凧
竹久夢二
童謡集
凧よ
はやくちひさい人たちのとこへ
ゆけ
『薔薇のとげ』(口絵)
- 凧
子供等よ
紅い凧を
あげよう
高く高く
雲の上まで
糸をのべよ
糸をのべよ
雲の上には
何があるだらう
雲の上まで
紅い凧を
あげよう
- 春の鐘
- 春の鐘
はるの
はるのみそらの
あけがたの
はるのかねなる
らん らん らん
はるの
はるのむくげの
とぶひるの
はるのかねなる
らん らん らん
はるの
はるのはなちる
ゆふぐれの
はるのかねなる
らん らん らん
- 朝の日課
ちひさい花よ
そんなにうつむかないで
顔をおあげ
朝のごはんを
あげませう
- 春の踊
とんとろお月さん 春の月
たらん てらん たらん
白い兎がでてはねる
たらん てらん たらん
白い指かよ キイのうへ
たらん てらん たらん
さつさ踊ろよ てあてあて
たらん てらん たらん
- 水車
こつとん こつとん
みづぐるま
春のひかりの
ふるなかに
こつとん こつとん
みづぐるま
処女のゆめの
ひまひまを
こつとん こつとん
みづぐるま
片山ざくら
ちるひまに
こつとん こつとん
みづぐるま
こつとん こつとん
みづぐるま
- 汽船
遠い海のはてを
汽船が通る
ぼんやり見てゐたら
寂しくなつた
- 春の方へ
お爺さん
ごらんなさい
花がさきました
お婆さん
おききなさい
小鳥がなきます
お爺さんお婆さん
いつてみませう
春の方へ
- つむじまがり
つむじまがりの爺さんが
つむじまがりの旅をして
つむじまがりの石段で
つむじまがりの六ペンス
つむじまがりの猫を買ひ
つむじまがりの鼠を捕らせ
つむじまがりの家を買ひ
つむじをまげて住んでゐた
- やなぎ
柳はなきむし
しほしほと
燕がのぞいて
顔みたが
柳はしだれて
しほしほと
- お篠
びんびんびんや
とんとんとんや
綿屋のおしのは
まつしろけ
花も散らねど
まつしろけ
雪も降らねど
まつしろけ
年もとらねど
まつしろけ
綿にまみれて
まつしろけ
びんびんびんや
とんとんとんや
- お家と人
青いお家
赤いお家
白いお家
黒いお家
青い人
赤い人
白い人
黒い人
- 冬のけしき
霰やこんこ
梢につんで
餅花になあれ
雪やこんこ
手の平につんで
砂糖になあれ
- 蛍1
蛍が光る
蓮の葉の銀を
夜夜食べて
蛍は光る
- 蛍2
ほうたるほたる
提灯つけてはしる
堤のうへを
提灯つけてはしる
火事か喧嘩か斬合か
横網河岸が大火事だい
- 花火
どーん と
あがつた!
