ねむの木
竹久夢二
巻のはじめに
(母を失ひし児を父のうたへる歌)
吾子は好き子ぞとくねむれ。
母にや似たる物怖れ
泣くなや父はこゝにあり。
浦の水車も草も木も
みなおとなしく眠りつれ。
そよぐは風の音なれや
など怖しきことあらむ。
泣くな好き子ぞとく眠れ。
軒の雀も巣にかへり。
小犬も母の懐へ
そろりとはいつて寝たさうな。
吾子も好き子ぞいざ眠れ。
なに悲しうてさは泣くぞ
父にや似けむ弱き性
山の狐は母もなく
草葉の蔭に寝るといの。
そなたの床の美しさ
枕の蒔絵は揚羽蝶
布団の模様は桜花。
夜はしづかに眼をとぢて
蕾のやうに眠るものぞ。
朝にならば日光のなかに
花のやうにも咲きいでよ。
よき子ぞいざや眠れかし。
そなたの好きな子守唄
さあさ歌ふてやるほどに
……お城のうへの星の子か
南の海の椰子の実か
そなたを生んだる母が子ぞ
そなたを抱いたる父が子ぞ……
あしたにならば町へいで
でん/\太鼓も踊子も
絵本も買ふてやるほどに。
吾子は好き子ぞとく眠れ。
合歓の木
ねむの木
ねむの木
寝やしやんせ。
お鐘がなつたら
起きやしやんせ。
雨 雨降るな。雨ふらば
お寺の門へ巣をかけた
可愛い小鳥が泣かうもの。
風 風吹くな。風ふかば
今日巣立ちした雛鳥が
道をわすれて泣かうもの。
やれとべ とんぼ。
そりやとべ とんび。
雪はちら/\
雲は灰だらけ。
好い児の坊やは 誰が子ぞや。
お城の上の星の子か
南の海の椰子の実か。
坊やを生んだる母が子ぞ。
坊やを抱いたる父が子ぞ。
好い児の坊やは ねんねしな。
こゝは何処の細道ぢや?
天神様の細道ぢや。
ちよつと通して下さんせ。
御用のないもの通しません。
天神様へ願かけて
お札納めに参ります。
お前の家は何処ぢやいな?
箱根のお関で厶ります。
そんならよい/\通らんせ。
往きはよい/\
帰りはこわい。
白い羽がひの母鳥が
白い卵をぬくめたに
できた雛はうづら斑の
ふつくらとした羽根わいの。
鳶と鴉と梟が
山から里へ見にきたら
雛は母御の懐へ
そろりと入つて寝たわいな。
草履かくし 九年母
橋の下の鼠が 草履くはへて
ちう/\ちう。
向の山の相撲花
えんやらやつとひけば
お手がきれた。
お薬ないか。
赤いのもあるよ
青いのもあるよ。
おなじことなら赤いのにしよ。
ねんねしなされ
まだ夜は夜半。
明けりやお寺の鐘が鳴る。
鐘ぢやない/\母さんの
銀の簪の音ぢやもの。
一月 二月 三月桜
柳の下で化粧して
さあさ ちやら/\参りましよ。
中の中の小仏
なんで背がひくい。
親の日に海老食べて
それで背がひくい。
(後の正面だあれ?)
ねんねさんせよ ねやさんせ。
今日は二月の二十五日
明日はこの子の宮詣
宮へ参らばどう言ふて拝む
この子一代まめなよに。
ひとりきな
ふたりきな
みてきなよつてきな。
いつきてみても
七子の帯を
矢車にしめて
こゝのよでとうよ。
ねんねんやころ/\や。
ねんねの生れたその日には
赤の飯に魚そへて
父さんのお箸でおあがりか?
父さんのお箸は魚くさい。
母さんのお箸でおあがりか?
