひ
○冬は枯木といはれてゐても今に花さく春はある
○花のこずゑと見る間も夏のやがて春葉になるだらう
○ぬしある花でもかうなるからは一枝をらずにおくものか
○花の色うつりヤせぬかとなほこひしさがましてながれのうき思ひ
〇十二一重と咲たる花もちれば百夜を思ひ出す
○顔にヤまよはぬ姿にやほれぬとかくさくらの花は花
○花にくぜつのあらしのはてはおちてかさなる中なほり
○たま/\来たのにあはれぬときは花のしぐれてちるおもひ
○花もみもあるしんみのりん気そひ寝してからことばぜめ
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○すなほに咄すをおまへはじれてよこにくるまのむりばかり
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○さくら山ぶききりしまつつじしんぞとしまの花ぞろひ
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○花は咲ども梢の枝で手折れもせず見るばかり
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〇花はつぎ穂のてぎはもあればむりな縁でもそひとげる
〇どふせはなれぬおまへとわたし桜さめとは聞もいや
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○人の花とてとるまいものかとられたおまへのぶはたらき
○今はかれ木の枝にもしやんせこころ根があるやはなもさく
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〇かねは上野か淺草寺もひとめへだての花の雲
〇雨のさくらについぬれあふてこころおく山あかしあひ
〇しみ/゛\いのちも何をしかろふすいたゑがほのさくら色
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○ことばで迷はせしうちでまるめ手だまにとられてはじかれる
○たのもしい人をたづねてはなして見たらひろいひろいせかいへ出るであろ
○さすがやり手もなみだを流しかむろが寝言に親の事
○たつは蝋そくたたぬは年きおなじ流れのすゑながら
〇あへばいつでも気安めばかりしんのはなしをしやしやんせ
○よせばよいのにもう今ごろは人のしらないくらうする
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○家業だいじに身を大切にしんぼしてくれ今しばし
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○西も東も南も北もいつもごぶじでおめでたい
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○金と紫ヤお江戸で出きるむらさきヤいらない金ほしや
○さいはい手にもち纏のまねをしてはお部やでしかられる
○はうは誰が子だ名はささねどもちやんに其ままいきうつし
〇秋の唐なすうまいといふがさつま芋にはかなやせぬ
○ぬしの心は焚そこないのめしよしんがあるとて水くさい
〇おりるはしごのまん中ごろでしんぼさんせと目になみだ
○親のいけんもきかないわたしなんで他人のそらいけん
○おもふ拙者におもはぬきでんおもはせうとは拙者りふじん
○あやまりましたよもう是からはをとこねこでもだきはせぬ
○やいたお芋にふかしたお芋どちらのおならがくさいやら
○おまへそのよヽヽヽヽヽヽヽ中でをれたらどふなさる
○火鉢ひきよせ灰かきならしかたいもちでもあればよい
○さきは大ぜいみかたはひとりたのむおまへはふたごころ
○おまへを麁末にする気はないがやりてがわたしにこはいけん
○あゝもじれつたい何をしてみてもかかアとかせぐよなことはない
○あちらたてればこちらがたたぬ両方たてれば身がたたぬ
○内はかんだう二階はせかれなんでいふめがでるものか
○百度まゐりを小舟ですればさしであはれぬ事ばかり
○あだも是ぎりもう惚じまひひとののろけを聞もいや
○お店ものでも出番の衆でもやぼとゆだんがなるものか
○いきな人でもふじつがあればすゑはあいそのつきるもの
○春のはつ日のゆたかにさして呑ばめでたいとそのさけ
○せけばやむかとおへやの小ごとおちやをひくにはましであろ
〇弓のつるほどせいはらもんではりに来てから此しだら
○はづれた縁とて神さまたちがいづもで麁さうをしのんだろ
○人形くひとてわらふはをかしたれしも男のいいがいい
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○惜みやせねどもわたしの亭主どふも人にはかしにくい
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○達磨だいしじやわしやなけれどもおあしのないので埒あかぬ
〇あかぬわかれも銭金づくさにくいかあいもさどのつち
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○夜具もしかけもみな入上てぬしゆゑ年きとつみがます
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○いへばどうやら催促らしくいはねばかへさぬかりた物
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○恋に上下のヘだてがないといふは不