たまやア
かぎやア
ぽんぽんぽん
すすき からまつ
やなぎらんぎく
そらいちめんに
ちんではきえる
ゆめのはなびら
- 港
ゆつたり ゆつたり
帆をあげた
赤い帆をあげた
黄ろい帆をあげた
赤い船には
柿つんで
黄ろい船は
蜜柑船
風は追風だ
ゆつたりこ
おいらの港へ
ぎつちらこ
- 冬の夜道
おつ母さんの草履
大きな草履
草履の音が
ぽとぽとついてくる
大きな草履
おつ母さんの草履
- 言へないこと
私に言へないことがある
なんぼ訊いても話せない
なにを呉れても話せない
私の知らない事だから
- 鼻の平さん
鼻の平さん何処いくの
おいらの鼻のむいた方
鼻の平さん変り者
まつすぐ歩いたことがない
それもそのはず平さんの
鼻はいつでも曲つてる
- 鳩
あたしの鳩は
三びきゐたに
一ぴきどこかへいつちやつた
- お馬と小馬
ぱくぱくお馬
ぽくぽく小馬
たんぼのみちを
村から町へ
ぱくぽくぱくぽく
あづきを三升
もち米五升
お馬がせよつて
小馬はからみ
ぱくぽくぱくぽく
- 路
路はのぼる
路はくだる
さうして街へ
- 夜のけしき
空は
銀の砂だらけ
町は
金の豆だらけ
影絵の人が
橋のうへを通る
- 虹
雷様があわてて
臍をとりに
ゆく途で
チユブの絵の具を
踏づけた
それで
虹があがつた
- ころころ団子
ころころだんごや
ころだんご
お色の黒いお吉備ちやん
髪もないのに櫛さして
黄粉砂糖で化粧して
ころころだんごの
お吉備ちやん
ころころだんごや
ころだんご
お顔の色は桜色
桜の葉つぱの蒲団きて
いつも寝てゐる桜餅
ころころだんごの
桜餅
- 喧嘩
喧嘩は何処だい
西河岸だい
相手は誰だい
金太郎だい
うしうし強いや
金太郎やい
泣いたらよしなよ
江戸児だい
- 居眠り地蔵
居眠り地蔵さん道のはた
お馬が通るにこつくりこ
居眠り地蔵さん赤エプロン
いつもお年が若ござる
居眠り地蔵さん赤とんぼ
あたまのてつぺんこつくりこ
- ででむし
でんでんででむし
なぜでない
でんでんででむし
るすかいな
でんでんででむし
どこへいた
でんでんででむし
でんまるく
- お山のしやくなぎ
お山のお山のしやくなぎは
しよんぼりさいたよ山のうへ
どちらむいても山ばかり
どちらをみても松ばかり
お山のお山のしやくなぎは
だれもしらないしやくなぎよ
- 秋
つづれさせさせ
はやさむなるに
ぶんぶんぶんや
秋の婆さは
茶色の頭巾
落葉くるくる
かせ糸車
山がくもれば
雨ぢやそな
銀鼠色の
糸屑なげる
落葉くるくる
かせ糸車
ぶんぶんぶんや
- 小石
小石がころぶ
団子坂ころぶ
どこまでころぶ
不忍の池まで
- 尺取虫
尺取虫は
よつちらよつちら
尺をとる
牧場の柵が
どれだけ長いか
よつちらよつちら
尺をとる
尺取虫は
日本の国が
どれだけ長いか
よつちらよつちら
尺をとる
- 風
風が通れば
草も木も
おじぎする
風は先生
草木は生徒
- イワンの馬鹿
お天道様にてらされて
団子の鉢を手にもつて
ふらりふらりと出てくるは
イワンの馬鹿でありました
イワンのあとにつづくのは
イワンの馬鹿の影法師
団子がほしくて来るのだと
イワンの馬鹿は考へて
団子を一つやりました
一つやつてもついてくる
二つやつてもついてくる
三つ四つ五つ六つ七つ
みんなやつてもついてくる
鉢ごと投げてやつたけど
やつぱり影はついてくる
イワンはすこし怖くなり
あとをも見ずにすたこらと
かけてもかけてもついてくる
イワンはおいおい泣きながら
家へ帰つてゆきました
- 青い鳥
ちるちる みちるはどこへいた
緑の森へ鳥とめて
青い小鳥をみにいたが
青い小鳥はみえもせず
ちるちる みちるはどこへいた
緑の海へ鳥とめて
青い小鳥をみにいたが
青い小鳥はみえもせず
ちるちる みちるはどこへいた
緑の森に路はなし
緑の海ははてしらず
青い小鳥はまだみえぬ
- 雪だるま
- 雪だるま
なんぼ呼んでも
返事がない
耳がないのか口なしか
昨夜もこんこん
雪が降り
耳も口もなくなつた
- 握手
- ─乳呑児の記憶より─
坊やがお乳をのむときに
そつと手を解き
お乳がすむと
また手をつなぐ
母さんの胸で
握手してゐる
羽織の紐は──
- 夢に見る街
レールの学譜におちる葉は
ドレ ミ フア ソ ラ シ ド
おはぐろ蜻蛉は空へとぶ
4の字のつなぎの兵隊の列
44444444444
とあ とあ とあ てつと てつと
どこに敵軍がゐるのかぼくは知らない
かけあし!!!!!!!!