母さんのお箸は乳くさい。
姉さんのお箸であげませうぞ。
ねんねんころ/\ねんねんせう。
大切な/\お月様をば
雲奴が隠す。
とても隠すなら金屏風でお隠し申せ。
お日様が照るなかに
雨がこん/\降るさうな。
さあさ狐の嫁入じや。
みたら木兎
とんだら鳶。
お盆がきたら髪結つておくれ。
島田がよいか
唐子がよいか?
島田もいやよ
唐子もいやよ。
お江戸ではやるおさげ髪。
ひとめふため みやかしよめご
いつやのむかし さゝやのやさし
こゝのやでとをよ。
しばよ あばよ。
お山のお山
おこんさんは何処へいつた?
隣へお芋を食べにゆきました。
おゝ可笑し!
おゝ可笑し!
いのる いのる。
稲ケ崎に鬼がゐる。
あとみりや蛇がゐる。
鳶とろゝ 油揚やるからおりてこい。
雁々みつくち後の雁先になつたら
笄とらしよ。
蛙がなくから かあへろ。
天狗さん風おくれ
風がなけや銭おくれ。
お月様 お月様
観音堂降りて
お団子あがれ。
ひとつ鵯鳥
ふたつ梟
みつつ鷦鷯
よつつ夜鳥
いつゝ石叩
むつつ椋鳥
なゝつ難波の浜千鳥。
雀はちう/\忠二郎。
烏はかあ/\勘三郎。
鳶は遠山の鉦叩き。
一日叩いて米一升。
地蔵さん 地蔵さん。
お前の水をどんどとくんで
松葉にいれて まつくりかへた。
芋虫ごうろごろ 山椒虫ごうろごろ。
瓢箪ぼつくりこ。
奥のお池に蛇がたつて
八幡長者の乙娘
よくもたつたり たくんだり
手には二本の珠をもち
足には黄金の靴をはき
あゝ呼べ こう呼べと言ひながら
山暮れ野暮れ往つたれば
草刈殿御に行逢つて
──帯をくだされ殿御様。
──帯も小袖もやすいこと
おいらの女房になるならば。
──朝はとうから髪結ふて。
──花の咲くまて寝て待たう。
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ。
ねたらおかゝへつれていなあ
おきたらがゝまがとつてかまあ。
ねんねこ山の小兎は
どうしてお耳が長いぞ
向ひのお山にゐたときに
枇杷の若葉をたべたゆゑ。
ねんねこ山の小兎は
なにをそんなに怖がるぞ
びつくり草の葉ををたべて
それゆゑ風が怖ござる。
通れ/\山伏お通りなされ山伏さん。
夕焼こやけ
ありや誰が紅だんべ
向の山の
お仙が機織る紅だんべ。
十文ぢや/\。
お嫁さんの駕籠は
十文ぢや/\。
戻りは三文ぢや。
深い川へはめよか
浅い川へはめよか。
深い川へどんぶらこ。
ほうたる ほたる。
昼は菜の葉にとうまつて
夜は提灯つけさんせ。
嘘言ふたものは
石切・鎌切・腹十文字。
土喰つて泥喰つて口渋い。
ねたら丹波へ おきたら京へ
お眠がさめたらお江戸まで。
ちんかん ちんかん鍛冶屋の子
裸身で飛出す風呂屋の子。
あがり目 さあがり目
ぐるつと廻つて猫の目。
村で一番達手者で厶る。
五両で帯買て三両でくけて
山の花見に結んで出たら
寺の坊さんに引とめられて
よしやれはなしやれ帯切れまする
帯の切れ目は結びもさりよが
縁の切れたは結ばれぬ。
竹久夢二文学館
第8巻
童謡童話讐T
万田務監修
1993年12月15日初版第1刷発行
発行者 高野義夫
発行所 日本図書センター
〒112 東京都文京区大塚3-4-13 電話03-3947-9387
制作 オフィスコヤマ
装幀 成田克彦
印刷・製本 亜細亜印刷/関製本
定価3,800円(3,690円)
ISBN4-8205-9279-3 C0391 P3800E(第8巻)
ISBN4-8205-9271-8 C0391 P38000E(セット)