ぼくはいつしよにかけだしたが
廻り角で敵弾に仆れた
きれいな星が空にあつた
仁丹の広告燈がぴちか ぴちか
なんだかさみしくなつて ぼく泣き出した
- あまだれ
雨だれ あまだれ
太皷打つてまはる
家のまはりを
太皷打つてまはる
雨だれ あまだれ
- つばめ
つはめはかへる
にほんのくにの
こどもにわかれ
みなみのくにへ
つばめはかへる
あをいうみこえて
あかいやまこえて
みなみのくにへ
つばめはかへる
ぼつちやまさよなら
ぢやうちやまさよなら
はるまでさよなら
- 烏と梟
からすがカアカア
くわじだつて
ゆふやけぞらから
とんできた
ふくろがびつくり
めをさまし
たかいえだから
おつこつた
つきよのばんに
ふくろふが
よあけだよあけだ
いつてきた
からすはびつくり
めをさまし
たかいえだから
おつこつた
- 鍛冶屋
とつてんかん とつてんかん
鍛冶屋のおつさんとつてんかん
朝とうからとつてんかん
鍛冶屋の壁に陽があたる
とつてんかん とつてんかん
金の火ぐるまぐるぐるまはる
とつてんかん とつてんかん
- どんたく
うれしい朝
おいしいココア
そして今日は
どんたく
何をして
遊びましよ
- 海から帰つて
僕が海にゐたときに
海のそばのひろい砂場へ
小さいお池をつくつた
そこへ小さい魚や
きれいな貝をはなして
遊んだが………
まだあのお池はあるだらうか
船で東京へかへるとき
おもちやの船を
海の中へおとしてしまつたが
いま頃はどこへ流れていつたらう
来年も
またあの海へいつて見よう
- おつかひ
凧凧あがれ
天まであがれ
天まであがつて
お日さま何してる
お月さま何してる
よく見て
おりといで
羽根羽根あがれ
天まであがれ
天まであがれ
星のこどもを
つれといで
- 猫と犬
ねこといぬとが
おうちをもつた
ねこはいちんちねてばかり
いぬはいちんちもんにゐた
- ねこ
ぼくが犬だつたら
君子さんの猫を
食つちまひたいな
だつて君子さんの猫は
夜ぼくがはばかりへゆく時
眼ばかり光らせて
おどすんですもの
- なぜでせう
ねえ母さん!
テーブルにも椅子にも
脚が四つあるでせう
どうして犬のやうに
歩けないの?
ねえ母さん!
鉄瓶にも水さしにも
口があるでせう
どうして子供のやうに
お話出来ないの?
ねえ母さん!
人形は脚も手も
それから眼も口も
みんなあるのね
だのにどうして
学校へゆけないの?
- 石
野中の石に
鳥が三羽とまつた
一羽とんだ
二羽とんだ
三羽とんだ
野中に石が
一つしよんぼり残つた
- 空あ赤い
そらあ赤い
そらあ赤い
どの山あ
火事だらう
- 吃逆
びつくりしやつくり
いつちまへ
びつくりしやつくり
一昨日来い
飴を買つたら
笹呉れよう
- 夏のはじめ
青葉 若葉
酸つぱい匂
真赤な夕日
ビイドロ ギヤマン
ちんちろりん
涼しい灯
- 川ばたで
川で魚をつる人は
簑きて笠きて
山にきのこがあるやうに
つんつくねんと立つてゐる
雨が降らうが
日が照ろが
山にきのこがあるやうに
つんつくねんと立つてゐる
- バツチ
水溜のなかへころんだ
キモノがバツチになつた
アーン アーンと泣いてゐた
よそのをばさんが来てふいてくれた
お家へ帰つたら泣く事がなくなつて
つまらなかつた
- 山
山がふくれた
なんで山あふくれた
雨をたんとのんで
それで山あふくれた
- 夕焼
ゆふやけ こやけ
馬の顔真赤
畠も真赤
次郎も真赤
お夏も真赤
みんなで踊らう
- 駱駝
- T
のらりくらりとしてゐたら
神様にしかられて
脊中をしこたまなぐられた
それで駱駝は瘤だらけ
U
駱駝の楽助さん
なんで首が長い
なんにもせずに寝てゐると
あんまり日が長い
それでひだるて長い
- 蜻蛉の眼玉
蜻蛉の眼玉に
私が映る
蜻蛉の眼玉が
くるくる廻る
映つた顔も
くるくる廻る
まはれまはれ
蜻蛉の眼玉
- 三日月
猫の眼 猫の眼
一つ眼猫の眼三日月
金の眼 銀の眼
一つ眼猫の眼三日月
- 雨
雨よ降れふれ ちやんきろりん
ママのキヤベツに
パパの林檎畠に
そしてあたしのお池にも
雨よ降れふれ ちやんきろりん
- 好いお天気
パパの画室が
マドロスパイプを
くはへてゐる
屋根のあたまで
くツくツくツと
鳩がないてゐる
「こんちは
好いお天気ですね」
パパの画室が
すつぱ すつぱ と
煙草をふかしてゐる
- かけくら
汽車と煙の駈競だ!
「なんださか こんなさか
とつてんかつたん どつてんがつたん」
汽車勝つやうに!
煙勝つやうに!
なんだ坂 こんな坂
- ストーブの前
そとはまつ白
おうちはまつ赤
そとはまつ白
お山もまちも
草も木も
雪にふられて
まつしろけ
おうちはまつ赤
みつちやんてつちやん
ストーブさん
お母さんのお顔も
みな赤い
林檎もデセールも
みな赤い
- ぼくのボール
ぼくが打つた
ボールは
センターを
越えて
垣を越えて
雲の中へ
飛んでいつた
いくらさがしても
見つからなかつた
夜になつたら
天のまん中て
星のやうに
光るだらう
- 檜のさんぱつ
ちよつきん ちよつきん
植木屋が
檜のてつぺん
刈つてるよ
ちよつきん ちよつきん
植木屋が
檜のさんぱつ
やつてるよ
ちよつきん ちよつきん
松の葉が
禿げた植木屋
さしてるよ
- おともだち
一丁目でみてもお月さま
二丁目でみてもお月さま
三丁目四丁目へきたときも
お月さま坊やのうへにゐた
九丁目のさかでもおともだち
おうちへかへつてねるときも
ガラスのそとでにこにこと
おめめをつむつてねむるまで
お月さま坊やのおともだち
お月さま坊やのおともだち
- 赤とんぼ
いやだといふのに
赤とんぼ
粟の穂にとまる
かんぶりふりふり
粟の穂は
いやだといふのに
赤とんぼ
またきてとまる
粟の穂さきに
ちよととまる
- 黒猫
真黒毛の猫が
真黒闇にゐたら
眼ばかり
ぎいらぎら
- 新年
富士山のうへに
太陽が出ました
日本の子供は
みんな出て
太陽を拝みませう
日本の島に
お正月が来ました
日本の人は
みんな出て
お正月を祝ひませう
- 風の子供
風の子供が山へ出て
釣鐘草をふきました
釣鐘草は眼をさまし
ちんからころりと鳴りだすと
薄も桔梗も苅萱も
みんな夢からさめました
風の子供が浜へ出て
やどかりの顔なでました
やどかりびつくり戸をしめて
よんでも よんでも でてはこず
さんまも鯛もえびの子も
波にかくれてゆきました
- かり
かりかりわたれ
ふじのやまわたれ
ふじがはわたれ
せんもまんもわたれ
かりかりわたれ
やまからさとへ
さとからまちへ
せんもまんもわたれ
- ベースボールの歌
ホームラン ホームラン ホームラン
打てよ打てよ
うてよバツトの折れるまで
走れ走れ
走れホームへいち早く
ホームラン ホームラン ホームラン
- ぬすみぎき
電信柱の
燕は
二郎と三郎の
電話のはなしを
みなきいた
- クロウバ
クロウバさん
クロウバさん
三葉もよいが
四葉がほしい
あたしにもおくれ
四葉クロウバ
見つけた
あの子にやろか
この子にやろか
お母さんに
あげよか
たつた一つのクロウバ
- ホームラン
第一球はニヤボール
つぎのボールはアウトカーブ
第三球はストライク
こいつとばかり打振れば
バツトはカーンと音をたて
ボールは空に輪をかいて
センターを越えてまだ遠く
フエンスを越えてまだ遠く
その時飛んだ小鳥やら
雲の向ふへいつちやつた
手拍子喝采マツチエール
夢中でホームへ帰つたが
ボールはどこへいつたやら
その時飛んだ小鳥やら
アンパイヤアも知らなんだ
- 春
南京町の春の日に
白い小猫はまださめぬ
とんとん とろりや
とんとろり
李生の耳の赤い珠
花生の首の青い珠
りんりん ちやらりや
りんちやらり
花生の赤い靴先を
黄色い蝶蝶が舞ひあがる
ゆらゆら ゆらりや
ゆらゆらり
- 朝
朝日は遠い山を越え
木の葉がくれに
ちらちらり
釣鐘草も眼をさまし
朝の鐘つく
ちんころり
小鳥は森の巣からでて
声をそろへて
ちゆんちゆんちゆん
子供よ起きよ空を見よ
朝の日が照る
きんきらり
- 風船玉
風船玉はづめ
ぽんぽんはづめ
春のやうにはづめ
頬ぺのやうにはづめ
風船玉あがれ
どんどんあがれ
天まであがれ
星まであがれ
- 船
千艘や万艘
赤い帆
青い帆
おふねや
ぎつちらこ
千艘や万艘
南の風だ
帆綱をはれよ
おふねや
ぎつちらこ
千艘や万艘
おいらの浜だ
帆綱をおろせ
おふねや
ぎつちらこ
- とんぼととんび
やれとべとんぼ
ひかうきにまけるな
それとべとんび
ひかうきにまけるな
やれとべとんぼ
ひかうきよりはやく
それとべとんび
ひかうきよりたかく
- 月の散歩
- 月の散歩
月は
銀座の柳の下で
宝石を買ふ人を見た
月は
お寺の築土の前て
八雲琴弾く人を見た
月は
横町の土蔵の影で
まだ眼のあかぬ猫も見た
月は
誰にも言はなんだ
- 椋
椋の実は
誰が食つた
烏は知らず
雀は知らず
梟も知らず
お日さんに訊きな
- かつら
床山さん床山さん
豚の毛を刈つとくれ
その毛が何本あつたなら
鬘が出来るか言つとくれ
「二十四本で沢山だ」
- 夢
枕のわきに
帯をといて寝たら
蛇の夢を見ました
枕のわきに
リボンをおいて寝たら
花の夢を見ました
- となりの藤助
隣の藤助田の畦で
ふかふか煙草をのんでたら
烏が山から飛んできて
煙管をくはえていつちやつた
- 私たちのお庭
私のは紅い薔薇よ
二郎ちやんには白い百合がいいわ
お姉さまは桐の花がお好きね
お君ちやんはひなげしね
三郎さんは葱坊主
それからおつ母さんはキヤベツ
だけど遠くへいつた
お姉さまには何がよからう
いつまでもいつまでも忘れないやうに
わすれな草にしましよ
- 眠り人形
ゆりおこせば
ぱつちりと眼をあけて笑ふ
横にすれば
眼をつむつてすやすやねむる
ねむり人形
- 春のノツク
おい春がノツクしてゐるよ
春だつて?! まだいけないや
僕達はいま試験の最中だよ
今から来たつてだめだよ
まだノツクしてゐる
明けてやらうか
いけないいけない
まだ外は寒い
戸を明けたら
春といつしよに
冷たい風が這入つてくるからね
- さよなら
さよなら
みつちやん
よつちやん
をばさま
さよなら
またね
さよなら
またね
さよなら
- 柿
柿の木の下で
約束したに
熟れた実は
呉れず
青柿
渋柿
嘘の柿
- つみ草
つうばな茅花
一本ぬいちや
ぎいりぎり
髪にさしましよ
つうばな茅花
三本ぬいちや
ぎいりぎり
窓からママさが
よんでます
つうばな茅花
茅花のさきへ
日がおちる
- 瓦斯灯
真昼間
一本の瓦斯煙が突立つてゐた
子供の三輪車が突当つた
「坊ちやん気をつけてお歩き
そのために私が立つてゐるんだよ」
瓦斯燈が言つたら
子供が笑つた
「なんだい瓦斯燈さん
灯なんかついてやしないよ」
- 雪
雪がこんこん降つて来た
積もれつもれ雪だるま
雪がこんこん降つて来た
炬燵で蜜柑を食べませう
- やどかり
やどかりが
自分の家を あきてきて
家をさがしに 出ていつた
ところがほかの やどかりも
家をさがしに出ていつた
しゆびよく家が 目つかつて
一つの方の やどかりは
ほかのお家へ すんでみた
ところでほかの やどかりも
ほかのお家へ やつてきて
立つたり ゐたり してみたが
やつぱりいつかあきてきて
はじめの 家が よくなつた
- 旅ゆく鳥
見知らぬ鳥はとんでゆく
ひとりぼつちでとんでゆく
見知らぬ鳥はどこへゆく
見知らぬ野越え山を越え
遠い野末の松の木に
あるかもしれぬ巣をとめて
見知らぬ鳥はとんでゆく
昨日のやうに今日もゆく
見知らぬ国へとんでゆく
- 春
腰の曲つたお爺さんが
腰をのして歩きだした
歯のないお婆さんが
口をまるくして笑つてゐる
白い雪がとけて
赤い土が顔をだした
「やあ春さん
また来ましたね」
- 明日
「明日」になつたら
母様が仰言る
夜が明けたら
「今日」だつて!
いつ明日が来るんだらう
そして夜があけたら
「昨日」だつて!
ぢや母様
いつになつたら
明日は来るの?!
- お寺の鐘
ねんねしなされまだ夜は夜中
明けりやお寺の鐘が鳴る
鐘ぢやないない母さんの
銀の簪の音ぢやもの
- 小馬の初旅
南の里からひかれた小馬
親にわかれてとぼとぼと
山の桟道北へこす
町の市場で売られた小馬
どちらむいても山ばかり
とても峠が遠ござる
首の小鈴もちやらちやら鳴るに
なんの山路がこはかろね
いそげ遠野に日が落ちる
- 知らぬ小鳥
知らぬ小鳥がとんでゆく
ひとりぽつちでとんでゆく
知らぬ小鳥はどこへゆく
親も巣もない旅をゆく
知らぬ野山をとんでゆく
風に吹かれてとんでゆく
- 雪
雪がちらちら畠に森に
羽根をもたない白鳥が
千羽万羽と来てとまる
雪はこんこん会堂の屋根に
領地を追はれた姫君が
裸体のままで来てとまる
- 鏡
鏡を見たら鏡の中に
しばらく見ない人がゐた
それはわたしだ
マリちやんだ
マリちやんしばらく
こんにちは
おしろいつけて
紅つけて
わたしと
散歩にゆきませう
マリちやんしばらく
こんばんは
- まいまいつぶら
まいまいつぶら
黒い壁へなにかいた
白いチヨークでなに書いた
しの字とくの字と
しの字とくの字
- わたしとかげ
月夜のばんにまちへでた
わたしはかげとふたりづれ
塔のはしごをのぼつてた
わたしはかげとふたりづれ
室のとびらをノツクした
わたしはかげとふたりづれ
たあれもゐない椅子により
わたしはかげとふたりづれ
窓のとをあけやまをみた
わたしはかげとふたりづれ
くりとあけびがそこにゐた
わたしはかげとふたりづれ
- 兎
お山のお山の兎太郎さん
お前の耳はなぜ長い
枇杷の若葉をたべたので
それゆゑお耳が長ござる
お山のお山の兎太郎さん
そんなに何が怖ござる
びつくり草ではないけれど
私は風が怖ござる
- 青い葉
小さい葉大きいは
どれもこれもみんな
みんな青い葉
丸い葉長い葉
どれもこれもみんな
みんな青い葉
どれもこれもみんな
お日様の方へ
両手をあげて
踊つてゐます
- 紙人形
お髪は黒く
襟は紅
着物は黄八丈
下着は淡紅
●(「施」の左側がコロモヘン)は紫
帯は鹿の子の
緋の絞
「お顔の色は
何にしませう
お母様」
三月桜の
さくら色
さくら色
- 木の実
春をまちつつ若い葉が
梢にぽつちり芽を出した
ある夜空から霜がきて
「若い木の実が食べたい」と
梢にそつとききました
「いえいえ今はいけません
これから花が咲くのです」
梢は霜に言ひました
やがてのどかな春になり
可愛い花が咲いたとき
山の方から風がきて
梢の花を吹きました
「花を散らして下さるな
これから木の実がなるのです」
梢は風に言ひました
夏が来たとき梢には
木の実がたんと生りました
ある日子供がそれを見て
「採つてもよいの」とききました
「さあさあ採つて下さい」と
梢は子供に言ひました
- つらつらつばき
つらつらつばきの
あかい花
つらつらつばきの
しろい花
赤い椿は
あか糸で
白い椿
しろ糸で
つらつらつばきの
花の糸
姉様あなたの
首かざり
母様あなたの
腕かざり
つらつらつばきの
花の糸
- 幸福の織手
きりつとんとん きりとんとん
織る手織る手になさけをこめて
縞目縞目にねがひをかけて
あの子にきせよか この子にきせよか
赤い糸かけていのります
あの子が可愛ゆく育つよに
青い糸かけていのります
この子に善いことあるやうに
黒い糸かけていのります
あの子もこの子もしあはせに
きりつとんとん きりとんとん
- ねんねのお山
- ──お人形への子守唄──
メリちやんねんねよ おねんねよ
ねんねのお山をおりるとき
つばなをひともときりきりと
雪のしづくをきりきりと
となりのネリちやんにあげましよか
いとこのナタシヤにあげましよか
いえいえメリちやんの髪にさし
雪のしづくがちやらちやらと
ねんねのお山をこえてゆく
ねんねのお山をこえるとき
東をみても松ばかり
西をみても松ばかり
北も南も松ばかり
雪にふられた松の葉は
銀のぬひ針しかけ針
メリちやんのキモノをぬふてあげよ
ふりの小袖のしやなしやなと
ねんねのお山をとろとろと
- 子守唄
桃粟三年夏いくさ
村のお糸は器量よし
関東武士に見初められ
綾の手綱を貰うたが
帯にまはせばみじかいし
襷にするには長いし
馬にやらうかいいやいや
牛にやらうかいいやいや
奈良の地蔵の鉦の緒に
あげる途中で日が暮れた
右は菜の花すみれ草
左は桜桃柳
原へかかると狐雨
しよぼりしよぼりと降るなかを
箪笥に長持鋏箱
中で目だつは白狐
白無垢緋無垢三つ重ね
三国一の花嫁御
何処へゆきやるときいたらば
嵯峨へは一里京へ二里
親のゆるしはないけれど
娘ざかりぢや花ぢやもの
向ふのお山へ嫁にゆく
(明治四十年早稲田文学社編少年文庫所載)
(目次省略)
- (奥付)
- 凧
版権所有
大正十五年十二月十二日印刷
大正十五年十二月十五日発行
著作者 竹久夢二
発行者 東京市麹町区富士見町六丁目七番地
小酒井五一郎
印刷者 東京市麹町区富士見町六丁目七番地
小酒井五一郎
印刷所 東京市麹町区飯田町六丁目一番地
研究社印刷所
発行所 東京市麹町区富士見町六丁目七番地
研究社
電話四谷二九五五・三八二二番
振替口座東京二八六〇一番
定価金壱円五拾銭
複刻
叢書 日本の童謡 大空社刊
1997年3月30日発行
ISBN4-7568-0306-7 C0373 P138000E